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アニメキャラ・バトルロワイヤル 作品投下スレ14

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/20(水) 20:30:01 ID:elZh7wSA
ここは
「アニメ作品のキャラクターがバトルロワイアルをしたら?」
というテーマで作られたリレー形式の二次創作スレです。

参加資格は全員。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。

「作品に対する物言い」
「感想」
「予約」
「投下宣言」

以上の書き込みは雑談スレで行ってください。
sage進行でお願いします。

現行雑談スレ:アニメキャラ・バトルロワイアル感想雑談スレ19
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1179940106/



【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」

 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAP-Cのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【バトルロワイアルの舞台】
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/34/617dc63bfb1f26533522b2f318b0219f.jpg

まとめサイト(wiki)
http://www23.atwiki.jp/animerowa/


947 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 01:04:47 ID:EVo4KtIJ
 

948 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 01:05:54 ID:TzvTHnSk


949 :答えはいつも私の胸に ◆7jHdbD/oU2 :2007/07/24(火) 01:06:08 ID:dWq4qFlu
「……ねぇ、有希。あたし、よく信じられないの。ううん、信じたくないんだと思う」
そんな弱音めいたことを吐いたのは、同じ体験をした有希だけが隣にいたからかもしれない。
「さっき、夢を見てたの。
 部室にキョンがいて、有希がいて、みくるちゃんがいて、古泉くんがいて、もちろんあたしもいて。それで、鶴屋さんが遊びに来るの。
 そんな、当たり前で楽しい夢、見てた……」
悔しさが、悲しさが、切なさが、空しさが、胸中で渦を巻く。
言葉が、出せなくなった。その代わりとでもいうように、涙が滲み出ていた。
涙が枯れるなんて嘘だ。全てが終わってベッドで目覚めたときに、あんなに泣いたのに。
まだ、涙は止まらなかった。
「あなたなら夢を現実にできる」
有希の呟きに、あたしの鼓動が一際大きく高鳴った。寒いのに、掌が汗ばんでくる。
あたしは、呆然と有希を見つめる。有希の視線は、真正面からあたしを捉えていた。
「古泉一樹とわたしの意見は一致する。わたしもあなたを信頼している。
 あなたは、わたしたちの団長。団長を信じるのは団員の役目」
「有希……」
「もう一度言う。わたしはあなたを信頼している。あなたが、過ちを起こしはしないと」
思わず呟く涙声のあたしに、有希は告げた。
そして黙ったまま、真っ直ぐ、あたしを見てくれていた。

◆◆

有希と別れて、あたしは当てもなく町中をふらふらと彷徨っていた。
目的があったわけじゃない。
ただこうやって町を歩いていれば、何かが見つかるんじゃないかって思ったから。
色々、回った。
商店街に図書館、野球場やファミレス。映画の撮影のときに訪れた、神社に溜池。駅と、駅前の喫茶店。
それだけ回っても、あたしの気分がよくなるようなものは全く見つからない。
それどころか、新しい場所に行くたび、心が締め付けられるような感覚は増していた。
思わず、溜息が漏れる。白く煙ったその息は、既に暗くなった空に溶けて消える。
次は何処へ行こうかと考えながら、あたしはとぼとぼと歩く。
疲れなんて感じない。もしかしたら、それを感じるだけの余裕がないのかもしれなかった。
一つになった、足音。あたしだけの、足音。
アスファルトを叩く、靴裏の音。こつりこつりと、響いて消える。
等間隔に並ぶ街灯が道を照らしている。だけどそれでも、闇を払い切ることなどできはしない。
むしろ闇に屈したかのように、目の前にある街灯は明滅を繰り返していて、消えてしまいそうだった。
「全く、情けないわね」
呟いて、街灯に触れる。すると息を吹き返したかのように、街灯は眩い光を放ち始めた。
あたしは、再び歩き始める。
本当に情けないのは、誰だろうと思いながら。

足音が、響く。こつり、こつりと、夜に響く。
どれくらい歩いたのかも、もう分からない。
ふと顔を上げれば、目の前には大きな建物があった。
門柱にある文字を見て、あたしは学校に戻ってきたことに気が付いた。
なんとなく校門を潜り、グラウンドに出る。
夜闇の中に聳え立つ学校。
その光景に、あたしは青い巨人の出てくる夢を思い出した。
ううん、あれは夢じゃなかった。

どうしてあの時、あんなにワクワクしたのか、ようやく理解できた。
きっと無意識に、分かってたんだ。
つまらない世界を壊して、もっと面白くて愉快な世界をあたしが作れるんだって、分かってたんだ。
でも、あたしはそうしなかった。

950 :答えはいつも私の胸に ◆7jHdbD/oU2 :2007/07/24(火) 01:07:37 ID:dWq4qFlu
アイツが、キョンが、あたしの手を取って引っ張ってくれてたから。
でも、もういない。
もう二度と、キョンはあたしを引っ張ってくれない。
あたしは、掌を眺める。冷え切った手に、キョンの温かさが蘇ってくるような気がした。

――また、あの温もりを感じたい。

あたしは、右手をそっと唇へと持っていく。
乾いた唇に触れると、キョンの唇の柔らかさが戻ってくる気がした。

――もう一度、あの感触が欲しい。

そっと、目を伏せる。
あたしが願えば、みくるちゃんは戻ってくる。
あたしが望めば、キョンは帰ってくる。

だけど。
あたしは、願えなかった。望めなかった。
だってそれは、裏切りのように思えたから。

キョンが死んだと知ったあのとき、暴走したあたしを止めてくれたみんなを。
あたしを信じると言ってくれた、古泉くんと有希を。
あたしの手を握って走ってくれた、キョンを。

裏切るように、思えたから。

伏せていた目を、開ける。そこには、変わらないまま佇む学校がある。
そこは以前、無意識のうちに、世界を作り変えようとした場所だ。
その記憶に流されて、心に生まれた虚無感に引っ張られて、意図的に世界を作り変えようとした。
それが過ちだと、学んだはずなのに。
それは逃げだと、教えられたはずなのに。
情けないのは、あたしだ。
分かっていたつもりだったのに、また過ちを犯そうとした。
「……ごめん」
届かないと分かっていながら、あたしはそう呟かずにはいられなかった。
あたしは、深く空気を吸う。
よく冷えた空気が、あたしの頭をクールダウンさせてくれる。

もう、止めよう。
泣くのも、悩むのも、逃げるのも。
そんなの、勿体ないから。
この世界を、今ある現実を、心から楽しまなきゃ勿体ないから。
あたしとキョンが共にいたこの世界なんだ。楽しいに決まってる。
楽しくなくても、絶対に楽しんでやる。

まずはその宣言を、今ここでしてやるんだから。

951 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 01:07:47 ID:TzvTHnSk


952 :答えはいつも私の胸に ◆7jHdbD/oU2 :2007/07/24(火) 01:09:08 ID:dWq4qFlu
あたしは、リボンを解いて髪を束ねる。
鏡がなくても、ポニーテールならきちんと結べる自信があった。
手早く髪を纏めると、あたしは体育倉庫へと走った。

鉄製の引き戸に、手を掛ける。中学のときのように周到な準備をしていないけど、鍵の心配はしなかった。
力を込めなくとも、引き戸は簡単に開いてくれる。
手探りで見つけた電気のスイッチを押してから、あたしは白線引きと石灰の袋を引っ張り出す。
石灰がいっぱいに詰まった袋は結構な重さだったけど、全然苦にはならない。
これは、あたしがやらなきゃならないことなんだから。

頭の後ろで、纏めた髪が揺れている。
それに心地よさを感じながら、あたしはグラウンドに白線で文字を書いていく。

バカキョンに分かるように、今回はちゃんと日本語で書いてあげるわ。

だから。
きちんと、見てなさいよ。
これからはずっとポニーテールでいてあげるから。

ずっと、ずっと、見てなさい。

――ありがとう、キョン。
――これからは、あんたの分までめいっぱい楽しんであげるから。
――だから、心配しないで。

                                 【アニメキャラ・バトルロワイアル 涼宮ハルヒの憂鬱 完】

953 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 01:09:42 ID:TzvTHnSk


954 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 18:54:55 ID:SiTQTbw2
 

955 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 18:55:59 ID:9qNWSpqQ
  

956 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 18:56:15 ID:P+5+eZNa

[Now -Will the scar on the mind remain forever?-]



「……帰ってきたんだ」

自分の家の扉の前。
最初に私が言った言葉が、それだった。
でも、言葉に感慨なんてない。気持ちはそれこそ曇天のように沈んでいた。

「どう説明すればいいのかしらね……」

歯を噛み締める。
あの子はきっと泣くだろう。
下手すれば藤村先生やイリヤまで泣くかも……いや、確実に泣く。
その覚悟ができていないから……私は、逃げている。
最初は衛宮邸に行くつもりだったのに、いつの間にか足は自分の家に向いていた。
ほんと、私は弱い。イヤになる。
いっそ無理を言ってでも連れてくればよかった。
話相手がいれば、少しは気分が紛れただろうに。

「Abzug Bedienung Mittelstand……」

陰鬱な気分に浸りながら鍵開けの呪文を口に出した。
すぐに靴を脱ぎ捨てて、寝室を目指す。できれば当分休んで気持ちを落ち着けたい。
けれど、それはなぜか……家の中から聞こえた足音に、止められた。

「え……?」

いったいどういうことか、考える時間さえない。
誰もいないはずの、その家に。

「もう、どこ行ってたんですか! 心配しましたよ」

エプロンをつけた桜が、本当に心配そうな表情で住んでいた。

957 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 18:56:52 ID:SiTQTbw2
 

958 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 18:57:10 ID:rtDw7lB1


959 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 18:57:16 ID:P+5+eZNa

「さ、桜……!? あんたなんでここにいるのよ!」
「? 何を言ってるんですか?
 聖杯戦争が終わってから、姉さんが家で住まないかって誘ったんじゃないですか」
「あ……え、え!?」

思考が更に混乱する。
姉さん。そう呼んでくれたら、どれほど嬉しいと思っただろう。
けど、日常的に呼んでくれるほどまでには……仲良くなんてなっていない。
そんな私の混乱を少しも気遣わないで、桜はのんびりと首を傾げていた。

「時計塔から推薦状が来てましたけど、何か関係有るんですか?」
「推薦状……?」
「ええ。姉さんは聖杯戦争を優勝したんですから、当然だと思いますけど」
「なっ……!?」
「……どうしたんですか?
 姉さん、本当に何かおかしいですよ……?」

本当に心配そうな顔で、桜は私の顔を覗き込んでいる。そこに、嘘とか遊びとか冗談とかはなかった。
けれど。私はそれに背中を向けて、入ってきた扉へ走り出していた。

「姉さん!? いったいどこに――」
「ちょっと……忘れ物……」

苦しい言い訳を告げて、靴を履いて走り出す。
強化魔術さえ使った自分の全速力で、広い庭を数秒も掛けずに突っ切った。
そのまま背中を確信めいた強迫観念に押されて、私はひたすら走り続ける。
流れていく風景にも気を止めず、息が上がるのも魔力が消耗するのも気にせずに。
優等生ぶるなんてことは少しもせず、一秒も休まないで私は走り続けた。
向かう先は、衛宮邸。

960 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 18:58:19 ID:P+5+eZNa

[Truth -Move the future -]



そうして、やっと私は立ち止まった。
目の前には、もう見慣れた門と塀がしっかりと聳え立っている。
感慨も感じる余裕も無く、息を切らせながら武家屋敷の門を開け、中へと足を踏み出した。
手入れが行き届いていたはずの衛宮邸は、所々に雑草が生え始めていた。
かと言って廃墟というわけでもない。せいぜい二ヶ月程度放置されたくらいだろう。

……二ヶ月。聖杯戦争が終わってから、ちょうど二ヶ月だ。

「来たのね、リン」
「……!? イリヤ!」

声が発せられたのは縁側から。
そこには白い少女が、のんびりと優雅に座っていた。

「だいぶ混乱してるみたいね。
 何があったのかは知らないけど」
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど。えっと……」

そう言ってみたはいいけれど、何を言えばいいのか分からない。
あまりにも分からないことが多すぎる。
そんな私を見て、イリヤはくすりと笑って……

「……シロウとリンに何があったのかは知らないわ。
 けれど、この世界に起きたことは知ってる」

真剣な口調で、話し始めた。

「ある事件が起きたわ。シロウとリンが、消えてしまう事件。そして帰ってきたのはリンだけ。
 けれどシロウが消えたのは、バーサーカーが死んだ後。そしてリンが消えたのは、聖杯戦争が終わった後なの。
 当然、矛盾が生じるわ。
 シロウがあのタイミングでいなくなったのに、シロウが最後までいた聖杯戦争の終わりを体験したリンは存在する。
 だから、世界からの矛盾の矯正が行われた。
 世界だって生きてるもの。矛盾は世界にとって傷みたいなもの。だから、傷を治そうと世界から力が働いたの。
 シロウ抜きで、かつ私達が行った聖杯戦争にもっとも近いような形に抑止力が歴史を作り変えた。
 だからリンはサクラを一人で助けて、仲良くなったことになって……
 家主が死んだこの家にはもう、誰も来なくなった。タイガさえ」

イリヤの最後の言葉は、少しだけ暗くて……私も知らず知らずのうちに、歯を噛み締めていた。
納得がいかない。いくはずがない。
私がやったことじゃない。私が頑張ったことじゃない。
けれど世界は何の変わりもなく流れ、それどころか私は士郎の代わりに色んな物を得てしまっている――
それでも。イリヤは顔を下げずに、明るい顔で続けていく。

961 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 18:59:21 ID:P+5+eZNa

「でも、安心したら?
 貴女はちゃんとセイバーに答えを教えられた。シロウと同じようにね。
 世界からのプレゼントだもの、いわば天からの贈り物。
 貰っておいた方がいいわ」
「…………」

答えはない。漏らした吐息は、少しだけ吹いた風にかき消された。
分かってる。返したって士郎が帰ってくるわけじゃない。
けれど……理解はできたって、納得できないことは、ある。

「……でも、だとしたらおかしいわよ。
 なんであんたは、両方の記憶をしっかりと持ってるわけ?」

だから、答えを受け入れなくて、そんな言葉を出した。
それが――より陰惨な答えを紡ぐものだとは知らず。

「……単純よ。矛盾を矯正するために、大聖杯が溜め込んでる魔力が少しだけ使われたの。
 だから当事者の貴女と清純な聖杯である私だけが、前の世界の記憶を保持することができた。
 あんな聖杯でも、少しは力になれたみたいね」

愕然とした。
イリヤの言っていることは、つまり。

「じゃ、つまり……あの聖杯、まだ残ってるって事!?」
「貴女の取った戦法は最善よ、リン……ま、世界が矛盾を矯正するために「取らせた」行動なんだから当たり前か。
 セイバーは私と契約させて貴女はランサーと組む。
 さすがの英雄王だって、二人がかりじゃ流石に負けの目も出てくる。
 鞘無しでセイバーが勝つには、それしかなかったでしょう。
 けれど世界が矯正したのは『あなたがいなくなるまでの』世界。
 つまり、未来のことを考慮に入れていない矯正だった」
「…………」
「記憶を探れば、思い出す……いえ、世界が思い出させるはずよ、リン」

イリヤの言葉を聞くまでもなく、脳裏に黒い光景が浮かんでくる。
薄暗い地下聖堂。そこにあったのは、聖杯の真実。
セイバーは遠い過去をおぼろげに思い出したかのような仕草の後、黒い聖杯を否定した。
凛とセイバーを片付けるように命じた言峰に、彼のサーヴァントの一人・ランサーが反旗を翻す。
自害しろという言峰の令呪。ランサー自身の槍がランサーを貫く瞬間、イリヤがセイバーに令呪を使いそれを阻止させる。
素早く凛と再契約したランサーに舌打ちし、言峰は英雄王にその場を任せて離脱した……イリヤという手土産を持ち出して。
撃ち出される宝具の雨と乖離剣。僅か二分の間に地下聖堂は崩壊し、戦場は地上へと移る。
そして、その後決着がつくまでに所要した時間は五分。
跡形も残していない言峰教会の前に膝を付くランサーとセイバー。それを英雄王が嘲笑い、慢心した瞬間。
凛の令呪が光り、ランサーにその宝具を通常以上の力で以って使わせた。
素早く英雄王は蔵に手をかけ、それに応えた鎖がランサーを束縛する。しかし、因果を逆転する槍は止まらない。
それでも自らの幸運により魔槍を回避した英雄王が見たものは……自らの鎧を斬り砕く『約束された勝利の剣』。
英雄王は最期まで愉悦の笑みを浮かべたまま消え、消耗しきったセイバーとランサーもまた凛に後を任せて消えた。

『大丈夫ですよリン。
 私もこれから、頑張っていきますから』

そう言うセイバーの笑顔が、頭に浮かんでくる。
……そして、言峰は聖杯を起動させて。そこから。

962 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 18:59:35 ID:e4R+eBBs


963 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:00:24 ID:P+5+eZNa

「リンはサクラの力を借りて、コトミネを倒した……圧巻だったわ。
 二人とも凄い息が合ってて、あいつを相手にさえしなかったんだもん。
 けどサクラと二人がかりでも、貴方達は聖杯を破壊できなかった……仕方ないけどね。
 だから、私を助けただけで聖杯は放置された。蓄えられた魔力を使うことなく。
 十年経てば、起こらなかったはずの第六回聖杯戦争が始まるでしょうね。いえ、もっと早いかもしれない」

イリヤの言葉に、私は俯いた。
どこまで私は間抜けなんだろう。
結局、世界だとか抑止力だとかそんな神様じみたモノに後押しされても、私は士郎のように出来なかったんだ。
しばらくして、私はゆっくりとイリヤに背を向けた。

「どうするの、リン?」
「決まってるわ。準備するの。
 きっちり優勝した後、あの聖杯を今度こそぶっ壊す。
 士郎が出来なくなっちゃったことは、私が必ず……」

風に髪をなびかせて、私はそう断言した。
だって、そうするしかない。
聖杯戦争を頑張って勝ち抜いたのはアイツだ。
私に優勝者としての栄誉なんて受け取る資格はない。私が努力して手に入れたものじゃ、ないから。
だけど、返すことなんてできない。返しようがない。
こんな方法でこんな栄誉をアイツから奪ったって、ただ腹立たしいだけなのに。
そもそも、今こうやって桜と話せているのも、私が頑張っているからじゃない。
アイツが死んで矛盾が生じた結果、それこそ棚からボタ餅のようにこんな結果が手に入っただけ。
貰える物は確かに貰う主義だけど。こんな貰い方なんて、しても嬉しくなんかない

だから――貰ったぶん、ちゃんと違うものを私の手で返さないと――

「イリヤはどうするの? なんなら私の家に……」
「……家族は一緒にいるものよ、リン。貴女とサクラが一緒になれたように」

そのか細い、どこか悟ったような声で、やっと私は気付けた。
どうして、今まで気がつかなかったんだろうとさえ思う。
彼女の様子は、まるで死期を悟った動物のようだと。

「私は、長くない。
 だからせめて……家族が過ごしてた家で最期を迎えたいかな……」

イリヤの声は、私じゃなく遠くに向けられていた。
私の喉まで上がってきた声は、言葉にならずに息として漏れる。
もし世界の矛盾矯正のために聖杯の力が使われたと言うなら。
その聖杯の器であるイリヤの体は……もう限界なんだ。

「……っ」

また、失うものが増える。
けれど、私はイリヤに挨拶をして、しっかりと歩き出した。
支えてくれる、人達がいる。支えてくれた、人達がいる。
それなのに立ち止まってしまうのは……きっと彼らに、失礼だ。

「エミヤくん、私ね――」

ちょうど衛宮邸の敷地を出たところで、またひとしきり風が吹いて。
それに釣られるように空を見上げ――彼の名を呼んで、誓いを立てた。

964 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 19:01:23 ID:e4R+eBBs


965 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 19:02:22 ID:9qNWSpqQ
 

966 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:02:33 ID:P+5+eZNa

[Battle -The decisive-]


最後の、戦いだった。
闇の書内部空間。薄暗いそこで行われていた戦いは、
衛宮士郎と言峰綺礼の戦い、アルトリアとギルガメッシュの戦いと酷似していた。

紅の鉄騎の動きは、どこまでも機械的。
故に……彼女が撃ち出した鉄の燕には容赦も油断も傲慢もない。
同時に凛が返したのはディバインシューター。まるで贋物のような拙い魔弾は、たった一つさえ撃ち落とせない。
まるで出来損ない。精度が違う。技術は未熟。威力は劣化。魔力は遠く及ばない。

それでも――それでも、膝は折らなかった。

回避し、防ぎ、受け続け。それはいったい何度目の攻防か。
ついに十羽ほどの燕が直撃した。いや、直撃ではない。砕かれたのは夫婦剣。
体勢を崩さえ、吹き飛ばされながら、それでも赤色の防御壁に覆われた凛に傷はない。
それを飲み込もうとするかのように、三十羽にまで増えた鉄の燕が飛翔する。
刹那――燕の目前に比類なく美麗な黄金剣が立ちふさがり、爆発した。
幻想はより強い幻想の前に敗北する。壊れた幻想は燕を一つ残らず砕き、天井までも、空間までも砕きゆく。
凛は破壊の痕を見ない。天井も見ない。
爆破に続いて撃ち出され、地に突き刺さって輝く幻想だけを見た。
素早く駆け寄った凛が鞘から剣を抜き放つ。
逃すまいと、紅の鉄騎の武器が巨大化する。振り下ろされたそれを、鞘が輝きながら阻む。
否、輝くのは鞘だけではない。
魔術刻印に刻まれた「魔法」。その業を以って、凛は聖剣に魔力を集束させる。

黄金剣の名を、カリバーン。失われた騎士王の剣。
鞘の名を、アヴァロン。全て遥か遠き理想郷。
魔法の名を、スターライトブレイカー。星の名を冠する魔法。
聖剣の名を、エクスカリバー。星に鍛え上げられた神造兵器。

まばゆい星の光が、あたりを包み込む。
その光を見てやっと、凛はあの英霊の真名を知ったのだ。

967 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:03:58 ID:P+5+eZNa

[6 years after -Fate/stay night-]



「あー、肩こった」

腕を回しながら、私はそれなりに立派な感じの建物を後にする。
あれから、私はたまにミッドチルダとの間を往復しながら時計塔を卒業、一人前の魔術師として認められた。
その後は時計塔に自分の研究室を構えながら、たまにミッドチルダで研究者としての仕事をこなしている。
ミッドチルダでは私の世界の資料はそれほどないらしい。まあ、こっちの魔術師の基本は神秘を隠匿することだから当然か。
おかげで、第三魔法と異世界の転移を絡めれば研究することなんて腐るほどあった。
そして今日もまた、ちょっと色々と発表してきたところというわけだ。

「あんまり遅れるとリイン達が文句言うしね……」

風景はもうとっくに夜の闇に染まっている。
あくびをしながら、外で待っているだろう彼女達のところへ歩き出した。
だけど、待っていたのはリイン達だけじゃない。そこに、同業者がいた。

「あら、ユーノじゃない? どうしたの?」
「やあ、凛。たまたま僕も出席したからね。ついでだから一緒に帰ろうと思って」

車の前でリイン達と一緒にいたのは、女の子みたいな顔の美少年。
彼はユーノ・スクライア。無限書庫の司書長だ。
研究者として私の同業者であり、様々本を貸してくれる協力者であり、私の世界の内容を記した本を売る商売相手でもある。
手を上げて挨拶した私に、横からリインが口を出した。

「遅かったな」
「あ、リイン。待ってた?」
「それなりに。それより凛、周囲の反応はどうだった?」

リインは未だに私をマイスターと呼ばずに凛と呼ぶ。
いつかマイスターと呼ばせてやる、というのが私のささやかな野望だったりする。

「そこそこってとこかしら。
 ま、第三魔法を絡めればなんでもウケるってわけでもないわね、当たり前だけど。
 根本的に違う部分も多いから、結構現実離れしてるところも多いし」
「謙遜するなあ。
 君の発表した理論のおかげで管理局の仕事がすごいスムーズになるって話じゃないか」
「そうなんだけどね……」

とりあえず車に乗りましょ、と告げて私は車の鍵を開けた。
皆が乗り込んだのを確認して、エンジンを掛けて走り出す。
周囲はもう夜。夜景を視界に捉えながら、私はアクセルを踏みつつ会話を続けた。

「あれは第三魔法の理論のほんの一部だけをミッドチルダの魔法に転用したものに過ぎないわ。
 私ができたのはあくまで異世界の管理だけ。まだ並行世界の管理の手前なのよ。
 ミッドチルダの技術じゃ完全に違う世界には行けても、
 この世界ととてもよく似通った、けれど少しだけ違う世界には行くことはできないでしょう?
 そういう点では私の研究はまだまだ終わってないの。大師父が私の前に現れてないのがその証拠。
 ……ま、異世界に行ける時点でじゅうぶん「魔法使い」なんだけどね。
 それより、そっちの研究はどう? 確か、ロストロギアの研究って聞いたけど」
「まずまず、ってとこかな。
 君の教えてくれた宝具って存在は非常に参考になったよ」

968 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 19:04:27 ID:e4R+eBBs


969 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:05:11 ID:P+5+eZNa

ユーノは魔法ではなくそういった古い遺跡とか物の研究をしているらしい。
宝具とかそういったものは、彼にとってそれこそ宝物のようだ。
とある執行者に現存する宝具を見せてもらったときは、彼はそれこそ子供みたいに大喜びだった……いや、子供だけど。
だからなんだろうか。
ここまでやたら学術的な方向だった会話は、急に日常的な方向に変わり始める。

「その時はリインフォースにも手伝ってもらったっけど、まだあの頃は小さくはなかったなぁ」
「そういえばそうねぇ」
「…………」

過去を懐かしむように笑顔で言ったユーノに釣られるようにして、思わず私も笑い出す。
フロントミラーを見れば、後ろでリインが頬を膨らませている。そのサイズは私よりずっと小さい。
そう、リインフォースは最近小さくなった。
まるで妖精みたいなサイズで周囲を飛び回るし、容姿も幼い。無愛想だけど。
その理由は魔力消費を抑えるために普段は体を小さくするようにした、とか。
なんだかんだ言って私を気遣ってくれてるみたいだ。
まあ、当然と言えば当然か。ことあるごとに彼女は、私があんまり情けなくて放っておけないから残ったのだ、とか言うんだから。

「アルフだって魔力消費を抑えるために姿を変えただろう。
 私もそれに倣っただけだ」
「でも、小さいリインとそっくりなのはどうかなぁ……」

むくれたリインに、ユーノは顔を後ろに向けながら言葉を返した。
後部座席にいた女の子は二人。
リインの脇にいるのは、小さくなったリインとそっくりで大きさの女の子。彼女もまた、デバイスだ。
リインフォースは、暴走プログラムと共に失われた魔法を時間と共に少しずつ確実に使えるようになってきた。
それはミッドチルダ式だったりベルカ式だったり守護騎士プログラムだったりバラバラだけど、着実に回復したものは増えてきてる。
けど、修復のめどが立ってないものもまた多い。融合機能もその一つ。
小さいリインことリインフォース・ツヴァイは、それを補うために作り出されたユニゾン・デバイスだ。
逆に言えば初代の方はデバイスとしてはそれほど機能できていないため、実質的には使い魔のような状態だということも意味している。
魔力消費を抑えるようにしたのは、実は本人がそれを気にしているからだったりする。

「私からすれば双子みたいで嬉しいのですよ〜、お姉さま」
「お、お姉さまと言うのはやめろと言っただろう!」
「じゃあお姉ちゃん」
「なぜそうなる!?」

車の後部座席から聞こえてくるほほえましい言い争いに、思わず私もユーノも笑っていた。
二人はほとんど同じ容姿なのに性格はぜんぜん違う。
初代リインの方はぶっきらぼうなのに、リインUはとても素直で可愛らしい。
……まあ、感情が豊かなのはどっちも同じだ。
その証拠に、初代の方は言葉とは裏腹に頬を真っ赤に染めている始末。
そもそもUは妹みたいな感じで作って欲しい、なんてことを言い出したのは初代本人だったし。
私が笑っているのに気付いたのか、初代リインは私の方に矛先を向けた。

「よそ見するな、こちらを見るな! 運転中に危険だ!」
「いやあ、僕だったら運転しててもこんな光景は見逃さないよ」
「あ、やっぱりユーノもそう思う?」
「……ぐ」
「お姉ちゃん、落ち込んじゃ駄目なのですよ。そんなお姉さまもかわいいです」
「……せめて統一してくれ」
「ほんとちびリインには弱いわよね〜、リインって」
「…………」

970 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:06:11 ID:P+5+eZNa

あくまめ、などと初代リインが呟いた……その瞬間だった。
突如爆音が響き、炎が舞い上がる。
思わず反応して振り向いた先にあったのは、真っ赤に炎上している空港だ。
そして鳴り響く警報と、何かの魔力反応。そして慌てて飛んでくる管理局員。
私はすぐに事態を把握した。すぐに車を停止させて、外に出る。

「ちびリイン、貴女は皆を呼んで。そっちの指揮は貴女に任せる。
 リインは単独で行動、現場の隊長の許可を取った後消火に務めて頂戴。私は中の要救助者を救出するから!」
「はいです、凛ちゃん!」
「了解した!」

命令を出しながら、素早く私は赤い宝石を取り出してバリアジャケットを纏った。
同時にリインが本来の姿……私と同じくらいの女性の姿に戻る。
二人が飛び立ったのに遅れて私も行こうとした矢先。
ユーノの声が、私を止めた。

「二人に任せて君は休んだほうがいい。さっき色々と仕事してきたばっかりじゃないか」
「これでも管理局の予備役やってるのよ、私。行かないわけにはいかないでしょう」
「……よく体が持つなあ」
「だからリインやヴォルケンリッターがいるのよ。冬木の管理は桜に任せてるしね」
「でも、君は並行世界の管理って魔法を目指してるんだろ?
 予備役は関係無いと思うんだけど……」

思わず、立ち止まる。
ユーノの言葉はもっともだろう。
二兎を追うものは一兎をも得ず。遠坂家の宿願は、寄り道をしながら得られるほど容易くはない。
……けれど。それでも、私はもう一つの方も追い求めたいんだ。
父さんから受け継いだものと同じくらい、大切なものだから。

「本当の目的はね。
 けど、死んじゃった人達から、モノを色々と貰うはめになっちゃったから」

それは、その人が頑張った結果とか。
その子が大切にしていた杖とか。
彼らが頑張って作り出した、魔法とか。

「……ムカつくのよ、そういうの。等価交換じゃないもの。
 そんな理不尽な貰い方して貰ったモノの分は、ちゃんと返さないと。
 だから……望んでいた夢も、叶えてやってもいいって思った」

自分の――遠坂家の宿願を捨てたわけじゃない。
けれど彼が求めた夢も彼女が持っていた意志も、魔法使いになるのと同じくらいに簡単に手に入るものじゃない。
それは自分の力を人を守るために使うという、強い心だったり。
――正義の味方という、夢物語だったり。

「それに、もうしばらくすれば私の街が大変なことになるから。
 次の聖杯戦争に備えて間桐の蟲爺が何かやってるみたいだし、
 桜がふわふわ浮いてる変な機械を見かけたって言ってたし。
 それまでにできるだけ実力を付けておかないと、アイツを召還した時に笑われちゃう」

971 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 19:06:51 ID:e4R+eBBs


972 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:07:14 ID:P+5+eZNa

あの中で気付いたのだ。聖杯戦争で私の呼べる英霊は一人しかないことに。
遠坂凛が呼ぶのは、あの赤い英霊以外に在り得ない。だって、あいつはアイツだから。
だから、今度はミスをしないでしっかりと呼んでやる。そうして……伝えたい。
ユーノは以前私から聖杯戦争について聞いているからか、私の言葉に疑問を挟む事はしなかった。
代わりに。いつの間にか、スーツからバリアジャケットに着替えていた。

「ユーノ?」
「僕も手伝うよ。
 これでもヴィータから逃げ切れた身だからね、戦力にはなれると思う。
 僕の役割は背中を守ることだって、なのはと一緒にいて分かったからね」
「……うん、頼むわ。ちびリイン達の援護、お願い」

二人の後を追うようにユーノが飛んでいくのと、。私が愛用のデバイスに魔力を逃しこんだのは、ほぼ同時。
すぐに、赤い宝石は桜色の魔杖に形を変えた。
黄金に光る先端が、周囲に煌く星の光を反射する。

「久しぶりの実戦、いけるわよね?」
『All right, my second master』
「よし――飛ばすわよ!!!」

愛杖の答えに笑みを浮かべて、私は夜空へと飛び立った。
空港で起こった事件を、解決するために。
これから私の知りうる範囲で起こっていく事件を――解決していくために。


いくら手を伸ばしても、掴めないものはある。
……それでも、届かなくても胸に残るものがある。
同じ時間にいて、同じものを見上げた。だからこそ、覚えているものがある。
今は走り続けようと思う。一人じゃなくて、みんなと一緒に。
そうすれば、彼らが目指していたものも、きっと――

973 : ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:08:16 ID:P+5+eZNa

[an epilogue -Starlight-]



これは、世界のほんの片隅のお話。
人間が短い生の間に紡いだ、星から見れば塵のようなお話。

――Withstood pain to create weapons. waiting for one's arrival.

数人が欠けたところで、世界には何の矛盾も起こらない。
正義の味方も魔術師も、星の少女も消えはしない。ただ一人の少女が兼任することになっただけ。
だから世界にとって、それはただその程度のお話だったけれど。

――I have no regrets.This is the only path.

少女にとっては、とても、冷たくて、大きくて――忘れても変えてもいけない、お話で。

―――My whole life was “unlimited blade works”.

だからその体はきっと……無限の思いを継いでいた。



Fin

974 :After2 -夢の続き- ◆2kGkudiwr6 :2007/07/24(火) 19:09:24 ID:P+5+eZNa

――後悔はある。

エミヤシロウの身勝手な夢を、大切な師であり友人である相手にまで付き合わせてしまった事が腹立たしい。
エミヤシロウとは自分の都合で親密な人さえ道連れにするものかと、憤ったこともある。
けれどその姿を見届けるうちに、思いはじめたのだ。
彼女の強い意志と、彼女が新たに得た仲間たちなら……遠坂を磨耗させることなく、オレの夢を追わせてくれるではないのか、と。

そう。
オレは、間違っていたセイギのミカタだ。所詮、オレはフェイカーだ。
けれど、彼女と言う真作を作る糧となれたのなら、オレは――

彼女は笑っていた。
使い魔をからかいながら、その反応を見て友と一緒に楽しそうに笑っていた。
彼女が冗談に付き合えるだけの余裕があるのが、嬉しい。それは、彼女が彼女自身も救えているという証だ。
彼女は、ただ正義を求めるだけのロボットになんて、なっていない。オレとは違う。

だからきっと――彼女なら、きっと大丈夫。
贋作から真作を生み出すことができたのなら、オレも間違えてなどいなかったのだと自分の胸を張れる。
今のオレの願いは、一つだけ。それは決して自分殺しなどではない。
それは、夢の続きを見ること。
本物の正義の味方が存在する、遥か遠き理想郷を夢見て。
アルトリアが、安らかに夢の続きを見ていることを願い。
無残な敗残者は勝利者を信じ、英霊エミヤは独り赤い剣の丘で静かに眠ろう――


This is un epilogue. It's an answer.

975 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:00:36 ID:QGJX0yOo

 あたしが持ってるでっかい銃は、神様から奪い取ったものさ。
 正義なんて吐き気がする。あんたさえいればそれでいい。
 頭に輪っかはないけれど、あたしはあんたの天使様。
 あんたがどんな野郎でも、今はあんたをやっちまいたくなるよ。
 すべてはあんた次第だよ。死なないヤツなんて居やしないんだから。
 地獄の業火よ、ブタどもを焼き尽くせ、ってな。
 生れ落ちてからというもの、あたしにとってこの世は常に地獄だったよ。
 たとえ奴等がどんな人間だろうと、あたしは全部やっちまいたくなるのさ。

 跪きな、出来のいいオツムが乗っかってんだろ。
 仲間のためを謳うなら、地の果てを目指してみなよ。
 全部差し出して、思うがままにやってみな。
 あたしがあんたの苦痛を消し去ってやるからさ。

 神に祈るなんて無駄なのさ。だからあたしは銃を手放さない。
 自分自身のために、躊躇無く引き金を引けるぜ。
 これは単なるビジネス、女々しいブタに割く時間なんてないよ。
 セイレーンが死の歌をあんたに歌ってくれるだろうさ。
 考える必要なんてないだろ? やるかやられるか、だぜ。
 泣こうがどうしようが、現実は変わらないのさ。
 あたしには鋼の意志がある。あたしの行く手を邪魔するなよ。
 人生の貸し分は全部返してもらうのさ。弱さなんてしゃぶって捨てちまえ。

 キリスト様の後光が差すこの腐った世界で、あんたは下手を打ったんだ。
 運の無い野郎だね。あたしの側から見てごらん。
 燃える炎が照らし出す、力と武器が真実さ……それがすべてだよ。


                                    MELL「Red fraction」より



 ◇ ◇ ◇



976 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:01:38 ID:QGJX0yOo
 ――あのブラッド・パーティーから、数週間が過ぎた。
 一方的に招待状を突きつけられ、参加を余儀なくされた傍迷惑なゲーム。
 俺はその数少ない生還者の一人として、元の暮らしに舞い戻ることができた。
 そう、このロアナプラに。

「ペプシを一本」
「この街でガキの飲みモン買うたぁ珍しいな。なんだ、禁酒同盟にでも入ったか?」
「俺が飲むんじゃないよ。仕事……いや、趣味の一環みたいなものさ」

 犯罪都市ロアナプラ。タイの一角に聳えるこの街は、世界政府が黙認して然るべき悪の巣窟だ。
 酒、女、銃弾、麻薬、罵詈雑言……ハードボイルドを売りにしたハリウッド映画には付き物の単語が、安売りのように飛び交う。
 俺は、少し前までは日本のしがない商社マンだった。死体の腐臭とも、引き金の重みとも無縁の生活を送ってきた。
 それが一転して、今じゃ立派な悪党の仲間入りだ。どう人生を転んだって、こんな顛末を辿る人間はいない。
 それに加え、最近じゃあ次元間規模の殺し合いまで経験してしまった。
 人生経験は富みより貴重と言うが、あんな地獄は二度と御免だ。
 もし第二幕を開こうとしている人間がいるなら、俺は飛んでいってでもそいつを殴り倒す。

 ……そうだ。人間は変わる。
 善人が悪人に、悪人が善人に、俺が突如としてトリガーハッピーになる未来だって否定できない。
 ただ、限度はある。いくらなんでも、スーパーマンがゴジラと協力してNY市街を破壊するなんてストーリーは認められないだろう。
 なら、俺は?
 商社マンが悪人の街で暮らし始めたとして、俺はどこまでブラックに染まることができる?
 たまにゃ御法に触れることもする――俺がラグーン商会に飛び込む際確認したのは、たったそれだけだった。
 あのとき俺は、悪人と善人の境界線に、つま先を踏み込んだ程度の覚悟しか持ち合わせていなかった。
 人は生まれながらに良心を抱いている。それがどこで磨耗し壊れるかは、生き方しだいだ。
 俺はどうだ? 俺はまだ、あまっちょろい悪党見習いか? 銃も撃てない偽善者か?
 ガルシア君に同情し、双子の幸せを願い、そしてあの世界ではクソッタレジジイを殴り飛ばしたいと心の底から願った。
 今の俺は、レヴィという名のお守りを失ったやんちゃな赤ん坊だ。
 親の目から離れた赤ん坊がどんな人生を送るかなんて、子持ちじゃなくても想像できる。

 ただでさえ、ここはロアナプラなんだぜ?
 どんな生き方をするのが一番利口か、いいかげん理解しようぜ。
 なぁ、ロック――――。


 ◇ ◇ ◇



977 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:02:43 ID:QGJX0yOo
 昼。ロアナプラ市街のある一角。
 住人不在の廃棄されたボロ屋の入り口に向けて、ワイシャツにネクタイで身を固めた青年が歩を進めていた。
 傍目から見て、就職活動に繰り出す大学生か訪問販売に出たセールスマンの印象を受ける。が、どちらもこの街では異質な存在だ。
 元の世界に戻ったとて、彼のファッションに特に変化はなく。
 今は亡き相棒が残したあの悪趣味なアロハでさえ、住まいのどこかに眠っている。
 ホワイトカラーは彼の代名詞でもあり、お気に入りだった。

 一缶のペプシと未開封のマイルドセブンを一箱持って、ロックはボロ屋の扉を開く。
 この貧相な建物は、彼の所属するラグーン商会のアジトではない。縁も所縁もない空き家である。
 だというのに、我が家に帰るような様子でそのボロ屋に入室したロックは、中を見て思わず目を疑った。

 ロックの帰りを出迎えたのは、数にして三人。男が二人、女が一人。
 色の濃いサングラスにスキンヘッド、屈強な筋肉をこれでもかと誇示する大柄な黒人の名は、ダッチ。
 線の細い体つきに、ぼさぼさの髪型。陽気なアロハシャツを携えた無精ヒゲの男の名は、ベニー。
 ダッチとベニー。二人とも、ロックと同じラグーン商会のメンバーである。
 そして、もう一人。
 ボロ屋を支える支柱の一つに荒縄で身を縛られ、むくれっ面を見せる少女がいた。
 歳は10かそこら。おそらくはルーマニア系。容姿は変態が好みそうな整った顔立ち。
 この少女に、名はない。

「……ダッチ、今すぐその子の縄を解くんだ。その子は俺たちを襲ったりはしない。そうならないよう教育されているんだ」

 ロックは若干青ざめた顔で、仕事仲間であるはずのダッチにそう語りかけた。
 その表情からは、どこか警戒心のようなものが窺える。周囲一帯の空気も、妙に張り詰めているようだった。

「だろうな。俺がふんじばろうとしても、このガキまったく抵抗しなかった」
「なら――」
「だがなロック。事はそういう問題じゃねぇんだ。こいつが俺たちに危害を加えなくても、火の粉は降りかかる。
 厳密に言うと、このお嬢ちゃんと、このお嬢ちゃんに構ってやがるテメェが原因でだ」

 ロアナプラの住人といえば、気性が荒く、敬語も満足に扱えぬような荒くれ者ばかりだ。
 そんな荒くれ者どもの中でも、ダッチは極めて稀な、良識人の部類に入る。
 無闇に罵声を飛ばしたりはせず、いついかなるときもクールに物事を進める。
 そんなダッチが、声に明らかな怒りを含めてロックと対峙している。

「……重々承知のうえさ。だからこそ、この件はダッチにもベニーにも話さなかった」
「いいや、わかっちゃいねぇなロック。おまえがこのお嬢ちゃんを匿うってことは、俺たち全員の問題だ。
 ただでさえ、相手にしてるのは世界で一番おっかない女なんだぜ。睨まれただけで卒倒もんのな。
 奴等はガキの悪戯を小事とは考えねぇ。吐き捨てた唾が、そのまま戦争の引き金になっちまう。
 根っからのソルダートなんだよ。いつもの調子で善意を働かせてるってんなら、とんだ筋違いだぜロック」

 説教……いや、これは忠告だった。
 これ以上先に足を踏み入れてはいけない、おまえはボーダーラインのギリギリに立っているんだぞ――という、ダッチの仲間に対する思いやり。
 それを正面から受け止めてなお、ロックの決心は揺るがない。そもそも、こうなることは想定していた。
 ダッチにもベニーにも頼らず、自分一人でここまで事を進めてきたのは、今回のゲームに味方は望めないと覚悟していたからだ。

978 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:04:03 ID:QGJX0yOo
「……ダッチ。あんた、人を殺したことはあるか?」

 緊張感の続く視線を介し、ロックがふとそんな質問を投げかけた。

「そりゃなんのジョークだ? この街の住人にそんなこと訊くなんてなぁ……『足し算はできるか?』って訊くくらいクソのつまらねぇ質問だぜ」
「ダッチ、俺は答えが欲しいんだ。それがおもしろい、つまらないなんてのはどうだっていい」

 ロックのいつにも増して真剣な様相に、ダッチは笑いかけた口元をキュッと閉ざす。
 ――趣味に没頭するときのロックは、いつだって本気だ。そんなことはとっくの昔に知っている。

「……答えはイエスだ。相手のどてっ腹に風穴開けたこともありゃ、RPGで脳漿ブチ撒けさせたことだってある」
「そうか……そうだな。やっぱりあんたは、こっち側の人間だ」

 一言二言交えると、二人はそのまま黙り込んだ。
 睨み合うでも掴みかかるでもなく、ただ何も語らず、同じ空間に存在して己を保っている。
 静寂は人を殺す。何もしない、何もしようとしない静けさは、他者には理解できない。仲間でさえ。
 ロックはただ、その場に佇んで考え事をしていた。必死なまでに。

「……腹が減ったな」

 不意に、ダッチがそんな言葉を口にする。

「ベニー、そろそろ昼時だ。後のことはおまえに任せるぜ。なにせ、『カオハン』のチャイナ・ボウルは売り切れるのが早い」
「了解。ロック、僕らはピザでも頼もうか。ランチを取るにはちょいとばかし埃っぽい場所だが、外で食べる気分じゃないだろ」

 腕時計の短針は、昼時を告げていた。
 二人の狙いすましたかのような提案に息をつきながらも、ロックはボロ屋を出ていくダッチの背中を見送る。
 続けて、ベニーがピザ屋に電話をかけに外に出ている間、ロックは柱に縛られた少女の拘束を解いていた。
 ロックの身長の半分ほどしかない低い背丈、乱雑で手入れの後も見受けられない栗色の髪。
 顔立ちは見事だが、育ちはよくなさそうな――少女からは、そんな印象を受けた。

「ごめんな、痛かったろう? さぁ、これで自由に――ぶふぇ!?」
「――畜生! あンのクソオヤジ、人が抵抗できねぇのいいことにやりたい放題やりやがって!
 あの命令がなかったら、今ごろケツ穴増やしてヒィヒィ言わせてやるところだぜ!」

 拘束からの解放と同時に、ロックは自由になった少女から、八つ当たりの鉄拳を貰い受けた。
 歳不相応な、それでいてロアナプラの住人としては花丸を上げたい出来の罵声が、ナチュラルに飛び出す。
 血に飢えた瞳と、血色のいい溌剌とした表情。ロックは、少女にある女性の面影を重ねながら――改めてこう思った。
 ああ、似ているな、と。

「……お怒りはごもっとも。今回は俺の仲間が悪いことをした。だけど、とりあえず胸ぐらを掴むのはやめてくれないか?」
「あぁ!? そりゃなんの冗談だ? 
 ロック、あんたにゃ感謝してるがよ、今のあたしはテールライト並みに真っ赤っ赤になる寸前なんだ。
 今すぐあのスキンヘッドにブチ込みてェ気分だが、あいにく命令違反になるからそれはできねェ!
 なんだったら、このままのボルテージで『ホテル・モスクワ』に突攻してやっても…………痛ぅっ!?」

979 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:08:13 ID:tCDMTvrC
 

980 :名無しさん@お腹いっぱい。::2007/07/24(火) 23:08:19 ID:syaOX2Cj


981 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:09:52 ID:QGJX0yOo
 ロックの胸ぐらを掴みながら息巻いていた少女が、急に悶絶し痛みを訴え始めた。
 腹部を押さえている様子から見て、どうやら怪我をしているらしい。

「言わんこっちゃない。君は怪我人なんだから、もう少し大人しく――」
「るせェ! 大人ぶるンじゃねェよこのホワイトカラーが! もういい、知るか! あたしは出ていくぜ!」
「あ、おい!」
「ついてくンな!」

 ロックの制止を振り払い、少女はぶっちょう面をさげたままボロ屋を出て行ってしまった。
 追い縋ろうとした手が虚しく引っ込む中、入れ違いに戻ってきたベニーが、目を白黒させてロックに尋ねる。

「彼女、勝手に行かせちゃっていいのかい? 匿っていたんだろう?」
「……あとで、探しに行く」

 やれやれと頭を俯かせながら、ロックは盛大に溜め息をついた。


 ◇ ◇ ◇


 男二人、チーズ特盛のミックスピザに食らいつきながら、会話を進める。
 と言っても、会話はベニーが尋ねてロックが答えるだけの質疑形式。
 ロックが独断で行った今回の一件については、ダッチもベニーも深くは関与していない。
 が、見過ごすわけにもいかないのが厄介なところ。それゆえの質疑である。

「彼女がどんな境遇に置かれている人間で、誰を敵に回しているか、どれくらいまで把握してるんだい?」
「……全部、知っているさ。その上での覚悟だ」
「だとしたらロック、君はとんだ大バカだ。赤ん坊を庇いながらケサン基地に乗り込む母親がいるとでも?」
「いない、だろうな。このまま抗い続けたら、俺には遠くない未来、ミートパテになる運命が待っている」
「そこまでわかっていて、なぜ? 同情かい?」
「……」

 ロックの言葉が、不意に途絶える。
 ややあっても答えは返ってこず、ベニーが再度言葉を紡いだ。

「ロック、もし君が双子のときのやり直しをしようとしているなら――悪いことは言わない、手を引くべきだ。
 人食い虎を元の温厚な子猫に戻すなんて芸当は、どんなに優秀な調教師だって不可能なんだよ。
 ましてや、眼前では野生の獅子が見張ってる。綱渡りなんてレベルじゃない、信念を貫くにはリスクがデカすぎる」

 ベニーの忠告を受けて、ロックはまた沈み込んだ。
 食べかけのピザを手に持ったまま、俯いた視線をひび割れた床に向ける。
 数々の逆境を乗り越えてきた彼からは想像もできないような、陰気な面構え。
 彼女なら、見かけた途端に殴り倒していたかもしれない。

「彼女、ベレッタを使うそうじゃないか。それも二挺拳銃(トゥーハンド)」

982 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:10:53 ID:tCDMTvrC
 

983 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:11:09 ID:QGJX0yOo
 ベニーは残り1ピースとなったピザに手をつけながら、小さな声でそう囁いた。

「ロック、これは僕の勝手な憶測の上に、君のプライドを傷つける要因にもなりかねないが……言わせてもらう。
 彼女をレヴィの後釜にしようとしているんなら、諦めるんだ。
 君がどれほどレヴィのことを引きずっているかは知らないが――」
「それは杞憂だよ、ベニー」

 ぽてっ、と。ロックが手にしていたピザのひとかけらが、埃塗れの床に落ちた。
 ロックは静かに立ち上がると、「あの子を捜してくる」とだけ言い残し、ベニーには一瞥もくれずボロ屋を出て行こうとする。
 ベニーには、その思いつめた背中を見送ることしかできなかった。

「あぁ、そうそう。一つ聞き忘れてた」

 去り際、ロックが振り返らぬままベニーに質問を投げかける。

「ベニー、あんたは人を殺したことはあるかい?」
「……あいにく、他人の眉間に鉛玉をブチ込む趣味は僕にはない。
 だが、僕だってなんだかんだでロアナプラにいる人間だ。それ相応のことはやってきたさ」
「そうか」

 答えを得ると、ロックはそのままボロ屋から退出した。
 結局最後までベニーと視線を合わせようとしなかったところが、どこか虚しく、仲間の心配を誘う。

「どんな英雄譚に感化されてきたかは知らないが……自分の立ち位置を見誤らないことだ、ロック」

 誰もが自覚している。自覚しなければ、ここにはいられない。
 ここはロアナプラ。ここにしか存在しない、この世界特有の街。


 ◇ ◇ ◇


 ――バトルロワイアル。ギガゾンビはあの殺し合いのゲームを、そう呼称していた。
 ロボットや吸血鬼、魔術師に亜人まで……今を思えば、異文化交流の極みだったな、あれは。
 悪夢から覚めた後の現実ってのは、かくも淡白なものだった。
 記憶も事実もそのままに、元の世界に帰された俺は、それ以後他のみんながどうなったかなんて知らない。
 両親を失ったしんのすけの将来、事の発端であるギガゾンビの処遇、俺に行く末を知る術は与えられていない。
 気になることは他にも山ほどある。
 エルルゥが気にかけ、皇を失ったトゥスクルのその後。北条沙都子や園崎魅音が帰りたいと願った雛見沢のその後。
 どちらも、飛行機を飛ばしたって辿り着けない場所にあるんだろうな。
 俺の知っている日本にも、春日部はあった。だが、そこに野原しんのすけは住んでないい。
 みんな、バラバラになっちまった。帰るべき世界に納まって、よろしくやってることだろう。
 いや、なにも放浪癖が生まれたわけじゃないさ。ただ、俺はあそこでなにかを植え付けられちまった。
 それがなにか、確かめたい。でも具体的な方法が見つからなくて、足掻いてる。
 ……その末路が、現在の状況だ。俺は今、とんでもない泥沼に嵌ってる。

984 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:12:32 ID:QGJX0yOo
 ロアナプラへの帰還後、俺はダッチとベニーに事の説明を求められた。
 連絡もよこさず数週間どこ行ってやがった……って。俺があっちにいたのは僅か二日足らずだが、少しばかり時差が生じたらしい。
 タイムパラドクスの弊害ってやつだろうか。二人の話によれば、俺とレヴィが消えたのはほぼ同時期。
 ついでに言えば、あの双子やロベルタのことも、二人の記憶にちゃんとあった。
 仮面の変態に拉致されて殺し合いに参加させられてた。って馬鹿正直に答えてもよかったんだがな。
 残念ながら、俺は脳異常患者として仲間に冷たい目で見られる趣味はない。なので、真相は暈しておいた。
 ただし、レヴィの死については正直に伝えた。
 最後の最後まで勇猛にカトラス振るいながら死んだ、ってね。
 もちろん、二人はそんな説明で納得などしなかった。
 だがどんなに説明を求められたって、殺し合いをやっていたと証明する術がないのだから仕方がない。
 俺は今日まで黙認を続け、前よりも少し微妙になった空気の中で、生を謳歌していた。
 ラグーン商会の稼ぎ頭である女ガンマンと一緒に姿を消し、一人だけ戻ってきた男。そりゃ居た堪れないさ。

 レヴィの死が尾を引いていないといえば嘘になる。
 俺をこっちに引き込んだのは紛れもなくレヴィであり、彼女には何度も命を救ってもらった。
 気休めに傾けた鎮魂のグラスも、死者の魂を呼びよせる儀式にはならない。
 レヴィの死に際に立ち会えなかった俺には……もう、なにも知ることはできない。
 しんのすけやエルルゥが味わった消失感とは違う、どこか冷めた感じの虚無感が胸に蟠っている。
 この妙な気持ちも、今の泥沼に嵌った一因なのかもな。

「よぉーロック。しけたツラしてんなぁ。色男が台無しだぜ?」

 あの子を捜して街を練り歩く最中、聖堂女の制服を着たシスターに声をかけられた。
 シスターといっても、煙草をくわえ、サングラスをかけた不良シスターだ。

「……エダか」
「聞いたぜぇーロック。レヴィと地獄に駆け落ちして、一人だけ生還したんだってぇ?
 や〜るじゃないの。さすがはあたしが惚れ込んだ男だ」
「ふざけるのはよしてくれ。悪いけど、今は冗談につき合える気分じゃないんだ」
「ヘーイ、どうしたってんだよロック。冷たいじゃないのさ〜。
 こちとら貴重な酒飲み仲間がおっちんで寂しい思いしてんだ。ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃないの」

 ロアナプラの一角に立つ暴力教会。おかしなことに、こんな街にも教会はある。
 教会といってもそれは表の顔だ。裏の顔は、ロアナプラで唯一武器の売買を公認されている手配屋……うちもよくお世話になっている、顔馴染みだ。
 特にこのエダは、レヴィとも個人的に親交を持っていたらしい。
 おともだち、なんていうお上品な間柄ではないだろうが、彼女の死に無関心なはずはない。

「こいつぁ風の噂で聞いたんだがよぉ、なんだかまた面倒なことに首突っ込んでるらしいじゃないかい。
 なんなら、レヴィの代わりにあたしが力貸してやってもいいんだぜ? 高くつくけどよ」
「遠慮しておくよ、エダ」

 素っ気なく返し、俺はエダの脇を通り過ぎようと歩を進めた。
 今はとてもじゃないが、彼女の軽口に付き合ってやれる気分じゃない。
 レヴィのこともそうだが、今はあの子のことで頭を悩ませっぱなしだ。
 抱え込まなくていい面倒事を自ら呼び込み、己の首を絞める。つくづく、俺は早死にするタイプだと思う。
 ただ、これは俺の性分だ。今さら変えられるもんでもない。
 ……もしかしたら、うつしちまったのかもな。
 レヴィに、こんな俺のどうしようもない性格が。

「そうだエダ、一つ馬鹿な質問に答えてくれないか?」
「あーん? なんだい?」
「人を殺したことはあるかい?」
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃははははははは!」

985 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:13:17 ID:PjxtUSWO


986 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:13:40 ID:QGJX0yOo


 ◇ ◇ ◇


 エダへの質問を爆笑で返された後、俺は港の付近で件の少女を発見した。
 埠頭に座り、ただぼんやりと海を眺めている。
 既に空は茜色に染まっており、水平線の彼方に、太陽の沈む光景が映し出されていた。
 水面を見つめる少女の瞳は、覗き込むのもおこがましいほど無垢で、まだ子供なのだということを実感させてくれる。

「海が好きなのか?」
「……なんだよロック、あんたも随分構うじゃねーか。こんな厄介者、とっとと手放したほうが身のためだぜ」

 声をかけ、返ってきた言葉は、どこか懐かしい。
 ああ、そうだな。
 ベニーの憶測を肯定するわけじゃないが、彼女は確かに、レヴィに似ている。

 ――数日前、俺がこの港で拾った少女。彼女に名はない。俺が知らないのではなく、誰にも名づけられたことがないのだ。
 発見当初は、それはそれは酷い有様だった。弾丸に射抜かれた腹部は血に塗れ、死の淵に立たされた状態。
 誰にやられたのか、そもそもこの少女は何者なのか、そんなことを考えるより前に、身体が動いた。

 俺が彼女について知ったのは、彼女の怪我が安静にしていれば問題ない程度にまで回復してからだった。
 双子の再来――極一部じゃ、この一件はそんな呼称で面白おかしく話題になっている。
 ルーマニアの政変以後、施設から闇社会に売られていった多くの子供たち。彼女はその中の一人だった。
 そんな哀れな少女が、二挺のベレッタを携えこのロアナプラにやってきた理由……それは、彼女に与えられた『命令』を果たすため。
 ホテル・モスクワのバラライカさんに喧嘩を売れ、という荒唐無稽な命令に。

 かつて、同じ目的を持ってロアナプラを震撼させた子供がいた。
 あの殺し合いにも参加していた双子――ヘンゼルとグレーテルは、変態どもの享楽に付き合わされた末に化けた、快楽殺人者だ。
 だが、この少女は違う。幼少の頃から授業という形で人の殺し方を学び、主の命令を忠実に実行するよう教育された。
 それがたとえどんな命令でも、必ず遂行する。子供ながらに、子供だからこそ、逆らえないように。
 いわば、調教を施された精巧な殺人マシーンだ。彼女は殺人に快楽を求めない。だから、標的外のダッチには抵抗しなかった。
 彼女の標的は、このロアナプラの裏を牛耳る一人、バラライカさん含めたホテル・モスクワの構成員全員。
 奴等を皆殺しにしろ。
 そう、誰かが指示した。かつての双子を仕向けたヴェロッキオのように。
 
 彼女と双子が違う点は、殺人に快楽を求めないこと、命令に忠実なことと、もう一つ。感情の起伏が激しいことが挙げられる。
 ダッチの横暴に怒りを表し、またその怒りを抑制することもできている。
 命令を命令と割り切り、標的以外は狙わない。行動だけ見れば、立派なプロの殺し屋だ。
 単なる快楽殺人者にならないよう調整したのは、裏社会における厄介ごとを背負い込まないためだろう。
 ここでは、無闇な殺しが波紋を呼ぶ。依頼者の望む望まないに関わらず、うっかり対象外の人間でも殺してしまったら、
 今度はその人間の組する組織に睨まれることになる。この子の教育者は優秀な反面、どこか程度が低く思える。

 ……つまりだ。
 俺は今、ロアナプラの大ボスとも言えるホテル・モスクワのトップ、バラライカさんの敵を匿っている。
 これが自殺行為にも等しい愚かな真似だってことは、重々承知している。
 俺は今、狙撃兵にスナイパースコープで覗かれている状態だ。あとは弾が飛んでくればアウト……。
 今回ばっかりはヤバイかもな。レヴィはもちろんのこと、ダッチもベニーも突き放して、俺は単独で動いている。
 どう考えたって無謀だ。なのに、不思議と引き下がる気にはなれない。
 つくづく思うよ。どうして俺は、こんなに命知らずなのかってね。

987 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:14:41 ID:JwOZ9twv
 

988 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:15:15 ID:PjxtUSWO


989 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:15:42 ID:QGJX0yOo
「なぁ、もうそろそろやめにしないか? ホテル・モスクワは君が考えているほどガードの緩い組織じゃない。
 仮に命を捨てる覚悟で挑んだって、返り討ちに遭うのが関の山だ」
「またその話かよロック。説得……ってのをしようってンなら無駄だぜ。あたしは退かねェ。
 あたしは、お天道様の下歩いて暮らしてきたあんたとは違うンだ。機械みたいなもンよ。
 与えられた命令をまっとうする。命なんてのはその代価でしかねェ。飛ンでったら戻ってこねェ弾丸と同じさ」
「自覚しているうちは、まだ歯止めが利く。君は弾丸とは違うんだ。標的から逸れる意志を持ってる」
「鉛の玉が勝手に道を逸れるって? ハッ、そんなことが許されるかよ」
「許すよ。俺が許す」
「……つくづくハッピーな野郎だなぁ、あんたは」

 ハッピー、か。ま、そうかもな。
 俺がやろうとしていることは、蛇に睨まれた蛙を救済しようとしているのと同義……ただ、俺の立場は蛙よりも弱い蟻だ。
 それを理解していながら――勝算皆無と知りながら――俺は俺の望む結果を導き出そうとしている。
 ガキだな、ロック。バニラアイスより甘ったるい、ガキの考えだ。反吐が出らぁ。
 ……最近、前にも増して自虐的になってきた気がする。ここらへんが境界線なんだと、認識させられる。

「? なんだそりゃ、見ねぇ銃だな。カスタムか?」

 少女が覗く傍ら、俺は懐から一丁の銃を取り出した。
 グリップ部に二本のサーベルとドクロのマークが装飾された、こじゃれた銃。
 俺があの世界から、唯一持ち帰ったものだった。

「ベレッタM92カスタム……通称ソード・カトラス。君も愛用しているベレッタのカスタム銃さ」
「なんだよロック、イカした銃持ってンじゃねェか。やっぱホワイトカラーでも悪党は悪党ってわけか?」
「あいにく、俺は銃を撃つのも持つのも趣味じゃなくてね。これは形だけの……そう、モデルガンみたいなものさ」

 なんだよつまんねー、と返す少女に、俺は苦笑を漏らした。
 ――ギガゾンビ城での戦いで、レヴィが最後まで握っていたソード・カトラス。これはその復元品だ。
 復元といっても、あの世界は地球破壊爆弾で木っ端微塵に砕け散ってしまった。原型など残ろうはずがない。
 なのでこのカトラスは、一から作りなおした別物と言ってしまっていい。
 見てくれは銃だが、引き金を引くことも、弾を装填することもできないよう作りなおされている。
 こうやって女々しく携帯しているのも、レヴィの遺品としての意味合いが強い。
 気に入らないことがあれば、カトラス振るって大暴れ……そんな、少年海賊みたいな真似が、俺もしたかったのかもしれない。

「知ってるかい? 世の中にゃ、銃じゃ解決しないこともあるんだぜ」
「あぁ? なんだそりゃ」

 呆れた声を出し、少女は溜め息をついた。いいかげん、俺の小言にもうんざりしてきたのかもしれない。
 おせっかい焼きってのは、そう簡単に受け入れられるもんじゃない。この子みたいなタイプならなおさらだ。

「あんたの言いたいことはイマイチわかんねぇけどさ。あたしは振り上げた拳を降ろすつもりはないぜ。
 ……ま、それでもあんたにゃ借りがある。怪我もあるし、もう一日くらいは大人しくしてやるさ。
 命令の邪魔するヤツはウザってェが、役に立つヤツは利用してやって損なしだ……って教わったんでね」
「そいつぁ立派な教えだ。君の教育者は、どこか平和な街で教師になるべきだな」
「……機会があったら、伝えといてやるよ」

 そのときだ。ゆっくり立ち上がった少女に凶弾の銃声が降りかかったのは。



990 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:16:37 ID:JwOZ9twv
 

991 :赤い断片 ◆LXe12sNRSs :2007/07/24(火) 23:17:25 ID:QGJX0yOo
 ◇ ◇ ◇


 少女の身が揺れる。額から真っ赤なシャワーを噴き出し、物言わぬまま前倒れになる。
 一秒後には、もう死人が完成していた。脳天に一発ブチ込まれて人生終了。あっけない最後を、俺は見届けた。
 潮の香りがする埠頭全体を、血と硝煙の臭いが包み込む。気分は一気に最悪だ。
 俺は弾丸の射出先に目をやる。そこには、身を震わせながら銃を構える、小太りの男が立っていた。

「……なん、でっ!」
「し、知らなかったんだ! お、俺はなにも、依頼主がよりにもよってホテル・モスクワに喧嘩吹っかけてるなんてことも!
 あいつらはやべぇ、やばすぎる! とばっちりが俺にまで回ってこねぇとも限らねぇ、いや、絶対回ってくる!
 おお俺はただ、おもしろおかしくガキどもを調教できればよかったんだ! あんな奴等に喧嘩吹っかける気はなかったんだよ!」

 少女を撃った男は、錯乱しているのか呂律の回らない口ぶりでなにやら弁明している。
 だが――ああ、クソッタレ。知ったことかよ。
 あの子は、この男に殺された。見るべき結果はただそれだけだ。
 あるのかよ、こんな胸糞の悪い終わり方が。
 双子とは違う。なんの望みもなく、支えにしていた命令さえ果たせず死んだ。
 こんな……ことがあってたまるかよッ!

「な、なんだ!? や、やるってのかよ!」

 気づけば、俺はカトラスの銃口を男に向けていた。
 ああ、馬鹿だな。こんな模造品を向けてる俺も、その模造品にビビってるあいつも。

 ――ロアナプラに吹き溜ってる連中は、どいつも皆、くたばり損ないだ。
 ――墓石の下で虫に食われてる連中と違うところがあるとすりゃ、たった一つ。
 ――生きるの死ぬのは大した問題じゃねぇ。こだわるべきは、地べた這ってくたばることを、許せるか許せねェか、だ。

 ああそうだよ、他人の死なんてクソの役にも立ちゃしない。ここはそういう街さ。
 けどな、俺にはそれが我慢ならねぇ。
 子供も大人も皆平等で、死にながらに生き永らえてる。ダッチも、エダも、バラライカさんも、あの子だって!
 ああそうさ、俺はどこまでいったってホワイトカラーの日本人だ。ロアナプラの連中とは違う。
 連中のようになりたいとも思わない。だけど、俺はここにいる。岡島の性より、ロックの名を取った!
 そんなことは最初からわかり切ってたのさ。だから俺は、俺なりに割り切ろうとした。双子の一件がそうだった。
 でもなぁ、俺はあそこで浸かっちまったんだ。思い出しちまったんだよ!

 ――死んじゃったら大人になれないよ?

 命は尊いものだって、救える命があるってことを教わっちまった。
 俺は、あのときはまだロアナプラの住人でいられた。北条沙都子を切り捨てようとした俺は……!
 みんなが助かる上での最善の方法を考えるだとか、願った結末に導くための取捨選択をするなんてのは、腐った大人のやることだ。
 それをアイツは、しんのすけは真っ向から否定しちまった。
 しんのすけだけじゃない。ドラえもん、ハルヒ、ゲイナー、ゲイン、トグサ、凛、フェイト、誰も諦めたりなんてしなかった。
 割り切ったり妥協したりなんて考えは持っちゃいない。最高の結末を望んで、それを掴み取った。
 笑っちまうよな。俺もその一員だったんだぜ? なのに、元の世界に帰ればこのザマだ。
 女の子一人救えない。ただ命の綱渡りを楽しんでるだけのド変態だ。
 クソッタレなブラッド・パーティー? 子供を交えた殺し合い?
 なに言ってやがる。ロアナプラのほうが、帰ってきた現実のほうが、よっぽど地獄じゃねぇか!

992 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:17:38 ID:JwOZ9twv
 

993 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:18:08 ID:PjxtUSWO


994 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:18:39 ID:JwOZ9twv
 

995 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:20:28 ID:JwOZ9twv
 

996 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/07/24(火) 23:21:45 ID:djebHcqV


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