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アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ9

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/17(土) 23:01:58 ID:PfowkFmi
ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。

参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」

以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。

現行雑談スレ:アニメキャラ・バトルロワイアル感想雑談スレ15
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1174086414/l50



【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg

まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/


2 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/17(土) 23:50:07 ID:P73KFHN5
 時刻は午後11時を回り、バトルロワイアル第二日目の開始まであと数十分となった。
 今日が昨日に変わり、明日が今日になる瞬間がもう間もなく……一般人ならとっくに就寝していてもおかしくないこの時刻、寝息を立てている者は逆に希少と言えた。

(機会を逃しちゃったわね……)

 今、峰不二子の眼前の部屋が消灯した。
 騒がしかった声は深い沈黙へと変わり、人の気配すら薄くさせる。
 この中には、序幕の際に主催者に食って掛かった少年と青ダヌキ、青ダヌキに同行していたゴーグルの少年、そして劉鳳が話していた『カズマ』に酷似した外見的特長を持つ男がいた。
 合計四人。数はぶりぶりざえもんから聞いた話とも一致している。
 ただ一つ、不二子自身が橋で目撃した赤い髪の少女が見当たらないのが気がかりではあったが、それについてはすぐに答えが出た。
 彼等とは別れて別行動を取っている――これは希望的観測。
 現実はもっと非情。ここにいないということはつまり、『死んでしまった』のだろう。

 病室と廊下、たった一枚の扉を隔てて、峰不二子とドラえもんたち四人組は超接近を果たしていた。
 ぶりぶりざえもんから病院にいる弱者たちの話を聞いたのが、まだ6時過ぎ頃のこと。
 本当ならもう少し早く到着する予定であったが、『人形』と『魔法少女』という二人のイレギュラーに遭遇してしまったがために、少々慎重になりすぎてしまったようだ。
 不二子が病院に辿り着いてまず目撃したのは、三つの盛り土に黙祷を捧げる眼鏡の少年。
 とても声をかけられるようなムードではなく、その時は傍観に徹してしまったのが手痛いミスその一。
 直前に人形に正体を見破られたという苦い経験も重なり、不二子は信頼を得るに最高な出会いのタイミングを見計らっていた。
 その後、死者への鎮魂を終えた少年は青ダヌキ他三名と共に夕食を取り、そしてすぐにギガゾンビに関する情報交換と作戦会議に移行した。
 日頃の諜報活動のクセが出てしまったせいか、その会議の際、不二子は四人組の前に姿を見せず、室外から聞き耳を立てていた――これが手痛いミスその二。
 多少強引な出会いだとしても、あの時に姿を見せ、こちらが無害であるということを主張するのが正解だったかもしれない。
 チャンスを窺い、絶好の機会を模索する内に――四人組は不二子の存在すら知らず寝入ってしまった。
 これではもう彼等との接触は不可能だ。まさか寝静まっているところを起こすわけにもいくまいし、ここは大人しく明日の朝を待った方が懸命だろう。
 情報や駒を入手するなら早い内が望ましいが、焦りは禁物だ。
 不二子自身も精神的疲労に侵され始めている現状、安息の時は喉から手が出るほどに欲しい。
 信頼を得る機会は遠のいたが、状況が悪くなったわけではない。
 今の内に自分も睡眠を……と、不二子が四人組の眠る病室から離れようとしたその時だった。

「――だ、誰! そこにいるのは!?」

3 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/17(土) 23:53:35 ID:P73KFHN5
 薄暗い廊下の先から、甲高い女性の声が木霊した。
 不意の一声が院内を反響して響き渡り、不二子は反射的に警戒心を強める。
 声の主は不二子よりも身長が低く、学生服を着た少女。暗がりであったため顔を確認するまでには至らなかったが、顔見知りでないことは明白だった。
 数秒前まで明かりが点いていた部屋の中を、コソコソと嗅ぎ回る不審な女――廊下先の彼女に見つかったことにより、立派な犯罪者が誕生してしまう。
 ここで顔を見られ怪しい人間というレッテルを貼られてしまっては、後の計画に支障が生じる。
 早々に退散するべきだ――本能的に足を動かそうとしたが、脳が逃走に成功した場合の一パターン映像を浮かび上がらせ、思いとどまらせた。
 あの少女の一声により、もしかしたら室内の四人組が目を覚ましたかもしれない。
 その場合、当然外の様子を窺いに顔を出し、目先の少女と対面する。
 そして彼女からこう伝えられるわけだ。「あなたたちを覗き見していた不審な女がいる」と。
 四人の警戒心は自然に強くなり、不二子の利用しやすい、『駒』としての資質は低くなる。
 そうなっては今までの尾行及び計画が全てパー。それを回避するためにはどうすればいいか。

 ――目の前の少女を、殺す。

 簡単なことだった。
 四人組に不審人物の情報が伝わるのがマズいというのであれば、それを伝える情報源の命を絶てばいい。
 銃を抜き、照準を定めて、引き金を引く。
 別に初めての経験ではない。慣れたことだ――不二子はすぐさま行動に移ろうとしたが、また寸前で思いとどまる。
 射殺したとして、事後の死体処理はどうする。
 いつ四人組が部屋を出てきてもおかしくない現状、銃声など鳴らせば火に油を注ぐようなものだ。

 命を奪うのは後の処理が面倒と判断し、ならば速やかに、そして静かに鎮圧を、と不二子は駆け出した。
 同タイミングで、少女がスカートのポケットに入れておいた小瓶を取り出す。
 蓋を開け、中の液体を頭に振り掛ける。その一連の動作を行わなければ小瓶の効果は発揮されなかったのだが、駆ける不二子を対処するには動きに無駄が多すぎた。
 足音を気にさせない静かなダッシュで少女の胸元まで詰め寄り、長い美脚を振り上げる。
 不二子の右足は放物線上を描いて高く舞い上がり、少女が手に握っていた小瓶を跳ね上げた。
 少女は不二子の無駄のない動きに目を見開いたが、その後の動作に支障を来たすような間違いは起こさなかった。
 第二の対抗手段として、肩に下げていたデイパックから一台のカメラを取り出す。
 シャッターに指を置きファインダーを覗く頃には、不二子の姿はもう眼前まで迫っていた。
 攻撃の第二派が来ると少女は直感したが、怯まずシャッターを切る。
 するとどうだろう。カメラが正面に捉えていた不二子の着衣――その全てが突然消え失せ、輝かしい裸身が晒されたではないか。
 身に付けている衣服が唐突になくなるという摩訶不思議な現象。そこから生まれる隙を突くのが、少女の作戦だった。
 だが身体を剥き出しにされた当の不二子は、動きに一寸の躊躇も隙も見せず、逆に軽やかな動作で少女の背後に回りこんだ。
 そのまま少女の首を腕で絞め、身体を羽交い絞めにして拘束する。
 着せ替えカメラの裏効果で裸になったというのに、一瞬の戸惑いも見せぬその根性……決して不二子に羞恥心がないわけではない。
 ただ、仕事をコンプリートするためには自らの美貌さえも武器にする女は、こういった視聴者が喜びそうなハプニングに対しても動じない。ただそれだけだった。

「いやぁ〜ん。随分とハレンチなお嬢さんね……男性のカラダより女性のカラダの方が気になるお年頃かしら?」
「ちょ、なによアンタ! 痛っ、離しなさいよ!」

 初撃で『クローンリキッドごくう』を蹴り飛ばされ、そして『着せ替えカメラ』すら無力となってしまい、さらには身体の自由まで奪われてしまった少女――涼宮ハルヒに、残された打開策はなかった。
 さっきまで明かりの灯っていた部屋、その外でコソコソしていた謎の女……まず間違いなく危険人物。
 身体を拘束されてなお抵抗を続けようとするハルヒだったが、不二子の腕は完璧に首にかかっており、不審な動きを見せればすぐ絞殺されてもおかしくない体勢だった。
 危機を感じてもがくハルヒ。しかしそれは不二子も同様で、早くこの場を立ち去らないともれなくドラえもんたちに危険人物として認識されてしまう。

4 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/17(土) 23:55:53 ID:P73KFHN5
 不二子の最重要目的は、主催者ギガゾンビと密接な関係を持ったドラえもん、のび太らの信頼を得ること。
 こんなつまらない不幸で計画を台無しするわけにはいかない。
 とにかくこの場は、彼等に気づかれないようハルヒごと早期退散を――と、玄関方面へ移動しようとした時だった。

 ガチャリ、と病室の扉が開けられ、中から眼鏡をかけた少年が一人、廊下の様子を伺いに出てきた。
 少年は眠たそうな目を擦りつつ不二子とハルヒの方を見やり、表情を変えることなく一度眼鏡を外した。
 服の裾で眼鏡をゴシゴシと擦り、またかけ直す。
 どうやら眼鏡が曇っていないか確認したかったらしい。
 そうさせるほどに、目の前の状況はマズイものだったのだろう。
 結果として、眼鏡を曇っていなかった。
 現実を捉えた少年はゆっくりと口を開け、目玉を眼鏡ごと飛び上がらせ、舌をウネウネと長く伸ばし、顔面を真っ赤に染め上げ、果てには自分自身も飛び、仰天しながらこう叫んだ。

「――ど、ドラえもぉぉぉぉぉん!!!」


 ◇ ◇ ◇


「ここか、人質を取った凶悪犯が立て篭もってる部屋ってのは!?」
「そうだよ! 未来のネコ型ロボットであるぼくの精巧な視覚センサーが捉えたんだ、間違いないよ!」
「で、犯人はどんなヤローだったんだのび太!?」
「く、暗がりだったからよく見えなかったんだよ〜! たぶん捕まってた子は高校生くらいの人で、犯人は身長からして大人だったと思う」

 選ばれし子供、二十二世紀のネコ型ロボット、ネイティブアルター、何をやってもダメな小学五年生。
 就寝するはずだった男四人組に包囲された部屋の内部で、素っ裸のままの不二子は溜息を吐いていた。
 不二子に降りかかった不幸は、あの人形と魔法少女との遭遇から始まる。
 銭形の変装を見破られた上に、そのせいで病院への到着も遅れ、最終的には彼等との接触機会も逃してしまった。
 さらに謎の少女との邂逅、不思議な道具で身ぐるみが剥がされたこと、少女の声が原因でのび太が外に出てきてしまったこと、
 放送が近かったという理由もあり、万が一に備えてのび太とドラえもんがまだ眠っていなかったこと、二人に叩き起こされカズマと太一の二人も騒動に参加してきたこと。
 挙げればそれこそキリがない。遊園地での一件や駅での一件、橋の一件や劉鳳に誤解されそうになったのもその一端だ。
 峰不二子という女性は、ここまで不運な女だったろうか? 幸運の女神に見放されるような女だったろうか? ……思わず問いたくなる。
 この時ばかりは不二子もガックリと肩を落とし、最近の境遇と周囲の環境を恨んだ。
 今の気分を一言で言い表すなら、憂鬱。退屈な日常に魅力を感じなくなっていた、SOS団結成前の涼宮ハルヒと同レベル欝っぷりだった。
 あぁ、なんでこうなってしまったんだろう……視線をそのSOS団団長様にして不二子の身を剥いたハレンチ娘に向け、「どうしてくれんのよ」と言わんばかりの嫌悪感を込める。

「何よ、何か文句があるなら言ってみなさいよ」

 ハルヒもまたムスッとした表情で返し、不二子はさらに溜息をついた。

「……あなたのおかげで私の計画がメチャクチャだわ。いったいどうしてくれるの?」
「それはご愁傷さま。でもね、いつだってこの世に悪の栄えた試しはないのよ。あたしに言いがかりつける前に、まず自分自身の計画とやらに落ち度がなかったかどうかもう一度よく見つめ直したら?」

5 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/17(土) 23:58:47 ID:P73KFHN5
 美女と美少女の二人しかいない静かな病室、ハルヒはその中に置かれた椅子に座り、峰不二子と正面から対話をしていた……身体を破かれたシーツでグルグル巻きにされているという、オプション付きで。
 今のハルヒの扱いは、外の四人が捉えている内容どおり人質。それを利用している不二子は、いわば凶悪犯罪者となる。
 泥棒や詐欺などの悪事は散々働いてきたが、さすがにこんな下劣な真似はしたことがない。
 しかしそれもしょうがないことだった。度重なる不運で不二子の計画は完全におじゃんとなり、四人組とは信頼関係どころが敵対関係が生まれてしまった。
 唯一幸いなのは、第一目撃者ののび太が不二子の容姿を的確に捉えられなかったこと。
 正体がバレていないならまだ挽回は可能かとも思われたが、それ以上に現状が厳しすぎる。
 憂鬱を訴える脳をこき使い、色々策を廻らす不二子だったが、それもハルヒの毒舌のせいで集中できない。

「大体よくそんな格好のままでいられるわね。恥ずかしくないの?」
「……こんな格好にした張本人が言ってくれるじゃない」
「羞恥心をなくしちゃ女性としてはお終いね。いい? 恥じらいっていうのも重要な萌え要素の一つなのよ。
 普段は気丈な態度を取っていたとしても、ここぞというところでは女の子らしい純情で可愛らしい仕草を見せる。
 メイドとか巨乳とかロリとか、そういう記号で売っていくのは確かに手堅いけど、最近はそういった安易なものよりも、より複雑な思考ルーチンの生み出す萌えが必要とされているのよ」
「あなたみたいな子供に言われなくたって、男のハートを掴む術なら心得てるわよ……」
「ハッ、あまいわね! ただ美人ってだけじゃ、今のご時勢権力持ちのエロオヤジぐらいしか引っ掛けられないわよ!
 今の時代は男性だけでなく、女性も萌えを求める時代だわ! その点アルちゃんは優秀よ!
 耳に尻尾にメイドにロリ! そして何よりその仕草! 男性はもちろん女性だってイチコロの究極萌え生物よ!
 世界中のテーマーパークがマスコットとして欲しがること受けあい! 我がSOS団の秘密兵器に抜かりはないわ!」
「誰よアルちゃんって……」

 何度目か分からない溜息を吐きつつ、不二子は鬱々として感情がだんだんイライラしてきたことに気づき始めた。
 どうやら、ハルヒの言葉攻めにペースを乱されつつあるらしい。
 この危機的状況でこれだけの無駄口が叩けるのだから、彼女の神経も相当図太い、いや立派なものだ、と敬服する。
 いつだってクールに。逆境を乗り越えるには他者を利用して。自分の手は出来る限り汚さず。
 不二子は溜息ばかりの呼吸を一旦整え、真剣な眼差しでハルヒに向き直った。

「……怖くはないのかしら? これから殺されるかもしれない、死ぬよりもっと酷い目に合わされるかもしれない、そういった恐れはない?」
「お生憎様。あたしはこれまで相当な数の修羅場を経験してきたの。ピンク色の髪の騎士とか金髪の髪の騎士とかに襲われたり色々とね。
 あの時のピンチに比べれば、あんたなんて全然怖くない。やれるものならやってみなさいよ。すぐに化けて出てやるから」

 ――強い。そしてそれ以上に、舌戦の才能がピカイチだ。不二子は贔屓目なしでそう思った。
 ハルヒがどんな生活を、どんな心境でこの一日を過ごしてきたかはしらない。
 もちろんハルヒの一日にルパンや次元の姿があったことも、知るよしはない。

 彼女なら、あるいは生き残れるかもね。
 根拠もなしに、突然そんな予感を感じた。
 強い瞳、強い意志、強い心。生きるために必要な要素というのは、力や頭よりもまず、気持ちが最重要であると言えた。
 不二子のように狡猾な手を使うでもなく、他者を利用するでもなく、ただ生き延びてやる、という強い信念の下に行動している。
 健気で美しく、そして思わず応援したくなるような『弱者』だった。

 不二子は真っ直ぐに見つめてくるハルヒから視線を逸らし、デイパックに仕舞い込んでいた銃を取り出す。
 向ければそれは即刻殺害対象として定められる銃口――矛先は気高い誇りを掲げたハルヒを刺し貫き、動揺を誘った。
 だが、屈しない。多少ビクついたりはしたものの、人の命を奪う道具から視線を背けるような真似はしなかった。
 やれるものならやってみなさいよ――宣言どおり、ハルヒはこれしきの脅しに負けるつもりなどないようだ。

6 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/17(土) 23:59:52 ID:P73KFHN5
 この少女を気持ちで打ち負かすには、どうやら正攻法以外の手段を使う必要があるらしい。
 室外で騒いでいる四人、自分の素顔を裸身含めて記憶してしまったハルヒ、その双方をいかにうまく利用し、この場を切り抜けるか。
 考えに考え、やがて不二子は決断した。

「今度はいったい何をするつもり?」
「直に分かるわ」

 銃を収めた不二子は依然としてハルヒを拘束したまま、病室に置かれていたコップに支給物の水を注ぐ。

 ――『他者を利用し、生き延びる』

 不二子の目的は、最初から今に至るまで一貫してこの通りのはずだった。
 利用する。それが彼女が得意とするスタンスであり、その実力は天下の大怪盗を手駒にするほどの魔性の威力。
 洗脳やらマインドコントロールやら、そんな大そうなものが扱えるわけでもない。
 必要な工程はたったの三つ。相手を理解し、自己を理解し、決断する。
 不二子は今、その第三工程を踏んだ。あとは決行するのみ。
 結果として現れてくるのは、不二子の望んだ世界か、それとも。

「ちょっと、なによその怪しげなクスリ」
「気にしないで。単なる睡眠薬よ」

 不二子は水で満ち足りたコップに粉末状の薬品を加え、掻き混ぜながら不気味に笑った。
 裸の女性が、暗がりの病室で薬を作っている。恐ろしくシュールな光景にも関わらず、舞台は奇妙な緊迫感によって彩られていた。
 銃を向けられた瞬間よりも、セイバーやシグナムに襲われた時よりも、嫌な予感がする。
 錯覚だと思い込みたかったが、ハルヒは目の前の不二子に怯えを感じずにはいられなかった。
 暗闇の中、一滴の汗がハルヒの頬を伝う。別に暑いわけでもないのに。
 その間、不二子はコップの中の水を全て口に含み、すかさずハルヒの下に駆け寄った。
 そして、峰不二子と涼宮ハルヒ、二人の唇と唇が接触を交わす。

「……んん!?」

 唐突で衝撃的、センセーショナルでインパクト抜群。突然すぎて、思考回路が麻痺してしまう。
 ハルヒは不二子からの魅惑的な接吻を受け、一瞬の内に顔面中を上気させた。

「ん……ん、ん、んー!? んん…………ぁん……っ……!」

 唇を離そうとしない、それどころか執拗に口内へと魔手を伸ばしてくる不二子に対し、ハルヒは力の限り抗った。
 だが突然のキスで混乱しているのか、妖艶な魅惑に身体を縛れてしまったのか、思うように力が入らない。
 虚脱感は拭えない涙へと変わり、抵抗の意を示す喘ぎ声も小さなものへと変わっていく。
 唇を通して、全身の生気という生気が奪われてしまったような感覚。
 舌と舌が絡み合う艶かしい感触も初めて体験するものだったし、他人の唾液が口に流れ込んでくるという珍事もまた同様に。
 頭がぽぅっとして、もう何もかも考えられなくなってきた。

7 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:01:24 ID:Dfb5xp8G
「んっ……ふゅぅ……っく……ん」

 ハルヒの知らない未知の世界――その片鱗を味わったというのに、なんだかやけに気持ち悪い。
 好奇心やワクワクとは無縁な、大人への階段。
 まだ昇りたくない。まだここにいたい。
 ハルヒがイヤイヤと身を捩ったところで、ようやくルージュの儀式が終わりを迎えた。

「はぁ、はぁ、は、ぁ――」

 解放された口で荒い呼吸を繰り返し、ハルヒは鋭い視線で不二子を睨もうとして――瞼をガクンと落とした。
 何するのよこのヘンタイ! 恥女! 強姦魔! と罵倒を浴びせたかったのに、それが困難な状況に陥っている。
 身体が鉛のように重い。特に、瞼からは鉄塊かと疑ってしまうほどの重みを感じる。
 いったいなにがどうなってしまったんだろう……考える能力も低下し、ハルヒの生体機能は闇の世界へと誘われていった。

 つまり、急に眠くなったのだ。
 度重なる事件で疲れきった身体は安息を求め、襲ってきた眠気の前にあえなく陥落した。
 にしても唐突すぎる。何か原因があるはずだ――とハルヒは閉鎖寸前の視界で、不二子が飲んだ水の容器を捉えた。
 不二子がコップの水に混ぜた、正体不明の怪しい薬。本人はあれを、睡眠薬と言っていた。
 薬の正体は不二子の言うとおり睡眠薬で、しかも医療用に使う強力なものである。
 強引に飲ませようとしたところで、相手が飲み込まなければ効果は薄い。だから、口移しと言う手段を用いたまでのこと。
 先ほどのキスは、あの睡眠薬をハルヒに無理矢理飲ませるためのものだったのだ。

「……」

 その結論に到達したのかどうかは定かではないが、今、ハルヒは完全に沈黙した。

「相当な数の修羅場を経験してきた、ね……なら、溜まった疲労も相当なものでしょ。
 今は何もかも忘れ、安心してゆっくり眠るといいわ。今は、ね」 

 眠ってしまったハルヒを気遣っているのか、不二子はやや小さくした声で囁きかけ、そして微笑んだ。

「ふふふ……おやすみなさい、リトルレディ」

 その笑みがどこか妖艶に見えてしまうのは、峰不二子という女の特性みたいなものだろうか。


 ◇ ◇ ◇



8 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:02:40 ID:Dfb5xp8G
「がぁー、もう待てねぇ! のび太、ドラえもん、太一! 俺はもう突っ込むぜ!」

 病室の外で機会を窺うこと数十分。
 いつまで経っても姿を現さない、それどころか要求の一つも言わない犯人に、カズマはついに痺れを切らした。
 アルターを形成しようとしたところをのび太、ドラえもん、太一の三名が必死に宥め、そのやり取りを繰り返すこと計三回。

「止めんなお前ら! ようは、人質をどうにかされる前に犯人ヤローをボコボコにすれば問題ねぇんだろ!? 簡単じゃねぇか!」

 何がどう簡単なんだ。三人は思いつつも、カズマと口論するような余裕はなく。
 やっと休めると思った時に起こった、想定外のアクシデント。この四人組も肉体の疲れからか、やたらと動きがチグハグしていた。
 カズマが暴走して、他三人が止めようとした、そんな時である。
 不意に、不審者の立て篭もっていた部屋のドアが開いた。
 この時ばかりは四人一斉にピタリと動きを止め、一方向に視線を注ぐ。
 中から出てきたのは、茶色のトレンチコートに鍔付きのソフト帽を被った、年配の男性。
 男性はセーラー服の女性を抱え、真摯な態度で喋り出した。

「突然驚かせてしまってすまない。わしは、国際刑事警察機構総務局国際協力部第1課の銭形という者だ。
 偶然にも、外から不審な男がこの少女を捕らえている姿を目撃したのもんでな。
 黙っているわけにもいかず、隙を見て救助させてもらった。少女は眠っているだけだから安心してくれ。
 惜しくも犯人には逃げられてしまったが、手傷を負わせておいたからこれ以上の犯行に及ぶことはないだろう」

 その男、銭形の自己紹介に対して四人組の返答は、沈黙。
 全員が全員、彫刻のように動かなくなり、疑念に満ちた目で銭形を見つめていた。

(さて、伸るか反るか……)

 この銭形、もちろん本物の銭形幸一ではない。
 病室に立て篭もっていた不二子が、自身の支給品である変装セットを利用した姿だった。
 作戦はただ一つ。
 銭形の姿を借り、この場をやり過ごす。
 素顔を見られていないとはいえ、彼女の背格好はのび太とドラえもんが目撃している。
 犯人と思われる可能性が高い以上、素顔のままで姿を晒すわけにはいかなかった。
 その点、銭形の変装セットを使えば容姿がまるごと逆転することに加え、警察官と言う肩書きで相手の信憑性を高める効果も狙える。
 しかも、今の不二子は着せ替えカメラの効果によって着るものを剥ぎ取られている状態だ。裸身のまま降伏するよりは、よっぽど健全な選択と言える。
 作戦がうまくいったとして、融通が利くのは不二子の正体を知っているハルヒが目覚める間まで。
 その間にどうにか作戦を立て直し、峰不二子としてドラえもんの仲間に加わる。それこそが不二子の決断した、時間稼ぎの策だった。

 が、この作戦には一つだけ、あってはならない、だが十分に有り得る、『最悪ケース』への懸念があった。

 思い出されるのは、不二子の変装を一発で見破った水銀燈の存在。
 もしこの四人の内の誰かが、銭形本人、もしくは銭形の死体と面識を持っていたとしたら。
 嘘も弁解も通用しない、最悪の展開が待っている。

9 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:03:36 ID:Dfb5xp8G
(分の悪い賭けじゃないわ。むしろ、ここでの賭けには勝って当たり前なのよ)

 今までの不幸続きを考えれば、そろそろ不二子の思惑通りに進んでもいい頃だと思えた。
 数々の窮地を回避し生き延びてきた実績は、全てとは言わないが幸運の成果によるものが多い。
 そうそう不幸が継続するはずがない。そう信じきっていた。
 自信に満ちた演技で四人組の対応を待つ不二子。四人の中で真っ先に口を開いたのは、眼鏡をかけた少年だった。

「に、に……偽者だぁー!」

 ――前言撤回。どうやら今日はとことんまで厄日らしい。うっそぉ〜ん。

「銭形のおじさんは僕とスネ夫を庇って死んだんだ! 死体もさっき埋めた! ここにおじさんがいるはずないよ!」
「のび太くんの言うとおりだ! やい、お前はいったい何者なんだ!」

 どうやら、こののび太という眼鏡の少年は、銭形と直接的な面識を持っていたらしい。
 しかも死体を埋葬したという証言から、病院の表の墓に誰が眠っているのかも想像できた。
 最悪だ。賭けには惨敗し、最悪の結果が訪れてしまった。
 そして、最悪はさらに加速する。

「つまり、このヤローは変装をして俺たちを騙そうとしたってわけか。ハッ、気にいらねぇな。
 その腐った性根も気にいらねぇが、死人を利用しようとしたことがますます気にいらねぇ!」

 正体が露見した銭形もとい不二子は、次に移るべき行動を模索しようとするが、すぐには動けなかった――自分の不幸に動揺していたのだ。
 あり得ないことではなかったが、最悪のケースであるという観点から、そうそう起こりえないだろうという甘い認識で臨んでしまったのが最大の敗因。
 故に、思考回路に狂いが生じた。その隙を狙い、カズマが右拳を構える。
 暗い廊下に虹色の奔流が落ち、壁の一部分を抉り取って消える。
 この力は、この現象には見覚えがある。
 これは、あの劉鳳が行使していた下僕、絶影と同じアルター能力――!

「か、カズマさん!? そりゃマズイって、相手は女の子を人質に――」
「人質に当たんねぇように野郎だけをぶっ飛ばす!
 衝撃の……ファーストブリットォォォォォ!!!」

 太一の制止も聞かず、カズマは顕現させたアルターを用いて不二子に突っ込んでいった。
 言葉通りの肉弾砲に普通はたじろぐはずであったが、不二子はこれを持ち前の運動神経と直感で回避。
 カズマの右拳は病室のコンクリート壁を叩き割り、白い粉塵が巻き上がる。
 事前に劉鳳と接触し、アルター使いという存在を知っていたことはせめてもの幸運と言えた。
 もちろん、あんな非現実的な輩とやり合う気は毛頭ない。不二子は粉塵に紛れ、そのまま逃げ出した。
 深い眠りに落ちたハルヒを背負ったまま、普段は追う立場にあるはずの銭形が追われる。
 逃げ足には自身があったが、相手がアルターなどという訳の分からない能力者なら、絶対とも言えない。

10 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:05:44 ID:Dfb5xp8G
(マズイわよねこれ! 何か、何かこのピンチから脱する方法を探さないと――)

『――もう諦めちまったらどうだ、不二子? ここらが正念場なのさ。五ェ門やとっつぁんも手招きしながら待ってるぜ』

(る、ルパン!? 本格的にヤバイわ……とうとう幻聴まで聞こえるようになっちゃったみたい。でも、私はまだ死ぬ気はないわ!)

『おいおい、つれないこと言うなよふ〜じこちゃ〜ん。さっさと諦めて、あの世で俺と楽しくやろうぜ?』

(お断りよ!)

 顔面全体を覆った銭形マスクに汗が滲み、不二子はさらに足を加速させた。
 まだ死ぬつもりはない。『命』というのは、どんな金銀財宝にも代えがたい唯一無二のお宝であり、物欲の対象だ。
 ここで逆上したカズマに殴り殺されることはもちろん、ドラえもんたちに敵として認識されることも避けねばならない。
 馬鹿な幻聴を聞いている暇はないのだ。ベストはこのままハルヒを連れての逃走――そこから、峰不二子として改めてドラえもんに接触する。
 問題は不二子の正体を知るハルヒだが、最悪口封じのために殺害することも厭わない。今の不二子には、それだけのことをする覚悟があった。
 生き延びるために、理想的な行動をする。全ての歯車がうまく噛み合えば、あとはもう不二子の思い通りだ。

 月明かりの広がる入り口、正面玄関一歩手前まで迫って、不二子はスピードを減速せざるを得なくなった。
 それというのも、病院の外から中へ、新たに二人の参加者が訪れたためである。

「ハルヒおねーちゃん!」

 一人は、やたらフリフリなメイド服に袖を通した、獣耳と尻尾を併せ持つ異界の少女。
 もう片方は、まだ見た目に幼さの残る金髪の少年。
 予期せぬ部外者に眉を顰めた不二子は、一瞬だけ後ろを振り返り、カズマを先頭とした四人組集団も追ってきていることを確認する。
 後ろにも敵、前にも敵。後ろの敵から逃れても前にも敵がおり、前の敵から逃げても後ろの敵がいるという悪循環……虎口を逃れて竜穴に入る、とはまさにこういった状況を指し示すのだろう。
 ついてない時はとことんまでついていない。不二子は「あーもう!」とヒステリックな声を漏らし、正面玄関口へ突進していった。
 来訪者――アルルゥと石田ヤマトの二人を意に関さず、力ずくで突っ切ろうという魂胆である。
 だが、そんな不二子に対してアルルゥは、

「おねーちゃん、かえす!」

 猛進する不二子目掛け、勢いよく飛びかかってきた。
 極度の人見知り気質であるアルルゥだったが、この時ばかりはハルヒを助けたいという一念が初対面への恐怖を凌駕した。
 予想外の飛びかかり攻撃に不意を喰らった不二子は、そのままバランスを崩してハルヒごと転倒。
 すぐに立ち上がって正面玄関を出ようとしたが、寸前でもう一人の来訪者、石田ヤマトが立ち塞がる。
 バスケットのディフェンスのようなポーズで行く手を阻むヤマトと、それを強引に打ち破ろうとする不二子。
 不二子の狙いは、病院からの逃走。既にハルヒはアルルゥの体当たりによって落としていたため、無理に止める必要もなかった。
 だが、この男はハルヒを攫おうとした極悪人――SOS団の、仲間の絆を断ち切ろうとした輩を、見逃すわけにはいかない。
 ヤマトは正義感を奮い立たせ、脇を通り抜けようとした不二子のコートの裾を掴んだ。
 瞬間、出口方面へと身体が引っ張られるが、犯人を掴んだ手だけは意地でも離さない。
 最後にはヤマトの意地が打ち勝ち、掛かっていた引力が消失した。
 犯人が諦めた――そう判断したヤマトは、不二子を捕らえるために身を寄せ、

「観念しろ――!?」

11 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:08:41 ID:Dfb5xp8G
 逆に、全身を拘束された。
 不二子は別に、観念して逃走を諦めたわけではない。
 人質を失った以上、一番の要注意人物であるカズマは、これまでよりも容赦なく不二子を攻め立てるだろう。
 あんな馬鹿げた能力持ち相手から逃げるのは骨が折れる。
 ならば、さっき以上にカズマが攻撃しにくい状況を作り出せばよい。
 新たな人質を取り、その人質のこめかみに銃を突きつけるという形で。

「――全員動くな! 少しでも動けば、このガキの頭を撃ち抜くぞ!!」

 しゃがれた大声を絞り上げ、不二子はその場にいる全員に向けてそう告げた。
 飛び込んできた警告、本能的に危機を感じざるを得ない光景が重なり、ドラえもんとのび太と太一とカズマ、そしてアルルゥの五人が、ピタリと制止する。

 ――そう。この場は不二子以外に誰も動けない。

 この場にいる面々は年齢や種族、生まれや性格などの差異はあったが、一つ、ある共通点が存在していた。
 それは、決して仲間を見捨てないという正義感。強い仲間意識。友情。
 ヤマトと直接的な面識がないのび太やカズマでさえ、銃を突きつけられた様を見れば想像してしまう。
 もしあれが、しずかちゃんやスネ夫やジャイアン、かなみや君島、ハクオロやエルルゥだったら……。

「――太一!? お前、なんでこんなところに!?」
「それはこっちのセリフだ! ヤマト、なんでお前が――」

 身動きを封じられた環境の中で、二人の『選ばれし子供』が最悪の再会を果たす。
 顔見知りと合流できたことは嬉しいが、シチュエーションが酷すぎる。
 なにせ再会して早々、片方の命は半分奪われているようなものなのだから。

「チッ、また人質かよ! 姑息な手ェ使ってねぇで俺と勝負しやがれッ!」
「ど、どどどどうしようドラえも〜ん!」
「お、落ち着くんだのび太くんっ。え〜とこういう時はあれでもないこれでもないえーとああ! そうかひみつ道具は取り上げられてたんだった!」
「ヤマト、離すっ!」

 イライラを募らせるカズマと、動揺して慌てまくるのび太と、それ以上に大慌てなドラえもんと、今にも飛びかかっていきそうなアルルゥ。
 誰もが皆、この状況に憤りを感じ、それでいて何もすることができない。

 ――陥った状況は酷く悪趣味で、人質というのは典型的な小悪党の用いる非道手段である。

 咄嗟に思いついたこととはいえ、不二子も「下劣な行動ね」と自身に悪態を吐いていた。
 生きるために、逃げ延びるために取った行動とはいえ、子供を人質に取るなど彼女のプライドが許せるはずもない。
 だがそんな彼女のプライドを打ち崩したのは、あのルパン三世が死んだという現実。
 殺しても死なないような男が、易々と死んでしまう世界……そんな場所でプライドに媚売って、果たして生き残れるだろうか。
 大事な人を守るためなら修羅になる――そう考える人間がいるように、大事な命を守るためなら下衆にでもなってやる。そう考える人間もいる。
 そして作戦の効果は気持ちに反比例し、大成功を収めたと言って過言ではない。
 事実、ヤマトを人質に取ったことで短気なカズマすらも落ち着きを見せ、不二子の前に服従している。
 銃を突きつける、相手の命にリーチをかけるだけで、こうも反応は変わるのだ。

12 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:10:06 ID:Dfb5xp8G
「よーしよしよし。全員聞き分けが良くて助かるぞ。いいか、少しでも妙な動きを見せればこいつはオダブツだからな」
「くっ! アルルゥ、俺のことはいいからハルヒさんを連れて逃げろ! 太一たちも、こいつの言うことなんて聞いちゃいけない!」

 若干ヤケクソになっているのか、不二子の演技はますます堂に入っていた。
 暴れようとするヤマトを押さえつけつつ、銭形の口調を真似てみせる余裕ぶり。
 実際、小学生のヤマトと、実戦に長けたエキスパートである不二子とでは、力の差だけでもかなりのものがある。
 ヤマトが自力で逃げ出すことはほぼ不可能。他の面子も手出し不能な状態。
 助け出す方法がないというわけではなかった。
 のび太が銃を抜けば不二子よりも速く引き金を引けただろうし――もっとも、勇気が足りないのだが。
 アルルゥがタヌ機を使えば不二子に幻覚を見せて隙を作れただろうし――銃を突きつけられた今、おかしな真似をするわけにはいかない。
 カズマが本気で突っ込めば、あるいは不二子だけを狙ってぶっ飛ばせたかもしれない――さすがにそこまで軽率ではない。

 ――人間、物事がうまくいけば、さらに欲が出てくるものである。

 例えばギャンブルで大勝していたとして、さらにどんどんチップをつぎ込んでみたり。
 例えば何気なく買った宝くじで運よく四等が当たったとして、次は本気で一等を狙ってみたり。
 例えば一回悪事が成功したとして、次はもっと大きな悪事が狙えるんじゃないか……? と野望を燃やしてみたり。
 この、『誰も不二子に逆らえない状況』は、彼女の欲を引き出す最高の空間であると言えた。
 それ故に、不二子が持つ欲求の中で特に秀でて強い、『物欲』が疼き始める。

「……お前ら、このガキを助けて欲しかったら、素直にわしの言うことを聞くんだ。
 まず、お前らの持っている荷物を全部こちらに渡してもらおう。携帯している武器から食料まで全部だ。
 断ればこいつがどうなるか……もちろん分かるな?」

 本来は善良な銭形の表装が、悪人の面に変わる。
 子供を人質にした挙句、力のない弱者たちからさらに金品を要求するその所業、正に悪党。
 堂に入っては堂に従え、不二子は完璧な極悪卑劣な小悪党へと成り下がり、自身の目的を定めようとしていた。
 事態は、不二子自身からしても予想外な展開を迎えようとしている。
 場合によっては、これからの指針を変える余地もあるほどに。

「まずはそこのアルター使いの男。そのアルターを解いて、お前の荷物をこっちに放れ」
「ふざけんな! この俺が、このカズマ様がなんでテメェの言いなりなんかに――」
「ちょっと待った! 君はなんで、カズマくんのアルターのことを知っているんだ!?」

 反論しようとしたカズマの前に立ち、被さるようにドラえもんが反論する。

「ふふふ……わしに知らんことなどありはせんのさ。そんなことより、さっさと命令を聞いた方がこいつの身のためだぞ?
 そうだな、一言反論するごとにこいつの指を折っていくってのはどうだ? そういったルールがあった方が従いやすいか?」
「ぐっ……!?」

13 :峰不二子の暴走T ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:11:37 ID:Dfb5xp8G
 爆発しそうになった拳を必死に押さえ、カズマは言われるがままにアルターを解除した。
 横からは、太一の心配に満ちた視線が突き刺さる。
 カズマとて、思いやりの精神はある。仲間の目の前で仲間の仲間を見捨てるなど、できるはずがなかった。

「わぁったよ。渡しゃいいんだろ渡しゃ。ほらよッ!」

 乱暴にデイパックを放り投げ、カズマは力いっぱい舌打ちをした。
 カズマに次いで、太一、アルルゥ、ハルヒ、のび太のデイパックと携帯武器、諸々が不二子の懐へとなだれ込んでいく。
 詳細な中身はすぐに確認できないが、アルルゥからはクロスボウ、のび太からは銃が没収できた。これだけでも十分すぎるほどの儲けものだ。

「さぁ、最後はそこの青ダヌキ、お前だ」
「タ……!」

 最後に要求したのは、ドラえもんの持つデイパック。
 ただし、この際に不二子は一つ重大なミスを犯してしまった。
 それはほんの些細な一言。常日頃から考察等で使っていた、見たままのドラえもんの代名詞を、そのまま言い放ってしまったこと。

「ほらどうした青ダヌキ。もたもたしてないでさっさと荷物をよこせ」
「また……ぼくを、このぼくを二度も青ダヌキと……」

 わなわなと震えるドラえもんの姿を怪訝には思ったが、過ちを犯してしまったとは夢にも思わず。
 絶対言ってはいけないタブーを言ってしまい、それがドラえもんの逆鱗に触れるきっかけとなろうことなど、誰が推測できるだろうか。
 いるとすればただ一人――それは、ドラえもんの性格をよく知っているのび太のみである。

「ぼくは……ぼくは、タヌキじゃな〜い!!!」

 刹那、ドラえもんの顔が沸騰したかのように真っ赤に染め上がり、身体は大きくをジャンプする。
 そのまま怒りに任せて不二子へダイブ。予想外、予想できるはずもないドラえもんの逆上に面食らい、不二子は唖然としてしまった。
 少しばかりの混乱の中、反射的に発砲。銃弾はドラえもんの頭上、天井に付けられていた蛍光灯を撃ち落とし、破片諸共下に落下する。

「ふぎゃっ!」

 蛍光灯の直撃を受けたドラえもんは、そのまま昏倒。
 不二子は隙を突いて逃走を図ろうとするが、ドラえもんが作ってくれた隙を狙う者は他にもう一人いて――

「シェルブリット――」

 振り返る間際の視界。そこには、再構築させたシェルブリットを構えるカズマの姿が。
 脳が、本能が、逃げろと伝えてくる。その伝達速度は、風よりも光よりも速く。
 ここが引き際だと、不二子の生体本能が悟った。

「――バーストォォォォォ!!!」

 力が圧縮、放出、迸り、病院の正面玄関口を吹き飛ばした。

14 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:13:29 ID:Dfb5xp8G

 ◇ ◇ ◇


 土色と白を帯びた煙が、病院中を埋め尽くす。
 カズマが放った『シェルブリットバースト』は、シェルブリット第二形態で使用可能となる最大の大技。
 殴る――それだけに磨きをかけ、それだけに力を集約した果ての一撃であり、元を正せば単なるすごいパンチ。
 だがその一撃が侮れるような威力ではなく、正面玄関口はどこを殴ればそうなるのか、爆弾でも破裂させたかのような惨状が広がっていた。
 自動ドアに始まりカウンターにベンチ、加えてその場にいた全員――のび太から眠っていたハルヒまでをも衝撃で吹き飛ばし、立ち上った土煙のせいで誰がどこにいるのかも分からない。
 唯一救いだったのは、シェルブリットバースト自体は誰にも直撃していないということ。
 人質の存在をちゃんと考慮した結果であり、このドサクサで犯人が孤立したなら好都合。
 しかし、現実はそんな浅はかな狙いどおりにいくわけもなく。

「ちっ、どこだ! どこへ行きやがったあのヤローは!」

 カズマ本人でさえ、巻き上がった粉塵の前に不二子を見失っていた。

「げほっ、げほっ……くそっ」

 互い互いに姿を探し回るおかしな状況下で、拘束を解かれたヤマトもまた、大切な仲間の影を探していた。
 コンクリートと玄関口のアスファルトが爆ぜた結果は、視界全域を侵略するほどに膨張している。
 手探りで歩む姿は弱々しく、だが光を掴もうとする意志は強く雄雄しく。
 不審な男に抱かれ意識を失っていたハルヒ、危険も顧みずに犯人へ向かっていったアルルゥ、そしてやっと再会できた太一と――

「ハルヒさん! アルルゥ! 太一ぃ! 返事をしてくれー!!」

 声を張り上げて、仲間たちの名を呼んだ。
 返答は返ってこない。声自体は届いたかもしれないが、その返事をヤマトが聞くことはなかった。

 こうしている間にも、あの不審者の影が忍び寄ってくる。
 ドサクサに紛れて逃げるならまだ良し。だがもし、ヤマトの代わりにハルヒやアルルゥが人質にされでもしたら……。

「……ッ!」

 気持ちを逸らせ、ヤマトは疾走した。
 煙の中を突き抜け、仲間たちの無事を確認するために。
 ふと空を見上げると、広大な闇の海と満月の照明が一望できた。
 どうやら、現在地は病院の外へと移っているらしい。

15 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:14:22 ID:Dfb5xp8G
「他のみんなは――!?」

 走るヤマトの勢いが、唐突に減速した。
 左腕に強力な引力を感じ、身体ごと引っ張られそうになる。
 誰かが左腕を掴んでいる……? いったい誰が……?
 腕に込められた力は抗えないほどに強く、感触はごつごつとしていた。
 まず女性のものではない。当然子供のものでもない。だとすれば、当てはまるのはただ一人。
 ヤマトは直感で危機を受け止め、身体を無理矢理前方に押し出した。
 掴まれた左腕を振り払おうと、ありったけの力を込める。
 このまま、二度も捕まるわけにはいかない。
 救いを求めるように空いた右腕を伸ばし、そして。

「ヤマトぉ――ッ!」

 その右腕を、救済しようとする存在がいた。
 粉塵の中からゴーグルをかけた顔を曝け出し、再会を望んだ仲間と対面する。
 八神太一。共にデジタルワールド駆け回った戦友であり、ライバルであり、友達だった。
 ヤマトの表情が一瞬だけ綻ぶ。安堵が微笑を誘う。
 しかし、それは本当に一瞬だけ。一瞬の微笑みを終えたヤマトはすぐさま気を引き締めなおし、より強く右腕を伸ばした。
 ヤマトの右腕と、太一の右腕の距離が徐々に縮まっていく。
 あと30センチ、あと20センチ、あと10センチ、あと5センチ、あと1センチ――
 互いの指と指が触れ合おうとしたその瞬間、ヤマトの右腕は気づいてしまったのだ。
 指を伸ばしても、求めていたものに到達できないもどかしさ。
 あるべきものがそこにない、拭いきれない喪失感と、その意味。

 ――太一の右腕には、ヤマトの右手を掴むための『右手』が欠如していた。

 それでも――!
 ヤマトは右腕を伸ばし、太一に向けて叫ぶ。

「そのまま腕を伸ばせ、太一ぃ――ッ!」

 太一が掴めぬというのであれば、ヤマトが掴んでやればいいだけの話。
 もう手と手を取り合うことはできなくとも、どちらかが手を引いて先導してあげることはできる。
 支え合いの精神とか、同情の心とか、そんなものとは断じて違う。

 これは――八神太一と石田ヤマトの――友情だ!


16 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:15:10 ID:Dfb5xp8G



 ――そんな二人の友情は、ドンッ、という単調な音によって撃ち殺された。

「え……?」

 ヤマトのやや後方から発生した音の正体は、発砲音……おそらく、ヤマトの腕を引っ張っていた人物によるものと思われる。
 凶弾が撃ち貫いたのは、太一の胸元。心臓からはほんのちょっとだけ遠く、しかし盛大な血の噴出口となる致命傷ポイント。
 太一の血飛沫がヤマトの頬を染め、ヤマトの伸ばした右手が空を切り、太一の伸ばした手が力なく――地に落ちた。

 ――結局、この悲惨な世界で太一とヤマトが手を取り合うことは……一度もなかった。

「た……」

 目の前の親友が倒れて、ヤマトの見る世界が一変した。
 フラッシュバックしてきた光景は二つ。
 トラックで銀髪の少女を轢き殺してしまった、あの惨事。
 仲間を守るために自らを犠牲にしようとした、ぶりぶりざえもんとの別れ。
 そして、これは三度目になる。

 選ばれし子供で、アグモンのパートナーで、共にデジタルワールドを冒険した八神太一少年は、

 今、目の前で凶弾に倒れた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 絶叫を境に、ヤマトの意識はプツンと途絶えた。
 度重なる重圧に、少年の心は成長を見せていた。
 だが同時に、精神的苦痛が心を痛めつけてもいた。


 ◇ ◇ ◇



17 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:17:08 ID:Dfb5xp8G
 全てが終わり、時計の針は頂点に昇ろうとしている。
 長かった一日がようやく終わる。そう思っていたところで起きてしまった、不意打ちの悲劇。
 誰が悪くて誰がいけなかったのか、加害者と被害者に分けることは簡単だろうが、善悪の分別は難しい。
 ただ、この場には重傷を負った少年が一人いる。
 それだけは逃れようのない悲しい事実であり、そして――

「……カズマさん。ヤマトは?」
「連れてかれちまったよ。お前の友達が乗ってきたトラックを奪って、逃げて行きやがった」

 数十秒か数分、浅い眠りから覚醒した太一は、今にも消え入りそうな声で言葉を発した。
 その内容は、悪い奴に捕らわれた仲間の心配だった。
 あと少しで届きそうだった右手。でも届かなかった、触れ合えなかった右手。
 痛いなんて言ってられない、そう思っていたのに。あの時ヤマトの手を取り損なった悔しさだけは、無視できない。

「じゃ、さっさと行って助け出してやらないとな……あいつがいなくなったら、タケルやガブモンだって悲しむし」
「……お前も、だろ?」
「……そうさ。ヤマトは仲間なんだ……絶対に助けてやらなきゃ……」

 立ち上がって、歩く。
 そんな当たり前の動作がやけに難しく、足はガクガクと震えていた。

「あ、あれ……? おかしいな、なんで、こんな」
「ほらよ。肩、貸してやる」
「……サンキュ、カズマさん。はは……結構楽になったよ」

 カズマに肩を――否、全身を支えられ、太一は立ち上がった。

「トラック、どっちに向かった?」
「あっちだよ、太一くん」

 ヤマトが連れ去られた方向を確認しようとすると、ドラえもんが優しげな声で答えてくれた。
 そのドラえもんの瞳には、涙の雫が潤んでいて。

「あっちかぁ……じゃ、早く追わないとな」
「……うん。うん! 早く行って、太一くんの友達を助けてあげなくちゃね! ぼくもドラえもんもカズマさんも、みんな太一くんに協力するよ!」

 悲しみとやる気に溢れた繊細な表情で、のび太も太一に同調してくれた。
 共にした時間は短かったが、のび太とはいい友達になれたような気がする。

「はは……すげーやる気だなのび太……グッ!」

 力なく笑っていると、急に胸元が痛くなってきた。
 肩を落とし、それをカズマとドラえもんとのび太の三人――と、もう一人。
 耳と尻尾、メイド服につぶらな瞳を乗せたアルルゥも、太一の身体を支えようとしていた。

18 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:18:08 ID:Dfb5xp8G
「……ヤマト、アルルゥとハルヒおねーちゃんのこと守ってくれた。だから、きっと助かる。アルルゥもヤマト助ける」
「そっか。ヤマトのやつ、ここでもいいお兄さんやってたのか。……俺も、ヒカリのところに戻らなきゃな」

 空を見上げ、太一は今は遠いところにいる仲間たちのことを思い出した。
 空、光子郎、ミミ、丈、タケル、ヒカリ――ここにいない、他の『選ばれし子供達』。
 アグモン、ガブモン、ピヨモン、テントモン、パルモン、ゴマモン、パタモン、テイルモン――子供達のパートナーデジモン。
 騒がしかった大所帯で、もう一度デジタルワールドを冒険したい。お台場に帰りたい。
 そのためには、太一もヤマトも生き延びて、ここから出なくちゃいけないんだ。そうじゃなきゃ、いけないんだ。

「カズマさん、ドラえもん、のび太、アルルゥ。
 俺……もう仲間を失いたくない。素子さんやヴィータみたいに、誰かがいなくなるなんてもう嫌だ……!
 だから、だからさっ」
「……ヤマトを助ける。やることっていったらそれだけだろう?」
「大丈夫! ぼくものび太くんもカズマくんも……みんな、みんな太一くんの味方だよ!」
「うん! だから太一くん、安心……うっ……安心して、安心していいんだよ!」
「…………ん!」


 ……みんな、みんないてくれた。
 ドラえもんとのび太は泣きながら、カズマさんとアルルゥは強い目で、俺のことを支えてくれた。
 これなら、大丈夫だ。もう胸の傷なんて痛くない。なくなった右手だって同じだ。
 みんなと、仲間と一緒なら絶対大丈夫だから。ヤマト、すぐに助けに行ってやるからな。


「ほら、起きろ太一! これから悪党ぶっ飛ばしに行くってんだからもっと気合入れろ!
 ドラえもんものび太も、それにアルルゥもだ! いいか、こういうのは気合が大事だ!
 相手がクソムカツク野郎だってんなら、なおさら気合で捻じ伏せてやるんだ!」
「そうさ! ぼくたちみんなの力を合わせれば、きっとヤマトくんを助け出せる!」
「いこう! みんな! ヤマトくんを助けに!」
「えいえーい――」


 みんな――


「「「「「おー!」」」」」


 ◇ ◇ ◇



19 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:20:02 ID:Dfb5xp8G
 ――五人一斉に上げた拳。その中で一番先に地に落ちたのは、やはり八神太一のものだった。
 射抜かれた胸からは夥しい量の出血が確認され、誰がどう見ても致命傷であると判断できた。
 しかし、太一はその最後の最後まで――勇気を捨てることはなかった。
 死に逝く身を奮い立たせ、仲間を思い、仲間に思いを繋いだ。
 無念などではない。惨めなどでもない。
 八神太一は、生を終えるその最後の瞬間まで――勇気の紋章を胸に宿し続けていた。

「こんなのって……うぅ……こんな酷いのってないよぉ……」
「お〜いおいおい……太一くん……どうして、どうして君みたいないいやつがぁ……」
「……アルルゥ、泣かない……泣かない……泣か…………ぅ、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 最後まで太一の勇気に付き合った面々は、少年の旅立ちを確認し、改めて悲しみを露にした。
 ただ一人、カズマだけは右拳を握り締めて、太一の亡骸に向き合う。

「まったくよ、笑っちまうよな君島? まただぜ、また。
 俺とつるんでる奴はみんな痛い目を見るのさ。お前のように、『あいつ』のように。
 だったらよ、何も背負わない方がいい。『あいつ』の側にいない方が、『あいつ』のためになる……
 ふっふふ、そんなこと考えてたんだぜ、この俺が!」

 この場合の『あいつ』とは即ち、かなみでありなのはであり、ヴィータであり太一でもある。
 誰かを交流を持つことで、誰かが――己が――悲しむのなら、『あいつ』の側にはいられない。
 だが、しかし!

「けどよ、そいつは逃げだ。ちっとも前に進んじゃいねぇ!
 あぁそうだ! こうと決めたら迷わねぇ! 欲しいもんは奪う!
 俺と関わり合った奴には悪ィが腹括ってもらう。我が儘かい? 我が儘だな!
 そうだよなぁ! さぁ進むぜ!」

 カズマが豪快に叫び、太一の頭からトレードマークであるゴーグルを取り上げる。
 もう誰が死のうが悲しまない。ムカツク奴、許せない奴をぶっ飛ばす。
 安心なんてクソ喰らえだ。仇討ちでもなんでもやってやるさ、彼が、俺が、カズマがそう決めた!

「太一――さぁ行こうぜ、ヤマトを助けによぉ!」

 放り投げたゴーグルがパッと弾け、カズマのアルターを形成する糧となる。
 やるべきこと、やらなければならないこと、やりたいことはただ一つのみ!
 あいつが、太一が成し遂げたかったことを、代わりにやり遂げる!

「カズマくん。もう、君だけが頼りなんだ!」
「お願いだよ……太一くんの仇を討って、ヤマトくんを助け出して!」
「たりめぇーだァァァ!」

 咆哮を上げ、カズマは形成されたシェルブリットを地に叩きつけた。
 疲労が溜まっている? トラックに追いつけるのか? そんなことは関係ない。
 太一の願いと思い、そして勇気。それらをカズマに託し、ドラえもんたちはその帰りを待つ。
 カズマは、ヤマトを連れて帰ってくる。ただ、それだけだ。

「待ってろよ。すぐに追いついて、完膚なきまでにボコボコにしてやらァァァ!!!」

 地にシェルブリットを叩きつけた反動で舞い上がり、カズマは北へ駆けた。

20 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:21:30 ID:Dfb5xp8G


 ◇ ◇ ◇


 一旦銭形の変装を解いた不二子と、精神ショックから気絶してしまったヤマトを乗せたトラックは、ただひたすらに北を目指していた。
 SOS団専用車両として活躍していたトラックは今や凶悪犯の逃亡車へと変わり、かつての後光は微塵も感じさせない。
 その運転席で、不二子は手入れた水と食料を口に入れつつ、軽い焦りを覚えていた。

 ――やった。ついにやってしまった。

 ヤマトを再び人質に取ろうとした、あの一瞬の交差。その際に邪魔をした少年への、咄嗟の銃撃。
 放った弾丸は、間違いなく相手の胸元を貫いた。即死はどうにか免れただろうが、致命傷は確実のもの。
 太一と呼ばれていたあの少年――ドラえもんの仲間であり、右手を失いながらも主催者に立ち向かおうとしていた勇気ある少年。
 そんな逸材を、自らの手で殺めてしまった。

 後悔は――ない。

 むしろ、やっと踏ん切りがついたと言ってしまえるだろう。
 不二子の最重要目的は自衛に他ならず、そのためにギガゾンビと敵対しているドラえもんたちと関係を持とうとした。
 だが万が一、彼等が主催者を攻略できなかったとしたら?
 そしてその結果が出るまでに、不二子の生存確率が低下していたとしたら?
 ……裏切りのタイミングはいつが適切か。そういった思考を抱くのが自然となる。

 今回の一件はむしろ、今までの不幸を帳消しにするラッキーなアクシデントだったのだ。
 数々の役立つ物品を入手し、戦力は増強された。トラックという逃走のための足も手に入れた。
 そして、傍らの助手席には人質として捕らえたままのヤマトがいる。
 彼をドラえもんたちの前に突き出せば、また色々と利用できることだろう。
 しかし、あの場には劉鳳と同じアルター能力保持者、カズマがいる。
 いくら銃を備えていたとしても、あの化け物には敵う気がしない。
 あのグループにカズマがいる以上、舞い戻るのは危険と判断した。
 とくれば、ヤマトに人質としての価値はなくなる。
 見ず知らずの人間を人質にされて、言いなりになるような偽善者が他にもいるとは限らないし、いつまでも彼を生かしておけば、新たなトラブルの種となるやもしれない。
 このまま殺害して捨てるのも手ではある――が、利用できる可能性があるなら最後まで利用したい。
 幸いにも、ヤマトには不二子の変装が見破られていなかった。
 誘拐犯からヤマトを助け出した優しいお姉さんとして再接触してもいいし、色仕掛けで言うことを聞かせる自身もある。
 おそらく強引な方法……拷問などにかけても従うような少年ではないだろう。駒として扱うにはレベルが高すぎるもしれない。
 だがもし利用価値が見い出せないならば――殺る覚悟はもうできている。

21 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:22:42 ID:Dfb5xp8G


『落魄れたもんだな、不二子』

(落魄れた……? それは違うわねルパン)

『何が違うってのさ。今のお前は単なる誘拐犯。トレジャーハンターでもスパイでもエージェントでもねぇ。火事場ドロボー以下の下衆なんだぜ』

(甘いわね。この世は不条理……必ずしも正義が勝つわけではない。勝つのは、こうと決めたことを最後までやり遂げる、覚悟のある者だけよ)

『お前がそれだって?』

(大切なのは芯の強さよ。私はもう、ゲームに乗る覚悟を決めた。生き残るためなら、どんな手段だって使ってみせる)

『……さすがは不二子。俺の惚れ込んだ女だけのことはあるぜ』

(あなたも考えを改めるのねルパン――死人に言っても無駄でしょうけど)

『ま、俺はもう黙るさ。不二子、お前がこの先どこに行き着くか……精々見張らせてもらうぜ』

(望むところよ。でもルパン、これだけは言っておくは。
 私はもう、あなたと会うつもりはないの――――永遠にね)



22 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:24:20 ID:Dfb5xp8G
【B-4・路上/1日目/真夜中(放送直前)】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:若干の眠気
[装備]:コルトSAA(弾数:4/6発/予備弾:12発) 、銭型変装セット@ルパン三世(付けているのは衣服のみ)
[道具]:デイバック×7、支給品一式×7(食料6食分消費、水1/10消費)、ダイヤの指輪、
    高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、のろいウザギ@魔法少女リリカルなのはA's
    鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、ボディブレード、かなみのリボン@スクライド
    コルトM1917(残り3発)、ワルサーP38(0/8)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
    コルトM1917の弾丸(残り6発) スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、USSR RPG7(残弾1)
    RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、スコップ、暗視ゴーグル(望遠機能付き)
    ハーモニカ、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
    タヌ機(1回使用可能)、クロスボウ、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)、トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
 【薬局で入手した薬や用具】
 鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
 抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
 ※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:優勝して生き残る。自己の安全を最優先。利用できるものはなんでも利用する。
1、トラックで人気のなさそうな最北エリアに移動。ヤマトに利用価値があるかどうかを見定め、利用不可能なようなら躊躇なく殺害。
2、参加者を殺害し人数を減らす(弱者優先。闇討ちなどの効率の良い手法を取りたい)。
3、カズマや劉鳳など、人間を超越したような輩には手出ししない。
4、F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
[備考]:E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
   :「なくても見つけ出す!」にて、ドラえもんたちがしていた会話の一部始終を盗聴していました。
   :着せ替えカメラの効果により、本来身に付けていた服は一時的に消失しています。

【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:太一の死による精神的ショックとそれによる気絶
    人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定
    右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
1:…………
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。

23 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:25:13 ID:Dfb5xp8G
【D-3・病院周辺/1日目/真夜中(放送直前)】
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(打身・裂傷・火傷、いずれも処置済み)、臨戦態勢
[装備]:シェルブリット第二形態
[道具]:
[思考・状況]
1:太一の仇を討つ! 太一の代わりにヤマトを助け出す!
2:ドラえもんたちと一緒に首輪の解除に全力を尽くす。
3:なのはが心配というわけではないが、ヴィータの名前を刻んだこともあるし子供とタヌキを守る。
4:かなみと鶴屋を殺した奴とか劉鳳とかギガゾンビとか甲冑女とかもう全員まとめてぶっ飛ばす。


【D-3・病院内/1日目/真夜中(放送直前)】
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、頭部に強い衝撃
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:カズマとヤマトが帰ってくるのを待つ
2:自分の立てた方針に従い首輪の解除に全力を尽くす
3:ジャイアン、なのはを捜す
基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
[備考]
※第一回放送の禁止エリアについてのび太から話を聞きました。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:ギガゾンビ打倒への決意/左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物)
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
1:ドラえもん達と行動しつつ、首輪の解除に全力を尽くす。
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
3:ジャイアンを探す。

24 :峰不二子の暴走U ◆LXe12sNRSs :2007/03/18(日) 00:26:05 ID:Dfb5xp8G
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:大泣きしたことによる極度の眠気
   :右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考]
基本:ハルヒ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。
1:ヤマトが帰ってくるまで病院で待つ。
2:ハルヒが起きるのを待つ。
3:んー、でも眠い……。
[備考]
※不二子の荷物没収の際、ハクオロの鉄扇だけは隠していたため死守しました。

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:熟睡中
    頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)
    左上腕に負傷(ほぼ完治)、心の整理は完了
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。
1:熟睡中。
2:知り合いを探す。
3:キョンと合流したい。
4:ろくな装備もない長門(とトグサ)が心配。
5:ペットショップを探して、アルルゥの能力で色々やってみる。
[備考] :
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回) 、着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)は病院内に転がっています。


【八神太一@デジモンアドベンチャー 死亡】
[残り32人]



25 :孤城の主 1/27 ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:52:05 ID:gA2OBbTl
一陣の風が去り、束の間の静寂を取り戻した城の成れの果て。
蒼い月の光を浴び、憐れな姿を曝すその石の中で黒い何かが蠢いていた。
それは鉄と石で組上げられた複雑な迷路の中をぬるりぬるりと油のように這い回る。
暗闇に充満する死と血、無常と悔恨の匂い。その中で何かを探している。

ふと、それが動きを止めた。
その鋭敏な触覚がある気配を感じ取ったのだ。

近づいてくる――滅びが近づいてくる――滅びが足音を立ててやってくる。
城門を鎚で叩き、廊下を追い立て、寝室に火を放ち、そして――「私」を討ち取るのだ。

その幻視にそれ――吸血鬼アーカードは口から牙を覗かせ喉を鳴らした。


――さぁ、鉄火を散らそう。

――殺して、そして殺されよう。

――存在の全てを賭けて奪い合おう。


闘争には必要な物がある。
動きを止めていた怪物は再び暗闇の中を這い始めた。

26 :孤城の主 2/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:52:55 ID:gA2OBbTl
ホテルよりいくらか離れた場所。
明るい夜に冷やされたアスファルトの上で彼女達はその歩みを止めていた。
魅音の口から放たれた真実に、鳳凰寺風とセラスはそれぞれに別の衝撃を受けていた。

「……光さんが死んだ」
希望――絶望。希望――そして絶望。――そして希望――やはり絶望なのか。
繰り返される親しい者の死。その宣告に鳳凰寺風の心は再び悲鳴を上げた。
光は目の前にいる魅音という女性、彼女を守るため怪物に討ちかかり――そして死んだという。
なるほど、無鉄砲な彼女らしい話だ。それでも生きていたならば小言で済まし笑い話にもできただろう。
だが、死んでしまっては悔やんでも悔やみきれない悲劇だ。例え自分の与り知らぬ場所のことでも。
助けたい――そう願うからこそ失った時に悔やむ。それが無意味だとしても。

「……ごめんなさい。私が」
「いえ、あなたのせいではありませんわ」
頭を垂れる魅音の言葉を風は遮った。それを受け入れてしまってはいけないから。
「それに、光さんは決して後悔してはいないと思いますから……」
誰への言葉か……、魅音かそれとも自身に向けてか……

「……………………」
セラスの心中は穏やかではなかった。
魅音を襲い風の友人を殺害したのは間違いなく自身の主人であると確信している。
いつかこうなるであろうこと――我が主人が人間を殺す。そしてそれが近しい人やその仲間である。
それは解っていた……が、やはり今の今まで解ってはいなかったのだと痛感する。
これだけではないだろう。これだけで済むはずがない。もっと殺しているはずだ。
ホテルは倒壊しているらしい。彼の仕業か? ならばあの部屋に残した仲間達は?
ゲイン、みさえ、ガッツ……、彼らもまた殺されているとしたら……自分の立場は何処に?

「……でも、その男はクーガーがやっつけたんだ」

……本当だろうか? セラスは魅音の言葉に疑問を抱かずにいられない。
しかし本当に……、本当に彼が死んだというのなら。もしもそうならば、彼との関係を隠しておけば
問題はないのではないか?
目の前の彼女達と一緒に仲間の死を悲しめば……?
でも、でもそれは……、非道い裏切り行為なのでは……?


「では、まいりましょうか」
心に澱を落とした二人を風が促す。彼女の心もまた暗く澱んではいたが、
「まだ、助けを求めている人がいますわ。ならば歩みを止めることはできません」
「そうだね。クーガーも同じことを言ってた」
魅音も顔を上げ果敢無げな笑顔を見せた。停滞は最も意味がない――それを知っていると。

「じゃあよろしく頼むよ」
魅音がセラスの腕を取って腰にまわす。風も逆の腕を取ってそれにならった。
「ホテルが完全に倒壊するのも間もないと聞きました。急ぎましょう」

「は! はい。わかりました。しっかり掴まってて下さいね」
セラスは再び両腕に彼女たちを抱えるとホテルに向かって疾走した。先刻よりも速く――疾く。
それは未だ解決しない心の中の葛藤、それを振り切るため……。

27 :孤城の主 3/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:53:47 ID:gA2OBbTl
神速を誇るクーガーでなくともセラスも一端の人外である。
程なくして彼女達は、かつては安息の場所であったホテルへと到着した。

初めて見る風とセラス。そして改めて見る魅音もその惨状に言葉を失った。
頂上から半ばまでが粉砕され崩壊し、残った棟を細かく砕かれた石や鉄や硝子、そして客室に
あったであろう生活家具などがデコレーションしている。
さらに耳を澄ませば、石と鉄の擦れ合わさる音、硝子が砕ける音、どこからか漏れた水が流れる音、
壁や床が圧迫され軋む音――それらの不吉な不協和音が零れ聞こえる。
この奇怪なオブジェをどう攻略し、どうやって仲間を救い出すのか……?

「魅音さん。光さんは何処に?」
鳳凰寺風は、死んだと聞かされた友人の所在を尋ねた。
「光ちゃんはあそこに。……私とクーガーで埋めさせてもらったよ」
魅音はホテルの敷地内でも端に近い方を指した。
おそらく以前はささやかな庭園だったのであろう。今は芝生が捲れ上がり落ちてきた瓦礫が
花壇や東屋を叩き壊して見る影もないが、その一角に赤い土を盛った簡素な墓があった。
「ありがとうございました」
風は魅音に一礼し、その場で光の墓へ向かい手を合わせた。
「では参りましょう。時間がありません」
祈りを長くない時間で終わらせ風は顔を上げて二人を促す。
その彼女の強さ――そしてその姿の輝かしさと悲壮さに二人は大きく心を打たれた。


三人は支給されていたランタンを片手に明かりを失ったホテルの中へと進入した。
辛うじてその姿を維持している玄関を潜りフロントロビーの中へと踏み込む。
ランタンのシャッターを絞り、光を振って先へと進む道がないか調べるが……。

上階へと登る階段は踊り場ごと完全に落ちており、エレベータは勿論論外。扉の向こうの
非常階段も石と埃で埋まっていた。またホール中央にある太い石の柱が折れてずれており、
その分吹き抜けの上の天井が撓んでいて今にも落ちてきそうだ。
吸血鬼であるセラスの怪力や、風の魔法を使えば障害は取り除けるかもしれなかったが、
下手に大きな力を加えればドミノのよろしく全てが崩壊しかねない。
三人は内側からの捜索を仕方なく一旦諦め、ホテルの外へと退去した。

外へと戻った三人はホテルを振り返り思案する。
「とりあえず、中にまだ人が残っているかそれを確認しよう」
今度はセラスが残りの二人を導いた。
元警官であったが、最低限のレスキュー教習は受けている。
こういった時にまずしなければならないことは生存者の所在の確認。
瓦礫の上からでも声をかけてそれを確認しなければならない。

三人は瓦礫の山を大きく迂回しホテルの側面、仲間が入っていた部屋のベランダ側へと
向かった――と、そこで魅音があることに気づいた。
「……なのはちゃんの姿が見えない」
ホテルより大きく離れた位置で空を舞っていた光の点が見えなくなっていた。
何時の間にかに決着がついたのか、それとも戦う場所をさらに遠ざけたのか?
あるいは最悪の……。
「あの子はきっとここに帰ってくる。だから私達はここで自分の仕事をしよう」
最悪の想像を振り切り、魅音は二人を促した。
自分はクーガーを信じ、クーガーは自分を信じている。ならば彼女も同様に――信じる。

28 : ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:54:38 ID:gA2OBbTl
ホテルの側面、ベランダが並んでいた側は上階より崩落した瓦礫で覆われていた。
三人はその瓦礫の斜面を三者三様に登る。
人外の運動能力を持つセラスは容易く、風も風の戦士として軽やかに、そして魅音も瓦礫の
山を登るのは馴れたものだ。時間をかけずに三人とも目的としていた位置にたどり着けた。

瓦礫に耳を当て、その鋭敏な聴覚でセラスが中の様子を窺う。
「どう? 何か聞こえる?」
「いや、全然……」
魅音の問いにセラスは力なく答えた。
自身の聴力は只の人間であった時より遥かに鋭敏なっている。たとえ意識がなくとも
近くにいれば心音さえ拾えるというのに……
「ゲインさんっ! いますかっ!セラスですっ、戻ってきましたっ! いたら返事をしてくださいっ!」
ありったけの大声で呼びかける……が、返ってきたのは静寂のみ――いや!?
「みんな逃げてっ!」

濛々と立ち上る土煙の中から三つの人影が飛び出してくる。
「ウエッ! ゲハッ、ゲハッ……!!」
咳き込む三人の後ろでは今まさにホテルが最後の倒壊を進めていた。
轟音と共に辛うじて形を維持していたホテルの四階以下が、圧力に負けて折り畳まれるように
高さを減じていく。上に積み重なっていた瓦礫も雪崩を打って周囲へと広がりはじめた。
「ゲホッ! ここも危ない……、み、みんな掴まって……」
風が風を起こし粉塵を払い、そこをセラスが二人を担いで通り抜ける。

ホテルが崩壊していたのはほんの少しの時間だったが、三人が振り返った時にはその短い
時間の間にホテルは跡形もなくなっていた。
建物は完全に一つの巨大な瓦礫の山と化し、一面は粉塵が漂い灰色に覆われている。

「う、嘘……。まだ誰も助けてないのに……」
魅音の口から、絶望を含んだ空気が零れた。助けると……、光の死に、クーガーに、何より
自分に約束したのに。
「光さん……」
風が見つめる先、光の墓があった場所も灰色に包まれていた。彼女が何所に眠っているのか
もう確かにはわからない。
「ゲインさん……」
彼は眠ったまま逝けたのだろうか? もし、そうならばそれだけが唯一の慰めかもしれない。


日が落ちると同時に始まった一連の悲劇は彼女達を、そして彼女達以外を巻き込み、
その奈落の穴の縁を広げている。誰も彼もを不幸にしようとせんがためにそこに引きずり込む。
それは悲劇の切っ掛け――心の虚無に狂愛を抱いた魔女の呪詛か?

その暗闇の底で独り笑う化物がいた。
奈落に飲み込まれまいと抗う人間を、待ち構え笑う化物がいた。

夜はその深さを増し、悲劇はまだ続く…………。

29 :孤城の主 5/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:56:09 ID:gA2OBbTl
砕けた石と折れた鉄骨で組まれた死者の城。
その頂上に乗った一際大きな石の表面にじわりと油の様な黒色が浮かび、そして盛り上がる。
それは人の形をしており、それには腕があり、その腕にはやはり真黒の銃が握られていた。

――純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻
――マーベルス化学薬筒NNA9
――全長39cm
――重量16s
――13mm炸裂鉄鋼弾

「『ジャッカル』――パーフェクト(完全)だ。ウォルター」

奈落の底で見つけた弾丸を再装填しスライドを引いて音を立てると、化物――吸血鬼アーカードは
その銃口を彼の突然の出現に唖然とする三人の少女に向けた。


「う、嘘でしょ……」
積み重なった瓦礫の頂上に現れた化物との再会に魅音は愕然とした。
クーガーが倒したはずなのに。クーガーが倒したはずなのに。クーガーが倒したはずなのに!
再び恐怖と絶望が彼女を侵食し始める。鼓動を一つ打つ度に冷たいものが身体を登ってくる。

「(……彼が光さんを?)」
この惨劇の舞台に降りて初めて出会う明確な敵。親友の仇。
風の中を流れる緑の風が少しずつ、少しずつ纏まって太い束になりその強さを増していく。
理性に取り繕われた心の殻の中を荒れ狂う。

「マ、マスター……」
ついにこの時が来た。懐かしい主人との邂逅の時なのに心はとても浮かない。
浮かないどころか錘を巻きつけたかのように深く沈んでいる。
逃亡も誤魔化しも利かない運命の分岐路が人の形を持って現れたことを彼女は悟った。


「探し物かな? 淑女諸君?」
吸血鬼が踵を鳴らし足元の瓦礫を指した。
「それとも、闘争の火花を散らしにやってきたのか……」
銃口を嘗めるように少女達の身体に這わせいやらしく吟味する。

「お前はどちらを選択するのだ? ――婦警?」

その吸血鬼の一言に場が凍りついた。
セラス以外の全員の目が彼女を見つめている。見つめられている一人は彼女の主人を見ていた。

「お前は此処で何をしている? 此処は全員が互いに持つ全てを賭け合う生存競争の場。
 そこでお前は何をしている? 何をしていた? 何故この期に及んでまだ血を飲んでいない?」

何をしてきただろうか? 何を成しただろうか? 何人かと出会い。何人かと戦った。だが――。
トグサが無謀にも独りで出陣した後、何をしていた? ――豪華な風呂と寝室でくつろいでいた。
バトーとみくる、そしてもう一人のメイドと出くわした時、すぐに決断できたか? ――いやできなかった。
キャスカの襲撃を受けて結果どうなった? ――後手後手に回り結果みくるを死なせた。
ホテルからクーガーと共に捜索に出て今どうなっている? ――致命的な遅れを取り最悪の状態だ。

「あ……、あ"……ああ……っ」
セラスの口から嗚咽が漏れる。
御気楽極楽に決断を先延ばしにしてきたツケが今ここで回ってきたのだ。

30 :孤城の主 6/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:56:59 ID:gA2OBbTl
「決断しろ婦警。ここがお前の分水嶺だ。
 お前も夜族の端くれならば、最早此処に到っては薄闇の中で足踏みをしていることは許されん。
 その薄闇から外へ踏み出すのか? それともより深い闇の中へと踏み込むのか?」

「マ、マスター……」
セラスは主人の前で頭を垂れる犬のような声を出す。

「婦警。闘争の場で相手に懇願するなどということは認められない。お前自身が行く道を選び取れ。
 お前以外はもうすでに覚悟を示しているぞ――」

主人に促されセラスは気づく。二人の少女はもうすでにセラスを――後ろを見てはいなかった。
前を――立ち塞がる運命――吸血鬼アーカードを真っ直ぐ見据えている。


”貴方は前に進まなければならないのです”
「……そうだよね。私が選んだ道だもの」
魅音は手の中に一本のナイフを握り締める。
「クーガー。……怖いけど、けど戦うよ。もう逃げたり止まったりしないって決めたから」

「私にはみなさんを助けるという使命があります」
風を取り巻く緑の風は先程までの荒々しさを潜め清涼なものへと変化していた。
怒りに目を曇らせ無闇に力を荒ぶらせることなどはしない。
何故なら彼女の力は何時如何なる時でも誰かを守るために振るわれるものだから。


「それでこそ人間だ。
 では翻って婦警、ならば貴様は何者だ? 人間か? それとも化物か?
 私の僕であるならば決断はできないか? ならば血を飲め婦警!」

血を飲む……、それはすでにと、セラスはそう答えようとしたが……。

「大きな勘違いをしているぞ婦警。
 我々夜族に取って血を飲むということは、死肉を漁り糧を得るなどという屍鬼同然の振る舞いを
 指すのではない。人間の命を、人生を、その存在そのものを自身のものとし、それと共に永劫を
 生きることを言うのだ」

そう。やはり決断していなかったのだ。あの時、あの少女の首に牙を突き立てた時さえも。

「さぁ決断の時だ。覚悟を決めろ。
 血を飲み。唯独りの吸血姫となれ。そして――――私の敵になれ」

瞬間、化物の手にした黒鉄が火を噴き、緑の蕾が真っ赤な華を散らした。

「……血を飲め婦警」
銃口から立ち上る薄煙の向こうで、主である吸血鬼が一際大きく顔を喜色に歪めた。

31 :孤城の主 7/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:57:51 ID:gA2OBbTl
迷える吸血鬼であるセラスの目の前で、緑の風を纏うまだ幼い少女は自身が咲かせた
赤い華の中に落ちた。咄嗟に駆け寄り抱き起こすも、すでに意識はなく、彼女の抱える
腕の中で少女の命がトクトクと零れ落ちていく。
懸命であったのにもかかわらず、一矢報いることもなくただ刻々と無情で無残に命は零れる。

「さぁッ! もう回答までの猶予はないぞ婦警ッ!
 お前が一体何者なのかッ! それを私に示してみろッ!
 hurry(早く)! hurry(早く)! hurry(早く)! hurry(早く)! hurry(早く)! hurry(早く)! ……」

血濡れになった少女の身体を抱きかかえ逡巡するセラスの前、この場で最も非力な存在で
ある魅音。誰よりもいち早く動いたの彼女はだった。
彼女の手元で構えられていたスペツナズナイフの仕掛けが作動し、抑えられていた強力な
発条が刃を押し出し射出する。
刃は一直線に吸血鬼の胸元に吸い込まれ、その次の瞬間――――大爆発が起きた。


積み上げられた瓦礫の山が灰色の粉塵を巻き上げながら轟音と共に爆散した。
予想だにしなかった衝撃にセラスも魅音もただ爆風に翻弄されなされるがままに地面を転がる。
灰塵が再び地面に灰色の絨毯を敷きなおし、粉々に砕けた石が礫となって降り注いだ。

(……な、なんで?)
灰かぶりとなった魅音が自問する。
発射したのは只の金属の刃で爆薬の類が仕込まれていたなんてことはない。例え、仮に
その刃に爆薬が仕掛けられていたとしてもあんな大爆発が起こるなどありえない。
困惑しながら身体を起こす。幸いにもどこかにぶつけたり骨や間接を痛めたということは
なかったらしい。ホテル――いや、もうホテル跡地と呼ぶべきだろうだろう。そちらを見やれば
瓦礫の山は中心が抉れ巨大なクレーターと化していた。
そこにあの化物はいない。再び四散したのか、それとも瓦礫に埋まってしまったのか?
それにセラスと風の姿も見えない。彼女達もまた瓦礫の下敷きになってしまったのだろうか。

――と、そこにこの爆発の真の原因が降りてきた。
半人半龍の姿を持つ化物。その背に乗った青年。さらに彼の背の上に一匹のブタ。
しかもそのブタは只のブタではなく喋るブタだった。
「お、おい劉鳳。今のはいくらなんでもマズいんじゃないか?」
龍の化物とブタを従える青年の名は劉鳳と言うらしい。
「問題はない。ヤツが断罪すべき悪であることはすでに確認している」
なるほど、私たちを助けてくれたのかと魅音は納得した。よく見れば彼が着ている服は
あのクーガーの物と同じではないか。とするとあの化物が彼のアルターか。

……ありがたい。あのままだったら間違いなく皆殺しにされていただろう。だから、これは
涙が出るほどありがたい。だけど……、そうだけど……、
「……うえっ! ゲホッ! ゲホッ!」
喉に詰まった埃を吐き出す。どうやら今ので彼らはこちらに気づいたらしい。
そうだろう。最初から気づいていれば今のようなことはしまい。
「おい。眼鏡をかけた少女はどうした。俺達はその子を探しているんだ」
なんと気遣いのない言葉か。クーガーとは180度逆方向の男らしい。

「……死んだ。みんな死んだよ。全部あんたのせいだ」

32 :孤城の主 8/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:58:43 ID:gA2OBbTl
目の前の少女から放たれたあまりに衝撃的な言葉に劉鳳、そしてその傍らのブタは凍りついた。

「な……、なんだって?」
劉鳳の中に先刻のクーガーの言葉がフラッシュバックする。

”――お前の言う正義とは何だ? 目の前の敵を片っ端から叩き潰すことか?”
”それでお前の正義とやらは満たされるのか?”
”そんなことにかまけている間に取り返しのつかないものを失うかもしれないのに?”

「風ちゃんはあんたが来る直前にあの化物に殺された。
 あんたがクーガーみたいに早ければ助かったのに……、そして」
魅音は劉鳳の背後、今は完全に只の瓦礫の山と化したホテルがあった場所を指す。
「あそこにはまだ仲間が残っていたんだ。でも、あんたのせいでそれも死んだ」

劉鳳は絶句――いや、絶望した。
常に自身の正義に忠実に行動してきた。だがこの結果はなんだ?
悪を断罪できず、弱者は見殺し。一度だけでなく繰り返し二度三度と……。
「オ、オレは……」
目の前の少女がこちらに向ける視線は、決して尊敬されるべき法の守護者に向けられる
ものではない。これは決して劉鳳が求めていたものではない。
一体これはなんの悪夢か?

「劉鳳! しっかりしろ」
ぶりぶりざえもんの言葉に劉鳳は気を取り戻す。
相棒であり同じ正義の志を持ったぶりぶりざえもんが、足元から彼の顔を覗いていた。
「ぼーっとしている暇はないぞ劉鳳。わたしたちの使命を忘れたのか?
 あそこに埋まった人間の救出は私に任せろ。何大丈夫だ私は小さいからな、隙間があれば……」
と、ぶりぶりざえもんは早口に捲くし立て始めた。
「……でだ、お前のランタンを借りていくぞ。つまりはこっちは私に任せればいい。
 私は救いのヒーローだからな。で、でだ……お、お、お前は……」
口調が怪しくなるぶりぶりざえもんに劉鳳の眉根がよる。
「ぶりぶりざえもん。一体何を慌てて……」
そこで劉鳳も気がついた。

「あ、あいつをまかせたぞ〜〜ッ!!」
土煙を上げてぶりぶりざえもんは瓦礫の中に消えた。
そして、残された劉鳳と魅音の視線の先には……、

……化物――吸血鬼アーカードが立っていた。

33 :孤城の主 9/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 11:59:34 ID:gA2OBbTl
「キョン兄ちゃん急いでっ!」
「ま、まて少年。落ち着けっ」

ホテルの足元、目の前の坂を登れば到着する。そんな近くまで翠星石を探しに来た一行は
辿り着いていた。
だが、一行――キョン、トウカ、剛田武、次元大介の四人はそこから進めないでいる。
目的としているホテル――いや、すでにホテルそのものは見えなくなっているが――其処から
発せられ周囲に響き渡る銃声と破壊音。戦闘が、しかも明らかに人外の規模で行われている。
そのような剣呑な場所で人探しなど自殺行為に変わりない。
ただ一人、剛田武のみが息巻いて先を急ぎ、それをキョンとトウカが押し止めているという現状だ。

四人がそんな風にしている所に、低く響く一際大きな音を伴い何かが一行の方へと飛んで来る。
それは一行が姿を隠しているビルの壁面に衝突すると、その衝撃で張られた硝子を雨と降らせた。
そして一瞬の後、壁面をトカゲのように駆け上ると頂上の角を蹴って再びホテルの方へと飛び去る。

「キョン殿、今のはっ!」
「ああ、間違いない」
竜の化物と制服の青年。見紛うはずもない。昼にあのE-4エリアで二人が見た超人に違いない。
あの直後に起きた惨事を思い返し二人は青ざめる。益々もってホテルに近づくのは危険だ。
だが――、

「小僧っ! 行くんじゃないっ!」
気づけば掴んでいたはずの手を離れて剛田武は走り出していた。それを次元が追っている。
「あいつッ……」
仕方なく残された二人もその後を慌てて追った。

こうしてさらに奈落の穴へ、狂った王の御前へ新たに四人の人間が足を踏み入れた。

34 :孤城に主 10/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:00:25 ID:gA2OBbTl
「セラスや……、セラスや……」
またこれかとセラスは思った。やはり吸血鬼には真の安息は得られないのだろうかと。
「セラスや……って、あーもーこっちも忙しいのに……」
忙しい? 勝手に人の夢に出てきているのになんだか理不尽な話だ。
「ゴイスーなデンジャーがせまっていますよー……」
なんだか聞き覚えのあるフレーズだ。前に聞いたのは何時だったか……いや、メンドクサイ。
もうここでずっとまどろんでいたい。何もかもが終わるまで……。
「セラスさん……! セラスさん……! 起きてください……!」
アレ? この声って聞き覚えが……、誰だっけ? なんかすごく重要な……。

「セラスさん……! 起きてください……!」
「……風ちゃん?」

ガバっと身体を起こすとやはりそこはあの不可思議な空間だった。
相も変わらず不細工なカラシニコフの精はいつも以上に汗を流し、忙しそうに右往左往している。
そして彼女の目の前には先ほどマスターに撃たれたばかりの鳳凰寺風が立っていた。

「わ、わたし……風ちゃんに非道いことを……」
続けて出る謝罪の言葉を手を上げやさしく制すと、風は喋り始めた。
「私はセラスさんを恨んではいませんわ。私を撃ったあの方とセラスさんの関係がどういうものかは
 知りません。けど、少しの間でしたけどセラスさんが私達を騙すような方でないことはわかって
 いるつもりです」
鳳凰寺風はセラスの手を取り言葉を続ける。
「セラスさん。私からお願いしたいのは、セラスさんが自分自身から逃げないということ。
 あなたは本当は強い人のはずです。だから前を向いて足を踏み出してください。
 ……そのために勇気が必要というのでしたらどうぞ私も分を持っていってくださって結構ですわ」
ス……と手を離すと彼女姿が遠くなっていく。
「もしお会いできたら、今度は紅茶をご馳走します」
そう言葉を残して鳳凰寺風はセラスの前を去った。

残されたのはセラスと汗っくるしい天使もどきのおっさんの二人だけだ。

「で、あんたは死んでないんですね、この前死んだかと思ったのに」
「続編で必要ならば死んだキャラも後付け設定で蘇る。そういうものデスよ」
「はぁ……」
「じゃあ、勝手に帰ってね。
 こっちもさっきから超忙しくて生きてる人間の世話なんかしてられないから」
と、言い残すとカラシニコフの精は小さな羽根を羽ばたかせて何処へと行ってしまう。

最後にはポツンとセラス一人が残されただけになった。

「で、どうやって現世に帰るんでしょうか……」
いつもなら訳の解らない展開が発生して、誰かが起こしてくれるのだが……
「そういえば、魅音ちゃんは大丈夫かなぁ……?」

35 :孤城の主 11/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:01:36 ID:gA2OBbTl
形ある物を壊し、壊れた物をさらに壊す。台風の様に周囲を破壊の嵐に巻き込むその化物同士の
戦い、それを見て無力な魅音はただ己に降りかかる不条理を呪うばかりであった。
振り回しに振り回されて、やっと自身の足で歩こうとした所にこの仕打ち。
一体自分の何所が悪かったのか……

「魅音姉ちゃんっ!」
突然かけられた声に心臓が跳ね上がる。その声は、その声の主は忘れもしない。
ついに自分も此処で終わりか。そう覚悟して振り返ったが……、
「武……?」
振り返れば彼が凶器を振り上げている。その魅音の予想は外れた。
「よかった……。魅音姉ちゃんが無事で」
そこにあったのは目尻に涙を浮かべ、彼女の無事を安堵する仲間の姿だった。
そしてその後を、深緑のブレザーを着た青年。よれよれの黒スーツの中年。そして罰ゲームなのか
鳥の羽を頭に付けたコスプレの女性という三人が駆けつけてくる。

「俺達ずっと姉ちゃんを探してたんだ」
「私を……?」
そうか。そうだったのかと魅音は理解した。
あの時、あの惨劇の瞬間。少年も自分と同じで怖かったのだ。ただそれだけだったのだと。
つまり、彼……そして彼らはまだ自分の仲間なのだと。
大きく安堵した魅音であったが、次の武の質問に再び心が凍りついた。
「ところで姉ちゃん。翠星石は一緒じゃないのか?」

「な、何言ってんの武。あいつは敵だよ? 梨花を殺した悪いヤツなんだよ?」
再び魅音の心の暗い部分で疑心が渦を巻き始める。
「誤解だよ姉ちゃん。あいつは悪いヤツじゃないんだ! きっとアレも事故だったんだ」
武が熱弁する。だが、それには理屈も何もない。ただ彼女を信じたいという気持ちだけだ。
「そんなわけないッ! それに……、それにどうしたって……」
魅音は灰色の瓦礫の山を指した。
「アイツはもう死んだんだ」

「梨花を殺したから。みんなを裏切ったから罰が下ったんだ。だから潰されて死んだ」
残酷な告白に武の顔から血の気が引く。
「じ、冗談だろ姉ちゃん?」
ハ、と魅音は息を吐いた。
「冗談なもんか。あいつは死んで当然だ」

感動の再会のはずがなにやら不穏な空気を帯びてきた。
目の前の少女は大暴れしている連中とはまた別の意味で危険な人間のようだ。
とキョンがそういう感想を持った時、大きな音と共に何かがそこへ落ちてきた。

瓦礫を押しのけコートについた埃を払いながら立ち上がると、それはこう口を利いた。

「今夜の夜宴にドレスコードはない。貴様達を歓迎するぞ人間」

36 :孤城の主 12/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:02:28 ID:gA2OBbTl
歓待の言葉と共に化物の腕が跳ね上がりキョンの頭部にその銃口を向ける。
彼がその死を覚悟した刹那――!

白刃が閃き怪物の腕を銃ごと斬り飛ばす。
「某。キョン殿を護る一本の刀ならば、彼に傷一つつけることあたわず」
鞘から走った五尺余りの刀が月の光を反射し煌いた。
二度あることは三度あるではなく、これが三度目の正直であったことをキョンは神に感謝した。

同時に0.3秒の早撃ちが怪物の顔面を射抜く。
「わりーが、早撃ちはこっちの十八番なんだ」
.454カスールから発射された13mm爆裂鉄鋼弾は轟声を伴い化物の頭部を破壊した。
次元大介の初めて見せた早撃ちに、キョンは驚愕すると共に彼が敵でないことを神に感謝した。

キョンが何所の物とも知れぬ神に惜しみない祝辞を送っている中、かつては狂信者であった
化物は血飛沫を撒き散らし倒れ――なかった。
斬り飛ばされたはずの腕が舞い戻り、弾けた頭から吹き出す血がざわめき頭の形を取り戻す。
その異常に驚愕する五人を再生した魔眼で一瞥すると地を踏み叩き背後へと跳躍した。
その次の瞬間、化物がいた位置に絶影の丸太のように太い尻尾が振り下ろされる。
続けて、五人の前に劉鳳が降り立ち宣言した。

「お前達は黙って見ていろ。アイツは俺が断罪する」

瞬間、劉鳳と絶影がその姿を消した。次の瞬間には怪物の上空へと姿を現している。
ジャッカルから放たれる弾丸を縫うように動いて回避するとその尻尾を振るい一撃を加える。
強烈な一撃を喰らい吹き飛ぶ化物を追って絶影はさらに加速。疾風で降り積もった灰を散らしながら
怪物に追いつくと両拳の連激をお見舞いする。さらに吹き飛んだ怪物は一転し、通りを超えビルの
壁面に着地。そのままの姿勢でジャッカルを連射し、それを避けて肉薄した絶影にカウンターの
一撃をぶつけた。

怪物の鉄拳をまともに受けた絶影が夜空を滑る。数十メートルの距離を吹き飛んだところで
姿勢を回復すると怪物へ向け絶影の持つ副腕――剛なる右拳・伏龍を発射する。
ドリル状のそれは吹き飛ばされた距離を逆に辿ると怪物ごとビルを爆砕した。

怪物は血の尾を引いて闇夜を突っ切り、ホテルの駐車場を車を巻き込みながら転がり地面を抉った。
さらなる追撃を加えるべく劉鳳と絶影が飛翔――アスファルトにめり込んだ怪物をさらに一撃する。
がしかし相手は怪物。身体にめり込んだ絶影の尻尾を意に介さずジャッカルを撃つ!撃つ!撃つ!
劉鳳を襲う弾丸を絶影は正確にガードするが、その常識外れの弾丸の威力にアルターが削れ、
粒子が弾ける。
距離を取るべく離れる絶影を発条のように起き上がった怪物が反撃すべく追った。
絶影から伸びた触鞭――柔らかなる拳・烈迅がそれを阻もうとするが捲きつくそれを怪物は
無視して突進。縛を逃れると鉄すらも紙のように切り裂く手刀を絶影の胸に叩き込んだ。
さらに、苦し紛れに振るわれた尻尾を受け止めると絶影を振り回し二度三度と地面に叩きつける。
そして最後にその頭部をジャッカルの一撃で撃ち貫いた。

衝撃に絶影がアルター化を解かれ姿を失う。同時に宿主である劉鳳は口から血を吐き膝をついた。

37 :孤城の主 13/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:03:19 ID:gA2OBbTl
「どうした? 昼の時と比べるとずいぶん――『弱い』ようだが?」

傷ついた身体をまるで陽炎のように揺らめかせながら、ゆっくりと怪物が劉鳳に近づく。
逆に劉鳳は口から荒い息を吐き、一歩も動くことができなかった。
真昼の闘いとは逆の展開が進行している。
夜を迎え怪物は力を増し、逆に劉鳳は長時間の真絶影の顕現で力を消耗していた。
そして何より、今の劉鳳には昼にはなかった迷いがある。
己が正義を見失い、道を迷っている。迷いがあれば拳は力を失い判断は遅れる。

「残念だが、期待外れだったな貴様は……」
ジャッカルの銃口が劉鳳の頭を捕らえ――発射された。が、それは彼の命を奪うことはできなかった。
「なんだ貴様は?」
間一髪で劉鳳を押し倒し凶弾から命を救ったのは一匹のブタだった。

「ぶ、ぶりぶりざえもん……?」
力なく言葉を発する劉鳳の前に立つのは姿を消していたぶりぶりざえもん。
「任せたといったのになんという様だ劉鳳。
 おかげでお助けするために出てきてしまったではないか」
怪物の前にぶりぶりざえもんが立ち塞がる。
「わたしはぶりぶりざえもん。人呼んで、救いのヒーローだ」

「ククッ……、ハハハハハ……」
怪物が身体を震わせ笑う。
何万何十万の敵と対してきた彼ではあったが、畜生に前を阻まれたのは初めてのことだった。
「いいだろう。貴様も私の敵だ」
銃口がぶりぶりざえもんを指す。だが、ブタは決して動揺してはいなかった。
「やいバケモノめ。追い詰められているのはおまえだと気づかんのか?」

――? 怪物の中に生まれた一瞬の意識の空白。その時再び白刃が閃いた。
怪物の身体に真新しい太刀筋が刻まれる。
「某はエヴェンクルガ族の武士――トウカ。義により助太刀いたす」
いつの間にかに間合いを詰め鞘に収めた物干し竿を構える彼女が其処にいた。

轟音が空気を引き裂き怪物の手から武器を奪う。
銃声の元には帽子のつばから鋭い眼光を覗かせニヒルな笑みを浮かべる男がいた。
「乗りかかった船だ。やっこさんを倒すまではつきやってやるよ」

ダキュン!
聞き覚えのあるあの銃声と共に化物の身体が引っ繰り返った。
地に伏した怪物の傍らには冷酷無比のころばし屋の姿がある。
「よし! 聞いてた通りあいつがアーカードだ」
次元の隣で小さくガッツポーズを取るのはSOS団雑用係のキョンだ。

さらにダキュン! ダキュン! と転倒を繰り返す怪物が突風によって劉鳳の前から遠ざけられる。
キョンの隣には協力して風神うちわを一生懸命振る魅音とジャイアンの姿があった。
「あいつだけは絶対に倒さないといけないから」
「おう。もうぜってーゆるしてやんねー!」

38 :孤城の主 14/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:04:11 ID:gA2OBbTl
ありったけの小銭を突っ込まれたころばし屋に、銃を失い悪戦苦闘している怪物を全員が懸命に
攻撃する。その様を劉鳳は狐につままれたような目で見ていた。

「ぶりぶりざえもん、これは……?」
一転して救われる状態となり、戸惑う劉鳳にぶりぶりざえもんは胸をはって答えた。
「劉鳳、これはわたしの日頃の行いがよいせいだ」
ぶりぶりざえもんのあまりの自信に劉鳳はさらに虚をつかれる。
「人をおたすけするものは、また人におたすけされる。わたしはそれをここで学んだのだ」
ぶりぶりざえもんは改めて劉鳳の目の前で胸をはる。
「それが、お前の見つけた正義の真髄……?」
「わたしの場合は”救い”の真髄だ」
疲弊した身体に力を込めると劉鳳は再び地面に立った。その傍らに絶影が現れる。
「俺も見つけてみせる。俺の正義の真髄を!」


ついに全ての依頼料を使い果たした忌々しい玩具を一撃で踏み潰すと、怪物はそのまま跳躍した。
自由を取り戻した怪物を見て、キョン達は彼から遠ざかる。

再び瓦礫の頂点に降り立った孤城の主は自身を見つめる七人の人間を見下ろす。
強者、弱者、生まれた場所も立場も異なる別々の人間達が、その儚い命しか持たぬ人間達が
自分を――この怪物を追い詰める。そして――、

怪物が見やるその一点から緑の奔流が吹き出し被っていた灰を振り払った。

「……婦警。いや、セラス! セラス・ヴィクトリア!」

そこには独りの吸血姫――セラス・ヴィクトリアがいた。
彼女の腕に抱えられた鳳凰寺風の首には吸血の証である二本の血筋が流れている。
血を通じて得られた鳳凰寺風の力、記憶、そして意志――それらは本来よりも極僅かなもので
あったが、セラスを再び戦場へと後押しするには十分なものであった。

セラスは鳳凰寺風の身体を降ろすと、再び怪物へと視線を向ける。また、怪物もその視線を受け止めた。
「マスター……、いや、アーカード! 私は私の道を行きます」
「セラス・ヴィクトリア……。ならば、私が最初の試練だ。見事乗り越えて見せろ」

ジャッカルの銃声が満月の下に鳴り響く、それが闘争の開始の合図となった。

39 :孤城の主 15/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:05:03 ID:gA2OBbTl
怪物――吸血鬼アーカードはこの場においてかつてない闘争に心を歓喜に震わせていた。

今宵の夜宴は盛況だ。魔女が敷いた陣に召喚されたは我か彼らか。我が供物か彼らが供物か。
さぁ、人間共。城壁を登れ。城門を叩け。侵略しろ。殺して奪え。そして――。


「疾風〜ッ、怒涛ぉぉぉ〜ッ!!」
怒号と共に緑の風を纏ったセラスが疾走し、怪物に拳を打ち付ける。それは幾重もの真空の刃を
奔らせ、触れた怪物の身体に無数の裂傷を加えた。怪物は血を撒き散らしながら吹き飛び、
そのまま瓦礫の山に飛び込む。
だが、もちろんこれで終わったりはしない。今度は瓦礫を撒き散らしながら飛び上がり、その巨大な
拳銃で人間を襲う。高速で撒き散らされる弾丸は一瞬にして全員の命を奪うことが可能であったが、
劉鳳の操る絶影の触鞭が縦横に走りこれを弾いた。
怪物はそのまま壁面に着地すると、重力を無視したかのように縦横無尽に走り回る。
次元大介の放った一発の弾丸が怪物をそこから叩き落とすと、セラスから預かったAKを振るう
魅音が追撃を加えた。それでもなお走りを止めず弾丸を撒き散らす怪物をセラスが追う。
団扇の起こす風を自身に乗じて加速。怪物に追いつくと再び鉄拳を振るう。だが、怪物もやられる
ばかりではない。鉄拳を一方の腕でいなすとカウンターの鉄拳をボディ喰らわせる。
体液を吐き出しながら踏鞴を踏むセラスにジャッカルの一撃を加えた所で怪物の頭が弾けた。
次元大介は常識外れの反動に痺れる腕を叱責し、さらに弾丸を叩き込む。
粗方手足を打ち抜いた所で、絶影がその直上に現れ尻尾の一撃で怪物を踏み潰した。

だが! それでもなお怪物は死なない。

黒くざわめく身体を地に這わすと影のように疾り落ちた手足を回収。再び人の形を取り戻すと
さらに人間共を追い立て、それをさらに人間共が追い立てる。
そんな闘いが長く続いていた。俯瞰して見れば人間側が圧倒的に有利であったが、
誰も怪物に対して決定打を加えることができず、じょじょにその形勢は傾きつつあった。

40 :孤城の主 16/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:05:54 ID:gA2OBbTl
「まったく、とんだインチキ野郎だぜ」
次元大介は瓦礫の影で空になった弾倉を落とすと、デイバッグから新しい弾倉を取り出し
銃にはめ込んだ。
(これが最後の七発か……)
これで怪物が殺せるかと言うと心もとなかった。頭を落としてもいくら銃弾を叩き込んでも
まだ死んでいないのだ。

同じように瓦礫の影で三人固まって隠れているキョン、トウカ、剛田武を見やる。
跳んできた瓦礫に足をやられた少年をキョンが手当している。トウカはその護衛だが手に
持った刀は半ばで叩き折られていた。あれでは実際に怪物が来た場合何もできないだろう。
腕の痺れが取れたことを確認すると次元大介は彼らに声をかけた。
「キョン! 俺が援護するから小僧を担いで逃げろ! トウカは二人を頼む」
そして首を回して反対側にいる魅音にも声をかける。
「嬢ちゃんもアイツらと一緒に逃げな。こんなとこで命を捨てるこたないぞ」
だが彼女の返事は、
「イヤだ。もう逃げないってクーガーと約束したんだ。それにアイツだけは絶対に許せない」
AKから怪物へと弾丸が放出される。10歳児でも訓練なしに扱えるのが売りのAK-47だが、
彼女の扱い方は堂に入ったものだ。そうは見えないのにどういった人生を歩んでいるのか。
そして、その反対側からの答えも同様のものだった。
「仲間を残して逃げたりなんかできませんよ。そんなことしたら後でハルヒに殺されます」
次元大介は大きく息を吐いた。そういえばそろそろ煙草が恋しい。
(揃いも揃って頑固者の大馬鹿野郎ばっかりだな……)
瓦礫から身体を出すと怪物に狙いをつける。
「……まぁ、俺もなんだけどよっ」
銃口から吐き出された弾丸が更に一つ怪物に傷を増やした。

前衛で怪物と直接対峙している二人ももう限界が近づいてきた。
怪物に迫ろうと跳躍したところでセラスの身体が失速し、そのまま地面に叩きつけられた。
鳳凰寺風の血から得た緑の風の力も、セラスに定着せず消費され失われてしまったのだ。
叩きつけられた衝撃で全身に受けた傷が開いて血が滲み、彼女の口から呻き声が漏れた。
そこへ容赦なく弾丸が飛び込んでくるが、それは絶影の触鞭によって弾かれる。
だが、その絶影も今や真の力を解放した状態ではなく、消費の少ない力を抑えた状態へと
戻っている。アルターを操作する劉鳳の体力もすでに限界を突破しており、今はその気力で
維持しているという状態だった。

翻って、対する怪物はどうか?
やはり彼も限界近くまで来ていた。力も速さも最初とは見劣りし、傷の再生力も落ちていた。
再生途中の傷が靄の様に広がりまるで漆黒の外套を靡かせているように見える。

永い闘いの時は終息に――滅びの時へと確実に近づいている。
――人間共が怪物を討ち倒し凱歌を挙げるのか?
――それとも、怪物が人間共を撃退し全てを土の下へと葬り去るのか?

そんな闘争の場に、ある決定打を持った最後の人物が近づいていた。

41 :孤城に主 17/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:06:58 ID:gA2OBbTl
フィルムに隠された謎を解くべく映画館を自転車で出発したトグサと長門有希は、一路市外中心を
目指していた。
フィルムに映った風景はこの会場全体に広く分布しているように見受けられたので、闇雲に動くよりも
まずは二人が知っている場所から回って行こうという方針を立てたのだ。
映画館から来た道を戻って南に向かい、病院を通り過ぎた向こうの橋。そこを脇に下りた川原で
最初の情報――映像と同じアングルでの画像を長門が収集すると、その先のオフィス街、ビル、
道路と経て二人は途中レジャービルへと立ち寄った。
だがそこで期待していたキョン達との再会はなされず、結果、現在はホテルへと自転車を向けていた。


ほとんど重さを感じさせない長門有希を後ろにトグサは自転車を漕いで、無人のレジャービルより
ホテルを目指している。
映画館を出てまだ数十分だが、幸いにもすでに四箇所――川原、オフィス街、ビル、道路の情報を
得ることに成功している。もっともこれはすでに知っている場所であったからで、他の場所については
一から探さないといけないためはるかに時間がかかるだろう。特に”信号機”。これは中途半端に
ズームで写っており、どこの信号機なのかは二人には見当もつかなかった。

そしてレジャービルより数分、もう到着まで間もなくというところで二人は倒壊して失われたホテルを
現実に確認した。倒壊した際に流れ出た粉塵のせいか、周囲は灰色に塗れている。
トグサの心中は穏やかではない。セラスをあそこに残してきてしまっている上、あそこにはバトーの
死体があるのだ。セラスを探したい、バトーを弔いたいという気持ちもある反面。セラスにどう謝罪
すればいいのか、頼りになる仲間の死を現実にしたくないという気持ちもあった。

と、そんな気持ちを抱いているトグサの耳になにやら物騒な音が入ってきた。
顔を上げホテルがあった場所を見上げると、どうやらその周辺で何かが飛び回っている。
聞こえるのは銃声と破壊音だ。
「お、おい。なんだありゃ。あんなのもいるのかよ」
空中で交差しながら戦っている様はまるでタチコマ同士の空中戦のデモンストレーションの様だ。
「あそこに向かって」
自転車を止めたトグサを長門有希が進むよう促す。
「長門。装備もなしにあんなドンパチに突っ込むのは無謀だ。ここは一旦引いて……」
反論するトグサであったが、長門有希はそれを無視して言葉を続けた。
「あそこで戦闘をしている存在は三つ。
 一つは、未確認の存在。
 一つは、外見的特徴から友好的存在である、セラス・ヴィクトリア。

 そしてもう一つは、――私の敵」

数分後、全てを巻き込む奈落の穴に最後の二人が足を踏み入れた。

42 :孤城の主 18/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:07:49 ID:gA2OBbTl
「君がキョン君か?」
腰を低くして走るトグサがキョン達の隠れる瓦礫の影へと滑り込んでくる。
その瓦礫の中にも周囲にも疲弊した人間が隠れているのを見て、まるで戦場だなと彼は感じた。
「その声は……ドグサさん? って長門!」
トグサの後に魔女の扮装をした長門も続けて入ってくる。
「どうやら間違いないようだ。状況を説明してくれ」
「あの赤い化物が敵で、それ以外は味方です」
「解りやすい説明、どうも」
間髪おかずに返ってきた答えに満足すると、今度は長門有希の方へと振り向く。
「で、どうする? 何かこの状況をクリアするいいアイデアが?」
「ある」
今度も間髪おかずに答えが返ってくる。ハルヒといい彼らといいSOS団の人間は中々せっかちなようだ。
「説明してくれ」
トグサはその先を促した。
「あのアーカードと自称する存在を撃破するには、その存在の核である心臓を破壊する必要がある。
 なので、私が彼の動きを封じ心臓の位置をスキャンしてあなたに電脳を通じて場所を伝える。
 あなたはそれを打ち抜いてくれればいい」
説明はわかりやすく簡単だ。だがしかし、
「できるのかそんなこと?」
トグサの疑問に長門は表情を変えずに補足説明を加えた。
「正午前にあった彼との戦闘中の発言および戦闘方法から、彼の体内に存在する核を破壊すれば
 倒せるという確率は高い。
 また、正午より蓄積を開始した構成情報を使用すれば最悪の場合でも四秒は足止めできることを
 期待できる。
 スキャニングは足止めと併せ、直接接触によって行う。彼そのものは構造を解析することはできないが、
 ギガゾンビの用意した首輪は別。彼の体内にそれを発見できればそこが弱点と見て間違いない」
長門有希の説明は論理的だ。だがしかし……、
「それじゃあ、長門のリスクが高すぎる。それに俺の銃には弾丸が一発しか入ってない」
長門有希の作戦はまるで特攻だった。
「問題ない。この付近で確認できている敵対的存在は彼のみ。今私が倒れても影響は少ない。
 それに、元々チャンスは一度きり。予備弾薬の数は問題にならない」
「失敗したら?」
「しない。私も。あなたも」

言うが早いか長門有希は瓦礫の影を飛び出した。
その無茶に舌打ちしつつトグサも狙撃体制を取り、長門有希との電脳通信を開いた。

鉄拳を振るいセラスを瓦礫の山へと叩き込み、ジャッカルの弾丸でついに絶影を捉えた怪物が
新しく場に現れた長門有希に気付き顔を綻ばせた。

「お前も、『魔女』か」

43 :孤城の主 19/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:08:40 ID:gA2OBbTl
半日ぶり再び対峙する怪物と魔女。

一方はその童のように喜色を浮かべる。だがそして内面は翁のように最後を求めている。
もう一方は鉄のように無表情。だがその内面は未だかつてないノイズの嵐に満ちていた。

ここにいる全ての者が注目する中、両者は一歩一歩静かに歩み寄った。


――滅びだ。これが夢の狭間で待ち望んだ滅びの告げる者だ。
――もう私の中には何もない。私の城も兵もその全てが失われた。
――後は、この滅びを告げる者が私の寝室をノックすれば…………。


接触するまで後数歩。そんな場所まで来た所で怪物が腕を跳ね上げ拳銃を撃つ。
長門有希はそれを姿勢を低くして避けるとそのまま地を這うように走り怪物に肉薄する。
それを押し潰さんと振り下ろされた怪物の拳を長門は片手で受け、さらにもう片方の腕を伸ばし
銃を持った腕を封じる。
一瞬で四つに組んだ状態に持っていった長門有希の口から特殊な高速言語が発せられ、
その力を発揮していく。
「呪文か!」
気付き逃れようとするが怪物の身体はピクリとも動かない。
「当該対象の原理的移動を封鎖。並行して構造解析を開始」
接触してから一秒たらずで長門有希の体温は高付加により43度まで上昇していた。
安全装置により処理に規制が掛かろうとするが、長門有希はこれを自身で解除。
さらに体温は44……45……46……と急激に上昇していく。
1.2秒後に怪物の体内に首輪に該当する物質を発見。電脳通信を通じてトグサの眼に送られる
まではコンマ一秒以下で終了。情報を受信したトグサは0.4秒かけて照準し次の瞬間に発射した。


――寝室の扉を開けた私の胸に白木の杭が……


そして、発射された弾丸はコンマ一秒以下の速さで銃口から心臓までの空間を渡り……、
怪物――吸血鬼アーカードの心臓を貫いた。


狂愛の魔女によって始まった怪物を呼び出し不幸を撒き散らす夜宴は、
結果もう一人の秩序を齎す魔女の手によってそれを終えられた。

44 :孤城の主 20/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:09:32 ID:gA2OBbTl
万遍なく瓦礫が散らばったホテルの敷地内。完全に沈黙を取り戻したその中のいくつかの場所。
傷つき倒れた、あるいは死に瀕している者達の元へそれぞれ親しい人が駆けつけた。


吸血鬼アーカード。彼の元へかつては彼の僕だった吸血姫が駆け寄る。
「セラス……ヴィクトリア……」
もうその声には以前のような力はこもってはいなかった。
「マ"、マ"ズダァ〜……」
かつての主の滅びにセラスは彼の手を握り涙を溢す。
「……お前は自分の、道程を……、自ら選び取った。もはや私は貴様の、主人……ではない」
それでもなお、セラスは滅び行く彼をマスターと呼び涙を溢す。
「フ……、この未熟者め。だが、すでに独りの吸血姫であるならば……お前は独りで行かねばならん。
 ……私は、先に地獄で待っているとしよう……。奴が先に逝っているのなら……退屈はしまい」
セラスの掌からアーカードであったものが零れ落ちる。

――塵は塵に。

セラスにとって彼は、厄災を運び込む者であり。闇に引きずり込んだ張本人であり。主人であり。
先を往く師であり。新しい家族であり。最後には仇であった。
そんな彼は塵となって彼女の前から姿を消し、そこには彼女が流した涙と存在を証明する
銀色の首輪だけが残った。


打ち立った瓦礫に背を預け戦後の休息を取る劉鳳の元へ、何時の間にかに姿を消していた
ぶりぶりざえもんが現れる。
「お前、どこに行ってたんだ……」
完全に消耗しきった劉鳳の声は弱弱しかったが、逆にぶりぶりざえもんはまだ元気そのものだった。
「うむ。最初に言っただろう? 瓦礫の下に埋もれた人をおたすけすると」
そういえば、と劉鳳は思い出した。怪物から逃れる方便かと思ったがそうではなかったらしい。
だが、成果は芳しくなかったようだ。ぶりぶりざえもんの手に引きずられているそれ――劉鳳が橋の
向こう側で見た真紅とよく似た翠色のドレスを纏った彼女はどう見てもすでに死んでいた。
「残念ながら。私がおたすけに来る前に死んでしまったらしい」
人形の彼女は袈裟懸けに肩から下半身を落としている。その斬り口を見れば事故ではなく
何者かに殺害されたというのは間違いない。

劉鳳が彼女を検分しているところに剛田武と、その彼を支えて歩く魅音が寄ってくる。
「翠星石〜ッ!!」
剛田武は彼女の亡骸を胸に抱えただ彼女の死を悲しみオイオイと泣く。
魅音はその後ろでそれを少し醒めた目で見ていた。仇ではあったがあまりに無残な亡骸に
怒りよりも虚しさの方が勝っており、今更彼女を責める事はできなかった。
あの時散り散りになった三人はこうして、それぞれにとって不幸せな再会を果たした。

45 :孤城の主 21/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:10:24 ID:gA2OBbTl
横たわる長門有希の有様に、近づいた者の内何人かは思わず顔を背けた。
激しい高体温に曝された身体は表面から湯気を立て、その表面のほとんどがケロイドと化していた。
「長門! お前なにしてんだよっ!」
キョンが長門の側へ膝をつき悲壮な声を上げた。
見開いた目は白濁化しており、どう見ても彼女の状態は死を免れそうにない。
だが長門は捲れ上がり真っ赤に腫れた唇を細かく震わせると淡々と言葉を紡ぎ始めた。

キョンとトグサは彼女の言葉を聞き逃すまいと耳を近づける。
「……切欠はあなたが送ったメールだった」
「何を言ってるんだ長門? ……いや、もしかしてあのメールなのか?」
キョンは思い出す。偶然見つけたノートPCから送ったSOS団宛ての電子メールのことを。

長門有希はキョンの質問を無視し、言葉を紡ぎ続ける。
「涼宮ハルヒを初めとするSOS団団員と、その周辺にいる人物の消失を感知した我々は
 全力でその捜索を行った。だが結果、得られた情報はゼロだった。
 そこにある時あなたからのメールが、唯一残されたSOS団員である小泉一樹に届いた。
 彼はすぐに我々情報統合思念体に協力を要請し、私達は発信元を特定しようと試みたが、
 完璧な次元の断絶の前にそれは達成できなかった。
 次に試みたのが私自身による私のハッキング。
 その目的は完全に遮断された空間内へと送り込むトロイの木馬。
 私自身の異時間同位体全てに対し並列的にハッキングを仕掛け、結果それは連れ去られる
 瞬間の私に対して微細な成果をあげた。それが今の私。
 そして私自身に仕込まれた構成情報はこの世界に来た瞬間分散し、解析した情報から脱出の
 ヒントを内包したいくつかの物体に偽装される。
 そして、この世界に来た私は私自身が気付くことなく脱出のプロセスを完成させるため
 その偽装されたヒントを集めこの状況をを解決する。
 記憶操作はこの空間の支配者に対する偽装ではあったが、この有機体が使用不可状態に
 陥ったため緊急避難処置として認識操作を解除し、現在情報を伝えている。

 ――質問を」

46 :孤城の主 22/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:11:21 ID:gA2OBbTl
「俺が見つけた映像フィルム。アレもやはり脱出のヒントだったのか?」

トグサの質問に長門有希はただ淡々と答える。
「そう。
 この空間を包む次元の隔絶はその強固さゆえに一定の大きさ以上にはならない。
 あの映像情報を実際の映像情報と照らし合わせることで、この空間の規模と形を計測することが
 できるはず」
「それは、ギガゾンビが潜む場所への足がかりになるか?」
「可能性はある」
「じゃあ、他にそういったヒントがまだあるのか?」
「可能性は高い」
長門の回答に得心すると、トグサは一歩引いてキョンに質問を促した。

「じゃあ、ちょっとだけ教えてくれ。切欠は俺からのメールだって言ったが、じゃあこのPCそのものは
 一体どこから出てきたんだ?」

キョンの質問にも長門有希は淡々と答える。
「ノートPCはおそらく今回私から発信された構成情報が偽装されたもの。
 そして、今私が受け取った状態ではあなたからの電子メールが切欠となっている。
 一番初めにどうやってあなたが発信し私がそれを受け取ったのかは解らない。でも、何故今そう
 なっているのかは説明できる。
 人類が時間と認識している時間の流れを一次元とした場合、それらは断絶された瞬間の連続でしか
 なく、それゆえに常に一定で一切変化することはない。
 変容するのは二次元目に当たる時間平面の振幅。そして時間次元はこの波を利用し、常に
 安定した時間の有様を求める。結果、三次次元による時間干渉は円環状へと落ち着くことが多い。
 これもその結果」
「……解ったことにしとくよ」
長門有希の不可解な返答にキョンは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「ありがとう。じゃあもう眠ってくれ」
トグサの言葉を受け取ると、長門有希はその唇の震えを止め物言わぬただの屍と化した。
「え? ……どうしたんだ長門? ……トグサさん、コレは一体?」
トグサに問いかけるキョンの顔には激しく狼狽の様が浮かんでいる。だが、逆にトグサの顔は
諦観とも取れる静けさがあった。
「キョン君。彼女は……長門有希はすでに死んでいたんだ。さっきの対決でね。
 今のは彼女の言葉通り緊急のプログラムだ。……そう、今わの際に彼女が俺に伝えてきたよ」
キョンは物言わぬ長門の顔見つめる。
「やっと会えたばかりじゃないか。……なんで、そんな勝手に死んじまうんだよ」
ポツポツと零れ落ちた涙が傷ついた長門有希の顔を叩く。ご都合主義のファンタジーなら彼女は
これで生き返っただろう。だが此処は、この現実は決してそうではないことをキョンは知っていた。


【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】
【アーカード@HELLSING 死亡】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース 死亡】

47 :孤城の主 23/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:12:15 ID:gA2OBbTl
”彼女は自分の仕事を立派に果たした。その後を継ぐのが俺達の仕事だ。違うかキョン君?”
そのトグサの言葉をその通りだと頭では理解できる。
だがしかしキョンの足元には長門有希の遺体がさっきのまま横たわっていた。彼女を弔いたいからと
この場所に残ったものの、長門なら蘇るんじゃないかというありもしない期待に身体を動かすことが
できなかった。

「……キョン殿」
ここで亡くなった鳳凰寺風と翠星石を埋葬し、灰を被った獅子堂光の墓を改めて整え終わった
トウカと魅音がキョンと長門有希の方へと心配そうに戻ってくる。
「ええわかってますよ。サボっちまってすいません」
わざと明るい声を出して自分を奮わせると、キョンはトウカからスコップを受け取り長門有希の
墓を掘り始めた。

(安心してろよ長門。俺がお前のヒントを受け損なったことなんてなかっただろ?)
並んで掘られた三人の少女の墓、その横に四つ目の墓穴を掘りながらキョンは、この悪趣味な
ゲームからの脱出を改めて決心した。
それを離れた位置で見守る彼の用心棒であるトウカ。彼女の腰には先刻の闘いで折れた
物干し竿に代わって、劉鳳が支給品として得ていた斬鉄剣が佩かれていた。

そこから更に離れた場所で、魅音は瓦礫の山を登ったり降りたりしながら昼間の宝探しを思い
返していた。あの時はまだ四人とも仲良くやっていたのにあれも嘘だったのか……。
しかし、もうその答えは永遠に得られない。時と共に命も何もかもが失われていってしまう。

……それでももう止まったりはしない。
魅音は瓦礫の山の頂上から空を見上げクーガーとなのはの帰りを待った。

【D-5/ホテル跡地/1日目-真夜中】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、スコップ
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-1)、わすれろ草、キートンの大学の名刺
   :ロープ、ノートパソコン
[思考]
 基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 2:その後、病院へと向かう。
 3:『射手座の日』に関する情報収集。
 4:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。
 5:キャスカ、ルイズを警戒する。
 6:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:疲労、左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:斬鉄剣
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、出刃包丁(折れている)、物干し竿(刀/折れている)
[思考]
 基本:無用な殺生はしない
 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 2:その後、病院へと向かう。
 3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。
 4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武を守り通す。
 5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。

48 :孤城の主 24/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:13:05 ID:gA2OBbTl
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:心身共に疲労、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3)
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考]
 基本:バトルロワイアルの打倒
 1:キョンとトウカと共にクーガーとなのはを待つ。
 2:瓦礫の山を捜索。
 3:クーガーとなのはが戻ってきたら病院へ向かう。
 4:沙都子を探して保護する。
 5:圭一、レナの仇を取る。(水銀燈とカレイドルビーが対象)


戦いの後、自身の立場とゲームからの脱出を目指していることを表明し、全員に協力を促したトグサは
事後処理をセラスとキョンに任せると、全速力で映画館へと引き返した。
事情を知らずにハルヒ達が放送を聞いて長門の死を知れば、十中八九そこを飛び出してしまうだろう
だからだ。

時計で時刻をを確認しながら病院の前を突っ切る。
往く道で後ろに乗せていた彼女は重さを感じさせなかったが、帰りの道を戻るトグサの胸には
その不在はとても重く圧し掛かっていた。

【C-3/市街地路上/1日目-真夜中】

【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退、自転車全速力
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、警察手帳(持参していた物)
   技術手袋(使用回数:残り17回)、首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
 1:映画館に戻りハルヒ達に事情を説明。
 2:その後ハルヒ達を病院へと誘導。
 3:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
 4:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
 5:タチコマ、エルルゥ、八神太一の捜索。
[備考]
 風、次元と探している参加者について情報交換済み。

49 :孤城の主 25/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:15:04 ID:gA2OBbTl
ホテルより西に、レジャービルの前を横切り病院への道を走る一台のリヤカーがあった。
それを引いているのは吸血姫であるセラスで、荷台には満身創痍の劉鳳と右足首を折った
剛田武が横になっている。

「急げセラス。俺はあの不二子という女が悪なのか見定めねばいけないんだ」
横になったままの姿勢で劉鳳が台車を引くセラスに注文する。
いかなる艱難辛苦を経ようとも彼の横柄な態度は改まらないらしい。

「アイヨー」
こちとらも同じく満身創痍なのに吸血姫使いが悪いとブーたれながらもセラスは台車を引く。
その腕には彼女のマスターであったアーカードの心臓に嵌っていた、他よりも小さめの銀の環が
月光を跳ね返し輝いていた。

(……のび太。ドラえもん)
劉鳳の話によるとそこに彼らがいるという。なまじ仲間が集まるがゆえに、スネ夫という大切な
仲間が揃わないことが彼の心を痛めた。

ガラガラガラガラと音を立てて月夜をリヤカーが走る。


【D-5/市街地路上/1日目-真夜中】

【劉鳳@スクライド】
[状態]:満身創痍
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(-2食)、OS団腕章『団長』、ビスクドール、ローザミスティカ(真紅)
[思考]
 基本:自分の正義を貫く。正義とは何かを見定める。
 1:病院へと向かい不二子が悪か見極める。
 2:病院で手当てを受ける。
 3:悪を断罪する。
  (ウォルターを殺した犯人、朝倉涼子※名前を知らない、シグナム※クーガーに任せた)
 4:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:全身打撲及び複数の銃創 (※どれも少しずつ回復中
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:6/6発)
   13mm炸裂徹鋼弾×54発、スペツナズナイフ×1、ナイフとフォーク×各10本、中華包丁
   銃火器の予備弾セット(各40発ずつ、※Ak-47、.454スカール、ジャッカルの弾丸を消費)
[道具]:デイバッグ、支給品一式(×2)(メモ半分消費)、糸無し糸電話、バヨネット
[思考]
 基本:トグサに従って脱出を目指す。
 1:劉鳳、剛田武と共に病院へ向かう。
 2:食べて休んで回復する。
 3:病院を死守し、トグサ達を待つ。
 4:ガッツとキャスカを警戒。
[備考]
 ※セラスの吸血について
 大幅な再生能力の向上(血を吸った瞬間のみ)、若干の戦闘能力向上のみ。
 相手の命を奪った時はより再生能力と戦闘能力が上昇しますが、それも長持ちしません。

50 :孤城の主 26/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:16:39 ID:gA2OBbTl

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:右足首単純骨折、額と鼻に打撲、落ち込んでいる
[装備]:虎竹刀、強力うちわ「風神」
[道具]:デイバッグ、支給品一式、エンジェルモートの制服
   ジャイアンシチュー(2?ペットボトルに入れてます)、シュールストレミング一缶、缶切り
[思考]
 基本:誰も殺したくない、ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
 1:病院に向かいドラえもんとのび太に合流する。
 2:病院で手当てを受ける。
 2:病院で魅音を待つ。


ホテルより南、劉鳳がクーガーと別れた場所を目指して月の下を歩く一人と一匹がいた。
クーガーを迎えに……ではなく、その相手であるシグナムを探してである。

(……そのクーガーってのが、やっちまってると言っても面ぐらいは拝ませてもらえねえとな)
劉鳳と魅音から聞いたシグナムという襲撃者は、トグサから聞いたルパンの仇に間違いない。
そう確信すると次元大介は止めるも聞かず一人で飛び出してきたのだが……

「おめーさん。なんでまた俺と一緒に?」
隣を短い足でついて来るブタ――ぶりぶりざえもんに次元は問うた。
「あいつらはもう救ったからな。まだわたしの救いを必要としている人を探すのだ」
畜生の分際で殊勲なことだと次元は感心した。

「ところでそのケツで光っているのは……」
ぶりぶりざえもんのパンツのお尻の部分が、蛍のように翠の淡い光を放っている。
「こ、これはなんでもないぞ。拾ったんだからわたしの物だっ」
どうやら、あの瓦礫の山で何かを拾ったらしいのだが……、
「……まぁいいか。よろしくな相棒」
「うむ、私がいるからには大船に乗ったつもりでいろ」

そんなやり取りを経て、一人と一匹は足音と淡い光を残し夜の街の中へと姿を消した。


【E-6/市街地路上/1日目-真夜中】

【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労/脇腹に怪我(手当て済み、ただし傷口は閉じてきってない)
[装備]:454カスール カスタムオート(残弾:7/7発)、朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:デイバッグ(×4)、支給品一式(×4)(食料-2)、13mm爆裂鉄鋼弾(33発)
   レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡
   蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)
   トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
[思考]
 基本:1.女子供は相手にしないが、それ以外には容赦しない。
 基本:2.トグサに協力し、できるだけ多くの人間が脱出できるよう考えてみる。
 1:生死に関わらずシグナムを探す。
 2:シグナムが生きていればルパンの仇を取る。
 3:クーガーと会ったらホテル跡へ戻るよううながす。
 4:1-3が終われば病院へと向かう。
 5:アルルゥ、トグサ、ヤマトの知り合いに会えたら伝言を伝える。
 6:折を見て魅音に圭一たちのことを話す。
 7:ギガゾンビの野郎を殺し、くそったれゲームを終わらせる。
[備考]
 トグサとの情報交換により、
 『ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)』『赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)』
 『羽根の生えた黒い人形(水銀燈)』『金髪青服の剣士(セイバー)』
 を危険人物と認識しました。

51 :孤城の主 27/27  ◆S8pgx99zVs :2007/03/21(水) 12:17:31 ID:gA2OBbTl
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:やや疲労、頭部にたんこぶ、ヤマトとの友情の芽生え、救いのヒーローとしての自覚
[装備]:なし
[道具]:ローザミスティカ(翠)
[思考]
 基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
 1:とりあえず次元大介に付き添う。
 2:まだおたすけしていない相手を見つけたらそいつをおたすけする。
 3:怪我人を見つけたら病院へと送る。
 4:救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。


【備考】

以下の物がホテル跡の鳳凰寺風の墓の近くに放置されています。

  鳳凰寺風の剣、鎖鎌(ある程度、強化済み)、

 [鳳凰寺風のデイバッグ]
  小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
  紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
  包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)


以下の物がまだホテルやその周辺のの瓦礫の下の埋まっています。

 [ゲインのデイパック]
  支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
 [バトーのデイバッグ]
  支給品一式(食糧なし)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)
  電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類
  茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費
 [みさえのデイバッグ]
  石ころ帽子、スモールライト
 [他]
  パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、支給品一式、空のデイパック
  スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発※ジャッカルの分は抜かれてます)
  糸なし糸電話(使用不可)、FNブローニングM1910(弾:2/6+1)

52 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:16:29 ID:88aRXKux
(クーガー……。私、結局誰も助けられなかったよ)
 瓦礫を掘り返しながら、魅音は暗い思いを噛み締めていた。
 死んでいった光の為にも、ホテルに残っている彼女の仲間達を助けようと決意し、
 連戦で疲労しているはずのクーガーを置き去りにしてまでホテルに急いだというのに、既に手遅れ。
 魅音の目の前でホテルは崩れていった。
 そして、
(ごめん、光。あなたの友達、助けられなかった……)
 どうにもならなかった。
 あの桁外れの怪物に対して、自分の力などどうしようもなく微力だった。

 ――まだ、助けを求めている人がいますわ。ならば歩みを止めることはできません

 友達を失ったばかりだというのに、取り乱さずに歩き出した悲壮さの中に気高さをたたえた風の横顔が、
 魅音の脳裏に浮かぶ。
 魅音には分かる。
 友を失うことがどれだけ辛いか、悲しいか、やりきれないか……。
 それなのに風は決して魅音を責めようとせず、自分に対していたわりの言葉すらかけてくれた。
 本当に短い邂逅だったが、優しさの中に確かな強さを秘めた風の人となりは、十分すぎるほど感じ取れた。
 それに、風が使えたという癒しの魔法を必要とする人間は多かったはず。
 だが風は死んだ。そして役立たずの自分が生き残っている。
「私が死んでいった皆の代わりに死ねば……」
  暗い思いに突き動かされるように、魅音が呟いたその時、

 ――しっかりなさい。貴方はもっと強い人だ!

 気迫に満ちた声が聞こえた気がして、魅音は思わず背後を振り返った。
 だが、目に映るのは漆黒の闇と瓦礫の山のみ。
 魅音の顔に苦笑が浮かんだ。
(そうだよね、私は、前に進んで戦わなくちゃならない。もっと、もっと強くなって、
 戦って戦って、勝つまで戦い続ける。
 光や風や仲間のために。何よりも私自身のために……。そうだったよね? クーガー)
 ここにはいない、サングラスの男に語りかけながら魅音はパチンと両手で頬を叩いた。


53 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:18:48 ID:88aRXKux
(COOLになれ! 薗崎魅音!)
 今すべきことをする。それも早急に! スピーディに!
(って……。なんかクーガーがうつっちゃったなぁ)
 もう一度苦笑をもらし、魅音は再び瓦礫を掻き分け始めた。
 瓦礫の中から何かがのぞいている。
 期待を込めて引っ張ってみると――

 ――パチンコだった

 落胆のため息をつきつつ、魅音はパチンコをディパックの中に放り込んだ。
 そうそう都合よく役に立つものが見つかるはずもない。
 残りの二人はどうかと首を巡らすと、高校生と思しき少年は墓の前で佇み、
 もう一人の獣耳の女性はその少年を守るかのように辺りを睥睨している。
(……気持ちは分かりすぎるほど分かるんだけどね)
 でも、あの人にも前に進んで欲しい。
 この地上最悪のゲームを打倒するために、一緒に戦って欲しい。
 魅音は瓦礫を下ると、墓の前に座り込んでいる少年に向かって歩を進めた。



 小さな墓を掘り、小柄な体を横たえる
 土をかけ始めるとあっという間に長門有希の体は土の下に埋まった。
 手を合わせ瞑目する。
 そのまま数分が経過しても、キョンはその場から動けなかった。
 
 ――銀河を統括する統合情報思念体から、涼宮ハルヒの観察と報告を命じられて送り込まれた、
 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。それが、わたし

 初めて正体を打ち明けられた時の言葉が耳の奥に蘇ってくる。
 キョンは小さく笑みを浮かべた。
 長門有希がそれだけの存在でないことは、自分が一番良く知っている。
 否。
 それだけの存在ではなくなっていった、と言う表現の方が正しいだろうか?
 長門有希は変わり始めていた。


54 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:19:42 ID:88aRXKux
無機質で鉄のようだった表情が揺らぐようになった。
無感情な闇色の瞳に心の煌きが瞬くようになった。 
 長門は一度、本人のいう所の「バグの蓄積」により世界を改変した。
 その世界では、涼宮ハルヒは普通の女の子で、朝倉みくるは未来人ではなく、
古泉一樹は超能力者ではなく、長門は宇宙人ではなかった。
 その世界は長門有希が望んだはずの世界。
 彼女がただ一人の普通の人間として生きることが出来る世界。
だが、未来の長門は明瞭な意志を持って、過去の長門の同期の要求を拒んだ。 
 涼宮ハルヒがらみの厄介ごとに振り回される日常を選んだ。
 SOS団と共にあることを願った。

――進む方向は同じ。わたしも、あなたも。

 その言葉が脳裏に蘇った瞬間、キョンの感情が溢れた。
 キョンの頬を涙がつたう。止めようも無く涙は流れていく。
 長門有希は仲間だった。
 賑やかで騒がしい、かけがえのない日常を形作る、なくてはならない一人だった。
(長門……。お前、トグサさんに『ハルヒに自分の力のことを言わないでほしい』
『彼女には普通の人として、見ていて欲しい』って言ったんだって?
馬鹿野郎……。そんなことであいつが態度を変えたりするわけないだろうが。
俺達は、仲間なんだ。イベントごとに馬鹿やって、時たま古泉の自作自演につきやってやる仲間なんだよ)
 だが、嬉しくも思う。
 長門有希が監視対象としてではなく、ハルヒのことを共に歩む仲間だと思っていたことがはっきりと分かったから。
 長門有希自身も一人の人間として日常を一緒に歩こうとしていたということが、はっきりと分かったから。
(それが分かったと思ったら、死に別れって……。ふざけるなってんだ。こんな展開、ハルヒ超監督の脚本以下だぜ)
 未来人、宇宙人、超能力者と一緒の生活がずっと続くと思っていたわけではない。
 いつかは別れだって来るだろうと思っていた。
 だが、それはこんな酷い別れではないはずだった。
 こんな別れ方をしていい関係じゃなかった。
 それを。
(よくも俺達から奪ってくれたな……。天地神明だろうが、統合情報思念体だろうが、
何かえらそうなもんが総出で謝りにこようが俺達が絶対に許さん。覚えとけよ!
ギガゾンビの――)
 あらん限りの罵倒と呪詛の言葉をギガゾンビに叩きつけた後、キョンは大きく深呼吸をした。


55 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:20:40 ID:88aRXKux
 融点に達した心の温度を涼しい夜風がわずかに冷ましてくれた。
 冷却しつつある頭に浮かぶのは、長門が残してくれたメッセージ。

 ――私自身に仕込まれた構成情報はこの世界に来た瞬間分散し、
 解析した情報から脱出のヒントを内包したいくつかの物体に偽装される。

 ――ノートPCはおそらく今回私から発信された構成情報が偽装されたもの。

(このパソコンがそうだとするなら。脱出するために必要な『鍵』は、
既にこの空間にそろってるってことだよな? 長門)
 目の前の墓に向かってキョンは話しかける。
 問いかけというより、それは確認だった。
 朝比奈さん(大)のいう所の既定事項の確認作業のようなもの。
 何故なら、いつだってそうだったから。
 長門は人知れず何かと闘い、いつも状況を打破するためのお膳立てをしてくれていた。
 
――その負担を少しでも軽減してやりたかった。力になってやりたかった。
 
 だが、結局自分は何も。
 あれほど世話になった彼女に、何も……。
 不甲斐ない自分への怒りとギガゾンビへの怒りが同時に吹き上がり、キョンの心が再び沸騰を始める。
 暴れ狂いそうになる心の手綱を取りながら、キョンは必死に思考する。
 自分を殴るのはいつでもできる。ケンカ手袋の助けを借りるまでもない。
 そんなことよりもやらなければならないことがある。
 長門の残してくれたメッセージを無駄にすることだけは絶対にしてはいけない
 だが。
 
――射手座の日をこえてゆけ

 考えても考えても意味不明である。
(射手座の日って何なんだ? そんな祭日あったか? 射手座、射手座……)
「あの……。大丈夫?」
 突然聞こえてた馴染みのない声に、キョンは思考の海底から浮かび上がった。


56 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:21:35 ID:88aRXKux
 顔を向けた先には、碧色の髪を後ろで束ねた一人の少女。
 確か、園崎魅音という名前だったと記憶している。
 歳は自分と同じくらいか。
「すいません……。一人でやらせてしまって」
 よく見れば、華奢な手が黒く汚れ、小さく切り傷も見える。
「いいよっ! 別にさ」
 そう言って園崎魅音は快活に笑ってみせるが、やはり疲労の色は隠しきれていない。
『女の子に土木作業やらせるなんて男の風上にも置けないわね!』という団長の怒声をが聞こえた気がして、
 キョンは肩をすくめた。
「えっと……。園崎さんは、もう休んでください。俺とトウカさんが代わって……」
「……何かさぁ。おじさん、同じ歳ごろの人間に敬語使われるとこそばゆくなっちゃうから、タメ語でいいよっ」
「……分かった。園崎は休んでてくれ。俺とトウカさんが代わるから」
 キョンの提案には答えず、魅音は目の前の墓に視線をやった後、
「あの子……。あんたの大切な人だったんだね」
 キョンは小さく首肯して答えた。
「ああ。大切な仲間だった……。本当に大切な、俺にとっても、団のみんなにとっても大切な仲間だった」
「そっか……」
 沈痛な声音で魅音が言い、トウカもわずかに顔を歪める。
 しばし、沈黙が三人を包んだ。
(園崎も、仲間を失ってるんだったよな)
 同じ痛みを感じていることが魅音の表情から読み取れる。
 だから、魅音が何を言いたいのかも……。分かる。
「気を使ってくれて、ありがとよ。でも、大丈夫だ。ここで止まっちまったら、仲間達に申し訳ないからな……。
トウカさんも、心配かけてすいません」
 キョンが頭を下げると、トウカは小さく微笑を浮かべ、
「キョン殿は強いな。だが、前にも言ったが――」
「ええ……。全部終わったら、是非よろしくお願いします」
「うむ。某のでよければいくらでもお貸しする」
 トウカとキョンが顔を見合わせて笑いあったその時、
「……あのさぁ、トウカさんとキョンって……同じ世界の人?」
「いや、どう見ても違うだろ。耳とか耳とか耳とか」
 少し呆れたようにキョンは言った。
 服装や話し方からしても、同じ世界の人間とは思えないだろうに。
「なはは……。ごめんね。でも、おじさん、二人のことよく知らないからさっ!」
 おどけてはいたが、魅音の声音にわずかに硬質なものがあった。
 それは無表情な仲間の微細な変化を読み取ろうとする行為が日常化していたキョンだからこそ気づくことができた、
 ごく小さなもの。
 しかし、キョンは看過し得ないものを感じた。


57 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:22:32 ID:88aRXKux
(園崎はジャイアン少年達とチームを組んでたんだったよな)
 そしてその無残な結末はジャイアン少年から聞き及んでいる。
 その結末がどんな影響を園崎魅音に与えたかは、先ほどの闘いの最中に見せた表情と言動から推し量ることができた。
 数瞬の黙考の後、
「園崎、自己紹介も兼ねた情報交換しないか? 実を言うと、もう少し休んでいたいんだ。
トウカさんも疲れてるしな」
「……某に依存は無い。園崎殿、いかがかな?」
「勿論いいよ。相互理解は大事だからね」
 そう言って、魅音は微笑を浮かべてみせた。
 しかし、その瞳に隠された鋭い光があるのを見て取り、キョンは小さく嘆息をもらしたのだった。
 



 自己紹介及び情報交換自体はそれなりに円滑に進んだ。
 園崎魅音は、トウカの世界の話にはさすがに驚いたようで、色々と質問していた。
 だが、それよりも園崎魅音の気を引いたのが、SOS団の話だったことはキョンにとって多少意外だった。
 どうも、魅音が主催する『部活』とSOS団の活動が少し似ているということらしいが……。
 そんな胃が痛くなるような『部活』はゴメンだ、というのが、キョンの率直な感想である。
 ゲームは、古泉と適当にやるくらいが丁度よいのだ。
(園崎がハルヒに『罰ゲーム』について話す機会がないことを祈ろう……。あいつのことだ、嬉々としてやりかねん)
 そう考えた時、暗い底冷えするような声がキョンの耳の奥で響いた。

 ――やる? どこで?
 決まってるだろう。あの部室でだ。
 ――朝比奈みくるも、長門有希も、鶴屋さんもいないのに?
 ああそうだ。
 ――いい加減認めろよ。お前の好きだった日常はもう返ってこないんだぜ?

 うるせえ!!



58 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:23:38 ID:88aRXKux
(そんなことは、当たり前だ。百も承知だってんだ)
 だからって、元の世界に帰っても暗い顔してりゃいいのか。

 ――違うだろ 

 元の世界に帰った俺達が暗い顔して生きてたら、あんなに苦労して俺達の『日常』を守ろうとしてた
 朝比奈さんや長門の苦労はどうなる?
 それにもう、朝比奈さんや長門だけじゃない。
 君島に平賀さんに他の死んでしまった人達の分まで生きてやらないでどうする。
 少なくとも俺が会った人間達の中には、生者の幸福を妬むようなせせこましい野郎はいなかったんだ。

 ――笑ってやる

 元の世界に帰って、みんなで笑って過ごしてやる。
 ギガゾンビのクソ野郎になんか俺達の『日常』を台無しにされてたまるか。
 ハルヒだって。
 あいつだってきっとそう思ってるはず――

「――キョン殿?」
「キョン、聞いてる?」
「……すまん、少しボーっとしてた」
 いつの間にか自己問答の井戸の底に落下してしまっていたらしい。
「大丈夫でござるか? キョン殿。少し休まれた方が――」
「いや、本当に大丈夫ですから」
 心配そうな視線を送ってくるトウカに、キョンは軽く手を振って見せた。
「じゃあ、もう一回言うけど、今分かっている危険人物は、ピンク髪に甲冑の弓使い、シグナム。
まあこいつはクーガーが倒してくれてると思うけど……。それに赤いコスプレ東洋人少女、
そいつと一緒にいる羽根の生えた黒い人形。多分こいつが「水銀燈」だね。後、金髪青服の剣士、セイバー……」
 魅音の口からセイバーの名が出た瞬間、トウカが痛恨の表情を浮かべた。


59 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:24:41 ID:88aRXKux
「某があの時、斬り捨てていれば……」
「そんな、トウカさんのせいじゃないですよ」
「だが、キョン殿。某が人物の見立てを誤ったは紛れもない事実。
まさかあの剣士が、年端のゆかぬ子供にまで剣を振るう外道とは……。
天魔でもなければできぬ所業。どんな理由があろうと許せるものではござらん!
そんな輩をそれと見抜けぬとは……。つくづく某は修行がたりぬ!」
 ぎしり、とトウカの奥歯が音を立てた。
 少しの間沈黙が満ち、
「すまぬ、キョン殿、魅音殿。くだらぬ繰言を申したこと、許して欲しい」
 表情を緩めると、罰が悪そうにトウカは頭をかいた。
「そ、そんな風に丁寧に言われるとおじさん、困っちゃうなぁ……。もっと気安くていいってば!
――で、話を戻すけど、その他には、次元さんの言ってた着物を着て大剣を持った佐々木小次郎。
セラスさんの言ってた、浅黒い肌の女剣士キャスカ。こいつらが無差別に参加者を襲いまくってる殺し屋どもってわけだね」
「どんな故があるか知らぬが、許せぬ奴等でござる! ご安心召されい! 魅音殿! キョン殿! 
このトウカのいる限りお二人には指一本触れさせませぬ!」
「と、トウカさん少し落ち着いて……」
 天井知らずにボルテージを上げ続けるトウカに、キョンは宥めるように言った。
 ちらりと視線を走らせると、トウカとの付き合いの浅い魅音は、少し引き気味の表情をしている。
 まあ無理も無い反応である。
「む……。これは失礼、某としたことが」
 何度聞いたか分からないフレーズに、キョンは心の中で苦笑を漏らした。
「でも、こういう殺し屋どもはある意味、まだましだよ。
 一度把握しちゃえば、こっちだってそれなりの対応取れるからさっ。
 使ってくる技だってある程度分かったから、人数がいて武器さえあれば、何とかなるんだもん」
「そうだな。そのためになるべく、バラけないようにしないとな……」
 大人数が集まるとつい、小さなチームに分かれて色々やりたくなるが、戦力の分散が招く悲劇は
 ホテルに集った参加者達の例をみれば明らかだ。同じ轍を踏んではいけない。
 いつぞやのコンビ研とのゲーム対決の時にも感じたことだが、とにかくまとまっていればそんなに簡単にやられたりは――

 ――ん?
 
 何かが電流の如く頭の中を駆け抜けた気がして、キョンは頭を捻る。


60 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:25:41 ID:88aRXKux
「だから、一番厄介なのは何食わぬ顔で潜んでる敵だよっ!
自分は味方ですって顔をして、こっちが隙をみせるのを狙ってる奴が一番危ないのさ」
「……園崎。ちょっと待て」
 看過できぬ一言に、余計な思考を強制中断させ、キョンは魅音に強い視線を送った。
 やはりハッキリさせておく必要があるようだ。
「言っておくが、ジャイアン少年のことをまだ疑っているのならそれは違うと言っておきたい。
あいつは園崎のこともずっと心配していたんだぞ?」
「じゃあ……。じゃあどうして、武は翠星石の肩を持つのさ!?
翠星石は梨花を殺したんだ。皆を裏切った死んで当然の奴なんだ!!
それなのにどうして!?」
 快活な少女の顔はどこかに消し飛び、魅音の表情が鬼の形相に変貌し始める。
 怒りに端整な顔が歪み、瞳に狂気の光がちらつき始める。
(何て顔だよ……。ほとんど別人だぜ)
 魅音の形相に気圧されつつ、キョンが口を開こうとしたその時、
「魅音殿……。自分の考えが絶対に正しいと思ってはいかぬよ
立ち止まって相手の反論を聞くことも必要だ。
ましてや、その相手に対して力を振るおうとする時はなおさらでござる」
 深い湖面の如き静けさをたたえた声に、キョンは思わずトウカの方に視線を移動させた。
 そこには、いつにない厳しさを感じさせるトウカの顔があった。
「――某は、聖上に仕える前、クッチャ・ケッチャという国のオリカカン王に仕えていた。
オリカカン王は某に言った。己が野望のために民を殺し、家族を皆殺しにした大逆の徒、
ラクシャイン討伐を手伝って欲しいと。ハオクロと名を変え、仮面で顔を隠し、
何食わぬ顔でトゥスクルの王におさまっているラクシャインを撃つのに力を貸して欲しいと」
 ハオクロの名を聞き思わず声を上げかけるキョンを目で制し、トウカは言葉を紡いでいく。
「某は奮い立った。正義を助け、悪を挫く。これぞ聖戦であると。
エヴェンクルガの名にかけてオリカカン王の望みを必ず果たさせてみせると、そう誓った」
 突如、トウカの顔が歪んだ。
「だが、全ては間違いでござった」


61 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:26:44 ID:88aRXKux
 声に苦渋と悔恨を宿し、一言一言搾り出すようにしてトウカは話し続ける。
「全ては、大国シケリペチムのニウェが仕組んだこと。オリカカン王は騙されていたのだ。
 そしてそうと分かった時は、遅かった。某は既に戦場で何人もの命を奪ってしまっていた。
しかも……。それだけではない」
トウカの顔に刻まれた苦渋の皺が更に深みを増した。
「怒りに我を忘れていたクッチャ・ケッチャ軍はトゥスクルの村々を焼き払い、
村民を殺戮していたのだ。
直接手を下さなかったとはいえ、クッチャ・ケッチャ軍に身を置いた以上、某も同罪……。
某の手は無辜の民の血で濡れているのでござるよ」
 口の端に暗い笑みを浮かべ、トウカは手を魅音とキョンに向かって翳して見せた。
 その笑みに込められたものの重さに、キョンと魅音は圧倒される。
「きっと某は聖上やカルラ殿と同じ場所へは行けぬでござろう……」
 ほおっと一つ息を吐き、トウカは膝を動かして魅音に向き直ると、
 それまでとは打って変わって澄み切った瞳で魅音に笑いかけた。
「友を思う魅音殿の気持ちは分かる。だが、しかと相手を見定めぬまま、力を振るってはいかん。
某は魅音殿のような方の手に、罪の枷がはまる所などみたくないのだ……。
どうか魅音殿、キョン殿の言葉に耳を傾けてみてはくれぬだろうか?
キョン殿は強く、真っ直ぐな男子。決して嘘などつき申さぬ! 某が保証いたす!」
 トウカの声には心の魔を切り裂く清冽さがあった。
 こくりと頷いた魅音の顔から狂気が消え去っているのを見て、キョンは自説を述べ始める。
「園崎……。仮にジャイアン少年が翠星石とグルだったとしたら、翠星石が園崎を撃とうとした時、邪魔をするはずがないんだ。
だってそうだろ? 二人とも殺せるチャンスだったんだからな。なのにあいつはそうしなかった。
それに、翠星石とグルだったら園崎達の悪評を俺達に吹き込んだりもしたはずだ。
仕留めそこなったんだからそうしないと自分達が危ないからな。
でもあいつは、ただひたすら園崎のことも翠星石のことも心配してたんだ。
あいつにとっては、園崎も翠星石も大事な――」
「もう、いいよ……」
 キョンの言葉は魅音の震える声で遮られた。
「本当は分かってたんだ。グルだったとしたら、不自然なことだらけだもん……。
でも、でも……」
 魅音の顔がくしゃりと崩れた。
「誰かをっ、憎まないと……。足が前に進まなかったんだっ……」
 堰を切ったように魅音の瞳から涙が溢れ出し、声に嗚咽が混じり始める。
「私が……悪いんだっ。私が……弱かったから……。私……武に酷いこと言っ……」


62 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:27:42 ID:88aRXKux


「そんなことはな―――いっっ!!」
 


 トウカの絶叫が大気をビリビリと震わせ、キョンは思わず飛び上がりそうになり、
 魅音も思わず泣くのを中断して、トウカを見つめている。
 トウカは魅音の両肩をがしっと掴み、
「魅音殿が自分を責める必要などない!! 苦しむ必要などない!!
こんな地獄のような場所で誰が正気でいられよう!?
魅音殿は何も悪くない! 悪いのは全部あのど腐れ外道でござる! 
魅音殿のような可憐な女子を、こんな地獄に引きずり込んだあの悪鬼が全て悪い!
おのれ、ぎがぞんびっ!! 某が必ず叩き斬って――」
 とん、という胸への小さな衝撃にトウカの怒号は中断させられた。
 少し面食らった表情をするトウカを、魅音は泣き濡れた瞳で見上げ、
「あり……がとう……」
 何とかそれだけを搾り出し、魅音はそのままトウカの胸で泣きじゃくった。
 慈しみに満ちた目をして、魅音の背中を撫でてやっているトウカに向かってキョンは心の中で深々と頭を下げた。
(俺が、あなたほどの人が剣を捧げるに値する人間だなんてこれっぽっちも思わないけど……。
あなたの思いに恥じない行動をしたいって、思います。どうか、これからも俺達のこと見守ってください。トウカさん)



「ごめん……。情報交換の途中だったのに」
 グスグスと鼻を鳴らす魅音に、
「だから魅音殿は何も悪くないと――」
「と、トウカさん落ち着いてください」
 またも力説しようとするトウカをキョンは宥め、
「実を言うと、二人に聞いて欲しいことがあるんだ。何というか……。重要な話だ」
 そう言ってキョンは立ち上がった。


63 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:28:39 ID:88aRXKux
「その前にちょっと移動しよう。ここは寒い」
 夜風は涼しいが、決して寒いということはない。
 怪訝な顔をしつつも魅音とトウカは、キョンの後に続く。
 そのまま三人は、瓦礫と瓦礫がアーチを作っているような場所に移動した。
 粉塵臭いが、上、横、左右共に外からは見えにくい場所である。
 キョンは、PCの電源を入れると、
『トウカさん、辺りの気配を探ってください。俺達は監視されてます。
 姿が見えないってことは何かトリックがあると思うんですけど……。
 絶対に何かいるはずなんです』
 と打ち込んだ。
「承知」
 言葉短く答え、トウカは目を閉じると五感を集中させた。
 それを見届けると、キョンはノートPCに首輪についての考察と長門から託された『鍵』のことを次々と打ち込んでいく。
 飛ばされてきた年代のせいか、説明に多少時間がかかったものの魅音は何とか事の次第を把握したようだった。
 魅音はしばらくの間考える仕草をしていたが、
『考えるべきは、「射手座の日を越えて行け」って字面じゃなくて託してきた相手の心理じゃないかな?』
 園崎魅音らしいアプローチの仕方を、ゆっくりとした速度でパソコンに打ち込み始めた。
『心理?』
 魅音は大きく頷くと、
『「偽装』ってことは相手にバレちゃいけない。でも、特定の誰か、つまりキョン達関係者には分からないと意味がない。
ここまではいいかな?』
 なるほどとキョンは膝を打った。
 なおも魅音は言葉を打ち込み続ける。
『関係者だけしか知らない事っていってもたくさんあるだろうけどさ……。理屈は良く分からないけど、
あの子、長戸さんが媒介になってるなら長戸さんとキョン達だけが知ってる事で長門さんがキーワードに使いそうな事。
その上で射手座に関係のあること。これで大分絞れないかなぁ?』
 なにやら光明が見えた気がした。
 つくづく人の意見というのは聞いてみるものである。
 (長門と射手座、長門と射手座……)

 ――思いつかん

 キョンは頭を抱えた。


64 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:29:41 ID:88aRXKux
 星座と言えば文字通りの『終わらない夏休み』で天体観測をした日が思い浮かぶ。
 あれは、8月の何日だったか?
 だが、その日を越えていけといわれても何のことやら……。
 歯と歯の間から苦しげな息をもらすキョン。
 少しでも助けになればと、魅音はさらにPCに言葉を打ち込んでいく。
『キョンが読まなきゃならないのは長門さんの心理だからね?
長門さんがキョン達と共有する思い出や知識の中の「互いに」印象に残ってる「だろう」ことを推測して暗号化したとしても、
主観が違うんだからそれはキョン達にとっては取るに足らないことかもしれないんだ。
だから、長門さんの立場になって考えるんだよっ!
長門さんはどんな人だった? 何が好きだった? 何が嫌いだった?
何に感動してた? 何に驚いてた? キョン達と一緒に何をやってる時が、一番楽しそうだった?』
 キョンは必死に思考を組み立てる。
 長門有希とは、一緒に映画を撮った、孤島の殺人事件に遭遇した、いくつもの事件を解決した。
 その中で特に長門の中で印象に残っていそうなものは……。

 ――ちょっと待て

 この暗号は何も自分だけに発進されたものではない。
 ハルヒやみくるにも送られたものだ。
 つまり、SOS団全員がからんでいる事柄に限定されるということだ。
(となると、ハルヒに内緒でやった事件とかは全部没だな。野球大会の時は、実につまらなそうだったからこれも没。
古泉のチャチなミステリーなんぞ長門にとっては刺激以前の問題だっただろうから没。
夏休みにこなした行事は……嫌な思い出に入るんじゃないか?だが、その方が印象に残ってるかもしれん。とりあえず保留。
映画か? あれもあんまり楽しそうじゃなかったよう見えたが……。
ハルヒと一緒に出てたライブは、俺と朝比奈さんがからんでないから没。文化祭の後は……)
 
 頭に閃くものがあり、キョンはガバッと身を起こした。


65 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:30:39 ID:88aRXKux
 あの滅多に感情を動かされない長門が、SOS団の仲間とやった事で最も感情を表していたのは――

 ――コンピ研とのゲーム対戦

 あれほど楽しそうにしていた長門を見たのは初めてだった。
 思いつきはすぐに確信に変わる。
 長門がSOS団のメンバーとの共通の思い出の中から選ぶとしたらあれに関連することに違いない。
 それにあのゲームのタイトルは……。
(和訳したらナンタラの『日』………じゃなかったか!?)
 そして長門のメッセージによれば、『鍵』はいくつかの『物体』に偽装されるていると……。

 ――自分は今核心に近づいている。

 やたらと心が跳ね回るのをキョンは感じた。
 だがしかし。
(射手座って英語でどんな風に書くんだ!?)
 定期考査赤点スレスレの我が身を嘆きつつ、キョンはノートPCに文字を打ち込む。
 もどかしさのあまり、思わず手が震えた。
『園崎、「射手座」のスペル、分からないか?』
 魅音は少し考えた後、
『ごめん。分かんないよ。それにしても急にどうしたのさっ!?』
 キョンは思わず天を仰いだ。
 理由を打ち込みながらも、キョンは英語の時間になるとひたすら外を見ていた日々を心底悔やむ。
 だが、こんなマイナー単語、自分には逆立ちした所で思い出せるわけがない。
 魅音にもう一度目をやる。
 魅音が心底悔しそうな顔をしてかぶりをふった。
 となればやることは一つ。
「トウカさん! きてくれ!」
「承知!」
 ノートPCを抱えてキョンは走り出すキョンにトウカが続き、魅音も続く。
(あいつなら、ハルヒならきっと……)
 学業全般に対して無駄にスペックの高いハルヒならマイナー英単語を知っていてもおかしくない。
 息を弾ませながら坂を駆け下り、狂おしい目で公衆電話を探す。


66 :廃墟症候群  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:31:31 ID:88aRXKux

  ――あった

  だが転ばし屋に全部つぎ込んだせいで小銭がない。
  公衆電話を素通りして、手近な店に駆け込む。
 「トウカさん! あの機械を斬ってくれ!」
 「しょ、承知!」
  キョンの鬼気迫る調子に圧され、トウカは刀を振るった。
  居合い一閃。
  闇の中で刃が光り、一呼吸の後、レジスターはゆっくりとずれ始めた。

  ――斬れる!

 あまりの切れ味に驚いて刀を検分し始めるトウカを尻目に、キョンは小銭を引っつかむと公衆電話に飛び込んだ。
 乱暴に映画館の番号をプッシュする。
だが、耳に飛び込んできたのは映画館から移動するというハルヒの留守禄メッセージ。
(ハルヒ……。お前ってやつは……)
 思わず電話ボックスの中に崩れ落ちたキョンに魅音の声が飛んだ。
「あのさっ! セラスって英国生まれだって言ってたから、分かるんじゃない!?」
「なるほどな!」
 映画館の留守電にレジャービルの留守電に回答を入れておいて欲しい旨を残し、
キョンは電話ボックスに備え付けてある電話帳を苛立たしげにめくると、病院の番号をみつけプッシュし始める。
 時間的にセラスはまだ到着していないかもしれないが、それなら病院にいるという人間に伝言を頼むまでだ。
 それにひょっとすれば病院にいる人間が知っているかもしれない。
 祈るような気持ちでボタンを押そうとしたキョンの耳に、突如あの嫌な声が飛び込んできた。
 聞くだけで腸が煮えくり返る、耳障り極まりない声が。
 思わずボタンを押すのを中断して空を見上げるとそこには――


67 :廃墟症候群  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/22(木) 17:32:31 ID:88aRXKux
【D-5/大通りに面した公衆電話の中/1日目-真夜中(放送直前)】
 
[キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
   (ようやく暗号の核心に近づけたことで多少頭に血が上っている。
    故にハルヒへの気遣いにまで気が回っていない)
[装備]:バールのようなもの、スコップ
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-1)、わすれろ草、キートンの大学の名刺
   :ロープ、ノートパソコン
[思考]
 基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
 1:射手座の英語スペルを聞く。
 2:魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 3:その後、病院へと向かう(戦力の分散は愚行だと考えている)
 3:長門の残してくれたメッセージを解読する。
 4:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。
 5:キャスカ、ルイズを警戒する。
 6:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:疲労、左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:斬鉄剣
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、出刃包丁(折れている)、物干し竿(刀/折れている)
[思考]
 基本:無用な殺生はしない。だが積極的に参加者を殺して回っている人間は別。
    特にセイバーは出会うことがあれば必ず斬る。
 1:魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 2:その後、病院へと向かう(戦力分散は愚行と考えている)
 3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。
 4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武、魅音を守り通す。
 5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。

【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:心身共に疲労、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3)
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考]
 基本:バトルロワイアルの打倒
 1:キョンとトウカと共にクーガーとなのはを待つ。
 2:「射手座の日」の暗号を解く。
 3:クーガーとなのはが戻ってきたら病院へ向かう(戦力の分散は愚行は危険と考えている)
 4:沙都子を探して保護する。
 5:圭一、レナの仇を取る。(水銀燈とカレイドルビーが対象)
6:武に謝りたい

※キョンがノートパソコンから得た情報、及びキョンの考察を聞きました・


68 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:18:07 ID:sh0vDIMm

  『エクソダス』とは、脱出、大移動などの意味を含む。

  今から約3500年前、エジプト文書にヘブライ族という名の集団が登場する。
  ヘブライ族とは、中東からエジプト北部地域にわたり居住した、傭兵・奴隷・法律違反者などの浮浪者達を総称した名である。
  彼らの一部はラムセス2世の治下、エジプトで強制労役をしていた。
  中東からの外侵を防ぐため、ナイル川下流の要衝地であるゴセン地方に城を築くという仕事である。
  彼らはある日突然、モーセという人の後を追って集団脱出した。これが旧約聖書の出エジプト記に出てくる『エクソダス』である。

  ヘブライ族はその後、イスラエルという国を造りユダヤ人と呼ばれるようになる。
  エクソダスとは、浮浪者集団が世界で最も独特で、強烈な民族的アイデンティティーを確立した大事件なのである。
  ユダヤ人は、苛酷な環境での共同体験を通して唯一神思想を確立した。そのため、文明史的にイスラエルの歴史はエクソダスで始まる。
  聖書史学者らが探し出したシナイ半島周辺のエクソダスの痕跡を見ると、40年の広野生活は奇跡に近い。
  命をかけて唯一神が約束した、『乳と蜜の流れる地』を探す過程は、宗教以外のもので説明するのは難しいと言えよう。

  ローマ帝国に抵抗して故郷から追われたユダヤ人は、20世紀中盤、二度目のエクソダスを敢行した。
  各地に散在したユダヤ人は第2次大戦が終わった直後、自分たちが2000年前に追い出されたパレスチナの地に集まる大移動を始めた。
  最初のエクソダス当時、モーセがカナンの地に直ちに進入できなかったのは、強力なパレスチナ人が抵抗していたためである。
  モーセの後裔らは3000年ぶりにパレスチナ人を追い出し、イスラエルを建国した。
  「ここは神が与えた我々の地」――という宗教的信念を掲げて。


 ◇ ◇ ◇



69 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:19:40 ID:sh0vDIMm
 エクソダス請負人であるゲイン・ビジョウは、ある意味では出エジプト記に登場するモーセのような存在なのかもしれない。
 実際のモーセのように神から十戒を授かって他者に与えるようなことはしないが、導くと言う意味では立法者も請負人も同じである。
 ゲインが請け負っていたのは、シベリアからヤーパンへのエクソダス。そして、崩壊していくホテルから外へのエクソダス。
 その最終目的は、『殺し合い』から『日常』へのエクソダス。

 エクソダス請負人である自分に出来ることは何か? 改めて考えてみる。
 ゲインは狙撃の名手であり、また優れたパイロットでもあったが、別段機械に詳しいというわけではない。
 シルエットマシンともオーバーマンとも構造が異なる、特異な機械――それがこのゲームにおいて参加者を縛り付ける絶対物、首輪だった。
 入手した首輪は有益な情報源となり得る可能性を秘めていたが、ゲイン一人のスキルではどうにも進展が望めない。
 機械であることには違いないのだ。水に浸して故障を狙ったり、電流を流してショートさせる策も考えた。
 が、それを自身の首でやるのはあまりにも危険。
 鶴屋さんの首輪で実験をしようとも考えたが、無闇に扱って壊してしまっては、いざ機械に秀でた者と接触した時に後悔することになる。

 首輪はゲイン一人だけでどうこうできる問題じゃない。
 ならば自分はエクソダス請負人らしく――エクソダスするための『道』を探すのが最良だ。
 即ち、首輪を解除した後の話。『脱出ルートの確保』である。
 首輪を解除したとしても、ギガゾンビが用意したこの空間に閉じ込められたままでは意味がない。
 ゲインも本来の仕事を持ち越している最中だ。即刻シベリアに帰還し、ヤーパンへのエクソダスを再開しなくてはならない。
 他にも、シドウ・ヒカルをトーキョーに。ノハラ・シンノスケをカスカベに。皆を元の世界に返さなくてはならないのだ。
 ……そう。元の『世界』に。

(ここはいったい、どの世界なんだろうな)

 一日中渡り歩き、そればかりを考えていた。
 まず確実なことは、ここはゲインの知るシベリアではない。
 街並みとしてはヤーパン、ヒカルやミサエの言っていたトーキョー、カスカベに酷似しているようだが、細部はまた違う。
 それに生活の跡は見えるのに、住人がまったくいないというのも気になる。
 参加者に逃げられないよう隔離するのが目的なら、孤島や塀の中が効果的かつ理想的だ。
 それを何故、こんな生活味溢れる場にしたのか……そしてそれらはどうやって用意したのか……。

(ここが孤島だったならば、脱出経路は簡単だ。だがここは街や森、水場さえ混同している一地域……外界に何があるかは想像もつかない)

 支給された地図を確認しながら、ゲインはどこか出口となり得る場所がないかを探す。
 8×8の64エリアに分類されたこのマップ。今までに刻まれた禁止エリアは合計で9(ゲインが知る上では6)。
 その配列はどれも疎らで、参加者達の居心地を悪くさせている……かに思えた。

(……?)

 地図を眺めながら、ゲインは何か正体の掴めぬ違和感を覚え出す。
 禁止エリアというのはつまり、殺し合いを望まない参加者の安住の地を減らし、他者との接触を多く設けるための処置だ。
 だがこの禁止エリアの配列は、どこかおかしい。

70 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:20:43 ID:sh0vDIMm
(何故、『マップ端のエリア』ばかりを指定する――?)

 隅に逃げ込んだ参加者をいぶり出す目的があるとするなら、それも効果的ではある。
 だがこれまでの禁止エリアは9個中7個が端のエリア(ゲインは第三放送を聞き逃したため、考察の上では6個中5個)を指定しており、
 放送ごとに三つという数少ない禁止エリア指定で、ここまで徹底する必要があるかと問われれば、疑問に思えた。
 参加者を中央に寄せて戦乱を起こしたいというのなら、それこそ孤島のような隔てのない空間を会場に選べばいい。
 このマップは北西の高校があるエリアに始まり、西際の島、南西の駅周辺など、逃げ場所としてはもってこいの空間が幾つか存在している。
 何故こんな入り組んだ会場を選んだのか。多種多様な展開を望んだというのなら、端ばかりを潰して参加者の逃げ場を失わせるという理由と矛盾が生じてしまう。

(待てよ、逃げ場……?)

 ここにきて、ゲインがある重大なことに気づく。
 会場は孤島ではない。が、もちろんマップの端というものは存在する。
 では、その端を越えた先には何があるのか――ゲインはまだ、これを確認していなかったのだ。

 疑問を解決させるため、ゲインはホテル地区から東の端……エリアD-8へと疾走した。
 ギガゾンビはこの会場を、いったい何で隔離しているというのか。
 海でないとしたら壁か。だが、遠目から見てもそんなものは確認できない。
 見えない壁でも聳えているのだろうか。ただでさえおかしな技術を扱う輩だ。そんなものが出てきたとしても驚きはしないが……

『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』

(――! なるほどね)

 突然発せられた、首輪からの警告。これこそが、会場を隔離空間とする壁。即ち禁止エリアによる絶対包囲網である。

(外周エリアは全て禁止エリア……そして、禁止エリアは侵入しても30秒の猶予があるというわけか)

 新たな情報を頭に叩き込んだゲインは、警告音を鳴らす首輪にしかめっ面を浴びせつつ、それでも走ることをやめなかった。
 エリアD-8のさらに東……延々と続く森の中を突き抜け、一秒、二秒、三秒と時が経過する。
 そうして、ちょうど与えられた猶予の半分、15秒が経過したところでゲインは踵を返した。

(ここまで約100メートル。周囲の風景に変化はない。やはり禁止エリアは絶対か――!?)

 先ほどとは打って変わって、全速力で内側、つまり会場内へと引き返すゲイン。
 手負いの身であることが災いし、体力も落ちていた。走るだけでも大分しんどい。
 それでもこんな無茶をしたのは――無茶をしなくては、光明は掴めないからだ。

 リミットギリギリで安全圏へ舞い戻ったゲインは、息を切らしながらその場に腰を落とした。
 禁止エリアをマップ端ばかり指定する謎。
 それはマップ端にいる参加者をいぶり出したいのではなく、逆に参加者を『マップの外』に近づけさせないための処置ではないか――とゲインは考えた。
 例えば、マップ外周のどこかが出口に通じているというケース。端側の禁止エリア指定は、その出口に鍵をかける意味があるのではないだろうか。
 が、外側自体があらかじめ禁止エリアに指定されているというのであれば、ゲインの考察はまったくの的外れなものになる。
 どこか例外があるのでは、と考えすぐ下のエリアE-8に移動し、同じように東に突き抜けてみるが……結果は同じく。
 D-8とE-8の東側外は、共に禁止エリアだった。おそらく、他のエリアも同様と見て問題ないだろう。
 例外は存在しない。ならば、マップ端ばかりを禁止エリアにする理由はなんなのか。
 単なる偶然か、それとも、やはり逃げ場を潰す意味が含まれているのだろうか。

71 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:23:16 ID:sh0vDIMm
(禁止エリアが続くマップ外周……だが、それはいったい『どこまで』だ? マップの外が全て禁止エリアだったとして、果てはどこにある?)

 手負いのゲインでは、往復前提で走っても100メートル程度しか進めなかった。
 だが仮に、リミットである30秒以内に、一エリアの横の長さである500メートル以上進んでしまったとしたら。
 その先には何があるのか。また禁止エリアが延々と続くのか、それとも。

(このゲームに参加させられている参加者たちの特異ぶりを窺えば、リミット以内に外側のさらに奥へ踏み込める人物もいるはずだ)

 ミサエの話していた頼れる仲間の中には、ストレイト・クーガーという速さにこだわる男がいたという。
 彼ならば500メートルを30秒以内に駆け抜けることもあるいは可能だろうし、当然ギガゾンビがそれを考慮していないはずはない。
 ならばやはり、マップ外周は中と同じく500×500の一エリアに覆われているわけではなく、『外側全部が一つで巨大な禁止エリア』として壁を作っているのだろうか。

(実際に赴いて会場の果てを探す、というのは無理がありすぎるな……ならば!)

 思考を止めたゲインは、すぐ近くに聳えていた巨木に飛びかかった。
 そのまま登っていき、広大な森から顔を出して一望できるほどの高さまで移動する。

(『足』が無理なら『目』で確認するまでだ)

 顔を向けたのは、遥か東の果て。
『黒いサザンクロス』――狙撃の名手として鷹の眼を利かせ、高所から東に何があるのかを確認する。
 ……森、だった。
 今いるE-8をそのまま横に延長したかのような、長々と続く木々の群衆。
 果てのようなものは見えない。どこまでもどこまでも、月明かりに照らされた大地は果てしなく続き――

(――――!?)

 何かにひらめき、ゲインはがばっと上を向いた。
 突き抜けるほど高い木のてっぺん。そのさらに上には満月と、キラキラ輝く満点の星空が広がっている。
 当たり前だが、星とは地球を包む外側、宇宙から降り注ぐ輝きだ。
 雲か何かに遮断されぬ限りはどこにでも降り注ぐものであり、それはシベリアやヤーパンも同様、この会場とて例外ではない。
 永遠に紡がれると思われた星の海――だが、東の果てには、

(……見えたぜ、一筋の光明!)

72 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:24:25 ID:sh0vDIMm
 星が、なかった。
 地上に延びる森の群集。この光景には果てがない。
 しかし空には――マップ外側に至るところでぷっつりと、『星空が途絶えていた』。
 会場内は星空に照らされ、マップの外に延々と続く禁止エリアには、それがない。
 この違いは何か。それはつまり、マップ外周が星の傘下にない空間、ようするに『異質』であることを示す。

(禁止エリアは俺たちを囲う『柵』でしかなく、星に照らされるような『世界』ではない。
 一見ヤーパンの一地域を削っただけような会場にも思えるが、本質的には孤島と一緒だったというわけか)

 この会場を孤島に見立てて考えると分かりやすい。
 会場内は海で覆われた島であり、会場内を覆う外周禁止エリアは、海の役割を果たす。
 孤島と大きく違う点は一つ。延々と続く禁止エリアは、海と違い、どこまでいっても他の陸地に辿り着けない。
 それはここが閉ざされた空間であり、外部との接触が完全に断たれているためだった。

(思い出せ……この特異な力と現象の正体はなんだ? 過去にギガゾンビが何か漏らしていなかったか?
 記憶を辿れ。今こそ己の記憶力をフルに発揮する時だゲイン・ビジョウ)

 頭を抱え込み、ゲインは深い記憶の海へと潜っていく。
 思い出されるのは、唯一といえるギガゾンビとの接触時……そう、あの忌まわしい見せしめが行われた、序幕のことである。
 あの時のギガゾンビの発言、宣言、宣告、通告、青いタヌキや眼鏡の少年との会話云々、細かな挙動まで、集中して思い出していく。

 ――『ワハハハ、目覚めの気分はどうかな生贄の諸君!』
 ――『そう、生贄だ! キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!』
 ――『おまえ達はありとあらゆる世界の様々な時間から集めた生贄だ。
    おまえ達にはこれから殺し合いをしてもらう。
    そして生き残った一人だけは元の世界に返してやろう。
    それがこの殺し合い、バトル・ロワイアルだ。
    ああそうだ、その生き残った一人は一つだけ願いも叶えてやるぞ?』
 ――『バカめ、私は時空刑務所から脱獄し亜空間破壊装置を完成させた!
    もはやタイムパトロール共は私に手を出せないのだ。
    今度は誰も助けに来ないぞ、青ダヌキ』
 ――『本当だとも。キサマらに残された道は殺し合って生き残るだけだ』
 ――『フハハハ、キサマらの首には爆弾の付いた首輪を取り付けてある。
    私に逆らったり、会場から逃げようとすれば爆発するぞ。
    誰も殺し合わない退屈な見せ物になれば、纏めて爆破するかもしれんなあ』
 ――『これは私の退屈をしのぐ見せ物なのだ。ああ、そうだ……』
 ――『首輪は定時放送で報せる禁止エリアに進入しても爆発する。
    人数が少なくなれば他の参加者とも出くわしにくくなるから、場所を狭めてやるのだ。
    それから、おまえ達には支給品を与える。
    中には武器等の支給品がランダムに1〜3個、それに地図や食料などが入っている』
 ――『さあ、今からおまえ達にはワープで会場に送ってやろう!
    これはサービスだ、安心して向かうが良い! 健闘を祈っているぞ。
    フハハハ、フハ、フハハハハハハ…………』

73 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:25:16 ID:sh0vDIMm
 キーワードは数多く、多すぎて整理が追いつかないほどに掘り起こされた。

『ありとあらゆる世界の様々な時間から集めた生贄』
『生き残った一人は一つだけ願いも叶えてやる』
『時空刑務所から脱獄し亜空間破壊装置を完成させた』
『タイムパトロール共は私に手を出せない』
『キサマらの首には爆弾の付いた首輪を取り付けてある』
『私に逆らったり、会場から逃げようとすれば爆発する』
『誰も殺し合わない退屈な見せ物になれば、纏めて爆破するかもしれん』
『これは私の退屈をしのぐ見せ物』
『首輪は定時放送で報せる禁止エリアに進入しても爆発する』
『人数が少なくなれば他の参加者とも出くわしにくくなるから、場所を狭めてやる』
『今からおまえ達にはワープで会場に送ってやろう』

 重要そうなセリフを抽出しただけでも、ざっとこれくらいは出てくる。
 その中でもゲインが興味を持った単語は、『ありとあらゆる世界の様々な時間から集めた』、『願いも叶えてやる』、『時空刑務所から脱獄』、『亜空間破壊装置』、『タイムパトロール』、『ワープ』などだ。

(俺やヒカル、セラスやミサエとでは、住む世界と生きた時間が違う。信じがたいが、『異世界』というものは確かに存在するらしい)

 シベリアの雪原を生きてきたゲインには、イマイチ理解しづらい概念だったかもしれない。
 だが事実として、セラスの暮らす世界にシルエットマシンなどの機動兵器は存在せず、ヒカルやミサエの知るシベリアにシベ鉄の息はかかっていない。

(異なる世界に住む住人同士を、強引に一つの世界に集める……それを可能にするのが、亜空間破壊装置という奴か?)

 そんなことを可能にする装置が、本当にギガゾンビなどに造りだせるのだろうか。
 本来なら信じるだけでも眉唾物な話。だがゲインはこれを頭ごなしに否定ししたりせず、むしろ肯定的に物事を考えていく。
 そう、こういった不思議な力との付き合いは、何も皆無というわけではない。
 ようは、オーバーマンが持つ『オーバースキル』と同じようなものだと考えればいい。

(時空刑務所から脱獄したという言葉から窺うに、ギガゾンビが前科持ちの犯罪者なのは間違いない。
 そして時空刑務所に、タイムパトロールか……これも信じがたい話だが、どうやら『時空規模で動く警察』と、『時空規模で動く犯罪者』がいるらしい)

 そういった存在があるということは、即ち『時間跳躍』なる手段も存在しているということに他ならない。
 時を飛び越える術――摩訶不思議な現象と思えたが、オーバースキルの存在を考慮すれば、不可能とも断言できない。
 例えば、シベ鉄の警備隊隊長ヤッサバ・ジンが乗っていたラッシュロッド。あれは『時間停止』のオーバースキルを保有していた。
 ギガゾンビやタイムパトロールがオーバーマンを使って警備、犯罪を行っているとは思いがたいが、時に関与できる可能性は十分にあるのだ。

(『ワープ』というのも、ようは長距離瞬間移動のことだろう。これもオーバースキルの概念で説明がつく。
 『願いを叶えてやる』ってのは十中八九ハッタリだろうな……参加者をゲームに乗せるための餌的な意味しか持たない)

 世界を飛び越え、時を飛び越え、さらにはこれだけ高性能な首輪型爆弾まで用意してのける手腕……決して侮っていたわけではないが、ギガゾンビとやらは予想以上に凄い人物らしい。
 しかし、しかしだ。

74 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:26:24 ID:sh0vDIMm
(これは全て、『奴自身の力』じゃない。奴は、奴の世界にある『技術』を借りているだけに過ぎない)

 時間跳躍、亜空間破壊、どれらもギガゾンビが独自発明したわけではなく、先にそれらを可能にした先人たちがいることは明白だった。
 でなければ時間跳躍の技術はギガゾンビが独占していることになり、時間犯罪者を取り締まるタイムパトロールという存在も有り得なくなってしまう。
 
(ならばそこには、付け入る隙が必ずある。奴が使っている時間跳躍、亜空間破壊を『オーバースキル』、それを行うための装置を『オーバーマン』に見立てるんだ)

 ゲインは再び支給されたマップに目をやり、考え込んだ。
 ギガゾンビが用いたのは、亜空間破壊装置なるもの。破壊、というくらいなのだから、それは空間を破壊するものなのだろう。
 では、破壊された空間とはいったいどこのことを示しているのか。
 答えは簡単、このバトルロワイアル会場を覆っている、『外周エリア』である。
 
 ゲインはデイパックの中から支給された食料である菓子パンを取り出し、徐に毟ってみた。
 なんてことはない、パンの一欠けら。このパンの一欠けらが、『この会場と同じ』なのだ。

(ギガゾンビは亜空間破壊装置を使い、会場の外の空間を破壊した。これでこの会場と外界を繋ぐものは何一つなくなり、こうやって)

 毟ったパンくずが、ゲインの口の中に放られる。

(――これで隔離完了だ。一度毟ったパンが元に戻らないように、一度壊れた空間は修復するまで壊れたままだ。
 橋となる空間が壊れてたんじゃ、タイムパトロールとやらも救援に来れない)

 この会場はつまり、絶海に囲まれた孤島、扉のない密室、出口の消えた迷路と同じ。
 中から外部へ連絡を取る手段、及び脱出は絶望的な環境。普通に考えればそうなのだが――この隔離方法には、致命的とも言える穴がある。
 それは、会場と外界との隔離が『亜空間破壊装置』なる道具によって実行されているという事実。
 毟ったパンは元に戻せない。船がなければ、扉がなければ、孤島や密室からは出られない。迷路もまた、出口がなければ彷徨い続けるだけの運命だ。
 しかしここは、毟ったパンでも孤島でも密室でも迷路でもなく、『亜空間破壊装置によって隔離された世界』である。
 ならば、この世界を隔離した根本的元凶である亜空間破壊装置の機能を停止させたらどうか――それこそが、この会場を隔離空間から脱却させる唯一の方法。
 オーバーマンの機能を停止させればオーバースキルの効果が失われるのと同様に、亜空間破壊装置を破壊してしまえば、この会場は元の鞘に収まるというわけだ。

 では、いったいどうやって亜空間破壊装置を破壊するか。その前に、ターゲットとなる亜空間破壊装置はどこに置かれているのか。
 ここで、もう一度亜空間破壊を『オーバースキル』、亜空間破壊装置を『オーバーマン』に当てはめてみる。
 すると、一つの疑問が発生する。
 オーバーマンとオーバースキルがこの二つに当てはめられるというのなら、それらを起動させる『パイロット』はどこにいるのか。
 この場合のパイロットとは、考える必要もなくギガゾンビである。奴が亜空間破壊装置を使って亜空間破壊を行い、会場を隔離してバトルロワイアルを開催した。

(ギガゾンビは、この殺戮を退屈しのぎの見せ物として楽しむと、そんなことを仄めかしていた。
 とくれば、当然、奴の居場所はこの会場外ということになり、奴が機動させている亜空間破壊装置も会場外にあるということになる)

 亜空間破壊装置が外界にあるというのであれば、会場内からの手出しは不可能となってしまう。
 ここまできて手詰まりか……ゲインは登り詰める直前で崩れ始めた崖に、やり場のない怒りを感じた。
 ゲインの力では、首輪を解析することはできない。
 だからエクソダス請負人として、せめて脱出口だけでも確保しようとしたのに、自分はそれすらも満足に成し遂げられないのか、と。

75 :「エクソダス、しようぜ!」(前編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:27:38 ID:sh0vDIMm
(まだだ。まだ諦めるなゲイン・ビジョウ……何か、何か見落としていることがあるんじゃないか……!?)

 食い入るように地図を見るゲイン。彼に残された猶予は少ない。
 キャスカとの戦闘で負った傷は、なんとか行動可能なくらいには回復した。
 だが、それでも手負いであることには変わりない。
 もしあと一度でも、キャスカレベルの手練に襲われたら。
 そうなる前に、ゲインは光明を掴まなくてはならないのだ。
 ヘブライ族を導いたモーセのように、今も生存している他の参加者達に、道を示してやらねばならない。
 それが、エクソダス請負人としての役目であり、意地でもある。

(!)

 ――その意地が、ある重大なひらめきを発揮させた。

(この禁止エリア配列……端ばかりを指定する理由……そうか……いやしかし……ええいダメでもともと、こいつは賭けだ!)

 ゲインは注視していた地図を握り締め、ろくにしまいもせずに走りだした。
 向かう先は南。禁止エリアとなったE-8をギリギリでかわし、最短ルートを通って目的地へ急行する。
 気づけば、時間もかなり経過していた。
 一日目の終わり、そして第四回目の放送はもうすぐ訪れる。
 これまでのペースどおりにいけば、死者の数もそろそろ半数を切る頃だろう。
 有力な、特に首輪解除の可能性を秘めた協力者が脱落する前に、なんとしてでも請負人としての勤めを果たさなければ。

 決意を胸に抱いてゲインが訪れたのは、エリアG-8に位置する大型ショッピングモールだった。
 ゲインはその中でも一際大きな店舗に入り、

『いらっしゃいませギガ〜。ここはジィハチショッピングモール。お買い物でしたらこのモールダマがご案内するギガ〜』

 喋る、土偶と、遭遇した。
 まさかの珍客――この場合客はゲインの方だが――に数秒間呆気に取られたゲインだったが、すぐに気を取り直す。

「あー、すまない店主。ちょっと探し物をしているんだが、協力してくれないか?」
『お客様は神様ギガ〜。出来る限りのことなら協力するギガ〜』
「助かる」

 モールダマなる土偶の了承を得て、ゲインは店のカウンターを越え、奥のほうへと踏み入っていく。

『ちょ、お客さんそっちは立ち入り禁止ギガ〜!』

 店主の制止を振り切り、ゲインはズケズケと家屋荒らしを始めだした。
 店の奥にある事務室にそれらしきものがないことを確認すると、今度は倉庫の方を調べてみる。
 倉庫内は暗室になっており、電灯は灯っていない。
 ゲインは所持していたランタンに火を灯し、暗い室内を照らし出す。
 そうして目に映ってきたのは――

76 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:29:01 ID:sh0vDIMm
 ◇ ◇ ◇


 ゲインが地図を眺めていて気づいたのは、マップの端ばかりに禁止エリアが指定されているということ。
 これは前述のとおり、参加者を中央に燻り出して闘争させる狙いが一つと、マップの外周エリアが『亜空間破壊装置によって破壊された空間』であることを悟られぬため、だと思っていた。
 だが、その考え自体が間違っていたとしたら。
 端ばかりを禁止エリアに指定する理由――それが、『端に何かある』と思わせるための『陽動』だったとしたら。
 ゲインは、まんまとギガゾンビの策に嵌ってしまっていたのだ。

(必要なのは、柔軟な発想だった。禁止エリア云々について考えるより先に、この地図本来が持っている不可解さに気づくべきだったんだ)

 その不可解さとは、『施設の名称』である。
 地図に記述された文字列を挙げるだけでも、高校、映画館、図書館、病院、レジャービル、ホテル、駅×2、温泉、山頂、寺、モール、遊園地、防波堤の14箇所。
 これらの施設は皆特徴的ではあるが、何故わざわざ名前つきで地図に載っているのか。

(それは、これらの施設が皆重要な役割を秘めているからさ――『亜空間破壊装置の隠し場所』っていうな!)

 それは、まったくのひらめきが成せる発想だった。
 現段階では根拠も何もない。小さな可能性だけを信じて確かめに向かったのだ。

『装置』というものは、当然機動するだけではなく、『維持』することが必要となってくる。
 此度の亜空間破壊――ただ空間を破壊するだけなら、別に『装置』でなくても、『爆弾』か何かで事足りる。
 しかし、ギガゾンビが用いたのは『装置』だという。
 爆弾ではなく装置にこだわった理由……それは技術的な問題なのかもしれないが、最大のメリットは装置であるが故、いつでも解除、再起動ができるということだ。
 優勝者には願いを叶えてやる――元の世界に帰れるという名目もある以上、この会場を永遠に隔離しておくわけにはいかない。
 ただでさえ世界から隔離された空間だ。それだけでいつかはタイムパトロールに違和感を感じ取られ、足がついてしまう恐れがある。
 だからギガゾンビは、『亜空間破壊爆弾』などではなく、いつでも解除が可能な『亜空間破壊装置』を造ったのだ。

(下手にオーバーマンに当てはめて考えちまったが、それが失敗だった。
 亜空間破壊装置はあくまでも『装置』であり、常時パイロットが必要なオーバーマンとは違う。
 一度機動させちまえばそれっきり。あとは維持するだけで、パイロットはお役御免だ)

 つまり、ギガゾンビが常に亜空間破壊装置を操作している必要性はなくなるのだ。
 ギガゾンビはゲーム観戦のために外にいる=亜空間破壊装置も会場の外にある、と考えてしまったのが運のツキ。
 こういった空間隔離のために機械を動かすのなら、そのコントロールは内部からやった方が確実である。
 亜空間破壊装置の所在と維持は、全て会場内にて!

77 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:30:24 ID:sh0vDIMm
 全てが推測の域であり、願望でもあった。
 しかし時として、推測は希望を掴み、願う者に光明を授けることがある。
 そう、今のゲイン・ビジョウのように。

「これがギガゾンビの言っていた、『亜空間破壊装置』か」
『あぁ! お客さん、なんで亜空間破壊のことに気づいたギガか〜!?』

 ゲイン・ビジョウがショッピングモールの大型倉庫で見つけた、大掛かりな機械。
 それこそが商品と呼ぶにはあまりにも不適切な品で、異質と分かりきった代物……この会場を世界から隔離している大元、『亜空間破壊装置』だった。

『これがここにあることは、ギガゾンビ様曰く、絶対分かりっこないって……あんた天才ギガか!?』
「天才か……そんなことはないさ。俺はただ、『エクソダス』という一点にのみ焦点を絞って行動したまでだ」

 謙遜などではない。
 実際、ゲインは脱出ルートに関しては足がかりを掴んだものの、首輪解除の方に関してはまったくの放任主義でいくことを決めている。
 脱出ルートと首輪、双方をどうにかしてこそ真の天才と言えるのだ。
 ゲインはただ、エクソダスのエキスパートして活動したに過ぎない。

「さて、どうしてここが隠し場所であることに気づいたか、だったな。気になるなら種明かしをしてやろう」

 ゲインは握り締めていた地図をモールダマに示し、説明を開始する。
 
「このマップ、どうにも端のエリアばかりが禁止エリアに指定されている。それは何故か?
 普通なら、どんどん封鎖されていくマップ端に何かあるものだと思うだろう。実際俺もそうだった。
 だがそれはブラフ。マップ端ばかりを禁止エリアにする『真の狙い』は、俺たち参加者の注意をマップ端に向けるための陽動だったのさ」
『だ、だからって、このショッピングモールに亜空間破壊装置があるとは限らないギガ〜。なのにどうしてここが分かったんだギガ?』
「そのとおりだ。だが俺は、この地図が持つある特徴に気がついたのさ。
 その特徴とは、病院やホテルなんかの重要施設の場所は、名前付きで明記されているってところだ。
 そしてそれらの重要施設があるエリアは、これまで一度も禁止エリアに指定されていない。
 病院やホテルなんかの建物は、弱者が立て篭もるには格好の逃げ場なのにだ。果たしてこれは偶然か?」

 マップ端の禁止エリアが陽動であるというのなら、逆に『意図的に禁止エリア』から外されている地図明記施設に何かあると睨んだのだ。
 結果として、亜空間破壊装置はモール内に隠されていた。
 もちろん、今回のゲインのように、参加者に亜空間破壊装置が発見されてしまうというケースも十分にある。
 それを防ぐためには重要施設を禁止エリア指定してしまうのが手っ取り早いが、ギガゾンビはそれを実行しない。
 奴の作戦としては、あくまでもマップ端を中心に封鎖していって参加者の目を背き、施設に脱出の鍵があると思わせないようにするつもりなのだろう。
 ギガゾンビなる男……小者の臭いがするかと思ったが、なかなかどうして、策略家である。

 もし亜空間破壊装置の隠し場所が禁止エリアに指定されてしまったとしても、最悪首輪を解除してしまえばそこへの侵入も可能になる。
 逆に、無事亜空間破壊装置を破壊できたとしても、首輪がついたままでは脱出することはできない。
 エクソダスと首輪の解除。両立してこその完全勝利だった。

78 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:31:24 ID:sh0vDIMm
「亜空間破壊装置は、『地図に明記された施設』のどこかにある。
 確率としては1パーセントくらいの小さな希望だったが……ビンゴだったようだな」

 もちろん、この行動が危険極まりないものであることは確かだ。
 ギガゾンビによる監視がほぼ間違いない現状、不用意に舞台の裏側まで足を踏み入れることは、主催側の警戒心を強めることに繋がる。
 亜空間破壊装置の機密を知れば、首輪の遠隔爆破も覚悟しなくてはならないだろう。

(俺は、ミサエからエクソダスの依頼を受けた。そんな俺が、不用意に命を投げ出すことは出来ない。
 だがな、それは単なる『逃げ』だ。『首輪を爆破される恐れがある』、『ギガゾンビが監視している可能性があるから』。
 そんな確証のない不安に手を拱いていて、現状を打破できるのか? ――答えは、否だ。
 ミサエは自らの命を投げ出してまで、俺に全てを託したんだ。ただでさえ死者は半数を切ろうとしている。
 迷ったり考えたりしている時間はもうない。多少の危険を冒してでも、踏み込まなくちゃいけない。
 逆に言えば、そんな馬鹿が許されるのは――死に掛けの俺だけだ)

 前述で述べたとおり、これは大きな賭けである。
 賭けとは、それ相応のチップを積まなければ大勝できない。
 ここまで踏み入ったのはゲインの請負人としての誇りであり、焦りであり、覚悟だった。
 そして肝心の結果だが――現状でも生き永らえているゲインは、立派な勝利者と言えた。

 前半戦を乗り切ったことを確信したゲインは、ウィンチェスターM1897の銃口を装置に向ける。
 これさえ破壊すれば、会場となっているこの空間――厳密に言えば、『会場を覆っている周囲の空間』の破壊が修復、元通りとなり、この世界は元の鞘に収まる。
 そうなれば、タイムパトロールやらなにやらが異変に気づき、救援に駆けつけくれるはずだ。

『そんなことは……させないギガ〜……』

 引き金を引こうとしたゲインの背後から、幽霊のようなおどろおどろしい声が聞こえてきた。
 ここジィハチショッピングモールの店主にして番人、ギガゾンビが使役する土偶型ロボット、モールダマである。

『それを破壊されたら、タイムパトロールに感づかれてしまうギガ〜。会場内のツチダマはそれを防ぐための番人……気づかれた以上、生かして帰すことはできないギガ――!?』

 戦闘体勢を取り、ゲインに襲い掛かろうとするモールダマ――が、それを見越していたゲインは、先制してモールダマの鼻先に銃口を突きつけた。

『ギガ!?』
「番人、つまりお前らみたいな人形は、ギガゾンビが亜空間破壊装置を守らせるために配置した、ガードロボットってことか」

 ギラついた眼光は、正に極寒の地を生きる銀狼のそれだった。
 人と人が殺し合うことなど馬鹿げている。だが人が土偶を破壊することに、なんの罪意識があるだろうか。
 きっと、ゲインは躊躇なく引き金を引く。それを本能的に悟ったモールダマは恐怖に駆られ、戦意を失っていた。

「機械にも破壊される恐れというのはあるか。だがな、この殺し合いではお前以上に怯え、死んでいった参加者が大勢いる。
 少しはピープルの痛みというものを学習してみたらどうだ。指導は俺がしてやろう」

79 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:32:26 ID:sh0vDIMm
 殺し合いを強制しそれを観察して楽しむギガゾンビは、食料や資源の配給を牛耳り実質的にドームポリスを支配している、シベ鉄以上に許せぬ輩だ。
 凶弾に倒れ死後を友人に弔われたウミ・リューザキ。褐色肌の女剣士に切り捨てられたアサヒナ・ミクル。そして、請負人に息子を託して逝ってしまったミサエ……。
 犠牲者は多すぎるほどに出た。制裁が必要だった。仇討ちが必要だった。逆襲が可能だった。
 情けはいらない。ゲインの怒りはとっくのとうに沸点を越えていたのだから。

『わぁ〜! 待って、待って欲しいギガ〜まだ死にたくないギガ〜!』
「機械が命乞いとはな。だがまぁ……慈悲をやらないこともない。俺のする質問に正直に答えたら、この場は見逃してやろう」
『ほ、本当ギガ!? ありがたいギガ〜なんでも答えるギガ〜』

 モールダマは感情味溢れる態度で生き永らえたことを喜び、あっさりと要求に応じた。
 それがギガゾンビへの背信行為となることを理解しているのかいないのか、どちらにせよ都合がいいので言及はしない。

「まず一つ。このゲームは、ギガゾンビによって監視がされているはずだ。その方法とやらを教えてもらおうか」
『それはこれを使ってたギガ〜』

 モールダマが回答として示したのは、宙を浮かぶ謎の目玉と耳。
 切り取られた人体パーツに嫌悪感を表したゲインだったが、この目玉と耳は、どうやら機械でできた作り物らしい。

「これが監視道具か?」
『名前は「スパイセット」というギガ〜。目玉が捉えた映像と、耳が傍受した音声を、ギガゾンビ様がいるところにあるモニターまで送信する道具ギガ〜』
「なるほど。これが会場内のいたるところに設置されているってわけか。なら、今俺がこうやってお前を尋問にかけていることも、ギガゾンビにはバレバレってわけか?」

 ゲインは銃柄を握る力を強め、モールダマの鼻先に銃口を捻じ込ませた。
 増幅する恐怖に『ヒィ!』っと声を漏らすモールダマは、さらに情報を暴露する。

『あ、亜空間破壊装置のある装置周辺は、担当のツチダマたちが直接送信を行っているギガ〜。
 だから今のこの状況は、こちら側から送信しない限りギガゾンビ様に知れ渡ることはないギガ〜〜〜!』

 泣きそうな声で、モールダマはそう白状した。
 ゲインがエクソダスに対してどこまで踏み込んだか、それがギガゾンビの耳に届くか否かは、全てモールダマの采配しだいということになる。
 少なくとも銃を突きつけられ恐怖に身を竦ませている現状では、モールダマも監視映像を送信しようとはしないだろう。

(この映像がギガゾンビに送られれば、『亜空間破壊装置の秘密を知った者』として俺は消されるだろうな……。
 ま、その問題に関しては後々手を打てばいい。今は、搾り出せるだけの情報を搾り出すとするか)

 ゲインは、自分が命の瀬戸際に立たされていることを自覚してなお、モールダマへの尋問をやめない。

「次の質問だ。亜空間破壊装置の隠し場所だが……お前の先ほどの口ぶりから窺うに、『ここだけじゃない』な?
 会場内の他の施設、おそらくは地図に名前つきで明記された場所で、そして尚且つお前のような『番人のいる場所』に、他の亜空間破壊装置があるはずだ」
『ギ、ギガ!?』
「世界から空間を切り離すような力だ。こんな倉庫に収まるような小さな装置一つで賄えるとは思えない。
『複数個で維持している』と考えるのが当たり前だろう。その隠し場所、全て吐いてもらおうか」

80 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:33:22 ID:sh0vDIMm
 強大な力を維持するには、それに見合うだけのコストが必要になってくる。
 会場内に設置された亜空間破壊装置は、それを数で補っているのだろう。
 複数個の装置を同時稼働させることで現状を維持し、その全てを破壊しなければ現状が崩れることもない。
 万が一、あの忌まわしいホテル倒壊のような事態が起これば、施設内の装置が偶発的に破壊されることもある。
 なので一つが事故で破壊されても現状維持が間に合うように、複数個による維持は、保険としての役割も秘めているのだろう。

『あ、亜空間破壊装置は全部で6つあるギガ〜。
 その隠し場所は、お客さんの言うとおり『ツチダマが番人として守っている施設』ギガ〜。
 具体的に言うと、『図書館』と『遊園地』、『寺』と『温泉』、『モール』と『電車』の中ギガ〜。
 でも図書館は全焼してしまってし、遊園地は劉鳳っていう奴に破壊された時に、亜空間破壊装置も巻き込まれてしまったギガ〜』
「つまり、今動いている亜空間破壊装置はこのモール内のも含めてあと四つってわけか。
 それらを全て破壊すれば、この会場は世界から隔離された状態から回復し、外部との連絡も可能になる」

 図書館と遊園地の装置が既に機能を失っていると言うのであれば、残りは『寺』、『温泉』、『モール』、『電車』に隠された四つのみ。
 光明は今、確かなカタチとしてゲインの進む道を差し照らし始めた。

「それじゃあ最後の質問だ。この『首輪』について、お前が知っている情報を洗い浚い吐いてもらおうか」

 監視と盗聴、そして肝心要の亜空間破壊装置の隠し場所は分かった。
 あとはオマケとして、首輪をどうにかできる参加者と会った時のために、出来る限りの情報を押さえておく。

『く、首輪には全部での五つの機能が搭載されてるギガ〜。
 それは、「爆弾」、「収音と送信」、「禁止エリアの電波受信」、「遠隔爆破の電波受信」、そして「戦闘データの計測及び送信」ギガ〜』
「ちょっと待て、『収音機能』だと? お前はさっき、盗聴はスパイセットの耳とやらで行われていると言ったばかりだろう。まさか嘘をついたのか?」

 グリッと突きつける銃口が、モールダマの恐怖を駆り立て、自白を促進させる。

『う、嘘じゃないギガ〜! 実を言うと、盗聴だけは「スパイセットと首輪」の二段構えになっているギガ〜』
「二段構え? なんでそんな必要がある」
『スパイセットと言えど、会場の全域をカバーできているわけじゃないギガ〜。
 トイレとかの狭い個室空間までは監視の目が行き届かないし、小さな声なんかは拾えないギガ〜。
 だから、参加者たちの秘密の内緒話なんかも押さえられるよう、スパイセットとは別に首輪にも盗聴器を仕掛けたんだギガ〜』

 盗聴は、スパイセットと首輪の二段構え。
 だがメインはあくまでもスパイセットの方であり、首輪はスパイセットでカバーできないような、閉所での小声なども拾えるための処置といったところだろうか。

「なるほどな。ようは、スパイセットは『ギガゾンビが殺し合いを楽しむためのモニター用』で、
 首輪の盗聴器は、『参加者が影で悪さをしないか見張る、本当の意味での監視道具』だったってわけか」

 首輪に付いてる盗聴器は、サブ的な意味しか持たない。
 大作映画を鑑賞するなら、大きなモニターで、高音質なスピーカーで楽しみたい。
 でもゲームを成り立たせるなら細部に渡るところまで監視が必要なわけで……ギガゾンビはそんな心情から、盗聴に二段構えの策を施したのだろう。

81 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:34:26 ID:sh0vDIMm
「盗聴については大体分かったが、『戦闘データの計測』ってのはなんだ?」
『首輪には装着者の体温、心拍数、受ける振動や掛かる運動エネルギーなんかを元に、参加者の戦闘能力値を計測する機械が取り込まれているギガ〜。
 計測した戦闘データは継続的に送信して、誰が強豪参加者かを見極めているんだギガ〜』
「不可解だな……ギガゾンビは俺たちが殺し合いをしているところを見て楽しみたいだけだろう。なんでそんなシチメンドーくさいことをする?」
『万が一という時のための予防策ギガ〜。もし、送られてきたデータを元に強豪と判断した参加者が首輪を解除して、ギガゾンビ様に反抗しようとした場合、すぐにトンズラこける用の対策ギガ〜』
「……マジか」
『大マジギガ〜。ギガゾンビ様は過去にも、子供ばかりだったアオダヌキの一味に痛い目を見せられてるギガ〜。
 だから今回はヘマをしてもすぐに逃げ出せるよう、予め要注意参加者はチェックしておくことにしたんだギガ〜』

 思わず唖然としてしまうような理由だった。
『戦闘データの計測』、その目的が、自分の安全を阻害する恐れのある参加者を事前に知っておくためだったとは。
 バトルロワイアル主催責任者ギガゾンビ……策士なのか小心者なのか、イマイチ判断に困る人物である。

 ――ゲインは知るよしもないことだが、別の場所でレイジングハートが察知した『音の変化以外の何らかのデータ』というのが、これに当てはまる。

「しかし参ったな……お前の話が本当だとすれば、首輪が拾った音声はお前の意志に関係なく、ギガゾンビ側に送信されているということになる。
 これまでの会話が全部筒抜けだとしたら、俺はギガゾンビに首輪を爆破されてオダブツだ」
『で、でもお客さんまだ生きてるギガ〜』
「そう。不可解なのはそこだ。どうして首輪は爆発しない? 
 俺の喋ったことは、ギガゾンビに取っちゃマズイことばかりだろう? 見逃しておく理由が分からん」

 亜空間破壊装置の破壊など無駄だと高を括っているのか、はたまた別の意図があるのか。
 どちらにせよ、戦闘データの件から小心者な性格であると分かるギガゾンビが黙ったままでいるのはおかしい。
 生き延びている現状に疑問を浮かべるゲインに、モールダマはある簡単な答えを指し示した。

『……お客さん、ひょっとしてこれまでに大規模な戦闘か何かに巻き込まれていないギガか?』
「大規模な戦闘……? 確かに一、二回は経験させてもらったが、それがなんだって言うんだ?」
『だとしたら、お客さんの首輪に仕掛けられた盗聴器は、「故障している」可能性があるギガ〜』
「なにぃー!?」

 思いもしなかった事態に、ゲインは声を上げて仰天してしまった。

『その首輪は、本来は高性能爆弾を搭載するだけでも容量がいっぱいいっぱいだったんだギガ〜。
 それをギガゾンビ様が、強引に戦闘データ計測のための機械も入れちゃったから……盗聴器は酷くデリケートでお粗末なものしか積み込めなかったんだギガ〜』
「だからって、そんな簡単に壊れるもんなのか? そのお粗末な盗聴器ってのは」
『盗聴器は、「大きな音」に弱いギガ〜。元々小さな音を拾うため用のものだったし、近くであんまり大きな音がすると、パンクして壊れちゃうんだギガ〜』

 モールダマの情報を元に、ゲインは考える。首輪の盗聴器は、本当に壊れているのだろうか……?
 ゲインが経験した戦闘といえば、キャスカとの二回のみ。
 共にホテル内で行われたものだが、その中身は格闘戦だ。別に大砲をぶっ放したわけでもない。
 盗聴器の許容範囲をオーバーするほどの轟音が、果たしてあっただろうか……

82 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:35:28 ID:sh0vDIMm
(待てよ、キャスカと戦った『場所』といえば………………そうか、『ホテルの倒壊』か!)

 二度目のキャスカとの交戦時、ゲインが戦いの場となったのは、崩れゆくホテルの中だった。
 戦闘後もミサエと一緒に崩壊の瞬間に立ち会っている。あの轟音なら、首輪の盗聴器を故障させるのにも十分かもしれない。
 なんてことだ。ゲインの中では悲劇でしかなかったホテルでの大事件が、思わぬ恩恵を生んでいたとは。
 大多数を死に至らしめたあの惨事を受け入れることはできないが、一時の感謝くらいはしてもいい気分だった。

「ご協力感謝する。このままギガゾンビに俺のことを報告しないと約束してくれるなら、お前の安全は保障しよう」
『本当ギガ? 信じていいギガ? やったギガ〜!』

 必要な情報だけを搾り出したゲインはモールダマに突きつけていた銃口を外し、店の方に戻ろうとするモールダマの背中を見送る。
 ギガゾンビという悪に使われる哀れな機械人形……悪いのは主人だ。ツチダマ自身に罪はない。だが、

「どうもありがとう。そしてさようならだ」

 ゲインは逃げていくモールダマの背中に、ウェインチェスターの銃弾を叩き込んだ。
 沈黙し、動かなくなるモールダマ。彼の機能停止により、モール内での出来事をギガゾンビに送信する者はいなくなった。
 保険であった首輪の盗聴器も故障した今、ゲインの行動は闇の中に消え、ギガゾンビに警戒されて首輪を遠隔爆破される心配もなくなる。
 もっとも、背を向けて逃げる相手を撃たないというルールは、ゲインの掲げる信条でもあった。
 そのルールを犯させるほどに、ゲインのギガゾンビへ対する怒りは滾りを見せていたのだ。

「さて、お前の野望を担う一端……壊させてもらうぜギガゾンビ」

 ゲインは亜空間破壊装置へと銃を構え直し、怒りの弾丸を発射した。


 ◇ ◇ ◇


 時刻は午前零時に差し掛かり、定例どおり空中にギガゾンビの映像が映し出された。
 それを外から眺めるゲイン・ビジョウは、亜空間破壊装置を破壊しつくすため北へ駆ける。
 今は馬鹿笑いをさせておけばいい。ゲインの反逆はもう始まっており、ギガゾンビは未だそれに気づかぬ愚かな王なのだ。

(首輪は俺にはどうにもできない。だが、エクソダスに関しては確実な方法を掴み取った。
 ミサエ……あなたの御子息は必ず俺が守り通そう。エクソダス請負人、ゲイン・ビジョウの名に懸けて)

 高笑いするギガゾンビ。
 滑稽なお山の大将は、最後までゲインの反抗に気づかぬままか、それとも――

「――さぁ野郎共及びご婦人の皆様方! ギガゾンビに反旗を翻すチャンスはもう間もなく訪れる!
 願い、そして賛同する者は俺について来い――――エクソダス、しようぜ!」

83 :「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs :2007/03/22(木) 23:38:15 ID:sh0vDIMm
【G-8/1日目/真夜中(放送開始)】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:デイパック、支給品一式×6(食料一食分消費)、鶴屋さんの首輪
   9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(26発)
   極細の鋼線 、医療キット(×1)、病院の食材、マッチ一箱、ロウソク2本
   ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
   スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:電車、寺、温泉を廻り、残り三つの亜空間破壊装置を破壊する。
2:ギガゾンビにバレるのを防ぐため、施設内のツチダマは必ず破壊する。可能ならスパイセットも没収。
3:信頼できる仲間を捜す。
4:しんのすけを見つけ出し、保護する。
5:ゲイナーとの合流。
6:首輪をどうにかできる協力者を見つける。
7:ギガゾンビを倒す。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
   :首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
   :モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。

【モールダマ@ドラえもん 機能停止】
【モールの亜空間破壊装置 機能停止】

・監視道具『スパイセット』について
監視はひみつ道具『スパイセット』によって行われており、会場のいたるところに宙を浮かぶ目玉(映像を送信)と耳(音声を送信)が配置されています。
それらから送信された映像と音声は、会場外部にいるツチダマがモニター越しに受信→ギガゾンビに提供という流れです。
特例として、亜空間破壊装置が設置された施設の監視映像及び音声は、担当のツチダマが送信しない限りギガゾンビには伝わりません。
よって、現在モール周辺は担当であるモールダマの機能停止、スパイセットの稼働不能により、ギガゾンビの監視が行き届いていない状態です。

・亜空間破壊装置について
会場内に計六つ設置(図書館、遊園地、寺、温泉、電車内、モール)された亜空間破壊装置は、この会場を世界から隔離するためのものです。
これら全てを破壊、機能停止させることで隔離状態は解かれ、外部との連絡が可能になります。
亜空間破壊装置のある施設は原則としてツチダマが番人を務め、それぞれ監視映像の送信、亜空間破壊装置の警備に回っています。
また、図書館に設置されていた装置はロベルタの放火、遊園地に設置されていた装置は劉鳳の破壊活動の被害を受け、既に機能を停止しています。
よって、残る装置は寺、温泉、電車内(それぞれ住職ダマ、番頭ダマ、車掌ダマが担当)の計三つです。

・首輪について
首輪には『爆弾』、『収音と送信』、『禁止エリアの電波受信』、『遠隔爆破の電波受信』、そして『戦闘データの計測及び送信』の五つの機能があります。
音声と戦闘データ計測値は常時ギガゾンビ側へと送信されており、ツチダマが要注意参加者をチェック。必要があればギガゾンビへ報告しています。
盗聴器は性能が低く、スパイセットの補助的な役割しか持ちません。また、大きな音によって故障する恐れがあります。

84 :孤城の主 1/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:37:57 ID:UTY29Yfk
一陣の風が去り、束の間の静寂を取り戻した城の成れの果て。
蒼い月の光を浴び、憐れな姿を曝すその石の中で黒い何かが蠢いていた。
それは鉄と石で組上げられた複雑な迷路の中をぬるりぬるりと油のように這い回る。
暗闇に充満する死と血、無常と悔恨の匂い。その中で何かを探している。

ふと、それが動きを止めた。
その鋭敏な触覚がある気配を感じ取ったのだ。

滅びだ――滅びが近づいてくる――滅びが足音を立ててやってくる。
城門を鎚で叩き、廊下を追い立て、寝室に火を放ち、そして――「私」を討ち取るのだ。

その幻視にそれ――吸血鬼アーカードは口から牙を覗かせ喉を鳴らした。


――さぁ、鉄火を散らそう。

――殺して、そして殺されよう。

――存在の全てを賭けて奪い合おう。


闘争には必要な物がある。
動きを止めていた怪物は再び暗闇の中を這い始めた。

85 :孤城の主 2/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:38:49 ID:UTY29Yfk
ホテルよりいくらか離れた場所。
明るい夜に冷やされたアスファルトの上で彼女達はその歩みを止めている。
魅音の口から放たれた真実は、鳳凰寺風とセラスにそれぞれ違う衝撃を与えていた。

「……光さんが死んだ」
希望――絶望。希望――そして絶望。――そして希望――やはり絶望なのか。
繰り返される親しい者の死。その宣告に鳳凰寺風の心は再び悲鳴を上げた。
光は目の前にいる魅音という女性、彼女を守るため怪物に討ちかかり――そして死んだという。
なるほど、無鉄砲な彼女らしい話だ。それでも生きていたならば小言で済まし笑い話にもできただろう。
だが、死んでしまっては悔やんでも悔やみきれない悲劇だ。例え自分の与り知らぬ場所のことでも。
助けたい――そう願うからこそ失った時に悔やむ。それが無意味だとしても。

「……ごめんなさい。私が」
「いえ、あなたのせいではありませんわ」
頭を垂れる魅音の言葉を風は遮った。それを受け入れてしまってはいけないから。
「それに、光さんは決して後悔してはいないと思いますから……」
誰への言葉か……、魅音かそれとも自身に向けてか……

「……………………」
セラスの心中は穏やかではなかった。
魅音を襲い風の友人を殺害したのは間違いなく自身の主人であると確信している。
いつかこうなるであろうこと――我が主人が人間を殺す。そしてそれが近しい人やその仲間である。
それは解っていた……が、やはり今の今まで解ってはいなかったのだと痛感する。
これだけではないだろう。これだけで済むはずがない。もっと殺しているはずだ。
ホテルは倒壊しているらしい。彼の仕業か? ならばあの部屋に残した仲間達は?
ゲイン、みさえ、ガッツ……、彼らもまた殺されているとしたら……自分の立場は何処に?

「……でも、その男はクーガーがやっつけたんだ」

……本当だろうか? セラスは魅音の言葉に疑問を抱かずにいられない。
しかし本当に……、本当に彼が死んだというのなら。もしもそうならば、彼との関係を隠しておけば
問題はないのではないか?
目の前の彼女達と一緒に仲間の死を悲しめば……?
でも、でもそれは……、非道い裏切り行為なのでは……?


「では、まいりましょうか」
心に澱を落とした二人を風が促す。彼女の心もまた暗く澱んではいたが、
「まだ、助けを求めている人がいますわ。ならば歩みを止めることはできません」
「そうだね。クーガーも同じことを言ってた」
魅音も顔を上げ果敢無げな笑顔を見せた。停滞は最も意味がない――それを知っていると。

「じゃあよろしく頼むよ」
魅音がセラスの腕を取って腰にまわす。風も逆の腕を取ってそれにならった。
「ホテルが完全に倒壊するのも間もないと聞きました。急ぎましょう」

「は! はい。わかりました。しっかり掴まってて下さいね」
セラスは再び両腕に彼女たちを抱えるとホテルに向かって疾走した。先刻よりも速く――疾く。
それは未だ解決しない心の中の葛藤、それを振り切るため……。

86 :孤城の主 3/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:39:41 ID:UTY29Yfk
神速を誇るクーガーでなくともセラスも一端の人外である。
程なくして彼女達は、かつては安息の場所であったホテルへと到着した。

初めて見る風とセラス。そして改めて見る魅音もその惨状に言葉を失った。
頂上から半ばまでが粉砕され崩壊し、残った棟を細かく砕かれた石や鉄や硝子、そして客室に
あったであろう生活家具などがデコレーションしている。
さらに耳を澄ませば、石と鉄の擦れ合わさる音、硝子が砕ける音、どこからか漏れた水が流れる音、
壁や床が圧迫され軋む音――それらの不吉な不協和音が零れ聞こえる。
この奇怪なオブジェをどう攻略し、どうやって仲間を救い出すのか……?

「魅音さん。光さんは何処に?」
鳳凰寺風は、死んだと聞かされた友人の所在を尋ねた。
「光ちゃんはあそこに。……私とクーガーで埋めさせてもらったよ」
魅音はホテルの敷地内でも端に近い方を指した。
おそらく以前はささやかな庭園だったのであろう。今は芝生が捲れ上がり落ちてきた瓦礫が
花壇や東屋を叩き壊して見る影もないが、その一角に赤い土を盛った簡素な墓があった。
「ありがとうございました」
風は魅音に一礼し、その場で光の墓へ向かい手を合わせた。
「では参りましょう。時間がありません」
祈りを長くない時間で終わらせ風は顔を上げて二人を促す。
その彼女の強さ――そしてその姿の輝かしさと悲壮さに二人は大きく心を打たれた。


三人は支給されていたランタンを片手に明かりを失ったホテルの中へと進入した。
辛うじてその姿を維持している玄関を潜りフロントロビーの中へと踏み込む。
ランタンのシャッターを絞り、光を振って先へと進む道がないかと調べるが……。

上階へと登る階段は踊り場ごと完全に落ちており、エレベータは勿論論外。扉の向こうの
非常階段も石と埃で埋まっていた。またホール中央にある太い石の柱が折れており、
支えを失った吹き抜けの天井が撓んでいて今にも落ちてきそうだ。
吸血鬼であるセラスの怪力や、風の魔法を使えば障害は取り除けるかもしれなかったが、
下手に大きな力を加えればドミノ崩しよろしく全てが崩壊しかねない。
三人は内側からの捜索を仕方なく諦め、一旦ホテルの外へと退去した。

外へと戻った三人はホテルを振り返り思案する。
「とりあえず、中にまだ人が残っているかそれを確認しよう」
今度はセラスが残りの二人を導いた。
元警官であったが、最低限のレスキュー教習は受けている。
こういった時にまずしなければならないことは生存者の所在の確認。
瓦礫の上からでも声をかけてそれを確認しなければならない。

三人は瓦礫の山を大きく迂回しホテルの側面、仲間が入っていた部屋のベランダ側へと
向かった――と、そこで魅音があることに気づいた。
「……なのはちゃんの姿が見えない」
ホテルより大きく離れた位置で空を舞っていた光の点が見えなくなっていた。
何時の間にかに決着がついたのか、それとも戦う場所をさらに遠ざけたのか?
あるいは最悪の……。
「あの子はきっとここに帰ってくる。だから私達はここで自分の仕事をしよう」
最悪の想像を振り切り、魅音は二人を促した。
自分はクーガーを信じ、クーガーは自分を信じている。ならば彼女も同様に――信じる。

87 :孤城の主 4/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:40:32 ID:UTY29Yfk
ホテルの側面、ベランダが並んでいた側は上階より崩落した瓦礫で覆われていた。
三人はその瓦礫の斜面を三者三様に登る。
人外の運動能力を持つセラスは容易く、風も風の戦士として軽やかに、そして魅音も瓦礫の
山を登るのは馴れたものだ。時間をかけずに三人とも目的としていた位置にたどり着けた。

瓦礫に耳を当て、その鋭敏な聴覚でセラスが中の様子を窺う。
「どう? 何か聞こえる?」
「いや、全然……」
魅音の問いにセラスは力なく答えた。
彼女の耳に届くのは無機物が織り成す崩落への不吉なカウントダウンだけだ。
自分の聴力は只の人間であった時より遥かに鋭敏なっている。たとえ意識がなくとも
近くにいれば心音さえ拾えるというのに……
「ゲインさんっ! いますかっ!セラスですっ、戻ってきましたっ! いたら返事をしてくださいっ!」
ありったけの大声で呼びかけるが、返ってきたのは建物の悲鳴――崩落へのカウントダウンが
ゼロを指し示した音だった。
「――みんな逃げてっ!」

濛々と立ち上る土煙の中から三つの人影が飛び出してくる。
「ウエッ! ゲハッ、ゲハッ……!!」
咳き込む三人の後ろでは今まさにホテルが最後の倒壊を進めていた。
轟音と共に辛うじて形を維持していたホテルの四階以下が、圧力に負けて折り畳まれるように
高さを減じていく。上に積み重なっていた瓦礫も雪崩を打って周囲へと広がりはじめた。
「ゲホッ! ここも危ない……、み、みんな掴まって……」
風が風を起こし粉塵を払い、そこをセラスが二人を担いで通り抜ける。

ホテルが崩壊していたのはほんの少しの時間だったが、三人が振り返った時にはその短い
時間でホテルはその形を失っていた。
建物は完全に一つの巨大な瓦礫の山と化し、一面は粉塵が漂い灰色に覆われている。

「う、嘘……。まだ誰も助けてないのに……」
魅音の口から、絶望を含んだ空気が零れた。助けると……、光の死に、クーガーに、何より
自分に約束したのに。
「光さん……」
風が見つめる先、光の墓があった場所も灰色に包まれていた。彼女が何所に眠っているのか
もう確かにはわからない。
「ゲインさん……」
彼は眠ったまま逝けたのだろうか? もし、そうならばそれだけが唯一の慰めかもしれない。


日が落ちると同時に始まった一連の悲劇は彼女達を、そして彼女達以外を巻き込み、
その奈落の穴の縁を広げている。誰も彼もを不幸にしようとせんがためにそこに引きずり込む。
それは悲劇の切っ掛け――心の虚無に狂愛を抱いた魔女の呪詛か?

その暗闇の底で独り笑う化物がいた。
奈落に飲み込まれまいと抗う人間を、待ち構え笑う化物がいた。

夜はその深さを増し、悲劇はまだ続く…………。

88 :孤城の主 5/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:41:22 ID:UTY29Yfk
砕けた石と折れた鉄骨で組まれた死者の城。
その頂上に乗った一際大きな石の表面にじわりと油の様な黒色が浮かび、そして盛り上がる。
それは人の形をしており、それには腕があり、その腕にはやはり真黒の銃が握られていた。

――純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻
――マーベルス化学薬筒NNA9
――全長39cm
――重量16s
――13mm炸裂鉄鋼弾

「『ジャッカル』――パーフェクト(完全)だ。ウォルター」

奈落の底で見つけた弾丸を再装填しスライドを引いて音を立てると、化物――吸血鬼アーカードは
その銃口を彼の突然の出現に唖然とする三人の少女に向けた。


「う、嘘でしょ……」
積み重なった瓦礫の頂上に現れた化物との再会に魅音は愕然とした。
クーガーが倒したはずなのに。クーガーが倒したはずなのに。クーガーが倒したはずなのに!
再び恐怖と絶望が彼女を侵食し始める。鼓動を一つ打つ度に冷たいものが身体を登ってくる。

「(……彼が光さんを?)」
この惨劇の舞台に降りて初めて出会う明確な敵。親友の仇。
風の中を流れる緑の風が少しずつ、少しずつ纏まって太い束になりその強さを増していく。
理性に取り繕われた心の殻の中を荒れ狂う。

「マ、マスター……」
ついにこの時が来た。懐かしい主人との邂逅の時なのに心はとても浮かない。
浮かないどころか錘を巻きつけたかのように深く沈んでいる。
逃亡も誤魔化しも利かない運命の分岐路が人の形を持って現れたことを彼女は悟った。


「探し物かな? 淑女諸君?」
吸血鬼が踵を鳴らし足元の瓦礫を指した。
「それとも、闘争の火花を散らしにやってきたのか……」
銃口を嘗めるように少女達の身体に這わせいやらしく吟味する。

「お前はどちらを選択するのだ? ――婦警?」

その吸血鬼の一言に場が凍りついた。
セラス以外の全員の目が彼女を見つめている。見つめられている一人は彼女の主人を見ていた。

「お前は此処で何をしている? 此処は全員が互いに持つ全てを賭け合う生存競争の場。
 そこでお前は何をしている? 何をしていた? 何故この期に及んでまだ血を飲んでいない?」

主の言葉は的確にセラスの葛藤を捉えた。
何をしてきただろうか? 何を成しただろうか? 何人かと出会い。何人かと戦った。だが――。
トグサが無謀にも独りで出陣した後、何をしていた? ――豪華な風呂と寝室でくつろいでいた。
バトーとみくる、そしてもう一人のメイドと出くわした時すぐに決断できたか? ――いやできなかった。
キャスカの襲撃を受けて結果どうなった? ――後手後手に回り結果みくるを死なせた。
ホテルからクーガーと共に捜索に出て今どうなっている? ――致命的な遅れを取り最悪の状態だ。

「あ……、あ"……ああ……っ」
セラスの口から嗚咽が漏れる。
御気楽極楽に決断を先延ばしにしてきたツケが今ここで回ってきたのだ。

89 :孤城の主 6/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:42:14 ID:UTY29Yfk
「決断しろ婦警。ここがお前の分水嶺だ。
 お前も夜族の端くれならば、最早此処に到っては薄闇の中で足踏みをしていることは許されん。
 その薄闇から外へ踏み出すのか? それともより深い闇の中へと踏み込むのか?」

「マ、マスター……、やめてください」
セラスは主人の前で頭を垂れる犬のような声を出す。

「婦警。闘争の場で相手に懇願するなどということは認められない。お前自身が行く道を選び取れ。
 お前以外はもうすでに覚悟を示しているぞ――」

主人に促されセラスは気づく。二人の少女はもうすでにセラスを――後ろを見てはいなかった。
前を――立ち塞がる運命――吸血鬼アーカードを真っ直ぐ見据えている。


”貴方は前に進まなければならないのです”
「……そうだよね。私が選んだ道だもの」
魅音は手の中に一本のナイフを握り締める。
「クーガー。……怖いけど、けど戦うよ。もう逃げたり止まったりしないって決めたから」

「私にはみなさんを助けるという使命があります」
風を取り巻く緑の風は先程までの荒々しさを潜め清涼なものへと変化していた。
怒りに目を曇らせ無闇に力を荒ぶらせることなどはしない。
何故なら彼女の力は何時如何なる時でも誰かを守るために振るわれるものだから。


「それでこそ人間だ。
 では翻って婦警、ならば貴様は何者だ? 人間か? それとも化物か?
 私の僕であるならば決断はできないか? ならば血を飲め婦警!」

血を飲む……、それはすでにと、セラスはそう答えようとしたが……。

「大きな勘違いをしているぞ婦警。
 我々夜族に取って血を飲むということは、死肉を漁り糧を得るなどという屍鬼同然の振る舞いを
 指すのではない。人間の命を、人生を、その存在そのものを自身のものとし、それと共に永劫を
 生きることを言うのだ」

そう。やはり決断していなかったのだ。あの時、あの少女の首に牙を突き立てた時さえも。

「さぁ決断の時だ。覚悟を決めろ。
 血を飲み。唯独りの吸血姫となれ。そして――――私の敵になれ」

瞬間、怪物の手にした黒鉄が号砲を鳴らし、彼女に選択を迫る闘争が開始された。

90 :孤城の主 7/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:43:05 ID:UTY29Yfk
「戒めの風ッ!」
鳳凰寺風は迫る弾丸を風で逸らすと、さらに風を操り怪物を捕らえようとした。だが、
「こんなものか?」
怪物はあっさりとその風の包囲を脱出すると、瓦礫の山から跳躍し三人の前に降り立つ。
「……でしたら、碧の疾風ッ!」
鳳凰寺風がさらに風を操作し、かまいたちが怪物を切り裂く。だがそれでも……、
「ヌルいな。魔女とはいっても所詮子供、アレと同種では貴様の実力も高が知れるか……?」
怪物が口にするアレが何なのか一瞬で彼女は察した。その挑発に冷静であるべきとする理性を
打ち破り、彼女の中の碧の奔流が暴風となって放たれる。
「――風の怒りッ!!」
周囲の空気を飲み込み瓦礫の中に巨大な竜巻が立ち上がる。かまいたちを伴う激しい暴風は
怪物だけでなく近くの何もかもを巻き込んで切り裂き吹き上げる。

鳳凰寺風の全ての魔力を注ぎ込んだ破壊の嵐。それに彼女自身は怪物の倒破を確信したが、
「そ、そんな……」
吹き荒ぶ風が去った跡に、その前と同じく怪物は立っていた。怪物は自身の身体に刻まれた
傷を検分しながら一歩ずつ近づいてくる。
「貴様はあの炎の魔女に比べるといくらかは長けているようだな。で、次は何を私に見せる?」
迫る怪物に次の手を思索するが、聡明な彼女が出した答えは―― Nothing(無)
挑みかかったこと自体が失策だったと悟る。いくら気丈を装うとも、一緒に戦った二人の親友を
失ったことは彼女自身も気づかぬ内に彼女から冷静さを奪っていたのだ。

「やめてください! マスター」
鳳凰寺風の直前にセラフが手を広げ立ち塞がる。
「……こ、こんなこと、別にここでしなくってもいいじゃないですか。
ここにいるのは闘える人ばかりじゃないんです。だから、ここからは帰りましょう……マスター」
だが、返答は残酷なものだった。
怪物の抜き手がセラスをそしてその背後の鳳凰寺風も諸共に貫く。
「マ"……ス、ター……?」
「だからなんだ婦警? 闘争の場に立てば選べるのは抗うか諦めて死ぬかだけだ」
返答を終えると怪物は二人を、興味を失くした玩具のように瓦礫の墓穴へと叩き込んだ。
血濡れの腕を一舐めすると、怪物は残る一人の少女に質問する。

「奇しくも、先刻の再現となったな。さて貴様は抗うか? やはり諦めるか?
 それとも再び奇跡が起こることを願い神に祈るか?」

ガチガチと音を立てて魅音の体が震える。
諦めているのか? いや違う。絶望に凍る身体を抗う心が揺さ振っているのだ。
――ほう。と怪物が感心する。少し見ぬ間に。これだから人間は面白い。

(―― クーガー! 今一瞬だけあなたの速さを私に!)
目一杯振り絞った勇気で身体の震えを抑えると、魅音はその手の中の仕掛けナイフを射出した。
抑えられていた強力な発条で飛び出した刃は、一直線に吸血鬼の胸元に吸い込まれ、そして
次の瞬間――――大爆発が起きた。

91 :孤城の主 8/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:43:56 ID:UTY29Yfk
積み上げられた瓦礫の山が灰色の粉塵を巻き上げながら轟音と共に爆散した。
予想だにしなかった衝撃に魅音はただ爆風に翻弄されなされるがままに地面を転がる。
灰塵が再び地面に灰色の絨毯を敷きなおし、粉々に砕けた石が礫となって降り注いだ。

(……な、なんで?)
灰かぶりとなった魅音が自問する。
発射したのは只の金属の刃で爆薬の類が仕込まれていたなんてことはない。例え、仮に
その刃に爆薬が仕掛けられていたとしてもあんな大爆発が起こるなどありえない。
困惑しながら身体を起こす。幸いにもどこかにぶつけたり骨や間接を痛めたということは
なかったらしい。ホテル――いや、もうホテル跡地と呼ぶべきだろうだろう。そちらを見やれば
瓦礫の山は中心が抉れ巨大なクレーターと化していた。
そこにあの化物はいない。再び四散したのか、それとも瓦礫に埋まってしまったのか?

――と、そこにこの爆発の真の原因が降りてきた。
半人半龍の姿を持つ化物。その背に乗った青年。さらに彼の背の上に一匹のブタ。
しかもそのブタは只のブタではなく喋るブタだった。
「お、おい劉鳳。今のはいくらなんでもマズいんじゃないか?」
龍の化物とブタを従える青年の名は劉鳳と言うらしい。
「問題はない。ヤツが断罪すべき悪であることはすでに確認している」
なるほど、私たちを助けてくれたのかと魅音は納得した。よく見れば彼が着ている服は
あのクーガーの物と同じではないか。とするとあの化物が彼のアルターか。
あの怪物が言うとおり、奇しくも先刻の再現となったわけだ。

……ありがたい。あのままだったら間違いなく皆殺しにされていただろう。だから、これは
涙が出るほどありがたい。だけど……、そうだけど……、
「……うえっ! ゲホッ! ゲホッ!」
喉に詰まった埃を吐き出す。どうやら今ので彼らはこちらに気づいたらしい。
そうだろう。最初から気づいていれば今のようなことはしまい。
「おい。眼鏡をかけた少女はどうした。俺達はその子を探しているんだ」
なんと気遣いのない言葉か。クーガーとは180度逆方向の男らしい。

「……死んだ。みんな死んだよ。全部あんたのせいだ」

92 :孤城の主 9/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:44:47 ID:UTY29Yfk
目の前の少女から放たれたあまりに衝撃的な言葉に劉鳳、そしてその傍らのブタは凍りついた。

「な……、なんだって?」
劉鳳の中に先刻のシグナムの言葉がフラッシュバックする。

”――お前の言う正義とは何だ? 目の前の敵を片っ端から叩き潰すことか?”
”それでお前の正義とやらは満たされるのか?”
”そんなことにかまけている間に取り返しのつかないものを失うかもしれないのに?”

「風ちゃんはあんたが来る直前にあの化物に殺された。
 あんたがクーガーみたいに早ければ助かったのに……、そして」
魅音は劉鳳の背後、今は完全に只の瓦礫の山と化したホテルがかつてあった場所を指す。
「あそこにはまだ仲間が残っていたんだ。でも、あんたのせいでそれも死んだ」

劉鳳は絶句――いや、絶望した。
常に自身の正義に忠実に行動してきた。だがこの結果はなんだ?
悪を断罪できず、弱者は見殺し。一度だけでなく繰り返し二度三度と……。
「オ、オレは……」
目の前の少女がこちらに向ける視線は、決して尊敬されるべき法の守護者に向けられる
ものではない。これは決して劉鳳が求めていたものではない。
一体これはなんの悪夢か?

「劉鳳! しっかりしろ」
ぶりぶりざえもんの言葉に劉鳳は気を取り戻す。
相棒であり同じ正義の志を持ったぶりぶりざえもんが、足元から彼の顔を覗いていた。
「ぼーっとしている暇はないぞ劉鳳。わたしたちの使命を忘れたのか?
 あそこに埋まった人間の救出は私に任せろ。何大丈夫だ私は小さいからな、隙間があれば……」
と、ぶりぶりざえもんは早口に捲くし立て始めた。
「……でだ、お前のランタンを借りていくぞ。つまりはこっちは私に任せればいい。
 なあに、私は救いのヒーローだからな。救いを求める人がいるかぎり見逃すことはない。
 で、でだ……お、お、お前は……」
口調が怪しくなるぶりぶりざえもんに劉鳳の眉根がよる。
「ぶりぶりざえもん。一体何を慌てて……」
そこで劉鳳も気がついた。

「あ、あいつをまかせたぞ〜〜ッ!!」
土煙を上げてぶりぶりざえもんは瓦礫の中に消えた。
そして、残された劉鳳と魅音の視線の先には……、

怪物――吸血鬼アーカードが立っていた。

93 :孤城の主 10/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:45:38 ID:UTY29Yfk
「キョン兄ちゃん放してくれっ!」
「ま、まて少年。落ち着けっ!」

ホテルの足元、目の前の坂を登ればそこに到着する。そんな近くまで翠星石を探しに来た一行は
辿り着いていた。
だが、一行――キョン、トウカ、剛田武、次元大介の四人はそこから進めないでいる。
目的としているホテル――いや、すでにホテルそのものは見えなくなっているが――其処から
発せられ周囲に響き渡る銃声と破壊音。戦闘が、しかも明らかに人外の規模で行われている。
そのような剣呑な場所で人探しなど自殺行為に変わりない。
ただ一人、剛田武のみが息巻いて先を急ぎ、それをキョンとトウカが押し止めているという現状だ。

四人がそんな風にしている所に、低く響く一際大きな音を伴い何かが一行の方へと飛んで来た。
それは一行が姿を隠しているビルの壁面に衝突すると、その衝撃で張られた硝子を雨と降らせる。
突然の災難に右往左往する一行を尻目に、壁面をトカゲのように駆け上ると頂上の角を蹴って
再びホテルの方へと飛び去った。

「キョン殿、今のはっ!」
「ああ、間違いない」
竜の化物と制服の青年。見紛うはずもない。昼にあのE-4エリアで二人が見た超人に違いない。
あの直後に起きた大爆発を思い返し二人は青ざめる。益々もってホテルに近づくのは危険だ。
だが――、

「小僧っ! 行くんじゃないっ!」
気づけば掴んでいたはずの手を離れて剛田武は走り出していた。それを次元が追っている。
「あいつッ……」
仕方なく残された二人もその後を慌てて追った。

こうしてさらに奈落の穴へ、狂った王の御前へと新たに四人の人間が足を踏み入れた。

94 :孤城の主 11/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:46:29 ID:UTY29Yfk
共に怪物の餌食となったセラスと鳳凰寺風。
今二人は横に並んで摩訶不思議な空間を歩いていた。

「ホント……すいませんこんなコトになっちゃって」
気づいてからというものセラスは鳳凰寺風に謝りっぱなしであった。なにしろ彼女を殺したのは
他でもないセラス自身のマスターなのだから。
「ですからもうおやめになってください。私はセラスさんを恨んではいませんわ。
 あの人とセラスさんの関係。それがどういったものかは存じませんが、セラスさんが私達を
 騙すような方でないことは短い出会いでしたがわかっているつもりです」

鳳凰寺風は足を止め言葉を続ける。
「セラスさん。私からお願いしたいのは、セラスさんが自分自身から逃げないということ。
 あなたは本当は強い人のはずです。だから前を向いて足を踏み出してください。
 ……そのために勇気が必要というのでしたら、どうぞ私も分を持っていってくださって結構ですわ」

ス……と足を踏み出し、彼女はセラスから離れていく。
「私は私が選び歩んできた道を決して後悔しません。
 ですから、セラスさんも自分が進むべき道を選んでください」

「もしお会いできたら、今度は紅茶をご馳走します」
そう最後に言葉を残すと、最後まで気丈を貫いた彼女は淡い光の中に歩み去った。


「は〜い。お一人様ごあんな〜い」
と、突然セラスの前に中年天使――カラシニコフの精が現れた。
「い、いたんですか……?」
「いたんじゃないデスよ〜……。それより勝手に動いて仕事を増やさないでほしいのよね」
相も変わらず意味不明な物言いに混乱するセラスを無視して中年天使は言葉を続ける。
「ここんとここっちも忙しいんだから。で、あなたもさっさと行くデスよ。あんたはアッチ」
中年天使が指差す先は先程鳳凰寺風が去った方とは違い、禍々しいオーラに満ちていた。
「え? なんかちがうくないですか?」
「ちがうくなくない。あんたはまだ死んでないんだから返って頂戴」
「え!? それって?」
セラスが振り向くとすでに中年天使は短い羽を振って去って行った後であった。


(……自分の道)
セラスは瘴気渦巻く道の前に立とその一歩目を踏み出した。
「風ちゃん。私、風ちゃんの分も頑張るから天国から応援しててね」
セラスは現世へと帰還する。その彼女の背には碧色の清涼な風が吹いていた。

(……そういえば魅音ちゃん大丈夫かなぁ、マスターと二人っきりで)

95 :孤城の主 12/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:47:19 ID:UTY29Yfk
形ある物を壊し、壊れた物をさらに壊す。台風の様に周囲を破壊の嵐に巻き込む化物同士の戦い、
それを見て無力な魅音はただ己に降りかかる不条理を呪うばかりであった。
振り回しに振り回されて、やっと自身の足で歩こうとした所にこの仕打ち。
一体自分の何所が悪かったのか……

「魅音姉ちゃんっ!」
突然かけられた声に心臓が跳ね上がる。その声は、その声の主は忘れもしない。
ついに自分も此処で終わりか。そう覚悟して振り返ったが……、
「武……?」
振り返れば彼が凶器を振り上げている。その魅音の予想は外れた。
「よかった……。魅音姉ちゃんが無事で」
そこにあったのは目尻に涙を浮かべ、彼女の無事を安堵する仲間の姿だった。
そしてその後を、深緑のブレザーを着た青年。よれよれの黒スーツの中年。そして罰ゲームなのか
鳥の羽を頭に付けたコスプレの女性という三人が駆けつけてくる。

「俺達ずっと姉ちゃんを探してたんだ」
「私を……?」
そうか。そうだったのかと魅音は理解した。
あの時、あの惨劇の瞬間。少年も自分と同じで怖かったのだ。ただそれだけだったのだと。
つまり、彼……そして彼らはまだ自分の仲間なのだと。
大きく安堵した魅音であったが、次の武の質問に再び心が凍りついた。
「ところで姉ちゃん。翠星石は一緒じゃないのか?」

「ど、どういうこと? 何を言ってるのかわからないよ武。あいつは敵だよ?
 私達を騙して梨花を殺した悪いヤツなんだよ。それなのになんで……」
再び魅音の中の暗い部分で疑心が渦を巻き始める。
「誤解だよ姉ちゃん。あいつは悪いヤツじゃないんだ! きっとアレも事故だったんだ」
武が熱弁する。だが、それには理屈も何もない。ただ彼女を信じたいという気持ちだけだ。
「じゃあ……」
「ホテルん中に翠星石がいたはずなんだ。俺たちはそれを探して……」
その言葉に魅音の心の中でピシリと音がして何かが割れた。そこから黒いモノがこぼれだしてくる。

「ハ、ハ、ハ、ハ……、いい様だ」
魅音は灰色の瓦礫の山を指す。それを見て剛田武の顔が青褪めた。
「そ、そんな……嘘だろ。姉ちゃん」
魅音は顔を歪めけハ、と息を吐く。
「梨花を殺したから。みんなを裏切ったから罰が下ったんだ。だから潰されて死んだ。
 悪い奴なんだから当然だ。早くあんたも目を覚ましな!」
翠星石の死。そしてそれよりも目の前の魅音の変化に剛田武は戦慄していた。
「姉ちゃん…………」

感動の再会のはずがなにやら不穏な空気を帯びてきた。
目の前の少女は大暴れしている連中とはまた別の意味で危険な人間のようだ。
どっちにしろここからは早々に退散したい。キョンがそう思った時、彼の目の前に大きな音と共に
何かが落ちてきた。

瓦礫を押しのけコートについた埃を払いながら立ち上がると、それはこう口を利いた。

「今夜の夜宴にドレスコードはない。貴様達を歓迎するぞ人間」

96 :孤城の主 13/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:48:11 ID:UTY29Yfk
歓待の言葉と共に化物の腕が跳ね上がり、キョンの頭部にその手に握られた銃口を向ける。
彼がその死を覚悟した刹那――!

白刃が閃き怪物の腕を銃ごと斬り飛ばした。
「某。キョン殿を護る一本の刀ならば、彼に傷一つつけることあたわず」
鞘から走った五尺余りの刀が月の光を反射し煌いた。
二度あることは三度あるではなく、これが三度目の正直であったことをキョンは神に感謝した。

同時に0.3秒の早撃ちが怪物の顔面を射抜く。
「わりーが、早撃ちはこっちの十八番なんだ」
.454カスールから発射された13mm爆裂鉄鋼弾は轟声を伴い化物の頭部を破壊した。
次元大介の初めて見せた早撃ちに、キョンは驚愕すると共に彼が敵でないことを神に感謝した。

キョンが何所の物とも知れぬ神に惜しみない祝辞を送っている中、かつては狂信者であった
化物は血飛沫を撒き散らし倒れ――なかった。
斬り飛ばされたはずの腕が舞い戻り、弾けた頭から吹き出す血がざわめき頭の形を取り戻す。
その異常に驚愕する五人を再生した魔眼で一瞥すると地を踏み叩き背後へと跳躍した。
その次の瞬間、化物がいた位置に絶影の丸太のように太い尻尾が叩き下ろされる。
続けて五人の前に、自身への憤りを断罪の炎へ転化して闘う劉鳳が降り立ち宣言した。

「お前達は黙って見ていろ。アイツは俺が断罪する」

逡巡する五人の目の前から劉鳳と絶影の姿が消え、次の瞬間には怪物の直上へと現れた。
ジャッカルから放たれる弾丸を縫うように動いて回避するとその尻尾を振るい一撃を加える。
強烈な一撃を喰らい横様に吹き飛ぶ化物を追って絶影はさらに加速。疾風で降り積もった灰を
散らしながら怪物に追いつくと両拳の連激を容赦なく叩き込む。

さらに吹き飛んだ怪物は途中で一転し体勢を整えると、通りを超えビルの壁面に着地。
そのままの姿勢でジャッカルを連射し、それを避けて肉薄した絶影にカウンターの一撃をぶつけた。

怪物の鉄拳をまともに受けた絶影が夜空を滑る。数十メートルの距離を吹き飛んだところで
姿勢を回復すると、お返しとばかりに怪物へ向け絶影の持つ副腕――剛なる右拳・伏龍を発射した。
ドリル状のそれは吹き飛ばされた距離を逆に辿ると怪物ごとビルを爆砕した。

広がる粉塵の中から怪物が飛び出し、蒼い月を背中に空を突っ切り絶影へと肉薄する。
自らを弾丸と化した怪物を絶影は太い尻尾で弾くと、地上へと落下するそれに向けて触鞭を伸ばし
追撃するが、怪物は逆にそれを捕まえひと引きで絶影を地上に叩き落す。

半身を地上に埋めた絶影へ向かって怪物がジャッカルを撃つ! 撃つ! 撃つ!
襲い来る弾丸を絶影は両腕で防御するが、その常識外れの威力にアルターが弾け粒子と散った。

体勢を立て直すべく上空へと逃げようとする絶影にさらに怪物は撃つ! 撃つ! 撃つ!
よろける隙に怪物は壁面を三度蹴って同じ高さまで跳躍し絶影に取り付くと、振り払わんともがく
絶影の胸に、鉄をも紙のように切り裂く手刀を叩き込んだ。
そして、そのまま一緒に墜落するとその怪力で絶影を解体していく。

ほどなくしてそのダメージに絶影がアルター化を解かれ姿を失う。
同時に宿主である劉鳳は口から血を吐き膝をついた。

97 :孤城の主 14/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:49:03 ID:UTY29Yfk
「どうした? 昼の時と比べるとずいぶん――『弱い』ようだが?」

傷ついた身体をまるで陽炎のように揺らめかせながら、ゆっくりと一歩ずつ怪物が劉鳳に近づく。
逆に劉鳳は口から荒い息を吐き、そこから一歩も動くことができなかった。

真昼の闘いとは逆の展開が進行していた。
夜を迎え怪物は力を増し、逆に劉鳳は長時間の真絶影の顕現で力を消耗している。
そして何より、今の劉鳳には昼にはなかった迷いがある。
己が正義を見失い、道を迷っている。迷いがあれば拳は力を失い判断は遅れる。

「残念だが、期待外れだったな貴様は……」
ジャッカルの銃口が劉鳳の頭を捕らえ発射された――が、それは彼の命を奪うことはできなかった。
「なんだ貴様は?」
間一髪で劉鳳を押し倒し凶弾から命を救ったのは一匹のブタだった。

「ぶ、ぶりぶりざえもん……?」
力なく言葉を発する劉鳳の前に立つのは姿を消していたぶりぶりざえもんだった。
「任せたといったのになんという様だ劉鳳。
 おかげでお助けするために出てきてしまったではないか」
怪物の前にぶりぶりざえもんが立ち塞がり名乗りを上げた。
「わたしはぶりぶりざえもん。人呼んで、救いのヒーローだ」

「ククッ……、ハハハハハ……」
怪物が身体を震わせ笑う。
何万何十万の敵と対してきた彼ではあったが、畜生に前を阻まれたのは初めてのことだった。
「いいだろう。貴様も私の敵だ」
銃口がぶりぶりざえもんを指す。だが、ブタは決して動揺してはいなかった。
「やいバケモノめ。追い詰められているのはおまえだと気づかんのか?」

――? 怪物の中に生まれた一瞬の意識の空白。その時再び白刃が閃いた。
怪物の身体に真新しい太刀筋が刻まれる。
「某はエヴェンクルガ族の武士――トウカ。義により助太刀いたす」
いつの間にかに間合いを詰め鞘に収めた物干し竿を構える彼女が其処にいた。

轟音が空気を引き裂き怪物の手から武器を奪う。
銃声の元には帽子のつばから鋭い眼光を覗かせニヒルな笑みを浮かべる男がいた。
「乗りかかった船だ。やっこさんを倒すまではつきやってやるよ」

ダキュン!
聞き覚えのあるあの銃声と共に化物の身体が引っ繰り返った。
地に伏した怪物の傍らには、冷酷無比のころばし屋がそのサングラスに月光を受けて立っている。
「よし! 聞いてた通りあいつがアーカードだ」
次元の隣で小さくガッツポーズを取るのはSOS団雑用係のキョンだ。

さらにダキュン! ダキュン! と転倒を繰り返す怪物が突風によって劉鳳の前から遠ざけられる。
キョンの隣には協力して風神うちわを一生懸命振る魅音とジャイアンの姿があった。
「あいつだけは絶対に倒さないといけないから」
「おう。もうぜってーゆるしてやんねー!」

98 :孤城の主 15/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:49:54 ID:UTY29Yfk
ありったけの小銭を突っ込まれたころばし屋に、銃を失い悪戦苦闘している怪物を全員が懸命に
攻撃する。その様を劉鳳は狐につままれたような目で見ていた。

「ぶりぶりざえもん、これは……?」
一転して救われる状態となり、戸惑う劉鳳にぶりぶりざえもんは胸をはって答えた。
「劉鳳、これはわたしの日頃の行いがよいせいだ」
ぶりぶりざえもんのあまりの自信に劉鳳はさらに戸惑いを深める。
「人をおたすけするものは、また人におたすけされる。わたしはそれをここで学んだのだ」
ぶりぶりざえもんは改めて劉鳳の目の前で胸をはる。
「それが、お前の見つけた正義の真髄……?」
「わたしの場合は”救い”の真髄だ」
疲弊した身体に力を込めると劉鳳は再び地面に立った。その傍らに絶影が現れる。
「俺も見つけてみせる。俺の正義の真髄を!」


ついに全ての依頼料を使い果たした忌々しい玩具を一撃で踏み潰すと、地を影と走り己が
愛銃をその手に取り戻し怪物は跳躍した。
自由を取り戻した怪物を見て、人間達は彼から遠ざかる。

再び瓦礫の頂点に降り立った孤城の主は自身を見つめる七人の人間を見下ろす。
強者、弱者、生まれた場所も立場も異なる別々の人間達が、その儚い命しか持たぬ人間達が
自分を――この怪物を追い詰める。そして――、

怪物が見やるその一点から緑の奔流が吹き出し被っていた灰を振り払った。

「……婦警。いや、セラス! セラス・ヴィクトリア!」

そこには独りの吸血姫――セラス・ヴィクトリアがいた。
彼女の腕に抱えられた鳳凰寺風の首には吸血の証である二本の血筋が流れている。
血を通じて得られた鳳凰寺風の力、記憶、そして意志――それらは本来よりも極僅かなもので
あったが、セラスを再び戦場へと後押しするには十分なものであった。

セラスは鳳凰寺風の身体を降ろすと、再び怪物へと視線を向ける。また、怪物もその視線を受け止めた。
「マスター……、いや、アーカード! 私は私の道を行きます」
「セラス・ヴィクトリア……。ならば、私が最初の試練だ。見事乗り越えて見せろ」

ジャッカルの銃声が満月の下に鳴り響く、それが闘争の開始の合図となった。

99 :孤城の主 16/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:50:45 ID:UTY29Yfk
怪物――吸血鬼アーカードはこの場においてかつてない闘争に心を歓喜に震わせていた。

今宵の夜宴は盛況だ。魔女が敷いた陣に召喚されたは我か彼らか。我が供物か彼らが供物か。
さぁ、人間共。城壁を登れ。城門を叩け。侵略しろ。殺して奪え。そして――私に滅びを運んで来い!


「疾風〜ッ、怒涛ぉぉぉ〜〜〜ッ!!」
雄叫びと共に碧の風を纏ったセラスが疾走し怪物の身体に拳を叩き込む。
先刻まで従者であった者の拳に吹き飛ぶ怪物は、さらにそこから奔った真空の刃に弄ばれ
血を撒き散らしながら瓦礫の山へと落ちた。

「HAHAHAHAHAHA!!」
僕の反逆に歓喜の声を上げながら飛び出すと、怪物はその手に持つ巨大な拳銃で人間達を襲う。
四方八方に撒き散らされる弾丸は一度に全員の命を奪うことが可能であったが、劉鳳の操る絶影の
触鞭が縦横に走りこれを弾き落とした。

怪物はそのまま壁面に着地すると、重力を無視したかのように縦横無尽に走り回る。
さらにそこから跳躍し街燈の上を跳んで渡る怪物を、次元大介の放った一撃が叩き落すと
セラスから預かったAKを振るう魅音が追撃を加えた。

降り注ぐ銃弾に身を弾けさせながらも怪物は疾走し、人間達を強襲する。
怪物の顎がまさにキョンを捉えようとした時、三度白刃が閃きそれを阻止した。
五尺を超える常識外れの刀を振るい、トウカの剣術がさらに二太刀、三太刀と怪物に傷を
刻み込むと、剛田武の振るう団扇が暴風を巻き起こし怪物を押し返す。

追いついたセラスが怪物の襟首を掴み、引っこ抜く様に遠投。放物線を描いて人間達から
引き離された怪物は、着地点に追撃をかける絶影の一撃をジャッカルの弾丸で凌ぐと今度は
地を縫う様に疾走する。

常識外れの反動に痺れる腕を叱責しながら次元大介が掃射を加えるが、怪物はそれを瓦礫の
中を縫うように走って回避し、更に避け際にジャッカルを発射して牽制する。
影に隠れた人間を襲わんと動きを一直線に変えた怪物の前に風を纏ったセラスが立ち塞がる。

正面から衝突し互いに吹き飛ぶ吸血鬼同士。セラスは風の力で空中を踏むと反転し怪物を追う。
風神の団扇が起こす風に自身を乗じて更に加速すると、碧の弾丸と化した身体を捻り螺旋の動きを
加えて怪物に衝突した。

巻き起こすカマイタチに身を削られながらも怪物はそれを受け止め、向きを逸らして瓦礫の山に
叩き込んだ。瓦礫に埋もれたセラスを捨て置き血の線を引きながら再び強襲する。
魅音の構えるAKの弾雨を微風のようにやり過ごすが、次の.454カスールの一撃に失速し、
続け様の一撃に頭を失った。さらにその直上に現れた絶影の尻尾の一撃が怪物を叩き潰す。

動きを止めた怪物に更に追撃が加わる。だが、それでも怪物は死なない。


黒くざわめく身体を地に這わすと影のように疾り落ちた手足を回収。再び人の形を取り戻すと
さらに人間共を追い立て、それをさらに人間共が追い立てる。
そんな闘いが長く続いていた。俯瞰して見れば人間側が圧倒的に有利であったが、
誰も怪物に対して決定打を加えることができず、じょじょにその形勢は怪物側へと傾きつつあった。

100 :孤城の主 17/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:51:36 ID:UTY29Yfk
瓦礫の中に怪物が自ら逃げるように飛び込み、人間達がそれを包囲する。
闘争の合間の一瞬の静寂。だが、それは次の瞬間戦慄に変わった。
再び姿を現した怪物が何かを咥えぶら下げている。それは瓦礫押し潰され死んだばかりの
野原みさえの亡骸だった。

「この――――毒虫がぁぁっ!!」
迫り来る絶影の前で、みさえの亡骸を首の動きだけで放ると怪物はカウンターの一撃で絶影を
押し戻し、さらに喉から下品な音を立てながら後ろ様にジャッカルを連射。背後に迫るセラスを
射ち落とした。

血を飲んだ怪物は次元と魅音が張る弾幕を掻い潜り急接近。正面に立ち塞がったトウカの一閃を
わざと胴体に受け身体の中に封じると、拳の一撃でそれを叩き折る。さらにもう一撃でトウカの首を
飛ばそうとしたがこれは空を切った。

「かたじけないキョン殿」
寸でのところでキョンに身体を引かれ窮地を脱したトウカが、今度は逆にキョンの手を引いて逃げる。
その背中を撃とうとする怪物に、再び絶影が強襲を仕掛け彼らの危機を救った。

怪物は振り下ろされた尻尾を掴み取ると、そのままスイングし宿主である劉鳳へと向けて
放り投げる。劉鳳は衝突する瞬間にアルター化を解くが、その衝撃で吹き飛ぶ。それをセラスが
空中で捕まえ救い、追撃の銃弾を風の障壁で逸らした。

怪物は人間達の陣地の中央に位置取り、ジャッカルの弾丸を振りまく。
その対フリークス用として作られた弾丸は壁にする瓦礫諸共人間達を襲い、彼らを逃げ惑わせた。

「ちくしょうっ……!」
倒れてきた瓦礫に足を挟まれた剛田武は不幸に毒突き、その痛みに身悶えた。
「武君!」「小僧っ!」
仲間の窮地に気づいた魅音と次元がその元へと駆け寄り、彼をそこから救い出した。
「ありがとう姉ちゃん。おじさん」
「礼は後だっ」
次元がジャイアンに肩を貸し、魅音が援護しながら別の瓦礫の影へと後退する。そして、セラスが
怪物に飛び掛った隙に三人はそこへと飛び込んだ。

101 :孤城の主 18/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:52:27 ID:UTY29Yfk
「まったく、とんだインチキ野郎だぜ」
次元は瓦礫の影で空になった弾倉を落とすと、スライドを引きその中に残った弾丸を確認した。
(……これが最後の一発か)
果たしてこの一発の弾丸でどうにかなるものかと次元が思った時、彼の目の前に大きな箱が
滑り込んできた。
「それを使って!」
魅音が寄越したその箱の中には拳銃からライフル、その他重火器の分も含めて様々な弾丸が
詰められており、次元はそこから.454カスールの弾丸を見つけるとその弾倉を銃にはめ込んだ。
「助かる!」
「礼ならセラスに言って。彼女の物だから」
言いながら魅音もAKに新しい弾倉をはめ込むと、真新しい弾丸を発射して前衛の二人を援護する。
次元もそれに加わるが、魅音も彼も先の見えない不安に心半ばまで蝕まれていた。
(……いい加減くたばり時じゃあねえのかよ)

三人が隠れる瓦礫の影に、更にキョンとトウカが滑り込んでくる。
「大丈夫ですかっ!」
「大丈夫も何も、どうもこうもだよ」
全く見えない先行きに焦燥が募る次元の言葉は膠も無いものだ。怪物との戦闘が始まってすでに
一時間を回っており、極度の消耗に全員が神経を磨り減らしていた。

「それよりも、キョンは小僧の手当てを頼む……って、トウカ。刀はどうした?」
「……面目ない」
半ばで叩き折られた刀を持ってトウカは頭を垂れる。
「しゃあねえなぁ……」
次元はそんな彼女を見て嘆息する。そして眼に決意を浮かべると四人に語りかけた。

「キョン! 俺が援護するから小僧を担いで逃げろ! トウカは二人を頼む」
そして首を回して反対側にいる魅音にも声をかける。
「嬢ちゃんもアイツらと一緒に逃げな。こんなとこで命を捨てるこたないぞ」
だが彼女の返事は、
「イヤだ。もう逃げないってクーガーと約束したんだ。それにアイツだけは絶対に許せない」
言葉と共にAKから怪物へと弾丸が放出される。10歳児でも訓練なしに扱えるのが売りの
AK-47だが、彼女の扱い方は堂に入ったものだ。そうは見えないのにどういった人生を歩んで
いるのか。
そして、その反対側からの答えも同様のものだった。
「仲間を残して逃げたりなんかできませんよ。そんなことしたら後でハルヒに殺されます」
次元大介は大きく息を吐いた。そういえばそろそろ煙草が恋しい。
(揃いも揃って頑固者の大馬鹿野郎ばっかりだな……)
瓦礫から身体を出すと怪物に狙いをつける。
「……まぁ、俺もなんだけどよっ」
銃口から吐き出された弾丸が更に一つ怪物に傷を増やした。

102 :孤城の主 19/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:53:18 ID:UTY29Yfk
前衛で怪物と直接対峙している二人ももう限界が近づいてきた。

「くうっ……!」
太腿に突き刺さった鉄骨を抜きセラスが苦痛を洩らした。小さな傷口は吸血鬼の再生能力で
すぐに塞がるが、貫かれた痛みはその中に残る。
セラスは頭を振って意識から痛みを追い出すと、未だ健在の怪物を追う。

怪物に迫ろうと跳躍したところでセラスの身体が失速し、そのまま地面に叩きつけられた。
鳳凰寺風の血から得た緑の風の力もセラスに定着せず、遂に消費され失われてしまったのだ。
叩きつけられた衝撃で全身に受けた傷が開いて血が滲み、彼女の口から呻き声が漏れる。
そこへ容赦なく怪物の弾丸が飛び込んでくるが、それは絶影の触鞭によって辛うじて弾かれた。

「……ハァ、ハァ、ハァ」
その絶影も今や真の力を解放した状態ではなく、消費の少ない力を抑えた状態へと戻っていた。
アルターを操作する劉鳳の体力もすでに限界を突破しており、今はその悪に立ち向かう気力のみで
維持しているという状態だった。

翻って、対する怪物はどうか?
一見すると全く消耗している様には見えないが、やはり彼も限界近くまで来ていた。
力も速さも最初とは見劣りし、傷の再生力も落ちている。再生途中の傷が靄の様に広がりまるで
漆黒の外套を靡かせているように見える。


永い闘いの時は終息に――滅びの時へと確実に近づいている。
――人間共が怪物を討ち倒し凱歌を挙げるのか?
――それとも、怪物が人間共を撃退し全てを土の下へと葬り去るのか?

そんな闘争の場に、ある決定打を持った最後の人物が近づいていた。

103 :孤城の主 20/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:54:09 ID:UTY29Yfk
フィルムに隠された謎を解くべく映画館を自転車で出発したトグサと長門有希は、一路市外中心を
目指していた。
フィルムに映った風景はこの会場全体に広く分布しているように見受けられたので、闇雲に動くよりも
まずは二人が知っている場所から回って行こうという方針を立てたのだ。
映画館から来た道を戻って南に向かい、病院を通り過ぎた向こうの橋。そこを脇に下りた川原で
最初の情報――映像と同じアングルでの画像を長門が収集すると、その先のオフィス街、ビル、
道路と経て二人は途中レジャービルへと立ち寄った。
だがそこで期待していたキョン達との再会はなされず、現在はホテルへと自転車を向けている。


ほとんど重さを感じさせない長門有希を後ろにトグサは自転車を漕いで、無人のレジャービルより
ホテルを目指している。
映画館を出てまだ数十分だが、幸いにもすでに四箇所――川原、オフィス街、ビル、道路の情報を
得ることに成功している。もっともこれはすでに知っている場所であったからで、他の場所については
一から探さないといけないためはるかに時間がかかるだろう。
「遊園地」や「寺」そして「駅前」などは位置は離れているものの、地図にその場所が記載されており
場所の特定は容易だが、逆に「公園」や「商店街」などはてこずりそうだった。
特に”信号機”。これは中途半端にズームで写っており、どこの信号機なのか、今の二人には見当も
つかなかった。

そしてレジャービルより数分、もう到着まで間もなくというところで二人は倒壊して失われたホテルを
現実に確認した。倒壊した際に流れ出た粉塵のせいか、周囲は灰色に塗れている。
トグサの心中は穏やかではない。セラスをあそこに残してきてしまっている上、あそこにはバトーの
死体があるのだ。セラスを探したい、バトーを弔いたいという気持ちもある反面。セラスにどう謝罪
すればいいのか、頼りになる仲間の死を現実にしたくないという気持ちもあった。

と、そんな気持ちを抱いているトグサの耳になにやら物騒な音が入ってきた。
顔を上げホテルがあった場所を見上げると、どうやらその周辺で何かが飛び回っている。
聞こえるのは銃声と破壊音だ。
「お、おい。なんだありゃ。あんなのもいるのかよ」
空中で交差しながら戦っている様は、まるでタチコマ同士の空中戦のデモンストレーションの様だ。
「あそこに向かって」
自転車を止めたトグサを長門有希が進むよう促す。
「長門。装備もなしにあんなドンパチに突っ込むのは無謀だ。ここは一旦引いて……」
反論するトグサであったが、長門有希はそれを無視して言葉を続けた。
「あそこで戦闘をしている存在は三つ。
 一つは、未確認の存在。
 一つは、外見的特徴から友好的存在である、セラス・ヴィクトリア。

 そしてもう一つは、――私の敵」

そして数分後、全てを巻き込む奈落の穴に最後の二人が足を踏み入れた。

104 :孤城の主 21/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:55:01 ID:UTY29Yfk
瓦礫の山が積み立ち、その所々に破壊の傷跡が散見できる。土煙が上がり空を銃声と破壊音が
占める様はまさに戦場だった。

「あそこ」
長門が指差す先には瓦礫の影に隠れる五人の姿があった。その中には見知った顔である
次元大介がいる――となると彼らがどういった集団か推理するのは簡単だった。

「君がキョン君か?」
腰を低くして戦場を突っ切り、トグサが五人が身を隠す瓦礫の影へと滑り込む。
「その声は……トグサさん? ――それに長門!?」
キョンは予想外の仲間との再会に驚いた。しかし、先立ったのは喜びよりも疑問の方だった。
映画館にいたはずの彼らが何故ここにいるのか? そしてハルヒはどうしていないのか?
「なぁに、ちょっとした情報収集でね。それを話すと長くなるんで説明は後にするよ。
 それと彼女達はまだ映画館に避難している。まだ眠っているだろう。
 ――で、こちらの状況は? あまり穏やかな雰囲気じゃないが」
「あの赤い化物が俺たちの敵で、それ以外は味方です」
「解りやすい説明、どうも」
間髪おかずに帰って来た答えに状況を把握すると、トグサは後ろに控える長門を振り返った。

「で、どうする? 何かこの状況をクリアするいいアイデアが?」
「ある」
今度も間髪おかずに答えが返ってくる。ハルヒといい彼らといいSOS団の人間は中々せっかちなようだ。
「説明してくれ」
トグサはその先を促した。

「あのアーカードと自らを呼称する存在を撃破するにはその存在の核――彼の言う心臓を破壊する
 必要がある。
 なので、私が彼の動きを封じ心臓の位置をスキャンしてあなたに電脳を通じて場所を伝える。
 あなたはそれを打ち抜いてくれればいい」

説明はわかりやすく簡単だ。だがしかし、
「できるのかそんなこと?」
トグサの疑問に長門は表情を変えずに補足説明を加えた。

「正午前にあった彼との戦闘中の発言および戦闘内容から、彼の体内に存在する核を破壊すれば
 倒せるという確度は高い。
 また、正午より蓄積を開始した構成情報を使用すれば最悪の場合でも四秒は足止めできることを
 期待できる。
 スキャニングは足止めと併せ直接接触によって行う。彼そのものは構造を解析することは現在の
 私には不可能だが、ギガゾンビの用意した首輪は別。
 彼の体内にそれを発見できればそこが弱点と見て間違いない」

長門有希の説明は論理的だ。だがしかし……、
「それじゃあ、長門のリスクが高すぎる。それに俺の銃には弾丸が一発しか入ってない」
まるで特攻を思わせる無謀な作戦をトグサは否決しようとするが、

「問題ない。この付近で確認できている敵対的存在は彼のみ。今私が倒れても影響は少ない。
 それに、元々チャンスは一度きり。予備弾薬の数は問題にならない」
「失敗したら?」
「しない。私も。あなたも」

言うが早いか長門有希は瓦礫の影を飛び出す。
論議の猶予を持たない長門に舌打ちしつつトグサも狙撃体制を取り、長門有希との電脳通信を開いた。

この大胆と無謀のギリギリのラインを緻密になぞる行動パターン。それにトグサは今は亡き少佐を
思い浮かべた。

105 :孤城の主 22/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 15:55:52 ID:UTY29Yfk
「長門を援護してくれ」
まだ接触までに距離を有する彼女のためにトグサが援護を要求する。
「あいよ」
再び出会った男の要請を次元、そして魅音も快く引き受け怪物に弾雨を浴びせた。
「――で、あの嬢ちゃん。大丈夫なのか?」
次元の最もな疑問をキョンが受ける。
「ええ。人間離れしてるってなら、アイツが一番そうですから」
その言葉の中に強い信頼を感じ取った次元は、手にする銃からさらに援護の一撃を放った。


鉄拳を振るいセラスを再び瓦礫の山へと沈め、ジャッカルの弾丸でついに絶影を捉えた怪物が
新しく場に現れた長門有希に気付き顔を綻ばせた。

「お前も――『魔女』か。今日はつくづく魔女に縁がある」

半日ぶり再び対峙する怪物と魔女。

一方はその顔に童のように喜色を浮かべる。だが逆に内面は翁のように最後を求めていた。
もう一方は鉄のように無表情。だがその内面は未だかつてないノイズの嵐に満ちていた。

ここにいる全ての者が注目する中、両者は一歩一歩静かに歩み寄る。


――滅びだ。これが夢の狭間で待ち望んだ滅びの告げる者だ。
――もう私の中には何もない。私の城も兵もその全てが失われた。
――後は、この滅びを告げる者が私の寝室をノックすれば…………。


接触するまで後数歩。そんな場所まで来た所で怪物が腕を跳ね上げ拳銃を撃つ。
空中に魔女の帽子だけを残すと、長門は低い姿勢から一気に怪物へと肉薄した。
それを押し潰さんと振り下ろされた怪物の拳を片手で受け、さらにもう片方の腕を伸ばし銃を
持った腕を封じる。

一瞬で四つに組んだ状態に持っていった長門の口から特殊な高速言語が発せられ、彼女の
中でこの世の原理を書き換えるコードが組上げられる。

「呪文か!」
気付き逃れようとするがすでに怪物の身体はピクリとも動かない。
「当該対象の絶対座標軸よりの移動を封鎖。並行して構造解析を開始」

接触してから一秒たらずで長門有希の体温は高付加により43度まで上昇していた。
安全装置により処理に規制が掛かろうとするが、長門有希はこのフェイルセルフを自身で解除。
さらに体温は44……45……46……と急激に上昇していく。

接触した場所から解析用の枝が怪物の中へと伸びる。
彼女にとっては未知の情報で構成された存在。既知の存在に例えるなら怪物の中はまさに宇宙だった。

さらに体温は上昇。すでに有機生命体が活動を維持できる限界を超え、その雪のように白い
表皮が熱に捲りあがり始める。
相対する怪物は彼女の目の中に決死の覚悟を汲み取り悦ぶ――やはり貴様は人間だ。

そして、その深く広い闇の中で彼女は遂に目的の「首輪」を発見した。

106 :孤城の主 23/32:2007/03/24(土) 15:56:43 ID:UTY29Yfk
接触開始より1.2秒で怪物の体内に首輪に該当する物質を発見。電脳を通じてトグサの眼に送られるまでは
コンマ一秒以下で終了。情報を受信したトグサは0.4秒かけて照準し次の瞬間に最後の弾丸を発射した。


――寝室の扉を開けた私の胸に白木の杭が……


そして、発射された弾丸はコンマ一秒以下の速さで銃口から心臓までの空間を渡り……、
怪物――吸血鬼アーカードの心臓を貫いた。

こうして狂愛の魔女によって始まった怪物を呼び出し不幸を撒き散らす夜宴は、
もう一人の秩序を齎す魔女の手によってそれを終えられた。



万遍なく瓦礫が散らばったホテルの敷地内。完全に沈黙を取り戻したその中のいくつかの場所。
傷つき倒れた、あるいは死に瀕している者達の元へそれぞれ親しい人が駆けつけた。



吸血鬼アーカード。彼の元へかつては彼の僕だった吸血姫が駆け寄る。
「セラス……ヴィクトリア……」
もうその声には以前のような力はこもってはいなかった。
「マ"、マ"ズダァ〜……」
かつての主の滅びにセラスは彼の手を握り涙を溢す。
「……お前は自分の、道程を……、自ら選び取った。もはや私は貴様の、主人……ではない」
それでもなお、セラスは滅び行く彼をマスターと呼び涙を溢す。
「フ……、この未熟者め。だが、すでに独りの吸血姫であるならば……お前は独りで行かねばならん。
 ……私は、先に地獄で待っているとしよう……。奴が先に逝っているのなら……退屈はしまい」
セラスの掌からアーカードであったものが零れ落ちる。

――塵は塵に。

セラスにとって彼は、厄災を運び込む者であり。闇に引きずり込んだ張本人であり。主人であり。
先を往く師であり。新しい家族であり。最後には仇であった。
そんな彼は塵となって彼女の前から姿を消し、そこには彼女が流した涙と存在を証明する
銀色の首輪だけが残った。

そんな彼女を離れた位置で見ていたのは魅音だ。
セラスと怪物にどのような思惑があったかは彼女にはわからないが、死闘を経て彼女の中の
セラスへの疑惑は払拭されていた。
泣き暮れる彼女を背に魅音は瓦礫の山を降りた。

107 :孤城の主 24/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:00:11 ID:UTY29Yfk
打ち立った瓦礫に背を預け戦後の休息を取る劉鳳の元へ、何時の間にかに姿を消していた
ぶりぶりざえもんがその姿を現していた。
「お前、どこに行ってたんだ……」
完全に消耗しきった劉鳳の声は弱弱しかったが、逆にぶりぶりざえもんはまだ元気そのものだった。
「うむ。最初に言っただろう? 瓦礫の下に埋もれた人をおたすけすると」
そういえば、と劉鳳は思い出した。怪物から逃れる方便かと思ったがそうではなかったらしい。
だが、成果は芳しくなかったようだ。ぶりぶりざえもんの手にあるのは銀色の首輪のみである。
「間に合わなかったか……」
劉鳳は再び悔恨に歯をかみ締める。
「S……、U……、I…………、劉鳳。これはなんて書いてあるんだ?」
ぶりぶりざえもんの手から首輪を受け取る。どうやら内側に何か彫られているらしい。。
「……SUISEISEKI――すいせいせき、か。この首輪の持ち主の名だろうか」

すいせいせき。劉鳳のその言葉に近くにいた剛田武が反応した。
だが、劉鳳が持ち上げた銀の環を見ると、その顔は見る間に悲しみに満ちた。
「翠星石〜ッ!!」
剛田武は彼女の名前を呼び声を上げて泣いた。少年の純粋な悲しみにそれを聞くものも心を傷める。
だが魅音だけはその後ろでそれを少し醒めた目で見ていた。
武はただの素直な少年で本気で翠星石の死を悲しんでいる。それは理性で理解でき、彼がもう
魅音の敵でないことは明らかだが、やはりそれでも梨花の仇である彼女の死を魅音は悲しむことが
できなかった。ただ、失われるだけという虚しさばかりが募るばかりだ。

あの時散り散りになった三人は、こうしてそれぞれにとって不幸せな再会を果たした。


横たわる長門有希の有様に、近づいた者の内何人かは思わず顔を背けた。
激しい高体温に曝された身体は表面から湯気を立て、その表面のほとんどがケロイドと化していた。
「長門! お前なにしてんだよっ!」
キョンが長門の側へ膝をつき悲壮な声を上げる。
彼女の時に自分を顧みない性分は知っていたはずだが、それでもまさかと思った。
後ろに立ったトグサも悔恨と苦渋に満ちた表情で彼女を見下ろしていた。

見開いた目は白濁化しており、どう見ても彼女の状態は死を免れそうにない。
だが長門は捲れ上がり真っ赤に腫れた唇を細かく震わせると淡々と言葉を紡ぎ始めた。
それを聞き逃すまいと、キョンとトグサは彼女の口に耳を近づける。

「……切欠はあなたが送ったメールだった」

「何を言ってるんだ長門? ……いや、もしかしてあのメールのことを言ってるのか?」
キョンは思い出す。偶然見つけたノートPCから送ったSOS団宛ての電子メールのことを。

長門有希はキョンの質問を無視し、言葉を紡ぎ続ける。
「涼宮ハルヒを初めとするSOS団団員と、その周辺にいる人物の消失を感知した我々は
 全力でその捜索を行った。だが結果、得られた情報はゼロだった。
 そこにある時あなたからのメールが、唯一残されたSOS団員である古泉一樹に届いた。
 彼はすぐに我々情報統合思念体に協力を要請し、それを元に私達は発信元を特定しようと
 試みたが、完璧な次元の断絶の前にそれは達成できなかった。
 次に試みたのが私自身による私のハッキング。
 その目的は完全に遮断された空間内へと送り込むトロイの木馬。
 私自身の異時間同位体全てに対し並列的にハッキングを仕掛け、結果それは連れ去られる
 瞬間の私に対して微細な成果をあげた。それが今の私。
 そして私自身に仕込まれた構成情報はこの世界に来た瞬間分散し、解析した情報から脱出の
 ヒントを内包したいくつかの物体に偽装される。
 そして、この世界に来た私は私自身が気付くことなく脱出のプロセスを完成させるため
 その偽装されたヒントを集めこの状況をを解決する。
 記憶操作はこの空間の支配者に対する偽装ではあったが、この有機体が使用不可状態に
 陥ったため緊急避難処置として認識操作を解除し、現在情報を伝えている。
 ――質問を」

108 :孤城の主 25/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:01:03 ID:UTY29Yfk
突然の説明に戸惑うキョンより先にトグサが素早く質問する。
「俺が見つけた映像フィルム。アレもやはり脱出のヒントだったのか?」

トグサの質問に長門有希はただ淡々と答える。
「そう。
 この空間を包む次元の隔絶はその強固さゆえに一定の大きさ以上にはなりえない。
 あの映像情報を実際の映像情報と照らし合わせることで、この空間の規模と形を計測することが
 できるはず」
「それは、ギガゾンビが潜む場所への足がかりになるか?」
「可能性はある」
「じゃあ、他にそういったヒントがまだあるのか?」
「可能性は高い」
長門の回答に得心すると、トグサは一歩引いてキョンに質問を促した。

「じゃあ、ちょっとだけ教えてくれ。切欠は俺からのメールだって言ったが、じゃあこのPCそのものは
 一体どこから出てきたんだ?」
デイバッグから黒一色のノートPCを取り出し、キョンは長門に質問する。

それにも、長門有希はただ淡々と答えた。
「そのノートPCはおそらく今回私から発信された構成情報が偽装されたもの。
 そして、今私が連れ去られた時間平面上ではあなたからの電子メールが切欠となっている。
 一番初めにどうやってあなたがそれを発信し私が受け取ったのかは解らない。しかし、何故今そう
 なっているのかは説明できる。
 人類が時間と認識している時間の流れを一次元とした場合、それらは断絶された時間平面の
 連続でしかなく、それゆえに常に一定で介入により一切変化することはない。
 変容するのは二次元目に当たる時間平面の振幅。そして時間次元はこの波を利用し、常に
 安定した時間の有様を求める。結果、三次次元による時間干渉は円環状へと落ち着くことが多い。
 これもその結果」

「……解ったことにしとくよ」
長門有希の不可解な返答にキョンは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「ありがとう。じゃあもう眠ってくれ」
トグサの言葉を受け取ると、長門有希はその唇の震えを止め物言わぬただの屍と化した。
「え? ……どうしたんだ長門? ……トグサさん、コレは一体?」
トグサに問いかけるキョンの顔には激しく狼狽の様が浮かんでいる。だが、逆にトグサの顔は
諦観とも取れる静けさがあった。
「キョン君。彼女は……長門有希はすでに死んでいたんだ。さっきの対決でね。
 今のは彼女の言葉通り緊急のプログラムだ。……そう、今わの際に彼女が俺に伝えてきたよ」
キョンは物言わぬ長門の顔見つめる。
「やっと会えたばかりじゃないか。……なんで、そんな勝手に死んじまうんだよ」
ポツポツと零れ落ちた涙が傷ついた長門有希の顔を叩く。ご都合主義のファンタジーなら彼女は
これで生き返っただろう。だが此処は、この現実は決してそうではないことをキョンは知っていた。


【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】
【アーカード@HELLSING 死亡】
【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース 死亡】

【残り29人】

109 :孤城の主 26/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:01:55 ID:UTY29Yfk
偶然にも居合わせた多数の人間。大きな危機が去り次の行動をどうするか迷う彼らを纏めたのは
その内のほとんどの人間とのコンセサンスを持ち、積極的に脱出を図り人を集めるトグサだった。

「……じゃあ、今病院には怪我をした四人とそこに向かった峰不二子と言う女がいるんだな?」
「うむ、そのとおりだ」
数時間ぶりに再会できたぶりぶりざえもんの報告に、トグサは思案をめぐらせる。

病院は自分達が初めて辿りついた時も襲撃の後が見られ、結局自分達もさらなる襲撃にそこを
追い出されることとなった。このゲームのクリアを自分以外の全員の殺害と捉えている参加者に
とって、そこが絶好の狩場であることはすでに明白だ。
しかし、だからといって重症を負ったしかも複数の人間に動いてもらうのも無茶な話だ。
ならばとりあえずはこの連中、そして映画館に残したハルヒ達を病院に結集させるか……。
病院自体が立て籠もるに適した施設だということは確認済みなのだから、むしろそういった施設を
脱出を目指す人間で占拠すると考えればいい。

決心するとトグサは少し高く積もった瓦礫の上に立ちみんなに声をかけた。

「みんな聞いてくれ。
 改めて自己紹介するが、俺は公安九課に所属するトグサという者だ。
 もちろん俺はこのふざけたゲームに従うつもりはないし従ってはいない。それは君達もそうだろう。
 そこで君達に提案したい。俺たちが一致団結してこのゲームそのもののを破壊するということを」
そこでトグサは一旦言葉を区切り、壇上から見下ろせる彼らがその言葉に耳を傾けているかを確認する。

全員が彼の言葉に耳を傾けていることに満足するとトグサはさらに言葉を続けた。
「そこで提案だ。まずは全員でここから西にある病院に移動したいと思う。
 ここには重症を負った人間がいるし、また病院にも同様に怪我を負った人間が集まっている。
 病院に全員が集まれば互いに手当てをしあい、休息を取ることも容易だろう。
 そして、人数が集まりその知識と知恵を持ち合えばゲームの破壊にも近づける」
最後にどうだろう? と回答を促す言葉でしめトグサは口を閉じた。全員が自分の言葉に乗ってくれる
だろうと彼は思っていたが……、

「少しだけここで待たせてもらえないかな?」
そう提案したのはトグサとは初対面になる魅音だ。
「クーガーとなのはちゃんがもうすぐここに帰って来るはずなんだ。それに……」
魅音は堆く積みあがった瓦礫を見上げる。絶望的と言えども、それが確定するまではここを
動きたくないのが彼女の思いであった。

「その人達はいま何所に?」
「なのはちゃんは、このホテルを多分最初に襲ってたヤツを追って……、そしてクーガーは
 ここに向かってる途中で襲われたシグナムってヤツと闘ってる」
そう答えて、魅音は彼らと別れてからかなりの時間が経過していることに気づいた。

魅音の言葉にトグサは質問を重ねる。
「襲ってきた連中の特徴を教えてもらってもいいかい?」
「最初のヤツはわからない……飛んでいるのが遠目に見えただけだから……。
 シグナムって言ったのは、私みたいに髪を束ねた赤い髪の女だよ」

110 :孤城の主 27/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:02:46 ID:UTY29Yfk
魅音の話すシグナムの特徴にトグサは思い当たるふしがあった。それはハルヒ達を襲いルパンを
殺害した……。

「悪いが俺は先に抜けさせてもらうぜ」
そういって立ち上がったのは次元だ。シグナムが彼の仇であることはトグサも知っている。
「待ってくれ次元。あんたも脱出を目指しているんじゃないのか?」
「それとこれとは別問題なのさ。なあに、てめえの用事が済んだらそっちに戻る。それでいいだろ?」

そう言うと次元は魅音、そして劉鳳にクーガーとシグナムがいた場所を聞くと最後に忠告を残して
ホテルを去った。
「トグサ。不二子って女からは目を離すなよ。利がある内は大人しいがあいつは見切りが早いからな。
 仲間にすれば頼もしいが、土壇場で裏切る。こんな所で馬鹿をするとは思えねえが、一応気を
 つけといてくれ」

と、彼が去った後をぶりぶりざえもんが追いかける。
「おい。お前までどうしたんだ?」
と、トグサは引き止めるが、
「あいつには私のおたすけが必要だと思ってな。
 それに、今のわたしには病院に戻って太一達に合わせる顔がないのだ。
 彼らをおたすけする別の方法を見つけたら戻るので、それを伝えてくれ」
言うが早いか、ぶりぶりざえもんもまた碧の光の尾を引いて暗闇の中へと去ってしまった。
トグサはぶりぶりざえもんの光る尻が気になったが、次の再会の際に言及するとして残った者達の
元へと戻った。


次元とぶりぶりざえもんが去った後に短い時間で行われた話し合いの結果、結局ホテル跡地に
残る者といち早く病院へ負傷者を送る者に分かれることになった。
もちろん、残るものにはきりのいいところで病院へと向かうように言い聞かせてだ。

そして、トグサ自身は映画館に残したハルヒ達を迎えに行くべく一足先に自転車を漕いでホテルを
離れた。


トグサが行ってから後、セラスがホテルの敷地内に一台のリヤカーを引いて戻ってくる。
「ども、おまたせしました」
「これで俺を運ぶのか?」
疲弊し地面に横になっていた劉鳳はそれを見て顔を顰めたが、次の瞬間には一刻も病院へと
自分を運ぶようセラスに命令していた。
身体に染み込んだ従者体質なのか、セラスは言われるままに劉鳳をリヤカーに横た、その横には
キョンとトウカの手によって足を折った剛田武が横たえられた。

そして、去り際に劉鳳がトウカへと声をかける。
「俺のバッグの中に刀が一本ある。それを取れ」
言うがままにトウカがバッグを漁ると、白鞘の刀が中から見つかった。そのつくりから実戦向けに
仕上げられた業物であることが彼女には伺え知れる。
「これを某に……?」
「ああ、俺には無用の長物だ」
その言葉にトウカは感極まり、謝辞を並べ立てまくる。それをくすぐったそうにしながら劉鳳は
ホテルを去り、トウカはその姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。

「これも”おたすけ”か? ぶりぶりざえもん……」
劉鳳は見上げる満月に向かってなんとなく呟き、悪い気はしない――そう思った。

111 :孤城の主 28/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:03:38 ID:UTY29Yfk
”彼女は自分の仕事を立派に果たした。その後を継ぐのが俺達の仕事だ。違うかキョン君?”

そのトグサの言葉をその通りだと頭では理解できる。
だがしかしキョンの足元には長門有希の遺体がさっきのまま横たわっていた。彼女を弔いたいからと
この場所に残ったものの、長門なら蘇るんじゃないかというありもしない期待に身体を動かすことが
できなかったのだ。

「……キョン殿」
ここで亡くなった鳳凰寺風と野原みさえを埋葬し、灰を被った獅子堂光の墓を改めて整え終わった
トウカと魅音がキョンと横たわる長門有希の方へと心配そうに戻ってくる。

「ええわかってますよ。サボっちまってすいません」
わざと明るい声を出して自分を奮わせると、キョンはトウカからスコップを受け取り長門有希の
墓を掘り始めた。

(安心してろよ長門。俺がお前のヒントを受け損なったことなんてなかっただろ?)
並んで掘られた三人の少女の墓、その横に四つ目の墓穴を掘りながらキョンは、この悪趣味な
ゲームからの脱出を改めて決心した。
それを離れた位置で見守る彼の用心棒であるトウカ。彼女の腰には先刻の闘いで折れた
物干し竿に代わって、劉鳳から預かった斬鉄剣が佩かれていた。

そこから更に離れた場所で、魅音は瓦礫の山を登ったり降りたりしながら昼間の宝探しを思い
返していた。あの時はまだ四人とも仲良くやっていたのにあれも嘘だったのか……。
しかし、もうその答えは永遠に得られない。時と共に命も何もかもが失われていってしまう。

……それでももう止まったりはしない。
魅音は瓦礫の山の頂上から空を見上げクーガーとなのはの帰りを待った。



【D-5/ホテル跡地/1日目-真夜中】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、スコップ
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-1)、わすれろ草、キートンの大学の名刺
   :ロープ、ノートパソコン
[思考]
 基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 2:その後、病院へと向かう。
 3:『射手座の日』に関する情報収集。
 4:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。
 5:キャスカ、ルイズを警戒する。
 6:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:疲労、左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:斬鉄剣
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、出刃包丁(折れている)、物干し竿(刀/折れている)
[思考]
 基本:無用な殺生はしない
 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。
 2:その後、病院へと向かう。
 3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。
 4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武を守り通す。
 5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。

112 :孤城の主 29/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:04:31 ID:UTY29Yfk
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:心身共に疲労、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3)
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている)
[思考]
 基本:バトルロワイアルの打倒
 1:キョンとトウカと共にクーガーとなのはを待つ。
 2:瓦礫の山を捜索。
 3:クーガーとなのはが戻ってきたら病院へ向かう。
 4:沙都子を探して保護する。
 5:圭一、レナの仇を取る。(水銀燈とカレイドルビーが対象)



セラスとキョンに事後を任せトグサは自転車を全力で駆っていた。
映画館で待つハルヒ、アルルゥ、ヤマト。彼がもし長門の死を放送で知れば必ずパニックを起こし、
その外へと飛び出してしまうだろう。その前に戻って自分が事情を説明しなければならない。

ハルヒや、長門に懐いたアルルゥのことを思うと心が痛むが、逃げるわけにはいかないことだ。
病院に戻ったら、セラスにも謝らなければならないだろう。他のホテルにいた者達にも。
この一連のホテルで連なり起こった惨劇、そのドミノの最初の一枚を倒したのは確実に自分だ。
すでに脱落してしまった者には会わせる顔もない。だからこそ、犠牲になったものに報いるためにも
必ず脱出してみせる。

時計で時刻をを確認しながら病院の前を突っ切る。
往く道で後ろに乗せていた彼女は重さを感じさせなかったが、帰りの道を戻るトグサの胸には
その不在はとても重かった。



【C-3/市街地路上/1日目-真夜中】

【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退、自転車全速力
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物)
   技術手袋(使用回数:残り17回)、首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
 1:映画館に戻りハルヒ達に事情を説明。
 2:その後ハルヒ達を病院へと誘導。
 3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
 4:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
 5:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
 6:タチコマ、エルルゥ、八神太一の捜索。
[備考]
 風、次元と探している参加者について情報交換済み。

113 :孤城の主 30/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:06:52 ID:UTY29Yfk
ホテルより西に、レジャービルの前を横切り病院への道を走る一台のリヤカーがあった。
それを引いているのは吸血姫であるセラスで、荷台には満身創痍の劉鳳と右足首を折った
剛田武が横になっている。

「急げセラス。俺はあの不二子という女が悪なのか見定めねばいけないんだ」
横になったままの姿勢で劉鳳が台車を引くセラスに注文する。
いかなる艱難辛苦を経ようとも彼の横柄な態度は改まらないらしい。

「アイヨー」
こちとらも同じく満身創痍なのに吸血姫使いが悪いとブーたれながらもセラスは台車を引く。
その腕には彼女のマスターであった吸血鬼アーカードの心臓に嵌っていた、他よりも小さめの銀の環が
月光を跳ね返し輝いていた。

(……のび太。ドラえもん)
劉鳳の横に寝かされた剛田武は翠星石の首輪を握り締めながら真上の月を見ていた。
劉鳳の話によるとそこに彼らがいるという。なまじ仲間が集まるがゆえに、スネ夫という大切な
仲間が揃わないことが彼の心を痛めた。

ガラガラガラガラと音を立てて月夜をリヤカーが走る。


【D-5/市街地路上/1日目-真夜中】

【劉鳳@スクライド】
[状態]:満身創痍
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(-2食)、SOS団腕章『団長』、ビスクドール、ローザミスティカ(真紅)
[思考]
 基本:自分の正義を貫く。正義とは何かを見定める。
 1:病院へと向かい不二子が悪か見極める。
 2:病院で手当てを受ける。
 3:悪を断罪する。(ウォルターを殺した犯人、朝倉涼子※名前を知らない、シグナム※クーガーに任せた)
 4:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:全身打撲、裂傷及び複数の銃創 (※どれも少しずつ回復中)
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:6/6発)、アーカードの首輪
   13mm炸裂徹鋼弾×54発、スペツナズナイフ×1、ナイフとフォーク×各10本、中華包丁
   銃火器の予備弾セット(各40発ずつ、※Ak-47、.454スカール、ジャッカル、S&W M19の弾丸を消費)
[道具]:デイバッグ、支給品一式(×2)(メモ半分消費)、糸無し糸電話、バヨネット
[思考]
 基本:トグサに従って脱出を目指す。
 1:劉鳳、剛田武と共に病院へ向かう。
 2:食べて休んで回復する。
 3:病院を死守し、トグサ達を待つ。
 4:ガッツとキャスカを警戒。
[備考]
 ※セラスの吸血について
 ・通常の吸血
  その瞬間のみ再生能力が大幅に向上し、少しの間戦闘能力も向上します。
 ・命を自分のものとする吸血
  少しの間、再生能力と戦闘能力が向上し、その間のみ吸った相手の力が一部使用できます。
  吸った相手の記憶や感情を少しだけ取り込むことができます。
 ※現在セラスは使役される吸血鬼から、一人前の吸血鬼にランクアップしたので
  初期状態に比べると若干能力が底上げされています。

114 :孤城の主 31/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:07:43 ID:UTY29Yfk
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:右足首単純骨折、額と鼻に打撲、落ち込んでいる
[装備]:虎竹刀、強力うちわ「風神」
[道具]:デイバッグ、支給品一式、エンジェルモートの制服、翠星石の首輪
   ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)、シュールストレミング一缶、缶切り
[思考]
 基本:誰も殺したくない、ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
 1:病院に向かいドラえもんとのび太に合流する。
 2:病院で手当てを受ける。
 2:病院で魅音を待つ。



ホテルより南、劉鳳がクーガーと別れた場所を目指して月の下を歩く一人と一匹がいた。
クーガーを迎えに……ではなく、その相手であるシグナムを探してである。

(……そのクーガーってのが、やっちまってると言っても面ぐらいは拝ませてもらえねえとな)
劉鳳と魅音から聞いたシグナムという襲撃者は、トグサから聞いたルパンの仇に間違いない。
そう確信すると次元大介は止めるも聞かず一人で飛び出してきたのだが……

「おめーさん。なんでまた俺と一緒に?」
隣を短い足でついて来るブタ――ぶりぶりざえもんに次元は問うた。
「なあに、まだお前はわたしにおたすけされてないと思ってな。
 それに……、今太一達の元に戻ってもおたすけできないのだ……」
ブタにはブタの都合があるらしい……と次元は解釈した。

「ところでそのケツで光っているのは……」
ぶりぶりざえもんのパンツのお尻の部分が、蛍のように翠の淡い光を放っている。
「こ、これはなんでもないぞ。拾ったんだからわたしの物だっ」
どうやら、あの瓦礫の山で何かを拾ったらしいのだが……、
「……まぁいいか。よろしくな相棒」
「うむ、私がいるからには大船に乗ったつもりでいろ」

そんなやり取りを経て、一人と一匹は足音と淡い光を残し夜の街の中へと姿を消した。


【E-6/市街地路上/1日目-真夜中】

【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労、発砲による腕の疲労、脇腹に怪我(手当て済み、ただし傷口は閉じてきってない)
[装備]:454カスール カスタムオート(残弾:7/7発)、朝倉涼子のコンバットナイフ
[道具]:デイバッグ(×4)、支給品一式(×4)(食料-2)、13mm爆裂鉄鋼弾(21発)
   レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡
   蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)
   トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
[思考]
 基本:1.女子供は相手にしないが、それ以外には容赦しない。
 基本:2.トグサに協力し、できるだけ多くの人間が脱出できるよう考えてみる。
 1:生死に関わらずシグナムを探す。
 2:シグナムが生きていればルパンの仇を取る。
 3:クーガーと会ったらホテル跡へ戻るよううながす。
 4:1-3が終われば病院へと向かう。
 5:アルルゥ、トグサ、ヤマトの知り合いに会えたら伝言を伝える。
 6:折を見て魅音に圭一たちのことを話す。
 7:ギガゾンビの野郎を殺し、くそったれゲームを終わらせる。
[備考]
 トグサとの情報交換により、
 『ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)』『赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)』
 『羽根の生えた黒い人形(水銀燈)』『金髪青服の剣士(セイバー)』
 を危険人物と認識しました。

115 :孤城の主 32/32  ◆S8pgx99zVs :2007/03/24(土) 16:08:34 ID:UTY29Yfk
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:やや疲労、頭部にたんこぶ、ヤマトとの友情の芽生え、救いのヒーローとしての自覚
[装備]:なし
[道具]:ローザミスティカ(翠)
[思考]
 基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
 1:とりあえず次元大介に付き添う。
 2:太一をおたすけする別の手段を見つける。
 3:まだおたすけしていない相手を見つけたらそいつをおたすけする。
 4:怪我人を見つけたら病院へと送る。
 5:救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。


【備考】

以下の物がホテル跡の鳳凰寺風の墓の近くに放置されています。

  鳳凰寺風の剣、鎖鎌(ある程度、強化済み)、

 [鳳凰寺風のデイバッグ]
  小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ
  紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク
  包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅)


以下の物がまだホテルやその周辺のの瓦礫の下の埋まっています。

 [ゲインのデイパック]
  支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
 [バトーのデイバッグ]
  支給品一式(食糧なし)、チョコビ13箱、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)
  電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類
  茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費
 [みさえのデイバッグ]
  石ころ帽子、スモールライト
 [他]
  パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、支給品一式、空のデイパック
  スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発※ジャッカルの分は抜かれてます)
  糸なし糸電話(使用不可)、FNブローニングM1910(弾:3/6)

116 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:45:54 ID:oLwH6wU/
>>52修正
(ごめん、クーガー……。私、結局誰も助けられなかったよ)
 瓦礫を掘り返しながら、魅音は暗い思いを噛み締めていた。
 死んでいった光の為にも、ホテルに残っている彼女の仲間達を助けようと決意し、
 連戦で疲労しているはずのクーガーを置き去りにしてまでホテルに急いだというのに、既に手遅れ。
 魅音の目の前でホテルは崩れていった。
(ごめん、光。私、あなたの友達に何もしてあげられなかった……)
 魅音の目の前で鳳凰時風は化物に胸を貫かれて死んだ。
 どうにもならなかった。
 あの化物に対して、自分はあまりにも無力だった。

 ――まだ、助けを求めている人がいますわ。ならば歩みを止めることはできません

 光の死を知っても取り乱さずに歩き出した、悲壮さの中に気高さをたたえた風の横顔が、 魅音の脳裏に浮かぶ。
 魅音には分かる。
 友を失うことがどれだけ辛いか、悲しいか、やりきれないか……。
 それなのに風は決して魅音を責めようとせず、いたわりの言葉すらかけてくれた。
 本当に短い邂逅だったが、優しさの中に確かな強さを秘めた風の人となりは、十分すぎるほど感じ取れた。
 それに、風が使えたという癒しの魔法を必要とする人間は多かったはず。
 だが風は死んだ。
 そして役立たずの自分は生き残っている。
「私が死んでいった皆の代わりに死ねば……」
 暗い思いに突き動かされるように、魅音が呟いたその時、

 ――しっかりなさい。貴方はもっと強い人だ!

 気迫に満ちた声が聞こえた気がして、魅音は思わず背後を振り返った。
 だが、目に映るのは漆黒の闇と瓦礫の山のみ。
 魅音の顔に苦笑が浮かんだ。
(そうだよね、私は、前に進んで戦わなくちゃならない。
 もっと、もっと強くなって、 戦って戦って、勝つまで戦い続ける。
 光や風や仲間のために。何よりも私自身のために……。
 そうだよね? クーガー)
 ここにはいないサングラスの男に語りかけながら、魅音はパチンと両手で頬を叩いた。


117 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:47:58 ID:oLwH6wU/
>>54修正
 
 無機質で鉄のようだった表情が揺らぐようになり、無感情な闇色の瞳に心の煌きが瞬くようになった。 

 ――私も涼宮ハルヒも徐々に回復の傾向にある。……心配しなくていい。

 レジャーホテルの電話機の向こうから聞こえた声が蘇る。
(心配しなくいい、か。お前がそんなこと言うなんてな……。
会った頃のお前が自分自身をみたら、驚いたんじゃないか?)
 眉をミリ単位で動かすか、瞳の色が漆黒からシルバーメタリック処理のブラックになるぐらいの変化は期待できそうだ。
 キョンは唇の端に小さく笑みを浮かべた。
 それにしてもまさかあれが、ゆっくり言葉をかわした最後の瞬間になってしまうとは。
 
 ――最後

 そう最後だ。
 もう二度と、SOS団部室のお決まりの席に座り、もくもくと本を読みふける彼女の姿をみることはない。
 彼女はこれからずっと、目の前の土の下にいるのだから。
 部室で本に視線を落す長門有希の白皙の横顔を思い浮かべた瞬間、キョンの感情が堰を切って溢れでた。
 思いは涙となって止めようも流れ、墓土にしみこんでいく。
 長門有希は仲間だった。
 賑やかで騒がしい、かけがえのない日常を形作る、なくてはならない一人だった。
(長門……。お前、トグサさんに『ハルヒに自分の力のことを言わないでほしい』
『彼女には普通の人として、見ていて欲しい』って言ったんだって?
馬鹿野郎……。そんなことであいつが態度を変えたりするわけないだろうが。
俺達は、仲間なんだ。イベントごとに馬鹿やって、時たま古泉の自作自演につきやってやる仲間なんだよ)
 でも、嬉しかった。
 長門有希が監視対象としてではなく、ハルヒのことを共に歩む仲間だと思っていたことがはっきりと分かったから。
 長門有希自身も一人の人間として日常を一緒に歩こうとしていたということが、はっきりと分かったから。
(それが分かったと思ったら、死に別れって何なんだよ……。こんな展開、ハルヒ超監督の脚本以下だぜ)
 未来人、宇宙人、超能力者と一緒の生活がずっと続くと思っていたわけではない。
 いつかは別れだって来るだろうと思っていた。
 だが、それはこんな酷い別れではないはずだった。
 こんな別れ方をしていい関係じゃなかった。
 それなのに。
(よくも俺達から奪ってくれたな……。天地神明だろうが、統合情報思念体だろうが、
何かえらそうなもんが総出で謝りにこようが俺達が絶対に許さん。覚えとけよ!  ギガゾンビの――)
 あらん限りの罵倒と呪詛の言葉をギガゾンビに叩きつけた後、キョンは大きく深呼吸をした。


118 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:49:33 ID:oLwH6wU/
>>55修正
 融点に達した心の温度を、涼しい夜風がわずかに冷ましてくれた。
 冷却しつつある頭に浮かぶのは、長門が残してくれたメッセージ。

 ――私自身に仕込まれた構成情報はこの世界に来た瞬間分散し、
 解析した情報から脱出のヒントを内包したいくつかの物体に偽装される。

 ――ノートPCはおそらく今回私から発信された構成情報が偽装されたもの。

(このパソコンがそうだとするなら。脱出するために必要なものは既にこの空間にそろってるってことだよな? 長門)
 目の前の墓に向かってキョンは話しかける。
 問いかけというより、それは確認だった。
 朝比奈さん(大)のいう所の既定事項の確認作業のようなもの。
 長門有希のやることだ、手抜かりがあるはずはない。
 長門はいつも人知れず何かと闘い、状況を打破するためのお膳立てをしてくれた。
 
――力になってやりたかった。
 
 仲間として、彼女の力になってやりたかった。
 だが、結局自分は何も。
 何も……。
 不甲斐ない自分への怒りとギガゾンビへの怒りが同時に吹き上がり、キョンの心が再び沸騰を始める。
 暴れ狂いそうになる心の手綱を取りながら、キョンは必死に思考する。
 自分を殴るのはいつでもできる。ケンカ手袋の助けを借りるまでもない。
 そんなことよりもやらなければならないことがある。
 長門の残してくれたメッセージを無駄にすることだけは絶対にしてはいけない
 だが。
 
――射手座の日をこえてゆけ

 考えても考えても意味不明である。
(射手座の日って何なんだ? そんな祭日あったか? 射手座、射手座……)
「あの……。大丈夫?」
 突然聞こえてた馴染みのない声に、キョンは思考の海底から浮かび上がった


119 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:50:33 ID:oLwH6wU/
>>57修正

 何が引っかかるのか?
 その答えはすぐに出た。

 ――ハ、ハ、ハ、ハ……、いい様だ

 ジャイアン少年と再会した際に魅音が見せた、狂気を宿した声と表情。
 目の前の園崎魅音、ジャイアン少年、翠星石という人形と古手梨花という少女のチームの破局は、ジャイアン少年から聞いている。
 魅音達のチームの崩壊が園崎魅音にどんな影響を与えたかは、魅音のあの表情が雄弁に物語っていた。
 数瞬の黙考の後、
「園崎、自己紹介も兼ねた情報交換しないか? 実を言うと、もう少し休んでいたいんだ。 トウカさんも疲れてるしな」
「……某に依存は無い。魅音殿、いかがかな?」
「勿論いいよ。相互理解は大事だからね」
 そう言って、魅音は微笑を浮かべてみせた。
 しかし、その瞳に隠された鋭い光があるのを見て取り、キョンは小さく嘆息をもらした。



 自己紹介及び情報交換自体はそれなりに円滑に進んだ。
 園崎魅音は、トウカの世界の話にはさすがに驚いたようで、色々と質問していた。
 だが、それよりも園崎魅音の気を引いたのが、SOS団の話だったことが、キョンにとって多少意外だった。
 どうも、魅音が主催する『部活』とSOS団の活動が少し似ているということらしいが……。
 そんな胃が痛くなるような『部活』はゴメンだ、というのが、キョンの率直な感想である。
 ゲームは、古泉と適当にやるくらいが丁度よいのだ。
(園崎がハルヒに『罰ゲーム』について話す機会がないことを祈ろう……。あいつのことだ、嬉々としてやりかねん)
 そう考えた時、暗い底冷えするような声がキョンの耳の奥で響いた。

 ――やる? どこで?
 決まってるだろう。あの部室でだ。
 ――朝比奈みくるも、長門有希も、鶴屋さんもいないのに?
 ああそうだ。
 ――いい加減認めろよ。お前の好きだった日常はもう返ってこないんだぜ?

 うるせえ!!


120 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:51:37 ID:oLwH6wU/
>>64修正
 歯と歯の間から苦しげな息をもらすキョンをみかね、助けになればと、魅音はさらにPCに言葉を打ち込んでいく。
『キョンが読まなきゃならないのは長門さんの心理だからね?
 長門さんがキョン達と共有する思い出や知識の中の「互いに」印象に残ってるはずだと思ったことを暗号化したとしても、
 主観が違うからそれはキョン達にとっては取るに足らないことかもしれないんだ。 だから、長門さんの立場になって考えるんだよっ!
 長門さんはどんな人だった? 何が好きだった? 何に感動してた? 何に驚いてた? 
 キョン達と一緒に何をやってる時が、一番楽しそうだった?
 けど、ネガティブな印象のことを選んだりはしないと思うんだよね。何たって脱出の『鍵』なんだからさ!」
 キョンは必死に思考を組み立てる。
 長門有希とは、一緒に映画を撮った、孤島の殺人事件に遭遇した、いくつもの事件を解決した。
 その中で特に長門の中で印象に残っていそうなものは……。

 ――ちょっと待て

 この暗号が自分にだけ宛てられたものだとは考えにくい。
 何の力も持たない自分など、とうに死んでいてもおかしく無いのだから。
 解読できる人間は多ければ多いほどいい。だから、少なくもSOS団メンバーには分かるようになっているはず。
 つまり、SOS団全員がからんでいる事柄に限定されるということだ。
(となると、ハルヒに内緒でやった事件とかは全部没だな。野球大会の時は、実に無表情だったからこれも没。
 古泉のチャチなミステリーなんぞ長門にとっては刺激以前の問題だっただろうから没。
 映画か? あれも別に……。 ハルヒと一緒に出てたライブは、俺と朝比奈さんがからんでないから没。
 文化祭の後は……)
 
 頭に閃くものがあり、キョンはガバッと身を起こした。


121 :廃墟症候群(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/24(土) 16:53:19 ID:oLwH6wU/
その他修正

>>53
×薗崎 ○園崎

>>59
× 天魔でもなければできぬ所業。どんな理由があろうと許せるものではござらん!
○ まさに天魔の所業! どんな理由があろうと許せぬ!

×ましてや、その相手に対して力を振るおうとする時はなおさらでござる」
○ましてやその相手に力を振るおうとする時は、なおさら!」

>>60
×ハオクロ ○ハクオロ

×「だが、全ては間違いでござった」
○「だが、それは誤りだった」

>>61
×某の手は無辜の民の血で濡れているのでござるよ」
○ご覧下され。この、無辜の民の血と怨みで染まった手を」

×「きっと某は聖上やカルラ殿と同じ場所へは行けぬでござろう……」
○「某はきっと、聖上やカルラ殿と同じ場所へは行くことはできぬであろう……」

>>62
×魅音殿は何も悪くない! 悪いのは全部あのど腐れ外道でござる! 
○魅音殿は何も悪くない! 悪いのは全てあのど腐れ外道だ!

>>63
×長戸 ○長門

【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(中)、精神は安定傾向、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)
[装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3)
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている) パチンコ
[思考]
 基本:バトルロワイアルの打倒
 1:キョンとトウカと共にクーガーとなのはを待つ。
 2:「射手座の日」の暗号を解く。
 3:クーガーとなのはが戻ってきたら病院へ向かう(戦力の分散は危険と考えている)
 4:沙都子を探して保護する。
 5:武に謝りたい
 6: 圭一、レナの仇を取る。(水銀燈とカレイドルビーが対象)

※キョンがノートパソコンから得た情報、及びキョンの考察を聞きました。



122 :第四回放送  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/25(日) 12:58:06 ID:UFGusL7H
 漆黒の空に浮かぶ黄金の真円を背負い、巨大な人影が浮かび上がった。
 禍々しい仮面をつけ、耳障り極まりない声を張り上げる男の影が。
 災禍の庭に参加者達を引き込んだ元凶。
 彼奴を仇と思う者達にとって100万回殺しても飽き足りないほど憎い悪魔。
 その悪鬼が4度目の口を開こうとしていた。

 ▼ ▼ ▼

 おめでとう! ついに1日目の終了だ。
 死体を枕に迎える夜はどうかね? 
 他者を踏みにじって自分の命をつないだ畜生諸君。
 それにしても今宵は佳い月だ。
 猿同然の貴様等には分からんだろうが、こういう晩は心静かに月を愛でるものなのだ。
 それなのに貴様等ときたら、無様な姿でキーキー鳴きながらドタバタと殺しあうのに余念がない。
 これでは、そのうち貴様等と同列にするなと養豚場から文句がでるかもしれんなあ。
 まあ愚劣極まる貴様等が食用豚より価値がないのは事実だ。
 その時は潔く認めることだな。
 
 ――ではこれより禁止エリアを告知する。
 進化の遅れた脳味噌ではそろそろ限界だろうが、せいぜい必死に覚えることだ。
 禁止エリアで爆死するような死に方は二度と許さん。
 貴様等に許されているのは、この私を楽しませるような死に方だけだ!
 それをよ〜く心に刻んでおけ!

 禁止エリアは――

 1時より A-5
 3時より A-3
 5時より C-5

 ――だ!

 死亡者は――
 
 長門有希
 ストレイト・クーガー
 翠星石
 野原みさえ
 高町なのは
 佐々木小次郎
 アーカード
 タチコマ
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
 獅堂光
 鳳凰寺風
 ガッツ
 キャスカ
 八神太一

 ――以上14名!


123 :第四回放送  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/25(日) 12:59:11 ID:UFGusL7H
 これほど風雅な夜にこの数とは……。
 真性の蛮人だな、貴様等は。
 まあ、私を楽しませるために必死に努力したことは評価してやろう。
 低脳丸出しに、力を使いすぎて自滅した阿呆共がいたのは興ざめだったが、
 間抜けにも後ろから噛み付かれて死んでみせたり、木っ端微塵になってみせたり、
瓦礫に潰されてみせたり、踏み殺されてみたりと、
 今回の死人どもは、死に方に気合が入っていてなかなか見ごたえがあった。
 喜べ! 死人ども。
 このギガゾンビ様を楽しませることが出来たことで、
 貴様等の無価値な人生は、ほんの少しマシなものになった。
 そのことを私に感謝しながらあの世へ行け!
 
 ――ああそうそう。
 死にかけを肩に担いで喚いていた三文役者ども。
 素人芝居もたまにはなかなか乙なものだ。大いに笑わせてもらったぞ。
 貴様等には努力賞をくれてやる。
 
 では愚民ども 死人どもと大根役者どもを見習って、これからも私を楽しませろ。全力でな!
 ヒィィィハッハァ―――――――――ッッ!!

 ▼ ▼ ▼

 虫唾が走る笑声を残して男の影は消え、後には輝く月だけが残された。
 死も破壊も、死者の無念も生者の慟哭も、関わりがないというように、
 月はただ静かな光を放っていた。

 きらきら、きらきらと――
 

124 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:45:07 ID:pOZmqgBs
 血と混沌。闇と祝宴。狂気と深淵。贄と儀式。神と魔。

『誕生だ……』

 異形を成す化物共の群集。その視線に見守られながらの降臨、否、生誕。
 5人目の福王にして新たなる魔王は、巨腕の中で静かなる鳴動を繰り返し、男の怒り、恨みを一身に受けながら新生した。

『ボイド、スラン、ユービック、コンラッド――我らに連なりし魔名を冠する新しき眷族』

 幾多の触媒から糧となる命を得て、仲間だった者の嘆きと悲しみを敢えて流し。
 黒卵に眠りし鷹は、誇り高き白の翼を捨てた――そして新たに生やした翼の色は、漆黒。

『闇の翼――フェムト』

 親友を売り、それどころか利用し、新生した魔王は人間としての生を終えるべく、外道に。
 愛、憎悪、苦痛、快楽、生、死。
 儀式の中で紡がれる数多の感情と負は、女の心を破壊し、男の心を深く突き落としていった。
 5人目の天使は誕生してしまった――時はもう止められない。
 邪が聖を、幻想が唯物を、怨念が希望を、憎悪が愛を、死者が生者を。
 あらゆる闇が光を凌駕する時代。そう……日の光を月影が覆い隠すかのように。

 鷹が国を目指し、雄雄しく翼を広げていた時代はもう戻ってこない。
『黄金時代』はここに終わりを告げた。後にやってくる新時代を、人はこう呼ぶだろう。
 ――――――『暗黒時代』と。


 ……しかし。


 これは紡がれるはずであった歴史であり、今はもう紡ぎようのない歴史でもある。
 最大の糧であった男と女は消え、鷹の心に変化を齎した。
 これから先の未来、鷹は魔に落ち冥界を行くのか、それとも誇りを取り戻し覇道を進むのか。
 国を手にいれる――友に捧げた別れの言葉は、どんな意味を持つ。
 鷹は、今のグリフィスは――どんな色の翼を生やしているのだろうか。


 ◇ ◇ ◇



125 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:46:15 ID:pOZmqgBs
『オレはオレの国を手に入れる。お前はオレのために戦え。お前の死に場所は、オレが決めてやる』

 かつて、グリフィスがガッツに言った言葉だ。今はもう意味を成さない。
 ガッツは死んだ。キャスカも死んだ。――――剣だけが残った。
 これは何を意味し、何を示すというのか。

「……剣は、武器だ。そして、オレにとってはそれだけじゃあない。ガッツにもキャスカにも……剣を握り生きてきた者には、誰にだって同じことだ」

 虚ろな視線は、疲労から来る身体の悲鳴に違いない。
 戦争跡地となった巨城、ホテル周辺で宿を取る間も、断末魔を含める騒音は休みなく聞こえてきた。
 誰かがどこかで戦っている。昼だろうと夜だろうとお構いなしに。それが、この世界の現実。

 ……ここからどうしようか。

 睡魔に打ち負けたグリフィスは、夢の狭間でそんなことを思った。
 ホテル近くにはまだ人がいる。優勝を目指すなら、そいつらを殺してみようか。
 方法はどんな手段を用いるのが適切だろうか。夜というアドバンテージを活かすなら、闇討ちがいいかもしれない。
 味方を装い、内部から混沌を齎すというのも悪くはない。狐の皮を被るのは昔から得意だった。
 間違っても、ガッツのような力任せに突っ込む手法は取らない。勝利というのは、相手の戦力を知りえなければついてこないからだ。
 目覚めたら、明日が待っている。
 やることはただ一つ、栄光への努力だ。

『――おめでとう! ついに1日目の終了だ。死体を枕に迎える夜はどうかね?』

 朝を知らせる小鳥の囀りには程遠いが、元凶である主催の定時放送は、グリフィスの目覚まし代わりとして機能した。
 これまでと同様の流れで、新たな禁止エリアと死亡者が告げれていく。

(ミス・ヴァリエールは死に絶えたか)

 ホテルへ差し向けた、愛欲の魔女ルイズ。その長い名前はしっかりとギガゾンビが告げ、思惑通り脱落したことを示していた。
 もとより消耗品としか思っていなかった、捨て駒が死んだだけのこと。感傷は無に等しい。
 ガッツ、キャスカ、かつての同胞が確かに死亡したことを確認できた今、この会場内でグリフィスの素性を知る人間などほんの一握りの数。
 せいぜい遊園地で言葉を交わしたカズマくらいのものだろう。
 暗躍するにはもってこいの環境が整った。完全とは言えないが傷も癒えた今、動かない理由はない。

「手を拱いていては、栄光など掴めはしない。立ち止まらず、進み続けなければいけないんだ……そうだろう、ガッツ」

 ふと、自ら断ち切ったはずの絆を手繰ろうとしていることに気がついた。
 ガッツはもういない――もう呼ぶ必要のない名だ。
 グリフィスはその名を胸中にしまい込み、進む。
 もう、永遠にその名を呼ぶことはないのだろう……。

 ◇ ◇ ◇



126 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:48:27 ID:pOZmqgBs
 高町なのは。
 タチコマ。

 文字数にして九、言葉にするにあたっては、たった十一回口を開け閉めするだけで紡がれる、大切な人たちの名前。
 その名前を、ギガゾンビは軽々しく口にする。死亡した人間を知らせるという名目で。
 それが、たまらなく許せなかった。

『……Master』
「だいじょうぶ……大丈夫だよ、バルディッシュ」

 名前を呼ぶ、という行為は、単純でいてそれでとても重要な意味を持っている。
 相手の側で呼べば自分の存在に気づいてもらえるし、親しみを持って呼べばそれだけで交友関係を深めることが出来る。
 アリサやすずか、クロノやユーノ、色んな人の名前を呼んできた。
 全て、今は亡きなのはが教えてくれたことだった。
 
 放送で再度思い知らされた、親友の死。
 今は俯いている場合じゃない。分かってはいるのに、気持ちは上を向いてくれない。
 レヴィやゲイナー、現実に向き合うあの二人が側にいてくれたらまた違ったのかもしれないが、
 バルディッシュと二人きりの夜は、どうしようもなく寂しかった。

 第四放送を聴き終え、晴れて二日目を迎えることとなったフェイト。
 日付の変わるその瞬間を迎えても彼女は肉体を酷使し続け、休息を取ろうとはしなかった。
 ――彼女はまだ、矛先を見失っているのかもしれない。
 親友と呼べる存在と、親友になったばかりの存在。相次いだ喪失。
 涙はもう十分なほどに流した。気を引き締める意味での叱咤激励も貰った。
 あとはただ、進むだけなのだ。
 フェイトの目的は脱出。その足掛かりとなるものを探して、暗い夜道をひた歩く。

 その、視線の奥。

 フェイトは微かに感じた空気の変化と、バルディッシュからの警告に身を構えた。
 視界は闇に染まっていて役に立たない。だが気配として、フェイトの前方に何者かが潜んでいることが感じ取れた。
 突然の邂逅――フェイトはその正体が殺気であるということに気づき、飛んだ。
 咄嗟の飛翔により身をかわしたフェイトは、数秒前まで自分が立っていた地点を銃弾が通り抜ける様を確認する。
 前方に潜んでいた何者かが、発砲してきた。即座の理解に魔力を集中させ、その能力を行使する。

「フォトンランサー……ランサーセット」『Get set』

 フェイトの周囲に発言した、三つの光球。
 雷によって形を成しているそれは、暗闇を照らす灯りとなって、襲撃してきた者の正体を知らしめる。
 相手も正体が露見するのを恐れたのだろう。雷の光から身を隠すようにその場を離れ、駆け出していく。
 フォトンランサーはそれを追尾し、襲撃者の長身、ウエーブ掛かった金髪、銃の所持という情報を明るみに晒していった。
 この時点で、相手の狙いであろう闇討ちは失敗に終わったことになる。

127 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:50:34 ID:pOZmqgBs
「ファイア!」『Fire』

 フェイトとバルディッシュの声が重なり、三つの光球は逃げる襲撃者を攻め立てた。
 三者三様の複雑な軌道を描く光球だったが、襲撃者は市街地という戦場の特性を活かし、建物の中へ非難を試みる。
 誘導されるようにその後をフェイトが追おうとするも、深追いは危険と判断し、一旦気持ちを落ち着かせた。
 突然の襲撃は驚くべきものだったが、子供が一人で夜道を歩いていれば、むしろ当然の事態とも取れる。
 フェイトは襲撃者が逃げ込んだ建物の外で細心の注意を払い、守りの体勢に入った。


 ◇ ◇ ◇


(オレはいったい……何をやっているんだ?)

 フェイトの心配をよそに、グリフィスは自ら襲撃したとは思えぬ後悔の念に苛まれていた。
 それというのも、頭ではあの襲撃が愚策であると認めていたからである。
 相手の素性も力量も分からない。周囲に誰が潜んでいるかも分からない。勝率が不明確。
 脳はそこまで襲撃の無謀性を提示していたというのに、それよりも先に身体が動いてしまった。
 相手が子供だったから――相手が一人だったから――辺り一帯は暗闇で、自分は銃を所持していたから?
 そんな状況だけの優位など、この世界では無意味に等しいということは分かりきっていたのに。

(何故、気持ちが急いた? オレがこれまでに焦りを見せたことなどあったか? あったとすれば……一度だけ)

 もう呼ぶことはないあの名――『   』が去った翌日、グリフィスはこれまでの成功を無にする失敗を犯してしまった。
 今のグリフィスは、あの時と同じなのだろうか。『   』がこの世からいなくなったから、だから気持ちが急いているのだろうか。

(……らしくない。らしくないなぁ、グリフィス)

 あいつなら、『   』なら、恨みの念を込めてそう言ったかもしれない。
 グリフィスが襲った少女は、ルイズと同種の力を扱う厄介極まりない人種である。
 我武者羅な攻めは通用しない。倒すなら、ちゃんとした策を練る必要があった。
 ……そう。いつだって冷静沈着に物事を見つめるのが彼の性分であり、成果を求めるあまり展開を急くなど、常のグリフィスなら絶対にしない。
 今のグリフィスは、見る者が見れば本当に『らしくない』。
 仲間を切り捨て、改めて栄光への覇道を歩む決意をした彼が、こんな有様では。

「笑われてしまうな、『あいつ』に」

 名前を呼ぶ、という行為は、単純でいてそれでとても重要な意味を持っている。
 相手の側で呼べば自分の存在に気づいてもらえるし、親しみを持って呼べばそれだけで交友関係を深めることが出来る。
 しかしグリフィスはもう――『   』の名前を呼ぶことはない。
 それは決別であり、新生の証でもある。
 グリフィスと『ガッツ』は、なのはとフェイトのような生温い関係ではないのだ。

「勝つぞオレは。そして、オレはオレの国を手に入れる――かつて言ってのけた通りにだ」


 ◇ ◇ ◇



128 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:53:49 ID:pOZmqgBs
 数十分待っても、件の襲撃者が再び姿を見せることはなかった。
 逃げ込んだ建物の中を調べてみても、結果は同様。バルディッシュと相談をした上で、敵は大人しく退いたものと判断した。

「敵は、まだいるんだね」

 戦闘の終結を迎えたフェイトは、夜空を見上げながらそんなことを呟いた。
 残り人数はあっという間に過半数を切り、わずか29人……その中で、フェイトの敵たる人物は何人いるのだろうか。
 ゲイナーやレヴィ、話に聞くゲインやカズマやトグサ、そして八神はやての死によりどうなったかすら分からないシグナム。
 味方と呼べるような心強い人間も多い。だが先ほどの襲撃者のように、フェイトの『大切な人』を危険に晒す敵はまだいる。
 敵が一人でもいるというのなら、フェイトは身を休めることはできない。
 これ以上、大切な人が悲しまないように。全力全開で迅速な行動を――

『…………』
「……バルディッシュ?」

 決意の中、手に握ったデバイスが僅かに震えた。
 その反動で気づく。握り手に必要以上に力を込めていたことと、手の平が酷く汗ばんでいたことに。

「……うん、そうだね。大丈夫、無理はしないから」

 フェイトはその振動を、相棒のぶっきら棒な優しさとして受け取り、深く深呼吸をした。

 S2Uは言った――友達を信じろ、と。
 意志を持たないストレージデバイスであるS2Uの言葉は、今思えば幻聴以外の何ものでもなかったのかもしれない。
 それでも、あの時の励ましはリンディがかけてくれたような、母の暖かさがあった。

 カルラは言った――名前を呼んであげなさい、と。
 彼女と誓った、再会するべき友達はもういなくなってしまったけれど、これからもその名を呼ぶ機会は大いにある。
 あの優しかった女傑に恥じぬため、もう一度涙を拭おう。

 タチコマは言った――君が出来ることは非常に多い、と。
 親友と一緒に生還するという最大の願いは打ち崩されたけれど、それでもやっぱり選択肢は残っている。
 自身の力が首輪の解除や会場からの脱出にどれだけ貢献できるかは未知数だが、それでも何もしないままでいるつもりはない。

 そして、なのはは言った――

『――なまえをよんで。初めはそれだけでいいの。君とかアナタとか、そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの』

 なのはに尋ねた、友達になる方法。
 今でも思い出せる、あの手の暖かさ。あの笑顔。
 あのとき貰った、掛け替えのない大切なもの。それは失ってなんかいない。
 フェイトと『なのは』は、ガッツとグリフィスのような切羽詰った関係ではないのだ。

(少し分かったことがある……友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ。だから、なのはが俯く私を見て悲しまないように――)

 フェイトはぴしゃんと頬を叩き、その瞳に魂を宿らせた。

129 :もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない:2007/03/26(月) 00:57:32 ID:pOZmqgBs

「生きよう! バルディッシュ! みんなが向こうで心配しないように、前を向いて、全力全開で!」
『Yes, sir!』

 ――悲しみも、絶望すらも乗り越えて、フェイトはようやく完全に立ち上がった。
 もう二度と、俯きはしない。
 また笑って、友達の名前を呼べるように。



【D-6/2日目/深夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:魔力(=体力?)消費(中) 、全身に軽い火傷、打撲
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服
[道具]:マイクロUZI(残弾数6/50)、やや短くなったターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×7(食料のみ三つ分)
    オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に
    ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
[思考・状況]
1:一旦ホテル近辺のエリアから離れる。
2:参加者を襲う場合は確かな勝算を得てから。
3:ゲームに優勝し、願いを叶える。

【D-6/2日目/深夜】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾5/6)、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
2:朝六時にE6駅でゲイナー達と合流。
3:無理ならその時に電話をかける。
4:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。

130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/26(月) 01:15:09 ID:vRD2c2xo
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ゝ.  {、  - ,. ヾ "^ }  } ゚ 。
   )  ,. ‘-,,'   ≦ 三
ゞ, ∧ヾ  ゝ'゚       ≦ 三 ゚。 ゚
'=-/ ヽ゚ 。≧         三 ==-
/ |ヽ  \-ァ,          ≧=- 。
  ! \  イレ,、         >三  。゚ ・ ゚
  |   >≦`Vヾ        ヾ ≧
  〉 ,く 。゚ /。・イハ 、、     `ミ 。 ゚ 。 ・

吹きたい人の文まで吹いておきますね

131 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/03/26(月) 01:21:17 ID:vRD2c2xo
おーっと誤爆したんだぜ申し訳ない

132 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:36:36 ID:SCZoGWfN
「A-5って……ここらへんじゃないのか!?」
放送が告げた禁止エリア、それはまさしくロック一行が一夜を明かそうと思っていたその場所であった。
「クソッ、なんでよりにもよって……」
禁止エリアを決めているであろうギガゾンビは主催という立場上、そして今までの放送の節々から考えるに参加者達の現在地を把握しているのだろう。
首輪あたりに発信機か何かが仕込んでおけば、そのようなことは容易に出来るはずだ。
ならば、彼は自らが指定した禁止エリアに女子供が留まっていることも把握しているはずなのだ。
そして、それを把握した上でそこを禁止エリア化するというのだからあのギガゾンビという男、余程性根が曲がっているのだろう。
ロックは改めて主催者へ怒りを覚えながらも、ひとまずはここを離脱するのが先決と考え、眠るエルルゥの肩を揺さぶり起こはじめた。
「――むにゃ? どうしましたか、ロックさん……」
「ついさっき放送があって、1時からこの辺りが禁止エリア化されるらしいことが告げられた」
「きんしえりあ……?」
「あぁ。だから、ここにずっと留まってると首輪が爆発する可能性がある」
首につけられたそれを指差しながら説明すると、エルルゥは徐々に顔面が蒼白していった。
「そ、そそそそそれじゃはや、早く逃げないと……!」
「分かってるさ。……だけど子供達をあまり動揺させたくは無い。だからしんのすけと沙都子ちゃんは寝たまま、2人で背負って移動したいんだ」
エルルゥはそんな彼の説明を聞いて、静かに頷く。
「君も疲れているとは思うけど……すまない」
「いいんです。……こんなぐっすり眠ってるこの子達を起こすのは忍びないですから」
そう言って、エルルゥは眠る二人の子供を見やる。
その寝顔は、殺戮の舞台に放り込まれたとは思えないほど安らかだ。
……アルルゥも今頃は寝ているのだろうか。
妹の影を重ねながら、彼女は眠る少女を持ち上げ、背負う。
一方のロックもしんのすけを背負い、そしてデイパックを腕に掛けて立ち上がる。
「……あ、そういえばロックさん」
「ん? どうした、エルルゥ?」
「その……“ほうそう”っていうのがあったってことは、亡くなった方の名前も呼ばれたんですよね?」
「あぁ、そうだけど…………知りたいのかい?」
その問いにエルルゥが首肯するのを確認すると、ロックは。再度その場にしゃがみこみ、デイパックを開いて中から名簿を取り出す。
その名簿は、ロックが死亡者の名前に赤線を引いたものであり…………。
「フーさん…………」
手渡された名簿を見たエルルゥは、この地でひと時を共にした少女の名前にも赤一文字の線が引かれているのを見て、顔を暗くした。
しかも、彼女の言っていた仲間という人物2人もどうやら死亡しているようだった。
……そう、フーとその仲間は全滅してしまったのだ。
そして、それは他人事ではない。
このまま手をこまねいていれば、いずれ妹やトウカ、ロック達、それに自分の身にも降りかかりかねない事態であり――――
「――ありがとうございました」
「もう、いいのか?」
「……えぇ」
ここで落胆していても始まらない。
何はともあれ、今はここを離脱することが先決なのだ。
……エルルゥはそう決意して、立ち上がる。
そして、ロックもそれに合わせるように立ち上がると……。
「……それじゃ、行こうか」
「はい」
満天の星空の下、子供を背負った2人はゆっくりと歩き出した。

133 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:39:05 ID:SCZoGWfN
(それにしても……残り29人、か。……クソッ)
デスゲーム開始から早1日。
ロックはこの24時間の間に早くも半数以上の人間が死んでいってしまった事を思い出し、歩きながら憤慨していた。

……ここまでに多くの参加者達が死んでいった。
快楽殺人者の幼き双子に女ターミネーターのロベルタ、西洋剣士に立ち向かっていった君島邦彦や、病院で倒れていた三人の男女。
更に、あの化け物としか思えなかったアーカードという吸血鬼や沙都子を襲ったガッツという大男も死んだという。
また、彼の傍で寝ているエルルゥや沙都子の知人にも、死者は少なからず出ている。
そして――

「うぅ〜ん……母ちゃんオケチだゾ……」
ロックに背負われていたしんのすけが、不意に寝言を言った。
……そう。
ここにいる少年の父親も既に故人となっており、ついさっき彼の母親も故人になってしまったことが告げられた。
日本の埼玉県春日部で平穏に過ごしていたであろう彼ら家族もこの地で引き裂かれ、そして悲劇に巻き込まれてしまったのだ。
彼らが一体何をしたというのか。
このままでは、一家全滅という最悪の事態すら訪れかねない。
(そうさ。だからこそ、この現状を何とかしなくちゃならない。だが、ならば俺には何ができる……)
思うだけなら誰にでも出来る。
そこに行動を伴ってこそ、初めて変化が起こるのだ。
「さてどうする……。この状況をどう打開する…………」
夜は長い。
陽が昇るまでの間、ずっと考えていればきっと何か打開策が思いつくはずだ。
いや、思いつかなければならない。
自分がロアナプラに生きて帰る為にも、ここにいる少女少年の為にも。
そして、帰るためには首輪の爆弾への対処法やここからの脱出方法を知る必要がある。
更に言えば、それを知る為にはまずは様々な情報を収集しなくてはならない。
情報――それはこのような異常な事態であろうと、元いた商社での日常業務でも重要になる。
レヴィのような銃を扱う能力やダッチのような戦況を見極める能力や指揮能力、ベニーのような機械を操る技術がない自分に出来ることは情報を集めることくらいだ。
脱出の為に必要な情報……それらはすべて、今まさに殺戮が行われているこの地に散在しているはず。
それは地図に書かれている施設にあるかもしれないし、ここにいる参加者自身が元から知っているものかもしれないし、配られた道具の中にも何かしらの形で…………。
(道具……道具といえば……)
ロックは思い出す。
逝っていった君島が渡してくれたきり、きちんと調べていなかった一つの支給品の存在を。
君島に“それ”を手渡された時は、しんのすけが暴れていたし、そのすぐ後には西洋剣士の襲撃も遭った。
そして、更にその後は抵抗するしんのすけを連れて山中へと逃亡するのに必死であったし、温泉へ向かったら向かったで奥義伝承やら痴漢疑惑やらでてんやわんや、温泉を出たら今度はエルルゥと再会――と実に慌しかった。
故にロックは“それ”を詳しく調べることをすっかり忘れていた。
(君島は、音楽が流れてくる機械だと言っていたが…………)
音楽が流れるだけの機械ならば、脱出や首輪と繋がる可能性は限りなくゼロに近いだろう。
だが、ゼロに近くてもそれが完全にゼロで無い限り、調べる価値はある。
腰を据えた後に行うべきことを見つけたロックの足取りは、先程までよりも力強くなっていた。

134 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:40:29 ID:SCZoGWfN
「……ここで大丈夫なんですか?」
「あぁ。ここは完全に市街地に入ってるから禁止エリアには抵触しないはずだ」
一行が山を下山してからどれくらい時間が経ったのであろうか。
彼らは、山を完全に下りきり、麓にある民家の一室で腰を落ち着けていた。
「ひとまずはここで休憩を取ることにしよう。……病院に向かうのは朝を迎えたらってことで」
「はい。……でも、ロックさんは休まなくて大丈夫なんですか?」
押入れから取り出した布団に沙都子としんのすけを寝かしつけていたエルルゥは、心配そうにロックを見やった。
それは、日頃皆の健康を管理している薬師としても言葉でもあったし、行動を共にしている仲間としても言葉でもあった。
しかし、ロックはそんな彼女に笑顔で答える。
「大丈夫さ。入社したての頃は、徹夜で残業やら宴会をしっぱなしだったし、ラグーン商会でも夜を徹しての仕事はざらにあったからね。これくらいはなんともないよ」
「そうですか……」
「あぁ。だから、君も今日は早く寝るんだ。明日も忙しいだろうからね……」
「分かりました。……それじゃ、おやすみなさぁい……」
小さなあくびをひとつすると、エルルゥは自分も用意していた布団の中に入っていった。
――小さな寝息が聞こえてきたのは、それから間もなくであった。

そして、皆が再び寝静まった頃。
「……それじゃ、さっそく調べるとするか」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、ロックは眠るしんのすけに一言詫びを入れつつ彼のデイパックを開き、中から目的のものを取り出した。
今は亡き君島から手渡された掌サイズの携帯音楽端末i-podを……。
「……しっかし、こんなのが音楽を聴くための道具だなんてねぇ」
その小ささ、薄さ、そして軽さは彼が知りうるどの端末にも勝っていた。
自分がいた世界で普及していたCDプレイヤーですら、全てにおいてそれの数倍性能が劣りそうだ。
それに、その端末のボディに描かれたロゴは日本でポータブルプレーヤーを製造していた電機メーカーのものではなく、どう見てもリンゴなコンピューターメーカーのそれであった。
「あの会社、こんなの発売していたのか……?」
商社という立場上、海外の製品の情報が飛び込んでくることもあるはずだが、このような画期的な端末の情報をロックは知りえなかった。
「一体、こいつは何なんだよ……」
……本体を見ただけでも謎は深まるばかり。
だが、この機械の本質は音楽を聴くところにあるわけであり、この段階でいつまでの悩んでいる場合ではない。
ロックはそう判断すると、イヤホンを片耳にあて、再生のマークがついているボタンを押す。
すると――――――

135 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:42:11 ID:SCZoGWfN

ギ・ギ・ギガギガ☆ ツ・チ・ダマ☆
ギ・ギ・ギガギガ☆ ツ・チ・ダマ☆

(間奏)

素直に「好き」と〜 言えないキミも 勇気を出してギガ〜(ヘイ、アタックギガ〜)
恋のまじない ツチダマビーム かけてあげるギガ〜



「………………何だよ、これは」
聞こえてきたのは、機械合成のような声で歌われる昭和の香り漂う特撮かアニメの主題歌の類のような曲。
端末についていた液晶画面を見れば、曲名に『恋のツチダマ伝説』、歌手名に『歌手ダマ』と表示されている。
聞いたことも無い曲とヴォーカルに唖然とするロックであったが、聞いた事が無い曲である故に、何か歌詞に秘密があるのかもしれない、と終わりまで早送りせずに聞く事にした。
……だが、結果としては、脱出や首輪に関する情報は何一つ見当たらないまま終わってしまい……
「次を聞いてみることにするか」
と引き続き流れてくる曲に耳を傾けることにした。
曲名は『ギガゾンビ様のうた』…………。



あんなこといいギガ〜 出来たらいいギガ〜
あんな夢 こんな夢 いっぱいあるギガ〜

みんなみんなみんな 叶えてくれる
不思議な道具で叶えてくれるギガ〜

そ〜らを自由に 飛びたいギガ〜 (はい! タケコプター!)

アンアンアン とっても大好き ギガゾンビ様〜



「……何が“あんな夢こんな夢”だ。ふざけてるにも程があるぞ……」
流れてくる歌詞が、今自分達が立たされている状況と対照的に明るすぎたために、ロックは思わず悪態をつく。
しかも、歌詞がギガゾンビを讃えるものであるために、神経を逆撫でされるかのような感情を抱かざるを得ない。
「この調子だと曲の中にはヒントは無さそうな気もするが…………」
ロックは画面表示を操作してみるが、ぱっと見てヒントになりそうな曲名は見当たらない。
「やっぱりハズレなのか、これは……………って、うわっ、しまった!」
すると不意に、曲名を調べていたロックは操作を誤り、選曲画面とは違う画面にしてしまった。
そこは所謂メニュー画面であり……
「photosにvideosって……これ、写真とか動画も見れるのか?」
興味本位で試しにphotosの欄にカーソルをあわせ選択キーを押し操作を続けていると、一人の見覚えのある少年の写真がそこには映し出された。

136 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:44:26 ID:SCZoGWfN
「これは……キョンとかいう少年じゃないか」
ブレザーに身を包んだどこにでもいそうな男子学生のその顔は、まさしく病院で出会ったキョンという少年のものだった。
しかも、それを証明するかのようにバストアップされたその写真の下部には“キョン”と書かれている。
「何で彼の写真がこんなところに…………」
更に操作をしていくと、今度は女子高生と思われるショートカットの少女の顔が映る。
下部に表示された名前は“涼宮ハルヒ”……。
「キョンに涼宮ハルヒ…………これってまさか……」
キーを押してゆくと、“長門有希”“朝比奈みくる”“朝倉涼子”“鶴屋さん”と少女の写真が続いた後、“ドラえもん”という青いダルマのようなものの写真が表示される。
更にキーを連打していくと自身やレヴィ、ロベルタの写真も名前付きで出てくる。
「……やっぱりそうか」
ここまで見れば、この写真が何を示すかは一目瞭然だ。
そう、これは顔写真付の参加者名簿となっているのだ。
「これにこんな機能があったとはな…………」
“music”には意図のわからない音楽の詰め合わせが、“photos”には写真付名簿が入っていた。
この端末には、どうやらロックの想像以上に色々な情報が眠っているようだ。
「ま、夜は長いし、一つ一つ調べてみるとするか……」
窓の向こうで輝く月と星を見やると、ロックはその不思議な端末との格闘を再開した。

……だがこの時、彼はまだ知らなかった。
このi-podというツールは単に音楽や写真を再生する携帯端末という顔の他に、携帯できる外付けHDDとしての顔も持つという事に。
ましてやその中に、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースが遺した何かが入っている事など当然、知る由がなかった……。



【C-4・山間部と市街地の境目付近にある民家/2日目・黎明】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:若干疲労
[装備]:ルイズの杖@ゼロの使い魔 、マイクロ補聴器@ドラえもん、i-podのイヤホン(片耳)
[道具]:支給品一式×2、ipod(電池ほぼ満タン)、黒い篭手?@ベルセルク?、現金数千円
  :びっくり箱ステッキ@ドラえもん(10回しか使えない。ドア以外の開けるものには無効)
[思考・状況]
1:朝までi-podを調べつつ休息。それまでは見張り番として起きている。
2:全員が起床後、病院へ向かう。
3:沙都子を助けたい。
4:ギガゾンビの監視の方法と、ゲームの目的を探る。
6:しんのすけ、君島、キョンの知り合い及びアルルゥと魅音を探す。
7:しんのすけに第一回放送・第四回放送のことは話さない。
8:一応、鞄の件について考えてみる。
9:i-podに詳しい人物に接触したい。
[備考]※ケツだけ星人をマスターしました
   ※病院での一件をエルルゥにまだ話していません
   ※i-podの顔写真付名簿に一通り目を通しました
   ※i-podがパソコンと接続できることを知りません

137 :岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE :2007/03/27(火) 01:45:55 ID:SCZoGWfN
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:睡眠中、かなりの肉体的、精神的疲労(大分回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ロックから譲渡)
[思考・状況]
1:朝まで休息。
2:沙都子を助けたい。
3:トウカ、アルルゥ等を探す。
[備考]※ハクオロの死を受け入れました。精神状態は少し安定しました。
   ※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:睡眠中、全身にかすり傷、頭にふたつのたんこぶ、腹部に軽傷、歩き疲れ(睡眠により回復中)
[装備]:ニューナンブ(残弾4)、ひらりマント@ドラえもん
[道具]:支給品一式 、プラボトル(水満タン)×2
[思考・状況]
1:朝まで寝る。
2:お兄さん(ロック)とお姉さんについて行く。
3:みさえとひろし、ヘンゼルのお姉さんと合流する
4:ゲームから脱出して春日部に帰る。
[備考]放送の意味を理解しておらず、その為に君島、ひろしの死に気付いていません。
   第四回放送を聞き逃しました。

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:睡眠中、若干疲労(睡眠により回復中)、右足粉砕(一応処置済み)
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:基本支給品一式、トラップ材料(ロープ、紐、竹竿、木材、蔓、石など) 簡易松葉杖、どんな病気にも効く薬@ドラえもん
   エルルゥの薬箱@うたわれるもの(筋力低下剤、嘔吐感をもたらす香、揮発性幻覚剤、揮発性麻酔薬、興奮剤、覚醒剤など)
[思考・状況]
1:朝まで休息。
2:ロックとしんのすけ、エルルゥを『足』として利用し、罠を作るための資材を集める。
3:十分な資材が入手できた後、新たな拠点を作り罠を張り巡らせる。
4:準備が整うまでは人の集まる場所には行きたくない。
5:生き残ってにーにーに会う、梨花達の分まで生きる。
6:魅音とは会いたくない。
[備考]第四回放送を聞き逃しました。


※i-podについて
内蔵されている音楽の多くは、出典作品に関する曲のツチダマアレンジバージョンのようです。
また、顔写真付名簿の存在が確認されました。
この他にも、ロックが調べていないデータがまだ存在している模様です。

138 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:42:01 ID:NH9CbFW1
青白い月明かりが、山林部に近い市街地を包むように降り注いでいる。
世界そのものが眠りに就いたかのような深い静寂は、果てのない砂漠のように広く横たわっていた。
そんな中では、普段気にも留めないような音も、強調されて響く。

からからから――。

回る車輪が立てる、単調で面白みのない乾いた音が、夜の空気を彩ろうとしている。
リヤカーの荷台に寝そべった剛田武は、遠ざかっていくレジャービルから目を離すことができなかった。
彼の手にあるのは、小さな首輪。彼女――翠星石の形見が、こんなものしかないという事実が、余りにも悲しかった。
翠星石の首輪を握る手が、小刻みに揺れている。それは、リヤカーから伝わってくる振動とは別のものだ。
後悔と悲しみは、武の胸にこびりついて離れてはくれない。
もっとあいつのことを分かってやれれば。
あいつが苦しんでいたことに気付いてやれれば。
(そうしたら、梨花ちゃんも、翠星石も、死なずに済んだんじゃないのか……)
誰も死なせたくないと思っていた。そう、確かに決意したのに。
なのに、守れなかった。誰も、守ってやることが出来なかった。
猛烈な歯痒さと空しさが、武の胸を食い荒らす。
小さくなっていくレジャービル。
魅音と、梨花と、翠星石の三人で、宝探しをした建物が、見えなくなっていく。
そのことがまるで、翠星石と過ごした時間が遠くなるように思えて、武は堪らない悲しさを覚えた。
殺し合いを強要される箱庭で、初めて出会った、小さな人形。
本来の世界にいれば、武が決して持つことなどあり得ないような、少女趣味的な姿をした、人形。
だがそれは、ただの人形ではなく、意思を持った武の仲間だった。
それでも、もう彼女の声を聞くことは出来ない。
もう二度と、彼女と話をすることは、出来ない。
そう思うと、翠星石のことが懐かしくて、切なくて、大泣きしそうになって、そして。
翠星石と出会ったときのことを、唐突に思い出した。
しずかの命が奪われ、絶望した武を、翠星石が立ち直らせてくれたときのことを、思い出した。
臆病なのに強がって、前を向かせてくれたときのことを、思い出した。
それを思い出せば――泣いてなど、いられなかった。
悲しみに打ちひしがれ、絶望に心を支配されてしまっては、逆戻りしてしまう。
せっかく翠星石が前を向かせてくれたのに、歩けるように道を示してくれたのに。
泣いて立ち止まっていては、翠星石に叱られてしまうような、そんな気がした。
だから。
(翠星石……蒼星石には会えたか? 仲良く、やれよな。
 なぁ、翠星石。おれ、もう迷わないから、立ち止まったりしないから。だからよ。
 ――少しだけ、泣いてもいいよな?)
心の中でそう呟き、そして。
声を出さず、武は泣いた。

139 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:44:14 ID:NH9CbFW1
◆◆

からからから――。

ゆっくりと動くリヤカーの荷台に仰向けになって、劉鳳は夜空へと目を向けていた。
美しい星の海を眺めながらも、彼は胸中に驚きと苛立ちを抱えていた。
あいつが、ストレイト・クーガーが死んだ。
軽薄で掴み所のないスピード狂。
速さこそ全て、とまでは言わないが、速さが強さに繋がるという思想は理解できる。
ゆえに、病的なまでに速さを追求したクーガーの強さは、劉鳳も分かっている。
それでも、クーガーは敗北した。シグナムという女に殺られたと思って間違いないだろう。
「クーガー……」
劉鳳は呟くと、歯軋りがしそうなほどに歯を噛み縛った。その表情が、強い怒りと後悔に歪む。
クーガーによって投げかけられた、“正義”への問い。同僚から受けた、最期の言葉。
それが、劉鳳の意識に浮かび上がってきたからだ。
それに追随するように、劉鳳は魅音に向けられた視線を思い起こす。
魅音の責めるような目つきは、ネイティブアルターの生半可な攻撃よりもずっと痛かった。
(俺は、何をやっている……)
自問する劉鳳。彼が感じる怒りは、他でもない自分自身へと向けられていた。

俺はこれまで何を為した?
多くの犠牲を目の当たりにしたが、守るべきものを守れたと言えるのか?
俺の中にある正義を、貫き通すことが出来ているのか?

赤いコートの男――アーカードという悪を断罪することには成功した。
しかしそのために、二つの命が犠牲となった。
そのうちの片方、鳳凰寺風の命は、劉鳳がシグナムの断罪に拘らなければ救えたかもしれない。
八神太一という名は、ぶりぶりざえもんが救おうとしていた少年のものだ。
だが彼は、もういない。
怪我が悪化して命を落としたか、未だ見ぬ誰か――あるいは、峰不二子の手に掛けられたか。
真相は分からない。あるのは、守るべき命を、また一つ失ってしまったという事実だけだ。

悪を断罪することのみに固執し、それが正しいと信じ込んでいた。
速やかに悪を処断することは、被害拡大を抑える手段だと疑いもしなかった。
だというのに。
自らの信ずる正義に従って、今まで行動してきたというのに。

140 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:46:30 ID:NH9CbFW1
(その結果がこのザマか……ッ!)
劉鳳の苛立ちがどんどん増していく。そしてそれは衝動となり、劉鳳を突き動かす。
劉鳳は、拳を振り上げた。
拳が天へと突き上げられたのは刹那の間のみで、次の瞬間にはリヤカーへと叩きつけられていた。
「っとと、何!?」
「おわっ!」
リヤカーを引くセラスと、隣に寝そべっている武が驚きの声を上げるが、劉鳳は構わずもう一度拳を上げ、すぐに振り下ろす。
鈍い音が空気を震わせ、熱のような鈍痛が手の甲に広がる。だが、衝動も苛立ちも収束の兆しを見せない。
三度叩きつけようと、振り上げられた拳はしかし、リヤカーへと向かう前に止められた。
「……やめようぜ、こんなことよ」
起き上がった武が、劉鳳の手を掴んでいた。
「子供は黙ってろ!」
劉鳳は燻る苛立ちをぶつけるように、反射的に怒鳴りつけ、武の腕を強引に振り払おうと力を込める。
そのとき、劉鳳の目に武の顔が映った。

武の目じりには、涙の跡があった。
武の瞳は、涙のせいで腫れぽったくなっていた。
そんな顔なのに、その表情には心配を乗せて、真っ直ぐ劉鳳を見つめていた。

劉鳳は、自分の意識が急速に冷えていくのを感じた。
衝動は強烈な情けなさとなり、突き動かされていた腕から力が抜け落ちた。
劉鳳自身を苛む苛立ちはこれ以上ないほどに肥大化し、全てが自己嫌悪へと転化する。
「……すまない」
「いいって。おれ、兄ちゃんの気持ち分かるぜ。悔しい、よな……」
貴様に何が分かる。
そんなことを思いながらも、さすがにそれを口に出すことはせず、劉鳳は口を噤んだ。

からからから――。

気まずい沈黙が、その場に落ちて広がっていく。
劉鳳は武の顔を見ていられず、目を逸らすように寝返りを打った。
横向きになった劉鳳が見たのは、派手に吹き飛ばされた廃墟だった。
そこは吸血鬼アーカードと初めて交戦し、桜田ジュンを死なせてしまった場所。
そして、宿敵と邂逅した場所。
この苛立っているときにあの男――カズマのことを思い出してしまい、劉鳳は不愉快そうに唇を噛んだ。

141 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:49:18 ID:NH9CbFW1
「そういえばよ」
のしかかるような気まずさに耐えかねたのか、武が口を開く。
先ほど八つ当たりをしてしまった負い目もあり、劉鳳は返事こそしないが耳を傾ける。
それに、会話をすれば少しは気が紛れるかもしれないとも思いながら、続きを待った。
「まだ劉鳳兄ちゃんにもセラス姉ちゃんにも、お礼言ってなかったよな」
「……んぇ? お礼?」
一拍遅れて、セラスが聞き返す。相変わらず劉鳳は黙ったまま、更に言葉の続きを待つ。
「あの大男から守ってくれてよ。その、ありがとうな。
 二人が前で戦って、守ってくれたから、おれ、今こうやって話も出来てるって思うんだ」
「お礼なんて、いいよ。私は暴走する上司を止めたかっただけだし。
 それより、私が謝らなきゃね。――足、すみませんでした」
気遣うようなセラスの言葉。
沈痛な彼女の声に、武は元気そうな笑い声を上げて明るく返した。
「気にすんなって。姉ちゃんが悪いわけじゃないし、こんなの、平気だぜ」
そこで言葉を切ると、武は細く長い息を吐く。
その吐息で、明るさを外に出してしまったかのように、武はぼそりと呟いた。
「おれも兄ちゃんたちみたいに強かったら、あいつを守れたのかな……」
武の、力の篭もらない声が、闇に吸い込まれていく。
「俺は……」
それに重ねるように、劉鳳は囁く。
「俺は強くなど、ない……」
ぽつりと漏らした声は、劉鳳自身が呆れを感じてしまうほどに弱々しかった。
「守るべき命の多くを死なせてしまった。そんな俺が、強いはずは、ない……」
「兄ちゃん……」
再び、静寂が訪れる。
車輪が回り、心地よいとはいえない振動が劉鳳の体を揺らす。

からからから――。

響く、単調な調べ。
落ち着かないほどの静けさに抗う音はしかし、無力さを体現するように消えてゆく。
「私も、さ。死なせちゃったよ。守れなかった人、いた。
 SOS、って文字に気付いたのはさ、あの子が死んでからだったんだよ……」
不意に、セラスが口を開く。
車輪が奏でる旋律を後押しするように。無力な音に手を貸そうとするように。
「放送で呼ばれた名前にも、いっぱいあったんだ。一緒に行動してた人の名前がさ」
セラスの言葉に交じる、ぎり、という歯噛みの音を、劉鳳は聞き逃さなかった。
「さっき武君も言ってたけど、私もすごい悔しい。だからもう、こんな思いしたくないんだ。
 自分の手で守れる人は、絶対に守り抜きたい」
捲くし立てると、セラスは強く夜気を吸い込む。
そして後ろを振り向いた彼女の表情は、八重歯を見せた笑みだった。
「まぁ私、警官だしねー。元、ダケド」

142 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:52:05 ID:NH9CbFW1
守れる人は、絶対に守り抜く。
セラスの言うことは、劉鳳も分かっていたはずだった。悪を断罪するということも、そのための行動であるはずだった。
守ろうとしていた、はずだった。
だが、と劉鳳は思う。
いつしか目的を見失い、履き違えていたのではないか。
弱者を守るための手段としての断罪が、目的となってしまっていたのではないか。
それゆえに、守られるべき命を守れなかったのでは、ないか。
劉鳳の脳裏に、同志の姿が描かれる。
共に正義を志した、同志ぶりぶりざえもんが言う“救い”というフレーズが、劉鳳の中で反響する。
救いとはすなわち、保護するべき対象を、命を守ることで完遂される。
悪を滅ぼし尽くすだけでは、救いを手にすることは不可能だと、劉鳳は今更ながらに感じ取った。
「おれ、馬鹿だからよく分かんないけどよ……」
武が、再度口を開く。
劉鳳は身を起こし、彼と向き合った。
そうすることが、出来た。
「劉鳳兄ちゃんもセラス姉ちゃんも、おれたちを守ってくれたんだ。それは間違いねぇんだから、だからよ――」
武は劉鳳とセラスを交互に見て、一生懸命な笑みを見せて、言った。
「自信、持ってくれよ。二人とも、すっげーカッコよかったぜ!」
拙い言葉だった。
だが、真っ直ぐで、純粋で、優しさを感じる言葉だった。
武自身も辛い思いをしているというのに。
彼の手に握られた小さな首輪は、悲しい目に遭ってきた証だというのに。
それでも武は、周りを励まそうとしていた。引っ張ろうとしていた。
懸命に、あたりを元気付けようとしていた。
「ありがとう、武君。優しいね、君は」
告げるセラスに、劉鳳は頷いて同意を示す。すると、武の表情に照れが差した。
照れ笑いを浮かべる武を見ながら、劉鳳は思う。
守りたい、と。
この強く優しい心を持った少年を、必ず守り通したい、と。
「へへ、そんなこと言われたの初めてだぜ。でもよ、俺の心の友は、もっと、もっと優しいんだぞ」
誇らしげに話す武。
彼を見て、劉鳳は心の靄が徐々に晴れていくのを感じる。
その向こうにある“正義”が、カタチを成していくのを、感じ取る。
だから、劉鳳は笑みを浮かべることが出来た。
武へと手を差し伸べることが、出来た。
「武。お前は俺が必ず守ってやる。いや、お前だけじゃない。お前の友も、まだ見ぬ闘えない者たちも。
 ――俺が必ず、守ってやる」

143 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:54:22 ID:NH9CbFW1
悪を断罪することが間違っていると、劉鳳は思わない。
だがそれは、最優先するべきことでは決してない。
守るべき者を守った上で、そして悪を処断する。
それこそが“救い”であり“正義”である。
そう、劉鳳は思い始めていた。
「ありがとよ、劉鳳兄ちゃん! でもおれも、頑張るぜ!」
「ああ。頼りにしているぞ、武」
そうして二人は、満月に見守られて握手を交わした。
どちらの顔にも、晴れやかさを感じるほどの笑みがあった。
「よっし、そうと決まれば二人とも今は寝た寝た。何かあったら叩き起こしたげるから」
発破をかけるようなセラスに、武が尋ねる。
「セラス姉ちゃんは、寝なくていいのか?」
「大丈夫大丈夫。私、夜のほうが調子いいから」
親指を立ててウインクしてみせるセラスに、武が憧れるような視線を送る。
「そっかー、セラス姉ちゃんは大人なんだな!」
「や、まぁ、だからってわけじゃないんだけどねー、はははー……」
何処か感動したような武の口調と、セラスの苦笑いを聞き流しながら、劉鳳は荷台の上で横になった。
「任せたぞ、セラス。何かあったら、すぐに起こせ」
「アイヨー」
そして、劉鳳はそっと目を閉じる。
車輪の回る音を子守歌にするかのように、それを聞きながら、目を閉じる。
(これで、いいんだろう? クーガー、ぶりぶりざえもん)
内心で問いかけると、瞼の裏に映った二人が、首を縦に振ったような気がした。

◆◆

からからから――。

変わらない車輪の音と、遠くから聞こえる列車の音。そして、二つの寝息が聞こえてくる。
それらをBGMとして、セラス・ヴィクトリアはリヤカーを引いていた。
セラスは頭の中で、先ほどの放送で呼ばれた名前――守れなかった名前を、反芻する。
ストレイト・クーガー、野原みさえ、高町なのは、獅堂光、鳳凰寺風。
良くも悪くも個性的な面子である彼らと共に過ごした時間は僅かなものだ。
それでも彼らは、このイカレた殺し合いの中で出会った、仲間と呼べる人たちだった。
彼らとの姿を、声をセラスは思い出す。めくるめく吐き気の世界へと誘ってくれたクーガーの爆走さえも、懐かしく思えた。

144 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 21:56:37 ID:NH9CbFW1
そして。
セラスはちらりと腕に目を向ける。
そこにあるのは、素っ気ない銀色の環だ。
“Alucard”という文字が刻まれたその環を見て、セラスは小さくうな垂れた。
(ホントに死んじゃったんだなぁ……)
心の何処かで期待していたんだと、セラスは思う。
同類であるはずの自分でも、背筋に悪寒が走るほどの化け物だった。
集中砲火を受けても、頭を吹き飛ばされても、笑いながら立ち上がるような人――否、怪物だ。
アーカードが塵になって消えてしまう光景を目の当たりにしても。
もしかしたらまた目の前に現れるのではないか、と。
そんな淡い期待を、セラスは捨てきれていなかった。
だが先の放送で、セラスの小さな期待は砕かれた。アーカード、という名は、確かに先刻諳んじられていた。
悲しみが這い上がってくる。
泣き腫らし、悲しみも流しきった筈なのに、また涙が滲んでくる。
(マスター……)
垂れそうになる鼻水を啜り上げると、微かなしょっぱさが喉の奥に広がった。
それでもまだ潤んでいる瞳に腕を当てると、やや乱暴に両目を擦る。
そして大きく頭を振ると、セラスの顔から涙の色は消えていた。
セラスは、思う。
血も飲んだし、マスターは――アーカードは、もういない。
確かにまだ未熟かもしれないが、もう自分の足で、自分の道を歩んでいかなければならない。
そして、その道とは、もう悔しさを味わわないための道だ。
守るべき存在を守り、元の世界に帰る。
見通せる道は、まだそれだけしかない。だが、それでいい。
無事、帰れれば、時間はたっぷりあるのだ。
そして、決意する。
泣くのだけはもうやめよう、と。
私は誇り高き吸血鬼、アーカードと血の契約を交わした存在なのだから。
もはや“婦警”ではなく、吸血姫なのだから。
セラスは空を見上げる。
闇夜にはたおやかな月光を放つ満月が浮かんでいた。
満月は、一人のドラキュリーナを祝福し、彼女の行く道を照らし上げるように、煌々と輝いていた。

145 :闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 :2007/03/27(火) 22:00:09 ID:NH9CbFW1
【D-4/市街地路上西部/2日目-深夜】

【劉鳳@スクライド】
[状態]:満身創痍 リヤカーの荷台にて睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(-2食)、SOS団腕章『団長』、ビスクドール、ローザミスティカ(真紅)
[思考]
基本:自分の正義を貫く。
    剛田武およびその仲間、闘う力のない者を守ることを最優先。
    悪の断罪は、守るべき者を守るための手段と認識。
1:病院へと向かい不二子が悪か見極める。
2:病院で手当てを受ける。
3:悪を断罪する。(ウォルターを殺した犯人、朝倉涼子※名前を知らない、シグナム)
4:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから開放する。
[備考]
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。

【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]:全身打撲、裂傷及び複数の銃創 (※どれも少しずつ回復中)
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:6/6発)、アーカードの首輪
     13mm炸裂徹鋼弾×54発、スペツナズナイフ×1、ナイフとフォーク×各10本、中華包丁
     銃火器の予備弾セット(各40発ずつ、※Ak-47、.454スカール、ジャッカル、S&W M19の弾丸を消費)
[道具]:デイバッグ、支給品一式(×2)(メモ半分消費)、糸無し糸電話、バヨネット
[思考]
基本:トグサに従って脱出を目指す。守るべき人を守る。
1:劉鳳、剛田武と共に病院へ向かう。
2:食べて休んで回復する。
3:病院を死守し、トグサ達を待つ。
[備考]
※セラスの吸血について
・通常の吸血
 その瞬間のみ再生能力が大幅に向上し、少しの間戦闘能力も向上します。
・命を自分のものとする吸血
 少しの間、再生能力と戦闘能力が向上し、その間のみ吸った相手の力が一部使用できます。
 吸った相手の記憶や感情を少しだけ取り込むことができます。
※現在セラスは使役される吸血鬼から、一人前の吸血鬼にランクアップしたので
 初期状態に比べると若干能力が底上げされています。

【剛田武@ドラえもん】
[状態]:右足首単純骨折、額と鼻に打撲、リヤカーの荷台にて睡眠中
[装備]:虎竹刀、強力うちわ「風神」
[道具]:デイバッグ、支給品一式、エンジェルモートの制服、翠星石の首輪
     ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)、シュールストレミング一缶、缶切り
[思考]
基本:誰も殺したくない、ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
1:病院に向かいドラえもんとのび太に合流する。
2:病院で手当てを受ける。
3:病院で魅音を待つ。

146 :POLLUTION 1 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:06:44 ID:M/ivcLuZ

「……糞ッ!」
 もう4度目にもなる定時放送を聴き終えた遠坂凛ことカレイドルビーは、無意識の内にそう呟いていた。
 何度目になっても、あの仮面の男を見ると虫唾が走る。
 だが、カレイドルビーが今回の放送で感じた不快感は、ただそれだけに寄るものではなかった。
「なんで……今になって死人の数が増えてるのよ!」
 ここまでの死者の数は、放送毎に数えれば19人、9人、9人。それが今回の放送では14人と増加している。
 人の死を無機質な数字で数えてしまう自分には嫌気が差すが、逆に言えば単純な数字の上からも事態の深刻さが窺えるのだ。
 殺し合いが、収まるどころか加速している。
 一体どういうことなのか? 
 この殺し合いの場には、私のようにこのふざけたゲームを止めようと考える者はいないのか?
 それとも、それらの勢力をも上回るだけの怪物達が徘徊しているのか?
 そして、真っ先にそれらの手にかかるのは、戦う力の無い少年少女達……。
 先ほど出合ったばかりの少年の名が含まれていたことも、それを裏付けている。
 だが……もし、あの時彼らと同行していたら、彼を救えたのかもしれないのでは?
 自分の判断ミスが、またしても罪無き少年の命を奪ったのではないのか?
 そんな考えが、ルビーの焦りを増幅してゆく。
 行き場の無い焦燥がルビーの体を駆け巡る。

「Master!」
 不意に、レイジングハートが自分に呼びかけた。
「ん……何? レイジングハート」
「It’s time to go. Let’s join to Ms.Suigintou.(そろそろ水銀燈嬢と合流してもいい頃では)」
「……そうね。あれから時間も経ったし、そろそろ水銀燈も落ち着いたかもしれない。とりあえず橋のところまで戻ってみましょう」
「Sir, my master.」
 

147 :POLLUTION 2 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:07:43 ID:M/ivcLuZ
 先ほどの放送で読み上げられた名前。
 もう私の知る名前も数少ないけれど、その中の一人の名が確かに読み上げられた。
『高町 なのは』
 レイジングハートの持ち主であり、その正式なマスター。
 当初はさっさと彼女にレイジングハートを返却し、このみっともない格好から開放されたかったのだが、
 そんな私の呑気な希望は、残酷な現実に砕かれて霧散してしまった。
 放送の後も、レイジングハートは彼女ことについて何も言わない。私も、彼女のことについては何も聞かない。
 ただ、先ほどからレイジングハートは私のことを、『仮マスター』ではなく『マスター』と呼んでいる。
 ……敢えてそれを問い質すことが、私にはまだ出来ずにいた。

「But, my master ……」
「え?」
 レイジングハートの声に遮られ、自分の思考を中断する。
 相変わらず無機質で事務的な口調だが、それだけに信頼は置ける。例えこんな状況下でも。
「どうしたの? なにか言いたいことでもあるの?」
「Yes, my master. Something is wrong.(はい、マスター。何らかの異常事態が生じた可能性があります)」
「……どういうこと?」
「Ms.Suigintou has gone somewhere. No one is on the bridge.(水銀燈嬢が移動しています。現在橋の上には生存者はだれも居ません)」
「……なんですって!?」

 レイジングハートによると、水銀燈は放送の後、私と合流することなく北上し、
 そのままレイジングハートの索敵範囲外に消えた、ということだ。
 放送前に、レイジングハートは水銀燈の『魔力の異常な変化』とやらを警告していたが……。
 水銀燈の身にに何かが起こったのだろうか?
「……まさか、敵に襲われた!?」
「I don’t think so. There’s no sign of battle.(その確率は低いと思われます。戦闘が行われた痕跡はありません)」
「じゃあ、なんで……? と、とにかく実際に橋に行って確かめるわよ! レイジングハート、索敵モード全開にしといて!」
「Sir, My master! 」
 

148 :POLLUTION 3 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:08:50 ID:M/ivcLuZ


 私が橋に着いたときには、レイジングハートが言ったとおり、水銀燈の姿は何処にも見当たらなかった。
 橋の上には赤い服を着た人形の残骸が放置されたままだったし、
 戦闘が起こったような痕跡も一切見つけられなかった。
 唯一異なるのは――人形の残骸の傍に一枚の紙切れが置かれていた、という点だった。
 ご丁寧に重石代わりに置かれた支給品のランタンが、暗い橋の上でその紙切れを照らし出している。
「これは……」
 ――その紙切れは、水銀燈が残した置手紙だった。
 支給品のメモに書かれた、短く簡潔な手紙。
 少なくとも、これを書いた時点では水銀燈は無事だったことがわかる。
「……それだけでも、十分なのかもね」
「Sorry my master, but I beg your pardon? (失礼、もう一度おっしゃっていただけますか?)」
「ううん、なんでもない。じゃあ、ちょっと移動しましょうか。この子のお墓も作ってあげたいし……」
「Master? 」
「その後で少し休憩を取るわ。レイジングハートは敵が襲ってきたり水銀燈が帰ってきたりしたらすぐ分かるように、
そのまま索敵は維持しておいて。さて、とりあえず身を隠せそうな場所を探さないと……」
「Master? What’s going on? Why don’t you follow her?(どうされたのですかマスター?何故彼女の後を追わないのですか?)」
 レイジングハートが私を責める。
 うん、それも尤もな意見だと思う。私だって本当は、そっちの方が適切な行動だと思っている。
 でも、私は……どうしても私は……
 待ってやりたい。
「私はこれからこの子を埋葬した後、この近辺で水銀燈を待つわ。それまでの間は休息に徹します。
サバイバル環境下では休める時に休んでおくのが鉄則よ。それにこう暗くちゃ敵に待ち伏せされていても対処しきれないかもしれない。
この後……そうね、夜明け前まで待って、それでも水銀燈が戻らなかったら、移動を開始する。
それでいいわね?」
「……Sir, my master. 」 

149 :POLLUTION 4 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:09:52 ID:M/ivcLuZ
 反論する暇も無く一気にまくし立てる私に、レイジングハートも立場上従うしかない。
 でも、実は自分でも分かっていた。
 私の判断は間違っている。
 私の案も全くの誤りでは無いだろうが、本当なら水銀燈の単独行動を許すべきではない。
 彼女の安全面のこともあるし、彼女自身が何かを企んでいる可能性だって無視できない。
 そしてこの判断ミスから、更なる悲劇が幕を上げてしまうかもしれないのだ。
 でも、どうしても……今は彼女の我侭を聞いてやりたかった。
 ――妹を亡くした、お姉さんの我侭を。
「もしもこれが私だったら……私はどうするんだろうな……?」
 誰に言うわけでもなくそう呟くと、私は手にした水銀燈の手紙を見る。
 そこには小さな字で、こう書かれていた。

『ルビーへ。先に謝っておきます。ごめんなさい。
私の心が落ち着くには、もう少し時間が必要です。
本当は真紅を埋めてあげたかったんだけど、どうしても私には出来ませんでした。
私の代わりに、真紅を埋めてあげて下さい。
私はもう少し歩いたら戻ります。
心配などしないでください。ごめんなさい』



150 :POLLUTION 5 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:10:51 ID:M/ivcLuZ
                   ★


「……なんて書いたから、暫くはあそこで大人しくお留守番してくれてるでしょうねぇ、あのお人よしさぁん」
 誰に言うわけでもなく、私はそう呟いた。
 私――正真正銘人間を手に入れた、ローゼンの第一ドール、水銀燈――は、独り夜の街を歩いていた。
 今はまだ一日目――の最後の数分間。もうすぐ4回目の放送が流れるだろう。
 他の参加者にとっては大切なその時間を前にして、私はある場所を目指して歩いていた。
 そう、独りで。

 最初は、この人間の姿から元のドールの姿に戻り、ルビーと合流するつもりだった。
 でも折角だから、この姿のまま、少しだけお散歩したくなっちゃった。
 だからわざわざあんな甘ったるい手紙まで書いて、お散歩の時間を捻出した。
 もちろん、唯のお散歩じゃないのだけれど。
 目的の場所までは歩くのには少し時間がかかったが、
 一度行ったことのある場所だし、思ったよりも早く着けた。
 白い建物が見えてくる。
 
「で、どうなのぉ? 貴方分かるんでしょう? あそこに誰かいるかどうか。――あの『病院』にぃ」
『…………』
「貴方、あのレイジングハートのお友達なんでしょう? なんだか雰囲気が似てるしぃ。
貴方にも分かるんじゃないのぉ?」
『…………』
「もう、無口なんだからぁ。でも、まいいわ。それもすぐに分かることだし」

 これまで得た経験から、大体の予想はついていた。
 この空間内に『病院』という施設がある以上、怪我をした人間は、『病院』に集まってくる。
 ルビーにしてもそうだったし、昨日の夕方も沢山の人が集まって来ていた。
 だから、今だってまた別の――若しくは同じ――人が、病院に集まっている可能性はとても高いと思っていた。

151 :POLLUTION 6 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:12:18 ID:M/ivcLuZ

 でも、それならば……そこに、ルビーを連れて行くメリットは薄い。
 大勢の人間と一度に戦うのは、いくらなんでも分が悪い。
 何せ、ここには中々手強い相手も多くいる。その中には真紅を壊した奴だっているのだ。
 そしてそれと同時に、集まってくる人間の中には、それらとは正反対の人もいる。
 ――弱い、怪我人。強者の庇護を受ける弱虫さんたち。
 ルビーはそいつらを殺さないだろうし、私が殺すのも許さないだろう。
 だから私が何かをするなら、2人のよりよい関係のためにも、独りの方が都合が良い。
 そして――そう、殺し合いが佳境に差し掛かっているのならば、出来る時にやっておきたいことがある。
 弱虫さんの、間引き。
 ルビーのように『便利な』仲間はなかなか貴重な存在だ。
 だから、彼女を温存しておくためにも、少しお仕事をしておくのも悪くは無い。

 だから、独りでお散歩するのだ。病院まで。
 でも、もし病院に誰も居なかったら、そのままルビーと合流するつもりだった。
 病院に人が居るか居ないか。それを確かめるだけでも意味はある。
 でも――残念。
「ビンゴ、ねぇ……!」
 空に映し出された仮面とは“別のもの”を見ながら、私はくすりと微笑んだ。



152 :POLLUTION 7 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:13:26 ID:M/ivcLuZ
 コンコン。
 放送が終わった直後の病室に、ノックの音が木霊する。返事は無い。
 コンコン。
 続けてドアをノックする。姿は見えなくても、ドアの向こうの驚きが気配で分かる。
 コンコン。
「ごめんなさぁい。少しお邪魔しても宜しいかしらぁ? 」
 返事は無いけれど、ヒソヒソと相談する声が聞こえてくる。
 これ以上待っても埒が明かない。そう思った私はドアの取っ手に手をかける。
「ドア、あけるわよぉ? 開けたとたんに不意打ち、ってのは勘弁してねぇ?」
 そんなことが無いことを半ば確信していた私は、そのままドアをガラリと開けた。
「こんばんわぁ。」

「こん……ばんわ」
 力ない挨拶が返ってくる。
 部屋の中には、男の子が1人と女の子が2人、それに青い狸さんが一匹。いずれも、今までに見た顔だ。
 男の子は狸さんに、女の子はもう1人の眠っている女の子にしがみついている。
 怯えているのね。かわいいわぁ。
「お……おねえさん、誰!? なんで僕達がここに居るって分かったの?」
 眼鏡の坊やが震える声でそう尋ねる。
 どうやら私のことを随分と警戒しているようだ。まあ、普通そうでしょうね。
 でも問題ない。今から『仲良く』なるのだから。
「ふふ、折角電気を消して隠れてたって、放送を窓際で見てたの、外から丸見えだったわよ?
ちょっと迂闊だったわねぇ。もし私が怖ぁい殺人鬼だったら、みんな今頃大変よぉ?」
 びくりと、彼らの体が震える。
 『殺人鬼』という言葉に彼らの体が強張るのがはっきりと分かった。
 いけない、いけない。ちょっと脅かしすぎたかしら。
「あら、本気にしちゃったぁ? ふふ、冗談よ、冗談。私は貴方達をどうにかしたりはしないわよぉ?
ただちょっと、一緒に隠れさせて欲しいだけなのよ。私……ちょっと怖い人に追われてるの」

153 :POLLUTION 8 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:14:31 ID:M/ivcLuZ
「えっ!?」
 彼らの、私を見る目が少し変わる。私はそれを見逃さない。
「この近くで、いきなり襲われちゃったのよぉ。
それで命からがら逃げ出して来たんだけど、デイバックも落としちゃって、残ってるのはこの鞄だけ」
 そう言って、私は手にした鞄を見せる。
 ローゼンメイデンの鞄。ドールが安らげる唯一の場所。
 もっとも今の私にはそんなに大きな意味はないのだけれど、自分に馴染んだこの鞄には愛着がある。
 そして――当然だけれど、デイバックを落としたなんて、嘘。
 デイバックは中身ごと、“ちゃあんと”この鞄の中に納まっている。
 持ち物から素性がばれると面倒だし、一応念のため。

「でも……本当にお姉さんは襲われて逃げてきたの? 嘘ついて僕らを騙すつもりなんじゃないの!?
その鞄の中だって、本当は武器がぎっしり詰まってるんじゃないの!!?」
 ――あら……正解、よくできました。思ったよりお利口ねぇ。
 私たちと一緒に居る時はてんでダメダメだったのに、頑張っちゃって。
 でも、それぐらいでは私は慌てない。
「信じてくれないのぉ? 悲しいわぁ……。でも、私本当に嘘なんかついてないのよぉ? 
どうすれば信じてくれるのかしらぁ……?」
「じゃあ、せめてその鞄の中身ぐらいは見せてもらえませんか? 
そうすれば襲われて道具をを失くした、っていうのも信じられるし……」
 狸さんがそう提案した。やっぱり鞄を開けて見せないと納得してくれないみたい。

「仕方ないわねぇ……ホントは見せたくないんだけど……」
 そう言いながら、私は鞄を下ろし、留め金を外す。
 ゆっくりと、ひとつ、ひとつ。
 みんなの視線が、私の手元に集中する。
 いつからか、病室の空気が変質し始める。
 肌から染み出した緊張で空気が張り詰める。
 誰も一言も発さない。唾を飲み込む音さえ聞こえそうだ。
 遠くで何かが鳴っている気がする。これが耳鳴りというものなのかもしれない。

154 :POLLUTION 9 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:15:28 ID:M/ivcLuZ

「開けるわよ……ほら、ご覧なさぁい……」
 がちゃり。
 そう呟きながら、私は鞄の口をゆっくりと開いてゆく。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 そして……彼らの目は、そこに現れた『モノ』に釘付けになった。
「「…………」」
 誰も一言も発さない。何を、どう喋っていいのか理解できない、というところだろうか。
 そして、その静寂を破ったのは意外にも、それまで一言も発しなかった少女だった。



「……くんくん」


「「えっ?」」
 私の顔が綻んだ。
「あらぁ? あなたもくんくん探偵のことを知ってるのぉ? 嬉しいわぁ。やっぱりくんくんは素敵よねぇ」
 
 鞄の中には、『くんくんのぬいぐるみ』がひとり、ちょこんと座っていたのだった。

「あの……」
 眼鏡の少年と狸さんが、申し訳無さそうにおずおずと話しかけてきた。
「疑ってすみませんでした。その、僕らもいろいろあって……」
「いいわぁ、許してあげる。でも、もうレディの荷物を見せろ、なんて言っちゃ駄目よぉ?」
 私がくすくすと笑うと、2人はなんだか恥ずかしそうに照れていた。

155 :POLLUTION 10 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:16:30 ID:M/ivcLuZ
「……あら?」
 気が付くと、先ほどから少女が食い入るようにくんくんを見つめている。
「あなたもくんくんの魅力の虜になっちゃったのねぇ。くんくんたら悪いひ・と!
でも、ちょっとだけならくんくんを貸してあげてもいいわよぉ? あっ、あげるんじゃないからね? 今だけよ、今・だ・け!」
 くんくんを渡してあげると、少女は恥ずかしそうにくんくんを抱きしめた。もう、なんだか嫉妬しちゃうわぁ。
 そんな私の表情を見て、いつしか残った2人も笑顔を覗かせる。
 それまでの緊張が嘘のように、あっという間に場が和やかになった。
 それもこれも、くんくんのおかげかもしれないと思うと、やっぱりくんくんは素敵だわぁ。

 私は、確かにデイバックも鞄の中に入れていた。
 “ちゃあんと”透明マントに包んだ上で。
 くんくんは、真紅の残骸のところに残されていたのを連れて来ていた。
 くんくんもデイバックに入れてもよかったのだけれど、それじゃなんだかくんくんが可哀想だしね。
 本当は、こんなまどろっこしいことすること無かったのかもしれないけれど、
 物騒なものを持っているってばれたら、また言い訳するのも面倒くさいし。
 いっそ、みんな殺しちゃえば早かったかしらぁ?
「あれ、お姉さんどうしたの? そんなに可笑しかった?」
 思わずくすくすと笑い出した私のことを、不思議そうに少年が見つめていた。
 いけない、いけない。思わず顔に出ちゃったわぁ。


 それから、私たちはこれまでのことを話し合った。情報交換というやつね。
 私は適当に、一日中逃げ回って隠れていた、と適当にはぐらかしておいた。彼らはそれを馬鹿正直に信じているようだ。
 そして、かれらの情報はというと……正直、少年と狸さんの情報は夕方に貰っていたから、あまり有難くは無かった。
 それでも、この病院で起こった出来事の顛末は、聞いておいて損は無い情報ではあった。
 でも、先ほどの放送で挙がった死者の話になると……さすがにみんな、暗くなってしまう。
 私は翠星石が死んだってこと以外は、別に何人死んだかぐらいしか興味は無かったんだけれど、
 一応悲しそうな素振りはしておいてあげる。
 でも、空気を変えようとしてドラえもんに話を振ると、彼らはそのまま以前の冒険活劇の話に熱中しだす始末。
 それも悪くは無かったのだけれど、今はそんな昔話よりも、私がまだ知らない情報……少女の話が聞きたかった。

156 :POLLUTION 11 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:17:25 ID:M/ivcLuZ
「えっと……アルちゃん、だっけ? アルちゃんの話も、聞かせて欲しいなぁ?」
「……」
 しかし、私が話しかけると、とたんに少女はくんくんを抱えたままそっぽを向いてしまう。
 恥ずかしがっているのか、警戒されているのか……どちらにせよ、どうにも要領を得ない。
 やはり、今睡眠中の彼女――涼宮ハルヒが目を覚ますのを待つべきか……

「そういえばお姉さんってさ」
「え?」
 急に眼鏡の少年が呟く。

「どことなく、水銀燈って人形に似てるよね」

「あらそう? 」
 表情は崩さない。皺ひとつも同様を見せたりはしない。 
 だが、流石に長く居た彼には感ずるところがあったのか。意外な感性の鋭さに感心する。
「その“すいぎんとう”ってお人形さんがどんなお顔なのか知らないけれど、そんなに似てるのぉ?」
「いや、顔ってより……喋り方とか、雰囲気とかが……」
「他人のそら似じゃないのぉ? でも、そのお人形さんにも、いつか会って見たいわねぇ」
 そう言いながら、話を切り上げる。
 結果的に見れば、この場には嘘など付かずにドールの姿で来ても問題は無かったかもしれない。
 だが、このアルちゃんやハルヒちゃんが、私の姿を覚えている可能性だってあるし、
 こうやって話しているうちに、私を知る別の人物が合流してくるかもしれない。
 だから、やっぱりこうして嘘を付いておいたほうが安全なことには変わりは無い。
 それに……
「そういえばさっき――私が鞄を開けた時、電話が鳴ってたんじゃなかったぁ? なんだか忙しくて出れなかったけどぉ」
「ああ、そういえばさっきのび太君がトイレに行くついでに確認してくれたんだよね?
どうだった? 留守番電話なんかに何かメッセージが入って無かった?」
「ああ、うん。確認してきたよ? 何通か留守番電話が入ってて、最後のは……
えっと、『入れ歯は英語でなんていう?』だったかな? よくわかんないや。
それに暗くてなんだかおっかなかったから……最後まで聞かずに逃げてきちゃった」

157 :POLLUTION 12 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:18:57 ID:M/ivcLuZ
「もう、臆病者なんだから……しかたないなぁ。もう一回行って確かめなきゃ」
「い、嫌だよおっかない! あ、でもなんか若い男の人の声だったし、
 もしかしたらハルヒさんの言ってた『キョン君』かもしれないよ? ハルヒさんにも聞いてみないと……」
 そうやってハルヒを起こそうとした少年の手を、狸さんが止める。
「止めときなよ、ハルヒちゃんだって怪我して疲れてるんだろうし。それに……」
 狸さんが目配せをした先では、アルちゃんがうつらうつらと船を漕いでいた。
「今日は……もうこのぐらいにしておこうよ。続きはまた明日にしよう」
「そうだね、ドラえもん……ああ、最後にもうひとつだけ」
 そう言いながら、少年が私に向き直る。
「お姉さんの名前……まだ聞いてなかったよね。なんていうの?」

 一瞬、考えてしまった。
 どうせこの間の抜けた子供たちなら、何を言ったって信じてしまうのだろう。
 でも、そのときふと、ついさっきまで見ていた参加者名簿の、まだ呼ばれていない人物の名前を思い出した。
 どうやら彼らの仲間でも無いみたいだし、折角だからその人の名前を拝借することにする。
 ばれても特に問題は無い。適当に誤魔化せばこの子たちも信じてくれるだろう。

「ええ、私の名前は……リン。遠坂凛よ」




158 :POLLUTION 13 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:21:27 ID:M/ivcLuZ
             ☆


「……おしっこ」
 むくりと起き上がって、そうつぶやいた。
 まわりには、みんな……ハルヒおねえちゃんと、のびお兄ちゃんと、ドラえもんと、凛おばちゃんが眠ってる。
 みんなスヤスヤ眠ってるから、起こさないようにそっと部屋を出て、お手洗いまで歩く。
 暗くて長い廊下が、なんだかとっても怖かった。
 真っ暗で、誰かが急に出てくるかもしれない、って怖くなる。
 でも……出てくるのが、おとーさんだったらいいな。
 そう思うと、なんだか暗いのが怖くなくなった。
 それどころか、もっともっと、ずーっと暗いところを見ていたくなった。

 ぶるるっ
 やっぱり早くお手洗いに行かないと。


「ふぃーっ」
 おしっこがすんだら、おててを洗う。
 水が変なところからでたりして変なお手洗いだけど、ハルヒおねえちゃんが教えてくれたから、使い方もなんとかわかる。
 おしっこしたら、とってを倒して水を出す。手を出したらかってに水が出てくるからそこで洗う。
 そのよこの箱から出てくる風で手をかわかす。うん、かんぺき。
 さいしょは良く分からなかったけど、ハルヒおねえちゃんがぜんぶ教えてくれた。
 さいしょは男の人と女の人の入り口がちがうの分からなくて、中でヤマトに怒られたっけ。
 

159 :POLLUTION 14 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:22:20 ID:M/ivcLuZ
「ヤマト、だいじょうぶかなぁ……」
 ヤマトの友達のタイチ。あったばかりなのに死んじゃった。ヤマトはいっつもタイチのことばかり話してたのに。
 長門おねえちゃんも、あの仮面の人が名前を呼んでいた。じゃあ、おとーさんといっしょで……?
 それにハルヒおねえちゃんもまだおめめをさまさない。前もずっと寝てたけど、めをさました。
 こんどもきっと目をさますよね。きっと……

 ぴちょん。

 洗面台に、水がおちた。
 アルルゥの、なみだ。
 だめ。泣いちゃだめ。泣いたらヤマトもハルヒおねえちゃんも心配する。
 だから、アルルゥは泣いちゃだめなの。泣かないで、ヤマトが帰ってくるのを待つの。
 でも、でも、
 どうしてもなみださんは止まってくれなかった。



「泣いてるのぉ? アルちゃん?」

 どきっ!!!

 いきなり後ろから声がした。
 暗いところから出てきたのは、おとーさんじゃなくて、凛おばちゃんだった。
 はんしゃ的に、壁のかげにかくれる。
 アルルゥ、凛おばちゃんキライ。なんだか分からないけど、キライ。
 顔だけ出して、凛おばちゃんの方を見る。
「もう……そんなに嫌わなくたっていいじゃない。怖がらなくたって何もしないわよぉ」
 凛おばちゃんが笑う。なんだか怖い。
 凛おばちゃんは、ゆっくりアルルゥのとこに歩いてくる。
「アルちゃん……太一君のことで泣いてたんでしょう? それに、ヤマト君が心配。違う?」

160 :POLLUTION 15 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:23:42 ID:M/ivcLuZ
「え……?」
 なんで? なんで分かるの?
「さっきドラちゃんたちから聞いたけど……悲しかったでしょうね。それに、もうお父さんも……」
「……」
 おとーさんのことも、みんなの事も、思い出したらアルルゥとってもかなしくなる。
 でも、凛おばちゃんもとっても悲しそうだった。見てるとアルルゥももっともっと悲しくなる。
「私もね……姉妹がいたんだけど、みんな死んじゃって……仲間もいないし、1人でとっても寂しかったの。
 だから、アルちゃんが悲しいの、私も少しは分かるつもりよ」
「しまい……?」
「ええ、妹が3人いたわ。だけどもう……誰も残ってないの」
 凛おばちゃんはほんとに悲しそうだった。でも、がんばって笑ってくれる。
「でもね、アルちゃん。アルちゃんには、まだお友達が沢山いるじゃない。
 ドラちゃんにのび太君に、ハルヒちゃんに……ヤマト君も。
 だから、アルちゃんは泣いてちゃ駄目。アルちゃんはお友達と一緒に、お友達が怪我し無いように頑張らないと。
 それに、アルちゃんは泣いてるより笑ってるほうがお似合いよぉ?」
 そう言って、凛おねえちゃんは笑ってくれた。
 それを見てたら……なんだか、泣いてちゃダメなんだ、って、思った。
「凛おばちゃんも……アルルゥの友達」
「あら、嬉しい。でも、おばちゃんじゃなくて、お姉ちゃん、って呼んで欲しいなぁ」
「うん、わかった。凛おねえちゃん」
 そういったら、凛おねえちゃんはまたくすっと笑った。

「ところでね、アルちゃん。みんなの役に立ちたい、って思わない?」
「え?」
 みんなのところに帰ろうとしたアルルゥに、凛おねえちゃんが話しかけてきた。
「突然だけどね、私、魔法が使えるのよ」
 ――ふわっ
 そういって凛おねえちゃんがなにかつぶやくと、ふわりと凛おねえちゃんの体がうかび上がった。

161 :POLLUTION 16 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:24:50 ID:M/ivcLuZ
「わ、わ、すごい!」
「でしょう? 他にも色々できるのよぉ? 戦うのは苦手だけどね」
「でもでも、空を飛べるなんてすごい!」
「これをね、アルちゃんも出来るようになるかもしれないのよぉ」
「ふえ!?」

 凛おねえちゃんはまたふわりと地面におりると、アルルゥにゆっくり話しだした。
「私の魔法……ある『魔法の本』の力をかりてるんだけどね、
その本が、『アルちゃんなら出来る』って言い出したのよぉ。
普段は私が話しかけてもだんまりなのに……これって、とっても珍しいことなのよぉ。
だから、もしアルちゃんがよければ……私と一緒に、魔法の練習、してみない?」
「ふええ、魔法使い!?」
 アルルゥが、魔法使い?
 お空をとんだり、あと……え〜っと、え〜っと……
 とにかくいろいろ魔法が使えるの!?
「ええ、そうよぉ。魔法が使えれば、きっとみんなの役に立てるわぁ。
 例えばヤマト君をお空の上から探せたら、きっとすぐに見つかると思うし」
 アルルゥがみんなの役に立つ……!
 アルルゥが魔法でヤマトを見つける……!!
「アルちゃんだって、ハルヒお姉ちゃん達に守られてばっかりじゃ嫌でしょう?
今度はアルちゃんが、ハルヒお姉ちゃん達を助けてあげる番よ」
 アルルゥが、みんな助ける!
 もう、だれも居なくなったりしないようにする!!
「うん! アルルゥがんばる! アルルゥがみんな助ける!!」
 アルルゥがそういったら、凛おねえちゃんはまたうれしそうに笑った。
「そう……アルちゃん偉いわぁ。きっと皆も喜ぶわよぉ。それじゃぁ、善は急げ。今から練習はじめてみましょうか」
「うん!」



162 :POLLUTION 17 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:25:41 ID:M/ivcLuZ
 凛おねえちゃんは、どんどん奥のほうへ歩いていく。
 凛おねえちゃんは「うるさくして皆を起こしちゃ気の毒でしょ?」っていってた。アルルゥもそう思う。
 どんどん暗いところに行くけど。アルルゥはもう怖くなんか無いもん。たぶん。
「……手術室……かぁ。ここならいいかな?」
 凛おねえちゃんはそういうと、いっこの部屋のでんきを付けて中に入っていった。
 アルルゥもついていく。
 部屋の中は広くって、がらんとしていた。
 壁にたながいっぱいあって、すみっこになにかの箱がおいてあって、天井からおっきなのがぶら下がってる。
「うん、ここなら静かだし、思う存分練習できるわねぇ」
 凛おねえちゃんは、真ん中の箱にすわると、私を呼んだ。
「いい、アルちゃん。魔法といっても、実際は私も魔法の本の力を借りてるだけなのよ。
 だから、大事なのは、魔法の本と、アルちゃんの頑張りなのよ。
 きっとアルちゃんが頑張れば、魔法の本も応えてくれるし、魔法だって使いこなせると思うの」
 そういって、凛おねえちゃんは立ち上がる。
「うん! アルルゥ頑張る!」
「そう、その意気よぉ。じゃあ、お姉ちゃんの言うとおりにするのよ。まず、目を閉じて、心を落ち着けるの」
「うん!」
 アルルゥは目をしめる。
 心を落ち着けるってどうするのか良く分からないけど、む〜、と頑張る。
「そして、それからアルちゃんの大事な人、助けたい人達のことを考えるの」
「うん! かんがえる!」
 大事な人……おとーさん。おねーちゃん。みんな。
 ハルヒおねえちゃん。ヤマト。ルパンおじちゃん。トグサおじちゃん。長門おねえちゃん。ドラえもん。のびお兄ちゃん。
 みんな、みんな。
「そして、その人達と、楽しく幸せに暮らしてるところを想像して御覧なさい?」
「うん。わかった」

163 :POLLUTION 18 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:26:35 ID:M/ivcLuZ
 そうぞうする。
 おとーさんがいて、その膝の上にアルルゥがいる。
 横にはおねーちゃんたちがいて、アルルゥの頭をなでてくれる。
 みんな笑ってて、みんなでごはんを食べる。
 それを見て、アルルゥも笑うの。
 楽しくて、幸せで……ずっと、ずっとこのままならいいなって思って……

「いいわよぉアルちゃん、その調子。じゃあ次は……」
 そういうと、何かが「ばさっ」って音をたてた。
 アルルゥの上に、何かが降ってきた。
「ふぇ?」
 思わず目を開けたら、目の前が真っ青だった。
 なんだろう? これ??
 よく見るとそれは、青い、おっきな布だった。

164 :POLLUTION 19 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:27:49 ID:M/ivcLuZ


「次は……そのまま死んでくれる?」


 どんっ、と首を押される。
 びっくりして息をのみこんだけど、そのまま息がはき出せない。
 なにが起こったのか、って見ようとしても、なぜか首がうごかない。
 目だけをがんばって動かして見ると、赤いなにかが見えた。

 赤い板が、布からアルルゥののどらへんに、突き出ていた。
「ごぽっ」
 くちの中から、べとべとした水が、血が、あふれてくる。
 くるしい。息ができない。
 いたい。どこが? 首が! 首がいたい!!
 でも『いたい』って叫びたいのに声がでない。

「ふふ、声が出ないでしょう? ちゃあんと声が出るところを狙って刺したからねぇ」
 凛おねえちゃんが何か言ってる。
 凄く怖くて、アルルゥの嫌いな声で。
「でも、さすが手術用の布ねぇ。血が全然漏れてこないわぁ。汚れたらどうしようかな、って思ってたんだけど。
血って結構臭いのよぉ? ああ、後で香水振っとかないと。どこかにあるかしら?」
「……!?!?」
 いろんなことを言いたかった。
 なんで、こんなことするの?
 凛おねえちゃんは、アルルゥのことがきらいなの?
 アルルゥが、なにか悪いことしちゃったの?
 それならごめんなさい、って言うからおしえて。
 なんで? なんでなの?

165 :POLLUTION 20 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:28:42 ID:M/ivcLuZ
 ――ガシャン!
 アルルゥがよろけて、何かに当たる。おっきな音がする。
「……もう、気をつけてよアルちゃん。これで誰かが気付いたら面倒じゃない……」
 そういうと、凛おねぇちゃんはアルルゥを突き飛ばした。
 立っていられなくなって、アルルゥは地面にこけた。
「だからぁ、アルちゃんはお利口さんなんだから……そのまま、死んじゃってよ、ね?」
 ぐさり。
 体のどこかに何かが刺さった。
 最初にそこが熱くなって、後から痛いのがやってくる。
「折角幸せな気持ちで死ねるように気を使ってあげたんだからぁ」
 ぐさり。
 またどこかに何かが刺さる。
 いやだ。いやだ。たすけて。だれかたすけて。
「ああもう、そんなに暴れちゃだめよぉ。どうせもう助からないんだからぁ、大人しくしなさいよぉ」
 ぐさり。
 またささる。
 もがいて逃げようとしても、ゆるしてくれない。
「アルちゃんはあんまり何も話してくれなかったから、お話はハルヒおねえちゃんから聞くことにするわぁ。
だからアルちゃんは心配しなくていいのよぉ」
 ぐさり。
 ささる。
 じたばたしようとしても、だんだん体が動かなくなってくる。
「ふふ、でもあなたも酷いわねぇ、『魔法の本』さぁん?
あなたが強情張ってないで何か喋ってれば、この子を逃がせたかもしれないのにねぇ……
ま、そうなればあの子達みんな皆殺しになってただけだろうけど」
 ぐさり
 ささる。
 なんだか体がおもい。うでも、あしも、動かそうとしても、ちょっとしか動かない。
「大丈夫よぉ、アルちゃん。きっと優しいお父さんが迎えに来てくれるわよぉ。
天国にいったら、めいっぱい甘えてあげなさぁい? ふふっ」

166 :POLLUTION 21 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:29:34 ID:M/ivcLuZ
 ぐさり
 ささる。
 なんだか目の前が暗くなる。ささったところが熱かったのに、だんだか寒くなってきた。
「…………」
 ぐさり。
 ささる。
 もう凛おねえちゃんが何を言ってるのかも良く分からない。それに、なんだかとってもねむい。
 ぐさり。
 ささる。
 ぐさり。
 ぐさり。
 ぐさり
 ……
 ……


 ……おとーさん……







167 :POLLUTION 22 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:30:25 ID:M/ivcLuZ
                    ★


「「な、なんだって〜〜〜〜〜!?」」
 静かな病室に、2人の声が木霊する。

「「アルルゥちゃんが、いなくなった〜〜〜〜〜!?」」

「ええ……そうなのよ。さっき2人で話してたら、なんだかアルちゃん思いつめちゃったみたいで……。
『ヤマトをたすける!』って言って、走って行っちゃったのよ。
私も急いで追いかけたんだけど、見失っちゃって……本当にごめんなさい。私、どうしたらいいか……」
 そう言って私は目を伏せ、黙り込む。
「ううん、凛お姉さんは悪くないよ。それより、早くアルルゥちゃんを探さないと!」
 そしてそう言うなり駆け出そうとするのび太君を、ドラえもんが引き止める。
「待ってのび太君、一人で行くのは危険だ。もしも危ない人に見つかったら……!」
「そうよ。それに私を襲った人が近くに来てるかもしれないし……」
「それなら尚更はやく見つけないといけないじゃないか! 皆で行けばまだ安全かもしれないし早く行こうよ!」
「うん、でも……」
 のび太君に急かされたドラえもんが、後ろを振り返る。
 視線の先の病室では、ハルヒちゃんがまだ寝ている筈だ。彼女を1人置いていくのも気が引けるのだろう。

 だから、私が助け舟を出してあげる。
「……それじゃ、こういうのはどうかしら? ドラちゃんとのび太君はアルちゃんを探しにいく。私はその間ハルヒちゃんとお留守番。
これなら誰も1人っきりにならないし、アルちゃんも探しに行ける」
 私の提案にドラえもんは少し迷いを見せたけど、のび太君に急かされて、結局私の案に同意した。
「わかったよ。ハルヒちゃんをよろしくね!」
「わかったわぁ」
 ふふふ。元気ねぇ。
 私が出した助け舟は、酷い穴の開いた泥舟だっていうのにね。


168 :POLLUTION 23 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:31:14 ID:M/ivcLuZ

「ちょっと待って!!」


 突然、後ろから声がした。
 振り向くと、病室のドアを開けて、ハルヒちゃんがこちらに歩いて来るところだった。
 よろよろとした足取りで。
「話は聞こえたわ。アルちゃんがいなくなったんですってね。私も一緒に探しにいくわ!!」
 そんな、さっきまで昏睡していたとは思えないハルヒちゃんの気勢に押されつつも、ドラえもんが反論してくれる。
「で、でもハルヒちゃんだって体の調子が良くないし、凛さんだって付いていてくれるから……」
「団長の私が、団員の一大事にじっとしてて良いワケが無いでしょ!」
 ハルヒちゃんはぴしゃりとそう言い切ると、私たちを追い越して玄関の方へと歩いていく。
「なにしてるの! ぐずぐずしてる時間なんてないんだからね!」

 あらあら、残念。
 これから2人でおしゃべりして、その後で『おねんね』してもらおうと思っていたのに残念だわぁ。
 でも、まぁ別にいいかもね。
 このままアルちゃんを探すふりをしながら、カレイドルビーの元に戻って合流でもしようかしら。
 チャンスがあればもう1人ぐらい殺しておいてもいいけれど……うふふ。
 でも、もう無理する必要は全然無いしね。今はこの子達と別れちゃうのも別にいいわぁ。
 ちゃあんと念入りに『処理』してダストシュートに隠しておいた、アルちゃんが見つかるとも思えないし。
 こうして夜の街をうろついていれば、みんな誰かに殺されちゃうかもしれないしねぇ?


 唯一の失敗は……消臭しすぎて私が消毒液臭くなっちゃったってことかしらぁ? はやくお風呂に入りたいわぁ……




169 :POLLUTION 24 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:32:04 ID:M/ivcLuZ
【F-3 2日目・深夜】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(アクセルモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式(食料残り一日分。水3割消費、残り1本)、ヤクルト一本
:エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、
:五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
:市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り4パック)
[思考]
1:黎明〜早朝ぐらいまで水銀燈を待つ。
2:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
3:セイバーについては捜索を一時保留する。
4: ドラえもんを探し、詳しい科学技術についての情報を得る。
5: アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する。
6:知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿はできる限り見せない。
7:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※緑の髪のポニーテールの女(園崎魅音。名前は知らない)を危険人物と認識。
※レイジングハートからの講義は何らかの効果があったかもしれませんが、それらの実践はしていません。
※レイジングハートは、シグナム戦で水銀燈がスネ夫をかばうフリをして見捨てたことを知っており、水銀燈を警戒しています。
現在もその疑心は少しずつ深まっている状態です。
※カレイドルビー&レイジングハートの主催者&首輪講座 済
[推測]:
ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
首輪には盗聴器がある
首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している




170 :POLLUTION 25 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:33:06 ID:M/ivcLuZ
【D-3 2日目・黎明】
【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:服の一部損傷/人間モード /『契約』による自動回復は距離により一時途絶。消毒液の臭い。
[装備]: くんくんの人形@ローゼンメイデン、ドールの鞄@ローゼンメイデン
[道具]:透明マント@ドラえもん、ストリキニーネ(粉末状の毒物。苦味が強く、致死量を摂取すると呼吸困難または循環障害を起こし死亡する)
:デイパック(透明マントで隠している)(支給品一式(食料と水はなし)、ドールの螺子巻き@ローゼンメイデン、)、ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー、照明弾)
ヘンゼルの手斧@BLACK LAGOON、夜天の書(多重プロテクト状態))

[思考・状況]
1:病院には長居せずにさっさとカレイドルビーと合流。
2:ハルヒから情報を得る。
3:チャンスがあれば誰かを殺害。しかし出来る限りリスクは負わない。
4: カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
5:ローザミスティカをできる限り集める。真紅のミスティカを持っているという男を捜す。
6:カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
7:あまりに人が増えるようなら誰か一人殺す。
8:青い蜘蛛にはまだ手は出さない。

[備考]:
※凛の名をカレイドルビーだと思っています。 :カレイドルビーの名前が名簿に無いことは気付いていると思われます。
※透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。また、かなり破れやすいです。
※透明マントとデイパック内の荷物に関しては誰に対しても秘密。
※レイジングハートを少し警戒。
※デイパックに収納された夜天の書は、レイジングハートの魔力感知に引っかかることは無い。
※夜天の書装備時は、リインフォース(vsなのは戦モデル)と完全に同一の姿となります。
※夜天の書装備時は、水銀燈の各能力がそれと似たベルカ式魔法に変更されます。
※リインフォースは水銀燈に助言する気は全くありません。
※水銀燈の『契約』について:省略


171 :POLLUTION 26 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:33:57 ID:M/ivcLuZ
※水銀燈の吐いた嘘について。
・名前は『遠坂凛』。
・病院の近くで襲われ、デイバックを失った。残ったのはドールの鞄とくんくん人形だけ。
・一日目は、ずっと逃げたり隠れたりしていた。


【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ、頭部に強い衝撃
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
1:アルルゥを探す
2:自分の立てた方針に従い首輪の解除に全力を尽くす
3:ジャイアンを捜す
基本:ひみつ道具と仲間を集めてしずかの仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
[備考]
※第一回放送の禁止エリアについてのび太から話を聞きました。


【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:ギガゾンビ打倒への決意/左足に負傷(行動には支障なし。だが、無理は禁物)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ドラえもん達と行動しつつ、首輪の解除に全力を尽くす。
2:なんとかしてしずかの仇を討ちたい。
3:ジャイアンを探す。



172 :POLLUTION 27 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 00:34:48 ID:M/ivcLuZ
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:薬の影響で少しふらつく。
   頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)
   左上腕に負傷(ほぼ完治)
[装備]:なし
[道具]:クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回) 、着せ替えカメラ(使用回数:残り17回)
[思考]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。
1:アルルゥの捜索。
2:知り合いを探す。
3:キョンと合流したい。
4:ろくな装備もない長門(とトグサ)が心配。
5:ペットショップを探して、アルルゥの能力で色々やってみる。
[備考] :
※腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
※長門が死んだという事実はまだ知りません。

【アルルゥ@うたわれるもの 死亡】

※アルルゥの死体は、病院のダストシュート内に隠蔽されており、簡単には見つかりません。



173 :共有 ◆/1XIgPEeCM :2007/03/28(水) 02:42:01 ID:QX5C8zw6
ようやく希望の光が見えてきた、そんな時、それを握り潰すかの如くあの糞忌々しい声が辺りに響き渡る。
『おめでとう! ついに1日目の終了だ』
可能ならば、思わず耳を塞ぎたくなるほど不愉快な声だ。
だが、そんなことはできない。この首輪がある限り、禁止エリアの聞き逃しは死に関わるからだ。それは百も承知なのだが……。
俺は湧き上がる怒りを抑えるため、持っていた受話器を強く握り締めた。ミシリ、と受話器が小さな悲鳴を上げる。
そんな俺をお構いなしに放送は進み、大勢の死者の名が告げられる。
そしてその中には……。
「う、嘘……そんな、ことって……」
ストレイト・クーガーと、高町なのは。その二人の名が呼ばれたからか、園崎は強い動揺を見せる。その瞳や唇は、ぶるぶると震えていた。
……またか。またなのか。俺はもう、うんざりだった。誰かが悲しむのは見たくなかった。
俺はその二人がどんな人物なのか、はっきりとは知らない。
だが少なくとも園崎にとって二人は、特にクーガーという男の存在は、短時間の間にとても大きなものになっていたのだと思う。
「園崎……」
俺は、そんな彼女になんと声をかけたら良いのか分からなかった。下手な慰めは、逆効果になることも有り得るしな……。
「ぐっ……うぷっ」
園崎は突然手で口を抑えると、その場に膝を付き、嘔吐し始めた。
「み、魅音殿!?」
「お、おい、大丈夫か?」
俺とトウカさんは思わず崩れ落ちた園崎に駆け寄った。
一体急にどうしたんだ。泣くとかならまだしも、このような例は見たことがないぞ。
……ひょっとするとこれはアレだろうか? 精神的なストレスから引き起こされた嘔吐。そう考えるのが妥当だろう。
知っている人が次々と死んでいく。いつ誰かに殺されてもおかしくない状況。あのギガゾンビの不快な声。自分が全く知らない世界。
これだけの要素が集まれば、このような症状が表れても無理もないことかもしれなかった。
俺は嘔吐が治まってきた頃合を見計らって、園崎に声をかけた。
「……園崎、少し休んだ方がいい。トウカさんは園崎についててあげてください。
 場所は……その中で待っていてください。俺は病院に電話をかけてから戻ります」
俺は手近にあった小さなビルを指差すと、そこで彼女を休ませるように促した。
「承知いたした。魅音殿、こちらへ……」
「…………」
トウカさんは園崎の手を引いてやり、その身を立たせた。
多少ふらついたものの、園崎は倒れることなく歩いていった。
「くそ……」
二人の後ろ姿を見送った後、俺は一人呟いた。
園崎の気持ちは痛いほど分かる。ここに来てから、それもほんの丸一日の間に何人かけがえの無い仲間を失ったことか。
さっきだって、長門の名前が呼ばれた。あいつが死ぬ瞬間も実際に見たさ。墓だって作った。
それでも長門の名前が呼ばれたのは幻聴か何かなんじゃないかって、そんな現実逃避的な考えが頭を過ぎったりもした。
だが、どう足掻こうともあいつらはもう帰ってこない。これは、書き換えようのない現実なのだ。
……ちょっと待て。長門は死んだ。放送で名前も呼ばれた。
ということは、ハルヒも勿論そのことを知っているじゃないか。それなのに俺はあいつへの気遣いも無しに電話で……。
ああ、何をやっているんだ、馬鹿か俺は。焦るんじゃない。冷静になれ。いつものお前はそんなんじゃないだろう?
……どうやら俺は、自分でも気が付かない内に色々と追い詰められていたらしい。
俺は再び電話ボックスに入り、乱暴に受話器を取ると、病院の電話番号をプッシュした。

174 :共有 ◆/1XIgPEeCM :2007/03/28(水) 02:43:08 ID:QX5C8zw6
「……出ないな」
聞こえてくるのはプルルルル、という規則的且つ無機質な音だけだ。念のためもう一度かけなおしてみたが、結果は同じだった。
今現在病院に誰もいないとか、電話が鳴っているのに気付いていないとか、そういうのならまだいい。
一番あって欲しくないことは、病院で何かしらのトラブルがあり、そのせいで電話に出ることが不可能な状態になってしまっている、ということである。
病院にはセラスさん達が向かったはずだ。何事も無ければいいのだが……俺はどうしてか、嫌な予感がしてならなかった。
俺は仕方なく病院に映画館にかけた時と同じ留守電メッセージを残し、受話器を戻してから電話ボックスを出た。
ふと、嘗てホテルが建っていた方角を見る。俺には一つ気になることがあった。
先程園崎との情報交換で教えてもらったことなのだが、ホテルには元々セラスさん達の帰りを待っていた四人の人間……。
即ち、ガッツ、野原みさえ、ゲイン・ビジョウ、そして危険人物であったはずのキャスカが居たという。
内三人は先の放送で名前を呼ばれてしまったが、ゲインという人はまだ生きているらしい。
その人がどんな人物なのかは全く知らないが、常人ならばあの崩落に巻き込まれて、未だに瓦礫の下で生き残っているとは思えない。
彼は上手くホテルを脱出できたのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は二人が入って行ったビルへ向かった。

ビルの入り口を潜って少し歩いた所に、椅子に座らせられた園崎と、その彼女を不安そうに見つめるトウカさんの姿があった。
俺がやってきたことに気が付いたトウカさんは、こちらを振り向く。
「結局電話は繋がりませんでした。園崎の様子は?」
「幾分落ち着いたように見られる、が……」
俺は、下を向いている園崎の顔を見た。顔色が悪そうだ。
「大丈夫だよ、私は……」
そう言って、園崎はゆっくりと立ち上がった。
「じっとしてたって何も始まらないしさ。早く病院に行こうよ。『射手座の日』のことも考えなきゃいけないし……」
俯いていた顔を上げ、その表情に小さな微笑みをたたえて、明るめの声で園崎は言った。
でも、俺にはすぐに分かった。これはどう見ても空元気だ。
生きていると信じていた仲間が死んでしまった。本当に大切な仲間が死んでしまった。
だがそれでも、今は前を向いて歩いて行かなければならない。彼女はそう思っているのだろう。
だからこそ、ついつい一人で抱え込んでしまうのだ。まったく、こっちまで悲しくなってくるじゃねぇか。
「そ、そんな目で見ないでよ。本当に大丈夫だから……」
俺の哀れむような視線に気付いたのか、園崎は慌ててそう言った。
「魅音殿、あまり無理はなさるな。苦しい時は某にいつでも遠慮なく言ってくだされ」
「トウカさん……」
トウカさんが園崎に言った。そうだ、こいつは明らかに無理をしている。もう暫くの休息は必要だろう。
まあ、俺自身も無理をしていると言えばしているのだが。
「トウカさんの言う通りだ。お前には俺達がついている。俺達は、仲間なんだからよ」
「キョン……」
俺はつい、そんなことを言ってしまった。
正直、ちょっぴり気恥ずかしくなった。こういうセリフはやっぱりガラに合わんな……。
「ごめん、二人共……ありがとう……本当に、ありがとう……」
なんていう俺の思いを余所に、園崎は泣き崩れた。我慢していた分も溢れたらしい。トウカさんはそんな彼女を優しく抱き締めてあげた。
親切な人だな、と改めて思う。色々と世話の焼ける部分もあったりするが。こんな状況下で、彼女のような人に出会えて本当に良かった。
俺達は皆、苦境に曝されながらも、こうやって支え合って生きている。やっぱり仲間っていいもんだなと、俺はこの時確かに実感した。
瞬間、俺は俺の中に何かが込み上げてくるのを感じた。

あれ、おかしいな……。

いつしか俺の目からは、汗が流れていた。




175 :共有 ◆/1XIgPEeCM :2007/03/28(水) 02:43:56 ID:QX5C8zw6
【D-5/大通りに面したビル内/2日目・深夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労、全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、スコップ
[道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-1)、わすれろ草、キートンの大学の名刺
   :ロープ、ノートパソコン
[思考]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:もう暫くここで休みながら、落ち着く。
2:1の後、レジャービルへ行き、回答が留守電に入っていないかどうか調べる。
3:1の後、病院へ向かい、2が不可だった場合にセラスから直接射手座の英語スペルを聞く(戦力の分散は危険と考えている)。
4:掲示板が気になる。
5:長門の残してくれたメッセージを解読する。
6:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。
7:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:疲労、左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ
[装備]:斬鉄剣
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、出刃包丁(折れている)、物干し竿(刀/折れている)
[思考]
基本:無用な殺生はしない。だが積極的に参加者を殺して回っている人間は別。
   特にセイバーは出会うことがあれば必ず斬る。
1:もう暫くここで休む。
2:その後、病院へと向かう(戦力分散は愚行と考えている)
3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。
4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武、魅音を守り通す。
5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。

【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(中)、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り)、クーガーの死による精神的ショック、空腹
[装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3)
[道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている) パチンコ
[思考]
基本:バトルロワイアルの打倒
1:もう暫くここで休む。
2:その後、病院へ向かう(戦力の分散は危険と考えている)
3:「射手座の日」の暗号を解く。
4:沙都子を探して保護する。
5:武に謝りたい
6:圭一、レナ、クーガーの仇を取りたい(水銀燈、カレイドルビー、シグナムが対象)。
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、及びキョンの考察を聞きました。

176 :POLLUTION 修正 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:23:07 ID:M/ivcLuZ
修正

レス番1「Sir, my master.」→「Yes, my master.」
同2「Sir, My master! 」→「Yes, my master! 」
同3「……Sir, my master. 」→「……All right, my master. 」

・以下の文をSS末に挿入。
※ハクオロの鉄扇はアルルゥの死体が持っています。

アルルゥパートを各自以下のものと差し替え。


177 :POLLUTION 13 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:23:56 ID:M/ivcLuZ
             ☆


「……おしっこ」
 むくりと起き上がって、そうつぶやいた。
 まわりには、みんな……ハルヒおねえちゃんと、のびお兄ちゃんと、ドラえもんと、凛おばちゃんが眠ってる。
 みんなスヤスヤ眠ってるから、起こさないようにそっと部屋を出て、お手洗いまで歩く。
 暗くて長い廊下が、なんだかとっても怖かった。
 真っ暗で、誰かが急に出てくるかもしれない、って怖くなる。
 でも……出てくるのが、おとーさんだったらいいな。
 そう思うと、なんだか暗いのが怖くなくなった。
 それどころか、もっともっと、ずーっと暗いところを見ていたくなった。

 ぶるるっ
 やっぱり早くお手洗いに行かないと。


「ふぃーっ」
 おしっこがすんだら、おててを洗う。
 水が変なところからでたりして変なお手洗いだけど、ハルヒおねえちゃんが教えてくれたから、使い方もなんとかわかる。
 おしっこしたら、とってを倒して水を出す。手を出したらかってに水が出てくるからそこで洗う。
 そのよこの箱から出てくる風で手をかわかす。うん、かんぺき。
 さいしょは良く分からなかったけど、ハルヒおねえちゃんがぜんぶ教えてくれた。
 さいしょは男の人と女の人の入り口がちがうの分からなくて、中でヤマトに怒られたっけ。
 


178 :POLLUTION 14 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:24:45 ID:M/ivcLuZ
「ヤマト、だいじょうぶかなぁ……」
 ヤマトの友達のタイチ。あったばかりなのに死んじゃった。ヤマトはいっつもタイチのことばかり話してたのに。
 長門おねえちゃんも、あの仮面の人が名前を呼んでいた。じゃあ、おとーさんといっしょで……?
 それにハルヒおねえちゃんもまだおめめをさまさない。前もずっと寝てたけど、めをさました。
 こんどもきっと目をさますよね。きっと……

 ぴちょん。

 洗面台に、水がおちた。
 アルルゥの、なみだ。
 だめ。泣いちゃだめ。泣いたらヤマトもハルヒおねえちゃんも心配する。
 だから、アルルゥは泣いちゃだめなの。泣かないで、ヤマトが帰ってくるのを待つの。
 でも、でも、
 どうしてもなみださんは止まってくれなかった。



「泣いてるのぉ? アルちゃん?」

 どきっ!!!

 いきなり後ろから声がした。
 暗いところから出てきたのは、おとーさんじゃなくて、凛おばちゃんだった。
 はんしゃ的に、壁のかげにかくれる。
 アルルゥ、凛おばちゃんキライ。なんだか分からないけど、キライ。
 顔だけ出して、凛おばちゃんの方を見る。
「もう……そんなに嫌わなくたっていいじゃない。怖がらなくたって何もしないわよぉ」
 凛おばちゃんが笑う。なんだか怖い。
 凛おばちゃんは、ゆっくりアルルゥのとこに歩いてくる。
「アルちゃん……太一君のことで泣いてたんでしょう? それに、ヤマト君が心配。違う?」


179 :POLLUTION 15 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:25:41 ID:M/ivcLuZ
「む……?」
 なんで? なんで分かるんだろ?
「さっきドラちゃんたちから聞いたけど……悲しかったでしょうね。それに、もうお父さんも……」
「……」
 おとーさんのことも、みんなの事も、思い出したらアルルゥとってもかなしくなる。
 でも、凛おばちゃんもとっても悲しそうだった。見てるとアルルゥももっともっと悲しくなる。
「私もね……姉妹がいたんだけど、みんな死んじゃって……仲間もいないし、1人でとっても寂しかったの。
 だから、アルちゃんが悲しいの、私も少しは分かるつもりよ」
「しまい……?」
「ええ、妹が3人いたわ。だけどもう……誰も残ってないの」
 凛おばちゃんはほんとに悲しそうだった。でも、がんばって笑ってくれる。
「でもね、アルちゃん。アルちゃんには、まだお友達が沢山いるじゃない。
 ドラちゃんにのび太君に、ハルヒちゃんに……ヤマト君も。
 だから、アルちゃんは泣いてちゃ駄目。アルちゃんはお友達と一緒に、お友達が怪我し無いように頑張らないと。
 それに、アルちゃんは泣いてるより笑ってるほうがお似合いよぉ?」
 そう言って、凛おばちゃんは笑ってくれた。
 それを見てたら……なんだか、泣いてちゃダメなんだ、って、思った。
 アルルゥが泣いてたら、凛おばちゃんは……おねーちゃんは、悲しいままだ。
「凛おばちゃんも……アルルゥの友達」
「あら、嬉しい。でも、おばちゃんじゃなくて、お姉ちゃん、って呼んで欲しいなぁ」
「ん、わかった。凛おねえちゃん」
 そういったら、凛おねえちゃんはまたくすっと笑った。

「ところでね、アルちゃん。みんなの役に立ちたい、って思わない?」
「ん?」
 みんなのところに帰ろうとしたアルルゥに、凛おねえちゃんが話しかけてきた。
「突然だけどね、私、魔法が使えるのよ」
 ――ふわっ
 そういって凛おねえちゃんがなにかつぶやくと、ふわりと凛おねえちゃんの体がうかび上がった。


180 :POLLUTION 16 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:26:31 ID:M/ivcLuZ
「おー、ういてる!」
「ね、凄いでしょう? 他にも色々できるのよぉ? 戦うのは苦手だけどね」
「ん! すごい」
 こくこくとうなずく。
 凛おねえちゃんがカミュちーみたいにふわふわと飛ぶ。
 アルルゥはそんなのできないから、やっぱりすごいんだな、と思った。
「これをね、アルちゃんも出来るようになるかもしれないのよぉ」
「んん!?」

 凛おねえちゃんはまたふわりと地面におりると、アルルゥにゆっくり話しだした。
「私の魔法……ある『魔法の本』の力をかりてるんだけどね、
その本が、『アルちゃんなら出来る』って言い出したのよぉ。
普段は私が話しかけてもだんまりなのに……これって、とっても珍しいことなのよぉ。
だから、もしアルちゃんがよければ……私と一緒に、魔法の練習、してみない?」
「むー、まほー?」
 まほーって何だろ? ほーじゅつみたいなものかな?
 お空をとんだり、あと……え〜っと、え〜っと……
 とにかくいろいろできるのかな??
「ええ、そうよぉ。魔法が使えれば、きっとみんなの役に立てるわぁ。
 例えばヤマト君をお空の上から探せたら、きっとすぐに見つかると思うし」
 アルルゥがみんなの役に立つ……!
 アルルゥが魔法でヤマトを見つける……!!
「アルちゃんだって、ハルヒお姉ちゃん達に守られてばっかりじゃ嫌でしょう?
今度はアルちゃんが、ハルヒお姉ちゃん達を助けてあげる番よ」
 アルルゥが、みんな助ける!
 もう、だれも居なくなったりしないようにする!!
「ん! アルルゥがんばる! アルルゥがみんな助ける!!」
 アルルゥがそういったら、凛おねえちゃんはまたうれしそうに笑った。
「そう……アルちゃん偉いわぁ。きっと皆も喜ぶわよぉ。それじゃぁ、善は急げ。今から練習はじめてみましょうか」
「ん!」



181 :POLLUTION 17 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:27:26 ID:M/ivcLuZ

 凛おねえちゃんは、どんどん奥のほうへ歩いていく。
 凛おねえちゃんは「うるさくして皆を起こしちゃ気の毒でしょ?」っていってた。アルルゥもそう思う。
 どんどん暗いところに行くけど。アルルゥはもう怖くなんか無いもん。たぶん。
「……手術室……かぁ。ここならいいかな?」
 凛おねえちゃんはそういうと、いっこの部屋のでんきを付けて中に入っていった。
 アルルゥもついていく。
 部屋の中は広くって、がらんとしていた。
 壁にたながいっぱいあって、すみっこになにかの箱がおいてあって、天井からおっきなのがぶら下がってる。
「うん、ここなら静かだし、思う存分練習できるわねぇ」
 凛おねえちゃんは、真ん中の箱にすわると、私を呼んだ。
「いい、アルちゃん。魔法といっても、実際は私も魔法の本の力を借りてるだけなのよ。
 だから、大事なのは、魔法の本と、アルちゃんの頑張りなのよ。
 きっとアルちゃんが頑張れば、魔法の本も応えてくれるし、魔法だって使いこなせると思うの」
 そういって、凛おねえちゃんは立ち上がる。
「ん! アルルゥ頑張る!」
「そう、その意気よぉ。じゃあ、お姉ちゃんの言うとおりにするのよ。まず、目を閉じて、心を落ち着けるの」
「ん!」
 アルルゥは目をしめる。
 心を落ち着けるってどうするのか良く分からないけど、む〜、と頑張る。
「そして、それからアルちゃんの大事な人、助けたい人達のことを考えるの」
「ん! かんがえる!」
 大事な人……おとーさん。おねーちゃん。みんな。
 ハルヒおねえちゃん。ヤマト。ルパンおじちゃん。トグサおじちゃん。長門おねえちゃん。ドラえもん。のびお兄ちゃん。
 みんな、みんな。
「そして、その人達と、楽しく幸せに暮らしてるところを想像して御覧なさい?」
「ん……わかった」

182 :POLLUTION 19 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:28:21 ID:M/ivcLuZ

 そうぞうする。
 おとーさんがいて、その膝の上にアルルゥがいる。
 横にはおねーちゃんたちがいて、アルルゥの頭をなでてくれる。
 みんな笑ってて、みんなでごはんを食べる。
 それを見て、アルルゥも笑うの。
 楽しくて、幸せで……ずっと、ずっとこのままならいいなって思って……

「いいわよぉアルちゃん、その調子。じゃあ次は……」
 そういうと、何かが「ばさっ」って音をたてた。
 アルルゥの上に、何かが降ってきた。
「む?」
 思わず目を開けたら、目の前が真っ青だった。
 なんだろう? これ??
 よく見るとそれは、青い、おっきな布だった。


183 :POLLUTION 20 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:29:11 ID:M/ivcLuZ
 ――ガシャン!
 アルルゥがよろけて、何かに当たる。おっきな音がする。
「……もう、気をつけてよアルちゃん。これで誰かが気付いたら面倒じゃない……」
 そういうと、凛おねぇちゃんはアルルゥを突き飛ばした。
 立っていられなくなって、アルルゥは地面にこけた。
「だからぁ、アルちゃんはお利口さんなんだから……そのまま、死んじゃってよ、ね?」
 ぐさり。
 体のどこかに何かが刺さった。
 最初にそこが熱くなって、後から痛いのがやってくる。
「折角幸せな気持ちで死ねるように気を使ってあげたんだからぁ」
 ぐさり。
 またどこかに何かが刺さる。
 いやだ。いやだ。たすけて。だれかたすけて。
「ああもう、そんなに暴れちゃだめよぉ。どうせもう助からないんだからぁ、大人しくしなさいよぉ」
 ぐさり。
 またささる。
 もがいて逃げようとしても、ゆるしてくれない。
「アルちゃんはあんまり何も話してくれなかったから、お話はハルヒおねえちゃんから聞くことにするわぁ。
だからアルちゃんは心配しなくていいのよぉ」
 ぐさり。
 ささる。
 じたばたしようとしても、だんだん体が動かなくなってくる。
「ふふ、でもあなたも酷いわねぇ、『魔法の本』さぁん?
あなたが強情張ってないで何か喋ってれば、この子を逃がせたかもしれないのにねぇ……
ま、そうなればあの子達みんな皆殺しになってただけだろうけど」
 ぐさり
 ささる。
 なんだか体がおもい。うでも、あしも、動かそうとしても、ちょっとしか動かない。
「大丈夫よぉ、アルちゃん。きっと優しいお父さんが迎えに来てくれるわよぉ。
天国にいったら、めいっぱい甘えてあげなさぁい? ふふっ」


184 :POLLUTION 21 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 15:29:59 ID:M/ivcLuZ
 ぐさり
 ささる。
 なんだか目の前が暗くなる。ささったところが熱かったのに、だんだか寒くなってきた。
「…………」
 ぐさり。
 ささる。
 もう凛おねえちゃんが何を言ってるのかも良く分からない。それに、なんだかとってもねむい。
 ぐさり。
 ささる。
 ぐさり。
 ぐさり。
 ぐさり。
 ……
 ……


 ……おとーさん……





185 :19 ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 17:20:10 ID:M/ivcLuZ


「次は……そのまま死んでくれる?」


 どんっ、と首を押される。
 びっくりして息をのみこんだけど、そのまま息がはき出せない。
 なにが起こったのか、って見ようとしても、なぜか首がうごかない。
 目だけをがんばって動かして見ると、赤いなにかが見えた。

 赤い板が、布からアルルゥののどらへんに、突き出ていた。
「ごぽっ」
 くちの中から、べとべとした水が、血が、あふれてくる。
 くるしい。息ができない。
 いたい。どこが? 首が! 首がいたい!!
 でも『いたい』って叫びたいのに声がでない。

「ふふ、声が出ないでしょう? ちゃあんと声が出るところを狙って刺したからねぇ」
 凛おねえちゃんが何か言ってる。
 凄く怖くて、アルルゥの嫌いな声で。
「でも、さすが手術用の布ねぇ。血が全然漏れてこないわぁ。汚れたらどうしようかな、って思ってたんだけど。
血って結構臭いのよぉ? ああ、後で香水振っとかないと。どこかにあるかしら?」
「……!?!?」
 いろんなことを言いたかった。
 なんで、こんなことするの?
 凛おねえちゃんは、アルルゥのことがきらいなの?
 アルルゥが、なにか悪いことしちゃったの?
 それならごめんなさい、って言うからおしえて。
 なんで? なんでなの?



186 : ◆B0yhIEaBOI :2007/03/28(水) 17:21:48 ID:M/ivcLuZ
↑修正版の19 と20 の間に1レス分抜けてました。すいません。

あと、時間帯を【深夜】に修正します。

187 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:09:33 ID:Guuooboo
 立ち寄った民家のソファーに横たわりながら次元は天井を睨んでいた。
(クーガーって奴の名前が呼ばれて、シグナムとかいうルパンを殺した女の名前が呼ばれてねえってことは、っと……)
 改めて自己問答する必要もない。その女が勝ち残ったということだ。
 聞いた話では、クーガーという男は相当の手練らしい。
 あの化け物染みた力を持つ劉鳳ですら、クーガーという男には一目置いているように感じられた。
 そんな男ですら、敗れた。
(ルパンが殺られたのも無理はねえ……。か?)
 ちっと次元は心の中で舌打ちした。
 長年の相棒がくだらない相手に殺られたのではないと知って、どこか安堵している自分に気づいたからである。
 共闘した人間達の仲間が倒されたことを知って喜ぶとは何事か。
(すまねえ……。譲ちゃん)
 心配そうに顔をしかめ、クーガーがいるであろう方角を見つめていた碧色の髪の少女に
 ――確か魅音とかいった――次元は心の中で詫びを入れた。
(しかしまあ、そこまでの奴となると、気を入れてかからねえと返り討ちにされかねえな)
 ミイラ取りがミイラになっては笑い話にもならない。
(頼むぜ、相棒)
 454カスールカスタムオート。
 とんでもないじゃじゃ馬であるが、人外を相手にするには丁度いい。
 ぽんとシャツの上から銃を叩き、次元は隣の『相棒』に視線を移した
「どうした? 相棒」
 返事はなかった。
 放送の中で八神太一の名が呼ばれて以来、ぶりぶりざえもんは明らかに元気がない。
 知り合って間もないがそのくらいは分かる。
「……ヤマトにあわせる顔がない」
 しばらくたってから、出合った頃の威勢のよさが嘘のような声音で、ぶりぶりざえもんが言った。
 他でもない、ヤマトの友達をおたすけできなかったことは、ぶりぶりざえもんにとって大きなショックだったようだ。
(こりゃ結構重症だな……)
 大きくため息をつき、少し考えた後、
「あのよ、人を『おたすけする』ってのはそんなに簡単なことか?」
 蒼星石、前原圭一、竜宮レナ、ソロモンの顔が次元の脳裏に浮かぶ。
 圭一とレナの戦いを、ソロモンの馬鹿な真似を、止めたかった。
 だが。

4人とも死んだ。
 
沈黙したままのぶりぶりざえもんに向かって次元は続けた。

188 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:10:36 ID:Guuooboo
「人間ってのはしょうもねえ生き物でな。大体の奴は、てめえ1人のことで精一杯だ。
 人の世話なんぞ焼いてる暇はねえ。そういうもんだ」
「だが、わたしは――」
「だからよ」
 俯いたまま力なく言い返そうとするぶりぶりざえもんの言葉を、低い声で次元は遮った。
「人を助けるなんてのは、普通の人間じゃ無理だ……。普通の人間には、な」
 次元の言葉に、ぶりぶりざえもんは何かを考えるかのように腕組みをした。
 ややあって、俯き加減だったその顔が傲然と引き上げられた。
 ぶりぶりざえもんの瞳がどこか不敵なものを宿しているように見えたのは、次元の気のせいだろうか?
「次元よ。おまえの言うことにも一理あるかもしれん。だが、わたしにはあてはまらないな」
「ほう? 何でだ?」
 ニヒル笑みを口の端に上らせ、次元は問い返す。
 するとぶりぶりざえもんは、
「わたしが、救いの『ヒーロー』だからだ。
 ヒーローにできないことはない! なぜならば、ヒーローにできないことはないからだ!」
 胸を張って言い放った。
 数瞬の間があって、くっと次元の口から笑い声が漏れた。
「なるほど。そりゃ道理だな」
 肩を震わせながら、それでもどこか嬉しげに次元は言った。
「うむ! ところで、これからどうするのだ? 次元」
「もうちょい休んだら、劉鳳がクーガーって男と別れた場所に行ってみるさ。どうせもう、目と鼻の先だしな」
急ぐ必要はなくなったが、行ってみても損はないだろう。
 劉鳳とクーガーという男が別れた時間を考えると、シグナムという女はとうに移動しているだろうが、
 ひょっとすれば何か手がかりが残されているかもしれない。
 もっとも、そんな物を残すようなヌケサクにルパンがやられるハズもないから、望みは薄いだろうが……。
(つまんねぇことを考えちまった詫びだ。あのじょうちゃんに、形見の一つでも、持って帰ってやっかな)

189 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:11:34 ID:Guuooboo


 F-7エリアの民家の薄暗い台所にゲインはいた。
 何をしているのかといえば、休息と栄養補給である。
悠長なことを、と言う事無かれ。
 腹が減っては戦が出来ない、これはまごうことなき真実なのである。
 それに、目覚めて以来ずっと走りどうしだったせいで疲れがピークに達している。
休息は必要だった。
「ゲイナーの奴、ちゃんと食ってるかな?」
 フライパンの中の肉と野菜に塩コショウを降りかけ、菜箸でひっくり返しながら、ゲインは呟いた。
 放送で呼ばれていないということは、まだ死んでいないのは間違いない。
 ああみえて行動力はあるし頭も悪くない。土壇場での粘り強さもかなりのものだ。
(オーバーマンがなければ何にもできない、って奴ではないよな)
 しかし決して、荒事に長けているわけではない。
 にもかかわらず、これだけの人間が死んでいる中で生き残っていることを考えるに、
(誰か頼りになる人間と行動を共にしている可能性が高い)
 そしてそれは『のはらしんのすけ』にも言えることだ。
 いくらあの美しく気高かった『のはらみさえ』の子息であろうと、5歳児が生き延びるには、ここの状況は過酷過ぎる。
 単独か複数かは分からないが、とにかく力のある何者かに保護されているのだろう。
 だが彼らの行方はようとして知れなかった。
(まあ、それについては俺の責任でもあるんだが)
 キャスカに殺されかけて一日中眠っていたせいで、光、みさえ、セラス以外の人間には――
 光の名を思い浮かべた瞬間、ゲインの眉間に皺が寄った。
(すまん、ひかる。命を救われたというのに、君には何も返すことはできなかったな)
 友達思いで輝くような笑顔を持った勇敢な少女だった。
 後5年もすれば、口説き甲斐のある素晴らしい女性になっただろうに。
 ひかるが話していた彼女の友、ほうおうじふう、を保護することもできない。
 彼女の命もまた、既に失われてしまった。
(君達の無念は俺が背負う。背負っていって君達の分も必ず、あの外道に鉛弾を叩きこんでやる。
 どうか安らかに眠ってくれ)
 しばらくして、ゲインは火を止めると、フライパンの中の食材を一気に掻き込んだ。
(体の中に血が足りん……。毛長象の肉が欲しい所だな。
 美味な上に栄養満天でお得だゾウ……。なんてな)
 それでもほぼ一日ぶりの食事はつかれきった体に活力を与えてくれた。
 空になったフライパンを流しに放り込み、ゲインは地図を広げた。

190 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:12:30 ID:Guuooboo
 残る亜空間破壊装置の場所は3箇所。
(今の所、俺の行動はバレちゃいない)
 それは自分が今生きていることと、禁止エリアの場所が証明している。
 しかし、自分がこれから亜空間破壊装置を破壊し続けていけば、露見する可能性が高い。
 この空間は多くの手段で監視されているし、亜空間破壊装置のある場所から次々と送信が途絶えていけば不審に思うだろう。
 しかも、特定の人物がその場所を訪れた後に必ず、となれば怪しさ爆発だ。
 今は『参加者がたまたま亜空間破壊装置を壊した』、という事例が二つもあったから見過ごされていると考えた方がいい。
(最悪なのは、俺が頭を吹き飛ばされ、その上俺の書いたメモが誰にも発見されないことだ)
 自分の死体を見つけた人間が見落とすことがないように、トイレの中でメモをもう1セットつくり、
 ゲインの服にも忍ばせ、地図にも赤丸をつけ詳細を書いてある。
 とはいえ、ゲインの死体がある場所を禁止エリアにすることもギガゾンビには可能だ。
(というか、誰だってそうする。俺だってギガゾンビの立場だったらそうする)
 いきなり禁止エリアが追加されれば不自然に思う人間もいるだろうが、「殺し合いのペースが落ちた」とでも何とでも放送すればいい。
 疑う人間は更に減る。それに、だ。
 亜空間破壊装置の正体と所在を突き止めたときには考え付かなかったが、
(もし仮に全ての亜空間破壊装置を破壊したとしても、それに気づいたギガゾンビが全員の首輪を爆破する可能性がある。
 古今東西、犯罪者が恐れるものの一つは官憲への通報だからな。
 助けが来るのが先か、ギガゾンビが首輪を爆破するのが先かだが、そんなベットの高い賭けはあんまりやりたくないもんだ)
 自分の命より高い掛け金などありはしない。無論、他にどうにもならなくなれば話は別だが……。
「やはり、仲間が必要だな……」
 薄暗い天井を仰いだ後、ゲインは立ち上がった。
 今持っている知識の拡散を手伝ってくれる仲間、首輪を外せる仲間、亜空間破壊装置を壊して回ってくれる仲間……。
 だが、接触する人間が善人とは限らない。
 猛烈なジレンマをゲインは感じた。
 優勝狙いの参加者に殺されてしまえば、全てはご破算。
 そんなミスは許されない。
 自分の命はもう、自分の物だけではない。
 ひかるに、そしてみさえに救われたこの命、むざむざ散らせるわけにはいかない。
 そしてもう一つ。

 ――あなたはそれをやってくれるんでしょう? 

(勿論だとも)
 請負人の誇りにかけて、エクソダスへの道を必ず開いてみせる。
 のはらみさえの依頼を完遂してみせる。
 覚悟はある。それでも……。
(ゲイナー。本当にお前、どこで何やってるんだ?)
 ゲインはここにはいない相棒に向かってそう語りかけた。

191 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:13:32 ID:Guuooboo


「――遅いではないか」
 小用をすませて戸口から現れた次元に、ぶりぶりざえもんが怒ったように言った。
「すまんすまん」
「まったく。出発してすぐにトイレとは何事だ! 出る前にしてこないからそうなるのだ。
 大体、男なら黙って立ちションだろう!」
「生憎と俺は紳士なんでな。そんなはしたない真似はおできになりません、と」
 もっとも、理由はそれだけではなかったが、いちいち説明するのも面倒くさい。
 ふと、次元はぶりぶりざえもんの尻のポケットに目を止めた。
 ぶりぶりざえもんの尻からは相変わらず翠色の光がこぼれている。
「一体全体、お前さんの尻のそれは、なんなんだ?」
 どうにも気になる。
「だから、これはもうわたしのものだと――」
 言いかけてぶりぶりざえもんは足を止め、しばらく腕を組んで考える仕草をした後、
「特別に見せてやる。お前はわたしの相棒だからな」
「そりゃどうも……」
 次元は軽く肩をすくめた
 ぶりぶりざえもんがポケットに手をいれ、翠色の光輪を幾重にもまとった宝石をつかみ出した。
 次元の目が細められた。
 ディパックの中から赤い光輪をまとった宝石を取り出し、ぶりぶりざえもんの物と見比べてみる。
 やはり両者は非常に良く似ていた。
「おまえさん……。それをホテルのどこで見つけたって?」
「翠星石という人形の首輪の近くに落ちていたのだ……。次元こそ、どこで見つけたのだ?」
 驚いたように次元の宝石を見ながら、らぶりぶりざえもんが尋ね返して来る。
「……蒼星石って人形の残骸の近くさ」
 偶然にしては出来すぎている。
(これも巡り合わせってやつかねえ?)
 チラリと横目でぶりぶりざえもんを見ると、自分の宝石を大事そうに宝石を抱えていた。
 大きく嘆息をもらし、次元は赤い宝石をぶりぶりざえもんに差し出した。
「なあ、相棒。一つ条件を守ってくれるんなら、こいつをお前さんにやってもいい」
 ぶりぶりざえもんは驚いたように、目をしばたたかせた。
「後で返せって言っても返さんぞ?」
「言わねえよ」
「そ、そうか……。で、その約束とはなんなのだ?」
「大したこっちゃねえさ」
 帽子に手をやりながら次元は言った。


192 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:14:23 ID:Guuooboo
「その二つをずっと一緒にしといてやってくれ。片方だけを誰かにやっちまったりとか、そういうのは無しだ」
「……そんなことでいいのか?」
 次元が頷くと、ぶりぶりざえもんはヒヅメを伸ばして赤い宝石を受け取り、嬉しそうに二つともポケットにしまいこんだ。
「わけを聞いてもかまわんか?」
「……俺の会った蒼星石って人形は、翠星石って人形に会いたがっててな。
 だから、その……なんだ。その持ち物同士だけでも、一緒にいさせてやりたくて、な」
 意味の無い行為だと思いもするが、それでもそうしてやりたいと、思う。
(俺もついにヤキがまわったかねぇ……)
 自分はいつからこんなにセンチになったのかと、次元は自嘲気味に笑う。
「その蒼星石という人形は、翠星石という人形の相棒だったのか?」
「ん? ああ、そうだったかな」
 確か姉妹と言っていたような気もしたが、これ以上突っ込まれるのも面倒だと思い、次元はそう返事をした。
「うむ! 次元、お前は正しいことをしたぞ。相棒ってのはいつも一緒にいるもんだ」
 うんうんと頷くぶりぶりざえもんに、
「……いつも一緒にいたら、飽きちまうんじゃねぇのか?」
 なんとなく背中がむずがゆい気がして、韜晦するように次元は言った。
「何を言うか。お前だって、ルパンとかいう男と長いこと一緒だったのだろう?」
「まあ……。そりゃ否定しねえがな」
 言わなければ良かった、と次元はため息をついた。
 まあ、目的地へ行く理由が理由であるから、話さなければならなかったのだが。
「そう言えば詳しく聞いてなかったが……。そのルパンという奴はどんなやつだったのだ?」
「そうだな……」
 ぶりぶりざえもんの問いかけに、次元は首を捻った。
「スケベでがめつい上に、やたらと人に厄介な仕事を押し付けやがる奴だったよ」
 実際、厄介という言葉で片付けたくないほどの厄介ごとがルパンと一緒にいると降りかかってきた。
「う〜む……」
 次元の答えにぶりぶりざえもんは唸り声を上げた。


193 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:15:25 ID:Guuooboo
「そんなやつと、どうして一緒にいたのだ?」
「そりゃよ……」
 まいったな、というように次元は帽子に手をあてた。
「暇つぶしには事欠かなかったから……。かもなぁ」
「……よくわからん」
「そうかい」
 次元は苦笑を浮かべた。
「だが、一つ分かった」
「……何が分かったって?」
「おまえはとルパンは友達だったのだな。わたしとヤマトのような」
 思わず次元は立ち止まり、ぶりぶりざえもんの顔を直視する。
 次元の視線とぶりぶりざえもんの真っ直ぐな視線が交錯した。
「おともだち……ね」
 肩をすくめ、次元は帽子を深く被り直した。
(まいったね、こりゃ……。おともだち、ときたもんだ)
 茶化すような言葉を胸の中で呟きながらも、次元は歩を進める。
 どうにもこの二足歩行する豚といると調子が狂う。
 だが、不思議と悪い気分はしなかった。
 むしろ――

(やれやれ。いい年こいてよ……)

 もう一度苦笑をもらすと、次元は口を開いた。
「もう少しだぜ、相棒」
 その声を不二子や五ェ門が聞いたなら、100回に1回はこういったかもしれない。

 
 まさかその豚にルパンが変装しているのないだろうな、と。


194 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:16:31 ID:Guuooboo


(来ないか……)
 未だ立ち尽くしたままのストレイト・クーガーの死体を見下ろしながらシグナムは呟きをもらした。
 クラールヴィントにも反応は無い。
 窓から離れ、シグナムは壁にもたれかかった。
 ひょっとしたら、あの場から去った、金髪の女、眼鏡の少女、クーガーが背負っていた少女、
 彼らのうちの誰かが死体を埋葬しようとやってくるかもしれない。
 その際に劉鳳が一緒ならば手出しはしない。劉鳳がいないのならば、不意打ちで片をつける。
 そう方針を立てて戻ってきたのだが――
(徒労に終わるかもしれんな)
 それならそれでいい、とシグナムは思う。殺せる相手を殺せる時に殺せばいい、焦る必要はない。
(それにしても、なのはが死ぬとはな……)
 先ほどの放送を思い出しながら、シグナムは思わずにいられなかった。
 『あの』、高町なのはが、と。
 とはいっても、実の所それほど驚いているわけでもなかった。
 なのはには弱点がある。『不殺』の強固な信念がそれだ。
 そこを突かれて負けたのだろう、とシグナムは推測していた。
(このゲームは、多くを望んで勝ち残れるほど甘くは無い)
 騎士の名だの、誇りだの、仲間だの、信念だの、情だの、そんなものを持ち続けながら勝ち残れるほど甘くは無い。
 それを自分は、あの最速だった男と戦って悟ることが出来た。
 自問自答を繰り返し、誓いを建て直し、ヴィータの形見を捨て、それでも捨てきれていなかったものを捨てることが出来た。
(礼を言うぞ、ストレイト・クーガー。お前のおかげで私は全てを捨てることができた)
 シグナムの願うものは、求めるものは唯一つ。
 
 八神はやての復活のみ。

 鋼鉄の意志をその瞳に宿したまま、シグナムは獲物を待ちつづける。
 どれくらいたったろうか?
 
 クラールヴィントに反応があった。

(生命反応が二つ……。それに……。これは!?)
 参加者の命の他に、思わぬ副産物も手に入るかもしれない。
 シグナムは立ち上がり、急ぎ足で階下へと向かった。


195 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:17:31 ID:Guuooboo

 
 突然次元が足を止めた。
 どうした、と尋ねようとして、ぶりぶりざえもんは慌てて次元の後ろに避難する。 
 彼ら二人の行く手に、人の形をしたものがある。
(妙だな……)
 次元の瞳に困惑の色彩が浮かび上がった。
 よくよく見れば、その人影は背中を向けている。そしてまったく動かない。
 意を決して次元は間合いを詰め始めるが、その人影はまったく反応しない。
(さては!?)
 頭に閃くものがあり、次元は足早に近づき、自分の予想通りであると知って、
 多分に驚きの成分を含有した息と共に、言葉を吐き出した。
「……立ち往生、とはな」
 月明かりの中で、立ったまま事切れている男の髪は緋色。
 聞かされたストレイト・クーガーの特徴と合致している。
「おたすけできなくて、残念だ」
 ようやく近づいてきたぶりぶりざえもんが、クーガーを見上げながら言った。
 その手がクーガーの体をあちこち触っているのは、まあご愛嬌といった所か。
「仕方ねえさ。死人を助けることはできねえ、それこそ閻魔さまでもなけりゃあな。
 死人に生者がしてやれることといったら……」
 落ちていたサングラスをディパックにしまい、よっこらせと次元はクーガーの体を抱え上げた。
「墓を作ってやることぐらいだ」
 次元の言葉に、こくりとぶりぶりざえもんは頷いた。
 穴を掘る道具がないため、時間はかかったがなんとか埋葬が終わった。
「何をするつもりだ? 次元」
 近くに落ちていた木を盛り土に突き刺し、ディパックからコンバットナイフを取り出した次元を見て、
ぶりぶりざえもんは怪訝そうに眉を潜めた。
「ん? 俺が生まれとこじゃ、こうやって墓標に名前を刻んでやるのさ。ストレイトクーガーここに眠る、ってな」
 そう言って、次元は木をナイフで削り始めた。


196 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:18:30 ID:Guuooboo


(反応は、あれか……)
 シグナムは、二足歩行する豚のズボンからこぼれている翠と赤色の光を凝視した。
(アーティファクトや昼間に見つけた赤いハートのペンダントと似たような反応だ。
しかもこの強さ……。かなりの魔力を秘めていると見ていいだろう。しかも二つ)
 望外の結果だ。
 傷を完全に癒すため、まだ見ぬ高町なのはを倒したほどの相手と戦うため、是が非でも手に入れておきたい。
 しかも、相手は一人。
 二足歩行する豚は、何処からどうみても隙だらけだ。論外と言っていい。
(落ち着け……)
 もう一人の男の方は、纏っている空気からして、決して侮っていい相手ではない。
 隙をうかがうシグナムの視線の先で、男と豚が墓堀りを始める。
 どうやら、二人は自分が隠れているとは少しも思っていないようだ。
 当然だ。犯行現場に残る殺害犯はいない。

 ――普通ならば。

(その心理を逆手に取る)
 気配を完全に絶ち、シグナムは男との間合いを詰めていく。
 昼間のメイドの例もある。
 慎重に細心の中の細心を払って殺気を消し、気配を消してシグナムは近づいていく。
 魔力を込めた弓ならば既に届く間合い。しかし、シグナムは更に間合いを詰めていく。
 考えてみれば、自分は相手が人間であれば常に矢を標的の手足に向けてはなっていた気がする。
 
 ――物陰から射殺する。それは騎士のすることではない

 どこかでそう思っていたのか。
 
 ――何と甘い。

 シグナムは心の中で嘲笑の笑みを浮かべる。
(甘い……。砂糖菓子より甘い)
 クーガーの言うとおりだ。
 自分には速さが足りなかった。余計な物を抱えたまま走ろうとして速度を落とした。
 常に最速で結果を求めねばならなかったにもかかわらず。
 それ故、とり取り返しのつかない物を失った。


197 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:19:38 ID:Guuooboo
 銃を構える。弓では、引き絞る際に弦の音が聞こえてしまう。
 隙を伺う。男の決定的な隙を。
 狩人の目で男を見つめるシグナムの視線の先で、男が背を向け、ナイフで木を削りだした。
 ナイフがきらり、きらりと輝く。
 シグナムは集中力を一気に高めた。刹那が永遠に引き伸ばされる。
 殺気を極限まで消し、照準。

 ――殺った

 指に力を込めようとした瞬間、シグナムは氷の冷徹さで確信した。
 
 
 轟いた銃声が、シグナムの確信を打ち砕いた。

「うぐぁっ!?」
 
 左腕からつんざくような痛みと出血。
 あらぬ方向に向いたシグナムの銃から弾丸が今頃飛び出し、発射音を響かせた。
 痛みと混乱がシグナムの思考を揺るがす。
 驚愕を込めて見つめた先には、右手に銃を構えた男と慌ててその場から離れていく豚の姿。
 豚のことは意識から一時削除し、シグナムは男に意識を集中させた。
 驚愕すべきことに、男の顔は削っていた木の方を向いたままであった。
 シグナムに顔を向けぬまま、男が声を放つ。
「なるほど……。不意打ちがお前さんの、得意技ってわけだ」
 おどけたような口調の中には、抑えきれぬというような深い殺意の片鱗があった。
「貴様……」
 ようやく向きなった男にシグナムが憎悪の視線を叩きつけた。
 男は自分の接近に気づき、その上でわざと後ろを向いてみせたのだろう。
 そこまではいい。
(だが、どうやって?)
 こちらの考えを読み取ったのか、男はニヤリと笑うと手を開いて見せた。
 男の手の中にはナイフと共に手鏡があった。その二つが同時にきらりと光を放つ。
「こういうのはどっちかっつーと、俺の相棒が使うような手なんだが……。
 やってみるもんだな。相棒に文句を言われた甲斐があったってもんだ」
 シグナムは無言で剣を引き抜いた。
 主の心を映し、剣が紅蓮をまとい、シグナムの殺気と剣気が暴風となって男を襲う。
 だが、男は飄然とその全てを受け流し、笑みを浮かべ続ける。


198 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:20:38 ID:Guuooboo
「なるほどな……。どうりで妙な傷だと思ったぜ」
 男の呟きが風にのってシグナムの耳に届いた。
 どこか確認するような男の声音に小さな疑問を抱きつつも、シグナムは思考する。
(あの銃、信じがたい威力だ。ヘタに食らえば騎士甲冑の上からでも致命傷になりかねない)
 加えて先ほど見せた神速の早撃ち。
 飛び道具の勝負では、まったく勝機がないだろう。
(ならば斬り倒して進むだけのこと!)
 上段に降りかぶり、シグナムは烈火の眼光を男に向かって叩きつける。
 男の目は、シルククハットに隠れて見えない。
(視線を隠すか)
 やりづらい、とシグナムは心の中で舌打ちする。
 しばし、二人の間に見えない糸が張り詰めた。
(血が止まらん……)
 体内の魔力を使用したクラールヴィントによる処置程度ではふさがらなかったようだ。
 長引けば不利。

 ――少し遠いが。

「はあぁ!!」
 地面に叩きつけられたシグナムの剣先から衝撃波が走り、男に向かって殺到していく。
 シュテルングウィンデを目くらましに、一気に間合いを詰めんとシグナムは脚に力を込めた。
 次の瞬間、爆発的な推進力を得たシグナムの体が弾けるようにして前方に加速。
 シグナムの体が一本の矢となって巻き上げられた土煙から飛び出した瞬間、
 轟音。
「がっ!!」
 右脚の大腿部に衝撃と激痛が走った。
 シグナムの体は強制停止に追い込まれ、行き場を失った運動エネルギーと相まって、シグナムの体がゆれる。
 
 怖気がシグナムの全身を駆けた。
 
 無傷の左足で地を蹴り、横っ飛び。シグナムの体が地面と衝突。
 痛みに顔をしかめつつ素早く身を起こしたシグナムの視線の先、男がちっと舌打ちをする。
(後一瞬遅れたら、撃たれていたな……)
 冷たい汗が背筋を流れるのをシグナムは感じた。


199 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:21:46 ID:Guuooboo
(遠い……。恐ろしく遠い)
 男との距離が遥か彼方に感じられる。
 ここにおいて、シグナムは己の判断が誤りであったことを悟る。
 この拳銃使いは強い。今の武装では、勝てるかどうか分からない。
 喉から手が出るほど欲しい魔力の塊を2つも前にして、無意識の内に相手を過小評価したいという心理が働いていたか。
(1発でいい、カートリッジさえあれば!)
 だが無い物はない。
 それどころか、右脚の治療のためにまたも体内の魔力を消費してしまった。
 無論完治するはずもなく、痛みもそのままであるし血も完全には止まらない。
 焦燥をつのらせながら、シグナムは奥歯を噛んだ。
 
 ■

(あぶねえ、あぶねえ)
 爆煙の流れの変化を読み取ってでおおよそを見極め、体が現れた瞬間に弾丸を叩きこむ。
 言葉で言うのは楽だが、実行するのはすさまじく難易度が高い。
 成功するには成功したが、女のあのスピード……。一瞬遅かったらと思うと寒気がする。
(ったく、じゃじゃ馬が……)
 チラリと次元は、手元の銃に目を落とした。
 反動がありすぎて、どうしても一発目と二発目の間に間隔ができてしまう。
 お陰で二発目を発射する前に、敵に逃げられてしまった。
 だが、首尾よく脚を奪うことができた。これで、あの女は逃げることができない。
(ルパン……。今、仇を取ってやるぜ)
 心の中でルパンに語りかけながら、次元は氷点下の殺意を女に向けた。
 
「その勝負、しばし待て!!」

 凛としたぶりぶりざえもんの声に、次元は思わずそちらに視線を送ってしまう。
 ハッとなり、慌てて女の方に神経を戻すが、どうやらそれは女も同じだったらしい。

 ――何だってんだ?

 困惑する次元を他所に、ぶりぶりざえもんの声が高らかに響いた。
「女、お前に聞きたいことがある!」
 返答は無かった。
 かまわずぶりぶりざえもんは言葉を続ける。
「女、お前は勝ち残って何をしたいのだ? 世界征服か?」
 またも沈黙が満ちたが、ぶりぶりざえもんの視線に根負けしたようで、女は一つため息をつき、口を開いた。
「……世界などいらん。私が欲しいものは一つだ。それ以外は何も求めない」
 淡々とした声音で女が言う。ぶりぶりざえもんが大きく頷いた。


200 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:22:54 ID:Guuooboo
「そうか! ならば話は早い! 女、いますぐこんなことはやめるのだ! そして、わたしと共にみんなをおたすけしよう!」
「……おたすけ?」
「そうだ、おたすけだ。人をおたすけするものは、また人におたすけされる。
 お前が誰かをおたすけすれば、きっとその誰かがお前を、おたすけしてくれる。
 一人では無理なことでも、誰かの力を借りればできる。そういうもんだ!」
 女の口から嘆息が漏れた。
「――無理だ。私の望みは誰にもかなえることはできん。できるとしたら、悪魔ぐらいだ。しかも最高に悪趣味の、な」
「やってみなければ分からんではないか!」
「分かっているのだ。これ以上ないほどにな……」
 次元の眉間に皺が寄った。
(殺し合いやってる相手の事情なんぞ聞くもんじゃねえなぁ)
 この女の望むものとやらの見当がついてしまった。
 だから、この女が絶対に止まらないであろうことも分かってしまう。
 次元は拳銃を握り直し、女の瞬き一つを見逃すまいと女に神経を集中させた。
 次元の視界の中で、女とぶりぶりざえもんの会話は続く。
「私もお前に聞きたいことがある」
「何だ?」
「何故お前は、おたすけとやらをしようとする? この殺し合いのゲームの中で」
 女の質問に、ぶりぶりざえもんが大きく胸を張った。
「わたしが、救いのヒーローぶりぶりざえもんだからだ!!」
 流石にこの答えは予想していなかったのだろう。
 きょとん、としたように女は目を見開いた後、微笑んだ。
 おりよく吹いた風が女の桃色の髪をなで上げ、秀麗な鼻先と顔立ちを月光の下にさらけ出す
 月の女神ですらたじろぐのではないかというその美しさに、次元ですら一瞬心を奪われた。
「救いのヒーローか……。なるほどな」
 花のような笑みを浮かべたまま女が言う。
「そうだ! しかも今は貧血大サービスで助け賃は無料だ!」
 女はしばらく考えるそぶりを見せ、
「――なら、1つ頼みをきいて欲しい」
「うむ。言ってみろ」

 ――ん?

 次元の目が細められた。


「死んでくれ」
 

 女の手から缶のようなものが滑り落ち、閃光が辺りを埋め尽くした。


201 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:24:45 ID:Guuooboo

 
(上手くいった)
 豚に向かって飛翔するシグナムの視界の中で、動けないブタの像が拡大していく。
 元よりブタの戯言などに本気で耳を傾けてなどいなかった。
 会話に応じるフリをして脚の治療に専念していただけのこと。
(あれを斬り捨て、魔力の塊を奪ってこの場から離脱する)
 魔力の塊があったとしても拳銃使いの男を、無傷で倒すのは難しい。
(よりよい機会を待つ)
 剣から焔が発生。
 剣の間合いまで後5歩の距離。
(救いだと?)
 冷え切ったシグナムの心に怒りの熱が生まれた。
「笑わせるな!」 
 零歩。
 炎を纏った必殺の剣が無力な豚に向かって――
 その刹那、弾丸がシグナムの顔面を掠め、きいんという音と共に脳が痺れた。
 超大口径銃の銃弾は衝撃波が三半規管を揺るがし、シグナムの脳に衝撃を叩きこんだ。

 シグナムの視界がぐにゃりと歪んだ。

 速度はほぼそのままにシグナムの体は下方へと向かって突っ込んでいく。
 シグナムの視界の中で地面が迫った。
 次の瞬間、全身をすさまじい打撃が打ち据え、一瞬意識が消し飛んだ。
 そのまま何度も横転し、ようやくシグナムの肉体は止まった。
 視界が盛大に回り、体のそこかしこが喚きたてるように負傷を自己申告してくる。
「いくら浮気がいい女の甲斐性っつってもなぁ……。戦ってる最中はよくねぇ」
 男の声がどこか遠くに聞こえた。
 痛みを無理矢理頭から追いやり体を起こそうとするが、腕と足からの痛みが高圧電流となって脳の回路を焼いた。
 塞いだばかりの傷が完全に開いていた。足と手から血が、命が抜けていく。
 咄嗟に体内にある全ての魔力を振り絞って、治療を行う。
シグナムは根本的な誤りを犯していたことに気づく。それは、男の本質を捉え損ねたこと。
(あの男は、『拳銃使い』ではなく、銃火器に精通した『戦士』だ)
 でなければ、スタン・グレネードを見破り、対抗することなど何故できよう?
 神技と呼ぶにふさわしい銃技の輝きがその本質を覆い隠していただけで、
 銃技はあの男の技の一つであって、全てではなかったのだ。

 ――気づくのが遅すぎた。

 体内の魔力はつきた。
(もはや、飛んで逃げることもできぬか……)
 シグナムは歯噛みした。


202 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:25:52 ID:Guuooboo
「い、命は流石にやれん!」
 次元の後ろに隠れながらブタが叫ぶ。何という逃げ足の速さだろう。
「……そうだろうとも」
 シグナムは悪意のこもった笑みを豚に向けた。
「だから言ったろう? 誰も私を『おたすけ』などできないと」
 シグナムは身を起こした。
 その体から妄執と殺意が噴出し、陽炎となってゆらゆらと揺らめく。
「……救いといったな、貴様。自分の命も捨てずに誰かを救おうとする。
 甘い……甘くて温い。貴様のもたらす救いとやらは、お手軽すぎる。
 遊戯の匂いが鼻につく……。お前も、そう思わないか?」
 くろぐろとしたシグナムの視線を男は肩をすくめただけで受け流し、
「生憎と俺はぺらぺらお喋りするのは好かん性分でな……。そろそろ終わりにしようや」
 男の瞳が始めて帽子の奥から露になった。
 男の瞳に宿る極限まで凝縮された殺意が弾丸となってシグナムを射抜く。
 シグナムの心がわずかに揺れた。その揺れにあわせるように、

 男の体が前に出た

(なにっ!?)
 常に間合いを取ろうとしてきた男が始めてみせた行動に、シグナムの行動が一瞬遅れる。
 咄嗟に地を蹴るが、虚を疲れた遅れはそのまま体に伝わり、そして負傷した左腕の動きはその損傷の分だけさらに遅延した。
 そして、それを見逃してくれるほど男は甘くなかった。
「っぁ……」
 轟音が轟き、シグナムの左腕がダラリと垂れ下がった。
 男が後ろに飛びすさった。
 またも両者の間に間合いが横たわる。負傷したシグナムにとって、絶望的なまでに遠い間合いが。
 じわり、と恐怖がシグナムの心の壁を這い登った。
 死など怖くは無い。
 だが、自分の命が終わってしまえば全てが終わってしまう。

――それだけが、怖い。

――八神はやてを救えなくなってしまうことだけが、たまらなく怖い。

 シグナムは未だ残留した魔力で炎を纏ったままの剣を左腕の傷口に押し当てた。


203 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:27:03 ID:Guuooboo
「ぅぐぅあ……!」
 煙と異様な匂いがあたりに充満し、常人なら一瞬で失神するような痛みがシグナムの脳を焼く。
 声にならぬ呻きをもらしながら、必死でシグナムは歯を食いしばった。
 噛み締めすぎたせいか歯茎から血が流れ、金臭い味が口の中に広がっていく。
 シグナムの行為はまだ終わらない。
 自分の右耳に刃を押し当てると、くぐもった絶叫と共に、右耳を切断。
「て、てめぇ……。なにを」
 推測不能の手負いの美獣の行動に、初めて男の声に驚愕が混じる。
 血まみれの右耳をほとんど力の入らない左手で握りながら、シグナムは凄絶な笑みを浮かべた。
 
 ――何を驚いているのだろう。
 
 ただ、耳をカートリッジ代わりに使おうとしているだけなのに。

 ――いらない。私は他に何も要らない

 はやてが蘇るなら、自分には何も要らない。
 髪の一筋から血の一滴まで、全て、要らない。

 シグナムは右腕で剣を振り上げた。



204 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:28:25 ID:Guuooboo


(なんてヤツだ……。イカれてやがるぜ!)
 戦慄が次元の体を駆け抜けた。
 次元の体細胞全てが、警戒警報をが鳴り立てている。
「俺からあんまり離れるな! どうやら、やっこさんはお前さんにご執心のようだ」
 後ろのぶりぶりざえもんに向かって怒鳴る。
 女の剣が振り下ろされ、爆音と衝撃波が発生。
 大きく跳びすさりながら、
(足を怪我してんのに同じ手だと? そんなわけはねぇ……)
 この技も先ほどと比べると威力が格段に落ちている。蛮勇しか持たない相手にルパンが負けるはずが無い。
 疑問という名の烈風が次元の心で吹き荒れる。

 ――何かある

 次元の心とは裏腹に、戦士の体は自動的に反応し、敵を殲滅せんと索敵する。
 荒れ狂う土煙の流れと色が微細に変化。
 
 ――あそこか

 煙の中から女が飛び出し、低空突進で肉薄してくる。
 だが、遅い。遅すぎる。
 次元大介が照準を定め、引き金を引くには十分すぎる時間がある。
 照準。発っ……

 倒れたルパンの体が次元の脳裏に閃いた

 射撃行動を強制中断し、回避行動を選択。
「せあぁぁっ!」
 高速で弧を描いた剣の軌跡から何とか体を捻って離脱。
 顔面スレスレを刃が通り過ぎ、下方に流れていく。
 
――女の体が紫光に包まれている。
 
 と、思う間もない。
 通り過ぎた刃が下から跳ね上がってくる。
(よけられねぇ!)
 剣と銃身がぶつかり合い、ガギチと異様な音が響いた。


205 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:29:25 ID:Guuooboo
 だが銃身は剣ではない。銃身の上をすべり刃が閃いた。
 鮮血が舞い、次元の胸から肩にかけて焼けるような痛みが走る。
 片手斬りであったこと、銃身で威力を減殺したことが次元の命を救った。
(接近戦じゃ分が悪すぎらぁ)
 二度、三度背後に跳躍行動するが、女はピタリと追撃してくる。
 一閃、二閃、三……と刃がひらめき、その度に次元の服が切り裂かれ、小さな痛みが走る。
 賞賛べきは、シグナムの数多の怪我、疲労、要素を差し引いても、その剣をかわす次元大介の技量であろう。
 そして、次元の知らぬことであるが、シグナムを覆っていた燐光こそがシグナムの奥義が一つ。
 鉄壁の盾を身にまとうパンツァーガイスト。
 ルパンの銃撃を弾き返し、彼の死の大きな一因となった技であった。
(えぇい、くそっ! 隙がねえ……)
 ひたすら回避するだけで背一杯で、反撃できない。
 焦燥が次元の胸を妬き焦がそうとするが、鋼の自制心で次元は焦燥を抑えこむ。
 再度、後方へ跳躍する。
 女が来ない。だが。

 剣が来た。

「ううぉ!?」
 次元の視界を女が投擲した剣が埋め尽くす。
 傭兵時代、殺し屋時代、泥棒時代、幾千幾万の危機を乗り切ってきた次元の全身がこの危機に超反応。
 意識の埒外にある動きで、次元の肉体が投擲された剣を回避。

 だが、自分の体を一本の矢としたシグナムの蹴撃はかわせなかった。

 崩れた体勢では回避も防御もできなかった。
 脇腹からすさまじい衝撃が襲い、内臓まで突き抜けた。
 浮遊感を感じ、一呼吸置いて背中から背骨が折れたかと思うほどの衝撃。
 ソロモンに抉られた脇腹の傷口が盛大に開いた。
 幸か不幸か、全身がバラバラになりそうな痛みと、脇腹からの猛烈な痛みが意識をつなぎとめた。
 だが、体と意識が連結しない。
 揺らめく次元の視界の中で女が銃を構えた。


206 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:30:35 ID:Guuooboo
 気力を振り絞って体を起こさんとするが、体が言うことを利かない。
(くそったれが!!)
 食いしばった歯が唇を噛み破り、つっと赤い筋が流れた。
 
 ――銃声が轟き、

 ――鮮血が舞った。

 ゆっくりと体が地面に伏していく。
 音が消え、全てがコマ送りにのように見える。
 銃弾が放たれる寸前、自分の目の前に走りこんできた小さな体が倒れていく。
 とさっとぶりぶりざえもんの体が地に横たわった。
 
 感情が沸騰し、次元の両眼がカっと見開かれた。

「てめぇぇええ!!」

 怒気の塊が喉から迸り、殺意が全身を駆け抜け、激痛も何もかも全て吹き飛ばした。
 轟音が空間を震わせた。
 454カスール カスタムオートの弾丸は空間を切り裂いて飛び、狙い過たず女の胸にぶち当たった。
 甲冑ごと肉体を破壊され、女が仰け反り、崩れ落ちる。
 だが、その光景を次元は見ていない。見ようともしない。
 彼の意識にあるのは一つ。
「おいっ! しっかりしろ!」
 ふらつく足で、ぶりぶりざえもんに駆け寄り、その胸が上下していると見るや抱え上げ、走り出す。
 その足取りは信じがたいほど遅く、左右にふらついていた。
 それでも次元は懸命に足を動かす。
「死ぬなよ……。死ぬんじゃねえぞ、相棒!!」
 次元は叫んだ。


207 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:31:47 ID:Guuooboo

 ――寒い

 全身から力が抜けていくのが分かる。
 視界がどんどん暗くなっていく。

 ――これが、死か。

 誰もいない。
 当然だ、全て捨ててきたのだから。友も、積年の仲間ですらも。
 孤独感がシグナムの心を震わせた。

 ――寂しい

 そう思ってしまった瞬間、凍てつかせたはずの心にヒビが生まれた。
 封印したはずの幾つもの光景があふれ出し、頭の中で次々と瞬く。
 食欲を誘う芳香漂う食卓、暖かい団らんの一時。
 その卓に並ぶ仲間の顔が、戦場で認め合った友の顔が浮かぶ。
 ヴィータ、シャマル、なのは、テスタロッサ……。

 ――会いたい。

 彼女達の笑顔がみたい。笑い声が聞きたい。
 そして。

 ――はやて

 その名を呼んだ瞬間、何かが爆発した。心の奥底に燃え残った火に、再び輝きが戻る。
 何度も何度もはやての名を呼ぶ。呼ぶたびに火は力を増し、眩い輝きを取り戻す。
(そうだ……。はやての魂を、未来を、取り戻す。その時まで私は……。膝を屈するわけには……。いかない!!)
 残る力を振り絞って目を見開き、シグナムは右腕を持ち上げた。
 左目に指をそえる。

  
 いっきに抉った





208 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:32:54 ID:Guuooboo
「ぐっぎっ……がぁっ!」
 脳に電撃を間断なく流し続けるような激痛に悶絶しそうになりながらも、目玉を掴み、引き抜く。
 目玉をカートリッジにして、胸の傷を癒す。

 ――やはり、足りない

 他者が見ればあまりの光景に卒倒したかもしれない。
 それほど満身創痍の姿で顔面を朱に染めて這いずるシグナムの姿は、すさまじかった。
 
 ようやく剣のある所に辿り着き、剣を拾い上げ、髪を切る。
 ろくに動かない左手のせいで、拾い集めるのは予想以上に手間だった。
 髪が消失。

 ――まだ、足りない

 ほとんど利かなくなった左腕の五指を開いて地面に押し付け、指に剣を撃ち落す。
 切断した指に、残りのクラールヴィントがはまったままの4指を押し付ける。
 指が消失。ようやく、胸の傷をある程度塞ぐことができた。
 だが失った血は戻らない。他の傷からの出血も止まらない。

 ――このままでは死ぬ

(あの豚の、魔力の塊を奪い……治療、しなければ……)
 半分になった視界がぐらぐらと揺れる。
 足がふらつき、痛みが間断なく襲う。
 痛い。辛い。苦しい。吐きたい。死にたい。投げ出したい。倒れてしまいたい。
 弱音という弱音が頭の中で踊り狂い、悪魔の囁きが耳元でオーケストラを奏でる。
 だから呼ぶ。

 ――はやて
 
 その名だけが体に力を呼び、足を前に進ませる。

 ――はやて
 
 ――会いたい、もう一度


209 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:34:15 ID:Guuooboo


 大穴の開いている壁からビルの中に飛び込み、次元は荒い息を吐きながらナイフで袖口を引き裂き、
 手早く自分の脇腹を縛ると、続いてぶりぶりざえもんの傷口を縛ろうとした。
「……やめておけ。もう、だめらしい……」
 力の無い声がぶりぶりざえもんの口から漏れた。

 ――ふざけんなっ! なに物分りのいいこと言ってやがる!

 次元の心はそう激しく叫んだ。
 心の中で荒れ狂う感情のままに、そう叫びたかった。
 だが、次元は悟ってしまう。
 次元の理性が、積み重ねてきた経験が、言っている。

 ――助からない、と

「痛みは、あるか?」
 静かな声で次元は訊いた。
「大丈夫だ……」
 どこか澄んだものを感じさせる声だった。
「……すまねえ」
「いいってことよ。これも、おたすけだ」
 苦渋と悔恨に満ちた声で詫びる次元とは対照的に、ぶりぶりざえもんの声は穏やかだった。
「……あの女をおたすけできなかったのは、すこし……。残念だ」
 ぽつりと、呟くようにぶりぶりざえもんはいった。
「ぶりぶりざえもん、おめぇ……」
「あの女は……。とても苦しそうだった。人を殺して回る奴だというから……。
 ホテルで暴れていた、あの化物のような奴かと思っていたのだが……。全然違った」
 途中で小さく咳き込みながらも、ぶりぶりざえもんは言葉を紡いでいく。
「人をおたすけするものは……また人におたすけされる……。それが、わたしの掴んだすくいの真髄。
 ……なのに、あの女のやっていることはその逆だ。あれでは……」
 ぶりぶりざえもんの言葉が途切れた。
 何度も咳き込み、苦しそうに顔を歪める。
 次元はそっと、ぶりぶりざえもんのヒヅメを握った。
(ちいせぇな……)
 体が幼児程度の大きさしかないから当然だ。
 だが自分を庇ってくれたあの背中は、とても大きく見えた。


210 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:35:49 ID:Guuooboo
「……次元。私は……ヒーローではなかったのだな……。あの女を、おたすけできなかった」 
 荒い息の下から吐き出したぶりぶりざえもんの声は、震えていた。
「……ヒーローってのはよ。すぐにはなれねえから、ヒーローって言うんじゃねえのか?
 ましてや、おまえさんのヒーロー道は、なんたって『救い』だ。
 さっきも言ったが、こいつはなかなか難しいもんだ。なるのに時間がかかっちまうのが当然だと思うんだがな」
「……もう少し時間があれば、なれたのだろうか?」
「ああ、なれたさ。きっと、お前さんが考えてるようなヒーローにな」
 次元は大きく頷いて見せた。
「少なくとも俺に取っちゃ、お前さんがまぎれもねぇ救いのヒーローさま、さ」
「……ふっ、当然だ……」
 いい終わるやいなや、ぶりぶりざえもんの顔が激しくゆがみ、その呼吸がさらに荒らくなった。
 苦しげに体を捩るぶりぶりざえんもんのヒヅメを次元は強く握った。
「それによ……。仮に救いのヒーローとやらじゃなくたってよ……。
 おめぇは、ヤマトってやつのダチで、俺の相棒だろうが! それじゃあ、不満だってのか?」
「……少し……な」
 ぶりぶりざえもんは笑ったようだった。
「馬鹿野郎……。こういうときはな、嘘でも、うん って言うもんだ」
 

 答えは返ってこなかった。
 
 握っていたヒヅメをはなすと、ぶりぶりざえもんの手は地面に落ちた。
 同時にぐらっ、と次元の体が揺れた。
(すまねぇな、相棒……。おめぇに救ってもらった命だってのに、俺もすぐそっちに行くかもしれねぇ)
 脇腹に撒いたシャツは既に真っ赤に染まり、それでも血は流れ続けている。
「だがよ……。 おめぇと、ルパンの仇だけは、俺が……」
 力を振り絞り、震える手で銃を握りなおし、次元は立ち上がった。
 あの女が近づいてきていた。 
 ついさっきまでの月の女神もかくや、という美貌は消えうせている。
 髪はザンバラ、左目、左耳、左手の親指は欠け、夥しい出血で、顔も服も赤に染まっている。
 墓場から蘇った亡者といった風情だ。
「そうかい……。地獄へ行く準備は万端ってわけだ。安心しな、その格好なら向こうでひっぱりだこだろうからよ!!」
 次元は、獰猛な笑みを浮かべ、猛禽の如き視線を歩み寄ってくる女に叩きつけた。


211 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:36:56 ID:Guuooboo


 男ので倒後方で倒れている豚の尻の下から、翠色と赤色の光が漏れている。
(あれさえ……。あれば……)
 一歩、一歩、重い足を引き摺るようにシグナムは歩を進める。
 今の状態でどう、あの男の弾丸を掻い潜るか。
(それが問題、だな)
 体はこれ以上削れない。五感をこれ以上失って勝てる男ではない。
 いちおうの切り札はある。
 正真正銘、最後の最後だが、騎士甲冑の魔力を使う。
 それをいかに使うか。

 ――紫電一閃
 論外
 ――パンツァーガイスト
 この足、この体ではあの男を斬る前に、効果が切れかねない。
 ――シュテルングウィンデ
 後ろにある魔力の塊を損傷する恐れがある。それでは男に勝っても意味が無い。

 騎士甲冑なしであの銃の弾丸を食らえば、腕と脚なら千切れ飛び、
 胴体に食らえばどこに当たっても致命傷になるだろう。
 だが、迷っている時間はない。
 自分に残されている時間は、あとわずか。
 覚悟を決め、シグナムは剣を握り締めた。
 シグナムの騎士甲冑が消失。
 飛行魔法で体を浮かし、一気に体を前方へと運ぶ。
 男の像がシグナムの瞳の中でみるみる巨大化していく。
 
 男の左腕の銃口と目が合った。

 右方向に急速方向転換。強烈なGが体を締め上げ、体全体に激痛が走る。
 轟音が鳴った。
 再度、方向転換。今度は一直線に男へと向かう。
 どこかへと吹き飛びかける意識を舌を噛んで引き戻す。
 男の体が迫った。

「はぁぁ!!」

 シグナムの口から咆哮が轟いた。
 体力、気力の全てを振り絞った一撃が超速で弧を描く。
 刀に衝撃。
 シグナムの右目が見開かれた。


212 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:38:00 ID:Guuooboo
 男の右手に握られたコンバットナイフと左手の銃が交差し、シグナムの剣を挟みこむように受け止めていた。
 そんなことで。

 ――我が一撃

「あっ……」
 
 ――止められるものか!!

「ああぁぁっ!!」
 
かまわずシグナムは剣を振り切った。
 飛行魔法の推進力も加算した剛刃がナイフと銃身を圧しのけ、刃が男の肩から脇腹への軌道を描いた。
手ごたえはあったが――

――浅いかっ!?

 よろめきながら、男が銃を構える。シグナムは回避行動を取り、銃の射線から逃れようとした。
 突然、男が前に出た。
 
 ――男の右手が見えない

「っふ……」
 シグナムの口から呻き声がもれた。その腹部には深々と、コンバットナイフが突き立てられていた。
「っう……」
 痛みが腹から脳天に突き上げ、半分になった視界が真っ赤に染まった。

 ――負ける……

「かあっ!!」
 シグナムの額が次元の顔面に叩きつけられた。
 怯んだ相手に更に前蹴りをいれ、突き放す。男が吹き飛んだ。
 だが、シグナムにできたのはそこまでだった。力が抜け、勝手に膝が落ちる。
 右手の剣を支えにして、何とか姿勢を維持するが、足がおこりのように震え、目が本格的に霞んでいく。
 どうやら状態は男も似たようなものらしい。
 体を起こしはしたが、膝をついたまま立ち上がらない。いや、立ち上がれないのだろう。
 この短い攻防で、床には互いの血で咲かせた火牡丹が咲き乱れている。
 それなのに男は、シグナムの視界が半分であることと、いやおう無しに銃に目が行ってしまう心理を利用し、そこを突いてきた。
 この土壇場の土壇場においてすら、何という冷静さと計算高さか。
(何か、なにかないか……)
 この男の息の根を止める方法は無いのか。この男に死角はないのか。

 ――いかに殺すか
 
 殺意の思考がシグナムの頭を埋め尽くしていく。 


213 :のこされたもの  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:39:13 ID:Guuooboo
 シグナムの右目がある物体を捉えた。
 シグナムの頭に何かが閃いた。男の行動がいくつもシグナムの中で明滅する。
 勝算はある。だが……

 ――何を躊躇う
 
 心をわずかにかすめた躊躇を、シグナムは嗤った。
(私は全てを捨て、取り返しのつかないものを取り返す!!)
 シグナムの唇が半月を描き、瞳に暗黒の炎が宿る。
 無理矢理体を引き起こす。
 霧散しかけた魔力を無理矢理引き摺り戻し、掬い上げ、飛行魔法を発動。
 前方に向かうと見せ、上方に方向転換。シグナムの体が天井近くまで上昇。
 それは飛行というにはあまりにも遅く、あまりにも緩やかだった。
 大跳躍、といった程度のもの。だが、それで十分。
 予想どおり弾丸は来ない。
 人の目は、上下運動に弱い。そして半分以下の高さになったあの姿勢では上を狙うこと困難だ。
 男の頭上を超える。目標の物体が迫る。
「はぁっ!!」
 シグナムは落下の運動エネルギーと位置エネルギーも利用し、思い切り豚の体に剣を突き立てた。
 剣が貫通し、ガチンと剣の先端が床に突き当たった。
「ぬぅあぁっ!!」
 満身の力を込めて豚の体ごと剣を持ち上げ、男に向ける。
 あまりの酷使に体の全ての筋肉が悲鳴を上げ、全ての傷が脳神経を焼ききらんばかりに絶叫を上げた。
 シグナムの全身から血がほとばしり、ぐるん、と眼球が上を向いた。 
 
 だが、シグナムの八神はやてへの思いは、執念は、それら全てを凌駕した。

 肉の盾を構え、シグナムは男に向かって突撃していく。

「っの野郎っっ!!!」

 耳をつんざくような怒号が響き、一刹那遅れて轟音。
 シグナムの左足に衝撃があり、急に体が軽くなったような感覚が襲う。
 遅れてやってきた痛みはまるで地獄の責め苦のよう。

「ぐっっ……」

 だが、シグナムは止まらない。歯を軋らせ、鬼の形相で残った右脚で跳躍し、
 残りカスの魔力を磨り潰して、体を男に向かって加速させた。

「がああああぁぁっ!!」

 狂戦士の雄叫びが夜を切り裂いた。


214 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:40:24 ID:Guuooboo


 気絶していたのはほんの一瞬らしかった。
 あの一瞬。
 男の体を貫いた時、力を使い果たし、倒れてしまったらしい。
 
 ――だが、勝った。
 
 シグナムは身を起こし、豚の尻ポケットにある魔力の塊に向かって手を伸ばそうとする。
 だが、その速度は亀より遅かった。
(あれだ、あれを……あれ、アレぁ……)
 右脚からの大量の出血によって、シグナムの意識は混濁していく。
 床に赤いラインを描きながら、それでもシグナムは豚へとにじり寄っていく。

 ――だいじょ……ですか! ごふじん!
 
 突然、男の声が途切れ途切れに聞こえてきた。
 シグナムの視界の中に、男の像が出現した。
 像がぼやけ、間断なく揺れるせいで顔はよく判別できないが、男の肌が浅黒いことだけは分かった。

 ――いま……てあてを
 
 男が耳元で叫んでいる。
「……の、ぶたの……で……ひかっている……あれ、を……とってく……れ」
 混濁した意識の中に残された執念が、言葉を紡いだ。

 ――こ……れか?
 
 男が豚に近づいていき、ポケットを探っている。
(たすかっ……た……)
 張り詰めていたものが切れ、安堵の吐息を吐き出すと、シグナムは目を閉じた。
(……れでまた……たた……か……える)
 





 それきり、シグナムの意識は永遠の闇に落ち――
 二度と戻ることは無かった。


215 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:42:03 ID:Guuooboo


「生憎と、目は良くてな……。やむにやまれず味方の死体を使ったというケースも一応考えてみたんだが、
 味方を名前で呼ばずに、豚呼ばわりするような奴はいやしない」
 女が死んだのを確認し、ゲインは銃をおろした。
 豚の首には首輪があり、まだ暖かかった。つまり殺されたばかりの参加者ということだ。
 そして、『ぶた』という名前は名簿のどこにもない。
 味方でない参加者を殺して特定の物を奪おうとする人間がどんな人間だかは、考えるまでもない。
 もっとも、男と豚が女性を二人がかりで襲ったという可能性もなくはないが、
 このゲームでチームを組めるということは、参加者を殺してまわる類ではない可能性が高い。
(確かに、殺して回る輩が何かの理由で組む可能性もゼロじゃあないが……)
 その低い可能性にかけて、昼間の過ちを繰り返す気にはなれなかった。
 あの時、怪我をした女性だからとキャスカを無条件に信じなければ、ひかるはまだ生きていたかもしれない。
 のはらみさえの足を引っ張る真似もしなくてすんだ。
(あんなミスは二度とごめんだ……)。
 ゲインは一本の剣に串刺しにされている男と豚に近寄った。
 無残な有様だった。
 銃声を聞いて駆けつけてはみたが、ゲインが走り寄る前に全ては終わってしまった。
(幾らなんでもこれじゃあ、酷すぎる)
 だが、二人の体を貫いている剣の柄に触れた瞬間、炎がゲインの腕を這い登った。
 慌てて飛びすさり、火を消す。
「っつう……。なんて物騒な武器だ」
 手を振り振り、ゲインは顔をしかめた。これでは埋葬も出来ない。
(参ったぜ……)
 ゲインは歩きながら頭をかき、破壊された壁から外をみやった。
(埋葬する礼としてもらっていく予定だったんだが)
 ゲインの視線の先には誰のものともしれないディパックが転がっていた。
 取り上げて空けて中身を確認するうちに、数枚のメモとサングラスが転がり出た。
(俺の趣味じゃないな……)
 サングラスはとりあえずディパックに戻し、ゲインはマッチを摺ってメモを読み始めた。
 読み進めるうちに、ゲインの表情が喜色の色で輝き始める。
(……どうにかして、このトグサってヤツと接触しなくちゃならんな。
 いや、そりゃ贅沢というものか。この際、このメモに載っている人間なら誰でもいい。
 さて、どうやって連絡をつけたものか……)
 数度読み返し、ゲインはメモをディパックの中にしまった。
「すまない、お二人さん。埋葬の手段を考えている時間はなくなっちまった。
 だが、その代わりと言っちゃあなんだが、あんた達二人の命は絶対に無駄にしない。
 あの世で見ててくれ。あんた達の運んだものがエクソダスに通じる扉を開く所をな!」
 物言わぬ二つの体に誓い、闇の中に再びゲインは駆け出した。
「見ててくれよ! 俺達のエクソダスとギガゾンビの野郎への復讐をな!」
 行き先を定めた請負人の足取りに一切の迷いは無かった。


216 :のこされたもの  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:43:30 ID:Guuooboo
 


 

 請負人が駆け去った後には、3つの亡骸がだけが残された。
 
 串刺しにされた2つの亡骸と、体に多くの欠損を抱えた女の亡骸。
 
 それが、死闘の果てに、それぞれの思いの果てに、のこされたもの。





217 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:44:59 ID:Guuooboo
【F-7/2日目/黎明】】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労(小)、右手に火傷(小)全身各所に軽傷(擦り傷・打撲) 腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り
[装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[道具]:デイパック、支給品一式×10(食料3食分消費)、鶴屋さんの首輪 サングラス(クーガーのもの)
  9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(26発)
  極細の鋼線 、医療キット(×1)、マッチ一箱、ロウソク2本
  ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
  スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、
  13mm爆裂鉄鋼弾(21発) デイバッグ(×4)
  レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡
  蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)(翠)
  トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ
  『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ
[思考・状況]
基本:ここからのエクソダス(脱出)
1:信頼できる仲間を捜す。
 (トグサ、トラック組み、トラック組みの知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、
得た知識を伝え、情報交換を行う)、
2:しんのすけを見つけ出し、保護する。
3:ゲイナーとの合流
4:電車、寺、温泉を廻り、残り三つの亜空間破壊装置を破壊する。
5:ギガゾンビにバレるのを防ぐため、施設内のツチダマは必ず破壊する。可能ならスパイセットも没収。
6:ギガゾンビを倒す。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
  :首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。
  :モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。



218 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:45:44 ID:Guuooboo
【モールダマ@ドラえもん 機能停止】
【モールの亜空間破壊装置 機能停止】

監視道具『スパイセット』について
監視はひみつ道具『スパイセット』によって行われており、会場のいたるところに宙を浮かぶ目玉(映像を送信)と耳(音声を送信)が配置されています。
それらから送信された映像と音声は、会場外部にいるツチダマがモニター越しに受信→ギガゾンビに提供という流れです。
特例として、亜空間破壊装置が設置された施設の監視映像及び音声は、担当のツチダマが送信しない限りギガゾンビには伝わりません。
よって、現在モール周辺は担当であるモールダマの機能停止、スパイセットの稼働不能により、ギガゾンビの監視が行き届いていない状態です。

亜空間破壊装置について
会場内に計六つ設置(図書館、遊園地、寺、温泉、電車内、モール)された亜空間破壊装置は、この会場を世界から隔離するためのものです。
これら全てを破壊、機能停止させることで隔離状態は解かれ、外部との連絡が可能になります。
亜空間破壊装置のある施設は原則としてツチダマが番人を務め、それぞれ監視映像の送信、亜空間破壊装置の警備に回っています。
また、図書館に設置されていた装置はロベルタの放火、遊園地に設置されていた装置は劉鳳の破壊活動の被害を受け、既に機能を停止しています。
よって、残る装置は寺、温泉、電車内(それぞれ住職ダマ、番頭ダマ、車掌ダマが担当)の計三つです。

首輪について
首輪には『爆弾』、『収音と送信』、『禁止エリアの電波受信』、『遠隔爆破の電波受信』、そして『戦闘データの計測及び送信』の五つの機能があります。
音声と戦闘データ計測値は常時ギガゾンビ側へと送信されており、ツチダマが要注意参加者をチェック。必要があればギガゾンビへ報告しています。
盗聴器は性能が低く、スパイセットの補助的な役割しか持ちません。また、大きな音によって故障する恐れがあります。

【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's 死亡】
【次元大介@ルパン三世 死亡】
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん 死亡】

【残り25人】


219 : ◆WwHdPG9VGI :2007/03/28(水) 23:46:41 ID:Guuooboo
【備考】
以下の物がF-7にあるシグナム、次元大介、ぶりぶりざえもんの死体に、もしくは死体の側に放置されています

獅堂光の剣(次元とぶりぶりざえもんの死体に突き刺さっている)
クラールヴィント(シグナムの死体の指にはまっている)
454カスール カスタムオート(残弾:0/7発) 次元大介の死体が握っている
コンバットナイフ

以下の物がF-7エリアのどこかに放置されています

鳳凰寺風の弓(矢18本) コルトガバメント(残弾5/7)

[シグナムのデイパック]
[道具]:支給品一式×3(食料一食分消費)、スタングレネード×2
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night
トウカの日本刀@うたわれるもの、ソード・カトラス@BLACK LAGOON(残弾6/15)


220 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/28(水) 23:51:24 ID:eR0dBAC4
 ハルヒ、ヤマト、アルルゥ。
 その三人ともが、映画館から姿を消していた。
 館内のどこを探し回ってもその姿は見当たらず、また外に停めてあったはずのトラックもなかった。

(ヤマトじゃ彼女を押し留めるのは荷が重かったか……)

 涼宮ハルヒという人間を甘く見ていた。
 特に、その根拠のない行動力を。

 当初は、最悪の事態――何者かによる襲撃という可能性も頭をよぎった。
 自衛には十分な武装を残していった。もし何かあったとすれば、逃げるにしても何かしらの衝突が起きたはずだ。
 だが、何者かと争った形跡は全くなかった。
 その代わりに見付けたものは、ハルヒがしたためた書き置き。

『トグサさん、SOS団はバイトじゃないから公務員だろうが何だろうが脱退は不許可!』

 そんな一文を見て苦笑する。ごくごく短い付き合いではあるが、なるほどいかにも彼女らしい。
 他には、団長に断りなく出かけた自分達への憤慨だとか、不甲斐ない団員二人を捜しに出るが数時間したら戻る旨だとか、そういったことが書かれていた。

 そして、一日の終わり――新たな一日の始まりを告げる放送が始まった。
 ハルヒ、ヤマト、アルルゥ。
 その三人ともが、放送では名前を読み上げられなかった。

 その一方で、ヤマトの親友だという太一、吸血鬼を倒すために犠牲となった長門、そしてよく見知った名前――タチコマの名前が呼ばれた。

(タチコマ……お前まで逝ったのか。この巫山戯た殺し合いに召喚された公安九課の面々も、もう俺一人を残すのみ。俺みたいなのがまた最後に残るってのは、何か因果めいたものを感じるな)

 笑い男事件において、公安九課は一度滅んだ。その時にも最後まで世に残ってしまったのは自分だった。まあ、あれは荒巻課長の取り計らいだったわけだが――

(あの時みたいに、みんなひょっこり生きていてくれれば、どれだけ有り難いか)

 そんなことは有り得ない。分かってはいる。

 先の放送で呼ばれた名前、計14名。
 彼らは死んだのだ。何の慈悲も、容赦もなく。
 それまでに呼ばれた37名と同様に。

 放送では伝わらないことも多い。長門の死と、彼女が遺したものは、自分の口からハルヒ達に伝えなければ。
 どう伝えるべきか。最良の方法は自分には分からない。

 映画館を出る。幹線道路を目の前にしてトグサは考える。
 放送時点での三人の無事は間違いないだろうが、それがいつまでも続くとは限らない。長門の死を知って、ますます行動をエスカレートさせてしまうかもしれない。
 早々に彼女達を捜し出し、改めて保護し、病院へと向かいたい。

(トラックで移動するとなれば、できればこの幹線道路を使いたくなるのが心情。南に行ったのか? それとも北に行ったか、あるいは橋を渡って西に――)

 南の方角から聞こえてきた地響き。
 瞬時に思考を警戒に切り替え、そちらを見やる。そこから何かが飛び出し、そして上空を通り過ぎていった。
 人影のように見えた。だが一瞬のことで、本当に人影だったという確証は持てない。それは北側に着地し、再び地響きを起こす。同じように飛び上がり、ただひたすらに北を目指しているようだった。
 自分には目もくれずに。

(……何が何だか分からないが、今は藁にも縋るしかない!)

 ここより北に何かがある。それは間違いない。
 トグサはマウンテンバイクに跨り、ペダルを踏み出した。それに追いつけるはずがなかろうとも。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


221 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/28(水) 23:54:06 ID:eR0dBAC4
 追っ手の気配がないことを確認して、不二子はトラックを止めた。
 相変わらずの放送も、もうとうに終わっている。
 次元と劉鳳は無事。
 特に劉鳳は『銭形警部の変装をする峰不二子』という情報を有している。それを周囲に流布される前に死んでほしかったのだが、彼の能力を考えればそうそう簡単に死ぬことは期待できまい。
 いくつかの打算を並行して続けながら、彼女は溜息を吐いた。

(……どうしたものかしら)

 隣には、未だ目覚める様子のない少年が一人。
 明確な利用価値がなければ、これ以上連れて回る意味はない。拘束し続けるだけでも手間だ。
 彼が目を覚ますタイミングによっては、不意にこちらに害を為すことだって十分に考えられる。それがこちらにとって最悪のタイミングだったりすれば、目も当てられない。
 彼女の中の天秤は、一方に傾き始めていた。
 万難を排するならば、ここで始末しておくのが得策。

 要するに、殺して捨てていくということだ。

 今更罪悪感がどうこうと言うつもりは全くない。既に少年を一人射殺している。
 逃げるのに必死で各々のデイパックの検分はまだ済んでいないが、確かクロスボウがあったはずだ。銃とは違い、周囲に音を聞かれずに済む。

(それじゃ、さっさと済ませましょう)

 そしてさっさと済ませるべく、デイパックからクロスボウを――

(――?)

 ――物音が、聞こえた。ような気がした。
 トラックを降りて、そちらに目を向ける。遙か後方。闇は深く、目を凝らしたところで遠くまで見渡せるわけでもない。
 空耳。
 気のせい。
 ストレスによる幻聴。
 表現の仕方はいろいろとあるが、まあそういったものであるのかもしれない――不二子がそう思い始めていた、その時だった。


222 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/28(水) 23:55:45 ID:eR0dBAC4
 不意に、夜の闇が一層濃くなる。
 猛烈な悪寒を感じて天を仰ぐ。何かがこちらに向かって急降下してきている。

「見付けたぁ!」

 その叫び声よりも早く、不二子は状況の見当を付けた。同時に行動を起こしていた。
 素早く運転席に戻り、アクセルを踏みつける。トラックが急発進する。
 わずか数瞬の後。
 つい先程までトラックがあった場所に、それ――カズマが空から突っ込む。
 病院の正面玄関を吹き飛ばしたのと同じ破壊の渦が、そこに巻き起こった。

 その余波にハンドルを取られそうになりながらも、不二子はバックミラーを見やる。
 映っていたのは、急速に小さくなるカズマの姿。
 彼が、大地に向かって拳を振るう。
 そのアルターは劉鳳のそれとは違い、どうやら空を自由自在に飛べるようなものではないらしい。手に装着して何かを殴るためだけにある能力のようだ。
 ならば地面を殴って、その反動で飛べばいい。
 そういう発想なのである。

(クレイジーね。ほとほと呆れるわ)

 彼が突然空から降ってきた理由としては合点がいったが。
 しかしながら、これ以上余計なことに思考を割くわけにはいかない。

 アクセル全快でトラックを走らせている。
 このまま北上したところで、行き着く先は禁止エリアだ。西に行けば河に阻まれ、東にいけば山道で速度が落ちる。
 カズマに追いつかれれば、抵抗する術はない。
 ヤマトを人質を取っただけでは諸共吹き飛ばされるかもしれない。先程の彼の猪突猛進ぶりから見れば、むしろそうなる可能性こそ高いと考えるべきだ。単純な策では勝算はないに等しい。

(ならどうする? 考えなさい、峰不二子!)

 自分にできること。
 自分の位置。
 自分の所有物。
 自分の経験、知識、勘。

 何もかもを総動員して、ようやっと――実際には極々僅かな時間だったが――結論に辿り着いた。

(……良かったわね、ヤマト。貴方は”私の役に立つ”わ)

 彼女は口の端を歪に釣り上げながら、そう呟いた。胸中で。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


223 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/28(水) 23:56:58 ID:eR0dBAC4
(兄貴が死んだ!? なのはが死んだ!? そんな馬鹿なことがあるってのか!?)

 カズマは放送で告げられた内容を反芻した。
 あのクーガーが、なのはを守りきれずに死んだ。到底信じられなかった。
 だが、そういったことも有り得るのではいかと、心のどこかでは理解していた。
 例えば、自分達と死闘を繰り広げた金髪の女剣士。ヴィータの犠牲があったからこそ、辛うじて彼女を退けることができた。自分一人の力ではそれすらも叶わなかっただろう。そう認めざるを得ない。
 それと同様に、クーガーの速さすらをもねじ伏せる敵がいたとしても、何ら不思議はないのだ。

(くそっ! 今はまだ、小難しいことを考えてるほど暇じゃねぇ!)

 地面を殴り飛ばしては高速で滑空する自分から、必死に逃げ惑うトラック。
 そこにヤマトがいる。
 そこに太一の仇がいる。
 今はやるべきことが目の前にある。立ち止まるわけにはいかない。

 カズマは立ち止まりこそしなかったが、クーガーやなのはのことを考えまいとすればするほど、逆に意識してしまっていた。
 そんな彼の葛藤などお構いなしに、あと何秒で首輪が爆発するだとかどうとか、耳障りな音声が首輪から垂れ流され始める。それが彼の神経を一層逆なでした。
 どうやら禁止エリアとやらに突入したらしい。

(うるせぇ、知ったことか!)

 だが、カズマにとって、そんなことはどうでもいいことだ。
 話は至ってシンプルである。
 ならば首輪が爆発する前にトラックに追いつき、太一の仇をぶちのめし、ヤマトを連れて来た道を戻ればいい。

 そして、カズマは見た。
 自分が追っているトラックが、カーブを曲がりきれず――まるで曲がるつもりがなかったようにも見えたが――そのまま道路の外へと飛び出し、派手に転がっていく姿を。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


224 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:00:00 ID:+1Bw9bT6
   ――警告します。禁止区域に抵触しています。あと20秒以内に爆破します――

 ヤマトを覚醒させたのは、衝撃と、激痛と、騒音じみた警告音――それも聞き覚えのある――だった。
 太一を目の前で失った瞬間から、何をどうすればこんなことになるのか。視界に入ったのは、横転して虚しくタイヤを空回りさせているトラックだけ。そのトラックともども、自分は禁止エリアにいるらしい。
 とにかく立ち上がらなければ。

「痛っ――」

 足に激痛が走る。
 どうやら骨が折れたかどうだかしているらしい。立ち上がることもできない。

   ――警告します。禁止区域に抵触しています。あと15秒以内に爆破します――

(なら、這ってでも何でも、禁止エリアから出なきゃいけない!)

 自分が禁止エリアのどの辺りにいるのか分からない。どちらに向かえばいいのか分からない。這っていって間に合うのかどうかも分からない。
 それでも、生きることを諦めてはいけない。それが幸運にも生き残った、あるいは不幸にも生き残ってしまった自分が果たすべき責務なのだから。

 そして、黒い影が空から降ってきた。

「大丈夫か! ヤマト!」

 空から降ってきたそれは、そう言いながらこちらに近付いてくる。

   ――警告します。禁止区域に抵触しています。あと10秒以内に爆破します――

 一人の青年。
 その姿には見覚えがあった。

(この人は、確か――)

 太一達と一緒にいた青年だ。

「あの野郎がいやがらねぇ――逃げたか!」

 こちらが動けないことを見て取ったのか、青年はすぐに自分を背負った。そして悪態を吐きながら舌打ちする。
 その言葉を聞いて、ようやっとヤマトは自分の置かれた立場を認識する。あの野郎――太一を殺した奴に、いいように利用されたのだ。逃げるための時間を稼ぐ道具として。

「すぐ病院に連れてってやるからな。しっかり掴まれ! 多少痛くても我慢しろ!」

 そして青年は異形の右手で地面を殴り、飛び上がった。この場を離脱すべく、信じられない速度で空を進む。
 青年は全く意に介していないようだが、彼の首輪のカウントダウンは既に15秒を切っている。自分を抱えてなおここに来るまでと同じ速度を出せたとしても、かろうじて脱出できるかどうか。それだけの時間しか残されていない。
 自分の首輪に残された時間は、青年のそれと比べて5秒ほど少ない。
 たった5秒の差。
 されど、決して覆せない5秒の差。

 生きることを諦めるつもりはない。それこそ、最後の最後まで。
 だが。
 もしも自分の死が避け得ぬものとなってしまったならば、この青年を巻き込むわけにはいかない。
 それがヤマトの下した結論だった。


225 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:02:01 ID:+1Bw9bT6
   ――警告します。禁止区域に抵触しています。あと5秒以内に爆破します――

 やりたいことはいくらでもある。言いたいこともいくらでもある。だが、いざ5秒となれば、せいぜい一言二言程度しか残せない。
 デジタルワールドに残してきた仲間達に。
 ガブモンに。
 父に。
 母に。
 弟に。
 自分が轢き殺してしまった少女に。
 SOS団の皆に。
 ぶりぶりざえもんに。
 太一に。
 そして――

   ――あと4秒――

「ごめんなさい」

   ――あと3秒――

「それと、ありがとう。ええと――」

   ――あと2秒――

 名前が出てこない。
 自らの危険を全く省みず、自分のことを助けようとしてくれているこの青年。その名を呼んで、彼にも言葉を掛けておきたかった。できることならば、その名を胸に刻んでおきたかった。
 もう名を聞く猶予すらない。

   ――あと1秒――

 少年はありったけの力と決意とを込めて、両の手で青年の背中を突き飛ばした。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


226 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:03:24 ID:+1Bw9bT6
 カズマは不意に突き飛ばされた。
 誰に突き飛ばされたのか。
 考えるまでもない。自分が助けるべき少年、ヤマトだ。

 まさか彼に突き飛ばされるとは夢にも思っていなかった。
 ヤマトを背負ってアルター化されていない左手で抱えていたが、彼自身にそれを拒まれてしまえば脆い。振り返ると、そこには虚空に取り残されたヤマトの姿があった。必死に手を伸ばすが、もう届かない。

「何でだ――」

 そして、夜の闇に、光が閃いた。

 爆音と衝撃。
 空中で大きく体勢を崩され、制動を失う。人の頭を吹き飛ばすほどの爆発の威力は、決して小さくはない。あのままヤマトを背中に抱えていたならば、恐らく自分とて無事では済まなかっただろう。
 ヤマトの行動にどのような意図があったのか。
 理屈では分かる。
 だが、感情で納得できるはずがない。

「――何でだよ、畜生!」

 カズマは吼えた。
 まともに着地することすらままならず、地面に接触し、跳ねるように転がって、そして意識を失った。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


227 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:05:34 ID:+1Bw9bT6
 悪が栄えた試しはない、とはよく言ったものである。
 そういった悪は二流以下の悪だ。一流の悪は、栄えた瞬間に悪ではなくなる。

 奪われる者に奪われる以上の価値はない。その手には何も得られず、何も残らない。ただ失い続けるのみ。
 奪う側にいる者にこそ、価値がある。
 自分は奪う側にいる人間だ。権力の頂点に立った男や巨万の富を得た男に取り付いて、養分を吸い尽くす。それが峰不二子の生き方だ。
 そして、搾取の対象に人の命が含まれた。
 たったそれだけのこと。
 あとは単純だった。そうと決めてさえしまえば、人の命も”もの”でしかなくなる。所詮は搾取の対象でしかない。だから、利用し尽くし、奪い尽くす。
 全ては己の未来のためにある。

 峰不二子は走っていた。
 闇に乗じて高速で走行するトラックから道路脇の茂みに飛び込み、ヤマトを乗せたトラックをそのまま禁止エリアの奥へと突っ込ませる。
 可能な限り奥へ。決して引き返せないように。
 カズマのように突き進むことしか知らない単純な人間ならば、何も考えずにそのままトラックを追っていくだろう。
 こういった逃走劇はお手のものだ。トラックから飛び降りた際に擦過傷を負ったが、銭形警部の厚手の服のお陰もあって負傷は最小限で済んだ。行動には何ら支障ない。

(爆発音は一回。ヤマトの首輪が爆発したと見て間違いない。それ以降、爆発音はなかった。残念ながらカズマの始末には失敗した、と判断しておくべきね)

 ヤマトを助けようとして、首輪の爆発に巻き込まれて死んだ――楽観的にそう考えることもできる。
 だが一方で、彼が健在であるという可能性もある。
 わざわざ戻って確かめようとするほど不二子も愚かではない。カズマと遭遇すれば、自分は間違いなく殺される。そんな危険な賭けに乗る必要もないだろう。元より、最大にして最低限の目標は、カズマを撒くことにあった。
 支払った代償は、トラック一台と、少年一人の命。
 そんな安い代償で目標を達成し、自分の身を守ることができたのだから、成果としては上々だ。
 カズマとはこのまま二度と出会わずに済ませたい。他の誰か――例えば正義馬鹿の劉鳳あたりと殺し合って、共倒れになってくれれば有り難いのだが。化け物は化け物同士で潰し合って貰うに限る。

 最後まで生き残ることができるのは、そんな化け物共ではない。
 自分のような人間だけだ。

(あのギガゾンビが素直に願いを叶えてくれるとは思えないけど、最後の一人にさえなれば彼と――まあ、どう考えても男よね――彼と接触するチャンスを得られる)

 こんな物騒な出来事に巻き込まれた見返りとして奪うものは、もう決めてある。

(男でさえあれば、いくらでもたらし込んでみせる。あの間抜けな劉鳳と同じように。あとは利用し尽くして、奪い尽くして、そして最後には捨ててしまえばいいわ)

 ギガゾンビの全て。
 権力だとか富だとか、そんな低俗な次元の話ではない。神にも与する力。それが自分のものになる。
 約束された栄光に思いを馳せて、不二子は恍惚に近い昂揚を感じていた。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


228 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:07:41 ID:+1Bw9bT6
 もう数歩も進めば、禁止エリアであるA-4に足を踏み入れることになる。トグサがそこに辿り着いた頃には、既に全てが終わっていた。
 注意していなければ聞き取れないほどに小さな爆発音。
 道路の上に倒れ伏している一人の青年。
 自分が得ることができた情報は、これだけだ。

「おい、君、大丈夫か!」

 マウンテンバイクを放り出し、トグサは青年に駆け寄った。
 全身傷だらけで、ボロボロとしか表現のしようがない。心拍や呼吸はあるようだが、いくら揺すっても、呼びかけても、彼の意識は戻らなかった。
 夜のとばりは全てを覆い隠す。いくら北に伸びるこの道の彼方を見やっても、ただひたすらに宵闇と静寂が続くのみである。

 ここで何があったのか。

 爆発音の正体は首輪の爆弾に依るものと考えられる。そう推測はできる。だが、どうしたところで推測の域を出ない。あまりにも情報が不足している。
 真実は藪の中。
 それを得るには、この青年に話を聞くしかない。
 もちろん、青年が危険人物ではないという保証はない。最悪のケースとして、彼が誰かを禁止エリアに放り込んで殺害したという可能性も考えておくべきだろう。
 しかし、真実を得るにはリスクは付き物である。刑事として、その程度のことは弁えているつもりだ。

(ともかく、彼を保護する。万が一危険な人物であれば拘束する。どちらにしても、事情は聞かせてもらわなきゃならないな)

 幸いにも、職業柄どんな相手であれ人から物事を聞き出すことには慣れている。あとは用心さえ怠らなければいい。
 トグサは青年を背負い込んだ。そして、横倒しになったままのマウンテンバイクにふと気付く。

(これを置いていくわけにもいかない、か)

 移動の足としての有用性だけでは片付けられない。何だかんだで、既に半日以上を共にした相棒である。今ならバトーの言い分も理解できる気がした。こういったものにも存外に愛着は沸くものだ。
 トグサは背中の青年を落とさないように気を付けながら、何とかマウンテンバイクを起こす。そして、それを押して歩き始めた。


229 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:10:01 ID:+1Bw9bT6




【B-4/幹線道路上北端/2日目/夜中】


【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可、青年を背負って自転車を押している
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、
    警察手帳(持参していた物)、技術手袋(使用回数:残り17回)、
    首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1 :一旦映画館に戻り、青年を保護(場合によっては拘束)する。
   その上で、A〜B-4での出来事について聞く。
2 :ハルヒ達を捜し出し、共に病院へと向かう。
3 :病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
4 :ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
5 :情報および協力者の収集、情報端末の入手。
6 :エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。


【カズマ@スクライド】
[状態]:気絶、中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
  :…………


230 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:11:00 ID:+1Bw9bT6




【B-5/2日目/夜中】


【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:軽度の擦過傷
[装備]:コルトSAA(弾数:4/6発/予備弾:12発) 、銭型変装セット@ルパン三世(付けているのは衣服のみ)
[道具]:デイバック×7、支給品一式×7(食料6食分消費、水1/10消費)、ダイヤの指輪、
    高性能デジタルカメラ(記憶媒体はSDカード)、携帯電話(各施設の番号が登録済み)、のろいウザギ@魔法少女リリカルなのはA's
    鶴屋の巾着袋(支給品一式と予備の食料・水が入っている)、ボディブレード、かなみのリボン@スクライド
    コルトM1917(残り3発)、ワルサーP38(0/8)、ホ○ダのスーパーカブ(使用不能)、E-6駅・F-1駅の電話番号のメモ、
    コルトM1917の弾丸(残り6発) スーパーピンチクラッシャーのオモチャ@スクライド、USSR RPG7(残弾1)
    RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、スコップ、暗視ゴーグル(望遠機能付き)
    ハーモニカ、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
    タヌ機(1回使用可能)、クロスボウ、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)、トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:優勝して生き残る。自己の安全を最優先。利用できるものはなんでも利用する。
1 :できるだけA〜B-4から離れる。
2 :参加者を殺害し人数を減らす。
   ※弱者優先。闇討ちなどの効率の良い手法を取りたい。
3 :カズマや劉鳳など、人間を超越したような輩には手出ししない。
4 :F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
[備考]
※E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
※「なくても見つけ出す!」にて、ドラえもんたちがしていた会話の一部始終を盗聴していました。
※着せ替えカメラの効果により、本来身に付けていた服は一時的に消失しています。


231 :峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:12:11 ID:+1Bw9bT6

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆












 男の背には、あまりにも多くの死が積み重なっていた。

 かなみ。
 鶴屋。
 君島。
 ヴィータ。
 太一。
 クーガー。
 なのは。
 そして、ヤマト。

 嗚呼、男は何も得ること叶わず、何も守ること叶わず。

 ただひたすらに失い続ける。

 その果てに、何があるのか。

 何もありはしない。

 ないからこそ――












【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー 死亡】

[残り24人]




232 : ◆q/26xrKjWg :2007/03/29(木) 00:17:47 ID:+1Bw9bT6
>>229-230 状態表の時間を夜中→深夜に訂正いたします。

233 :のこされたもの(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/29(木) 00:31:17 ID:i+6Ph701
>>187
×譲ちゃん ○嬢ちゃん

>>193
× まさかその豚にルパンが変装しているのないだろうな、と。
○ まさかその豚にルパンが変装しているのではなかろうな、と。

>>204
「せあぁぁっ!」

「せあぁぁっ!!」
女の裂帛の気合が次元の耳を打った。


>>218
モールダマ機能回復。しかし以下の思考によりゲインの行動は露見していません。

「なんとか一命は取り留めたけど、マズイことを喋りすぎちゃったギガ〜。
スパイセットも持っていかれちゃったし、このままギガゾンビ様に報告したら大目玉ギガ〜。
嫌ギガ〜それは嫌ギガ〜……こうなったら何事もなかったかのように店番に戻るギガ〜。
いらっしゃいませギガ〜……ここあんまり人がこないギガ〜……」



234 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:47:43 ID:nlss6NAM


 ――マウントポジション

  それは総合格闘技等で取られる有利なポジショニングのことである。

  攻撃側が相手の上に乗る、いわゆる「馬乗り」の状態の事を指す。

  常に攻撃側の体重が掛かる為普通にしているだけでも防御側にとっては辛い状況である。

  更に攻撃側は顔面をピンポイントで殴ることや、相手の頭を掴み地面に叩き付けること。

  少し体勢をずらし急所攻撃や、関節技にも即座に切り替えられるなどやりたい放題である。

  防御側は如何にしてこの体制から抜け出すかがポイントとなってくるだろう。

  このポジションを……例えば豪腕の戦士が非力な魔法使いに取れば。

  受ける方に残された選択肢は絶望の二文字だけである。





  然し、この世には決まって例外という物存在する。

  「力を持つ魔法使い」それは今、彼の目の前にいる。





235 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:49:26 ID:nlss6NAM
「あっのレヴィっさげふっ!だから見たな」
「死・ネ」
殴る、顔面を目掛け大振りで突き抜けるように殴る。
「かわいのへっ!リボンなんげっ!知っうぇ!」
「死・ネ」
掴む、ゲイナーの襟を掴み地面へ数度叩き付ける。
「フリルのがふっ!ひらひらドレげほっ!スなんて面相もなっしゅ!」
「死・ネ」
殴る、今度は顎を目掛けて一直線に殴りぬける。
「だからっ人の話しをおえっ!聞いてくださなふっ!」
「死・ネ」
飛ぶ、レヴィの全体重+αの衝撃が腹部を襲う。
「ああレヴィさばふっ!んかばいいぬあっ!とかでんでんおぼってながふっ!」
「死・ネ」
殴る、少し姿勢をずらし、ゲイナーの腹部に重いパンチを浴びせる。
「だがらっ!みでまぜべふっ!だにもじりまぜんがぁっ!!」
「死・ネ」
絞める、逃げようと背を向けたゲイナーの首を絞める。
「……あ…………ぺぷし……」
「死・ネ」
叩き付ける、ゲイナーの髪を掴み地面へと熱いキスを交わさせる。



生き地獄とは正にこの事なのだろうか。
もう言葉を発することも出来なくなったゲイナーの惨状を確認し、レヴィは襟首を掴んで持ち上げた。
「もう忘れたか?
 何も見て無いし言うつもりはないって言えるな?
 分かってるなら分かってますって返事しろコラ」
勿論、返事ができるわけもなく頷きとOKサインを指で作るのが精一杯。
それのどこが気に入らなかったのかレヴィはもう一発鉄拳を叩き込んだ。

後ろで高笑いするギガゾンビのことなど二人の頭からは完璧に――――――。

236 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:53:04 ID:nlss6NAM



――――――ギガゾンビ。
この殺し合いを開き、幾多の日常を奪い、命が失われ、人を疑い、殺していく様を愉しみ、殆どの他者にとっては倒すべき存在。
彼女にとっては消えてもらっては困る存在。叶えられない願いを叶えられる、最後の希望。
空に映る顔が読み上げる名を聞いても、何の感情も沸いて来ない。

幸運にも彼女が今いる場所は禁止エリアには選ばれることはなく、あと六時間の猶予を得る事が出来た。
ここで六時間じっとすれば傷の回復と残り人数の減少。
今望むものを二つ、手に入れる事ができる。

場所的に考えても今からここへ突っ込んでくる物好きはそうそう居ないだろう。
居るとすれば……。

「そんな事……今考えても仕方がないですね」

彼女は、静かに空を見上げる。
月は星を照らし、星は虹を照らし、虹は月を照らす。
あの空に映る虹も作り物なのかもしれないが、そうだとしても美しかった。

「輝く星よ、一つだけ聞いてください」
拳を空に突きつけ、ゆっくりと口を開く。
「どうか、私も虹を照らす星に。
 いえ、民を照らす星になれますように」
そして、彼女は虹に見惚れる。




――変わることなく月は星を照らし、星は虹を照らし、虹は月を照らし続け。
   それぞれが輝きを放ち、すべてに光を振り撒いている。
   木に、草に、水に、火に、剣に、銃に、人に、命に。





237 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:54:11 ID:nlss6NAM
「へヴぃざん(レヴィさん)」
もはや原形を留めていないゲイナーらしき顔を持つ人間がレヴィに問う。
レヴィはまだイライラが抜けきっていないのか野獣のような眼でゲイナーを睨み返す。
「ひどぶはだしがあづんでず(ひとつ話があるんです)」
そう言うとゲイナーはレヴィを手招きし。地図を地面に広げ、複数の点を指し示す。
「ざっぎのぼうぞうはぎぎのばしばんべぶば、(さっきの放送は聞き逃したんですが)
 ぼうぼびんじえでぃあはじぜずをよげでるようだんです(どうも禁止エリアは施設を避けてるようなんです)」
ゲイナーの言葉とも言い難い音声をなんとかして聞き取るレヴィだが、その音声が更なるイラつきを生み出している。
尤も、それを生み出したのは彼女自身だが。
「ぼごででず、ごんがいもじぜづがよげられだどがでいぢまず。(そこでです、今回も施設が避けられたと仮定します)
 ばっばらごんごもじぜづがぎんじえりあじなどぅのはがんがえにぐい。(だったら今後も施設が禁止エリアになるのは考えにくい)
 ばがらぎょでんにずるのはざいできなんだとおぼいばす(だから拠点にするのは最適なんだと思います)」
聞き取りにくい音声、小難しい話、先程起こったフリフリ事件。
レヴィのストレスが徐々に臨界点へと達しかけている。
その様子をチラとみたゲイナーの言葉が早くなる。
「そぶがんばえりゅとごぶごぶやえいだかんはあんでんでず。(そう考えると高校や映画館は安全です)
 じがじごうごうはどじごめだでるがどうぜいがある、(しかし高校は閉じ込められる可能性がある
 だがらもじごうごうにひどがいればごどはじをわだっでぎます。(だからもし高校に人が居ればこの橋を渡ってきます)
 つばでぃ!えいががんをめざじ、もうずごじあずげばにちでんぶんのひどにあえばず!(つまり!映画館を目指しもう少し歩けば二地点分の人に会えます!)」
「……で?要は映画館めざしゃいいんだろ?」
……後悔とは行動の後でないと着いて来ない。
ハナから「映画館を目指しましょう」と言っておくのが正解だったのだろう。

本日何度目か、もう数えるのもアホらしくなる回数の殴打音が鳴り響く。

「いばっ!」
吹き飛ばされたゲイナーの身体に何かが突き刺さる。
ゆっくりと身体を起こすと所々にキラキラと光る物がくっついている。
「が……ぼう?(画……鋲?)」
「おいおい、ボサっとしてると置いてくぜ?」
一人で先に行くレヴィを追いかけながら、体に引っ付いた画鋲を毟るゲイナー。
「どぼばでみばっでなんでずが、あだだは(どこまで身勝手なんですか、貴方は)」
聞こえないように、小さく、小さく吐いた。

ふと、起き上がるときに見た空には一本の白い線が入っていた。
「……にでぃ?(……虹?)」

彼もまた、少しの間だけ虹に見惚れる。

238 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:56:48 ID:nlss6NAM



――月虹は輝く。
   それはこの地で散った幾多もの命の涙か。

   両者にとって、その虹が在る理由はどうでもいい。

   見る者にとってはただ、美しく。



   「彼」もまた、照らしているのだ。

   ――――――を。

剣には剣の輝きを。
銃には銃の輝きを。
知には知の輝きを。
虹には虹の輝きを。

そして、命には生の輝きを。




239 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 00:57:45 ID:nlss6NAM
【C-5/二日目/深夜】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
     顔面ボコボコ、腹部、後頭部に相当なダメージ、前を見て歩くのが精一杯(下記参照)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ロープ、焼け残った首輪、フェイトのメモ、画鋲数個
[思考・状況]
1:映画館を目指す。
2:フェイトが心配。
3:トグサと接触し、協力を仰ぎたい。
4:首輪解除の取っかかりを得たい。
5:朝六時にE6駅でフェイトと合流。無理ならその時に電話をかける。
6:さっさと帰りたい。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
※第四放送を聞き逃しました
※      現在↓
    l'´ ,..::'! .: {i,  ヽ、` 、` ー┐
    l _, 。ィ' li:.、ヒァ'  ヽ lj  /
   ノ  `ヾ、.:'.::`ミ/゙'、  Y^iイ_
  /  ⌒';,゙i, ri:.:i .::' メ、、_ノiトミ>
  l    ,:' /,';;;}:.ヾ:.   八リ
  丶    ' {;!゙' ::..  ,ィ'  ヽヽ

【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、まだまだイライラ
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
   グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)
[道具]:支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル@攻殻機動隊S.A.C(弾数3/3)
   グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
   西瓜1個@スクライド、バカルディ(ラム酒)1本@BLACK LAGOON、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考・状況]
1:映画館を目指す。
2:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
3:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
4:ワルいコのカズマ君にはお仕置きが必要。
5:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
6:物事なんでも速攻解決!! 銃で
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※第四放送を聞き逃しました

【C-2/二日目/深夜】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:やや疲労、全身に中程度の裂傷と火傷(少し回復)、両肩に小程度の傷(少し回復)、魔力消費大 (少し回復)
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク アヴァロン@Fate/ Stay night
[道具]:支給品一式(食糧は二人分)、スコップ、なぐられうさぎ(黒焦げで、かつ眉間を割られています)@クレヨンしんちゃん
   コンバットナイフ、鉈@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況] 
1:休息
2:エクスカリバーを探してみる。
3:優勝し、王の選定をやり直させてもらう。
4:エヴェンクルガのトウカに預けた勝負を果たす。
5:迷いは断ち切った。この先は例え誰と遭遇しようとも殺す覚悟。
※アヴァロンが展開できないことに気付いています。
※防具に兜が追加されています。ビジュアルは桜ルートの黒セイバー参照。

240 :Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc :2007/03/29(木) 01:10:40 ID:nlss6NAM
>>239
【C-5/二日目/深夜】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】

【B-5/二日目/深夜】
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
に修正します。

241 :のこされたもの(修正)  ◆WwHdPG9VGI :2007/03/29(木) 01:14:11 ID:i+6Ph701
>>196
×それ故、とり取り返しのつかない物を失った。

○それ故、取り返しのつかない物を失った。

>>210
×「馬鹿野郎……。こういうときはな、嘘でも、うん って言うもんだ」

○「馬鹿野郎……。こういうときはな、嘘でも、ねえ って答えるもんだぜ」


>>216
× 請負人が駆け去った後には、3つの亡骸がだけが残された。

○  請負人が駆け去った後には、3つの亡骸だけが残された。



242 :Keep the tune delectable 1/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:12:59 ID:nNwAaRdw
「アーッ、糞ッ!」

月の光も届かない暗く深い森の中、そこを罵声を撒き散らしながら進むのは薄く日焼けした肌に
墨を入れ、怒気と少しの酒気を纏った女ガンマン――レヴィだ。
彼女はその両手に持った銃を振り回して、目の前の鬱陶しい草木を払う。

「何であたしが、
 こんな所でアニマルプラネットよろしくジャングル探検ごっこをしなきゃならねぇんだ!?」
「ほぉれは、へヴぃざんがとびょかんひいくばらぼっちのほうがひがいって……」
 (訳:それは、レヴィさんが図書館に行くんだったらこっちの方が近いって……)
「うっせーっ! てめぇにゃ聞いちゃいねえんだよっ!!」

向けられた罵声に身を竦めるのは、彼女の後を覚束無い足取りで追う少年――ゲイナーだ。
先刻の彼女からの鉄拳制裁が彼の心に何かを刻んだのか、彼女が言葉一つ吐くたびに反応し
その身体を震わしている。

「……ったく、むかつくぜ」

露出した肌に刺さる葉、五月蝿い羽音を立てる虫を払いレヴィとゲイナーは森を進む。

243 :Keep the tune delectable 2/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:13:56 ID:nNwAaRdw
此処で意識を取り戻した時にあった月がまた再び頭上、空の頂上に浮かんでいる。
つまり一日経ったということだ。それは長くはないが、決して短いと言える時間でもない。

――で、結局あたしは何をしてるのかってことだ。

レヴィは考える。
元々、殺しに禁忌など感じない。例え相手が女子供であろうとも理由があれば殺す――それだけだ。
だからゲイナーを最初に見た時も躊躇いはしなかった……が、下手を踏んだ。
そこから先は下手を踏みっぱなしだ。他の連中がブラッドパーティを楽しみ、すでに50人も死者が
出てるってのに自分は殺すどころかろくに銃も振り回していない。
あげく、コミックの世界の住人達の戦いでは見ていることしかできなかった。

――らしくねぇ。らしくねぇぜ……コレは。

そして、今は駄賃も貰っていないのに餓鬼のお守りだ。
ロワナプラじゃ一目置かれたラグーン商会の女ガンマンがキンダーガーデンの保母さんか?
そんなの笑い話にもならない。

――日和っている? ――いや、ビビってるのか!? ――このあたしが?

怪物相手じゃ戦えません? だからコソコソ地を這う虫のように森の中を進むのか?
ホラー映画の中のブロンドよろしく殺人鬼から逃げ惑うのか?

――違う。全然、違う。これは全然あたしらしくねぇ……。

244 :Keep the tune delectable 3/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:14:49 ID:nNwAaRdw
狭くて暗い視界の中慎重に歩を進めていたゲイナーは、いつの間にかにレヴィの罵声が止んで
いたことに気付き顔を上げた。
その視線の先、5メートル程の位置でレヴィが影の中、片手の拳銃を彼に向けて立っている。

「ヘヴィさん……? (訳:レヴィさん……?)」
「……坊主。少しシリアスな話をしよう。重要なお話だ」

一瞬、風で枝が払われ月光がレヴィの顔を照らす。
それはゲイナーが今までに見たことのない表情だった。

「あたしは自分が生き残るなら周りの全員が死んでも知ったことじゃないし、自分以外の人間が
 死んでそれで自分が助かるなら殺すのを躊躇ったりはしねぇ。
 だから此処でもそうするつもりだった。でも今はそうしていない……そこで問題だ。

 あたしは腰抜けか? ――答えはNO。問題はお前の方にあるのさ」

突然何を言い出したのか。その言葉の真意を汲み取れず、また彼女の不気味さにゲイナーは
寒気を覚える。

「あたしが落ち着かないのは……、つまるところ後ろについて来てるお前が信用できるかって
 ことなんだよ。
 てめえが今のあたしの雇い主で、それを守るのがあたしの仕事。
 ……で、報酬は此処からの脱出。簡単にまとめるとこんな感じだ。
 あたしは報酬なしじゃ指一本てめえのために動かすつもりはねぇ、だから今ここで確認しておく。

 ――お前自身はここから脱出できるなんて、本気で信じているのか?」

「ふぁぶぁりまえでふよ。ばにをひまさら…… (訳:あたりまえですよ。何を今更……)」

ゲイナーは即答した。そう、ここからの脱出(エクソダス)を彼は確固たる信念で目指している。
それは彼女にも伝わり、満足させることができたようだ。

「OK。実際、お前に報酬を払う当てがあるのかどうかはこの際目をつぶってやるぜ。
 なら次の質問だ。
 ここから逃げる――OK、いいだろう。命あっての物種だからな。
 だったらその命はどうやって守る? これが次の質問だ。

 ――お前は人を殺せるか?」

「……ふぉ、ふぉれは (訳:そ、それは……)」

「――too late. 遅すぎるぜ坊や。この質問は即答できなきゃ意味はないのさ」

カチャリと、撃鉄を起す音が鳴った。

245 :Keep the tune delectable 4/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:15:43 ID:nNwAaRdw
「てめえが自分の命と糞の役にも立たねえ道徳心とやらを天秤にかけているうちに、相手の弾丸は
 お前の心臓に辿りついている。
 殺し合いで重要なのは速さ――殺される前に殺す。それだけだ。
 自分の命を心配するのはその後でいい。

 ――で、お前が自分の命一つ守れないお人よしの薄ら馬鹿だということが証明されたわけだが、
 あたしはそんなヤツと組んでへまに巻き込まれるのはゴメンだ」

銃口がピタリとゲイナーの眉間に照準される。

「慈悲深いあたしが、昨日一日の敢闘賞としてお前に10秒時間をやる。
 その間にあたしの目の前から姿を消しな。でなきゃここで死ぬことになるぜ。

 ――10。」

レヴィのカウントダウンが始まる。だが、彼女と向かい合ったゲイナーはその場を動かなかった。

「なめてんのか? あたしがお前を殺さないと?

 ――9。――8。――……」

7、6、5……とカウントが落ちる。それでもゲイナーは動かない。

「――ゼロ。遺言だけは聞いてやるぜ坊主。
 てめえがくたばったら、あたしはあたしやりのやり方で此処を脱出してやるさ」

ゲイナーは一歩二歩と前に進み、彼女の目の前でそれを答えた。

「びょくは、ばなたがびょくをこほさないとしんぢでいばす。
 ぞじて、ばなたもびょくをひんじてひるからびまひっしょにいぶ。……ひがいまふか?」
 (訳:僕は、あなたが僕を殺さないと信じています。
 そして、あなたも僕を信じているから今一緒にいる。……違いますか?)

「外れも外れ、大外れさ――」

レヴィのベレッタが火を噴き、一発の乾いた銃声が静寂な空気を切り裂いた。

246 :Keep the tune delectable 5/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:16:37 ID:nNwAaRdw
「――あんまり外れていやがるんで、あたしの銃も的を外しちまった」

放たれた弾丸はゲイナーの頬をかすめ、彼の背後の木の幹へとめり込んでいた。

「OK。てめえの糞度胸に免じて依頼は続行だ。
 お前の命はあたしが代わりに守ってやる。だから勝手に死ぬな。勝手に死ぬヤツは
 助けられねえからな。
 そしてお前はその骸骨に詰まった脳ミソをフル回転させて、ここから脱出する道を作り出せ。
 それができなきゃ、お前もあたしも此処でくたばる。

 ――理解したか?」

「ひゃい。ばかせてほいてぐだざい (訳:ハイ。任せておいてください)」

「じゃあ、あたしからの質問タイムはこれで終わりだ――先へ進むぜ」

言うが早いかレヴィは踵を返し再び森を掻き分け歩き出した。結局、この問答はなんだったのか……。

(――素直じゃない人だな)

不安もそして親しみも攻撃的でないと表現できない、そんな不器用な人間。
そうレヴィを評すると、ゲイナーも彼女を追って森の中へと歩を進めた。



それから数十分後、ついに彼女らは悪戦苦闘した森を抜け月光の元へとその身をさらした。
で――、

「ぶひゃははははははははははははは……っ!! なんだそのおめーの顔っ!!
 マーズピープルっかつーのっ! あはははははははははははははははは……っ!!
 それとも打ち上げられた深海魚か!? あひひひひひひひひひひひひひ……っ!!
 こんなひどい顔、ロワナプラのアヘン窟でも見たことねーっ!!」

自分がそうしたというのにも関わらず、彼女はゲイナーの時間が経って赤黒く腫れ上がり、
青い筋の走る顔を見て大爆笑した。


「あー……、なんかスッキリした」
「……………………………………ひぼい (訳:……非道い)」

247 :Keep the tune delectable 6/6  ◆S8pgx99zVs :2007/03/30(金) 01:17:34 ID:nNwAaRdw
【B-4 南、山と市街地の境目辺り/二日目/深夜】

【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:精神的にちょっと疲れた……というか、レヴィが非道い。疲れてお腹も減った。
   風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
   顔面ボコボコ、腹部、後頭部に相当なダメージ、前を見て歩くのが精一杯(下記参照)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式、ロープ、焼け残った首輪、フェイトのメモ、画鋲数個
[思考]
 基本:バトルロワイアルからの脱出。
 1:映画館を目指し、そこを拠点に人を探す。
 2:映画館で食事と休憩、それと顔面を冷やしたい。
 3:ファイトのことが心配。
 4:トグサという人物と接触し、協力し合う。
 5:首輪を解除する方法を模索する。
 6:朝6時にE6駅でフェイトと合流。できなければ電話をかける。

[備考]
 ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
 ※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
 ※第四放送を聞き逃しました
 ※      現在↓
    l'´ ,..::'! .: {i,  ヽ、` 、` ー┐
    l _, 。ィ' li:.、ヒァ'  ヽ lj  /
   ノ  `ヾ、.:'.::`ミ/゙'、  Y^iイ_
  /  ⌒';,゙i, ri:.:i .::' メ、、_ノiトミ>
  l    ,:' /,';;;}:.ヾ:.   八リ
  丶    ' {;!゙' ::..  ,ィ'  ヽヽ


【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:ストレスは解消されて、殺る気満々。疲れてお腹も減った。
   腹部に軽傷、頭に大きなタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾15、マガジン15発、マガジン14発)
   グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2
   予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル(弾数3/3)
   グルメテーブルかけ(使用回数:残り18品)、テキオー灯、ぬけ穴ライト
   西瓜1個、バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考]
 基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
 1:映画館を目指し、そこを拠点に人を探す。
 2:というか、そろそろ喰わねえとヘバっちまうぜ。
 3:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
 4:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
 5:カズマとはいつかケジメをつける。
 6:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。

[備考]
 ※双子の名前は知りません。
 ※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
 ※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
 ※第四放送を聞き逃しました

248 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/01(日) 00:43:33 ID:AONy67Rp
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   ./::l::::::::::::::l::|:::::/.::::/::::::::::::::;/..::::;/ /::::::::/,::::/ i.l:::::|:::::|::::|< ヽ)_   ヾシ
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 ノ   |::l::::/.斤l::::|::;イ:::::::/_.|/ -、`メ::/ /::/-''7::::|::::|:::::|ヘ:lノ`'ゞ,,ノv_,r
    |::ト::ヽ,弋l:::|/:|::::;イ 攵;:cリ ̄`//  /,ィ-ァ/:::::|::::|:::::| |:! ;o" "';⌒ヽ___
    .i:| l:::l.:\,l::::::|::/:|    ̄      /'゙ー゙イ;':::::::l|:::l|::::|  ヾ ノ':。,.,:"く ノ巛くゝ
     l|.ノ::|::::l:::|i::::|/:::|          /、  /:::::::/.|::l.|:: l  `ー(_人_,ノ ヾ−'
    ,ィ''〈 |::::j:::l !:::::::::|            ヽ./:::::::/ jノ.l::/             脱出フラグと死亡フラグ!
   /,.;:;:;:;//jメ ヽ:::::|          -‐.T:::::/    j/             重なり合う人と剣!
  /{,.;.;.;.;.;.;゙ヽ, \.ヽ;::ト、   `ー-- -‐ ,:イ l::::/                  積み重なる情報と誤解!
/,.;:;:;l,.;.;.;.;.;.;.;.;ヽ,  \N. ` 、  ー /|/ .|::/                  この地で笑うのは誰だ!
;:;:;:;:;:;:;:l,.;.;.;.;.;.;.;.;.;.ヽ.  ヾ、 /、゙ ー '     |/                  ギガゾンビか?参加者か?
:;:;:;:;:;:;:;:;l,.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;:ヽ、  \__. ヽ、::,\
;.;.;.;.;.;.;.;.;.l:;.;.;.;.;.;.;.;.;.;:;:;:;\   /-、{;:;:;:,.ヽ、                    いいや違う!笑うのは…

249 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/01(日) 00:45:01 ID:AONy67Rp
          r―-<_: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :丶、
          !::. : : : : :`丶: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\
        _,.イ'!::::. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ
     r'"´:::::::/:!::::. : : : : : : : : : : : :ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ
     |::::::::::::/::::!::::. : : 、: : : :ヽ、: : : : : \: : : \ : : : : i : : : : : : ヽ
     |:::::/:::/::::ハ:::::. : : \: : : : \: : : : : :\: : : ヽ: : : :!: :ハ : : ヽヽ
      |:::/::::f:::,イ ヾ::::.ト、: : \: : : : :\: : : : : :ヽ : : ヽ: : :!:.!:::}: : : :!: !
.    /::/:::::!::f::::! ヾ:::k \: :ヾ丶、: : : ヽ __,.,_: :丶: : :! : !Z_::!: : : ト、ヽ、
   /::::f:::::::!:::!::::! .,,_ヾ:ヽ  \ヽ、_,,.><"ゞ、: : : : ヾ: !: :ト、ヾ: : i :! `ーヽ
.  /::/!:::::::!:::!:::::ヽ, `Y::{   ヾ´ r',.ィ´o }\: : ヾ: :!: :ヒ_ ,〉 /: !
 //  l:::::::!::ト、::::::ヽ {弋ヾ、     ´、ゞ-‐'  ト、 !ヽ! lノ/ ./| /  
      !::::ハ::! ヾ::::::::!`¨´ j           |: :ヾ: : ,.ト' / ,イ.|/ この僕d
           _,.、-‐|:::゙:、   i'\:::::゙:::::::`ヽ、::::::::,.‐":::,.‐,、‐"   ゙、j   ,.、‐'":::::::::::::r'"`ヽ、
       ,.‐'"´:::::::::::゙、:::::\  i'  ゙'ニ-‐‐‐''''‐-、ノ:,.、‐"/      ヽ‐''":::::::::::::::::::::l"    `、
     ,.、'"::::::::::::::::::::::::ヽ:::::::ヽノ ,r"::::::::::::::::,.‐"〃        ,,..、-ミ\:::::::::::::::::: /゙      ゙
    r"::::::::::::::::::::::::::::::::r'゙、:::::/ ,i"::::::::::::::,.-"          ,.r==ニニヽ、ヽ、:::i::i::r-、
    i"::::::::::::::::::::::::::::::::/ r-ゝノV::::::::::::/  i     /,.  ,r''"´´~~``゙'ヽ、 }:i:i:i:/ ‐'ヽ
.   i"::::::::::::::::::::::::::::::::/ lゝ'"゙'/:::::::: /ヽ、  ゙、   /,r",.r''"_,.-‐‐- 、,    |:i:i:/‐'' "'l
   l::::::::::::::::::::::::::::::::::{  ゙ヽ、/:::::::/"''‐o=-、.,_j  ゙、{ ‐'" r" (・)   i゙   i':i:/ヽ‐、 /
.   l::::::::::::::::::::::::::::::::::::゙i  :::/:::::,イヽ、  ゙ ",..-‐'       、     ,.ノ   ,!::/ ) _/|
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       興味あるんでしょ?  この狂気と血に塗れたゲーム物語のけ・つ・ま・つ。

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