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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart47【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:31:35 ID:7FxEhsAP0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1168683721/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss


2 :作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:32:54 ID:7FxEhsAP0
オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
鬼と人とのワルツ 下・よつばと虎眼流 (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html

3 :作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:34:15 ID:7FxEhsAP0
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html
ヴィクティム・レッド (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/?page=%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%EF%BC%88%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%81%95%E3%81%BE%2945-1

修羅と鬼女の刻 (ふら〜りさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/?page=%E4%BF%AE%E7%BE%85%E3%81%A8%E9%AC%BC%E5%A5%B3%E3%81%AE%E5%88%BB%EF%BC%88%E3%81%B5%E3%82%89%E3%83%BC%E3%82%8A%E3%81%95%E3%81%BE%EF%BC%8945-1

ドラえもん のび太の新説桃太郎伝(サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
狂った世界で (名無しさん)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/181.html


4 :作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 17:41:08 ID:7FxEhsAP0
【作品を読んでいる皆様へ】

去年までの作品の保管はバレ氏のまとめサイトに(一部、今年1月6日まで) 
今年からの作品の保管はゴート氏のまとめサイトに保管されております。(2007年3月12日現在)





5 :作者の都合により名無しです:2007/03/12(月) 20:00:23 ID:83ZSGBfU0
>>1さん乙
ハロイさんも帰ってきたし、サナダムシさんやミドリさんたちも帰ってこないかな

>ハロイさん
一度筆がノると加速しますね。
ユーゴーの苦悩はテレパシストだけに深そうだなあ
レッドとクリフの遺恨も深そうだけど

6 :修羅と鬼女の刻:2007/03/12(月) 23:07:21 ID:TvhcrMBi0
>>前スレ447
決戦の地、湊川。戦が始まって早々、いや始まる前に、新田軍は足利軍の策にはまって
クルリと回れ右。戦場からどんどん離れていってしまって。
結局、楠木軍だけで足利全軍を迎え撃つ形になった。城も砦も何もない平地で、十数万
対七百の正面衝突。もはやこんなもの、戦でもなんでもない。ぷちっと潰して終わりだ。
が、そうはならなかった。たった一人の豪傑が、万単位の敵軍を受け止め支え、
切り裂き突き抜け、押し返してさえいたのだ。
その様、古代中国で言うなら長坂橋の張飛か、長坂坡の趙雲か、官渡の戦いの関羽か。
今ここ、中世日本でそれをやっているのは伝説の武術の継承者。陸奥圓明流、陸奥大和。
「オオオオオオオオォォォォッッ!」
地平線の彼方まで埋め尽くすような大軍の中を、修羅が駆ける。騎馬隊を拳で殴り倒し、
歩兵隊を脚で薙ぎ払い、弓隊を石礫で撃ち崩す。一騎当千などという言葉では足りぬ、
獅子奮迅の八面六臂の天下無双の戦いぶりである。
が、いくら戦っても戦っても、それで勝てる戦ではない。そんなことは大和も解っている。
それでも、戦わずにはいられない。けれども、大和が一瞬で十人・二十人を打ち倒す間
にも楠木軍……河内悪党の仲間たちが、一人二人と討たれていく。かつて鎌倉幕府を
相手にして共に戦い、大軍に包囲された城の中で一緒に宴会をした仲間たちが。
例えば、だ。例えば今、この戦場をこっそりと抜け出して、足利の本陣に忍び込んで
尊氏を暗殺、なんてことも不可能ではないだろう。陸奥の名をもつ大和ならば。
だがそれは、他ならぬ正成自身によって禁じられている。と言ってもここで足利軍を
素通りさせれば正成は捕らえられ、降伏するはずもないから確実に斬首となるわけで。
『オレは何をやってるんだ……こんなことして、何になるってんだ……でも…………うっ!?』
胸を抉る不吉な予感に大和が振り向くと、彼方の本陣から火の手が上がっているのが
見えた。本陣、といってもたまたま見つけた廃寺に勝手に正成たちが居座っただけだ。
なので、赤坂城みたいに偽りの落城なんか演出しても、何の意味もない。
とはいえ、まだ足利軍は何とか支えている。なのに火の手が。ということは、つまり。
「っ!」
大和は足利軍との戦いを放り出し、今までの生涯最高全速力で、本陣へと駆け戻った。

7 :修羅と鬼女の刻:2007/03/12(月) 23:08:11 ID:TvhcrMBi0
予想通りに。楠木軍が本陣と定めた廃寺は、既に紅蓮の炎に包まれていた。
「そんな……まさか…………」
その時。柱や梁が燃えて割れて折れる音に混じって、正成の声が聞こえた。低く重い
その声は、落ち着いた様子で念仏を唱えている様子。
正成が何をしようとしているかは、もう「死ぬほど」明白だ。大和は迷わず炎に突っ込んだ。
「お兄さんっっ!」
炎の壁を蹴り破って堂内に転がり込んだ大和。紅く揺れる光に照らされたそこでは、
甲冑姿の正成が正座して合掌し、心静かに法華経を唱えていた。
大和に気付くと経を止め、ゆっくりと振り向く。
「来たか」
「……来たよ」
向かい合う二人。寺同様に、今にも燃え上がりそうな大和の視線を、まるで
湖水のように穏やかな目で正成が受け止めている。
「前に言ってたよね。平和な世を創るために、戦をなくすための戦をするって」
「ああ。この戦が正にそれだ。口幅ったいが、俺が敗れて死ねば新政府の敗北は
ほぼ確定する。その後、足利幕府が平和な世を創ってくれるさ。前にも言っただろう?」
「……ほら。やっぱりそうじゃないか。『戦のない、みんなが平和に暮らせる世を創る』」
「ん?」
大和の、握った拳が震えている。
「お兄さんも足利さんも、目指すものは同じだろ。実際、鎌倉幕府と戦ってた時も、
倒した後も、ずっと一緒に頑張ってきた。今この時だって、その気持ちは変わってないはず。
なのに、どうしてこうなっちゃったんだよ? そりゃ、いろいろ行き違いもあったんだろうけど、
そこはほら、えっと、何だっけ、調停……講和……休戦……同盟……和睦……
……いや違う、そういうのじゃなくって…………ああもうっっ!」
ぐしゃぐしゃっ、と髪を掻き毟って大和が吼えた。
「だから! だからその、なんで仲良くできなかったんだよ! お兄さんと足利さんと、
護良親王と後醍醐帝と新田義貞とみんなとっっ!」

8 :修羅と鬼女の刻:2007/03/12(月) 23:11:03 ID:TvhcrMBi0
「と、言われてもな。どうしようもない、としか答えようがない。お前にも戦場のみならず
随分と頑張ってもらったが、結果は敗軍の将だ。悪かったと思ってる。だから……」
正成は立ち上がって鎧を脱ぎ、手足を振って凝りをほぐした。
「せめてもの恩返しに、お前との約束だけは果たそう。この楠木正成の、今生での
最期の戦いだ」
「……」
「どうした? まあ恩返しと言っても、却って恩を重ねてしまうようなものだがな。伝説の
陸奥と戦って人生の幕を引けるなど、武人の最期としては最高だ……いくぞ!」
突っ込んできた正成の拳を、大和は辛うじてかわした。
『え……っ!?』
最初は、状況が状況だから自分が戦うことを躊躇っているのだと思った。が、違う。
二発三発と連打が続き、正拳と手刀と上中下段の蹴りと、さまざまな攻撃が
来るのだが、その全てが恐ろしく速い。というか、異様に「かわし辛い」のだ。
何の変哲もない攻撃ばかりなのに、どうしてこんな……だがそれも、正成の目を見て
すぐに解った。
正成は今、生きることを全く考えていない。大和からの攻撃が来た時、それが水月でも
人中でも眼球でも金的でも、かわすつもりも防ぐつもりもなく攻め立てているのだ。
回避も防御も考えず、だが我が身と引き換えに敵を殺すと言うヤケクソの捨て身でも
ない。生への執着を綺麗に捨て去り、自分の勝利を望まず、敵の打倒も目指さず、
純粋に攻撃だけをしている今の正成……それはある意味、完全に悟り切った存在だ。
「陸奥よ。俺は、全ての戦が終わったら金も役職も捨てて、どこかの山奥で写経読経と
座禅三昧の日々を送り、御仏の悟りを得たいと思っていたんだが」
大和が息を切らしながら身を引くと、正成は攻撃の手を止めて語った。
「皮肉なものだな。こんな戦の最中に、悟ったというか……何かに『届いた』気がする」
そんな正成の顔からは、敵意も殺意も、闘気すらも感じられない。

9 :修羅と鬼女の刻:2007/03/12(月) 23:12:47 ID:TvhcrMBi0
と大和が思った途端、また正成の拳が飛んできた。踏み込んで腕を伸ばして拳を
突き出して、という動作が見えない。感じ取れない。拳だけが飛来したとしか思えない。
今度は僅かにかわしきれず、大和の頬が浅く切られた。血が一筋、流れる。
大和はその血を拳で拭うと、困ったような、悲しいような顔で笑って言った。
「あはは……強いなあ、強い……さすがオレの見込んだお兄さんだ。本当に強いよ。
人じゃないくらいにね」
そして迷いを断ち切って、大和は構えた。今、本気で闘わないのは武人として失礼だ。
そんな大和の決意を表情から読み取って、正成が頷く。
「初めて会った時は、資朝様の頼みがあって本気を出せなかったのだろう? 
今こそ、見せてもらうぞ。遠慮なく、存分にな」
「うん。その目で、しっかりと見てよ。オレの……陸奥圓明流の本気を!」
今度は大和から踏み込んだ。本気になった陸奥の、疾風のような身のこなし、
嵐のような拳と脚の連撃が、容赦なく正成に襲いかかる。
だが正成は相変わらず、それを防ぎもかわしもせずに攻め続ける。大和の攻撃が
当たる時には、それを喰らうことを全く厭わない正成の攻撃が大和に当たっており、
これでは不毛な消耗戦が続くだけだ。
「どうした陸奥。この俺に、冥土の土産を持たせてはくれないのか?」
と言いながら、正成の拳が大和の胸を打ち、脚が脇腹に蹴り込まれる。確実に
冥土へと続く死の気配、正成の覚悟が込められた連撃。
『……っ!』
それが、大和を覚醒させた。『本気』より更に上の領域。人を越えたところにあるもの、
それすなわ人ならぬもの『修羅』。
正成と過ごした日々の思い出も、まだ心のどこかに僅かにあった未来への希望も、
全てを今、大和は封印した。
「……オレ、もう、覚悟した……だから、お兄さんも覚悟して貰うよ…………
今のオレは、人間じゃないっ!」
「それでこそ陸奥よ! 来いっ!」

10 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/12(月) 23:16:11 ID:TvhcrMBi0
源義経・衣河の館、真田幸村・大阪の陣、そして楠木正成・湊川の合戦。これぞ三大
「日本人好みの滅びの美学名シーン」ではないかと。戦国・幕末に比べて太平記は、
江戸・鎌倉に比べて室町幕府は、確かにマイナー。でも上記三つを並べてみれば、
人気・知名度に於いて劣ってはいないっ! ……と思うん……ですけど……(弱気)。

>>1さん
おつ華麗さまっっ! やはりテンプレに居させて頂けるのは光栄かつ恐縮、嬉しいです。
勢いも戻ってきた感じですし、本スレもまた賑やかに参りましょう! ……しかしやはり、
バレさんが心配なところです。どうなさっておられるのか……大和たち、見て欲しいなぁ。

>>銀杏丸さん
もンのすンごい急転直下ぶりでした。確かに黄金時代でもありましたね、この図。爽やかな
男の友情と、紅一点ヒロインへの愛と。愛と友情、正に理想の関係……が裏返り凄まじい
憎悪を呼ぶと。これだけの文章で、これだけ山場谷場のある物語を描けるのは流石です。

>>NARUTOさん(御名前を何卒)
冒頭からなかなかキてますね。絶体絶命絶望、から救われたっちゃ救われたけどその相手が
また……と。異形、とだけ表現して本人の名乗りはおろか地の文でも名前がないから、本当
に何を考えてるどういう相手なのか掴みどころがなくて底深い。彼女(かな?)の運命如何に。

>>ハロイさん
優勢な時のクリフの物言いが、すごく仮面ライダー913氏を彷彿とさせます。こういうタイプ
はその優勢を崩されると一気に崩壊するのがお約束ですし、レッド側の覚醒フラグも相まって
次回はかなりヤバそう。まだ登場間もない強敵キャラ、何とかふんばってほしいところですが。

>>スターダストさん(小札はこんな感じですね。秋水は明智警視風イメージで白髪でしたが)
ファースト膝枕……いや、確かにそれはそれで漢の浪漫、大切にしたい気持ちも解るぞ少年。
で相変わらず人道を弁えてるネコを微笑ましく見てたら、一気に冷水を浴びせられた気分。
よもやの再会、こちらもブキミなほど相変わらずのご様子で。早速出るか、「彼の必殺技」!

11 :ヴィクティム・レッド:2007/03/13(火) 01:25:48 ID:Bwb449pn0
「ユーゴー、どうしたの? しっかりして、お願い」
 言いながら、誰よりもしっかりしなければならないのはわたしだろう、とセピアは内心で自分の不甲斐なさを呪った。
 セピアにはなにもできない。なぜ彼女が苦しんでいるのか、それすらも分からなかった。
 桜色だった唇を紫に変えて、虚ろに「兄さん」と繰り返すだけのユーゴーの背を、ただ半べそをかきながら撫でるだけであった。
「ああ……どうしたらいいの……?」
 だが、誰に分かるだろう。ユーゴー・ギルバートはクリフ・ギルバートの発する攻撃的な思念に当てられているのであり、
いわば彼の凶悪なサイコキネシスをダイレクトに受信しているのだということを。
 お互いが未熟な能力者であり血と魂を分けた兄妹だからこそ起こった偶然の産物であり、
それは彼らを研究していたPSIラボの研究者すらも予想していなかった現象だった。

「死ねよ!」
 クリフはそう絶叫し、内なる意思を外界に投射する。
 空間はそれに応え、その形を捻じ曲げてレッドへと襲い掛かる。だがその攻撃の先には、もはやレッドの姿はない。
「当たるか、馬鹿が!」
 硬質化させたブレードを振るい、正面から切りかかる。それはクリフが反射的に展開させた力場に阻まれ、空中で静止した。
「……なんだよ、その腕は。君は化物なのか?」
「てめえにゃ負けるよ」
 言いざま、脚でクリフの首を蹴りつける。意表を付かれたクリフはそれをまともに食らい、地面にもんどり打った。
 間髪いれずにもう一発蹴りが飛んでくるが、クリフはその脚ごと念動力で受け止め、弾き飛ばす。
 その勢いで壁に叩きつけられたレッドへ向けて、もう一度思念の波が向かう。
 そのことを予測していたレッドは即座に飛びのいてそれをかわし、床と壁だけが無残に亀裂を走らせた。
(なんつー威力だ……だが、分かってきたぜ)
 不可視の力場による広範囲攻撃、それは確かに脅威だったが、肝心のクリフに戦闘経験がまったくないことが致命的だった。
どんなに鋭利な剣でも、相手に当たらなければ意味がない。
 クリフの攻撃パターンはまるで単調であり、さながらモグラ叩きのごとく視認した場所へ向けて攻撃するだけで、
なにも考えていないに等しかった。
 戦闘の流れというものを理解していない以上、クリフ・ギルバートに勝ち目はない。そう思えた。

12 :ヴィクティム・レッド:2007/03/13(火) 01:28:01 ID:Bwb449pn0
「くそ……なんで死なないんだ、レッド」
 レッドは超能力者ではない。なので、サイコキネシスを振るうことが術者にとってどれほどの負担になるか想像もつかない。
 だが素人目にもクリフは疲弊しきっていた。汗をだらだら流し、息は荒く、こめかみがぴくぴくとチック症を引き起こしていた。
 わずか数分の戦闘ですら、彼の意識に多大な精神的負荷を及ぼすらしい。
 限界が近い。小刻みに動き回って攻撃を避け続ながらそう判断したレッドは、
勝負を決めるべく両腕の刃に振動波を流し込んだ。
 先のクラーク・ノイマン少佐との死闘で獲得した、分子結合を破壊するバイブレーションであった。
 果たして、がくりとクリフの身体が崩れ、周囲に渦巻いていたサイコキネシスが消失する。
「もらった!」
 交差する両腕をスライドさせながらクリフに飛び掛り、その時、
「ユーゴー……」
 虚脱状態にあるクリフがつぶやく。
 その一言はどんな念動力よりも強くレッドを揺さ振った。
 「人の心が分からないんですか」とレッドに言った少女、
 「わたしはレッドを理解しようとしている」と寂しそうにつぶやくセピア、
 寄り添って泣く二人。
 そんな意味のない光景がレッドの脳裏に蘇り、その切っ先が鈍る。
 ──それが正しかったのか、間違っていたのか、それは誰に分からないだろう。
 だが、その鈍った一瞬こそは、両者にとって取り返しのつかない時間だった。
 クリフの内部から、強大な力が突如として爆発的に膨れ上がる。
 床を叩き割り、壁に穴を開け、周囲のありとあらゆるものを飲み込んで肥大してゆく。
 その奔流に為すすべなく吹き飛ばされながら、レッドは己の思い違いに気づく。
 限界が近い。
 そう、それは間違っていない。
 だがその限界とはあくまで「能力を制御できる限界」であり、その一線を見失ってしまったクリフ・ギルバートは、
ひたすらに破壊を振りまくだけの、暴走する怪物と成り果てたのだ。
 それはさながら、知性も気高さもなく、妄念のみでこの世の暗黒から這い出る──魔王のように。

13 :ヴィクティム・レッド:2007/03/13(火) 01:29:17 ID:Bwb449pn0
「僕は……人間だ……」
 定まらぬ視線でつぶやくクリフの目には、もはやなにも映っていないだろう。
 無数の刃で身体を切り刻まれたレッドは、壁に背中を預け、それでも立ち上がろうともがく。
「モルモットなんかじゃない……『ヴィクティム』なんかじゃない……」
 ナノマシンの修復が追いついていないレッドにとって、この虚無と絶望が形をとったような空間は
ただいるだけで生命の危険にさらされるほどの苛烈さを備えていた。
 ぎょろり、とクリフの見開かれた瞳がレッドを捉える。瞳孔は開ききっていた。まるで闇夜の中を彷徨っているかのように。
「なんで……生きているんだ? 駄目なんだよ……死なないとさあ……」
 おおん、と空気が鳴いた。
「みんな殺してやるんだ……そして……僕は……ユーゴーと二人で……」
 レッドに言葉はない。クリフの精神の深淵を、この世の暗黒を、純粋な悪意の表出を目の当たりにし、ただ驚いていた。
 今や、それは目に見えていた。
 クリフの感情が世界を歪ませ、その歪みは空気を乱し、光を曲げていた。
「…………」
 ふと、クリフがなにかに気づいたように辺りに視線をめぐらせる。それより数秒遅れ、レッドもそれに気がつく。
 遠くから、地面を揺るがす響きが近づいていた。火の爆ぜるような、石を割るような、そんな奇妙な音がした。
 次いで、鼻を刺すオゾン臭が立ち込める。
「ぐぅっ!」
 レッドの両腕が激しく震えた。それは通常のARMS共振とは比べ物にならない、圧倒的なものだった。
「また負けているのか……レッドよ」
 瓦礫の山と化した医療セクションの廊下の向こうから、何かが近づいてくる。
 それは巨大な怪物だった。
「だが……やはりそいつは危険な実験体のようだな……」
 髑髏のような異形、薄紅に淡く輝く爪、スパーク発光と過熱された水蒸気を身にまとい、
「そんな出来損ない相手では張り合いがなかろう……クリフ・ギルバート……このオレが直々に殺してやろう」
 人間の面影を一欠けらも残さない、悪魔そのものの姿だった。
「この……『ブリューナクの槍』と……『マッドハッター』がな……!」



第八話 『魔』 了

14 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/13(火) 01:32:10 ID:Bwb449pn0
また誤爆したorzレスエディタ直打ちがよくないんでしょうね……

15 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/13(火) 01:58:17 ID:Bwb449pn0
>>1
乙です。
馬鹿な子ですが頑張りますので長い目で見てください。

>ふら〜り氏
当たり前ですが、陸奥(と、彼らと行動を共にする者)が歴史の勝利者になることはないんですよね。
でも、そういった一切から解き放たれたところで戦うからあんなに格好いいんだろうな、と思ったりします。
歴史のことは不勉強なので今回の展開には度肝を抜かれました。楠正成がここで最後を迎えるなんて……感無量です。

16 :作者の都合により名無しです:2007/03/13(火) 08:58:28 ID:tXkRHXdX0
>1さん
乙です。最近スレ立てにくいですね・・

>ふらーりさん
急展開ですね。正成と陸奥が死合うとは思いもよりませんでした
今まで大和は可愛さが優先していましたが遂に修羅に・・
正成は歴史上でもこの時点で死んでるのかな?よく知らない
日本史、縄文時代までなら完璧なんですが・・

>ハロイさん(ハロイってどんな意味ですか?)
一度筆が加速すると、一気呵成で嬉しいですw
攻撃的な兄の深層が響いてしまう優しい妹が悲しい
兄も傷ついてますが。しかしレッドは負け続けだなーw
兄姉コンプになるのも必然の流れか

17 :作者の都合により名無しです:2007/03/13(火) 13:31:37 ID:nXfr6jru0
よしっ!
ハロイさんがノッてきた!
アームズ大好きなので頑張って欲しい
レッドも本当に頑張れ!w

18 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/03/13(火) 17:41:34 ID:FjUnBdfM0
マイパソコンがブッコワレマスタ・・・Orz
中身のプロットやらなにやら全部飛んだ・・・
4月までは続きを書くのはちょっと無理っぽいです。
なるべく早く復帰したいとこですが。

19 :作者の都合により名無しです:2007/03/13(火) 20:44:03 ID:U9hB7aue0
>ふら〜りさん
正成と大和が戦うとは思わなかったなあ
正成も日の本1のもののふと言われた男、意外といい勝負するかも。

>ハロイさん
レッドよりもクリフとユーゴーの方がキャラ立ってるな
またレッド、兄さんに出番奪われてるしw愛すべきヘタレw

>サマサさん
そりゃ災難でしたな
また1からやり直しは大変ですが頑張ってください

20 :作者の都合により名無しです:2007/03/14(水) 09:35:02 ID:vcWNqwck0
パソコントラブルによるデータの消失ってよくきくな
サマサさんだけでなく、他の方も気をつけてほしい
サマサさん、復帰待ってます

21 :ヴィクティム・レッド:2007/03/14(水) 20:07:33 ID:cgnDuSil0
 それは常軌を逸した戦いだった。
 破壊の極みをこの世に呼び覚ますサイコキネシスを操る少年、クリフ・ギルバート。
 荷電粒子砲『ブリューナクの槍』を放つARMS『マッドハッター』に身を委ねるキース・シルバー。
 本来が長距離戦闘向きである『ブリューナクの槍』にとって、人間の子供という小さい的は
非常に狙いづらいものだったが、シルバーはあえて荷電粒子を収束させずに放つ。
そうすることで拡散されたプラズマエネルギーは、容赦なく医療セクション内を蹂躙していた。
 もはや、そこは地獄の底のごとき光景と成り果てていた。
 理性の箍の外れたクリフが撒き散らす悪意が建築構造物を片っ端から粉砕し、
その上に降り注ぐ拡散ビームの雨が瓦礫の山を溶解させていく。
 シルバーの熱線はクリフの服すらも焦がしてはいない。無意識の防御本能ゆえか、
クリフの周囲にはサイコキネシスの膜が張り巡らされてあらゆる異物を弾いていた。
 そのクリフの攻撃──それはとても攻撃と呼べないようなもので、ただ彼の暴走する
超能力が広範囲すぎるゆえにシルバーに届いているだけであったが──は、
最終形態を発現させて全身ナノマシンの塊となった『マッドハッター』に致命傷を与えるに至らなかった。
 どちらも譲らず、引かず、己の全てを叩きつけるような死闘を繰り返している。
 魔王の牙が怪物を噛み砕くのが先か、軍神の業火が少年の身を焼くのが先か──それはそういう戦いだった。
「ククク……ハハハハハハ! 素晴らしいぞ! クリフ・ギルバート!! なるほど、これがサイコイネシスか!」
 シルバーは嗤っていた。髑髏の奥底に潜む二つの光が、爛々と輝きを増していた。
 その哄笑など聞かぬげに、クリフはぶつぶつと聞き取れない言葉を口から漏らしている。
 異様な光景だった。
 その戦闘領域には人間などどこにもいなかった。
 そこには世界の暗黒と一体化した獣と、無慈悲な殺戮機械がいるだけであった。
「う、うう……」
 キース・レッドは自分が境界線に立っていることを痛烈に自覚していた。
 今、目の前で暴れている二匹の怪物は、彼にとっての明確な未来予想図だ。
 レッドの行く道は修羅の道だ。この世界には敵しかしないと断じ、立ちふさがるもの全てを排除する道だ。
 その先に待っているものが、それだ。
 すなわち、人の心を忘れた獣か、血の通わぬ機械か。
 後に戻る道は無い。そんなものは生まれたときから存在しない。
 キースシリーズとしてこの世に生を受けたときから、それは決定済みの事項だ。

22 :ヴィクティム・レッド:2007/03/14(水) 20:08:38 ID:cgnDuSil0
 ならば、自分はどっちになるのか──獣か、機械か。
 このままどっちつかずで立ち尽くしていられたらどんなに楽かと思う。
 迷う時間はあまりなかった。
 両者の戦闘は加速度的にエスカレートしており、死そのものであるバトルフィールドは容赦なく拡大している。
 知らず、レッドは壁際まで後ずさっていた。背後に立ちふさがる壁は、レッドに逃げることを許可していない。

 そしてまた、建物を支える壁の一つが崩れ落ちる。
 さらに広くなったエリアに転がる瓦礫の隙間に、レッドは信じられないものを見た。
「セピア!?」
 とっくに避難していると思っていたキース・セピアが、地面に座り込んでいたのだ。
 その膝にはなにか小さいものを抱えていた。
「レ、レッ──」
 轟音が響き、一塊の天井が落盤を起こす。どん、と腹にくる震動の後には、わずかな静寂が訪れる。
 その隙間を縫うように、小さな、か細い声がいやにはっきりと聞こえた。
「にいさん」
 セピアの膝の上の小さいものが口を利いた。ものではなく人だった。
 その言葉こそが獣と人を決定的に分かつ一言、獣を人たらしめる言霊ででもあるかのように、
この空間に逆巻く念動力の激流が一瞬で消えた。宙を飛び回っていたコンクリートは糸の切れたように次々と落下し、
力場に閉じ込められていた粉塵が晴れたことで辺りは光を取り戻す。
「ユーゴー!?」
 クリフが叫んだ。
 さっきまでは半ば閉じられていた目は、しっかりと見開かれていた。その瞳には形ある意志が宿っていた。
 獣はもういない。彼は人間だった。それはつまり──
「血迷ったか、クリフ・ギルバート! サイコキネシスを解くとはな!」
 人を殺すのは機械だということであった。
 戦闘の恍惚に完全に没入しきっていたシルバーにとって、クリフの精神の回復などなんの意味もなかった。
 本来の正常な状態に復帰したことを、逆に「血迷った」となどとエラー扱いしていることからも、それは明白だった。
 『マッドハッター』は両手を合わせ、十の爪をクリフに向けた。プラズマ化されたエネルギーがそれらの中心点に集まる。
 それは中天に輝く太陽か、或いは夏に咲く花に似ていた。

23 :ヴィクティム・レッド:2007/03/14(水) 20:10:37 ID:cgnDuSil0
 クリフの絶体絶命の瞬間に、妹が声にならない声を上げる。
「やめて」
 事実、それは声にならないもので、ただ喉を鳴らしただけでしかなかった。
 だがそれでも、ユーゴー・ギルバートの切実な願いはこの場の全ての者に届いた。
「にいさんを、いじめないで。たったひとりの、にいさんなんです。
いつまでも、いっしょに、たすけあっていくって、ちかったんです」
 今度は口すらも動いていなかった。それなのに、彼女の声はどんどん大きくなっていく。
 それはまるで、直接心に語りかけてくるかのように。
「黙れっ!」
 怒気を露わに、シルバーが吼える。
「娘……戦いの邪魔を……するな!」
 臨界寸前だった『ブリューナクの槍』の砲口がユーゴーに、そしてセピアに向けられる。
「や──」
 やめろ、と飛び出しかけたレッドをあざ笑うように、それは放たれた。
 加速されて異常な熱を蓄えたエネルギーの奔流が注がれる。
 眩い光がレッドの目を灼き、視界がホワイトアウトする。
 視力が正常に戻ったとき、そこにはなにもなかった。
「あ、ああ──」
 それは誰の声だったか。レッドのものだったかも知れない。クリフのものだったかも知れない。
 次の瞬間には、今度こそ地獄から呼び込んだような壊滅的なサイコキネシスが膨張する。
 全てが無に帰そうとしている世界は漆黒に染まり、その暗闇に抱かれてレッドは意識を失った。

 なにか胸のむかつくような悪夢から覚めて、レッドは身を跳ね起こす。
 そこはベッドの上で、無機質な病室の中だった。
 妙にリアルな夢だったはずだが、それは朝靄のように掻き消えてもう思い出せない。
 その代わりに、目を背けることのできない現実を思い出す。
「セピア!」
 答える声はない。
 あれが夢だったなら、あの記憶が現実でなくて、今がいつもの不本意な朝の始まりだったら、
「なーに、レッド」と間抜けな声が返ってくるはずだった。

24 :ヴィクティム・レッド:2007/03/14(水) 20:11:57 ID:cgnDuSil0
 茫然自失となりかけたレッドだったが、がちゃりという音とともに開かれたドアから入ってきた者を見て、
「セピア……」
 目を真っ赤に泣き腫らしたキース・セピアと、彼女に手を引かれるユーゴー・ギルバートの姿があった。
「レッド! レッドレッドレッド!!」
 三メートルはあろうかというドアからベッドまでの距離を、セピアはたったの二歩で飛び越えてレッドに体当たりした。
「し、死ぬかと思った……怖かった……怖かったんだから!」
 レッドはそれを最初、「キース・セピアが死にそうな目に遭って恐怖を覚えた」という意味だと思ったが、
どうやらそういうことではないらしく、
「わたしの『ニーベルングの指輪』でも、レッドの『グリフォン』が反応しなくて、だからもうレッド死んじゃうのかって──」
 そこから先は言葉にならなかった。セピアはレッドの肩に顔を押し付け、わんわん泣き出したのだ。
「あー……」
 レッドもレッドでなんと言ったらいいか分からず、ただ「オレがなんとも思ってないことでお前が泣いてどーする」
と、そういう言葉を何度も飲み込みながら黙ってセピアの頭頂部を眺めてながら彼女の泣きやむ時を待っていた。

「で、なんでお前らは生きてるんだ」
 もっと別の言い方があるような気もしたが、他に言い方も思いつかなかったので直截に訊く。
 セピアはユーゴーと顔を見合わせて、ちょっと微妙な顔をした。
「僕だよ」
 いつ現われたのか、病室の隅に一人の少年が立っていた。
 そいつを見て、レッドもまた微妙な顔になる。
「グリーン……」
「この間の借りはこれで返したからな」
 澄ました顔でグリーンがそう言うのへ、
「誰も頼んでねーよ」
「なんだって? おいちょっと待てよレッド……仮にも僕は君の命の恩人──」
 一触即発の空気が流れかける寸前、
「やめなさい、二人とも」
 病室の入り口にはキース・バイオレットが立っていた。そお顔は、いつもよりも厳しいものだった。
「兄弟喧嘩をしている場合じゃないでしょう。今は一刻を争う事態なのよ」

25 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/14(水) 21:10:30 ID:aP6GSt6qO
なんか書き込めなくなったので、区切り悪いですが今日はここまでということで。
ちなみにこれは携帯からです。

>サマサ氏
それは災難でした。お察しします。というか他人事ではなく、俺も前回5レス文の話を書き終えて
「さあ投下するぞ」というところでいきなりフリーズし、泣く泣く再起動かけました。
メモ帳なりwordなりに書いて保存しておけば問題無かったのに……自分のずぼらさが嫌になりました。
一日も早い復帰を心から待ってます。

前スレ>>511
その通り!(声:児玉清)

>>16-17>>19
レッドはまだまだ負けますwwどうやらそういう星の下に生れついたようですwww
というのは半分くらい冗談ですが、特撮などを観ていると
「悪の組織はあんなに負け続けて、負けることに飽きたりしないのだろうか」とよく思います。
「僕もう悪いことやーめた」とすっぱり諦めてしまえば楽なのに、と。
もしかして、「なにかを完全に諦める」のは、なにかを完璧に成し遂げるのと同じくらいに困難なことなんじゃないかと最近考えるようになりました。
筆が進まず「もーいいや」と二ヶ月も放っておきながら未練たらしく舞い戻ってきた自分がいい例です。
どれだけ負けても、どれだけ苦汁を舐めさせられても、それは彼等にとっては「本当の敗北」ではないのでしょう。
彼等もそれぞれ悩んだり苦しんだりしながら、決定的な敗北(或いは勝利)の瞬間を得るために戦い続けるのだと思います。
そう遠くない将来、新宮隼人によって決定的に敗北するキース・レッドですが、
彼もまた敗北を約束されていた人間なのか、あの見境なくジャバウォック求める姿勢の裏には、どんな勝利を思い描いていたのか、
そんなことを考えながらこの話を書いてます。
なんか語ってる俺キメェwwww

ハロイという文字列自体に意味はありません。
vipのbnskスレでssを書くときにイロハというコテを使っており、それを逆さにしただけです。
そのスレがコテ禁止みたいな流れになってからはイロハのハンネも使わなくなり、酉だけになってますが。
どうでもいいですね。

26 :作者の都合により名無しです:2007/03/14(水) 21:19:35 ID:vcWNqwck0
レッド負け続けか
優秀な兄弟に囲まれて、でもそれにすねずに上を目指すだけ立派か
シルバー対クリフの前ではまた情けない姿を晒してますがw

しかし携帯で書くってすごいなあ

27 :作者の都合により名無しです:2007/03/14(水) 22:41:19 ID:CixpkvAc0
ハロイ氏毎日乙です。
レッドがここまでヤムチャ臭プンプンだと却っていとおしくなってきました。
セピアがいじらしくていいですね。
シルバーも原作では結構ヘタレだったけど、この作品では強いな。

28 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/15(木) 04:28:18 ID:Rnl30bJ80
――イングランド南部 錬金戦団大英帝国支部 大戦士長執務室

「火渡の野郎……。欲しいなら欲しいって正直に言えってんだ。まったくよ……」

口から飛び出す悪態とは裏腹な笑顔でテーブルのシガレットケースに煙草を足しているのは、
大戦士長ジョン・ウィンストンだった。
ヘヴィスモーカーの彼はテーブルだけではなく、ワークデスクの上にもシガレットケースを置き、
服のポケットにも常時20本以上の煙草を忍ばせている。
火渡が煙草をちょろまかしていった事にしばらく気づかないのも無理は無い。
しかし、そんな火渡の行動もウィンストンにしてみれば、幼児が父親の万年筆を玩具にして
悪戯するようなものだ。
笑顔の素にしかならない。
(帰国する時には抱えきれねえぐらい持たせてやるか。だから、早く帰って来い。早く……)

その時、ワークデスクの上の電話がけたたましく呼び出し音を鳴らした。
ウィンストンはコードレスタイプの受話器を取ると、そのままワークデスクの椅子に腰掛ける。
「何だ」
『マーティン評議員からお電話です』
その言葉が耳に飛び込むや否や、ウィンストンの顔は嫌悪感いっぱいに歪んだ。
「チッ、“ご老人”か……。ああ、わかったよ」

“錬金戦団欧州方面評議会”
イングランド・フランス・ドイツ・イタリア・スペイン等の欧州各支部に所属する、
古老の戦団員によって構成されている議決機関。
マーティン老人は大英帝国支部を管理下に置く、イングランド代表の評議員だ。
彼らが決定を為した決議案は、たとえ大戦士長といえども覆す事は出来ない。
事実上、彼ら評議員達が欧州全土の錬金戦団を牛耳っていると言っても過言では無いだろう。
しかし、アメリカやアジアの戦団にはこのような機関は無く、錬金術発祥の地という古い歴史を誇る
欧州特有のものである。
ウィンストンが“ご老人”と呼んで忌み嫌っている上層部とは、まさしく彼らを指す。


29 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/15(木) 04:29:14 ID:Rnl30bJ80
外線ボタンに指を伸ばしながらウィンストンは考える。
気をつけるべきは正しい文法で喋る事と汚いスラングを使わない事。あとは知るか。
「ウィンストンです」
『やあ、ウィンストン大戦士長』
受話器からは、物柔らかだが低く渋みのある老人の声が聞こえる。
ウィンストンが常々“反吐が出そうなバス・バリトン”と表現する声だ。
「どうも、マーティン評議員。真夜中だというのにどうされました?」
“えらく元気だな。カフェインの浣腸でもしてるのかよ”
そう言葉を続けたい衝動を必死で飲み込み、四十過ぎに相応しい大人の応対を心掛ける。
『New Real IRA討伐作戦の件はどうなっているかね? 現在の進行状況は?』
この質問にウィンストンは違和感を覚えた。不自然さ、と言ってもいい。
大英帝国支部に起きているすべての事は、サムナーの手によってマーティン評議員に筒抜けの筈だ。
形骸化しつつあるこの大戦士長に今更報告を求めるとは、何の目論見があるのか。
「一時間程前にサムナー戦士長から『北アイルランドの国境を越えた』と連絡がありましたが、
その後はまだ何も」
『ふむ、そうか……。君の方から直接私に、逐一状況を報告してくれたまえ』
(“逐一”ね……。そういう事かよ)
秘密裏にウィンストンが現場へ飛んで行き、手助けをしないとも限らない。
この電話は、彼を戦団基地に縛りつけておく為の予防線のようなものだろう。
「……私なんぞより、あなたの方がよっぽど状況をわかってるのではないですか?」
了解、とは言わず、嫌味たっぷりな質問で返す。
老人特有の粘着質なやり方は、元々は短気な性格のウィンストンを苛立たせるには充分だった。
『それはどういう意味かね? ウィンストン君』
「別に……。深い意味はありませんよ。報告の件は了解しました」
短い沈黙の時が流れる。
こんな殺伐としたやり取りも、お互い慣れっこになってはいたが。
『フン、まあいい……。それはさておき、だ。今回の作戦にはヴァチカン特務局第13課も
積極的に介入しているだろう? これで、あの狂信者達を分析出来る絶好の機会(チャンス)が出来た訳だ。
錬金の戦士に、背信のテロリスト。“餌”は大きく香ばしい方が食いつきもいいからな。フフフ……』

30 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/15(木) 04:30:22 ID:Rnl30bJ80
ウィンストンの背中に悪寒が走る。
このジジイ、今おかしな言葉を使わなかったか。
まさか……。いや、そんな筈が無い。いくら何でも……。

だが……。

「“餌”だと……? まさか、あんた……」
汗が滲み出る感覚を止められないまま、恐る恐る切り出すウィンストン。
それとは対照的にマーティン評議員の口調は朗らか、いや自慢げと言ってもよかった。
『ああ、あえてヴァチカンに情報を流させてもらったよ。とは言っても、作戦の概要と実行部隊の
構成員程度だが。
まったく、ヴァチカンの諜報技術は第二次世界大戦時並みにお粗末なものだ。
こちらが手伝ってやらなければ盗聴ひとつ満足に出来んのだからな』
「なっ……!」
ウィンストンは絶句した。目眩いすら感じた。
「な、何て事をしてくれたんだ……! 奴らが不自然なくらい早くこちらの動きを察知したのは
あんたのせいか!」
『何か問題でもあるかね?』
あくまで声の調子は軽い。まるで庭園の薔薇の剪定をしくじった旦那様といったところだ。
この老人の愚かしさにウィンストンは椅子から立ち上がり、抑えきれない怒りを噴出させた。
「大ありだ! “ヴァチカンの仇敵”である俺達が、“カトリックの領土”で、“化物(ホムンクルス)”を操る
テロリストを退治しに行くと聞けば、サカった犬みてえに奴らが絡んでくるのは当たり前じゃねえか!
あんたもイスカリオテの恐ろしさは知ってんだろう!? アレクサンド・アンデルセン神父の恐ろしさを!!」
『だからこそだ。言っただろう? これはチャンスなのだよ。
今まで謎……いや、脅威だったイスカリオテやあの化物神父を詳細に知る事が出来る、な。
それにだね、欧州では君に次ぐ実力を誇るマシュー・サムナー戦士長と日本の優秀な戦士達の力を以ってすれば、
イスカリオテの主戦力である彼を殺せる可能性すらあるやもしれん』
なんという楽観的な物の見方だ。泣けてくる。
核鉄の使い方も知らない、戦闘の恐怖も感じた事が無い、仲間の死に顔も見た事が無い、政治屋らしい発想だ。

31 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/15(木) 04:31:39 ID:Rnl30bJ80
怒りを通り越して、本当に泣いてしまいたくなる。
サムナーの眼を覚まさせてやりたい。この程度の奴らに良いように使われているなんて。
「そんなワケがあるか! 口を開けて待ち構えてるとこにわざわざ飛び込むんだぞ! 皆殺しにされちまう!」
ともすると涙声に変わりそうな怒鳴り声を上げるウィンストンだが、マーティン評議員は至って平然と話を続ける。
しかも、自分の行動を正当化する、都合の良過ぎる解釈のおまけ付きだ。
『仮にそうなるとしても、ちゃんと手は打ってある。
いいかね? この作戦で得られる情報は、今後の戦いに多大な利益をもたらすのだよ。
彼らの尊い犠牲によって、我々が有利に戦局を進められるようになる事は間違い無い。
戦士達の偉大な死は無駄にせんよ』
尊い? 偉大な? そんな言葉を口にすれば、死んだ奴らが喜ぶとでも思っているのか?
未来ある若者を次々に死なせてよい理由になるとでも思っているのか?
遺された者達が悲しまないとでも思っているのか?
おためごかしのその言葉は、更にウィンストンを激昂させた。
「ふざけるな!!」
受話器を持つ手には、握り砕かんばかりの力が込められている。
「テメエらジジイ連中はそうやって椅子にふんぞり返りながら、無責任に戦いを、犠牲を、死を賛美しやがる!
だが死ぬのは若者だ!! 骨と皮のクソジジイ共をクソ生き長らえさせ、今一度大威張りさせる為にな!!」
あまりにも直接的な暴言に、マーティン評議員はそれなりに怒りを覚えたらしい。
声の質と話す内容が明らかに変化した。
『口が過ぎるぞ、ウィンストン君。自分の立場をわきまえたまえ。
君のその下品で反抗的な態度は、評議会でも常々取り上げられている。
規律と伝統を重んじる錬金戦団大英帝国支部に相応しくないのではないか、とね』
言葉や口調は穏やかなままだが、その内容は意味を考えてみるまでも無く、脅迫そのものだ。
しかし、もうマーティン評議員の声はウィンストンの耳には届いていない。
受話器を耳から離し、顔の前に持ってきているからだ。
「クソでも喰らえってんだ!! マ○かきジジイめ!!!」
海兵隊新兵訓練基地の教官を思わせる怒声を通話口に浴びせると、ウィンストンは受話器を力いっぱい
壁に向かって投げつけた。
けたたましい音を立てて、受話器が砕け散り、壁にもへこみが付いた。
ウィンストンは息を荒げて立ち尽くしたまま、素早く思案を巡らせる。

32 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/15(木) 04:32:53 ID:Rnl30bJ80
すぐにヘリを準備させてあいつらの救援に行かなければ。
何ならブリティッシュ・エアウェイズからコンコルドを徴発したっていい。
俺の武装錬金を同化させて、北アイルランドに突っ込んでやる。騒音もソニックブームも知った事か。
だがすぐに、今まで貫いてきた大戦士長としての責務が彼を迷わせる。
自分がここを離れたらどのような事態に陥るか、と。
ウィンストンは拳を握り締め、眼を瞑り、思案した。いや、思案という言葉は軽すぎる。
まさしく、“苦悩”だ。

答えは……。
気が抜けたようにドサリと椅子に座り込んだ彼の姿から推して知るべし、である。
北アイルランドへ救援に向かうのは簡単だ。
だが、自分がここを離れればイングランドには一人の戦士もいなくなってしまう。
もしホムンクルスがここぞとばかりに徒党を組んで、イングランド国内で暴れだしたらどうなる?
戦士不在の戦団基地を襲撃されたりでもしたらどうなる?
上層部の思惑を敢えて受け入れ、何時如何なる場合もこの戦団基地を離れないのはその為でもあるのだ。
錬金戦団を、大英帝国を、女王陛下を、欧州最強の戦士である自分が守る為に。
そして、彼は選択した。苦渋に満ちた選択だ。
“この地に留まり、彼ら五人を信じる”
その選択がウィンストンをどのような未来に導くかは神のみぞ知る。
祝福か破滅か(symphony or damn)。
それでも、彼は選択するしかなかった。

「頼む……。どうか、生きて……――」





長らく間が空いてしまい申し訳ありません。しかもEP9後編の筈が中編になっちゃいました。後編は明日か明後日にでも。
ホントは一気に投稿したかったんですが、ちと間に合わない上に長くなりそうだったんで。
あと、また会話中心の動きの無い話ですが……。後編もそうなんです……orz

33 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/03/15(木) 05:06:29 ID:Rnl30bJ80
前スレ230さん
火渡には結構頑張ってもらう予定です。火渡も神父もお互いの特性を生かした戦いって感じで。
千歳陵辱……。神父は女に興味がありません、たぶん。つか聖職者ですし。

前スレ231さん
私も書くの楽しみです、まっぴー×婦警。
婦警にまとわりつくまっぴー、まっぴーに振り回される婦警。素敵……(*´д`)ハアハア

前スレ233さん
大詰め……の筈なんですが、なかなか話が進まず。すみませんorz
次の作品も遅くとも4月から、と思ってたんですが……。
あと個人的にはサナダさんに戻って来て欲しいっす。サナダさんの短編読みたい。

前スレ394さん
喜んで頂けて感謝の極みです。シエル先輩に関しては一応、日記の方に書かせて頂きました。
あとこのお話は七年前の設定なので、千歳はキンタマという言葉にうつむくかなと。あとチンコとか。

前スレ395さん
戦いの構図はもう完全に決まっております。むしろそれが書き始める前からあったくらいです。
錬金の戦士達も神父もテロリスト達も。ジュリアンに関しては色々変更がありましたが。

前スレ401さん
新キャラ終わりのはずだったんですが、書いてしまいましたシエル先輩。
お話にどう絡んでくるかはまだ内緒って事で。

前スレ403さん
自分でも月姫参入は考えてなかったのですが、あまりにもシエル先輩を好きになってしまったもので。
今ではまっぴー、婦警に続いて第三の女って感じです。
でも他のTYPE‐MOON作品は知らないんです……。

34 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/03/15(木) 05:10:11 ID:Rnl30bJ80
ふら〜りさん
神父のスプラッタ性もどんどんアップしていきます、物語の進行上。やり過ぎない程度にですが。
主人公にしてラスボス扱い、おまけにいろんな人から化物呼ばわりの神父。確かにどうやって倒すんだろう……。
あとジュリアンに関しては、元々の構想より扱いが良くなってるんです。しかしその為にあんな目やこんな目に……。

ゴートさん
火渡の無意識の恐怖どころか、私も無意識に書いてましたわ。やはり神父がそうさせるのか。
あと、まとめwikiの方ですが仲魔に加えて頂きありがとうございます。コンゴトモヨロシク……。

銀杏丸さん
神父といえば若本御大! でも那智さんもちょろっと! てな感じの俺的神父です。いやホントすみません。御大大好きなもので。
実は次回作にも御大がイメージキャストのキャラが登場予定です。一家に一つならぬ、一作に一人若本御大が信条。
あとシエル先輩の第七聖典は使いどころが難しい〜。

スターダストさん
どうもお世話になっております。サイト活動も順調のようで何よりです。
神父に関しては、実際ホラー映画やアクション映画のノリが多いです。
パッと挙げられるだけでも『13金』『ターミネーター』『プレデター』辺り。
サムナーも洋画でよくいる嫌な野郎な感じで。『プレデター2』のキースみたいな。

職人様方、作品の感想を書けなくて申し訳ありません。最近少し余裕が無くてまったく読んでいなかったもので……。
後日、サイトの方に書かせて頂きます。
あとハロイさんガンガレ(゚∀゚)

35 :戦闘神話:2007/03/15(木) 06:22:25 ID:7zWTv4YO0
貴鬼は、まるで螺旋回廊の中へと落ちていくような錯覚すら覚えた。
はじめはあたり一面、何もない虚無空間だったのだが、間もなく無数の扉が現れた。
ありとあらゆるデザインの、ありとあらゆる建築様式の扉の群れの中、貴鬼は落ちていく。
黄金聖闘士の身体能力の前に、この程度の速度の落下など止まっているも同然であり、
その扉の中に何があるのか思いをはせる余裕すらあった。
もしかしたら、この扉の中の一つが出口なのかもしれない。
もしかしたら、この扉すべては別の空間へでるのかもしれない。
もしも、もしも、もしもとIFを重ねたところで事態は回転を始めない。
だから貴鬼は行動を起こす。
落下中だが、体を捻って反動を生み出し、最も近い位置にあった扉へと身を躍らせたのだった。

一方その頃、アドニスもまた螺旋回廊の中を落ちていた。
気絶した水銀燈を抱えたままだ。
貴鬼ほど逡巡せず最寄の扉に飛び込んだのは、アドニスの腕の中に「護るべきもの」が居るからだ。
護らなきゃいけない、彼女は美しいから。
護らなきゃいけない、あいつとは違うから。
護らなきゃいけない、裏切るわけにはいかないから。
焦燥にも似た感情と共に、アドニスは扉の中へと踊りこんだ。

そしてアドニスと貴鬼は、nのフィールドで離れ離れになる。
それが如何なる運命となるかは、誰も知らない。

36 :戦闘神話:2007/03/15(木) 06:26:08 ID:7zWTv4YO0
東京都銀成市、私立銀成学園高校。
創立は古く、明治三十三年というから百年以上の歴史を持つことになる。
学生寮を備えたこの学園は、女生徒の制服デザインや学生寮、
プールなど福利厚生面に力を入れていることも有名で、それを目当てに進学を希望する学生も多い。
勉学だけでなく部活動といった外部活動にも力を入れており、
剣道部などは全国大会入賞者をだすほどの活躍ぶりをみせている。
学園には、外部にあまり知られていないが女子限定のラクロス部も存在する。
ラクロス部員で今年二年生に進級し、部員としては中堅どころの腕前、
部内の信頼もそこそこ、成績は決して悪くなく、上の下といったところ。
そんな彼女には一つの悩み事があった。
弟のことである。

彼女、桜田のり嬢の弟桜田ジュンは不登校児なのだ。

それが彼女が学生寮に入寮しない理由である。
もともと責任感が強い割りに押しの弱い彼女には、この弟をどうしていいのか分からない、
彼を放り出して入寮するなどもっての他だが、だからと言ってどうしたらいいのかわからない、
書店でその手の本を買いあさるものの、
いまひとつ弟の行状とは合わない為効果は薄く、彼女の悩みは晴れない。
こうして毎日家路につくのがつらい。
無論、つらいのは弟の桜田ジュンもそうだ。
過敏すぎる精神が状況に耐え切れなかったのか、それ以外の原因があるのか、不登校になって一年。
最近では一日中パソコンにむかっている事も多くなった。
ネット通販で買った商品をクーリングオフしてそのスリルを楽しむという、
どう取り繕っても暗いとしかいいよう無い趣味に耽溺するジュン。
彼自身、暗い、と自覚しているだけマシなのかもしれない。
弟を思い、自然、うつむき加減になる桜田のりだったが、そんな彼女を心配に思うものもいる。

彼女に好意をよせる少年は特にだ。

37 :戦闘神話:2007/03/15(木) 06:29:25 ID:7zWTv4YO0

彼、城戸檄もそうだ。
彼は現在一年遅れで高校生をやっている。
聖戦終了後、今一度己を振り返った。
果たして自分は何をしたいのか、何ができるのか、そして何をすればいいのか。
星矢ほど強くない、盟ほど血の縁にこだわることが出来ない、
悩みに悩んだ結果、彼は獣医を目指すことにしたのだ。
ギャラクシアンウォーズの際、星矢に向かって何万頭も熊を絞め殺した、
などと言ったのは詰まる所ハッタリだ。
厳つい風貌に似合わず、彼は動物好きなのである。
勤労青年をしている星矢、聖域の中核を成す瞬、紫龍、氷河、
旅の空の一輝、昇格の話がもちあがる盟、
聖域とアテナを護る邪武、市、那智、後進の指導にあたる蛮、そして獣医を志す檄。
城戸光政の遺児たちは、それぞれの道を歩んでいた。
そしていま、檄は恋路という迷路へと迷い込もうとしていたのだ。
とはいえ、嗚呼ジュブナイル。
父・城戸光政のように、あれよあれよと言う間に肩に手をやり腰に手をやりベッドイン、
などという手練手管は持ち合わせてはいない。
気になるあの娘の一挙手一投足が気になって仕方なく、気が付けば姿を探す日々、
おかげで受験勉強にも身が入らずと、青春の迷路でリングワンデリングの真っ最中なのだった。
そんな檄だが、彼にも友がいる。
懐の携帯電話がそのボディを震わせ、着信を知らせる。
てれれれ〜れれ、ソルジャードリームのメロディに併せて踊る携帯。
ああ、星矢かと檄は軽い調子で電話に出た。

38 :戦闘神話:2007/03/15(木) 06:33:39 ID:7zWTv4YO0


桜田のりが少し鬱向きながら家路についている真っ最中、その弟は何をしていたかというと…。

なんでも人工精霊ホーリエが人形をくれるらしい。
まきますか。まきませんか。
それが意思確認らしい。
まきます。の欄を丸く囲ったのは、桜田ジュンの気まぐれに過ぎなかった。
何時ものようにダイレクトメールの怪しい商品を買い、何時ものようにクーリングオフする。
そのつもりだったのに。
手紙の指示に従い、机の二段目に封筒に収めた手紙を仕舞うと、トイレに行った。
その僅かな間に、手紙は机の中から忽然と姿をけした。
手紙の代わりに、机の前には鞄が置いてあり、
中には紅い外出着を着た美しい金髪の人形が入っていた。
ネジ穴が分からなくてあちこち触ったり、少年らしい好奇心で下着の有無を確認したりした後、
背中に巧妙に隠されたネジ穴を巻くと、彼女は動き出す。
そしていきなりはたかれた。

「なッ…。何すんだよ!」

「全く、人間の牡は想像以上に下劣ね」

少しばかり頬を赤くして、呆れた様な怒ったような声の人形に、ジュンも呆然とした。
ややあって、下着の有無を確認したことをさしているのだと気が付く。

「に、人形が、しゃべって、る…?」

だが、いきなりの事態に彼は混乱するしかない。

「静かにして頂戴、人間」

39 :戦闘神話:2007/03/15(木) 06:38:12 ID:7zWTv4YO0

ジュンの当惑など知ったことではない。気品溢れる仕草で彼女はあたりを見回した。
状況を確認しているらしい。

「お、お前一体なんなんだよ!」

「礼儀がなってないわね。
 相手に名を尋ねるときは、先ずは自分から名乗るものよ」

毅然としてそういわれてしまったら、ジュンは従うしかない。
人形に呑まれてしまう己の情けなさに気が付かないのは、果たして良い事なのかは分からないが。

「ぼ、僕は桜田ジュンだ。
 お前こそ一体なんなんだよ!」

「ジュン…。
 冴えない名前ね」

不服そうな顔をするジュンを無視しながら、彼女は続けた。

「私の名は真紅、ローゼンメイデン第五ドールの真紅よ」

と、そこで真紅はパソコンのほうへと目を向けた。

「おい!人の話きけよ!」と、言いかけたジュンだったが、そこで彼もようやく異変に気が付く。
パソコンのモニターが膨張しているのだ。
黒く沈んだモニターが、まるで風船のように膨らんでいく。

40 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 06:52:19 ID:VqKHAYWBO
づやぁあ!

41 :戦闘神話:2007/03/15(木) 07:03:20 ID:NsBc5Nu80
真紅の表情に緊張が滲み出す。
彼女の経験上、こんな事をするのは一人しか居ない。
だが、しかし、それは半分だけ当たり、半分だけ外れた。
「なんだぁあああああああ!」と、ジュンはみっともなく叫ぶ。
金色の鎧を纏った少年が、銀髪の少女(のように見えた、後に真紅と同類だと判明するが)
を抱えてモニターから飛び出してきたのだ。
ジュンはもう、訳が分からなかった。

そして、同時刻。貴鬼もまた純和室の三面鏡から飛び出ていた。
見回すと、どうやら女性の部屋らしい。貴鬼は何となく居づらい気分になるが、
そこで襖の間から何かが覗いている事に気が付く。
貴鬼は生来の好奇心を発揮して、襖を開けると、そこには少女と呼ぶにはまだ幼く、
子供と呼ぶにはそぐわない人形が居た。
怯え三割、好奇心七割、そんな表情でその人形は貴鬼を見上げていた。
そりゃ珍しかろうな、ド派手な金の鎧つけてりゃ。貴鬼がそんな事を思う余裕はすぐさま吹き飛ぶ。
すっと、貴鬼からしたら右隣の位置にある襖がひらいたのだ。
おかっぱというか姫カットというか、そんな感じの髪型の少女が、驚いたような顔で立っていた。
さて、どうしよう。
奇しくも、貴鬼も少女も少女人形も同じことを考えていた。

かくして、銀成市に聖闘士が、エドワードが、ローゼンメイデンが集う。
戦が始まる。避け様のない戦が。

42 :戦闘神話:2007/03/15(木) 07:05:45 ID:NsBc5Nu80
ああ、ようやくジュンが出せた…
メンタル話担当を漸くだせた…
ピーチピット先生は萌えキャラの型の中ではっちゃけるので大好きです
女性作家特有の、精神面を大きく切り裂くような作風は銀杏丸の好物だす。
冥王神話LC、バルゴがまたdでもないキャラに…
やっぱり異教徒あつかいだったんだ、彼はw
PS2冥王ハーデス星矢でも近接も遠距離もこなす万能キャラぶりがステキです
声優かわってなきゃなぁ…

>>前スレ466さん
キャラクター紹介は第二回終了したのでそろそろとおもっております
四作品クロスオーバー+αなんてやると登場キャラクターが物凄い数に…
車田勢が以外と多いなぁ…、趣味がでますね、やっぱり

>>前スレ467さん
銀杏丸の銀は燻し銀の銀ですので、華はなくとも味はある、スカしすぎですがw
ヴィクター一家が本編以上にヒドイ目にあってますが、後々ちゃんと挽回します
因みに、肉体改造って実際の神話でもポセイドンはやってますので、
もしかしたら、もしかして、な展開もありかもしれません

>>狂った世界で作者さん
NARUTOは未見ですが、たまにネット上でみる動画だと、アクションシーンが凄いらしいですね
重厚な筆致から描かれるアクションを期待しております

>>ハロイさん
復帰おめでとうございます
言い訳がましいですが、馬鹿な奴は大好きです
ただ、その馬鹿さ加減が中途半端な奴は大嫌いなだけなんです
アーサー王とかローランとかは「中途半端な馬鹿」に見えるから嫌いなんです
大馬鹿天井知らずな奴は見ていて気持ちいいんです、劉邦みたいなタイプは特に

43 :戦闘神話:2007/03/15(木) 07:15:08 ID:NsBc5Nu80
>>スターダストさん
よかった…。これで心置きなくヴィクターや照星やカズキが書けます…。
ヴィクター討伐隊はあんまり語られなかった一件ですが、
あの一件こそ錬金戦団の内部腐敗ぶりと非常識・非道徳ぶりの証明かと思います
バスク・オムと大差ないぞ、当時の錬金戦団。ブレックスに「なんと破廉恥な!」としかられますよ
たぶん、ヴィクターシンパはあの時点で粛清されてるだろうな、という銀杏丸の思い込みから
ああいったカタチに落とし込みました。名前だけ出てきた奴は名前だけです。でも指パッチンはやりたかったかも
LXEのユカイな仲間たち、震洋なんかいいですね。ああいう姑息な奴は大好きです
それにしても音声に画像付で「怒りだ!もう怒りしかない!」は迫力が違いますね

>>さいさん
熱いウィンストンと錬金戦団上層部の腐敗ぶり、お見事です
ヴィクターの一件やカズキへの対応を見る限り、清廉潔白とは言い難い組織である戦団。実にらしくて良いです
個人的に、この手のキャラクターは山路和弘氏が似合いそう。ガンカタ使いそうですがw

>>ふら〜りさん
鎌倉→室町の変遷期があまり知名度がないのは、やっぱり南北朝が問題なんでしょうね…
ようやく、主人公たちが出揃いました。(あ、カズキ忘れた)
戦闘力最弱、精神力最弱、そんな少年がいったいどんなファクターとなるのか?
ローゼンメイデン第五ドール・真紅との出会い、アドニスたち聖闘士との出会い、
ホムンクルス・パピヨンとの出会いを経て、どうなるのか?
聖闘士からしてみれば憧れて止まない「普通の生活」の中にいる彼が如何にして成長していくのか?
今は、パピヨンの忌み嫌った「透明な存在」でしかない彼が、如何にして色が付いていくのか?
戦闘神話の「闘」と「話」の部分で彼を描いていきたいなと思っております
現実と闘うことも重要、思春期にゃ色々ありますし

というわけで、戦闘神話第二回はこれにて終了
次回第三回、北の大地にて氷河がであった闘士とは?
以下、次回!

44 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 09:09:35 ID:TtWWED7o0
>さいさん
派手な戦いの裏にあるバックヤードが複雑ですね。
正直、物を知らないからちょっと難しいけど。
サイトでまいっていたようなので、復活されて嬉しいです。
これからものんびりと完結までお願いします。

>銀杏丸さん
朝早くからお疲れ様です
激って熊の奴でしたっけ?意外なのが出たなw
それよりもジュンが出て嬉しいですね。
一瞬、星矢のジュネと間違えたけどw

45 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 13:23:17 ID:x2iAJ6JF0
サイト見たが、さいさんは何をそんなに悩んでいるのか
充分に面白くて文章も上手いのに。根が真面目過ぎるのかな?


銀杏丸氏、このくらいの文量が一番読み易いです。
キャラが多くなり過ぎて風呂敷を畳めるかどうか心配ですがw

46 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 13:51:58 ID:x2iAJ6JF0
>サイト見たが、さいさんは何をそんなに悩んでいるのか

自己レスだが日常生活が影響しての悩みなら安直な物言いすみません
SSの事オンリーならまったく心配されなくても良いと思います
少なくとも、ここに1人は楽しみしている奴がいるんだから

47 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 19:34:05 ID:6lBq8LCN0
この話の神父のイカレっぷりも好きだし、
次の婦警とまっぴーの話はエロくなりそうだから期待してます
だからあんまり落ち込まないで>さいさん

銀杏丸さんのも大長編になりそうだな
でも銀成市に主要キャラが集合してきたから意外と完結近いのかな?

48 :ヴィクティム・レッド:2007/03/15(木) 20:44:55 ID:UuOG2nJ40
「バイオレット、どういうことだ?」
 その問いに、キース・バイオレットはまたも珍しく弱気な表情を見せた。
「──クリフ・ギルバートとシルバー兄さんの戦闘は……現在進行形で続行中なの」
 それからちらりとセピアとユーゴーに視線をやり、
「クリフ・ギルバートはユーゴー・ギルバートが死んだと思い込んでいるわ。
放送で呼びかけてみてもなんの応答もない。被害ばかりが拡大する一方。
シルバー兄さんはグリーンがこの子たちを助け出したことに気付いているでしょうけど……
彼にその事実を教えることより、戦いを続けることを選んだのね」
 あの人も一度思い込むとこうだから、と、バイオレットは両手で自分の視界を狭めるジェスチャーをしてみせた。
「お陰でカリヨンタワー内は未曾有の大惨事よ。危険レベルが4まで引き上げられて、
シークレットフォース『イプシロン』の投入も真面目に検討されているわ。
笑えるだろう? たった二人の人間相手に、米国内でも指折りの特殊部隊を一部隊丸ごとぶつけると言うのだから」
 もちろん、笑えなかった。
 それにあの二人が人間だというのはどうだろうか、というのがレッドの率直な感想だった。
「に、兄さんは人間です。馬鹿にしないでください」
 セピアの背に隠れながら、ユーゴー・ギルバートがレッドに精一杯の険しい視線を浴びせてきた。
 それはてんでなっていない睨みかたで、睨むというよりはただ一心に見つめているように感じる。
しかもレッドが目線を返すと、途端にセピアの後ろに引っ込んでしまった。
「……誰もそんなこと言ってないだろう? なんだい、この子」
 不思議そうに肩をすくめるキース・グリーンに、ユーゴーに代わってセピアが説明する。
「ユーゴーはテレパシーが使えるのよ。エッチなこと考えてても筒抜けなんだからね。分かったかしら、青少年たち?」
 ね、とユーゴーの頭を撫でる。
 驚きと興味の入り混じったグリーンの視線に怯えるように、ユーゴーがますますセピアの背中に張り付く。
「あれ? レッドは驚かないんだね」
 薄々は感づいてたからな、とレッドは口にはせずに心の中で答える。
 クリフの精神を一度は目覚めさせた声、あの時聞いたユーゴー・ギルバートの声は音の無い声だった。
自分の思念波を直接、周囲に振りまいたのだろう。
 ユーゴーはクリフと同じくPSIラボの実験体のはずだった。そんなことのできる超能力と言えば一つしか思い浮かばない。

49 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 20:45:23 ID:KUJ0RIGt0
第一話
最悪の冬休みの始まり

のび太達がシルク・ド・フリークを見た7月から五ヵ月後の12月
冬の東京都練馬区ススキが原
この街は現在日本一治安の悪い所なのかも知れない。
朝、散歩をする老人もいなければ夕方に外で遊ぶ子供もいない
小学生から高校生まで集団で警察同伴の登下校が規則になった

事の始まりは7月の終わり頃
小学四年生の男子生徒の行方不明から始まった
必死の捜索にもかかわらずその男子児童は発見されなかった
そしてその頃から年齢性別、交友関係など共通事項は無くススキが原の住人合計42名が行方不明になった

10月の中旬頃
最初の行方不明者だった小学生が深夜に倒れている所を保護された
検査の結果全くの健康体、目立った外傷も無く精神状態も安定していたので数日で退院
数日して男子児童に警察が事情聴取が行われる予定だったが
男子児童はなぜか生の肉を食べたがり、外にぬけだしては肉屋の生肉を見つめるようになった
その後男子児童は精神病院に入院したが数日後病院を脱走し行方不明になる。
数日後、今度は同じく行方不明中だった男子中学生が夜の道を怯えているように歩いているところを保護された。
その中学生は入院中「血」もしくは「悪魔」その二つしか発言せず
そのまま数日が立ったある日、倒産され潰れた会社の廃ビルの場所を事情聴取のために訪れた刑事に話した。
そこに駆けつけた警察が見たものは捜索願が出された行方不明者41名中34名の死体、死因はすべて体中の血を抜かれた出血死
しかもその死体の中には内臓が取り出された者や激しい暴行を受けた後がある死体もあり事件の異常性を示していた。
警察は大量無差別殺人事件と認定、本格的な対策本部を設置し
住民に対する説明会や行方不明者の捜索、パトロールの強化等を行いその成果もあってか一時的に行方不明者の増加を抑えたが
11月中旬、男子中学生は首を吊って自殺
その後警察の必死の捜査を嘲笑うかのように行方不明者が激増
12月15日現在ススキが原及びその付近の住人の行方不明者は47名となっていた。

50 :ヴィクティム・レッド:2007/03/15(木) 20:46:07 ID:UuOG2nJ40
「テレパスってやつか」
「え? 違うよう、テレパシストだよ」
「……どっちでもいいだろ。大事なことか、それ」
 レッドがぶっきらぼうに返すと、セピアはむっとした感じでメガネの位置を直した。
 その仕草に訳も無く気の咎めるレッドだったが、そこに空気の読めないグリーンが話に割って入る。
「とにかくだね、今回の事態にはブラック兄さんも憂慮している。
兄さんは僕を褒めてくれたよ。兄が妹を手に掛けるという最悪の事態を回避したこと、
エグリゴリにとって非常に有益な二人の妹を救い出したことに、ね。……ああレッド、君のことはなにも言っていなかったよ」
 まさに鼻高々といった風情であった。ただ自慢したかっただけにしか聞こえない。
 最後の一言は明らかに余計であり、レッドを挑発しているとしか思えなかった。
 そう判断したレッドは『グリフォン』を密かに解放させ、チェシャ猫よろしくにやけたグリーンの鼻面へ超音波を──
「やめろと言っているだろう」
 バイオレットがベッドシーツの下に隠されたレッドの腕を鷲掴みにした。女の、いや人間の握力とは思えなかった。
「ぐあああぁ!」
 あまりの痛さに絶叫し、それを見下ろすバイオレットが呆れたように溜息をつく。
「……まあ、そんな元気があるのなら命に別状は無いようね。安心したかしら、セピア」
 こっそりセピアの横顔をうかがうと、彼女は心底から嬉しそうに深く頷いていた。

 「ブラック兄さんと善後策を協議する」と言い残し、バイオレットとグリーンは病室から消えた。
 入れ違いにドクター・ティリングハーストがレッドの元を訪れる。
「ふむ、また死に損なったようじゃの。同情するわい、レッドよ」
 いつもならその手の毒舌には不機嫌と苛立ちを込めた憎まれ口で応戦するのだが、今はそれよりも大事な用があった。
 どうしてもドクターに問い質さなくてはならないことがある。
「セピア。出て行け」
 ちょっと考えて、言い直す。
「オレはドクターと話があるから、あんたとユーゴーは呼ぶまで外で待っていてくれ」
 こう言うと、セピアは素直に従った。
 ユーゴーの手を引いて退室するセピアを見送り、ドクターは面白そうに口を歪ませる。
「どういう風の吹きまわしかね? まさかお前が言葉を選んでものを言うなど、思いもしなかったぞ」
「うるせえよドクター。それより聞きたいことがある」

51 :ヴィクティム・レッド:2007/03/15(木) 20:47:39 ID:UuOG2nJ40
「ほう……」
 ドクター・ティリングハーストの目が興味深く開かれる。
 それはエグリゴリの最高頭脳に相応しい、知性溢れる眼差しだった。
「セピアのARMSのことだ。『セマンティック・コンタクト』ってのはなんだ?」
 ドクターが「セピアのARMSとは」として提示したヒントがその言葉だった。
 意味論的に接触すること。
 その意味不明なシラブルに、いったいどんな秘密が隠されているのか、レッドはそれを知りたかった。
 レッドは、クリフとシルバーの極限状態を見、自分の行く末を悟った。
 だが、獣でも機械でもない道があるような気がした。
 その鍵がセピアの『モックタートル』にあるのではないか、と。
「この際、変にもったいぶるのはナシだ。答えろよ、ドクター。それが『モックタートル』の真の能力なのか?」
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える」
「おいドクター──」
 その韜晦めいた返答に、レッドは業を煮やして眉を吊り上げる。
 だがドクターは深い皺の刻まれた科学者の手でそれを制した。
「レッドよ。なぜ同じことをセピアに訊ねないのかね?」
「なんだと……?」
「彼女はお前と違って馬鹿ではない。自分のことを良く知っておる。それはお前さんにも分かるじゃろう。
なぜ、キース・セピアに『あなたを理解したい』、とたった一言が言えないのかね?」
「ふざけろよ、オレが聞きたいのはそういうことじゃなくてだな」
「同じことじゃよ。お前たちは不幸にもARMSを移植された、運命に選ばれた適応者じゃ。
その区別から逃れることなど出来はしない。大事なのは、それをどう受け止めるか、ではないかね?」
 ドクターがなにを言いたいのか、レッドにはさっぱりだった。
 だが、ドクターは確実になにかを伝えようとしている。
 おそらくはレッドに、セピアに、すべてのキースシリーズに伝えたいであろう、心底からの言葉を。
「ARMSを受け入れると言うことは、それを理解するということじゃ。それが生む破壊や絶望に委ねることでは、決してない。
ARMSをただの殺人兵器だと割り切り、自在に操っている気分になることに、いったいなんの意味がある?
キース・セピアその人を理解せずして、『モックタートル』が理解できると考えるのは、まさに愚考だと思わんかね?」

52 :ヴィクティム・レッド:2007/03/15(木) 20:48:30 ID:UuOG2nJ40
 もったいぶった話はナシだ、と言ったはずが、やはりドクターのベースに巻き込まれ、それそのものといった話になってしまった。
「やっぱり素直に教える気はねーのか」
「ふふん、ワシは単純明快な解決策を提示したぞ。『セピアに訊け』。それが最終回答じゃ。
どの道、お前の理解力ではワシの高尚な理論にはついて来れまいて」
「この狸ジジイ……」
 毒づくレッドをいなすように、ドクターは椅子から立ち上がる。
「しかしまあ、もう一つだけヒントを与えてやらんでもない。ただし、今後はワシにもっと協力的になることが条件じゃがな。
ワシのありがたい検査結果を邪険にしたり、自分にだけ都合のいい説明を求めるのは──
そう、お前の低俗な言葉を借りるなら『ナシ』、というやつじゃ」
「分かったよ。だからさっさと言ってくれ」
 それは即答とも言えるレスポンスの早さで、さしものドクターも「ほっ」と笑い声を漏らした。
 そしてドクターは白衣のポケットに突っ込んでいた拳を取り出し、レッドの眼前で開く。
 なにか握れていると思ったのだが、まったくの空手だった。
 その手は完全に上を向いておらず、むしろ地面に対しての垂直に近かった。
「……なんだ」
「ワシと同じようにしてみろ」
 言われて、レッドは半信半疑のままドクターの見真似で手を差し出す。
 すると、ドクターはレッドの手を握った。それは微かに生温かく、硬い皮膚感触がレッドに伝わってきて、
「な、なにすんだよ気持ち悪ぃ」
 手を振りほどこうとするレッドだったが、ドクターはその動きに合わせてぶんぶんと腕を振って離そうとしない。
「なに、ただのシェイクハンドじゃよ。気持ち悪いとはご挨拶じゃな。そんなに他人との接触を嫌うのはなぜだね?」
 ムキになったレッドがさらに強く腕を振ろうとしたところで、ドクターはあっさりとその手を離す。
勢いあまったレッドがたたらを踏むのへ、ドクターはさっさと出口に歩いていった。
「レッドよ。こういうときはの、『気持ち悪ぃ』ではなく、『How are you?』と言うものじゃ。
そうするとワシは『Fine,Thank you』と答える。握手の後に交わされる会話としては、そのパターンが統計上最も多い」
 ドクターはそこでポケットに手を差し込んだままで両腕を開いて見せた。
 白衣が垂幕のように広がり、レッドの視界を占める。これでヒントはお終い、とでも言いたげに。
 アリストテレスに代表される古代哲学の逍遥派が、講義の締め括りに衣を幕のように開いてみせていた、
という故事など、もちろんレッドは知る由も無い。

53 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/15(木) 20:49:33 ID:UuOG2nJ40
>>49
すいません、こっちは終わりました。
連日のブツ切り投下でご迷惑を掛けております。
どうぞ。

54 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 20:53:16 ID:KUJ0RIGt0
>>ハロイ様
重なってしまって申し訳ありません

>>49
「皆さん今日も警察の方達と一緒に真っ直ぐ帰ってその後はちゃんと家にいるよ〜に!!
冬休みだからと言って外で一人ではなるべく遊ばないでください!!暗くなる前に家には帰るように!!ではさよ〜なら」
○×小学校5年3組のび太達の担任の先生はそう大声で教室の生徒達に告げた
このクラスからも行方不明者は1人出ており、やはり心配なのだろう。
しかも今日から冬休みの為先生の口調が強くなるのを生徒達は感じていた。

さて下校中、警察官数人に囲まれて二列で何十人の生徒達が通学路を歩いている。
その一角にのび太達一同はいた
「あ〜あ、外に遊びにいけないだなんてふざけんじゃねぇつ〜の、おかげで毎日店番ばっかり、ホント嫌になるぜ」
ブツブツと愚痴をこぼすジャイアン
「仕方ないわよ、行方不明者が何人も出ているんですもの・・・。」
そう落ち込み気味で言うしずか
「それにしてもスネオの奴どうしたんだろ?今日学校来てないし心配だな〜」
「あら?のび太さん、知らないの?スネオさんは今日風邪で休んでるそうよ。」
「え?そうだったの?」
「のび太は相変わらず馬鹿だな〜」
そう言いながら笑うジャイアンに顔を膨らませるのび太
そこでしずかとジャイアンは立ち止まる
「じゃあ私はここで違う道だからいくわね。」
「あ・・・俺もここでお別れだな」
「バイバイ〜今日また電話するよ〜!!」
そういいながら手を振って警察の人に囲まれて三人は別々の帰路に着いた

55 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 20:56:57 ID:KUJ0RIGt0
それからしばらくして

「じゃあのび太君さよ〜なら」
引率していたガッチリとした体格の30台半ばぐらいの男の警察の人がそう言いながら手を振ってのびたの家の前から去った
家の距離上でのび太は家に帰るのは一番最後なので引率の人とはそれなりに仲良くなッていたのだ。
「は〜い、おじさんも気を付けてください」
そう言いながら男の背中に向けて手を振ればのび太は家の中に入り
階段を登りのび太の部屋の戸を開けるすると、
「やぁのび太君おかえり」
そう言いながらのび太を出迎えたのはドラえもんだ
「ただいま、ドラえもん、それにしても冬休みなのに外に出られないなんて嫌だな・・・・。」
「仕方ないよのび太君、こんなときに外に出て殺されちゃたら元も子もないんだから・・・。
僕は今日から工場に検査に行かないといけないから僕が帰ってくるまではパパさんとママさんの言う事をちゃんと聞くんだよ?」
実はドラえもんはのび太に電源を落とされて以来どうにも調子が悪く検査を受ける事になっていたのだ
「それはちゃんと分かってます」
「それと万が一に備えて一応この非常呼び出しブザー渡しておくから何かあったら絶対押す事、わかった?」
「わかってるよ!!ドラえもんは相変わらず心配性なんだから」
そう言いながらヘラヘラ笑うのび太にドラえもんは少々怒気を混ぜながら
「のび太君!!僕は君に死んで欲しくない!!だから万全の準備をしておきたいんだ!!それを君は分からないのか!!」
と大声で叫んでいた。流石にこれにはのび太も驚いて
「ご・・・・ごめん・・・。ドラえもん・・・。」
少々萎縮した形でドラえもんに謝っていた。
それを見てドラえもんは自分が大声を出してしまった事に動揺していたが
「ううん・・・。僕の方こそ怒鳴ったりしてごめん・・・・。」
辺りに嫌な空気が流れ始める・・・。
「じゃあ・・・僕もういくね?」
「うん・・・。けど早く帰ってきてね・・・。ドラえもん・・・。」
「勿論だよ。のび太君」
そう言って笑って見せるとそのままドラえもんはタイムマシンで未来へと向かっていった。
それを見送ればのび太は
「さてじゃあ僕は昼寝でもするか・・・。」
そう言えば毛布を取り出して座布団を枕にして横になる事0.3秒、完全に熟睡していた

56 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 21:05:04 ID:KUJ0RIGt0
それから数時間後
時刻は午後9時を過ぎ日はすでに沈んでいる、事件の事もあるので夜の外出者など、ほとんどいない。
のび太は部屋の窓から外を眺めていた。すると外に見覚えのある人影が見えた。
「ジャイ・・・アン?なんでこんな時間に?」
のび太は疑問に思ったが今考えても仕方が無い。急いで玄関から靴を持ってきてタケコプターで空を飛ぼうとした時
「やっぱし・・・丸腰じゃ外に出るの怖いな・・・・。」
そう震えながら呟くとドラえもんのスペアポケットから光線銃2丁取り出しポケットに装備する。
これを持つとのび太は何となく心強い感じがした。
そして窓からタケコプターを使い外に出た
冷たい空気が顔に当たり自然にのび太の表情は自然に引き締まっていく。
この夜に大声を出すと近所迷惑だと考えてかのび太はできる限り静かにジャイアン捜索を開始した。
そして1時間が経過した。
依然としてジャイアンは見つからず、流石に真冬に空を飛び続けたので寒かったのでのび太は公園で一休みする事にした
「ジャイアン・・・・。無事だと良いんだけど・・・。」
のび太は何か嫌な予感がしていた。
例えるなら通学中に犬の尻尾を踏んづけてしまいその後に襲われると直感する、あの感覚に近い
今、自分が何かをしなければ何か悪い事が起こる、そんな気がしたのだ。
そして立ち上がったとき
「こんな時間に何してるんだい?」
男の人の声がした。
そして気が付くとそこには緑色のコートを着た中学生ぐらいの少年がいた

「その・・・友達を探してるんです、ゴリラみたいな顔の男の子でジャイアンって言うんですけど知りませんか?」
「う〜ん・・・見てないな・・・。」
「そうですか・・・。」
のび太は明らかに落胆の色を表情に出す
「役に立てなくてごめんね」
少年は申し訳無さそうにそう言った


57 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 21:09:00 ID:KUJ0RIGt0
「いえ、・・・あの所で前にどこかで会いませんでしたか?」
「ああ、知ってるとも、シルク・ド・フリークでウルフマンを気絶させちゃた子供達の1人だろ?確か名前は・・・のび太君」
「え?どうしてそれを?」
「それは僕がシルク・ド・フリークの団員だからさ、多分君は僕と話したことは無くても見たことはあると思うよ?ステージの上で」
数秒間を開く、のび太はあまり記憶力の良い少年では無い、頭を抱えて思い出そうとするが、うまく思い出せない
その内のび太の頭から煙が出てきそうだったので
「まぁ覚えて無くても仕方ないかな・・・。僕の場合助手だったしね」
そう苦笑しなながら言いつつも少年は内心少々ショックを受けていた
「ほらこうやってフルート吹いて蜘蛛を操っていた助手さ」
そこまで言われてのび太の頭の中で歯車が噛み合った感じがした
「ああ・・・。あの蜘蛛の曲芸の時の助手の人・・・。」
何となくのび太は思い出しかけていたがどうにもあやふやな感じだった。
「まぁいいや・・・。とりあえず自己紹介、僕はダレン・シャンよろしく」
そう言いながらダレン・シャンと名乗った少年は右手を差し出した
「その・・・あんまり思い出せなくてすいません・・・。野比のび太です。よろしく・・・。」
そう言いながらのび太は差し出された右手を握った。
その瞬間だった
「危ない!!」
そうダレンは叫んでのび太を片手で放り投げた
その体格とは不釣合いな力で一瞬でのび太は数メートルまで吹き飛んだ
状況が全く理解できず
理不尽な痛みに混乱しながら前を見るとそこでは
ダレンとのび太と同じくぐらいの背丈の少年が戦っていた
両者の武器は同じくナイフ
辺りに響くのはナイフがぶつかり合う金属の音
それが数回響いて素人の、のび太の目から見てもダレンは圧されていた
そしてついにダレンのナイフは弾き飛ばされ地面に倒れこむダレン
ナイフを高々と持ち上げダレンを殺そうとする少年

58 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/15(木) 21:14:19 ID:KUJ0RIGt0
そしてナイフは――――――地面に突き刺さっていた。
辺りに響いたのは肉を裂く音では無く電撃が走るような音で
少年の手は何か強い衝撃を受けたように赤く腫れて
ダレンと少年が向けた視線の先には
まだ煙が出ている光線銃を右手に構えたのび太の姿があった
「ダレンさん大丈夫!?」
光線銃を構えたままダレンに言うのび太
予想外の出来事に呆然としていたダレンも正気に戻ったらしく
「ああ・・・。」
ダレンのその返事とほぼ同時にのび太目掛けて少年が左手にナイフを持ち襲い掛かってきた
少年の向かってくるスピードは速いがのび太の射撃の腕ならはずす事は無い
しかし少年が持つのはスピードだけではなく殺気だ。
気の弱いのび太はその殺気と言う名の気迫に襲われる
その結果手が震える、手が震えるという事は射撃の命中率が下がる。
「うわぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!!」
悲鳴に近い叫びを上げながらのび太は光線銃を乱射するが当たらない。
ダレンも少年の後を必死に追い阻止しようとするが

   ブスリ

肉にナイフが刺さる音がした
のび太の肩にナイフが突き刺さる
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い』
初めて肉にナイフが突き刺さる経験をしたのび太の頭にはそれしか思い浮かばなかった
のび太の肩から抜かれるナイフ、のび太は倒れて地面に肩から流れ落ちる血
「助けて・・・ドラえもん・・・。」
そう呟きながらのび太はポケットにしまった非常呼び出しブザーのボタンを押した。
これでドラえもんが助けてくれる、ドラえもんが何とかしてくれる
そんな思考がのび太の頭を支配していく。
そしてダレンが少年に突き飛ばされ少年のナイフがのび太の命を奪おうとした時
目の前の誰かがその攻撃を防いだ
それはのび太のよく知る青いネコ型ロボットではなく黒いマントにオレンジ色の髪をした屈強な男だった

59 :店長 ◆RPURSySmH2 :2007/03/15(木) 21:20:01 ID:KUJ0RIGt0
え〜お久しぶりです
呼ばれてないのに帰ってきました。店長です。
とりあえず展開が実は当初と全く違う方向に行ってまして正直自分でも予測しづらいです
なんというか前回までがプロローグぽくなった感じがするのでとりあえず今回のを第一話にする事にしました。
とはいってもネーミングセンス皆無なので全体的に駄目駄目にしそうな予感が・・・。
そして今回初めてのまともな(?)バトルシーンですがグダグダですね。
しかし今のところなんかこれが限界な気がしたりしなかったり
とりあえずこれからも頑張って精進したいと思ってますので温かい眼で見守ってやってください


前々スレ122様
なんか進んだようで進んでいないかもしれません。
とらあえずできればお付き合いくださいません

前々スレ123様
二つとも自分の好きな作品なので出来る限り頑張りたいとは思ってます
キャラ解説につきましては次ぐらいにしますのでしばらくお待ちを・・・・。

前々スレふら〜り様
え〜まぁどうなるか本気で自分でも分かりません
ただフリークの出番はあまり無いかと・・・。

60 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/15(木) 21:28:03 ID:UuOG2nJ40
ある程度書き溜めてから、まとめて投下したほうがいいのかな?
と思いつつも、連投規制に引っかかるのも嫌だなあと感じる今日この頃。

どうでもいい話を一つ。
原作では「サイコキネシスト」「テレパシスト」という名称で統一されている超能力ですが、
同じサンデーでいうなら絶対可憐チルドレンのように「サイコキノ」「テレパス」という名称で呼ばれたりもしています。
「サイコキネシスト」「テレパシスト」というのは「サイコキネシスを使う人」「テレパシーを使う人」って感じのニュアンスに比べ、
「サイコキノ」「テレパス」はどっちかつーと能力先行な感じです。俺的に。
能力あっての超能力者なのか、人あっての超能力者なのか、どうでもいいわ、アホ。
その辺のセルフ突っ込みも兼ねて、レッドには敢えて後者の名称を使わせてみました。
本当にどうでもいい話でした。


>店長氏
もの凄いハードな展開で驚きました。のび太がいきなり刺されるとは完璧に予想外です。
いや、ダークな導入部で気付いても良さそうなもんですが、俺、馬鹿なので。
ダレン・シャンは好きな作品の一つなので、どきどきしながら続きを楽しみにしています。

61 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/15(木) 21:39:32 ID:UuOG2nJ40
>さい氏
立て板に水を流すような、澱みない文は読んでて惚れ惚れします。
地の文が弱く、どうしても会話ばかりになってしまいがちな俺としては大変に羨ましいです。
月姫は知らないので「シエル=カレー魔人」という認識しか持ち合わせていませんが、合ってますか。

>銀杏丸氏
檄www青春してるなーwwwwww
前回の幕間のハードなテンションとは一転して、物語が動き出しことを感じさせる躍動感に満ちた話でした。
銀杏丸氏の英雄論は奥が深いですね。
俺は「好きな英雄は?」と聞かれれば「ダビデとゴリアテ!!」と答えるしか能のない子です。
だからなんか見当違いのこと言ってても、気にしないでください。

62 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 22:12:22 ID:EXIThFjV0
>ハロイ氏
鬼更新お疲れ様です。氏は筆がノると手がつけられませんなーw
レッドとセピアのコンビがいい感じだな。バイオレット姉さん凛々しい
でもなにより、ドクターが原作通りに飄々としていい感じ

>店長氏
お久しぶり。好調なバキスレにまたステキな戦力が増えて嬉しい限り。
でも、冒頭はかなりダークな出だしですな。鷲頭麻雀のようなw
のび太いきなりピンチだし。でも、句読点は使った方がいいかな



63 :作者の都合により名無しです:2007/03/15(木) 22:15:01 ID:EXIThFjV0
作品テンプレになかったので貼っとく


ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア
http://www25.atwiki.jp/bakiss/?page=%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93%E3%80%80%E3%81%AE%E3%81%B3%E5%A4%AA%E3%81%A8%E7%9C%9F%E5%A4%9C%E4%B8%AD%E3%81%AE%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%A4%E3%82%A2%28%E5%BA%97%E9%95%B7%E3%81%95%E3%81%BE%2945-1

64 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 00:13:51 ID:NYzPfSN70
ハロイさん、このペースでこのクオリティは凄いですな
オリジナルたちが出ないのは残念だけどユーゴーやバイオレットが魅力的ですな

店長さんお久しぶりです。ホラーな感じの幕開けですな
日常がどんどん消えていくのがいい感じです。ドラえもんなのに死人が出そうだw

65 :狂った世界で 序章:2007/03/16(金) 03:32:46 ID:sncTyKkQ0
「あ、シカマルー!」
「シカマルも召集?」
 いのとチョウジが、こちらに歩いてくるシカマルに向かって手を振る。
 シカマルは頷くと、軽く手を挙げて応じた。
「いのに、チョウジも……なーるほど。アスマ班、全員集合ってワケか」
 木の葉の里、火影執務室前。奈良シカマル、山中いの、秋道チョウジの三名が、顔を揃えていた。
 彼等第十班は、緊急任務との召集を受けて、火影執務室に呼び出されていた。
 シカマルは二人と視線を交わらせてから、代表するように一歩前へと進み出て、多少緊張した面持ちで、扉を叩く。
「失礼します」
「ああ」
 室内から返事が返ってくるのを確認して、シカマルたちは執務室に足を踏み入れる。
 五代目火影、綱手。その秘書兼お目付け役、シズネ。それから、彼女の胸に抱えられているトントン。
 そこには、いつもの二人+一匹の姿があった。だが、揃って、表情にはいくらかの翳りがあるようにも見える。
 最後に入室したチョウジが後手で扉を閉めるなり、綱手は三人を見回して、単刀直入に切り出した。
「よく来てくれた。早速で悪いが、緊急任務だ。木の葉崩し直後の混乱に乗じて、音のスパイが木の葉へ潜入していると、先日、暗部が突き止めた」
 言いながら、綱手は椅子を手前に動かして、机の引き出しを漁る。
「暗部からの情報によれば、明日の明朝、木の葉に潜入しているスパイと、音側の諜報部隊が直接接触、情報交換を行うらしい。場所はここだ」
 そして、引き出しから取り出した四つ折りの紙片を、事務机の上に広げて見せた。それは、木の葉の里周辺の地図だった。
 地図の一点――木の葉の里から東、数キロの地点――に、手書きの赤い丸が記されている。
「任務内容は、木の葉の内部情報を記したと思われる巻物の奪取、木の葉スパイと音諜報員の捕獲、もしくは抹殺」
「捕獲?」
 頓狂な声で、チョウジが聞く。

66 :狂った世界で 序章:2007/03/16(金) 03:36:24 ID:sncTyKkQ0
「ああ。出来ればイビキあたりに引き渡して、色々と聞き出したいからな。
 生け捕りが望ましいが、止むを得ない場合、生死は問わない、という訳だ。他に何か質問は?」
 綱手が一通り説明を終えると、シカマルが即座に挙手した。
「敵の人員、装備ですが、予想出来得る範囲で、どの程度のものになりそうですかね」
「音側の諜報部隊は人員、装備共に未知数だが……任務の性質上、少数精鋭の編成になるだろう」
「目立つのを嫌い、そう大人数にはならない、と」
「そうだ。木の葉側のスパイは、人数は一人か二人。中忍用のベストと、後はバックパックに、クナイ、手裏剣などの基本装備。
 お前と同じ装備だと考えてもらって差し支えない」
「了解」
「本任務は、Sランク任務になる。任務の難度……と言うよりは、その重要性を鑑みてのランク設定だ。心して取り掛かってくれ。頼んだぞ」
「はい!」
 三人は姿勢を正して、声を揃えた。

「何で、僕らなんだろうね? Sランクだよ、Sランク」
 帰り道。懐に隠しておいたスナック菓子を頬張りながら、チョウジは誰にともなく問いかける。
「おそらくは、急に入ってきた情報だからだろ。それに、木の葉崩しの影響はまだ色濃く残ってる。
 上忍を何人も、一定以上の規模の戦闘が想定できない任務に回すような余裕は、今の木の葉にはない。
 今回くらいの規模なら、オレたち……担当上忍不在の第十班でも任務遂行に支障はないって判断したんだろうさ」
 そこまで話して、シカマルは大きく溜め息をつく。その『判断』には多大な『妥協』が含まれていたであろうことは、容易に想像できたから。
 それに、昇格して間もないとはいえ、シカマルは三人の中では唯一の中忍。その分、任務における責任も重大だった。
「あー。出払ってなければ、アスマあたりに回ってきた任務かもしれねーなぁ、これは」
「いいじゃない。それだけ、シカマルが信頼されているってことなんだから。中忍選抜試験合格間もないのに、Sランク任務の指揮だなんて、きっと異例の抜擢よ」
 どこか物憂げな表情で空を見上げるシカマルの肩を、励ますようにいのが叩く。
「そういうもんかねぇ」
「そういうもんなの! シカマルはやればできるんだから。もう、呑気に昼行灯を演じている場合じゃないってことー」
「別にそんなもん演じてなんかいねーよ。ただ、緩急付けなけりゃ、やってられないだけで……」
 と、シカマルは途中で言葉を切り、後ろを振り返った。チョウジが一人、歩みを止めていたことに気が付いたからだった。
「どした? チョウジ」
「いや、その……今、誰かに、見られてたような気がして」
「視線? 鈍感なチョウジにしては、珍しいこと言うわねー」
 薄く笑いながらも、いのは油断なく周囲に目を遣り、気配を探る。

67 :狂った世界で 序章:2007/03/16(金) 03:37:44 ID:sncTyKkQ0
 通常、木の葉の里内部でここまで神経過敏になる必要はないのだが、先程聞いたばかりの任務の一件が、心にひっかかっていた。
 木の葉に潜入している音のスパイとやらが、シカマルたちの動きに勘付いた可能性もないとは言えないからだ。
「誰もいないみたいよ?」
 数秒の間を置いて警戒を解き、いのが首を横に振る。
「うーん、気のせいだったのかな?」
 ばつが悪そうに頭を掻いてから、チョウジは再び歩き出した。
 シカマルも念の為、周辺に注意を払ったが、不審者どころか猫一匹見当らなかった。
 これはいのの言う通り、チョウジの勘違いと考えるのが妥当だろう。
 しかし、シカマルはその正体不明の『視線』の話に、得体の知れない不安を覚えていた。
「何にも起こらなけりゃいいんだが……」
 シカマルの小さな呟きは、少し前を歩く二人に届かないまま、抜けるような青空に吸い込まれて消えた。

 夜。奈良家、シカマルの自室。
 シカマルは一通り装備を確認し終えると、バックパックの中身をテーブルに並べて、何やら細工を加えていた。
「めんどくせーけど、備えあれば憂いなしって言うしなぁ」
 独り言を零しながら、黙々と手を動かす。動かしながらも、任務のことを考える。
 巻物の奪取、捕獲に使えそうな術は……オレの影真似、影首縛り、いのの心転身、心乱心。
 それらの術が持つ特性を最大限に活かす為には……
 ふと、作業に夢中になっていたことに気付いて、壁に吊り下げられた時計に目を向ける。
 別れ際に決めた任務開始時刻まで、一時間を切っていた。
 スパイと諜報部隊が落ち合うのは早朝なのだが、現場を抑える立場のシカマルたちは、その先手を取り、網を張っておかねばならない。
「さーて、そろそろ出るか」
 シカマルはベストに袖を通すと、テーブルの上に並べた忍具を手早くバックパックに収める。
 よし、と気合を入れて、任務モードにスイッチを切り替えてから、いのとチョウジの待つ集合場所へと急いだ。

68 :proxy ◆PROXYj6mwM :2007/03/16(金) 03:39:12 ID:sncTyKkQ0
ひとまずここまでです。過去は最初だけで、メインは現在、一部と二部の間ですね。
NARUTOは設定が割合複雑で、把握しきれているかどうか不安であります。

69 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 09:02:06 ID:TaUC7JUm0
シカマルがメインキャラなのかな?
ナルトやサスケよりすきなキャラなんで嬉しいかな
前回はハードな雰囲気だったけど今回はいつもの
チームでいつもの雰囲気ですね。
Sランク任務だから只事ではないんでしょうが

70 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 12:00:59 ID:rB3XFR850
>ヴィクテムレッド
正直、短編で終わるかと思ってたので(未完かとも思ってたがw)
長編になり嬉しいです。原作キャラがイキイキしてて、オリキャラの
セピアも立ってて良いですね。レッドが成長しそうでしないところもw

>のび太と真夜中のバンパイア
お久しぶりです。お帰りなさい、かな?連載再開嬉しいです。
ドラ長編物はシリアスが多いですが、その中でも異色の始まりですね。
ダークな雰囲気で、いきなりのび太が刺されてるしw

>狂った世界で
前回の過去は、結局誰の過去だったんでしょうか?
今回から登場したシカマルはそんな雰囲気じゃないですしね。
それも少しずつ解き明かされたいくのでしょう。楽しみです!

71 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 21:48:38 ID:u9kVZhvp0
 控えめな速度でドアが開けられ、セピアが肩から上だけを部屋に差し入れる。
「お話、終わった?」
「ああ、終わったとも。これで失礼するよ。セピア、与えられた薬は毎日飲むんじゃぞ」
「な、なんのことでしょう、ドクター」
 冷や汗垂らしながらとぼけるセピアを見て、レッドにもなんとなく事情が推察できた。
「副作用が辛いのは分かるが、飲んだ振りをしてトイレに流すのは感心できないと言っておる」
「……ごめんなさい」
 素直に頭を下げたセピアだったが、まもなくがばっと顔を上げた。
 その目の色は無闇にきらきらしていて、反省の色がまったくない。
「でもでも、ドクターはなんでもお見通しなんですね。すごいです」
「ワシは医学的にお前と接してるからの。血液成分を分析すればその程度は造作もないわい」
 そう言っておいて、レッドに意味ありげな視線を送る。
 いい加減でうんざりしたレッドは手首を振ってドクターを部屋から追い立てようとした。
 ドクターはそれを特に気にすることもなく、ではな、手を軽く挙げて去っていった。
 急に病室が静まり返ったような気がした。空調設備の軽い駆動音が、ひときわその沈黙を引き立てる。
 セピアが軽く咳払いをし、ベッドの横にパイプ椅子を引きずり寄せて座る。椅子の足が床をこするのが、いやに響いた。
「ユーゴーはどうした?」
「え? あ、疲れて眠っちゃった。別にお部屋を用意してもらって、そこで寝てるわ。
……ずっと眠ってられたらいいのにね。目が覚めても、きっと辛いことしかないから」
 しみじみと言ってから、慌てて口元を押さえる。心に隠していた本音をうっかり聞かれたときのように。
「あ、いや、そうじゃなくて、きっとお姉さまやグリーン兄さまがなんとかしてくれるわ。
──ああ、これも違う、これはその、レッドが頼りないとかそういうことを言いたいんじゃないの。本当よ」
 本当だから、とセピアは何度も連呼した。見てるこっちがいたたまれなくなるくらいの必死さであった。
 「気にしてねーよ」とでも言うべきなのだろうか。なにかが違う気がした。
 ふと、試してみる気になる。

72 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 21:49:54 ID:u9kVZhvp0
「セピア」
「え?」
「手を出せ」
 言われたとおり、セピアは手を出した。ハロウィンにお菓子をねだる子供のように。
「そうじゃない」
 その一言で即座に理解したのか、セピアは「あ」と短くつぶやいて握手の形に向きを直した。
 自分とはえらい違いだな、とレッドはなんとなく思う。ドクターの言うとおり馬鹿なのかもしれない、と。
「あ──」
 セピアの手を握るのはこれで二度目だった。
 最初のときは、冷たく、すべすべしていて、陶器にでも触っている心持ちになったのを覚えている。
 では今は? ──よく分からない。
 ただ、あの時はまるで感じなかった肌の温かみを確かに感じ取った。
 セピアは今初めてレッドに会ったかのように、不思議なものを見るような目で、レッドの瞳をまじまじと覗き込んでいる。
 ややあって、そっと、レッドの手に触れるセピアの指に力が込められた。
 無言の時間が流れた。廊下では誰かが早足で歩いていた。
「How are you?(どうしてる?)」
「Fine,Thank you(上々よ、ありがとう)」
 それきり、さらに沈黙。
 その永遠とも思える時間感覚のなかで、レッドは手を離したくて離したくてしょうがなかったのだが、手は繋がれたままだった。
 セピアが万力のごとき握力でがっちりレッドの手を握り締めていたから──という訳では、もちろん全然ない。
 不本意と言えば不本意な展開だったが、不本意ついでにさらなる光景がレッドの目の前で起こる。
 セピアがもう片方の手でレッドの手首をつかみ、そのままゆっくりと持ち上げた。
 それは非常に緩慢な動作で、羽毛でも持つような、なんの抵抗もないであろう軽やかな手つきだった。
 そして、レッドの手の甲を自分の頬に押し当てる。
 静かに瞳を閉じて、全身の感覚をその一点に集中させているように。
 セピアの頬は、少し熱かった。

73 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 21:51:00 ID:u9kVZhvp0

 ──三十分後、レッドはカリヨンタワーの最上階にいた。
 相変わらず照明の足りない、この部屋の主の陰気さをうかがわせる明度だった。
 傍らにはセピアがいて、少し離れた所にバイオレットとグリーンが鏡合わせのような位置関係で立っている。
 そして、その奥には──。
「無事でなによりだ、レッド」
「ありがとよ、ブラック兄さん」
 その言い草にグリーンがちょっと嫌な顔をするが、なにも言わなかった。
「シルバーにも手を焼かされる……困った弟だ。クリフ・ギルバートはエグリゴリにとって優秀な、
このまま殺すには忍びない逸材だというのに。しかし、あの負けん気の強さがあいつの良いところでもあるのだがな」
 キース・ブラックの口調はどこまでも穏やかで、まるで本当に家庭内の問題を論じいるように聞こえる。
「僕はそう思わないな。旧人類の変異種ごときにここまで大それた真似をされて、黙って見過ごせと言うのかい?
そりゃ、シルバー兄さんの行動は少し度を越しているかもしれないけれど、それだって仕方ないよ。
僕等キースシリーズに逆らうほうが悪いんだ」
 そのあまりにも屈託のない発言に、今度はバイオレットが眉をしかめる。
 お坊ちゃん育ちが滲み出ているようなグリーンにふさわしい、どこまでも無邪気な言い分だった。
「グリーン。あなた、ブラック兄さんの決定に逆らうつもりなの?」
 グリーンは心外そうに、大仰な身振りで肩をすくめた。
「そんなんじゃないさ。任務は任務、僕だってその辺はしっかりしてるつもりだよ。
ただ個人的な見解からシルバー兄さんを弁護しただけさ。なんならクリフ・ギルバートくんに同情してやってもいい」
 頭越しに飛び交わされる会話に痺れを切らし、レッドが割り込む。
「ブラック、結局のところ、あんた、いったいどうやって片をつける気なんだよ」
 それが話の本題だと言いたげに、ブラックが深く首を振る。
「そうだ、レッド。お前がその身をもって実証したように、クリフ・ギルバートは非常に危険な存在だ。
だがその一方で、私は彼という稀有な能力者を失うことを恐れている。だから、彼には特別な処置を講ずることにしたのだ」
 特別な、という部分にアクセントをつけて、ブラックが言った。
「これよりグリーンとバイオレットには、『シルバーの無力化』と『クリフ・ギルバートの拿捕』という任務に就いてもらう。
シルバーは勿論のこと、クリフ・ギルバートを殺すことも許さない。
どちらも危険で困難な任務だが、お前たちなら私の期待に応えてくれると信じている」
 その言葉に、グリーンが芝居掛かった仕草で重々しく頷いてみせる。
 バイオレットは目を伏せており、その場の誰とも目を合わせないようにしていた。

74 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 21:52:23 ID:u9kVZhvp0
「なんだと……」
 身を乗り出しかけたグリーンによく見えるように、レッドは両腕を開いてみせた。
「──いや、お前の言う通りだぜ、グリーン」
 話の文脈を見失ったグリーンが、虚を突かれて押し黙る。
「なにも問題ない、問題ないんだ」
 努めて軽い口調で。慣れない笑顔も作ってみせた。
「レッド……?」
 訝しげに、セピアが呼ぶ。バイオレットもまた、レッドの意図を掴みかねているようだった。
「そう、これは大した問題じゃない。問題ですらない。
あんたら『マッド・ティー・パーティー』が雁首揃えて思い悩むようなことじゃないんだ。……そうだろう、ブラック」
 問いかける言葉の先には、ブラックがいた。両手の下から覗く口元は、微かに歪んでいるように見えた。
「あんたさっきこう言ったよな──『お前がその身をもって実証したように、クリフ・ギルバートは非常に危険な存在だ』、ってな。
合ってるよな?」
「間違いない。私は確かにそう言った」
 ブラックの肯定に、レッドは意を得たとばかりに続ける。
「実は、よ──オレはあの時、油断してたんだ。あんなガキがサイコキノだなんて思ってもみなかった。
アラート42を聞いても、目の前のそいつが『そう』だなんて、どうしても信じられなかった。
そのせいで先手を取られて、一方的にノされちまったのさ」
 丸っきりの嘘だった。レッドにとって、嘘をつくなどという行為はかなり新鮮な体験だった。
 だからといってそれが面白いかと聞かれれば、まったく面白くなかった。
「……事実だとしたら、私は救いがたい話だと思うがな、レッド。
お前の危機管理能力はその程度だったのか、と、お前への評価を改めざるを得ないだろう」
 グリーンが呆気に取られたようにレッドを見ていた。
 こともあろうにキース・レッドが自分の非を認めるとは──そういう驚愕がありありと顔に浮かんでいた。
 ドス黒い感情でレッドの目の前が真っ赤に染まり、だがそれも、なぜかすぐに霧散する。
「いや、悪かったと思ってるさ、ブラック。
オレが、その──不甲斐ないばっかりに、シルバーに圧倒的な悪条件下での戦闘を強いちまった。
これが屋外だったら、いや、もうちょっと広いスペースの施設だったら、一瞬で勝負はついてたろうさ」
 言いながら、ここだけは多分嘘ではないとレッドも認めるしかなく、それがわずかに腹立たしかった。
「だからよ、オレにやらせてくれ。クリフはオレが捕まえる」

75 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 21:56:44 ID:u9kVZhvp0
一レス分がどこかに消えたorz
取り急ぎ書き直します……

76 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 22:13:11 ID:IjxcH8RQ0
ハロイさん、一気に終わらせようとせず
気長に楽しませて
この話好きだから逆にじっくりと楽しみたい

また新連載で楽しませてくれるんなら鬼更新大歓迎ですがw

77 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 22:18:56 ID:OKG+3JWA0
>>73>>74の間に入れて読んでください)
「レッド、そしてセピア。お前たちはゆっくり休め。二人とも、不測の事態によく対処してくれた。
お前たちの働きで、被害を最小限に抑えることができたのだからな」
 レッドの後ろで、セピアが安堵の溜息をつくのが聞こえる。だが、
「ちょっと待てよ、ブラック」
 レッドはキース・ブラックという男を知っている。こいつがそんな生温い解決を望むような男ではないということを。
「話はよーく分かった。……それで? クリフをとっ捕まえた後はいったいどうするつもりなんだ?」
 バイオレットが控えめに、いや、控えめという前提でなら露骨に身体を強張らせる。
 ブラックは沈黙を守っていた。
 レッドの質問に答えたのは、やはりそうした空気の読めないグリーンだった。
「『アサイラム』」
 ほとんど無造作に放り投げられた単語に、レッドはその意味を受け取り損ねる。
「ああ?」
「エグリゴリが世界中から集めた特殊能力者を収容する監獄だよ。
本来ならプレーンな実験体しか収容しないんだけどね。彼には気の毒だけどそこで一生を送ってもらうのさ」
「あ、あの」
 おずおずと、だが決然とした面持ちで、セピアがグリーンに問う。
「ユーゴーは……どうなるんですか?」
 なんでそんな無関係なことを、と首を捻りながら、それでも懇切丁寧を顕わに答える。
「彼女は『危険な実験体』ではないだろう? そんな心配しなくても、これまで通りの天使の扱いさ」
 レッドは背後に振り返る。能天気なグリーンの声に反して、セピアの顔面は蒼白だった。
 わななく唇が、目じりに溜まった水滴が、今にも泣き出しそうになるのを必死で堪えていることを表していた。
「なにも問題ないよ、セピア。今回の件でユーゴー・ギルバートにとって不利に働くようなことは何一つないからね」
 レッドの心の奥に、ある名状しがたい感情が沸き起こる。
 それはいつも感じている、キースシリーズや敵に対して抱く憎悪に似ていたが、それとはまた少し違っていた。
 例えるなら、それはルビーの──その最上の発色を示す──鳩の血(ピジョン・ブラッド)に似て澄み切った、純粋な怒りだった。
「人の心が分からない、か──は、はは」
 知らず、レッドの口の隙間から細い笑いが漏れる。
「なんだよ。なにがおかしいんだ?」
「てめえの頭の中身がだよ」

78 :ヴィクティム・レッド:2007/03/16(金) 22:19:57 ID:OKG+3JWA0
「……ん? おい、なにを勝手なことを言ってるんだよ。ブラック兄さんは僕にだね」
 話の筋は見えていなかっただろうに、その言葉だけを聞き咎めたグリーンが異を唱えるが、
「黙りなさい、グリーン」
「え、でもバイオレット姉さんはさっき──」
「黙れと言っているのよ、坊や」
 当事者の片割れであるバイオレットに制止されるとは思ってもみなかったらしく、目を白黒させながらも口を閉じる。
「……レッドよ。つまりお前はこう言いたいのか?
『クリフ・ギルバートはなんら重要視に値する危険因子ではなく、アサイラム送りは無用である』」
 ブラックの発言を俯いて聞いていたセピアの首が、徐々に上を向く。
 その表情は少しだけ明るくなっていた。今ここでなにが起きようとしているのか、その事態の変化をやっと察したようだった。
「『そして被害をいたずらに拡大させた責任を取るべく、単身で任務に赴き、情況を制圧する』──」
「──少し、違うな」
 さすがにブラックがキナ臭い顔をするのへ、
「責任を取るのは二人だ。こいつもその場にいた。そのくせ、なにもしなかった」
 レッドはセピアを一瞬だけ顧み、
「なにより、オレたちはツーマンセルのユニットだ。そうだろう? あんたが最初にそう命令したんだよな?」
「レッド……!」
 セピアは小さく叫び、レッドの背に頭を押し付ける。レッドの陰になっているため、それはブラックには見えていないだろう。
「──なるほど。一応の筋は通っているな」
 含むように、ブラックが笑う。
 それはすべてを見透かしているような、癇に障る笑みだった。
「いいだろう。レッド、セピア。お前たちに任務を与える」

 カリヨンタワーの下層では、今も獣と機械が死闘を演じている。
 自分はいったいどっちなのか。
 獣か、機械か。
 その答えを見つけるために、キース・レッドは再び地獄の底へ降りようとしていた。


第九話 『心』 了

79 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/16(金) 22:27:49 ID:OKG+3JWA0
>>71>>72>>73>>77>>74>>78という順番です。失礼しました。
ダメダメですね。

>proxy氏
猪鹿蝶とはまた渋いチョイスですね。
いや、こういうの大好きです。シカマルの活躍に期待大です。

>>76
変な電波受信したら即書かないと逃げてしまうような気がするので……迷惑ですかね、やっぱ。
ご指摘の通り、他にも書きたい話を思いついたのでややペース上げていたのは否めません。
図星指されて冷や汗かきました。今度は空気読んで投下します。

80 :作者の都合により名無しです:2007/03/16(金) 22:38:33 ID:IjxcH8RQ0
クリフは意外とこの話のキーキャラっぽいですね
レッドの屈折した劣等感を、セピアが少しずつ溶かしているのかな?
次の任務をこの2人がどうこなすか楽しみです。

>……迷惑ですかね、やっぱ
いえいえ!
凄い更新回数はありがたかったのですけど(お世辞じゃなく面白いし)
なんか今月中で終わっちゃいそうで寂しかったんです。
本当に楽しみにしてますよ!

81 :前スレ441:2007/03/17(土) 01:56:07 ID:1LDhVoAr0
4月20日

長身の男が、窮屈そうに、身体を少しだけ折り曲げ、電車『あねはづる』の窓の外に広がる海を見る。
海面で反射した日光に、薄い緑色の瞳を、少しだけ眩しそうに細めて、視線を横に滑らせる。
その先に、海に浮かぶ、人が作り上げた島があった。
その人の手により、人の為に作られた島の名前は『辰巳ポートアイランド』といった。

駅が近づいてきたのか、あねはづるがだんだんと速度を落としていく。
程なくして、あねはづるは完全にその動きを止めた。
男は、乗客が全員降り切ってから、ゆっくりとモノレールを降りた。
最後まで待った理由は、至極簡単なもので、騒がしいのも、鬱陶しいのも嫌いだからである。

駅から出ると、春の温かい日差しが、男を照らした。

(天気がいいな)

最早身体の一部ともいえる帽子のツバを、親指と人差し指て摘み、クイッと目深に被り直しながら、そう思った。

駅前の広場で暫らく待っていると、事前の資料で確認した、長髪の男が近づいてくる。
確か名前は・・・幾月修司とか言った筈だった。

「いやあ、お待たせしてすみません。空条博士。いや、空条先生の方が良かったかな?
何にせよ、SPW財団の方が、我が月光館学園に興味をお持ち下さるとは・・・。いやあ、感激です。
急なお話でしたので、新学期には間に合いませんでしたが、今日から月光館学園の教師です。
それでは、立ち話もなんですので、早速ご案内いたしましょう」

幾月は長身の男、改め空条承太郎に、喋る間も与えず、手で歩く事を促した。
詳しい話は歩きながらする、という事なのだろうと判断し、承太郎は無言のまま歩き出した。

歩いている間にも、幾月は、学園の成り立ちや建物についての説明などを、行なっていく。
承太郎は内心、『よく喋る男だ』と思ったが、役に立たない話ではないので黙って聞いていた。

82 :前スレ441:2007/03/17(土) 01:58:20 ID:1LDhVoAr0
一頻り説明した後で、幾月が承太郎に尋ねてくる。

「何かご質問などは?」

承太郎は、少し考えた後で、口を開いた。

「俺はどこで教師をする事になる?」

幾月は、最も大切な事を教えていなかったのだ。思い出したように、手をポンと打つと、幾月は言った。

「ああ、すみません。空条先生には高等部に行って頂きます」

空条承太郎が高校の教師になる。普段の彼を知る人間がいたら、何を考えているんだ、と正気を疑うだろう。
しかし、彼はここで教師をする、いや、しなければならない理由があった。

それは十年前。ちょうど杜王町で、吉良吉影を倒した後の事だった。
ホテルの一室で、何と無しに、時計をちらりと見た時から始まった。

(11時59分か。遅くまでかかったな)

その時、承太郎は海岸で見つけた珍しいヒトデについて、レポートを纏めていた。
すると、急に部屋中の電気が落ちた。停電かと思い、ボーイに電話をかけてみるも、つながらない。

(新手のスタンド使いか?)

警戒しながら部屋の外に出て、階段でロビーまで降りる。
フロントの中を見ると・・・驚いた事に棺が立っている。

(これはスタンド能力、なのか?)

だが何時まで経っても仕掛けてこない。承太郎は覚悟を固めて、ホテルの外に出る事にした。

83 :前スレ441:2007/03/17(土) 02:00:42 ID:1LDhVoAr0
外に出て、まず気付いたのが、その静かさだ。
動いているものは、自分一人だけではないかと思ってしまうほどに、静寂が支配している。
そして、月が妙に明るく見える。地上の灯が消えると、月や星はこうも輝くものなのか。
承太郎は街に出てみたが、そこにも先ほど見た棺がずらりと並んでいるだけだった。
これほどまで効果を及ぼす能力を持ち、かつ仕掛けてこない敵に、承太郎は得体の知れない恐怖を覚えた。
そろそろ、この奇妙な現象が起きてから一時間は経つ。たった一時間なのにやけに疲れが溜まっている気がする。
承太郎は時計を確認してみたが午前零時丁度を指したまま止まってしまっていた。

(やれやれ、いつの間にか壊れたか?)

どこかで時間が見れないものかと、探してみるが、停電のせいか動いてはいなかった。

「やれやれだぜ・・・」

敵も攻撃してこない、電気は消えて真っ暗。ビルを仰ぎ見ると、その瞬間光が戻った。

「うおっ!?」

あまりの眩しさに、驚きの声をあげる。
街の明かりに慣れてゆっくりと、手を離して見てみれば、先ほどまであった棺は残らず姿を消していた。
その代わりに、何時もと変わらぬように歩いている人の姿があった。
先ほどまで消えていた時計も元に戻り、時間は0時00分を表示している。
自分の腕時計に、再び目を落としてみると、腕時計も何事もなかったかのように時を刻んでいた。

(馬鹿な?あれから数秒しか経っていない訳が無い。
1時間も時を止められる敵がいたとしても、1時間俺が動き続けられるはずが無い。せいぜい5秒だ。
スタンド攻撃ではなかったという事か。つまりこれは・・・)

何らかの現象である。そう結論付けた。
知り合いや、友人のスタンド使いに、話してみたが、彼らはこの時間を認識する事ができなかった。
それがなぜかは解らないが、きっと理由がある事なのだろう、と考えた。
それから、空条承太郎は、25時間目を『空白の1時間』と呼び、1日25時間を生きてきた。

84 :前スレ441:2007/03/17(土) 02:02:45 ID:1LDhVoAr0
この不可解な現象を解明するためにSPW財団の力を借りながら、色々と調べを進めた。
本来の仕事や、襲ってくるDIOの残党達と戦いながらだったので、あまり捗っているとは言えなかったが。
そして今年に入って、ついに原因と思わしき事件と場所を、見つける事が出来た。
それが『辰巳ポートアイランド』であり、『月光館学園』であった。
巧妙に偽装された、爆発事故。桐条グループとやらが、行なっていた実験。
ここにすべての原因がある、そう確信し、SPW財団の伝を使い、教師として潜入する事に成功したのだ。
幾月は、承太郎からの質問がもう無い事が解ったので、承太郎をつれて高等部の中を案内する事にした。
幾月に付いて廊下を歩いていると、生徒らしき声が聞こえてきた。

「うっわぁ、スッゲェデケェ!スッゲェマッチョ!
見た事ねぇな。新手の体育教師かぁ?ゆかりッチはどう思う?」

ちらりと目をやれば、帽子に髭の生徒が騒いでいるのが見えた。その周りに、女子と男子が一名ずつ。
今度は『ゆかりッチ』と呼ばれた女子が口を開く。恐らく名前が『ゆかり』と言うのだろう。

「順平!ゆかりッチって言うなっつの!う〜ん。体育って感じはしないかな?
数学とかじゃない?君はどの教科の先生だと思った?」

どうやら、ヒゲ帽子は『順平』というらしい。
ゆかりは前髪で顔の半分を隠した男子生徒に話を振った。

「・・・どうでもいい」

興味がなさそうな返事を返されて、ゆかりは困ったような顔をした。
順平もやれやれといった感じで口を開く。

「・・・お前、冷めてるよな」

承太郎は自分がされたのは新任教師の品定めだと理解した。
自分がやった覚えは無いが、周りでやっていた記憶がある。20年前の記憶だが。
こうして、空条承太郎は月光館学園での最初の一日を過ごした。
教師達との顔合わせなどがあったが、それは省略しよう。

85 :前スレ441:2007/03/17(土) 02:04:51 ID:1LDhVoAr0
時計の針は淀み無く進み、後数分で午前零時丁度を指す。
承太郎はポートアイランド駅から学園へと続く道を歩いていた。

昨日の『空白の時間』にこの学園の辺りから奇妙な塔が伸びているのを見たからだ。
前衛芸術のような外観の天高くそびえる塔。
まるでバベルの塔のようで、神々しくさえあった。

承太郎は直感的に”ここには何かある”と感じた。
と言うよりか、その光景を目の当たりにして、何も無いと考える方が難しいだろう。
正門の方に進んでいくと、零時間近だというのに人影がある。

承太郎は物陰に身を隠し、様子を伺った。
そこには昼間見た3人と、そのほかに2人。
赤いベストを着た男と、ロングブーツを履いた女がいた。

(やれやれ、肝試しには季節が早すぎるぜ。
ここは何か別の目的を持ってここに来たと見るべきか。
全く、初日からヘヴィな事になりそうだぜ・・・)

承太郎は物陰から姿を現すと、なにやら話し合っている5人に声を掛けた。

「おい。こんな時間に何をしている?」

86 :前スレ441:2007/03/17(土) 02:13:36 ID:1LDhVoAr0
その瞬間、時計が午前零時を指し、それまで一秒も休まず仕事に励んでいた時計が1時間の休みを取る。
月の輝く空を突くように、塔が伸びていく。唐突に現われた塔と男に驚きながら、順平が声を上げた。

「なんなんだよ、これ!俺らの学校、どこに行っちまったんだよ!?っつか、誰だよ、アンタ!いや、昼間見たけど!」

順平を制するようにロングブーツの女が進み出てくる。

「落ち着け、伊織!・・・申し訳ない、今日赴任してきた空条先生ですね?私は、桐条美鶴。
月光館学園を経営する、桐条グループの関係者です。ですから、今日赴任された先生の事を存じていた訳です」

承太郎は桐条と名乗った少女の顔をよく見る。桐条グループのトップ、桐条武治の一人娘、だったか。
この状況で冷静さを保てるとは、大したものだ、そんな風に思ってから口を開く。

「一つ聞くが、お前たちは目的を持ってこの場所に来ていたな?
ということは、今目の前で起った事も、今過ごしている奇妙な時間も知っているな?」

一部知らなかった者がいるようだが、この際それは除外だ。承太郎の問いに美鶴は答える。

「はい・・・。我々はこの時間を、『影時間』、そして、目の前にそびえる塔を『タルタロス』と呼んでいます。」

これが普通の時間で、普通の大人なら、彼女の言った事を笑い飛ばすかもしれない。
だが、空条承太郎は、そんな事はしなかった。恐らく、影時間ではなくとも、しなかっただろう。
承太郎自身が、高校2年生の時に、邪悪の化身とも言うべきDIOと、叔父に当る仗助は、高校1年の時に殺人鬼吉良と闘っている。
『そういう事もある』、たったそれだけの事を知っているだけで、目の前で起っている事を信じる事が出来た。

「分かった、信じよう。ところで、お前たちはこの塔に用があって来たんだろう?影時間は長くない。
詳しい事はそっちの方がよく知っているようだ。歩きながらでも話そう」
こうして承太郎と月光館の生徒5人はタルタロスに足を踏み入れることになった。
この瞬間、止まった時間の中で運命は動き出す。世界の歯車を止める者がいても、運命の歯車だけは止められる者などいないのだ。
 /l_______ _  _
< To Be continued | |_| |_|
 \l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

87 :前スレ441:2007/03/17(土) 02:18:23 ID:1LDhVoAr0
言った手前、逃げ道を塞ぐために出来たものを投下させてもらった。
しかし、4月から就職が決まっており、引越し先のネット環境もままならないため、執筆は遅々とした物になってしまうと思う。

そんな自分ではあるが、一つ宜しくお願いする。

ちなみにペルソナ3の主人公と作品のタイトルはまだ未定。

88 :作者の都合により名無しです:2007/03/17(土) 09:04:12 ID:E713XWxX0
>ハロイさん
キースシリーズの面々とセピア、キャラが立ってて面白い。
ナイスミドル高槻巌って出ないのかな?強すぎるから無理かな?

>前スレ441さん
おお、ゲームと漫画のコラボとおっしゃった方ですか!
JOJO大好きなので嬉しい。ゲームの方は知らないけど、天下の
承太郎が相手だから敵も手ごわいんだろうなー。楽しみ。

89 :作者の都合により名無しです:2007/03/17(土) 11:54:45 ID:Fj4XQJ3Q0
前スレ441さま、新連載お疲れ&おめでとうございます。
肩に力を入れず、ご自分が楽しみながら書いて下さい。

承太郎が教師か・・w 史上最強の先生間違いなしですねw
学級崩壊とか校内暴力とかありえなそうだ。
ペルソナが舞台ですか?
ペルソナはやった事ないけど、女神転生シリーズなら少しあります。
承太郎に仲魔とか出来るのかな?w 

90 :修羅と鬼女の刻:2007/03/17(土) 22:07:02 ID:tbb0KXfO0
>>9
激しく交錯する大和と正成の技と技。だが舞い散る血飛沫の中で大和の動きは
際限なく加速していき、やがて徐々に、徐々に、正成との差が開き始めた。
相変わらず正成は相打ちを厭わず攻めるのだが、正成が一撃入れる間に、
大和は二撃叩き込んでくる。いや三、いや四、いや五?
『!? 見えぬ……どころではない、まるで何十、いや何百という拳脚で同時に打たれて
いるような……人間を相手にしている気がしない……修羅? そうか、これが……』
「オオオオオオオオォォォォッ!」
普段の、のんびりとした様子からは信じられぬ気迫で向かってくる大和に、正成は、
「なるほどな。しかと見たぞ、これが圓明流……これが陸奥よ、お前の真の姿か!」
血染めの体を無理やり引きずり起こすようにして、己の全てを乗せた渾身の正拳を
繰り出した。その人間離れした速さと鋭さが、かわそうとした大和の側頭部の肉を
抉り取る。
だが抉られながらも大和は下がらず前に出て、正成の腕を取り肘関節を決めて
素早く反転、背負って投げた。正成の肘が、正成自身の体重によってへし折られる。
更に、逆さまになって落ちてくる正成の首に向かって大和の下段回し蹴りが、

ビキイイィィ!

情け容赦なく、叩き込まれた。首を軸にして数回転した正成の体が、打ち捨てられた
人形のように力なく落ちる。その口の端から、血の泡がいくつか、溢れて流れた。
「……お兄さん」
仰向けに倒れ、動かない正成に大和が近づいていく。
もう、二人とも闘気も殺気もない。大和を見上げる正成は、微笑すら浮かべている。
「なるほど……あの時は何とかかわせた……が、これが本来の……なんという技……だ?」
「陸奥圓明流『雷』。そうだよ、これが本来のオレの技。陸奥の業」
「そうか……手加減せず……やってくれたのだな……嬉しいぞ、陸奥……ぐっ、う、がっっ」
また血を吐いて、正成の顔から生気が薄れていく。
大和が膝をついて、正成を抱き起こす。だが、間もなく逝ってしまう正成に対して何も
言えないでいた。鎌倉幕府を倒して、新政府を立ち上げて、でもそれがあっという間に
崩れ始めて、その崩壊を止める為のこの戦は最初から勝ち目がないもので。

91 :修羅と鬼女の刻:2007/03/17(土) 22:07:53 ID:tbb0KXfO0
結局、自分たちのしたことは何だったのか?
「……なあ、陸奥……」
正成が、消え入りそうな声で言った。
「お前の名、『大和』……この国の発祥の地であり、転じてこの国の全土を指す言葉でも
あるが……その意味するところは、『大いなる和』……だ。昔、仏法をもってこの国を
平和に治めたと言われる、伝説の……聖徳太子が何よりも第一に、重んじたもの……」
「『大いなる和』……それが、お兄さんの目指してたものってこと?」
「……ああ。今……この国は乱れに乱れて、人々は戦の日々に苦しんで……だから、
俺は……俺が……」
正成の声が掠れてきた。大和は正成の手を強く強く握って、
「オレがやる! オレが、戦のない世を創ってみせるよ! 『陸奥』と『大和』の名にかけて!」
「……」
大和の手を正成が握り返した。つい先ほどまでの戦いからは想像もつかぬほど、弱々しく。
「……ありがとう、陸奥……お前とはのちの世でも……そののちの世でも……たとえ、
七度生まれ変わっても……また逢いたい…………な」
「オレも、だよ」
「…………陸奥…………や  ま  と……」
「! お兄さんっっ!」
大和の手の中の、正成の手から、力が消えて。大和の呼びかけに、正成は応えなかった。
正成の応えがないまま、大和の涙声だけが炎に包まれた本堂に響く。
天下の鎌倉幕府軍を敵に回し、僅かな手勢を率いて奇跡的な戦いぶりを繰り広げた
稀代の名将、楠木正成……湊川の合戦にて没。
本来ならばあっという間に終わったはずのこの戦が、現代の時にして約六時間もかかった
のは、足利尊氏がギリギリまで正成に降伏を勧めていたからだとの説が有力である。
「…………待たせたな。もういいから、出て来いよ」
と言って、正成の亡骸を横たえた大和が、涙を拭って立ち上がった。
その睨みつける先、本尊の陰から、
「いやいや、面白いものを見せて頂きました。裏切り暗殺何でもござれなこのご時勢に、
よくもまあこんな。餡子に蜂蜜をぶちまけたようなお芝居が見られようとは。
ごちそうさま、胸焼けがしそうです」
歪んだ笑顔で現れたのは、紅い髪に紅い着物、白い肌に鬼の妖気を立ち上らせる少女。

92 :修羅と鬼女の刻:2007/03/17(土) 22:09:22 ID:tbb0KXfO0
「お久しぶりですね、陸奥大和様」
「勇……」
まるで何百という蛇が這っているかのように。うねる火炎は柱から梁、そして天井の
ほぼ全域に達している。もう、この寺が焼け崩れ燃え落ちるのも時間の問題だろう。
肌を焦がす熱気の中、大和は勇に向かって言った。
「お前、何を考えているんだ」
「と仰いますと?」
「護良親王に助力して幕府を倒したのに、その護良親王を自分で殺した。それも、
わざわざ足利さんの領内で。更に新政府の機密文書まで持ち出して足利さんを
新政府と戦うよう仕向け、かと思えばその足利さんを嵌めて敗走させて……」
「ちょっと、お待ちを。貴方がどうして、そんな細かいことまでご存知なのです?」
「ご存知も何も。昨日の夜、足利さんと高さんに直接聞いた」
「……は?」
耳を疑う勇に、大和は淡々と説明する。
「説得しに行ったんだよ、足利軍の本陣まで。何とか軍を収めてくれないかって。けど、
やっぱりダメだった。今の新政府のやり方じゃ、貧しい地方武士たちは飢え死にするしか
ないって。だからオレは仕方なく引き返して、」
「いえあの、ですから。主従の契りはかわしていないのかもしれませんが、貴方は楠木様の
臣下のようなものなのでしょう? なぜその時、敵将である足利様を討たなかったのです」
「お兄さん自身に言われてたからだよ。次の時代、世を平和に治めるのは足利さんだって。
……今日、たった今さっき、この場でも、」
大和は溢れてきた涙を拭って、
「じ、自分の死に及んで、それでも誰のことも恨んでなかった。自分を死地に追いやった
新政府も、後醍醐帝も、足利軍に寝返った武士たちも、足利さん個人も……」
「で、そんな綺麗な思いのまま逝かせてあげたかったから、わたしのことも気付かぬフリ
をしていたと。なんとも貴方らしいというか。あぁ、胸焼け高じて吐き気がしそうです」
肩を竦める勇に向かって、大和は言う。
「足利さんは、こう言ってた。護良親王の件がなければ、時間はかかっても後醍醐帝
を説得できたかも。そして、先の平安京戦で勝ててれば、ここまで広範囲大人数を
巻き込んだ大規模な戦をせずに済んだかも、って。つまり……」

93 :修羅と鬼女の刻:2007/03/17(土) 22:10:51 ID:tbb0KXfO0
「ふふっ」
勇が笑った。嬉しそうに。
「あくまでも裏方で終わるつもりでしたが、こういうのも楽しいものですね。自分が営々と
築き上げてきたものを、きちんと知ってくれている方がおられるというのも」
「築き上げた、だと?」
「ええ。わたしにとって、戦場とは心安らぐお花畑のようなものですから。よりたくさんの
お花が、より広い大地に、より美しく咲き乱れるのが嬉しくてたまらないのです」
その言葉に、大和の表情が険しくなる。
「その為に、お兄さんや足利さんが築こうとしていたものを何度も突き崩して、
無意味に戦を拡大させてたのか……!」
「無意味ではありませんってば、わたしにとっては。それにほら、今の貴方のその顔」
勇の、艶かしいほどに妖しい視線が、大和に絡みつく。
「伝説の陸奥に、そこまで憎んで頂けるとは予想外の副産物。もしかしたら今この時
この場所で、貴方を本気で怒らせるそのためだけに、わたしは暗躍していたのかも。
日本国中を戦乱の渦に巻き込んだのもその手段。どうです? そう考えると光栄でしょう」
「あ、あはは……オレを怒らせる手段、か。だったら大成功だぜ。……オレは
生まれてこの方、こんなに怒ったことはない。こんなに、人を憎んだことはないっ!」
歯軋りして、両の拳を力一杯握り締めて、大和が歩を進める。勇に向かって。
勇は、辺りを囲む紅蓮の猛火にも負けぬ大和の殺気を楽しそうに浴びて、
「ふふっ。どうやら……ここからが本番ですね」
両腕を大きく広げて、陽炎のような妖気を強めた。ざわり、と真紅の髪が波打つ。
まるで、今まで戦乱に巻き込んで殺してきた、何万という人々の怨念を纏わりつかせている
かのように。
そして、その固体化したかのような妖気怨念に向かって、憤怒の修羅が切り込んでいく。
「いくぞおおおおぉぉっ!」
「喰らいます……!」

『陸奥』大和と、『半魔』の勇、激突!

94 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/17(土) 22:12:27 ID:tbb0KXfO0
この二人の戦いについてはご意見も頂きましたが。でもやはり、クライマックスは邪悪強大なる
ラスボスと死闘! でないと。そう、バルガイヤーは圧倒的だった。ラゲムはもう
どうしようもなかった。ダグバ戦はただただ悲痛だった……と、全部ご存知の方とは
一献酌み交わしたいところですな。最近のはどーも、怖さが威厳が強さがなくていかんっ。

>>ハロイさん
こういう構図ならクリフ、少々狂ったシスコンぶりとか前面に出てくると危うさが増していい
かもと思ったり。でレッドって前々から思考は結構なヒーローしてますけど、なかなか活躍が
追いつきませんね。何だかんだで息の合ってるサポートヒロインもいるんだし、次は頑張れっ。

>>さいさん
主人公たちを追い込む要素は多々あれど、味方に背中刺されるってのは痛々しいですよね。
それが裏切りとか洗脳とかならまだしも、悪意ある無能というか。逆らったら裏切り者になる
という構図。正直、ウィンストンにこういう理由でブレーキがかかったのにはホッとしましたよ。

>>銀杏丸さん
げげげげ檄ですかぃ旦那ッ。普通、青銅二軍っつーたら邪武か市でしょうに檄……さすが。
しかも一人だけ地味に平和に生きようとしてるし。ならば父親の手練手管、絶対に見習う
なよ、と。周りが騒がしくなっていく中、彼だけ平和には生きれまいし、再び戦場に立つ、か?

>>店長さん
最近少々スプラッタが流行ってきてますが、その対象がドラやのび太となると……エゲつなさ
が違いますな、かなり。のび太の射撃、技術はともかく殺気に押されてってのはあって当然
なのになかった話。そういうちょっとしたリアルさがまた、スプラッタにエグさを加えてますよ。


95 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/17(土) 22:15:49 ID:tbb0KXfO0
>>proxyさん
前回とは打って変わってほのぼの平和風味ですね。こちらが原作NARUTOのノリなんで
しょうか。シカマル、子供っぽいというか気の抜けた雰囲気でいながら、やることはやってて
チームリーダーの自覚あり。いい子のようです。前回の異形+1との接触、どうなりますやら。

>>441さん(逃げ道は塞いでも、休憩所は忘れずに。楽しみながら末永く、よろしくです)
お〜。JOJO世界で起こった数々の怪奇現象に劣らぬ不思議世界ですな。しかし我らが
承太郎、そういうこともある、の一言で済ませるか。そんな彼だからこそ長年戦い続けられ
たんだろうし、だからこの戦いもきっと。超絶百戦錬磨の彼に、立ちはだかるのはどんな奴?

>>サマサさん
それはまた、ご心痛な。私も似たような経験はあるのでお察しします。我ら読者一同、
大人しくお待ち申しております故、焦らずじっくりと修復作業して下され。きっとその過程で、
前より磨きのかかった作品が生まれますぞ。

>>久々2レス、めでたし。
常連さん元気、新人さん登場、ゴートさん丁寧こまめ、みんな賑やか、今日もSSに
燃えて萌えて。これだから離れられないんですよね。そう思ってる大勢の中に、私もいます。


96 :作者の都合により名無しです:2007/03/18(日) 01:01:37 ID:E1R6NkEX0
>前スレ441氏
まさかジョジョとペルソナ3のコラボとは。嬉しい誤算だ。
このクロスは意外だった。でも、確かに世界観は近いものあるかも。
無敵の承太郎をピンチにどんどん追い込んでほしいW 仗助もでるんかな?

>ふらーりさん
雷は最も好きな技なので、出てきて嬉しいけどそれで正成死にましたか。
七生報国の誓いともに。悲しいですな。
そしていよいよ頂上決戦か。陸奥の名を負う者は負けてほしくないな。


97 :作者の都合により名無しです:2007/03/18(日) 09:09:53 ID:uYKx2UEH0
ふら〜りさんの2レス感想を見ると
スレも本格的に好調になったという気がするな

大和と半魔の勇の決戦期待してます

98 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/18(日) 15:26:44 ID:MRJp6DE60
『前奏曲』

 夜の街の路地を、少女は走っていた。
 彼女の手を引くのは、同じ年頃の少年だった。
 二人はなにかに追われているように、時折後ろを振り返りながら駆けてゆく。
 静かな夜だった。その静寂を破るように、輻輳する足音が速いテンポを刻んでいた。
 二股に別れた道を、ビルとビルの狭間を、電球の切れかけた街灯の下を、崩れかけたパチンコ屋の前を、二人は闇雲に走る。
 その道の選び方は覚束なく、たびたび立ち止まっては行き先に迷う。
 それは明らかに土地勘のない挙動で、その異国風の出で立ちからも二人が旅行者らしいと窺えた。
「あっ!」
 少女が足をもつれさせ、アスファルトの地面に倒れた。
「姫!」
 少年が膝をついて少女を抱え込むように腕を伸ばす。
 その腕に少女が縋ろうとしたとき、路地の曲がり角から幾つもの人影が乱暴な足音とともに現われた。
 そいつらは、どこにでもいそうなやつらだった。詰襟の学ランを身につけたティーンエイジャーで、
昼間はめんどくさそうに学校に通い、放課後は駅前などにたむろして時間をつぶしているような、
真面目な学生からは「チャラいやつら」とか思われていそうな、そういう集団だった。
 ただ、それぞれが手にした武器だけが、不釣合いに彼らの異質さを強調していた。
 もはや短刀と言っても差し支えないくらいの大振りなナイフ。
 月の光を映しこんで、それは、「人を殺すのに十分な代物」だということを自己主張している。
「……あなたたちの目的はなんだ」
 地面に膝を付いたまま、少年が問う。懐に抱えた少女が軽く身を震わせた。
 誰も答えない。そいつらは目顔で合図を送り合うと、円を描くように二人の周囲に散開する。
 およそ普通の日本人学生とは思えないような、高度に連携された動きだった。
 イヌ科の野生生物が獲物をそうするように、ぐるりと取り囲んで間隔を狭める。
 牙の振り下ろされるときが近かった。
 その張り詰められた空気に、少年の瞳がある種の決意の色に染まる。
 少年の顔を見上げる少女が、不安そうに声を漏らした。
「小狼君」
 小狼、と呼ばれたその少年は、力強く少女に頷き返した。
「大丈夫です、あなたは俺が守ります」

99 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/18(日) 15:28:16 ID:MRJp6DE60
 その言葉をきっかけにして、そいつらが動いた。
 手の中のナイフを振りかざし、前後左右から二人に襲いかかる。
 少年は胸の中の少女を腕から離し、腰を浮かしかける。
 その時だった。
 いったいどこから現われたのか、或いはいつからそこにいたのか、たった一つの黒い影が、二人の前に立っていた。
 そいつが、独り言のつぶやく。うっかりすると聞き逃してしまいそうな声だったが、なぜかはっきりと聞こえた。
「なにが……君たちをそうさせてしまったのだろうな」
 そして影は身を翻し、伸ばした脚を恐るべき速度で振り回した。
 目にも止まらぬ蹴りに、暴漢どもが数人、宙を舞う。どしゃり、と力なく地面に落ちる。
それきりぴくりとも動かないその状態は、たった一撃で気絶させられていることを物語っていた。
 少女は、そして少年も、驚いたようにその人影を見上げた。
 奇妙な影だった。
 背や顔立ちからして歳若い、この場の者たちとそう変わらない年齢なのは分かるが、
そいつが男なのか女なのかは、いまひとつ判然としなかった。
 夜に溶け込むように黒いマントを身に纏い、メーテルのような筒の帽子をすっぽりと被っている。
 この闇の中でも、唇に引かれた黒いルージュが異彩を放っていた。
「君たちの心を狂わせるそのビート……。止めなければ……そう──」
 仲間がやられたことで、暴漢たちの間に警戒が走った。
 腰を深く落とし、本物の獣ように前傾姿勢を取る。彼らの攻撃目標は、今やその影だった。
 じりじりと間合いを詰め、数秒の間、そして、怒涛のように一斉に飛び掛った。
 その動きは淀みなく速く強烈で、人間の動きというものを逸脱しかけていた。
 だが──。
「『dis beet disrupts(崩壊のビート)』」
 影の動きはそれを遥かに凌駕していた。
 マントを翻して地面を蹴り、その反動を速度に変え、一瞬で一人の暴漢を蹴り伏せる。
 そして武芸者が刀を切り返すように、そのまま背後の暴漢二人の首にブーツのヒールを叩き込んだ。

100 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/18(日) 15:29:48 ID:MRJp6DE60
「…………!」
 少年は声も出なかった。
 ただ目を見開いて、いきなり現われた謎の怪人が、自分たちを狙っていた暴漢を次々と倒していくのを見ていた。
 そして少年は見る。
 暴漢をあらかた片付けてしまった黒い影、その背後から最後の一人がナイフを突き立てようとしているのを。
 影がそのことに気づいている素振りはなかった。
「危ない!」
 影は少年の呼びかけにも反応しない。表情一つ変えなかった。
 表情一つ変えないまま、それはまるで定めらていたことのように、演劇の殺陣をこなすように、
実に自然な動作で背後を振り返った。マントの下から差し出された手は真っ直ぐ伸ばされ、
二本の指がぴんと敵へ向けられていた。
「消えろ──『泡』のように」
 それが合言葉のように、指を向けられていた最後の暴漢が思いっきり仰け反った。そして、倒れる。
 その倒れ方は映画などでよくある、「銃で撃たれて死ぬ悪役」にも似ていた。
 事は終わった。
 暴漢たちは一人残らず道路に倒れ伏し、気を失っている。なかには寝息を立てている者さえいた。
「これで、彼らの心(ビート)も元に戻るだろう」
 どこかあどけない、もはや暴漢とは呼べなくなっているようなその寝顔を眺めながら、影はそう言った。
 危険が去ったことを悟った少女は、ふらふらとどこか頼りない動きで立ち上がり、影の前に立った。
 慌てて少年がその身体を支える。
「危ないところを助け下さって、ありがとうございます」
「なに、これが私の仕事だ。礼には及ばないさ。それに──」
 影は空を振り仰ぐ。雲ひとつない夜空に月が不気味に輝いていた。
「──いや、なんでもない。私はこれで失礼する」

101 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/18(日) 15:31:04 ID:MRJp6DE60
「待ってください。せめてお名前を聞かせてください。わたしは、サクラです」
 影は少女を真正面から見据えた。
 興味深さを感じているのか、知っている名前なのか、それともただ少女の顔の整った造型に目が行っているのか。
 そんなことを何一つ感じさせない、想像の余地すら与えない、それそういう無表情だった。
「私に名前などというものはないさ。だが……そうだな、人によっては私をこう呼ぶ者もいる。
不気味な泡──『ブギーポップ』、と」
 影──ブギーポップは風にそよぐマントを己の身に引き寄せ、今度は少年の方を向く。
「見たところ……君たちはこの街と遠くかけ離れた世界から訪れたようだな。
ここではないどこか……今ではないいつか……水面の向こう側にあるような、異なる世界の果てから」
 その言葉に、二人は心底から驚いて顔を見合わせた。
 どうして分かったんだ、とでも言うように。
 次の瞬間には、ブギーポップの姿は跡形もなく消えていた。泡が弾けて消えてしまうときのように、あっけない消え方だった。
 どこからか、声が聞こえる。
「──君たちの探し物が無事に見つかることを祈っている」
 その声も、一陣の風に紛れて散らばっていった。
 後に残されたのは、少女と少女だけだった。

102 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/18(日) 15:34:46 ID:MRJp6DE60

 少年と少女──小狼とサクラを見下ろす位置、七階建てのビルの屋上に、ブギーポップは立っていた。
 その視線は二人に注がれている。それは険しさすら感じさせる真剣さで、二人の心を見定めるように。
 背後で、階段に続くドアが開かれる。髪を長く伸ばした、二十代半ばの女性だった。
「お疲れさん、ブギーポップ」
「──君か」
「『君か』、だってえ?」
 女はブギーポップの声真似をし、不満そうに口元を歪ませた。
「『敵』は倒したんでしょう? だったらさっさと貴也の身体を返しなさいよ!」
「機嫌が悪いようだな、どうしたんだね」
 真面目そのもの、といった口調に、女が感情を爆発させる。
「恋人といちゃいちゃしてるときに脱兎のごとく駆け出されて一人取り残されて、それでどうやって上機嫌でいろって言うのよ!
ああクソ、せっかく今夜はわざわざ気合入れて料理作ったのに台無しじゃない!」
 ブギーポップは深く息を吐いた。呆れているような溜息にも似ていたし、空手の達人などがよくやる呼吸法にも似ていた。
「悪いとは思っている──だが、これで終わりではない」
「……どう言うこと?」
 女の眉が顰められるのに、ブギーポップは軽く首を振った。
「私が倒したのは、ほんの欠片に過ぎない」
「欠片?」
「そう……あの二人を襲った彼らは、ただ良いように操られていただけだ。
その根源は……世界を崩壊させるビートを刻む敵──『世界の敵』──は、別にいる。
あの二人も……もしかしたら私の敵になるかも知れないな。
あの二人が求めているのが、『崩壊のビート』を刻むような代物だとしたら」
 その眼差しは近くを見ているのか遠くを見ているのか曖昧で、この世のものではない『なにか』を見ているようでもあった。
 月は輝いている。風はまだ吹いている。
 夜は始まったばかりだった。

103 :作者の都合により名無しです:2007/03/18(日) 15:51:23 ID:MRJp6DE60
お目汚し失礼しますた。
えーと、「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」と「ブギーポップ・デュアル 負け犬のサーカス」のコラボです。
これからもう二作品くらい追加して、話を進めたいと思ってます。
というかメインストーリーになる原作作品をまだ出していません。

104 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:38:40 ID:Z0oquY0G0
――北アイルランド アーマー州ラーガン ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビル

ラーガン市内の外れにある六階建てのビル。
ビルに掲げられた看板には『ZOOROPA Trading Firm』とある。
この中小輸入貿易会社ビルの六階、暗く長い廊下を一人の少女が歩いていた。
黒のタンクトップにモスグリーンのアーミーパンツ、手には自動小銃アーマライトAR‐18、
そして頭にはそれらとは不釣合いなフリル付きカチューシャとリボン。
ブリギット・マクラウドは自身の15年間の人生と、これまで歩んできた闘士としての道をボンヤリと振り返りながら、
意味も無く廊下を行き来している。

自分は人を撃ち殺し、刺し殺し、爆死させてきた。
これまでもそうだったし、これからもそうなのだろう。
ただ、近頃は何かがおかしい。
突然、莫大な活動資金を提供してきた“協力者”。
自分を妹同然にからかい、可愛がってくれた“ギャラクシアン兄弟”は化物に姿を変えた。
そして、その彼らをなぶり殺したヴァチカンの“神父”。
憧れるだけで近寄り難かった“パトリック”は取り乱したり、沈み込んだり、そうかと思えば
またいつものように冷静で冷酷なリーダーらしさを取り戻したり。
まるでNew Real IRAが現実とは違う異世界に迷い込んでしまったかのようだ。
出口も見えず、正体のわからない何かが迫っている。

しかし、それでもブリギットは信じて疑わない。
パトリック・オコーネルはIRAに、そして自分の前に降り立った“救い主”だと。
十字架(アーマライト)を肌身離さず、祈り(闘争)を続けていれば、きっと神の御国(統一アイルランド)をもたらしてくれると。
もしかしたら彼はアイルランドにキリスト教を広めた守護聖人“聖パトリック”の
生まれ変わりかもしれない、と馬鹿な空想さえも抱いている。
そして、彼女の無意味な廊下の往復が二ケタに達した時、静かに声を掛ける者がいた。
「眠れないのか?」
当のパトリック本人だ。コツリ、コツリと足音を鳴らしながら、ゆっくり近づいてくる。
アルスター・コートにジーンズ。この格好だけはいつもどおり。無精髭の中の唇は微笑を形作っていた。

105 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:40:40 ID:Z0oquY0G0
「ううん、別に……」
あまり言葉を交わした事が無いだけに、こうやって面と向かうと緊張に身が固くなる。
だがパトリックはブリギットから少し離れ、壁に寄り掛かった。
そして彼女とは眼を合わせず、独り言のように話し始める。
「夜が明ければ午前中には“協力者”が来る」
「うん……」
気の利いた言葉も浮かばず、ただ曖昧な返事をするブリギット。
「何を企んでいるかは知らんが、奴には今日で死んでもらう」
「うん……」
「それに、あのヴァチカンの化物神父とも戦う事になるだろうな」
「うん……」
「ブリギット……」
「ん……?」
「お前は抜けろ」

「!?」

予想もし得なかった言葉を聞き、ブリギットは驚きに眼を見開き、開いた口が塞がらない。
だがパトリックは驚愕するブリギットなど意に関せず、淡々と話を続ける。
「俺の部屋の金庫に、ファーストトラスト銀行の貸金庫の鍵が入ってる。貸金庫の中身は協力者の
寄越した俺達の活動資金だ。残りは僅かだがな……。それを持ってこの街を――」
「何を言ってるの!?」
ブリギットはパトリックの言葉を打ち消すように、激しく疑問を投げ掛けた。
それも当然だろう。
僅かに死を恐れる様子を見せた部下を簡単に殺した、闘争の権化のような首領。
無言の突撃しか配下の者達に求めない残酷さ。戦闘に要する人員数よりも戦意高揚を優先させる無軌道さ。
その彼が、ブリギットに「組織を抜けろ」などとまるで甘い事を言う。
「私も一緒に戦うわ! 最後まで!」
ブリギットは彼に駆け寄り、すがりつく。

106 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:41:32 ID:Z0oquY0G0
「私を育ててくれた人達は教えてくれたわ! 両親の顔も知らない私に!
『母とは爆薬(コンポジション)。父とは銃(アーマライト)』だって! 私には戦いがすべてなのよ! 私には戦いしかないのよ!」
「聞け、ブリギット……」
パトリックは瞑目し、言葉少なに何かを諭そうとする。
だがブリギットは耳を貸さない。
「そして、あなたに出会えたわ! 私にとっての救い主はあなたよ! パトリック!
あなただから、あなただから今まで付いてきた……! これからだって、どこへでも付いていくわ!
最後まで一緒に戦うわ!!」
喚き続けるブリギット。
それを聞いているのか聞いていないのか、パトリックは訥々たる口調で語り始める。
「“命の価値”ってもんがある……。俺や、お前の……」

“命”

過激派の急先鋒である彼に、これほど似合わない言葉があるだろうか。
「何よ、それ! わかんない!」
「聞くんだ……。俺はいずれ死ぬ。下の階の奴らも。戦って、闘って、斗って、死ぬ。死ぬ為に戦うんだ。
俺達が命を賭けてイギリス人やプロテスタントを滅ぼした後は、俺達よりオツムの出来のいい連中が
国を創るんだろう。“政治”ってヤツをやるんだろう。
俺は小学校も出てないボンクラだが、これだけはわかる。
“新しい平和なアイルランドに闘士(オレタチ)なんて必要無い”
だから、俺が、俺達がその土台を作るのさ。“政治”の。“統一アイルランド”の。
その為に俺達は死ななきゃならん。いや、新しいアイルランドに俺達みたいな奴らは生きてちゃいけないんだ。
それが、俺の“命の価値”さ……」
「だから、私だって――」
「お前は生きろ」
今度はパトリックが彼女の言葉を打ち消した。“死”に己の価値を見出す闘士にあるまじき言葉で。

107 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:42:24 ID:Z0oquY0G0
「生きて、子を産め。闘争の種を産み増やせ。死を恐れない兵士を育てろ。祖国を愛する闘士を育てろ。
お前一人でも十人も産めば、分隊が出来る。お前ら女達がいれば、一個小隊なんてすぐさ。
お前ら女達がいれば、この北アイルランドに無敵の“大隊”を作り上げる事だって不可能じゃない……――」
大きく厚い掌がブリギットの両肩に置かれる。
「ブリテンを滅ぼすべき兵士を、統一アイルランドを創るべき若者を育てろ。それが、お前の“命の価値”だ。
闘士の俺にも為政者達にも出来ない事を、お前がやるんだ。その“命”を使って……」
ここまで話すと、パトリックは満面の笑みを浮かべた。
「この任務、任せたぜ」

ブリギットは気づいていた。
この会話が始まってから今まで、パトリックの口からは『New Real IRA』という言葉が出てこない。
ただの一度も。
パトリックはわかっているのだ。
自分達はここで死ぬという事を。New Real IRAはここで終わりだという事を。
そして、自分に“未来”を託そうとしている。
“IRA”の未来を。アイルランドの未来を。

ブリギットはパトリックの顔を見上げ、彼の瞳を覗き込んだ。
鮮やかなグリーンの瞳は輝きも生気も無く、ガラス玉のように眼窩に収まっていた。
本能のままに獲物に襲い掛かるホオジロザメのそれに似ている。
よかった。人殺しの眼のままだ。狂人の眼のままだ。
涙なんか流していたら絶対に承知しないとこだった。

おそらく、今の今まで誰にも明かした事の無かった彼の胸の内。
誰もが自分達の、それぞれの“本当”の存在意義なんて考えもしなかっただろう。彼以外は。
聞かない訳にはいかない。彼の“理想”を。彼の“願い”を。
それに……。そうだ、リーダーである彼の“命令”は絶対。それが掟だった。
ブリギットはパトリックの眼を見つめたまま、小さく微笑んで頷いた。
「……わかったわ」
そして、アーマライトを軽く持ち上げる。
「“コレ”は、持っていっていいんでしょ……?」

108 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:43:31 ID:Z0oquY0G0
「もちろんさ。俺達の魂だからな……」
その言葉を聞くとブリギットは彼からゆっくりと離れ、エレベーターに向かって歩き出した。
別離の言葉も、抱擁も無い。そんなものは何の意味も持たないからだ。
パトリックは彼女の事を忘れてしまうのだろう。彼の生きる世界は流れる時間さえも狂っている。
“過去”も“未来”も無い。ただ“現在”の繰り返し。この一瞬の、繰り返し。

だが、少女の心は僅かに揺らいだ。感傷に負けてしまった。

ブリギットは最後に小さく問い掛けた。立ち止まらず、振り向かず。
「ねえ……。また、会えるかな……」
パトリックもまた彼女の方へは振り返らない。
「ああ、地獄でな……。俺は一足先に行って、お前を待ってるぜ……」
返事は聞こえてこない。足音は遠ざかり、小さくなっていく。
そのまま、少女の気配は消えて無くなった。

やがて、彼の狂った時計がまた回り始めた。“現在”がやってきた。
『きょ、協力者が来ました……! 青いセダン車で敷地内に侵入。四人、仲間を連れています。』
見張りからの突然の無線連絡に、パトリックの闘争本能は瞬時にして沸きあがった。
「まだ夜明け前だというのに、しかも仲間を連れて……。やはり、殺る気か……!」
ギリギリと歯軋りをしながら腰の無線機を引き抜くと、一階に待機する十数名の部下達に呼び掛ける。
「わかった。……いいか、一階にいる者はそのまま待機していろ」
そして、少し間を置き、一階にたむろしている連中とは毛色の違う者達に呼び掛けた。
「聞いたな? 出番だ、同志達(フレンズ)」
ワンフロア下の五階にはパトリック子飼いの部下達が待機している。
二十年近くに渡って苦楽を共にしてきた同志達だ。
しかし、長い時はその数を確実に減らしていった。今や彼らは十指に満たない。
英軍や警官に殺された者、逮捕された者、脱走した者、組織内で粛清された者。
では、脱落していった者達と今の彼らの違いは何だ? 何故彼らは生き残っているのか?
答えは簡単過ぎる。
それは“生き残ったから”だ。

109 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/18(日) 17:47:24 ID:Z0oquY0G0
「ザック。お前は一階の連中を指揮して、奴らを正面から迎え撃て。なるべくビル内深くに誘き寄せろ」
『了解』
「アンディ、ゲム、ジェイ。お前らはその援護だ」
『了解』
「ポール、トニー、アラン、アンドリュー。奴らがある程度ビル内に入り込んだら、
窓からワイヤーを使って降下し、背後から挟撃しろ。タイミングを誤るなよ」
『了解』

必要な命令は出し終わった。
パトリックはこの同志達に何か声を掛けてやりたかった。
しかし特には思いつかない。こんなものだ。思えばこれが日常なのだから。
「以上だ(オーバー)」
無線機を腰に挿すと、パトリックは窓から外を見た。
成る程、見張りの言うとおり一台の車がビルの前で停車した。
だが、すぐに眼を離し、この北アイルランドを覆う夜空に眼を向ける。
空は未だ深い闇に包まれている。しかし、夜の闇が深ければ深い程、暁もまた近い。

「もうすぐ夜が明けるな……。朝が、来る。皆殺しの朝(ドーン・オブ・ザ・デッド)が……。
皆、死ぬ……。俺達も、奴らも、誰も、彼も。それは……そういう事だ」






やっと前フリ状態のEP9が終わりました。会話とオリキャラだらけでニンともカンとも。この作品にチョコチョコ登場して
今回扱いが大きかったブリギットは、漫画『CYNTHIA THE MISSION』の登場人物です。でも何か違うキャラになったかも。
次回EP10――。降臨。計画発動。三つ葉(シャムロック)。破壊者と再生者。ビジネス。

110 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/03/18(日) 17:49:58 ID:Z0oquY0G0
銀杏さん
檄ですか!w 懐かしいなぁ……。読んでみて思い出すあの熊の人。熊の人って言ったら、ハムの人みたいで失礼か。
ローゼンメイデンは興味があるけど未だに読んでないのです。ハガレンも。読めばもっと『戦闘神話』が楽しめそうですが。
それにしても銀成市大変な事になりそうですな。

>>44さん
色々複雑にさせ過ぎた感が無きにしも非ずです。これからもっと色々噴き出すかもしれません。それぞれの所属している組織や
背景に問題が多いもので。錬金戦団と百年前から変わらない上層部、カトリックと異端弾圧、北アイルランド紛争とテロリズム、等々。
そしてご心配お掛けしてすみません。しかし、のんびりしていられない! 何故なら是が非でも次回作で今年度SS大賞各部門を(ry

>>45-46さん
私みたいな者のSSを楽しみにして下さり、感謝の極みという言葉しかありません(感涙)。たまに落ちてしまうのは、おそらく日常生活に
おっぱい分が不足がちなところから起きているのでしょう。日頃からまっぴーや婦警のおっぱいをオーバードーズ気味に摂取しなければ。
これからも頑張らせて頂きますので、生温かい目で見守ってやって下さい。

>>47さん
エロ……。良い響きですねえ……。しかしエロはあくまでエッセンスといった感じで、本題はまっぴーと婦警の友情(やや百合気味)、
人間と吸血鬼の共存問題、ぶっ殺しエグエグバトル等々で〜す〜の〜で〜。あと神父のイカレ描写は精神状態が静かで
落ち着いていないと書けないという矛盾。イカレててはイカレたものが書けないという不思議。落ち込まずに頑張りま〜す。

ハロイさん
驚異的なスピードでの更新お疲れ様です。ARMSの登場人物では(横縞な意味で)大好きなのがバイオレット姉さんと
ユーゴーなので最近の展開は嬉しい限り。あとキースシリーズではシルバーがお気に入りな私は少数派ですかね?
「シエル=カレー魔人」という認識は概ね正しいかと。あとは「女アンデルセン」とか「ア○ルカレー先輩」とか。

ふら〜りさん
はああ……。ついに正成が……。どうにも溜息ばかりです。史実を変えられるものなら変えてしまいたい。
あと“雷”には個人的な意味で驚かされました。やはり映えるというか、派手で格好良い技ですからね。『修羅の門』と
言われたら、真っ先に頭に浮かぶ技は“雷”です。それか“獅子吼”。さて陸奥と範馬(半魔)の戦い。最後に立っているのは
修羅か巨凶か。見逃せませんな。でも、正成……orz

111 :作者の都合により名無しです:2007/03/19(月) 03:09:55 ID:WeXpjR9r0
>シュガーハート&ヴァニラソウル
新連載おめでとうございます。ツバサは知ってますが、ブギーポップというのは知りません。
ですが疾走感のあふれるオープニングでとても期待出来ます。
最近、腕の立つ新人さんが多く現れて嬉しいなあ。完結目指して頑張って下さい。

>WHEN THE MAN COMES AROUND
さいさん、調子が戻ってきたようで良かったです。
私以外にも、多くの人が氏の作品を楽しみにしてると思いますので自信を持って下さい。
しかし、神父の前では異教徒は命の価値が風化してしますなー。

112 :作者の都合により名無しです:2007/03/19(月) 14:22:53 ID:lsSj3JFs0
>シュガーハート&ヴァニラソウル作者さん
タイトルからしてなんとなく少女漫画からの出展かと思っていましたが
本編を読んだらハードなアクションみたいですね。
まだ序章ということでお話がどう展開するかわかりませんが非常に楽しみです。
多分、長編になると思いますが最後まで読み続けますので頑張って下さい。

>さいさん
前フリ状態ですとも、世界観はちゃんとしていますので読み応えがありますね。
錬金はバキスレの影響で読んだので分かりますが、ヘルシングは未読なので
原作キャラとオリキャラの区別はつきませんが楽しんでいます。
次回、キャラ紹介でしたっけ?参考にさせて頂きます!




113 :作者の都合により名無しです:2007/03/19(月) 18:39:29 ID:o99JOF2U0
さいさんお疲れ様です
パトリックの「生きて、子を産め〜」のセリフがツボでした
これは原作のセリフですか?
自分で考えたならかっこいいなw


新人さん、いらっしゃいませです
今回の題材は2つとも知りませんがwこのSSの雰囲気を
原作のものと思い楽しませて頂きます
メインの作品が何か楽しみです。完結までお願いします。


114 :作者の都合により名無しです:2007/03/20(火) 00:41:44 ID:1o+4wcD/0
まさかブギーポップまで元ネタになるとはw
バキスレは本当に何でもありだなw
期待してるので頑張って下さい。

115 :作者の都合により名無しです:2007/03/20(火) 09:07:43 ID:7HVRpxpI0
ナルト・ジョジョ・ツバサと新作が立て続けにきて嬉しいねえ
ハロイさんと店長さんも復活してくれたし。

サナダさん、ミドリさん、ハイデッカさんたちも復活してくれないかな

116 :作者の都合により名無しです:2007/03/20(火) 15:32:50 ID:eQVdWSUK0
大盛況だね
この調子が続いてくれるといいけど
でも平日がちょっと弱いかな

117 :狂った世界で 序章:2007/03/20(火) 18:42:22 ID:UjlfIsfo0
 木の葉の里外れにて、いの、チョウジと合流したシカマルは、任務遂行のプランを二人に話して聞かせる。
「色々と考えてはみたんだが……割合、工夫のない作戦になっちまった」
 その言葉の通り、シカマルの立てた作戦はシンプルなものだった。
 スパイと諜報部隊の接触予定ポイントの近くで、変化の術で動物などに扮して待機。
 その際、三人はチョウジ、シカマルといのの二手に別れて、ポイントを挟み撃ちするような陣形をとる。
 そして、スパイが諜報部隊と接触し、動かぬ証拠となる巻物を取り出すのを確認したら、行動開始。
 チョウジが起爆札と煙玉で敵の注意を逸らし、その隙にシカマルといのが逆方向から奇襲を仕掛ける。
 煙に乗じて巻物を奪い、木の葉に潜入しているスパイと情報を回収しに来た諜報員を、それぞれ一人を目安に拘束する。
「それから、何らかのミスで巻物の奪取に失敗、敵が巻物を所持したまま散開するなど、俺たちが別行動を余儀なくされる場面もあるかもしれない」
 実際、音忍に唆されて里を抜けたサスケを奪還する任務では、敵の足止めにより、戦力が分断された。
 サスケに追い縋る為――任務を成功させる為に、仲間たちはいずれ劣らぬ強敵揃いである音の四人集と、一対一の勝負をする羽目になった。
 病み上がりの身体で駆けつけてくれたリー。それから砂隠れの我愛羅、カンクロウ、テマリの増援がなければ、全員の生還は危うかっただろう。
 あの時、小隊長として指揮を任されておきながら仲間を危機に晒してしまった記憶は、苦い経験としてシカマルの中に未だ残っている。
「そこで、だ。めんどくせーけど、簡単な変化対策だ。ないよりマシ、程度のものだから、くれぐれも過信しないでくれよ」
 そう前置きしてから、シカマルは説明を始める。

118 :狂った世界で 序章:2007/03/20(火) 18:44:18 ID:UjlfIsfo0
 変化の術は忍者アカデミーの必修科目にも据えられている、基本中の基本忍術だ。
 しかし、基本故にその汎用性は高く、使い方次第では、下手な禁術よりも強力な術となり得る可能性を秘めている。
 サスケの写輪眼、ネジ、ヒナタの白眼など、特殊な童術を持つ者なら、変化の術を見破るのは容易いのだが、今回の任務では童術を持つメンバーはいない。
 熟練した達人レベルの忍者であればその所作、チャクラの流れなどから看破出来る場合もままあるらしいが
 それを今の第十班に求めるのは、流石に酷と言うものだろう。
 予め、対応策を持っておくに越したことはない。それがシカマルの判断だった。
「一度離れてから合流する際に、片方が、片手を挙げて宣言することを示してから、適当な数字を言う。数字はいくつでも構わない。
 答える側は、その数字から三を引いた数字を答える。八と宣言したら五、五と宣言したら二、と言った具合に。
 そして、宣言した側は、答える側の言った数字を、鸚鵡返しに繰り返す。それで終了だ。
 要は『マイナス三』が鍵の役目を果たすワケで、それだけ頭に入れておいてくれれば問題ない」
「わかった」
「了解よ」
 チョウジといのが、揃って頷く。
「よし、それじゃあ各自、所定の地点で待機。後は予定通りで頼む」

「こちらフォルテワン、現在接触予定ポイント付近に到着、どうぞ」
 音隠れのシンボルマークが刻まれた額当ての位置を、神経質そうに何度も左手で調節しながら、無線機に向かって語りかける。
 目にかかりそうなくらいに前髪を垂らした、どこか暗そうな雰囲気を漂わせる男だ。
 彼の名はトウバ。フォルテワンの隊長である。

119 :狂った世界で 序章:2007/03/20(火) 18:45:26 ID:UjlfIsfo0
 今回、音諜報部隊は、フォルテワンとフォルテツー、二つの隊に分かれて行動していた。
 トウバ指揮するフォルテワンの役目は、本来諜報活動を専門とする為に戦闘能力に劣るフォルテツーの護衛だった。
 フォルテツーに先行して、罠の有無をチェックすると同時に索敵を行い、移動ルートの安全を確保。敵襲とあらば応戦する。
 一言で言ってしまうならば、戦闘要員である。
「こちらフォルテツー。了解。周辺に鼠が潜んでいないか、十分な警戒を」
「オーケイ。確認が済み次第、連絡を入れる」
 トウバは苦々しげな表情で、無線機のボタンを押す。
 ブツリ、と、最後に不快なノイズを耳に響かせて、通信は切れた。
「まったく、あの女は。言われるまでもない……」
 トウバは一人愚痴る。任務とは言っても、自分よりも弱い者に顎で使われるのはあまり気分のいいものではなかった。
 忍頭である大蛇丸の実力至上主義的な方針に惹かれて、音隠れの里の一員となったトウバにしてみれば、尚更である。
 無論、フォルテツーのメンバーとて、ただの木偶坊などではあるまい。
 諜報活動においてはフォルテワンを遥かに凌ぐスキルを持っているからこそ、こうして遠方まで出張ってきているのだろう。
 しかし、それにしたって、もう少しくらい謙虚な物言いをしてもバチは当たらないというものだ……
 トウバがそんなことを考えていると、カイ、ゲンの二人が索敵を終えて戻ってきた。
 カイは小柄な少年。ゲンは強面の大男。正に凸凹コンビと呼ぶに相応しい二人だった。
「カイ、ゲン、どうだった。ポイント付近に異常はないな?」
「いえ、それが……」
 と、カイは声を潜める。
「僕の『千里眼』によれば、ポイント付近に、変化の術を使用して潜伏している忍が、少なくとも……三人」
 カイは、疲れたように目を擦りながら言う。
 カイの童術『千里眼』は、血継限界ではなく、特殊な手術によって後天的に身に付けたものだった。
 童術としては未完成であり、その分、体にかかる負担は大きい。チャクラ量に余裕があっても、長時間の使用は無理だ。
「ふむ。今回の一件、木の葉に気取られているか。どうしたものかね」
 トウバは左手を顎に添えて、ううむ、と唸った。
「なあに、迷うまでもない。つぶしてしまえばよかろう」
「そういうわけにもいきませんよ。もう、敵本陣……木の葉の里は目と鼻の先です。
 ここで僕たちが派手に暴れでもすれば、すぐに木の葉から増援がやってくる。そうなってしまっては、任務どころではなくなります」
 ゲンの短慮な発言を、カイが諌める。

120 :狂った世界で 序章:2007/03/20(火) 18:47:10 ID:UjlfIsfo0
「かと言って、予定通り接触するのも、みすみす罠に飛び込むようなもの、か……」
 トウバは少しばかり考えてから、言葉を続けた。
「敵さんはおそらく、我々を接触させておいて、そこを少数精鋭で一網打尽にする算段だろう。
 警戒しつつも、表向きは予定通りに振舞い、彼等の存在に気付いていないように見せかける。
 そして、敵さんが仕掛けてくると同時に、木の葉への潜入組を引き連れて音隠れへと逃走。今思いつく作戦はそれぐらいか。
 前以て覚悟ができているとはいっても、どんな手を用意しているのかもわからない奇襲を凌げるかどうかは、頭が痛い所だが……
 少なくとも、こんな場所で正面からやり合うよりは得策であるのは疑う余地がない」
「あの、奇襲の隙をつくのならば、分身体を向かわせてはどうでしょうか?」
 カイの提案に、トウバは首を横に振った。
「いいや、小細工はしない。全員本体でポイントに向かう。敵さんにも童術持ちがいるかもしれん。
 こちらが分身体であると気付けば、その時点で行動を開始するだろう。
 そうすると、状況を把握できていない上に、本体で来る潜入組は格好の的になってしまう。
 もし分身体が運良く巻物を受け取れたとしても、本体にたどり着く前に一度でも攻撃を受ければそれでアウトだ」
「なるほど……わかりました」
 カイは最もだ、という風に頷く。
 それに軽く頷き返してから、トウバはいかにも嫌々といった表情で、懐から無線機を取り出して連絡を入れる。
 というのも、今回の任務、その主導権を握っているのはフォルテツーだった。
 サポート役に過ぎないトウバの一存では、決定は下せない。
 トウバは今までの経緯と自分の作戦を、フォルテツー隊長であるミサキに伝えた。
「了解。隊の安全、任務遂行、どちらの観点から考えても、そうするのが合理的でしょう」
 一通り聞き終えると、感情の籠らない女の声がそれだけ告げて、一方的に通信は切られた。
「どうやら、お許しが出たらしい」
 トウバは苦笑しながら、カイとゲンに視線を投げ、大袈裟に肩を竦めてみせた。

121 :proxy ◆PROXYj6mwM :2007/03/20(火) 18:49:21 ID:UjlfIsfo0
ここまでです。前話は>>65-67
原作は時々ギャグを交えつつ、基本的には淡々と進行していく感じですね。
猪鹿蝶をメインに据えたのは作者の趣味です。シカマルはその中でも重要なポジションを占めると思います。
そもそも今後ナルトの出番があるか怪しい始末で……。

122 :作者の都合により名無しです:2007/03/20(火) 19:28:39 ID:eQVdWSUK0
お疲れさんですプロキシー氏

トウバってオリキャラかな?
ナルトはそれほど詳しくないけど一番シカマルが好きなキャラです
彼の頭脳がどう敵を惑わすかが楽しみです

原作でもある意味一番オイシイキャラだからなw

123 :ヴィクティム・レッド:2007/03/20(火) 19:52:03 ID:sBHH8YQ20
 キース・グリーンは始終不満げだった。
「まったく……なんで僕が……」
 拗ねた子供のように口を尖らせながら、壁に手を付いて嘆いている。
 この世の終わりが来たわけでもあるまいし、なにからなにまで大げさな奴だ、とレッドは嘆息した。
「見損なったよ。あれだけ大見得切っておきながら、僕の瞬間移動能力を当てにするなんて」
「うっせーよ。オレたちは急いでるんだ。馬があれば馬を使う、電車があれば電車を使う、
キース・グリーンがいればキース・グリーンを使う。勝手に見損なってろ」
「あのなあレッド、僕は……」
「それにな、これはブラックの命令なんだぜ」
 それが彼にとってのマジックワードだったらしく、はあっ、と溜息をついて壁から離れた。どうやら諦めがついたようだった。
「グリーン兄さま、ごめんなさい」
 セピアが恐縮して頭を下げるのへ、グリーンは苦笑しながら肩をすくめた。
「いや……いいんだ。僕と君とは兄妹なんだ。助け合うのは当然のことさ。
それより本当にいいのかい? 君のARMSは戦闘向きじゃないんだよ。
他の任務ならいざ知らず、シルバー兄さんの戦闘領域に割って入るなんて正気の沙汰じゃない」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。レッドがいますから。それに」
「それに?」
「レッドはわたしがいなとダメダメですから」
 なんの衒いもなく、セピアはそう言ってのけた。
 あまりにもきっぱりと断言したので、グリーンは「そうなのか?」とレッドにお鉢を回す。
「……オレに訊くな、オレに」

124 :ヴィクティム・レッド:2007/03/20(火) 19:53:04 ID:sBHH8YQ20
 その時、慟哭するようなARMSの共振波がその場の三人に走る。それは間違いなくキース・シルバーのものだった。
「──ボヤボヤしてる暇はないみたいだ。レッド!」
 グリーンは両手を二人に向けて差し出した。この手をつかめ、ということらしい。
 レッドとセピアは互いにうなづき、それぞれに手を重ねた。
 グリーンの手は少し汗ばんでいた。
「レッド、これは貸しだからな。こればっかりは必ず返してもらうぞ」
「……ま、期待しねーで待ってろや」
 そして、グリーンのARMS『チェシャキャット』特有のARMS共振波が直に伝わってくる。
 先ほどのシルバーのそれとは違って、攻撃的な感触は無かった。
「グリーン兄さま」
「え?」
「優しいんですね」
 その言葉を最後に、セピアとレッドはグリーンの視界から消える。
 一人になった廊下で、キース・グリーンはぎこちなく肩をすくめた。
「優しい……僕がか?」

 目を開けると、そこはもうカリヨンタワー下層域だった。
 グリーンの能力を体験するのは初めてだったが、これほど奇妙な能力もないだろう。
 空間それ自体に干渉し、空間転移や空間断裂を操るARMS……どれだけ大掛かりな装置を使っても、
現在の科学技術では再現不可能な現象だ。
 ARMSとは一体なんなのか。それはレッドのような下っ端には知らされていない。
 理解できないものを身に宿し、それを使う。その不気味さを今更ながらに思う。

125 :ヴィクティム・レッド:2007/03/20(火) 19:54:11 ID:sBHH8YQ20
 セピアも似たようなことを考えていたのか、
「すごいね、グリーン兄さまのARMSって」
「……グリーンには『兄さま』付けなんだな」
 ぽろっと口にしてから激しく後悔した。
 それはなんの気なしの感想だったのだが、それでもセピア本人に向けて言うことではなかった。
 案の定、セピアは満面にいやらしい笑みを浮かべてレッドの肩をばしばし叩く。
「えぇ? なーに、それ? もしかして嫉妬してるの? もーやだー、レッドってば意外と可愛いとこあるんだー?
お望みならそう呼んであげましょうか? 呼んで欲しい? ねえねえ、ねーってば」
 言うべきではなかった。その思いを新たに、レッドは例によってうめく、
「勘弁してくれ──」
 最後の「よ」は言えなかった。
 鼓膜を破かんばかりの轟音とともに、フロア全体が上下に揺さ振られたからだった。
 レッドは浅く舌打ちし、セピアを振り返る。
「セピア、二人の位置を割り出せ」
「うん、やってる……シルバーお兄さまはこっちの方向。だいたい七〇メートル向こう。
クリフはほとんど正反対のあっち……ちょっと遠いかな、三〇〇メートルくらい」
 あっちとこっちで指差し、セピアはさらに詳しく探ろうとARMSを解放した。
 胸元から放射状に走る幾何学紋様が、頬のあたりまで伸びてくる。
「今はお互いに見失ってるみたい……二人ともうろうろして、ときどき出鱈目な方へ攻撃してるみたいなの。あ、ほら」
 遠くから、ずしんと微かな震動。
「クリフの精神フィールドが不安定気味になってるわ。なんていうか、不整脈みたいな感じ?
このままだときっと、シルバーお兄さまよりクリフが先にダメになっちゃうと思う」

126 :ヴィクティム・レッド:2007/03/20(火) 19:56:03 ID:sBHH8YQ20
 セピアからもたらされた情報を元にレッドはしばし考え込み、
「……分かった。クリフを先に押さえるぞ。あんまりはっちゃけられて死なれても困るからな。
もしかしたらシルバーも、攻撃対象がいなくなれば暴れるのを諦めるかも知れない」
「もし、諦めなかったら?」
「そんときは──」
 レッドが言いかけた瞬間、セピアがいきなり膝を付いた。
「あ──!」
 自分の身体をきつく抱き締め、苦しそうに声を漏らす。
「シ、シルバーお兄さまが……こっちに気が付いた……」
 それに遅れて、レッドの『グリフォン』もシルバーのARMS共振をキャッチする。
 それは非常に激しく攻撃的で、痛みすら感じた。尋常ではない雰囲気を、そこから受け取る。
 額に玉の汗をかきながら、セピアが喘ぎ喘ぎ、続ける。
「うぅ……す、すごく怒ってるわ…………邪魔……排除……障害……出来、損ない……」
 それはシルバーの思っていることなのか、という疑問を差し挟む余地はなかった。
 その口にする言葉ひとつひとつに傷つきながら、それでも懸命に言の葉を零す。
「獲物(ヴィクティム)……被害者意識(ヴィクティム)……」
 はあっ、と引き攣った息を吐き、セピアが背を折り曲げた。
『実験体(ヴィクティム)風情が……!!』
 その声は重なっていた。
 振り返ると、髑髏の亡者がほんの十メートル向こうにいた。
 戦の神のごとき無慈悲さを全身から放ち、『マッドハッター』の凶眼はレッドに定まっていた。
「──が……オレの邪魔をするのか……!?」

127 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/20(火) 20:14:45 ID:sBHH8YQ20
最近ちょっとアレなので、このくらいのペースを維持できたらな、と思います。


>前スレ441氏
承太郎キター!
スタンドとペルソナって親和性高そうですよね。バトルに超期待です。
ペルソナは2の罪までしかやってないので、『影時間』を知らないのが残念です。
逆を言えば興味深くお話を読めるということですが。

>ふら〜り氏
中々カッコいいことのできないレッド、可哀想な子です。
これからちょっとは活躍できたらいいなとは思います。
クリフとユーゴーの絡みが少ないのは自分でも残念です。
まあ、クリフとの再戦時になにか言わせて見ようとは思ってますが。

>さい氏
パトリックが熱いですね。俺もこんなセリフ吐いてみたいです。リアルで。
ルビ(? とゆーかカギカッコ内の読み)がイカしてます。
この書式じゃルビ振れないので辛いところですね。
俺もシルバーはレッドの次に好きです。ストイックすぎてちょっと傍目にはおかしい人なところが。

>proxy氏
シカマルが主人公なだけあって頭脳戦になりそうですね。
作戦もシンプルとかいいながら、なかなか手が込んでて今後の一波乱を感じさせます。
トウバチームはオリジナルですか?
『千里眼』が出るなら『順風耳』も出るかなー、とこれは勝手な希望です。

128 :作者の都合により名無しです:2007/03/20(火) 23:11:46 ID:vqMw2La90
>狂った世界で
ナルト出てこないかw
でも、猪鹿蝶トリオは主人公トリオより好きなので楽しみだ。
まだまだ序章、どう転ぶか分からないけど楽しみにしてます。

>ヴィクテム・レッド
更新は多目の方が嬉しいですが、長く楽しみたいんですw
セピアには人を素直にさせる何かがあるみたいですな
シルバーは狂ったままですがw

129 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:02:42 ID:aG4FW6f/0
『夏のはじまり、花盗人の残り香』

「ちょっと、あなた」
 駅前のスーパーを出ようとしたところで呼び止められ、遠野十和子は怪訝そうに振り返った。
「……なんスか?」
 こういうときは、決まってロクなことにならない。
 特に、さっきレジで会ったばかりの店員が鼻息荒く自分の肩を鷲掴みにしているときなどは。
「まだ、会計が済んでいない商品がありますよね」
「はあ?」
 意味が分からなかった。
 会計が済んでいない商品、それはつまり棚に陳列されている商品のことで、
そんな物の有無を問われても「あります」としか言いようがないではないか。
「……じゃなくて、えーと、ああ。要するにあたしが店のなにかをパクったってこと?」
「いいから事務所まで来てもらえますか」
 四十代半ばくらいの、自分の母親と同じくらいの店員に腕を握られ、
「ちょっと、やめてよ!」
 反射的に振り払ってしまい、軽率だったかと思う。
 「娘と同じくらいの子供に反抗された、家で邪険にされているように」というオーラをありありと出している店員は、
顔を真っ赤にしながらも態度だけは冷静を装って繰り返す。
「お手間は取らせませんから。いいですよね? 盗ってないのなら構わないでしょう?」
 その木で鼻を括るような言い方に、十和子は反感を覚える。
 クーラーの効いている店内からは身体半分以上はみ出しており、夏の高気圧と直射日光が半身を炙っている。
 出口近くでは花屋のテナントが出展しており、そのごちゃごちゃした花の匂いと、
さっきから小さな向日葵を手にこちらをちらちら見ている客がいるのが不快だった。
 刻々と上昇する不快指数に、目の前の店員の横顔を張り倒してしまうかという考えが頭の隅をかすめる。
 だが、やってもないことで事務所に連行されるのは御免だった。
 変に怒らせて心象を悪くするのは良くない。なんとか上手くこの場を取り繕わなければ。
 そう判断した十和子は、頭のスイッチを切り替えてしおらしげに頭を下げる。

130 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:05:11 ID:yB9fv7CP0
「ごめんなさい、いきなり言われたからびっくりしたんです。でも、本当にわたしなにも盗んでいません。
それに……わたし、今日は早く帰らなきゃいけないんです。
今日はママが遅番のお仕事で、わたしが弟と妹の分のご飯を作らなきゃいけないんです」
 と、十和子は手にしたスーパーの袋を掲げて見せた。
 もちろん丸っきりの嘘である。
「あら……弟さんと妹さんが……?」
 店員の態度が少しだけ和らいだ。それを如実に見て取った十和子は内心でほくそ笑む。
この手のオバサンには、こういう「分かりやすい良い子」を演じるのが一番手っ取り早い。
「はい、ママがお仕事で大変だから、少しだけでも力になりたくて。下の子たちも手伝ってくれてるんです」
 実のところ、遠野家は諸事情により両親不在であり、弟や妹などは最初から存在していない、のだが。
「そう……」
 店員は迷っていた。
 もう一息か、と思った瞬間、十和子は危険な兆候が彼女の内面に沸き起こったことを察知する。
 それは「決意」と「使命感」、そして「正義感」。
「でもね、だったら、なおさら分かるでしょ? 万引きなんてしたらお母さんがどれだけ悲しむかってこと」
 十和子は内心で舌打ちした。店員の表層上の怒りや同情に惑わされて、その根底に流れているものを見逃していた。
 この人、確信してる──わたしが商品を盗んだということを、疑いを挟む余地のないレベルで確信している。
 だが、見もしないことを、そもそもが盗んでいないことを、いったいどうやったらそこまで信じることができるのか。
 さすがに疑念を禁じえない十和子だったが、店員の背後のさらに向こう、
クーラーで冷やされた風の流れる風上に、見知った顔が三つばかり並んでいるのに気が付いた。
 それは、十和子の通う高校のクラスメートだった。
 にやにやと意地汚い笑顔をこちらに向け、なにかの言葉を頻繁に交し合っていた。
 声は聞こえないが、なんと言っているかは容易に理解できる。
 ──やだ、ほんとに捕まってる。みっともない。
 ──いい気味よ。あーあ、濡れ衣を着せられた十和子ちゃんかわいそー。まー、着せたのはあたしらだけどさー。
 ──でも、遠野があそこでカバン開けてみせたらヤバくない?
 ──あ、だいじょぶだいじょぶ。さっきちゃーんとルージュとコットンとマスカラ、あいつのカバンに放り込んできたから。
 ──うっそ、マジで? さいあくー。
 ──余裕っしょ。なんかレジでもたもたしてから、さっと投げ込んでやったわ。これが動かぬ証拠ってやつ?

131 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:06:32 ID:yB9fv7CP0
 どきり、と心臓が跳ね上がる。無意識に身体を緊張し、握り拳に力が入る。
 三人はそれからあーでもないこーでもないと囀り、どうやら高みの見物を決め込むようだった。
(なるへそ……あたしはハメられたってわけね)
 その級友のことは良く知っていた。クラス内でソリが合わないやつにはそういうことをしそうな、陰険なやつらだ。
 さて、どうしようか、と十和子は鼻で息をつく。いい晒し者だった。
「事務所で話し合いましょう? ね?」
 ここはひとつ、黙って連行されるのも手かも知れない。
 自分には『切り札』がある。こんな衆人観衆の前で使うのは憚られるが、密室内だったら思うさま使ってやれる。
「あの──」
 これからの算段を練っていた十和子の思考を打ち切ったのは、向日葵を持った客だった。
「その人、万引きはしてないと思いますけど」
 いきなりの闖入者に気分を害されたのか、店員は怪訝そうにそいつを見る。
 そいつは、十和子と同じくらいの、私服の少女だった。
 腰近くまで伸ばした十和子と違い、髪は肩で切りそろえられており、十和子とは頭一つ分くらい背丈が低い。
ついでに胸とか尻のボリュームも二回りほど控えめだった。
 場の空気に怯えているらしく、言うべきか迷った末に意を決して、という少し頼りない態度だった。
 なにより十和子の意識を惹いたのは、全身に漂う奇妙な雰囲気だった。
 一言で言うなら、非現実的な、自分の知らない国から訪れたような、そんな感じの少女だった。
「あの三人は、この人がなにを盗んだと言っていましたか?」
 それは「今朝のご飯はなんでした?」とでも言うように、あまりにもさらっとした口調だった。
 それこそ最初から最後まで見ていないと分からないことであるにも関わらず、である。
 毒気を抜かれた店員がしどろもどろになるのへ、少女はさらに言う。
「ルージュ、コットン、マスカラ。違いますか」
 そして、向日葵がどけられた掌の下には、それがあった。「ここに落ちてましたよ」と、店の内側の領域を指差す。
「店内にあったんですから、事情はどうあれまだ盗んだことにはなりませんよね」
 店員も、遠くから見ていた三人も、そして十和子も、一言も無かった。

132 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:08:58 ID:yB9fv7CP0
 例の三人はさっさとトンズラし、店員はバツ悪そうに何度も謝った末に仕事へと戻っていった。
 最後に残った十和子と少女はなんとなく顔を見合わせ、少し笑った。
 どちらからともなく歩き出す。歩調の広い十和子に追いつくように、少女は時折小走りになる。
「──いや、助かったわ」
 十和子が片手を顔の前で立てて礼を言うと、少女は静かに首を振った。
「でもさ、なんであたしが盗ってないって分かったの?」
「……見てたから」
「あいつらがあたしのカバンに物を入れるところを?」
 安堵で気の緩んでいた十和子は、自分が決定的なミスを犯していることに気が付かない。
「違うわ」
 気付く。
「あなたがレジからお金を抜き取るところをよ」
 やっぱりか、と十和子は天を仰いだ。直視できない陽光が、瞼を貫く。
 そう、確かに自分は──店員の一瞬のスキをついて開きっぱなしのレジから万券を抜き取った。
 今時、万券をドロアーの硬貨入れの底に隠しておかない、無用心な店など滅多になく、
その防犯意識の甘さに前々から目をつけていたのだった。
 絶好の機会が訪れ、実行に移したその隙に、あの馬鹿どもに万引きをさせられていることまでは全くの予想外だったが。
「あなたと同じ制服の人たちが、あなたに対してなにかを仕組んでるって分かったのは、あなたが店員に捕まってからのこと。
……なんていうか、目線とか、雰囲気とかで。それに、万引きとレジ抜きを同時にやる人はなかなかいないと思うから。
連れて行かれることを嫌がったのも、そのことがバレると困るから……そうでしょう」
 ぐうの音も出ないとはこのことだが、とりあえず白を切ってみる。
「……それ、見間違いなんじゃないの?」
「これでも?」
 奇術師のように少女が片手を翻すと、そこには数枚の一万円札。
「あっ──!」
 咄嗟に胸ポケットの生徒手帳を取り出しかけ、そこでカマに掛けられたと理解する。
「次にあなたは『引っ掛けたわね』と言うわ」
「ひ、引っ掛けたわね! ──あっ」
 まんまと乗せられた十和子が歯噛みするのを横目に、別段勝ち誇った素振りもなく、少女はもう一度手を振って札を消した。
少女のバッグが揺れて、向日葵の匂いがした。
「ふーん。そこに隠したんだ。実はね、どこに隠したかまでは見えなかったんだ。……あ、今のはわたしのお金」

133 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:10:52 ID:yB9fv7CP0
 あんまりと言えばあんまりの展開に、十和子は噛み殺しても抑えきれない笑いがこみ上げてくる。
 完敗だ。
 だが一つ、疑問が残っていた。
「あんたさ、どうやってあたしのカバンから盗品を抜き取ったわけ? あれは本物のやつよね?」
 盗みのために神経を一点に集中させていたときならいざしらず、店員に詰問されているときはそれなりに周囲に気を配っていた。
 どれだけ気配を消したところで、入り口近くでもあったので影なりなんなり、
自分のすぐそばで動きがあれば察知できるはずだった。透明人間でもない限りは。
「ねえ、教えなさいよ」
 だが、少女はそれとはおよそ関係ないと思えることを言った。
「そのお金、今からでもお店に返すつもりはないの? ──本当言うと、これだけを言いたくてここまで来たの。
万引きの疑いを晴らしたのもそのせい。こっそり返して、なかったことに出来るなら、それが一番いいと思うから」
 肩透かしを食らった気分になりながらも、十和子は率直に言葉を返す。
「冗談。盗まれるほうが悪いのよ。それに、今さらどの面下げて返しに行けっていうの?」
「わたしならできる。誰にもバレないように返してこれる。あなたのカバンから証拠の品を取り除いたように」
 話は関係なくなかった。十和子の質問に、少女は断片的ながらも答えていたのだ。
 少女の内部からは「他の人には出来ないことだけれど、自分にはそれが出来る」という静かな自信が漲っていた。
 少女は、真っ直ぐな目で十和子を見つめている。
 いたたまれなくなった十和子が口を開こうとしたとき、
「あーっ!」
 少女が唐突に素っ頓狂な声を上げた。
「お、お花盗んできちゃった!」
 少女は片手に握った小さな向日葵を驚愕の表情で凝視していた。今の今まで気が付かなかったらしい。
「……え?」
 実のところ、十和子はとっくに気が付いていた。気が付いていたが、会計は済ませてあると思っていたのだ。
 人にどうのこうのと説教垂れてるやつが、そんな抜けた真似をするとは考えもしなかった。

134 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 00:20:32 ID:5TVgc3qq0
投稿規制?


135 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/21(水) 00:21:14 ID:yB9fv7CP0
「……あんた、馬鹿なの?」
「か、かか返してくる!」
「バレないように?」
「う、うん!」
 十和子は呆れたように首を振り、「しょうがないな」という感じの溜息をついて生徒手帳を取り出した。
「それならこいつも頼むわ。くれぐれもバレないよーに」
 差し出された五万円を受け取り、少女は初めて笑顔を見せた。
 夏の風のように、爽やかな笑みだった。
 ふと、少女は十和子の生徒手帳に目を落とす。その手帳と十和子の顔を見比べ、
「あれ? あなた、ぶどうヶ丘高校の生徒なの? あー、どっかで見覚えのある制服かと思ったら……」
「ら?」
「わたしのホームステイ先に届いたのと同じだった」
 今度こそ意味不明だった。
「ホームステイ? 制服が届いた?」
「あ、わたし、明日からその学校に通うの。えーと、短期留学生として。
一応日本語ペラペラだけど、ニューヨーク育ちなのよ。生まれはここ、杜王町みたい」
 さらになにかを言い募ろうとしたが、自分に課せられた重大な仕事を思い出したのか、わたわたと来た道を戻りだした。
 それを見送りながら、ゆらゆら揺れる陽炎を吹き飛ばすように、十和子は大きな声で叫びかける。
「あたし、ここで待ってるからさ、さっさと返してきなよ」
「うん!」
 その背中に、もう一度。
「ねえ、あんた名前はー!?」
 訳もなく太陽を見上げた。真っ白な光が青い空に穴を開けている。
「──静! 静・ジョースター!」
 目を戻すと、そこにはもう誰もいなかった。
 香る向日葵は風に乗って十和子の側を通り過ぎてゆく。
 照りつける日差しは夏の到来を告げていた。

136 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 00:23:27 ID:yB9fv7CP0
つーわけで、静・ジョースターが主人公です。
名前とスタンド能力以外は。オリキャラも同然ですね、これ。静ファンの方がいたらごめんなさい。
今後の展開としては、プギポらしく青春群像とハードなバトルを織り交ぜて進めたいと思います。
また、その関係で、四部キャラの大人になった姿ももちろん登場させますが、
オリキャラスタンド使いも少なからず登場させます。
いい大人が静に混じって事件解決したり青春したりとかは書きにくいっすw

ちなみにブギーポップですが、
上遠野浩平というラノベ作家の代表作が「ブギーポップは笑わない」に始まるブギーポップシリーズです。
この作品は「上遠野以前」「上遠野以後」という時代区分を生み出したほど、ラノベ業界に影響を与えた作品とされています。
ちなみにこの人、重度のジョジョ厨です。能力名や登場人物に洋楽関係のネーミングをしたりしてます。
で、この世界観を継承しつつも、まったく違うブギーポップを描いたのが「ブギーポップ・デュアル 負け犬のサーカス」です。

ブギポや上遠野作品を知っている方へ。
一応、「負け犬」の貴也ver.ブギポが暗躍します。他にも上遠野関係からキャラをちらほら出したいです。

登場人物の詳細って書いたほうがいいですか?
なんか無駄に多くなりそうな予感。

長いですが以上。

137 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 00:52:25 ID:5TVgc3qq0
大盛況だな。特に新人さんが元気で嬉しい。

>狂った世界で
シカマルの魅力は知能戦にあると思うけど、それを活かしてほしいな
IQ200の知能&影マネの術が炸裂するのが楽しみだ

>ヴィクテム・レッド
セピアとレッドのほのぼのとした感じがいい。グリーンも年相応な感じ。
でも、セピアになんか死亡フラグが立ってる気がする・・

>シュガーハート&ヴァニラソウル
十和子は描写からしてかなりの美少女のようですな。(原作未読)
静のお手並みは見事。アカギ並だ。静ってジョジョキャラですか?


138 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/21(水) 01:40:12 ID:c5XiVSB70
第二話
『真相』

「ダレン!!一体どうなっている!!」
少年のナイフによる攻撃を確実に持っている剣で受け流しながら、のび太を助けたオレンジ色の髪で頬に傷がある男
ラーテン・クレプスリーはダレンに向けて言った。
「クレプスリー!!よく分からないんだけどその子が襲ってきて、のび太君がやられた!!」
「ええい!!結局ほとんど分からずじまいか!!」
そう言いながらもクレプスリーは剣を振る。
一度目で少年の手に持つナイフを弾き、二度目で少年の左手首を斬り落とした。
『ドサッ』と音がして少年の小さな左腕が地面に落ちた。
それから間もないぐらいで少年の手首は大量に出血し激しい痛みで悲鳴を上げながら左腕を抑え地面に倒れこんだ
「クレプスリーいくらなんでもやりすぎだよ!!」
ダレンがそう言いながら少年に近づこうとするがそれをクレプスリーは右腕で制した
「ダレン!!そいつをよく見てみろ!!」
そう言われてダレンはその少年を見ると手首の血が出ている部分を必死に舐めていたのだ。
それはなんとも奇妙な光景だが奇妙な事は続き血の出血が少なくなっているのが傍からでも確認できた。
バンパイアの唾液は傷口をふさぐ効果がある、そして少年がそれを使えるという事は少年がバンパイアだという事を証明していた。
「ふん、痛みのあまり傷を塞ぐ事ばかりに躍起になるとは幼稚だな。
だがこれで、こやつがバンパイアだという事がハッキリした。
さてダレン、そこに転がっている小僧と、このバンパイアをつれて退散するぞ・・・。」
そう言えば必死に左の手首を舐めている少年に近づくクレスプリーだったが
だがそれはいつのまにか現れた青い髪の青年によって阻まれた
青年の持つ刀が自分の頭目掛けて振り落とされるのを見たクレプスリーは咄嗟に後ろに飛んで避けた

139 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 01:43:41 ID:bNeJspYz0
・ハロイさn
うわあ、鬼更新ストップですか…。ちょっと残念。
でも、週1くらいは楽しませて下さいね!
ところでセピアのイメージはどんな感じかな?
俺はキャロルとユーゴーの中間みたいな感じのイメージですが。

・シュガーハート作者さん
静の方が十和子より小さいんですか。2人とも同い年位ですよね?
ジョースター一族は無駄に大きいからちょっと意外w
この2人が主軸で物語が展開するんでしょうが、
個人の希望としては青春群像7割、バトル3割位がいいかなw

140 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/21(水) 01:46:49 ID:c5XiVSB70
「貴様!!そいつの仲間か!!」
クレプスリーが怒りながら叫ぶが青年は無表情で言葉も発しない
そして視線は目の前のクレスプリーでは無くその後方にいる、のび太の方を向いている
「狙いは、あの小僧か!!」
そう言いながら斬りかかるクレスプリーとそれを防ぐ青年
剣のぶつかり合いは数十回続き剣の技量だけなら2人は、互角だった。
唯青年の方は汗一つ出ておらず疲労の様子はない。
対してクレプスリーは疲労が顔に表れ始めていた。
その時パトカーの音が近づいてきた
「くっ、騒ぎすぎたか!!ダレン退くぞ!」
そう言えば青年を蹴り飛ばしダレンと気絶して肩から今だ出血しているのび太を抱えるとその場から消えてしまった
これはフリットと言い正真正銘のバンパイアなら誰でもできる技術で簡単に要約して言えば超スピードで移動ができるのだ。
青年はフリットで逃げたクレプスリー達の後を追いかけようとしたが、未だ傷口を舐めている少年を見れば刀を鞘に収めてその少年の落ちた左手を持ち上げ
少年が暴れようとも無言のまま抱えてその場を去っていった

12月20日

のび太は暗闇の中で目覚めた
視界が暗く何も見えない、背中越しの感触でベットか何かに横になっていることは分かる
肩がジクジクと痛んで右手で抑えたがそこにあるはずの傷は完全に塞がっていた。
暗闇の中どこからが現実でどこからが夢なのか分からず混乱していると後ろからドアを開ける音がした。
それと同時に眩しさで目が細める。ドアの後ろは夕焼けの空が窓越しに写っていてその前にはダレンの姿があった。
「のび太君おはよう、肩はまだ痛むかい?」
そう言いながらダレンはのび太に近づく
「ダレン・・・・さん?僕は・・・何でここに?」

141 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/21(水) 01:48:46 ID:c5XiVSB70
「まぁとりあえずお腹も減ってるだろ?とりあえずクレプスリー起こして、ご飯でも食べた後にでも説明するよ」
そう言えばダレンは隣の部屋へと移動して棺桶をトントンと叩いてクレプスリーを起こした。
棺桶で寝ていたクレプスリーを見て
「吸血鬼みたい・・・。」
とのび太が呟くとダレンとクレスプリーは大笑いしていたがのび太は何故笑うか分からなかった。
さてそれから数分後部屋に置かれたシチューやらパンやらが置かれたテーブルに囲むように座り食事をする事になった。
三日間眠っていたのだ。のび太の体は自然に食物を欲しているのか一心不乱に食べていた。
そしてそののび太に負けず劣らずの勢いでクレスプリーとダレンもシチューやパンを貪り食っていた。
そして一時間たった頃、皿の上の食料は三人の胃袋と消え一息ついた時クレスプリーとダレンがのび太の方を向いて
「さて、では自己紹介に移らさせて貰おう、我が輩はラーテン・クレプスリー、シルク・ド・フリークの団員でバンパイアだ」
「で僕がダレン・シャン、同じくシルク・ド・フリークの団員で半バンパイア」
二人の自己紹介にのび太は沢山の騒動を経験しているので二人の話は信じられたがそれでも衝撃を受けた。
「バンパイアって・・・蝙蝠に変身したり心臓に杭を刺さない限り死なないとかそんな感じの?」
のび太はビクビクしながら言うと2人は顔を見合わせてまた大笑いしていた
「聞いたか、ダレン?心臓に杭を刺されると灰になるそうだ」
「ク、クレプスリーだめだよ、笑ったら・・プッ」
二人は本当におかしそうに笑う。
まぁ二人にしてみたら真顔で日本人の男性は、ちょんまげ付きの侍で寿司を毎日食べていると日本人に言っている感覚に近い、二人が笑うのもある意味仕方ない。
しかし、この状況でのび太からしてみれば唯二人がふざけているようにしか見えなかった。
そしていつの間にか
「二人共真面目に答えてください!!」
そう叫んでいた、これに二人は少々驚いていたが
「いや、その・・・・すまん、あまりに元は事実とは違うのでな、ついつい笑ってしまった。」
クレプスリーはのび太に謝罪をした。
その後クレプスリーはのび太にバンパイアの事について説明を始めた。

142 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/21(水) 01:50:17 ID:c5XiVSB70
バンパイアは体は頑丈だが心臓に杭を刺される以外にも拳銃で頭を貫かれても重い物で体を潰されても死ぬ、世間一般で言う不死身とは程遠い存在である事
バンパイアは爪と歯がとても頑丈になるが長い牙が生えるわけではない事
太陽の光には弱いが別に浴びたらすぐに死ぬわけではなく少しの間なら耐えられるという事
その他にも一通りの説明をしたがのび太が話を理解できず何回も話を繰り返して言うのが嫌いなクレスプリーをダレンが何回もなだめていた
ちなみにのび太の怪我が三日でほぼ治っているのはバンパイアの唾液で傷を塞いだおかげらしい。
そして一通りバンパイアの説明が終わった時のび太の頭にある疑問が浮かんだ
「何で二人は僕を助けてくれたり自分の正体を明かしたりするの?それにあの日僕を襲った子は一体・・・・。」
そこまで言ってのび太は肩を刺された痛みを思い出し思わず身震いをした
「そう言えばクレプスリー、僕もよく分からない、何で事件の調査をしてるんだ?僕はミスタートールから頼まれたとしか聞いてないけど実は他にも理由があるんじゃないのか?」
ダレンものび太の質問に便乗する形で質問をする。
一度に質問攻めにされたクレスプリーは少々うんざりといった顔をしながら
「二人共、少し落ち着け・・・。ふむ、そうだな・・・。そろそろダレンにも話して良い頃だろう、当事者もいることだし・・・。」
「当事者?」
のび太は誰なのかわからず頭には?マークで埋め尽くされる
そんなのび太をクレスプリーは無視する形で話を続けた
「ことの始まりは・・・四ヶ月前・・・ミスター・タイニーがシルク・ド・フリークに来た時・・・。」


143 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2007/03/21(水) 01:55:33 ID:c5XiVSB70
あ〜・・・この先の展開とかネタとかはそれなりにあるんですがそれとグダグダ感の払拭は別問題ですねorz
とりあえず今回は微妙に長いので二つに分けます。
次回はそれなりに伏線の回収と新たな伏線が出るといった予定です
先日友人に、このSS見せた所色々と批判をいただきましてヘコみながらも精進していきたいと思ってます
とりあえず目標はSS大賞に自分の作品の票が入っている事ですかね・・・。


前回お約束したキャラ解説
まだ本SSで名前や詳細が出ていないキャラについてはしばしお待ちを

【ドラえもん一行】
こいつらは最早説明は必要ありませんよね

【ダレン・シャン】
クモが大好きな普通の少年であったが、シルク・ド・フリークを見た時に蜘蛛のマダム・オクタに魅せられ盗んだ後
友人であるスティーブ・レナードがマダム・オクタに咬まれ瀕死の重体になり
それを救うためにバンパイア、クレプスリーと取引をし、半バンパイア(半分人間)となった。
その後スティーブからは裏切り者扱いされたり親友をウルフマンに殺される等悲惨な過去を持つ簡単に言えば幸薄少年

【ラーテン・クレスプリー】
元バンパイア将軍。
オレンジの髪に頬に傷のあるバンパイア。
元バンパイア将軍で、元帥候補だったが突然辞退してしまったという過去を持つ
他のバンパイアからも一目置かれている存在
ダレンを半バンパイアにした張本人でその事については人生最大の失敗と後に語っている。
意外に面倒見が良いが本SSでは微妙に性格が違うかもしれない
ダレンとはそれなりの絆で結ばれている


144 :店長 ◆RPURSySmH2 :2007/03/21(水) 01:57:16 ID:c5XiVSB70
ハロイ様
ダレン・シャンお好きなんですか!!
バキスレで知っている方がいて嬉しい限り
まぁその・・・あまり期待はしないでください・・・。

>>62
貴重な意見ありがとうございます。
自分基本的な句読点の付け方もうまくできませんorz
今回は少しは意識したのですがどうだったでしょうか?

>>64
とりあえず敵サイドでは死亡者続出の予定です
味方サイドは・・・・まだ不明です

>>70
恥ずかしながら帰って参りました!!
ドラのSSでシリアスが出るのは最早宿命と言っても良いかもしれません。
まぁのび太は作中で実弾で撃たれた事あるんで案外平気なのかも(笑)

ふら〜り様
本来のび太は唯の気の弱い駄目少年ですからね。
殺気でうまく動けなくても良いかなと思ったりしたのですが・・・。
まぁスプラッタ的表現はダレン・シャンの方では主人公のダレンの指が切断されたり
色々あるのでどうしてもこういう表現がしたくなってしまいますorz


皆様のSS感想書きたいのですが長い間見てなかったのでまだ全部読みきれておりません・・・。
少々お待ちを・・・・。orz


145 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 02:03:07 ID:bNeJspYz0
お疲れ様です店長さん!
ダレンシャンは知りませんが、ドラえもん長編は大好きなので、
サマサさんの作品ともども楽しみにしております。
バンパイアが物語の中枢を占めるという事で
ちょっとスプラッタなドラになるのかなw


146 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 10:57:49 ID:OjI60+2f0
>シュガーハート&ヴァニラソウル
こういうノリは好きだ。導入部としてはとてもいい
魅力的な少女2人が主人公で先が楽しみだな

>ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア
不死のバンパイアとドラチームの絡みが楽しみです
あと、句読点と改行に気をつけたらもっと読みやすくなるかと

147 :戦闘神話:2007/03/21(水) 16:37:00 ID:kNcmzct40
第三回 『宣戦布告』 
part.1
北欧の凍土には、今尚神話の面影が散見する。
そして、凍土の奥には、まるで神話世界そのままの地域・アスガルドがあるのだ。
その神話の地は現在、ヒルダ・フレア姉妹を中心として纏まっている。
しかし、彼女たちの統治前は紛争状態が恒常化していた。
その内戦を鎮めたのは、姉妹の仁徳だけではない。
哀しいかな、人は争う心を捨てきれない。
その為に、彼女らの代行としてその威を示し、鉄血をもって戦乱を収める者たちが必要だった。
神闘衣・ゴッドローブを纏い、艱難辛苦を望んで被る彼らは、
古の彼方に、戦を愛し、戦から愛された神の闘士に因んでエインヘリアルとよばれた。
北斗七星にならった七人の戦士たちである。
七人中最強の実力を持ち、仲間からもヒルダからの信も厚い大将ジークフリート。
機智鬼謀をもって数々の難関から姉妹を護った謀将アルベリッヒ。
雪原の黒虎の異名をもつアスガルド最名門の嫡子、闘将シド。
豪腕とそれに見合わぬ優しさで知られる仁将トール。
狼の群れと心を通じ合わせ、青狼と呼ばれる戦将フェンリル。
轟炎の神馬、スレイプニルの化身と呼ばれる激将ハーケン。
鎮魂の竪琴、運命を調律するハープの使い手、麗将ミーメ。
アスガルドの平穏は、まだ少年と呼んでよい年頃の彼らの血と涙によって成されたのだ。
いわば、北の聖域とでも言うべきこの地は、その天険によって外敵を退けてきた。
故に、未だ聖域と親交のない組織でもあった。
聖域の存在が欧州で恐れられるようになるのは、それこそ神話の昔にまでさかのぼることが出来る。
遅くとも、古代ローマ時代には既に各種組織に組しない自律組織であり、
互角に渡り合っていたそうである。
それを鑑みれば、アスガルドがいかに特殊な土地であるかわかるだろう。

148 :戦闘神話:2007/03/21(水) 16:44:22 ID:kNcmzct40
時の支配者からしてみても領土的な価値が薄く、
かといって鉱物資源もないこの地は、しかしそれ故に神の土地足りえたのであり、
同時に、聖域の関心の薄い地域でもあった。
故に、聖域の公文書資料館の最奥へと遣られてしまっていたのである。
そして彼らの存在を聖域が知った。否、思い出したのは、なんと聖戦終結後であった。
聖域は、彼らの存在を知るや否や、親善の意思をもって当たった。
女神アテナの優しさと言わば聞こえはいいが、
聖戦終結直後で、戦力の低下した聖域に対する脅威を退ける為の、懐柔策である。
聖域最強の黄金聖闘士は全員殉職、五人の神聖闘士、当時はまだ青銅聖闘士であったが、
はハーデスとの戦傷によって無事とは言いがたく、そのうち戦闘に耐えられる者は一輝一人という有様。
この新たな勢力の発見は、聖戦終結後のデリケートな聖域を揺るがしたのだった。

非常に繊細、かつ高度な外交手腕を要求された彼らへの第一次接触。
その大任をまかされたのは、戦傷未だ癒えない氷河だった。
聖域最強の五人中、特に凍土に強く、彼らに近しい外見をもつこと、
なにより、如何なる状況下においても冷然とした面持ちを崩さない事。
こういった条件を満たすことの出来る聖闘士は、氷河を除いて他に無かった。
最終条件については、些か疑問視する声が上がらなくもなかったが、
戦時の不安定が色濃い当時の聖域では、
人手不足という最大の後押しによって特別親善大使・神聖闘士氷河が誕生する向きとなったのだ。

「この地は、貧しい…。
 故に、人は皆仁徳から目を背け、悪心に駆られて合い争う…。
 争うなと、声を大にして叫んだところで、飢えの恐怖の前には無力だ」


149 :戦闘神話:2007/03/21(水) 16:50:32 ID:kNcmzct40

ジークフリートの重い声を、氷河は真摯に受け止めた。

「飢餓に打ち勝った政治体制は未だない…。
 人はパンのみに生きるにあらずといったところで、
 空腹を満たすことが出来なければ画餅なのだよ」

横合いから、アルベリッヒが続ける。

「それでも、我らが生まれ育った土地だ。
 捨て行くわけにはいかないのだ」

ジークフリートはそこで氷河に目を向けた。

「四年前、あなた方聖域が接触してきたとき、われわれは飢餓の中に居た…。
 異常気象で冬季が伸びたせいだろうな…、我々の糧は底を突きかけていたのだ」

ジークフリードの、懐かしむような声を受け、
凍土の女神、そう称される女性が氷河に微笑みかける。

「あなた方には感謝しています…。
 あの時、ああして声をかけて頂けなかったら、今こうして笑いあう事など出来なかったでしょう…」

彼女の名はヒルダ。
北欧の最高神オーディンの地上代行者として、このアスガルドの地を統治する女性である。
アテナ・城戸沙織より若輩ながらも、その威厳と功は勝るとも劣らない。
彼女を中心にして、右にジークフリート、左にアルベリッヒという席順だ。
ヒルダの真正面に、賓客である氷河が座っている。

150 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 16:50:56 ID:RdlGX9280
えらいアップ遅いな銀杏丸氏
まさか書きながらか?

アニメ(映画か?)のオリジナルセイントが出るとは思わなかったw
今から出かけるけど、残りのアップ期待してます

151 :戦闘神話:2007/03/21(水) 16:55:48 ID:kNcmzct40
もう通例となった会食会の風景である。
腹の探りあいから始まったこの会食会は、
いまや気の置けない仲間たちの食事会となっていた。
ヒルダ・フレア姉妹、七人のエインヘリアル、
彼らもまた、熱い魂と共に、この地上の愛と正義を護りたいと願う人間だったのだ。
戦士の呼ばれ方は違えども、燃える小宇宙に違いはない。
氷河には、それが嬉しかった。
サガの乱にて、同じ熱い魂を、燃える小宇宙をもった聖闘士同士が互い争い、命散らしていった。
氷河にとっては兄とも父とも言える大恩ある師・カミュもまた、散った。
氷河自身が命を絶ったのだ。
同じ聖闘士同士ですら、師弟ですら分かり合うことが出来なかったのに、
戦いでしか、拳でしか想いを伝えることが出来なかった未熟な自分なのに、
どうして言葉で想いを伝えることが出来ようか。
懊悩する氷河だったが、その懊悩はいまや完全に氷解していた。

当初、疑心暗鬼に駆られていた彼らは、氷河の真摯な態度に次第に態度を軟化させ、
ついにはこうして、分かり合うことが出来るようになった。
その感動は、涙となって氷河を振るわせた。
熱い涙を流す氷河に、凍土の戦士たちは熱い魂を感じ取ったのだった。

もう四年も前の事なのに、つい昨日のことのように氷河は思い出すことが出来る。
アスガルドの皆々とこうして友誼を結ぶことが出来る。
氷河にとって、聖域にとって、これほど素晴らしいことは無かった。

「氷河ッ!」


152 :戦闘神話:2007/03/21(水) 17:01:05 ID:kNcmzct40
会食も終わり、フレアに連れられてワルハラ宮内を散策していた氷河にかけられた厳しい声。
激将の肩書きが良く似合う金髪の少年・ハーゲンである。

「…ああ、わかっているさハーゲン。
 フレア様、失礼させていただきます」

すこし不服そうなフレアの視線を痛く想いながら、ハーゲンに連れ立って氷河はワルハラ宮を後にした。

スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖をめくり上げ、タイを緩めた氷河は
前と同じでいいのかとハーゲンに尋ねた。
エインヘリアルの制服のジャケットを脱ぎ、アンダーシャツを腕まくりしたハーゲンは、当たり前だと声を荒げた。
二人とも聖衣も神闘衣も纏っていない。

「一分間一本勝負だろう?」不敵な笑みで氷河が続けると、

「今度こそ勝つぞ!氷河!」そう激するハーゲン。

事の始まりは、二度目の会見に遡る。
エインヘリアルによる御前試合が催されたのだが、
その際、七人のうち、もっとも血気盛んなハーゲンが氷河に突っかかったのだ。
かくして御前試合は親善試合へと変わった。
セブンセンシズを得、黄金聖闘士に勝るとも劣らぬ実力を有するエインヘリアルだったが、
相手が悪かった。未だ戦傷の癒えぬ氷河だったが、魂の極致たるエイトセンシズに覚醒した身だ。
ハーゲンが敵うはずもなく、彼は三度挑んで三度負けたのだ。
エインヘリアルの切り込み隊長の彼がまったく歯が立たない。

153 :戦闘神話:2007/03/21(水) 17:04:07 ID:kNcmzct40
氷河としては、ここまで圧倒的に叩き伏せる気は更々無かったのだが、ハーゲンが余りに熱くなりすぎた為、
結果としてああいった事態になってしまったのである。
アスガルドの人間はそこで改めて、冥王を退けた神聖闘士の凄まじさを知ったのだ。

それでも凹まないのがハーゲンだ。

以来、氷河がアスガルドに来るたびにこうして突っかかってくる。
まるで弟のようだと、氷河は想う。
海皇聖戦において闘った今は亡き兄弟子・アイザックもまた、自分をそう見ていたのだろうか。
己を未熟とする氷河だが、カミュの後を追うだけの少年ではなくなってきている。
何時の日にか、カミュと同じものを見、カミュと肩を並べるときが来るのだろう。

「また、まけた…」

ハーゲン、負けて強くなれ。
雑草は踏まれて強くなる、雪の中から芽吹くように、お前はもっと強くなれる。
そう思う氷河だった。
氷河も知らないやがて来る戦の為に、エインヘリアルよ、強くなれ。

154 :戦闘神話:2007/03/21(水) 17:08:12 ID:kNcmzct40

アニメ・北欧編の登場人物を銀杏丸風にアレンジして戦闘神話に登場!
劇場版設定と一部混ぜて「神話」っぽくしてみました
神闘士(ゴッドウォーリア)だと、なんか神聖闘士並に強そうなんで…
エインヘリアルというのは劇中で説明した通り、戦を愛し、戦に愛されたゆえに
バルキリーに導かれてヴァルハラへ行く戦士の事です
バルキリーといってもマクロスじゃないですよ
戦乙女なんて訳したの誰なんでしょうか?原典と日本じゃイメージ違い過ぎで笑えます


>>44さん
そうです、第一巻で星矢に速攻でぶちのめされたあの檄です!
彼ほど動かしやすい聖闘士はないですねぇ
なにより弱いのがいい、錬金の戦士と絡めても適度なバランスですんで
…それでも音速なんですがw

>>45さん
書いちゃいけないネタバレ部分抜くと味も素っ気もないなぁとか思いつつ
本編書くよりキャラクター紹介に時間が掛かってしょうがないので
本編進めます、申し訳ないです
part.2より前に投下しますんで

>>47さん
実はまだ序盤です、全26回予定なので…
いわば、星矢一巻で沙織さんが「ギャラクシアンウォーズ始まるよ」っていってるような辺りです
やっべぇ…、第二回だけで100KB近い…

>>150さん
いえ、連投規制です
銀杏丸は描きながらUPすると誤字脱字がえらいことになるので…

155 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/03/21(水) 17:12:40 ID:kNcmzct40

>>ハロイさん
聖書の英雄というと、女関係で命を落としたサムソンも好きです
ああいう悲しい男の性をみせてくれると、この銀杏丸(´Д`)という気分になります
携帯からの投下ですか、僕は無駄に長い上誤字脱字が多いだめな子なので、怖いです

>>前スレ441さん
ペルソナとジョジョ、想像を絶する戦いが広がりそうです
僕はこういったの大好きです、期待してます

>>さいさん
ローゼンメイデンも鋼の錬金術師もこの銀杏丸が自信をもっておすすめできる漫画なので
是非ともご一読のほどを、ハガレンのほうはさいさん好みの女性キャラとかでてきてますので
いうなれば、おっぱい
しかし、聖闘士が全力戦闘すると、地球の地形変わりそうだ

>>ゴートさん
拙作の収蔵誠にありがとうございます
海皇陛下が大暴れこいたおかげでだいぶ長くなりましたが
第三回はそんなに長くはならない予定です

>>ふら〜りさん
聖闘士聖衣神話シリーズだと、後半に発売だったせいでえらい事出来のいい檄です
個人的に、蛮か檄か最後までまよったんですが、蛮だと慎重が中途半端なんで
彼になりました、ウドの大木と呼ばないであげてください
しかし、銀成市は黄金二人、神聖闘士一人、青銅一人と、とんでもない戦力集中してますね

では、次回は銀成市に舞台を移したpart.2でお会いしましょう
銀杏丸でした

156 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 17:56:32 ID:kNcmzct40
あ、やべぇ。檄の年齢ひとつ数え間違いしてた…
ごめんなさい

157 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 18:44:41 ID:BgrGbKKdO
ゴート特派員応答せよ応答せよ
貴下のまとめサイトにてシュガーハート&ヴァニラソウルが『シュガーハウス&ヴァニラソウル』と誤記されているのを発見せり
本人が見たら泣くかもしれないので可及的速やかな是正を進言せり

なおヴィクティム・レッドが短編と長編の両カテゴリに重複している模様

以上オクレ

158 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 19:09:44 ID:YTXyZmpW0
銀杏丸さん力作お疲れ様です
まさかアニメオリジナルの北欧編のキャラが出てくるとはw
うーん、イマイチジークフリードのビジュアル思い出せないなー
名前は覚えているんだけど。
黒歴史と言われているスチームセイントはしっかり覚えているんだがw

159 :作者の都合により名無しです:2007/03/21(水) 22:54:56 ID:bNeJspYz0
銀杏丸さんお疲れです!
懐かしいキャラが出てきましたねーw
おぼろげにしか覚えてないけど・・
氏が車田作品を愛しているのが本当にわかります。

160 :作者の都合により名無しです:2007/03/22(木) 11:48:04 ID:e9QpMfe20
銀杏丸氏、風呂敷広げまくっているが大丈夫か・・?w

161 :さい ◆A.YoXdAIZs :2007/03/22(木) 12:30:35 ID:ASxZo7r6O
アクセス規制中及び仕事場の為、ケータイから失礼致します。
主要キャラクター紹介を作ってみました。

http://hp9.0zero.jp/novel/page.php?uid=saisaimappy&dir=177&bnum=16&num=1&mem_pw=

勢いとノリだけで作ってたら、自分でもようわからんシロモンになってまいました。
参考になるかどうかは甚だ疑問ですが、とりあえずどうぞ。
でわでわ。

162 :作者の都合により名無しです:2007/03/22(木) 19:37:00 ID:u/uiWxLi0
こんなに登場キャラいたのか
思っていたよりオリキャラ多いですな
ま、錬金以外知らない俺には気になりませんが

163 :修羅と鬼女の刻:2007/03/22(木) 22:06:55 ID:HG7/eE/n0
>>93
陸奥圓明流の攻撃は、確かに人を越えた修羅のものである。百戦錬磨の正成を
圧倒したことからもそれは明らかだ。
だが陸奥圓明流の防御は、あくまでも人間を相手に戦うためのもの。人間に攻撃された
場合を想定し、それを防ぐためのものである。
本気になった勇、『半魔』の血の滾りは、もはやヒトの域ではない。
「ふふっ。この程度なのですか? もしや貴方は、まだ色を知らな……っと、失礼。
機会があれば、わたしが直々に教えて差し上げても良かったのですけど」
優しげな声で、勇が語りかけてくる。両腕を大きく広げた、本気の構えで。その両手の
先、十本の指から滴る血は、大和のもの。陸奥の血だ。
大和は息を切らせて、勇と対峙している。腕からも脚からも胸からも腹からも血を流し、
その血の出所は肉を指の形に抉り取られている。
「残念ながら、貴方はここで逝くことになりますから。あの世で護良親王様や、近々
逝かれる新田様などからお聞きになるがよろしいでしょう。わたしの色を……」
ネズミに襲いかかる猫の動きで、勇が大和に襲いかかった。瞬き一つの間に十、二十
と繰り出される勇の攻撃を、大和は的確に見切って防御する。するのだが、
勇の手はまるでサメの歯のように、大和の皮を裂き肉を抉り、鮮血を溢れさせる。
「……くっ!」
勇の連撃の間隙をぬって、大和が右の跳び回し蹴りを放った。勇は軽くかわす、
そのかわした先に、大和の左後ろ回し蹴りが追撃を加えた。
陸奥圓明流『旋』。相手が並の達人なら、二発目の蹴りを目視する前に意識を
蹴り潰されているところだ。が、
「ぬるいですわ……!」
勇は二発目の蹴りが頬に触れると同時に、その蹴りと同じ速度で同じ方向に体を
捻って蹴りの威力を殺し、その回転を利して大和に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
『旋』を放った体勢のまま、空中で防御も回避もできなかった大和は、勇の攻撃を
まともに受けて吹っ飛ばされる。
辛うじて体勢を整えて着地するが、このままではいくらやっても同じことの繰り返し
だろう。そしていずれ、敗れる。
大和は間合いを大きく取ると、一つ深呼吸をしてから叫んだ。
「……陸奥圓明流奥義!」

164 :修羅と鬼女の刻:2007/03/22(木) 22:10:05 ID:HG7/eE/n0
低い姿勢で両腕を交差させた大和の姿が、突然勇の視界から消える。
「あら?」
凄まじい速さで勇の周囲を駆けている大和。その速さは勇にも追いきれない。が、
無手である以上いずれは手か足の届く距離まで来て攻撃してくるはず。
圓明流は無手の業。それが解っている以上、攻撃にくる一瞬の殺気さえ逃さねば、
捉えきれぬ道理はない。
「これが奥義……? 底が知れましたね、陸奥圓明流!」
カッ、と目を見開いて振り向いた勇の前で、大和が倒立して大きく脚を広げている。
その両脚が、まるで龍の顎のように勇の頭部を噛み砕かんと交差された。神速と言うに
ふさわしい速さだったが、鬼の反射神経を持つ勇には及ばない。勇は体を反らせて
龍の顎をかわす。両腕をだらりと下げたまま、余裕の表情で。
その直後、龍の咆哮が鬼に突き刺さった! 

ザグッッ!

皮が裂かれ肉が抉られ、血飛沫が炸裂する。着地した大和が、素早く体勢を整えつつ
間合いを取って立ち上がる、と。
「な、何っ!?」
血まみれの勇が立っていた。鍛え抜いた太い首をもつ力士などならいざ知らず、片手で
握り潰せそうな勇の細い首で、陸奥圓明流奥義『龍破』……その正体は両脚の高速交差
が巻き起こす真空の刃……に耐えられるはずはない。大和はそう思っていたし事実そう
なのだが、しかしそうはならなかった。
「なるほど……これはこれは……侮っていましたね、陸奥の業を……」
額に開いた大きな傷口から大量の血を流して、勇が笑みを浮かべている。
勇はあの一瞬で真空の存在に気付き、咄嗟に顎を引いて頭を下げ額を突き出し、
真空を受け止めたのだ。つまり龍の咆哮に向かって頭突きをぶつけたのである。
いくら勇の小さな頭とはいえ、丸く硬い頭蓋骨だ。真空の刃は所詮、風に過ぎない。
刃の鋭さはあっても槌の破壊力はないので、頭蓋を壊すどころかヒビすら入らなかった。
もちろん、叩かれ揺らされて脳震盪ということもない。

165 :修羅と鬼女の刻:2007/03/22(木) 22:11:44 ID:HG7/eE/n0
だが頭のケガである。出血量は半端ではない。溢れる流血が額から顔、そして胸へと伝う。
大和からの返り血と自らの流血とで薄く赤い衣が紅く染まり、勇の肢体に濡れて吸い付き、
しなやかな体の線が浮かび上がっている。
その様は妖しく美しく艶かしく、そして恐ろしく。正に『鬼女』そのものであった。
「陸奥大和……よくぞそこまで鍛え……よくぞそこまで造り上げましたね……
貴方のその克己心に……愛すら感じます…………ですから……」
白い顔を紅く染めて勇が笑う。その紅は、はたして流れ出た血によるものだけであろうか。
いや、違う。高揚した勇の頬が、熱く紅く染まっているのだ。
勇は両腕を揃え、何かを支え持つように真っ直ぐ上に伸ばした。そして、熱っぽい目を
大和に向けて、その唇から何かが漏れ出すような声で語りかける。
「貴方にはお見せしましょう……わたしの全てを、最高のわたしを……鬼の拳を」
まるで恐怖した神が、鬼の手を鎖で縛りつけて必死に天空から引っ張り、動きを止め
ようとしているような。その鎖が引きちぎられた時、一体どんな力が出現するのだろうか。
そんな鬼、いや鬼女と対峙する修羅、大和は思う。……龍破さえも通じなかった。
こうなったらもう、打つ手は一つしかない。だが、もしその技で仕留め切れなかった場合、
大和は勇の眼前で致命的な隙を晒すことになる。体力的にも限界を迎えるだろう。
となれば、末路は見えている。
が、やるしかない!
「オオオオオオオオォォォォッ!」
覚悟を決めた大和が、小細工なしで真っ直ぐに奔った。
勇は、じっとそれを見つめている。
「よもや、これを使えるとは思っていませんでした。感謝していますよ……陸奥。
貴方の最期の『勇』、しかと見届けさせて頂きます」
大和が間合いに入り、拳を突き出した。勇も拳を……と、拳が腕が肩が胸が、勇の上体
がまるごと消失した。突き出す拳の凄まじい速さが大和の、陸奥圓明流の視力さえ
越えたのだ。
この時。刹那の間に、大和は悟った。
『…………勝てない……か』

166 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/22(木) 22:13:36 ID:HG7/eE/n0
次回決着、そして完結です。ちなみに我が妹(誓って妹です。弟ではなく)は、夢の中で
『ろくブル』の前田さんとケンカして勝ったことがあるそうで。そういう欲求(?)は男性だけ
のものではないってことですな。……我が家が特殊なのであろうかという気もしないでも。

>>シュガーさん(御名前を何卒っ)
さくらではなくサクラ、なんですよね。未読なんですがツバサ版だと小狼ともども戦闘力は
ないのでしょうか? JOJOも五部までしか読んでませんが、静がしっかりとジョセフしてて
嬉しい。でもちょっとボケてるのが可愛い。そんな彼女が、どんなバトルを見せてくれるのか?

>>さいさん
決戦を前にして、今まで共に戦ってきた女を戦場から遠ざける。それだけならよくあるシチュ
ですが、説得の内容が何とも。女性側がそれで動じない、どころか完全に男の感情を理解
してるのがまた凄い。これはこれで通じ合ってる、理解しあえてる二人、ということか。深い。

>>proxyさん
直接戦闘以外の部分で罠の仕掛けあい、対策の練りあい。戦う前から始まってるバトル。
これはなかなか深く面白いですな。実際に遭遇して事態が動き出したら、筋書き通りに
コトを運べるのはどちらか? そうなってからの臨機応変もいろいろありそうで、楽しみです。


167 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/22(木) 22:14:35 ID:HG7/eE/n0
>>ハロイさん
こんな状況だってのに、どんどんセピアが可愛くなってきたなぁ。多分、原作知らず故の
感想なんでしょうけど、グリーンやレッドに対する言動から「小公子」的なことをしてくれそう
な子だな、と。心を暖めて解きほぐす。彼女がシルバーを、更にはエグリゴリまで……とか。

>>店長さん(SSでお疲れにもなりましょうし、感想は無理されずとも)
原作ドラ映画でもこのスレでのドラ長編でも、のび太たちを戦いに導くのは大体ファンタジー
な雰囲気の少年少女や動物や魔物でした。たとえそれが敵サイドでも。が、本作は違います
な。同じ「バンパイア」って単語でも浮かぶ映像が違う。戦いが本格化したら、どんな風に?

>>銀杏丸さん
北欧編かぁ。ヒルダの刺々しさのおかげで、フレアが随分と柔らかく可愛らしく見えたのを
思い出す。本作では北欧編自体が存在しないことになってますが、知ってる者の目で見ると、
ナメック星帰りの悟空やクリリンと再会したヤジロベーのよう。開いてしまった実力差……

168 :作者の都合により名無しです:2007/03/22(木) 22:55:49 ID:Z/Q/4WKR0
ふらーりさんの今までの作品の中で一番好きかな?
題材が難しかっただけに。
もうちょっと続いて欲しかったけど正成死んだし、
今が終わり時かもね。
原作の「刻」でも正成編はいつかやるかもね

169 :ヴィクティム・レッド:2007/03/23(金) 00:09:36 ID:SkjzVFKm0
 キース・シルバー。
 キースシリーズの次兄であり、戦闘型ARMS『マッドハッター』の適応者。
 その両腕から放たれる『ブリューナクの槍』はあらゆる物を焼き払う。
 全身をナノマシンで包み、どんな傷もたちまちに修復してしまう。
 そしてなにより、キース・シルバーの性格は戦闘に適していた。
 飽くなき闘争心はもとより、状況を有利に導くためならどんなものをも切り捨てられる潔さ、
そして無機的なまでに透徹された勝利への執念。
 あらゆる観点からしても、彼こそが真の戦闘機械であることは疑いを容れなかった。
 そんな強大な相手を目の前にして、
「ふ、ふふ」
 レッドは笑っていた。
 口の端をきゅう、と吊り上げ、挑戦的な目つきで『マッドハッター』を睨め上げている。
「レッド……このオレと戦うつもりか……!」
「そうだって言ったら?」
 それに答えるように、『マッドハッター』の頭部の中心二点がぎらりと光った。
 不気味に輝く両眼は、その視線だけでも人を殺せそうだった。
「う、うう……」
 シルバーのARMS共振に捻じ伏せられるように、セピアは床にうずくまっている。
 彼の発する殺気をその肌で直に感じ取っているように。
「逃がしはしない……たとえ兄弟であろうと……オレの邪魔をする者は許さん……!」
 両手の付け根を合わせた『マッドハッター』の荷電粒子砲が発射されようとしている。
「死ね……!」

170 :ヴィクティム・レッド:2007/03/23(金) 00:12:31 ID:SkjzVFKm0
 ばりばりと空気を切り裂く破裂音とともに、『ブリューナクの槍』が放たれた。
 その照準は動きの取れないセピアに向けられていた。
 複数の敵を倒すならまず弱い者から、という、どこまでも単純で冷徹な判断だった。
 だがそれは、合理的過ぎるゆえに先読みも容易だということも意味している。
 ゲーム理論が「必敗の理論」と揶揄される所以であった。
 『マッドハッター』の両掌に集められたエネルギーが限界に達する直前、レッドは座り込んだままのセピアを突き飛ばし、
自身はそれと反対の方向に跳んでいた。
 電磁的に加速された微粒子が、なにもない空間を焼く。転がるように着地したレッドは、右腕をシルバーに向けて伸ばす。
「『グリフォン』!」
 一瞬で発動したレッドのARMS『グリフォン』の放つ指向性の超音波が『マッドハッター』を激しく揺さぶった。
 それはもちろん、全身を武装化したシルバーにとっては致命傷になりえなかったが、
それでも『マッドハッター』の体表面に微細な亀裂が縦横に走る。
 その過負荷に耐えかね、シルバーの動きが停止する。
 それが単なる時間稼ぎに過ぎないことをレッドは熟知していた。
 金属生命『ARMS』の自己修復機能により、罅割れた『マッドハッター』の傷が瞬く間に癒えてゆく。
 『マッドハッター』がその全機能を回復するのも間近だった。
「セピア、しっかりしろ!」
 レッドの呼びかけに応じ、恐慌状態に陥っていたセピアの瞳に意志ある光が戻る。
「……し、心配してくれてるの?」
「違ぇーよ馬鹿! 本当の意味で『しっかりしろ』っつってんだよ! そんな腑抜けた状態でシルバーと戦えるか!?」
 その暴言に鼻白むセピアだったが、それより先に、
「レッド! 避けて!」

171 :ヴィクティム・レッド:2007/03/23(金) 00:14:16 ID:SkjzVFKm0
 『ブリューナクの槍』が再び放たれようとしていた。
 寸前のところで、レッドはセピアを抱えてその場から離れることに成功する。
 その背中すれすれを通り過ぎた熱戦が、服を焦がす。
 背中も焼けたような気がするが、さほどのダメージではないようだった。
 「くそ、意外と重いな、あんた」と毒づきながら、レッドはセピアを腕に持ったまま瓦礫の隙間へと回り込む。
その持ち方はセピアの背中と膝を抱えるやりかたで、いわゆる「お姫様抱っこ」というやつだった。
「どこだ……レッド……!」
 まだ本調子ではないらしく、シルバーはレッドの姿を求めて辺りを彷徨っている。
 セピアがレッドの耳元に口を寄せ、シルバーには聞こえないであろう声量で囁く。
「ね、レッド。今のうちに」
「今のうちって、なんだ」
「いや、だから、クリフを助けに行くんでしょう?」
 それは極めて真っ当な意見だった。
 レッドもそう思うし、だからこそさっき自分でもそう提言したのだ。
 ──だが。
「さっきとは状況が違う。シルバーを叩く」
「で、でも」
「オレはあいつをこのまま放って逃げることはしない。絶対にな」
 セピアは戸惑うようにレッドを見ていた。
 それも無理のないことだった。
 レッドの瞳は、爛々と燃えていた。その顔は敵意に満ちていた。
 敵を目にしたときの、いつか「怖い顔」と評したときの、あの容赦のないキース・レッドがそこにいた。
「オレはあいつと戦う」
「レ、レッド……?」
「教えろよ、セピア」
 なにを? と言葉にするまでもなく、レッドはセピアを正面から見据え、言った。
「お前はなにが出来るんだ」

172 :ヴィクティム・レッド:2007/03/23(金) 00:15:21 ID:SkjzVFKm0
「──なにやら騒がしいようじゃの、なにが起きているんだね?」
「大してことではありませんよ。ドクター・ティリングハースト」
「大したことではない、か。レッドに重症を負わせ、ワシのところにまで運び込んで来ておいて、
そんな深刻な事態が「『大したこと』ではないなら、いったいなにが『大したこと』なんじゃ?
その秘密主義も相変わらずじゃの、ブラック。そうやって自分の殻の中に全て閉じ込めて、それで世界を支配しているつもりかね?」
「分かりました。後ほど報告書を送りましょう」
「ふん、いらぬわ。貴様の都合の良いように改竄された事後報告など、なんの科学的根拠もない。さっさと本題に入るが良かろう」
「ええ。あなたをお呼びしたのは、この研究レポートについてです。大変興味深く読ませていただきました。
『モックタートルの特性と発展性について』と題されていますね」
「それがどうした。お前もワシの理論についてこれない馬鹿者なのか?」
「……直に、あなたからレクチャーを受けたいのですよ」
「ふん……殊勝なものじゃな。それで?」
「『モックタートル』は情報制御用ARMSとありますが、その情報制御とはどこまでに及ぶのでしょうか」
「全てじゃよ。理論上は、ありとあらゆる電子情報への介入が可能じゃ。
もっとも簡単なのは通信能力を備えた電子機器じゃな。
セピアの体表面から発せられるパルスが、直接的に対象と情報を送受信できる。
電子的な侵入を許さない閉鎖システムだろうと同じことじゃ。
散布された『モックタートル』のナノマシンが、物理的に対象と接触し、情報を送り込む。
言い換えればセピアは生きたリモートコントローラーであり、ワールドワイドウェブの端末であり、ロックバスターであるということじゃ。
彼女がいればペンタゴンのメインシステムをダウンさせることも出来るじゃろうて。セピアにその気があれば、じゃがの──」

173 :ヴィクティム・レッド:2007/03/23(金) 00:16:34 ID:SkjzVFKm0

「そこか……!!」
 シルバーの『マッドハッター』の砲身がある地点に向けられる。
 十の爪から奔る高圧の電磁波が一点に集中し、だが──
「なんだ……?」
 そのエネルギーの収束が、弱まっていた。
 ぶううん、と細い音を立て、エネルギーが徐々に拡散してゆく。シルバーはARMSのコアに命令を下し、出力を上げる。
 それも上手くいかず、膨れ上がったエネルギーで逆に自分の手にダメージを受けてしまう。
 なにかがおかしかった。まるで、なにか自分の感覚に靄がかかっている様な──。
「なにをした……!」
 どこからか、それに答える声があった。
「あんたはハッキングを受けているんだよ、シルバー。キース・セピアによってな」
「なに……?」
「ARMSだって突き詰めればただの機械だ。前もって定められたプログラムによって、その形態や能力を発現している。
そこを阻害されれば、どんな無敵のARMSだって役立たずになっちまうって寸法さ。
もっとも、ARMS制御プラグラムを破壊するプログラムなんぞ誰も開発してないし、セピアも『そんなの組めない』っつーんで、
無意味な情報を大量に送り込んであんたを感覚的に混乱させているだけだがな」
「ふざけるな……これしきのことで『マッドハッター』が無力化できるか……!!」
 おぞましい咆哮とともに、『マッドハッター』が全身を震わせる。
 鈍る感覚を奮い立たせ、内部的に言うならその膨大なジャンクデータを駆逐させ、再び『ブリューナクの槍』を形成しようとしたとき、
「させるかよ!」
 シルバーの死角から飛び出したレッドが、超振動を宿す『グリフォン』の刃で『マッドハッター』の腕を切り取った。
「ぐう……!」
 唸るシルバーの眼前にブレードを突きつけ、レッドは宣言した。
「あんたには絶対負けねえ!」
「舐めるな……『ヴィクティム』……!」

174 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 00:39:53 ID:LLxVG98N0
規制中?

175 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/23(金) 00:40:11 ID:SkjzVFKm0
皆川漫画のお約束「濃密な水蒸気の中ではビームが使えない!」というのをやりたかったのですが、
ARMSを電子的に攻撃する『ヴェノム』ネタを入れてしまったので、止めておきます。
シルバー戦で使わないでいつ使うんだって話ですが。
いきあたりばったりだなあ。

>店長氏
のび太とダレンって歳も近いし(同じか?)ので仲良くなりそうですね。
まだ話の全容が明かされていないので、いったい今回の黒幕はどんなやつなのか興味津々です。

>銀杏丸氏
北欧神話編は見てないですが、ss読む限りではなかなか手ごわそうな相手ですね。
神話はいい……ありえないスケール感があるから。
サムソンはうろ覚えですが……髪の毛が怪力の源で美女に骨抜きにされたやつですよね?

>ふら〜り氏
勇が強すぎっすね。
正直、どっちにも負けてほしくないからどっち応援すればいいか困ります。
とりあえず劣勢の大和の身を案じます。
つか、次でお終いですか? 本当に? 残念です。

>>137
フラグタッテナイヨー(棒読み)
グリーンは良い子なんですね、いろんな意味で。

>>139
メアリー・カッツを幼くして、三倍くらい馬鹿……じゃなくて、可愛げのある感じだと自分では思ってます。

176 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 00:57:03 ID:LLxVG98N0
>さいさん
こういうのは有難いです。人間関係とか整理しやすくて。
アク禁、早く解けるといいですね

>ふら〜りさん
うーん、女に追い詰められる陸奥は見たくなかったなあ。
ま、最後には逆転してくれると信じてますが。
でも次回で最終回ですか。また、次作を期待してますよ!

>ハロイさん
純粋な闘争型のシルバーに結構張ってるレッドがいい感じ
それにしてもセピアのアームズは意外と凄いんだw
ある意味、対アームズで最強のアームズですな。


177 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 01:24:04 ID:A+PccIHw0
ここって何のSSでも投稿していいんですかね?
「げんしけん」の短いSSを投稿したいのですが・・

178 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 01:26:05 ID:IzHAycg6O
>>177
つげんしけん専用SSスレッド
http://c-au.2ch.net/test/-/csaloon/1171903993/n#u
まとめサイト
http://www7.atwiki.jp/genshikenss/

179 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 01:36:18 ID:A+PccIHw0
ありがとうございますそちらに投稿してきます

180 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 08:56:29 ID:eIW1g/+10
ヴィクテムレッド面白いなあ

セピアが萌えキャラだと思ったらレッドの方が癒し系の萌えキャラだった
このSSでは熱血系の好青年なんだけどなあ
セピアがいなくなってひねくれちゃうのかな?
シルバーを追い詰めてるけど、また逆転されちゃうんだろうなw

181 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 11:47:27 ID:ETIAXgRn0
ハロイさんにスプリガンも書いて欲しい気もする
あ、それと史上最強のリーマン高槻巌が活躍する話とかw

182 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/03/23(金) 16:32:09 ID:RZfqKK0NO
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/52.htmlより

183 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜 :2007/03/23(金) 16:33:45 ID:1WnkCvhr0
 気配――敵意。その数はおよそ十。肉眼で把握。そして、それらは空を飛ん
でいた。驚いたことに、背中から生える二枚の羽で。悪い冗談――その姿は、
悪魔そのものだった。そこで苦笑をもらす。自分とて吸血鬼/バケモノではな
いか。
 意識を変革する。今の私の存在意義は狩ること。その銃でその異能でその弾
丸で。照準、弾道計算――もっとも効率のよい方法を模索。そのイメージを銃
弾へフィードバック。引き金は軽かった。甲高い音が爆発する。魔弾は解き放
たれた。
 
  
 空を飛行していたハートレスはその光に気づいた。チカッと瞬くわずかな光。
その瞬間が致命的だ。熟練の狙撃は、その光が見えたときには、すでに相手の
命を奪っている。
最初のハートレスは頭を潰された。その隣のものは腹部を。そして右後方に
いたものの眼孔から頭蓋に進入し破壊した。その間は秒にも満たない。

 ――が。その最後の一体は、その軌跡の先に、馴染み深いにおいを嗅ぎ取った。
それは心のにおい。魔弾が牙を突き立てる間際、そのハートレスは自らの主に念
を送った。それと同時に、空を裂いて魔弾がハートレスの頭部に到達した。
 一拍おいて、致命的な破壊を負ったハートレス達は、風船のように破裂した。
魔弾はハートレスたちを全滅させた。あっけなく終わったその戦いに、リップヴ
ァーンは拍子抜けしていた。
 
 だがこれは始まりに過ぎない。
 これから彼女に死の風が吹き抜ける。

184 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜 :2007/03/23(金) 16:37:21 ID:1WnkCvhr0
「いよーぅし。上出来だ」
 シグバールは体操をしていた。屈伸をし、膝を伸ばし、念入りに身体をほぐし
ていた。標的の場所は分かった。ハートレスが死に際、シグバールに思念を送っ
ていた。心の在り処、つまりは敵。吸血鬼の居場所を。

「さて、オフェンスとディフェンスの交代だ」
 シグバールは床にうつ伏せになった。そして、二つのガンアローを合体させた。
 ガンアローには近、中距離戦用のトゥーハンドタイプと、長距離専用のスナイ
プタイプがある。今のガンアローの形態は、スナイプタイプだ。二つのガンアロ
ーを直結させることで、純度の高い魔力弾を発射することが可能になる。その魔
力弾は2kmの距離から撃ちだしても、着弾前に大気中に四散することは無い。
つまりは、狙撃に特化した形態なのだ。
 スコープをたて、シグバールは標的を覗き込む。それは女だった。黒い服を着
ていた。その首下にかける装飾に見覚えがあった。鍵十字。ナチ。最後の大隊。



185 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜 :2007/03/23(金) 16:39:30 ID:1WnkCvhr0
 シグバールは内心舌を巻いていた。あの魔技を繰っていたのが、まさか女だっ
たとは。さらに、よく見てみれば、なかなか可愛らしい顔をしている。そのそば
かす顔と、槍の如きマスケット銃は、不釣り合いに過ぎた。
 だがシグバールは手を抜かない。猟師である彼は、狩場の掟を知り尽くしてい
た。少しでも手を抜くことは、自分の生死に直結する。女だからといって甘くす
ることはなかった。ひとたびその心臓に銃口を向ければ、それは獲物になり下が
る。シグバールは限りなく冷徹になることが出来た。もう彼に頭の中に、そばか
す顔の可憐な少女、という印象はなかった。ただただ彼女の急所の位置だけがイ
メージされていた。
 先ほどの柔軟で、程よく筋肉が弛緩していた。良い状態だ。もう少し時間を掛
けたかったが、これ以上は望むまい。事態は切迫している。奴が今の場所を移動
しないうちに、ケリをつけねばならない。そのために、いつもの狙撃までの準備
を、随分と省いていた。しかし、これで十分だろう。長年の勘が告げていた。
シグバールは、もう一度、標的を見た。

 冷たい風が吹いていた。
 そこだけは音が失われていた。
 永い一瞬が過ぎた。
 ふっ、と短い息を吐いた。  
 シグバールはトリガーを引き絞った。
 魔弾が解き放たれた。


186 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜 :2007/03/23(金) 16:42:27 ID:1WnkCvhr0
リップヴァーンは油断なく周囲に注意を巡らせていた。たった今現れた化物達、
その新たな襲撃を予測してのことだ。あの化物達が、あれだけのはずがない。あ
んなもろいものが、厳重に警備された研究所を落とせるものか。他にも仲間がい
るはずだ。それらを全滅する。そして、ミレニアムに手を出したことを、死ぬほ
ど後悔させる。

 今の狙撃で、こちらの位置を特定されていはない、と彼女は断じた。あの化物
の最後を見る限り、奴らは狙撃されたことにも気づいていなかったようだ。なら
ば、もう少しこの場で待機し、あのビルの屋上の監視を続行する。
 
 そう考えたときだった。額にプレッシャーを感じたのは。ちりちりとした感触。
そして、彼女の第六感が最大級の危機を察知し、並行して吸血鬼の反射神経が身
体を強制的に動かしていた。


 その動作の完了と、リップヴァーンの肩が破裂したのは同時だった。

 
「――、――、……え?」

 まるで噴水のように、赤い液体が飛び出した。見る見るうちに黒服が赤く染ま
っていく。リップヴァーンは愕然とその様子を見つめた。だが、意識の空白
は一瞬で塗りつぶされ、すぐさま彼女は床に伏せていた。そして、彼女の頭があ
った場所を、乾いた音が通過していった。その音は床に当り、粉々に割れた。銃
弾だ。銃弾の破片が散らばっている。



187 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜 :2007/03/23(金) 16:44:35 ID:1WnkCvhr0
「は――あ。こ、れ、は」
 いうまでもなく狙撃だった。傷を押さえ込むように身体を丸め、彼女はしばら
くやりすごした。そして狙撃が途切れると同時に、彼女は床を匍匐運動で、遮蔽
物の陰に移動しようとした。しかし、撃ち抜かれた箇所のせいで思うように動け
ない。雷撃のような激痛が彼女を苛み、その挙動を拒んだ。

「く――っあ、ぅ」
 痛みを下唇を思いっきり噛むことで耐える。鉄の味が口内に広がった。
 リップヴァーンの心中に疑問が浮かぶ。どうやって、敵はこの位置を特定でき
たのか。それは、あのバケモノたちのおかげだろう。どうやったのかは知らない
が、彼らをおとりにして、自分の位置を知ったのだ。
 リップヴァーンは自らの過ちを悔いた。すぐにここを立ち去り、場所を変える
べきだったのだ。自身の過ちによって傷を負い、事態を悪化させてしまった。教
訓が生かされていない、とリップヴァーンは自省した。迂闊な行動により、命の
危険に遭遇したことが、以前にもあった。
 それ以来自分は常に、狙撃手のありようを心がけてきた。それがなんだ。この
ざまは。吸血鬼となったからといって、自分が無敵となった、とでも思っていた
のか。ひどい慢心だった。
 やっとの思いで、遮蔽物の陰に到達した。大きく息をすること数回。もう傷口
の再生は始まっている。しかし、彼女の体からは既に多くの血が流れ出ていた。
これ以上、長い時間、狙撃のための集中力を保つことは出来そうになかった。

「勝負は、次の一撃……」
 リップヴァーンは覚悟を決めた。そして、次弾の装填を始めた。


188 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 16:53:16 ID:RZfqKK0NO
「かわしただぁ!? 嘘だろ」
 シグバールは、スコープから目を離し、信じられない、といった表情をしていた。

必殺をこめた一撃だ。当然殺したものだと思っていた。しかし、現に標的は彼の魔
弾をかいくぐり、今だ生きている。彼の戦いは終わっていなかった。
 さらに悪かったのは、標的が狙撃に気づき、弾の届かないところまで逃げたこと
だ。
これではこちらの攻撃は届かない。直線方向にしか進まない銃弾では、奥のほうへ逃

た敵を撃ち抜くのは、よほどの銃でない限り至難の技だ。ガンアローでは壁を撃ち抜

ことは出来ない。
 打開が必要だった。こちらの魔弾は直線しか進まないが、あちらの魔弾はその射線

を自由に変えることが可能だ。その能力は、撃ちだされた後も持続する。遮蔽物に背

をあずけての狙撃も出来よう。対して、シグバールはそれが出来ない。彼の撃ちだす

銃弾はすべて、遮蔽物に阻まれるだろう。

「ちっ、厄介な」
 シグバールは渋面を作った。うまくいかない。そもそも最初の狙撃で殺せていれば

よかったのだが、さすがは吸血鬼といったところか。その反射神経は伊達ではなかっ

た。重傷を負わせることには成功しただろうが、即死には到らなかったのことが、シ

グバールにとって致命的だった。このままでは、何も出来ないまま、あちらの魔弾に

貫かれるだろう。


189 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 16:54:13 ID:RZfqKK0NO
「……はーあ。腹くくるしかない、ってハナシか」
 その表情は、諦めではなく、必勝を予感したものでもなく、不安や、自信などのも

ろもろの要素が、混ざり合ったようなものだった。
 シグバールは立ち上がり、フェンスに足を掛け、それを乗り越え、屋上の床と虚空

間をつなぐ、ぎりぎりのところに降り立った。そして見た。彼の敵がいる場所を。遠

はない。が、近くもない。『接近する』には微妙な距離だった。
 接近。そう、彼は、狙撃手に対して、接近戦を試みるつもりだった。彼自身、分の

い賭けだと承知していた。しかし、敵に重傷を与えたとはいえ、この状況を長引かせ

のは危険だった。確かにあちらが力尽きるまで、長期戦に持ち込んだほうが、確実に

てるのかもしれない。だが、シグバールは知っている。手負いの獣がいかに恐ろしい

を。次の魔弾が、どれ程の精度を持って襲い掛かるのか……。
 その前に、狙撃手が苦手とするフィールド/接近戦に持ち込み、蹂躙する。それが

グバールの狙いだった。

 そしてシグバールは躊躇いなく、目の前に広がる虚空へ一歩踏み出し、“そのまま

走した”。



190 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 16:55:27 ID:RZfqKK0NO
]V機関のメンバーは通常のノーバディとは異なり、それぞれ固有の能力があった。

それはさまざまな属性に分けられ、例えばチャクラムにより炎を操るもの、例えば弦

楽器により水を操るもの、多種多様な遣い手がいた。

 シグバールの属性は空間だった。自分の意を空間に作用させることが可能だった。

それはいかなるものなのか。自分の意――それはいうなれば、自分に都合のいい情報

である。通常の空間には多くの法則が存在する。重力、物理……それらは往々にして

枷となる。

 だがシグバールには枷にならない。法則そのものを書き換えてしまうからだ。
例えば、宙に浮かび、逆立ちすることは、どんな人間にも出来ないだろう。それがそ

の空間の法則に反しているからだ。だがシグバールにはできる。宙に浮かび、逆立ち

している自分が正しいように、その空間の法則を書き換えてしまえばいい。自分の意

で空間を変質させてしまえばいい。彼が書き換えた空間に限っては、シグバールは多

くの法則から解放される。通常では為しえない奇跡を起こすことが出来る。

 その応用で、その空間には何もないという情報を、床があるという情報に書き換え

る――そうすることで、虚空の疾走を可能にした。

 シグバールは走る。彼我の距離が縮まりつつあった。終焉は近かった。 



191 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/03/23(金) 16:59:18 ID:RZfqKK0NO
やっと書けました。
やっと筆が動いてくれました。
このまま最後まで行きたいと思います。
それからゴート氏、私の拙作の保管、ありがとうございます。
さっそく使わせていただきました。
これからもよろしくお願いします。
では、次の投稿の時に。

192 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 18:11:10 ID:ETIAXgRn0
お久しぶりですハシ氏
ちょっと文体変わってパワーアップされましたね
今回の描写はかっこよかったです
また、数日後の投稿をお待ちしてます

193 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 22:47:03 ID:LLxVG98N0
ハシさん乙!
さいさんのとこには結構顔出してたけどバキスレでは久しぶりかな?
一気に話が進んだ感じで、もう終盤突入かな?迷いももう無さそうだし。
かっこいいキャラたちの競演楽しみにしてます。原作未読ですけどw

194 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/23(金) 23:02:13 ID:fKHjyZJd0
『初めての友達、そして転校生 @』

「静ちゃん、もう朝よ」
「うーん……やめてよメアリ、あともう五分だけ」
 肩を揺する手を跳ね除け、静は頭からシーツをすっぽり被った。
 メイド長のメアリは静に厳しかった。
 メアリは「高齢の大旦那様と大奥様に代わり、自分が彼女を立派なレディーに教育せねば」という使命感に燃えており、
率先して静のプライベートに介入してくる、そんな三十路過ぎのイタリア系の未亡人だった。
 まったく仕事熱心なのはいいが、こんな日本くんだりまで来ても自分の世話を焼かなくてもよかろうと、
半睡半醒の状態で静は思う。
 ちゃんとお土産を買ってくるし、週に一回は連絡を入れるから心配するなと言ったのに──。
(──あれ?)
 そこで完璧に目が覚めた。
 がばっと跳ね起きて隣を見ると、三十路過ぎの女性が目をぱちくりさせて静の寝ぼけ顔を眺めていた。
「はれ?」
 それはメアリではなかった。明らかに日系の、艶やかな黒髪が印象的な女性で、
今頃ニューヨークで静の夢でも見ているであろうメアリとは似ても似つかない。
「お早う、静ちゃん。よく眠れたかしら?」
「あ、ふぁい。お早うございます、ミズ広瀬」
「そんな堅苦しい呼び方しなくてもいいのよ。『由花子』でいいわ」
「あ、はい。由花子さん」
「着替えたら下に降りていらっしゃい。もう朝食の用意が出来てるから。康一さんもあなたを待っているのよ」
 と、由花子はベッド脇のボードに置かれたセーラー服を示し、部屋から出て行った。
 静はまだ重い思考のアクセルを徐々に踏み、ギアを入れる。
 簡素だが日当たりのいい角部屋で、窓際に据えつけられたベッドの上に自分がいることを明確に思い出す。
 外からは早くも眩しい光が差し込んできていて、名も知らぬ小鳥がぴーちく鳴いていた。
 ぽつり、つぶやく。
「そっか……わたし、日本に来たんだ……わたしの生まれた杜王町に……」

195 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/23(金) 23:03:38 ID:fKHjyZJd0

 由花子の言ったとおり、広瀬康一は用意された朝食も取らずに静を待ち受けていた。
「やあ、静さん。よく眠れましたか?」
 読みかけの新聞を折りたたみながら、彼はにこやかに聞いてきた。
「嫌だ、それもう私が聞いたわよ」
「え、そうなのかい」
「そうよ。康一さんったらいつもそうなんだから。……さ、静ちゃんお座りなさい。冷めないうちに頂きましょう」
 言われるままに静は席に着く。テーブルの上には、由花子による料理が所狭しと並んでいた。
 ベーコンエッグ、レタスとチーズのサラダ、アスパラとキノコのソテー、スモークサーモンのレモン和え、フルーツヨーグルトにトースト。
 朝っぱらからこんなに食べて太らないんだろうか、という不安が静の小さな胸をよぎるが、
「若いんだからたくさん食べてね。……大きくなれないわよ」
 そう言いながらオレンジジュースを注ぐ由花子の胸を眼前三センチに見て、訳もなく得心する。
 なんというか……迫力満点だった。「子供の頃、どんな栄養を摂ってました?」と喉まで出掛かったほどだ。
「じゃ、食べようか。静さんも遠慮なくどうぞ。いただきます、由花子さん」
「召し上がれ、康一さん。……いただきます」
 いつもの癖で胸の前で手を組もうとした静だったが、ここは日本であり、食前のお祈りを強制するメアリがいないことを思い出す。
慌てて周囲に目を配り、康一と由花子の真似をして掌を合わせる。
「い、いただきます」
 先の得心は、静の中ではすでに「朝っぱらから栄養を摂れば大きくなれるのだ」という信心に変わっており、
親の仇でも討つように目の前の皿に挑みかかる。しっかり味わうことも忘れずに。
 控えめに言っても、由花子の料理の腕前はセミプロ級だった。
 ニューヨークの不動産王の娘として、花よ蝶よと育てられた静の肥えた舌がそう判断したのだから、これは大したものである。
 その気になれば料理店の一つや二つを開くのは朝飯前だろうな、などと考えながら顔を上げた静の、
「はい、康一さん。あーん」
 手が止まった。
「や、やめてよ由花子さん。お客さんがいるんだから」
「関係ないわよ、そんなの。はい、あーん、……美味しい? ……じゃ、私にもして。あーん」
 口の中が一気に重くなった。喉の奥で引っかかる咀嚼物をオレンジジュースで胃に流し込み、そっと溜息をつく。
(うわあ……朝っぱらからいちゃいちゃしてるよう……)

196 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/23(金) 23:05:16 ID:fKHjyZJd0
 そんな醒めた視線に気が付いたのか、康一は咳払いを一つして静に向き直る。
「いや、失礼。……静・ジョースターさん。
あなたは今日から『私立ぶどうヶ丘学園高等部』へ短期留学生という扱いで編入されることになります。
例の『写真』は持っていますか?」
 静は深く頷き、一枚のポラロイド写真を差し出した。
 それを受け取った康一の横から覗き込み、由花子が「あ」と声を上げる。
「これ、高等部の校舎ね。懐かしいわ」
「そう……これは、あなたのお父様、ジョセフ・ジョースター氏が『スタンド能力』で『念写』した写真です。
──静さん。あなたはどこまでのことを把握していますか?」
 その言葉が静の内部に浸透するまで、康一は辛抱強く待った。
 静は緊張に表情を固くし、意識的に呼吸を繰り返してその硬直を解こうとする。
 出来るだけ時間を掛けて、静は確認するように一言一言に力を込める。
「ジョセフ・ジョースターとスージー・Q・ジョースターは本当のパパとママではないこと。
わたしは杜王町で生まれ、母親とはぐれてしまったこと。
十五年前、この町を訪れていたパパにわたしは保護され、ジョースター家の養子として迎えられたこと。
わたしの両親の手がかりとしてパパが『念写』した写真が、『それ』だということ。
だからわたしはこの町に来て、ぶどうヶ丘高校に通うということ、です」
 そこで静は言葉を切った。そこから続く言葉を待っていたのか、康一はややあってから拍子抜けしたように聞く。
「あの……それだけ?」
「はい、一応」
「『スタンド』については? それから──」
 ぴんぽーん、とチャイムが鳴り、その話は中断された。
 「誰かしら」とぱたぱた駆けていった由花子は、すぐに戻ってきて静にウィンクしてみせた。
「静ちゃん。お友達が迎えに来たわよ。遠野さんっていう子」
「十和子が? ……あ、もう行かなきゃ」
 目顔で「もういいですか?」と問いかける静に、康一が笑って首を縦に振る。
「まあ、この話は追々することにしましょう。ともあれ、学校生活を楽しんできてください」

197 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/23(金) 23:07:17 ID:fKHjyZJd0
「行ってきます!」
 と二人に手を振ってリビングから出て行く静を見送り、感心したように由花子がつぶやく。
「もう仲の良い子が出来たのね」
 それとは正反対に、康一はしきりに首をひねっていた。
「今日が初登校だっていうのに……?
昨日以前で友達が出来て、それがたまたまぶどうヶ丘の生徒だった、ってことか……。
ただの偶然、いや、もしかして例の『法則』……?」
 まとまりのない思考を追い払うように、康一は頭を振る。
 そして、「『スタンド使い』について少しだけでも教えておけば良かったかな」と微かに考えた。

 日本の夏は湿気ばかり高くて暑苦しい、と言ったのは誰だったか。
 少なくとも、静にとってM県S市杜王区杜王町の夏は、ニューヨークの夏より何倍も過ごしやすいものだった。
「ねえ、聞いていい?」
「なにが?」
 静は首を目一杯上に傾けて、隣を歩く少女の顔を見る。
 少女──遠野十和子は横目で静を窺い、ちょっと迷ってから口を開いた。
「どうしてこの町に来たの?」
「どうしてって……留学のためだけど」
 静がそう答えると、十和子は機械的に視線を前に戻し、気のない口調で「ふーん」と言う。
 そっちから話を振っておいてその反応はないだろう、と静は思ったが、よく考えると自分は本当のことを言ってない。
 「短期留学」とは表向きの理由であり、単なるカムフラージュであり、はっきり言えば嘘だ。
 だから反応の薄さについて十和子を責める筋合いは静にはない。
 だけど、どうしてそんなことを訊くのだろうと静は不思議に思った。
 昨日、初めて十和子と会ったときすでに、留学生であるという身分は伝えてあったはずだ。
 まるで静の嘘を、その疚しさを射抜くように、十和子は正確にそこを突いてきた。
 その奇妙な感覚には覚えがあった。
 見えぬものすら見通すように、届かぬものすら手に取るように、
 立ち塞がるものに立ち向かうように。

198 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/23(金) 23:08:22 ID:fKHjyZJd0
 いつしか二人は大通りに出ていた。
 来た道と行く道を指し示しながら、十和子が説明する。
「ここを真っ直ぐ行けば杜王駅だよ。そっからバスに乗ってぶどうヶ丘学園前まで行くの。オケ?」
 その口調には、先ほど感じたよそよそしさはなくなっていた。だが、まるっきり消えてしまった訳ではないのだと思う。
「Understand(分かった)」
 赤信号で立ち止まる。行き交う車の群れに見飽きた静は、なんとなしに側に立つ十和子を眺めた。
 緩やかな風になびく長髪を時折かき上げて、信号の赤が青に変わるのをじっと待ち続けている。
 その横顔に、凛とした佇まいを感じる。睫毛が意外と長いのを発見した。
「なに見てんのよ」
「え? べ、別に」
 十和子は面白くなさそうに鼻を鳴らし、再び前を見た。
 そして、沈黙。それははっきりと分かるくらいに気まずい雰囲気だった。
 なにかを言ったほうがいいのかと気ばかり急くが、なにも言葉は思いつかない。
 決して目には見えない、だが確実に存在する壁が、二人の間に立っていた。
 立ち向かうもの、側に立つもの、under−stand(狭間に立つ)。
 その連想の果てに、静は胸ポケットの中のポラロイド写真に制服の上から触れた。
(そうだ……わたしには目的があるんだから、友達なんか作ってる場合じゃないんだ……)
 昨日はなんとなくのノリで十和子と一緒に学校へ向かう約束をしてしまったが、
こんな気まずい思いをさせられたら、きっと明日からは誘ってこないだろう。
 万が一誘ってきても、今度はちゃんと断ろう。
 自分がここにいる理由すら言えない相手と、友達になんかなれるわけがないんだから。
 だからこれでいいんだ、と胸のしこりを正当化させることに成功しかけた静だったが、
「……ねえ、あれ」
 十和子の差す指の先には、コンビニエンスストア『オーソン』と、そこに群がる人の山があった。
「あの人たち、なにやってるの? 日本のお祭りかなにか?」
 風に乗って流れて来た野次馬のざわめきが、二人に事態を把握させる。
 ──ヤク中のコンビニ強盗だってよ。
 ──自分の子供を人質に取って立て籠もってるんだって。
 その言葉に、静の全身が総毛立つ。声にならない痛みが、胸の深い奥底までをも貫いた。
 それは、すでに風化しているはずの静自身の記憶が、長い時間の果てに立ち返ってきたのかも知れなかった。

199 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 23:18:23 ID:LLxVG98N0
規制支援

200 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/23(金) 23:21:57 ID:fKHjyZJd0
このまま名無しで突っ走ろうとも考えたんですが、必死こいて隠すこっちゃほどのものじゃないとも思うので、
今のうちにカミングアウトしておきます。

「ヴィクティム・レッドの更新ペース速すぎないか」という指摘を頂きまして、
「あ、じゃあもう一品SS走らせれば自動的にペース落ちるじゃん」という浅知恵の元にこうした馬鹿な真似を思いつきました。
同時進行というのはもしかして迷惑なのかな?という疑念があったので(なにしろ空気読めない子なので)、
名無しで投下してみた次第です。

201 :作者の都合により名無しです:2007/03/23(金) 23:25:50 ID:LLxVG98N0
ハロイさんだったんですか!
まったく違うタイプのSSを展開させるなんて凄いな…。尊敬します
なんとなく少女2人のほのぼのした雰囲気が「虹のかなた」っぽく感じました。
由花子は、静のテストの点が悪かったら、例の鍛え方するのかな?w

202 :作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 00:37:07 ID:ul9t8TH90
ハロイ氏、両作品とも面白いってスゲーな
俺はもしかしたらこの作者さんはカマイタチさんかな?って思ってた
ジョジョの中でも4部っぽい感じになるのかな?

203 :作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 00:55:56 ID:l/2H5fMB0
ヴィクティム・レッドは非常に面白い作品だから速すぎて困るなんてことは全然ないけどね。
ただシュガーハート&ヴァニラソウルもブギーっぽい空気をベースにしつつ
様々な作品のクロスオーバーとなり先が非常に気になる作品だから困る。
どちらもオリキャラ、半オリキャラが馴染んでていいなぁ。

204 :作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 08:48:27 ID:QXL/dnKu0
別に困らんでもw
ヴィクテムも面白いけど俺はこっちの方が好きかな
ジョジョ以外知らないから、逆に先がまったく見えなくて非常に楽しみだ
「ごく普通の日常に狂気や異常が潜む」ってのが好きなんだよね


205 :作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 11:15:49 ID:foAMWdkn0
ハシさんお帰り!
相変わらず描写がかっこよくていい感じです!
ラストまで頑張って下さい!

206 :作者の都合により名無しです:2007/03/24(土) 18:04:30 ID:6GDPKDrS0
ホントに絶好調だなバキスレ
新人さんが強力だし、ベテランは相変わらずいい仕事してるし、
どんどん復活もしてるし・・

これでミドリさん、サナダさん、ハイデッカさんたちが復活すればなあ

207 :作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 10:31:04 ID:A+dqIoyg0
SS来ない日が不思議に感じるのは幸せな事だな
出来れば、一気にくるよりバラして欲しいが・・

208 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:30:05 ID:8IWu3NqE0
熱もなく光もなく。
そんな空間が六角形に切り抜かれ、地平の果てまで続いている。
着替えを済ませ戻ってきた彼は、聞きなれた大好きな声に耳を傾ける。
「さて、さてさて!」
レンガ造りの地下道に、快活な声が響き渡る。
小柄な影がおさげ2つをぴょこぴょこ揺らし、ロッド片手に熱を吹く。
他者が聞けば顔をしかめるかも知れない。けれど、彼は逆なのだ。安らぎと充足すら覚える。
「『もう一つの調整体』起動に必要な割符をめぐる戦いはいまや佳境! 戦況は三分化であ
ります! ちなみに参考資料をば……でけでん!!」
ロッド一振り。煙と共に黒板が現われた。
彼はちょっとした遊び心で黒子をやっているからアシスタントをしないといけない。
だからチョークでがりがり書いた。以下の文字をがりがり書いた。

津村斗貴子はL・X・E残党勢と──
中村剛太は栴檀香美と──
楯山千歳は無銘の特性で現われた久世夜襲と──

「各者めいめい死力気力をふり絞りの激闘中! いまの銀成市はさながら後漢末期の中国
大陸というトコロでありましょう!! 三国志! 三国鼎立!! おおおー」
がりがり。がりがり。
黒子は絵を描いてみた。画才には自負がある。
というよりあらゆる技術芸術に対して自負がある。入門書さえ読めば何でも玄人はだしだと。
字だってうまい。絵だって前述のとおりうまい。
極度にデフォルメした戦闘予想図にも、小札は「おおお!」と喜色を浮かべた。
「正に戦国時代絵巻! 何とかデイズ!! 達筆なる絵に不肖の想像力はぐいとかき立てら
れさながらご飯目前の無銘くん。恥ずかしながら垂涎未遂なのであります! ああ、この絵が
ある限り、たとえ千里を隔てていようと実況は可能かも知れませぬーぅ!」
「フ。それもいいがほどほどにな。本来の目的を忘れてはならない」
黒子が頭巾を取ると、うららかな金髪が闇を照らした。
総角主税である。小札の遊びに付き合っていたらしい。
「さて。香美の奴は新人ともども山肌に投げられたが、どう出るか」

209 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:31:44 ID:8IWu3NqE0
「香美どのはどちらかといえば平和主義でありましょう。本来なれば戦闘に不向き。されどさ
れど、今後を思えば戦わざるを得ないというのが、不肖の見立て」
とててと総角の横に走って、小札はごくごく自然に並んで歩き出した。
「だな。戦いから何かを掴んで強くなってもらわねば……コレは奴以外、俺にすら当てはまる
コトだが、強くなければいずれは殺される。だから戦ってもらわねばならない」

怒気とともに爪が打ち下ろされた。速い。右足を軸に半身をずらす。回避成功。
そのまま足を跳ね上げ蹴りを打ち込んでも良かったが、やめる。
相手は近距離型。自分は中距離〜遠距離型。型に沿い、有利な方を選ぶ。
踵の戦輪(チャクラム)を逆回転。いちど退き、敵と距離を取る。一瞬で詰めてくる相手とは
周知だが、敢えて。
戦輪(チャクラム)はよほど敏感らしい。靴下と靴ごしでも原動力たる生体電流を感知して、
忠実かつ素早く距離を取ってくれる。耳元に心地よい風を吹かせてくれる。
これを思えば、斗貴子の「素肌に着用した方が速く動く」主義の立つ瀬はあまりない。
彼女は大腿部に直接バルキリースカートを着用しているのだが、果たして効果はいかほどか。
(でもやっぱ、先輩は足が出てる方がいいんだよなぁ。ロングスカートとか合わないって)
確実なのは剛太の鼻の下を伸ばせるというコトぐらいか。
「うぅ〜! ひとにヒドイこといっといて逃げるワケ!! ばか!! 恩知らず!!!」
半泣き状態のネコ耳娘が追いかけてきた。
なぜ泣いてるかは当人たち以外には判断がつかない。

先ほど。剛太。
つい香美の独白に流され、攻撃のきっかけがつかめないでいるとこう言われた。
「ちなみにあんたの頬の傷だってなおしたし! ちゃんとペロペロなめて」
頬に触れると確かに傷はふさがっていた。血の痕もない。
「ちょ、人が寝てるのをいいコトに、汚いマネすんじゃねェ!」
言葉というのは残酷だ。確かに唾液を傷口に塗りたくるのは、衛生学上、清潔とは言いがたい。
されどたとえ正しい言葉であれど、TPOを弁えねば厄介ごとを招くのだ。
まして男性と女性では物事の捉え方に違いがある。
前者はどちらかといえば論理的、後者はどちらかといえば感情的。
剛太の率直である種正しい物言いも、

210 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:32:52 ID:8IWu3NqE0
「……ひどいじゃん。あたしは、あたしは、ただなおそーと思っただけなのに」
香美を傷つけ、怒りと悲しみを呼ぶしかなかない。
生意気そうな瞳から、涙がぽたぽた。
普通の人間関係なら? ココで謝ればさほどの瑕疵も残さず済む。
だが悲しいかな。剛太は戦士。香美はホムンクルス。
殺すか殺されるかが基本の関係。少なくても剛太はそう信じてしまっている。
だからこそ戸惑い、焦り、口走り。
「う、うるせェ! 勝手なコトすんな。それより戦いだ戦い!」
名状し難いやりきれなさに顔を歪めつつ、モーターギアを放っていた。
戦いを再開させる行動を、選んでいた。

足から手に戦輪(チャクラム)を移動し、投げる。数は2つ。
時を同じくして香美は持ち前の俊足で距離をつめる。
当たるか当たらないかでモーターギアを軽やかにかわし、無手の剛太に肉迫する。
爪で切り裂くのか突き刺すのか、いずれにしろ武装錬金なしでは回避不可。
(当たったら死ぬよな。コレ)
鋭い爪の軌跡に、剛太は生唾を飲み込んだ。
飛び込んでくるのは分かっていた。正面からの攻撃しかできない単純な奴だと知っていた。
だから爪を振り下ろそうとした相手の肩口に、戦輪(チャクラム)を命中できたのも当然とい
えば当然だろう。
生じた激痛に首をねじ曲げ、何が起こったか香美は理解した。
と同時にもう一発。モーターギアは細い二の腕にめり込み、数度回転して止まった。
ホムンクルスといえど痛覚は人並みであるらしい。ならば耐えられるかどうかは精神力しだい。
そして香美の精神力はさほど強靭でないらしく、激痛に顔をしかめながら膝をついた。
「ただ投げるだけじゃねェんだ」
あらかじめ生体電流で射出角度や速度をインプットできる戦輪(チャクラム)を、腕から容赦
なく引き抜かれた香美は、痛みに体をびくりと震わせて、そのまま顔を伏せた。
(チッ。あの激甘アタマじゃあるまいし、なんでホムンクルス相手に──…)
かすかな憐憫に苛立ち、剛太はボサボサの頭をくしゃりと撫でた。
「おい。てめェには聞きたいコトがある。大人しく従うなら」

211 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:34:27 ID:8IWu3NqE0
「やだ」
「なに」
「やだっていってんの!!」
決然と顔を上げた香美の瞳には、すさまじい光があふれている。
「痛いので思い出した! あたしはずぅっとさっき、やな奴に痛い思いをさせられたのよ!!!
けどご主人に治してもらったし!! じゃあ戦うしかないじゃん!! ご主人のために!!
あたしは!!」
肩口にモーターギアを刺したまま、20mばかり躍り上がる影を剛太は見た。
頭上の枝葉でかさりという音がした。香美がもぐりこんだのは想像に難くない。
「戦うっきゃあないじゃん!! いくわよ垂れ目! その武器がいくらうごこーと、あたしの場
所が分からなきゃあたるワケない!!」
木々は高く、枝葉も高く。折り重なる葉に紛れた人影は、夜の闇で判ずるコト不可能。
「でもあたしはネコ。だから──…」
針状の緑光が剛太の頬に、手に、足に、驟雨のように降り注ぐ。

赤い筒をまっすぐ直結させて2mほどの長さにして、8個ほどのそれを束にした。
構造は単純で、ヘビと例えるにはややシンプルすぎる。どちらかといえばミミズだが、獲物に
対する執拗さを鑑みれば、やはりヘビと呼ぶべきか?
それが。
壁に勢いよく激突した。千歳に避けられたせいで。
震度3ほどの衝撃が辺りを揺らし、埃を降らす。
その量の少なさから(掃除はしている → じゃあやっぱり使われてる施設?)と推測する千
歳ではあるが、やはりココがどこかは分からない。
ヘビに追われて逃走を試みるコト、約5分。
走っても走っても廊下沿いに何かの部屋があるだけで、一向に代わり映えしない。
(せめて窓があれば外の情報を得られるのだけど。それに脱出も)
鳩尾無銘の攻撃で飛ばされて以来、瞬間移動も索敵もできないヘルメスドライブだ。
それは千歳の戦闘力がほぼ皆無であるコトに他ならない。
ならば斗貴子たちと合流するコトが急務。
「とっくにご存知かも知れませんけど、仕事というのは達成可能なコトじゃなきゃ仕事たりえ
ませんよねぇ」
薄暗い蛍光灯の横をカツカツと、夜襲がゆるやかに追ってくる。

212 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:37:45 ID:8IWu3NqE0
体は黒い光にうっすら侵食されているが、謎の復活とは関係あるのだろうか。
「不可能なコトをやらされれば、部下のモチベーションは下がる一方。利益を生む行為には
直結しない。死んだ、というか俺が殺した部長の受け売りですけどね。で、千歳さん。あなた
のモチベーションはどうですか? 窓を探すコト自体なかなか困難。ましてお仲間と合流でき
るかどうかも分からない。俺ならそんな仕事、さっさと投げますけどねぇ」
「まずまず……といったところかしら。情けない話だけど、戦闘力がない以上、まずはあなた
から逃げ切る必要があるの。でも、そうすると追撃を受けるから私はかなり不利ね。だから
こそ、集中する必要がある」
「それは結構。根来さん抜きでも──根来さんの言葉を借りれば『1人で充分戦える』ですか」
千歳1人、さほどの脅威でもないと踏んでいるのか。とすれば、かつて彼女の秘策に決定的
な敗因を作られた反省をしてしないコトになるが。
「あなたを軽んじたりはしてませんよ。そのあたり、ブッちゃけましょうか?」
「残念だけどお断りするわ。時間稼ぎに付き合える余裕は正直ないから……」
一筋の汗が化粧っ気のない美しい頬を伝い落ちた。
右手へバンドで固定したヘルメスドライブの周辺も、じっとり水滴に塗れている。
壁にめりこんでいたヘビが再び動き出しつつある。
「じゃあ逃げながらでもいいのでお聞き下さい」
促されたようであまりいい心持ちではないが、千歳は再び駆け出した。
白い首筋は湯上りのように色づき、まろやかな吐息がひっきりなしに鼻孔から溢れる。
「正直、悩んでますね。速攻であなたを倒すか」
タイトなスカートから覗く細い足が、ひっきりなしに地面を叩く。
(時間があれば策を練る、そう警戒してるのね。でも正直、こんな状況で)
背後のヘビが鎌首を繰り出してきた。とっさに飛ぶ。舞い上がる床の破片にバランスを崩さ
れそうになりながら、かろうじて着地して更に走る。
仮に策があったとして、実行に移す時間は与えられるだろうか。
よほど単純な策でない限りは──…
曲がり角が見えた。もしかすると行き止まりの可能性もあるが、走るしかない。
「それとも万策も体力も尽きたところをじっくり吸血するか」
千歳に火渡の毒気と攻撃性が半分でも備わっていたら、毒づいていただろう。
夜襲はいかにも2枚のカードの選択に悩んでいる風だが、実際に出す物は決まっているに
ちがいない。
(つまりは後者。このヘビで私を追いたて、策の発露を防ぎつつ、消耗させるのが狙い)

213 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/25(日) 15:38:53 ID:5ml1gH1a0
『初めての友達、そして転校生 A』

 静と十和子の目の前で自動ドアが開かれ、男子学生と思しき人影が一つ、オーソンの店内から道路へ飛び出した。
 命からがら逃げ出してきたのだろうか。彼は一度たりとも振り返ることなく、彼に群がる野次馬たちを突き飛ばして、
風のようにその場を駆け抜けていってしまった。
 規定時間内に動体を検出しなかったセンサーの命令で、ガラス戸が自動的に閉まっていく。
 その瞬間、静は確かに見た。レジカウンターの前で包丁を持つ男を。
 そいつの腕の中には小さな赤ん坊がいたことを。
 だが、すぐに戸は閉まってしまい、朝の逆光を受けたガラスのために店の中は見えなくなってしまう。
「いた……」
「え?」
「赤ちゃんが、いた……」
 それは十和子の「え?」に答えたのではなく、自分のなかで確認するために繰り返したというような、そういう呟き方だった。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえる、足は瘧のように震えている、視界は歪んでいた。
 退屈な日常の慰めにしようと、無責任な人々が集まってくる。
 これから始まるものが大捕り物なのかスプラッタなのかは知るべくもないが、朝の物憂げな空気を吹き飛ばしてくれるものは違いない。
そして彼らは会社で、学校で、ランチの場を盛り上げるネタとして興奮気味にこう言うのだろう。
 『今朝スゴイもの見ちゃっってさー』、と。
 ……みんな最低だ。
「──あんた、なにするつもり?」
 その言葉で静は我に返って背後を見る。十和子に肩を掴まれていた。痛みすら覚える、爪を立てた万力のような力だった。
「別になにもしようとしてないわ……痛いよ。離して」
 腕を振ってそれから逃げると、今度は手首を取られた。
「嘘だね。『わたしは赤ん坊を助けに行く』、そんなツラしてるわよ」
 言われて気が付いた。
 野次馬の輪が幾重にもオーソンを囲んでいるのだが、その出入り口付近だけはぽっかりと穴が空いている。
まるでその空間が立入禁止であるかのように、『向こう側』と『こちら側』の緩衝地帯であるように。
 静は、その空白の領域に足を踏み出しかけていたのだった。

214 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:40:44 ID:8IWu3NqE0
角を曲がる。幸い、道は続いている。体力も残っている。まだ走れる。
「ちなみにヘビはトイズフェスティバルの変形バリエーション。ディスクアニマルの真似です!
さあ、この状態で何か策を練り、抽出するコトはできますか!?」
「ええ」
唐突に踵を返した千歳。掌に着装したヘルメスドライブを。
彼女へ大口開けて飛び掛るヘビめがけ。
正確には首すじへ── 正確には筒が接合されている部分へ──
ヘルメスドライブの角を!
手刀よろしく叩き込む!!
両者の動きが一瞬止まる。鈍い音が薄暗い廊下の果てまで響ききる。
果たして。
ヘビの首すじは、筒の接合部は、硬質の楯に破砕されていた。
細かな欠片がカラカラとこぼれ落ち、最後に真赤な筒が地面へ落下。
それ位だ。結局、ヘビに与えたダメージといえばそれ位。
千歳は無事で終われなかった。
たじろぐかに思えたヘビの間髪いれぬ体当たりを受け、1mばかり吹き飛ばされた。
うっすら肉付いた臀部が床にたたき付けられ、骨を打った独特の鈍痛が千歳に走る。
右腕の関節もギシギシと悲鳴をあげている。
床を砕くヘビに対し、細腕でカウンターを繰り出したのだ。無理もない。
「無謀ですね。しかし! その体勢の崩れこそ願ってもないチャンス!」
夜襲の声とともにヘビに光が灯る。
闇に浮かぶは555の目。ゴジラの尾びれ。うっすらとした電飾の光。
正念場。千歳はすべき動作を素早くこなし、立ち上がり、ヘビの横をすり抜ける。
元来た道を突っ走る。赤い欠片を夜襲目がけて投げながら。
「あなたの本当の狙い…は…私の体勢が崩れた瞬間にヘビを自爆。必ず当てるために。違う?」
するとどうしたコトか。
夜襲は先ほどまで千歳がいた場所に移動していた。
そこは爆発寸前のヘビの前でもある。

結果。

廊下を突き抜ける紅蓮の爆風に、夜襲は成すすべなく呑まれた。

215 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:44:23 ID:8IWu3NqE0
「トイズフェスティバルの特性は……攻撃に応じた自動回避。百雷銃を仕掛けた場所へ創造
主を瞬間移動させる。だからさっき落ちた筒を」
「いま俺がいる場所に仕掛け、欠片を投げて……強制転移発動と。相変わらず……お見事」
夜襲はニヤリと笑う。腕は左右ちぐはぐ、顔は焦げ、右目は焼き魚のように白濁している。
足はもうない。ひょっとしたら廊下の向こうに転がってる消し炭がそうだったのかも知れない。
「再生怪人なので、ま、こんなもんですかね。た……だし」
かききえた夜襲はモヤのような物体になり、ヘルメスドライブへ吸い込まれる。
「俺は予兆にすぎ……ません。暴…………走、まだまだ続き……ますよ」
ヘルメスドライブの画面が、再び明滅を始め──
「ぬすまれた過去を探しつーづけて、俺はさまよう見知らぬ町をー」
とても。
とても。
とても、見覚えのある物体を映し出した。
「炎のにおーい、しーみーついーてぇー…むせる」
不等号に線を2本あしらったような、独特の記号。
それが刻印されたブラウンの靴底が、画面の奥から徐々に迫りつつある。

「さよならはいったはずだ。別れたはずだ」

……地獄を見れば心が乾く。千歳の心境は正にそれだ。
とっさにヘルメスドライブの画面が自分に向かわぬよう背けるのが精一杯。
「流星!! ブラボー脚!!!!」
とてつもなく重い衝撃が、画面を突き破り現出した。
その直撃を受けた曲がり角、一瞬で瓦礫の山と化した。
まるでミサイルを打ち込まれたように。
機関室だろうか。瓦礫の向こうに黒光りする装置の群れが見える。
それを背景に、瓦礫の山と埃を押しのけ立ち上がったのは。
全身を銀色のコートに包んだ存在。黒い光をうっすら纏っているが、銀の気配は揺らがない。
「ブラボーな判断だ。戦士・千歳。確かに画面がお前に向いたままなら攻撃を受けていた」
見慣れた帽子の下から、聞きなれた声が響く。
かつては千歳と火渡でチームを組んでいた。
いまは戦士長にして、錬金戦団きっての非常識な身体能力を持つ男。

216 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:46:51 ID:8IWu3NqE0
されどそれは天賦の才によるものではなく、あくまで地道な努力によるものだというコトを、
千歳は誰よりも知っている。
だからこそ、その男が戦場において立ちはだかるのは何にも勝る脅威である。
息苦しい。まるで眼前の空気が鉛がごとく固っているようだ。
「……あなたも、敵」
「yes I am!」
チッ♪ チッ♪ などと独特のポーズで拳振りつつ答えるのは誰あろう。
キャプテンブラボーこと、防人衛。
「残念だがその通りだ。しかし、安心しろ。あくまで俺はお前自身が作った偽者。……いや、
ヘルメスドライブが作ったというべきか」
(一体どういう意味?)
「ずいぶん知りたそうだな戦士・千歳。だがこれ以上は秘密だ。なぜなら……

その方がカッコいいから!!

お前に攻撃を加えるのは忍びないが、逆らえないように出来ている。行くぞ!!」
銀の強者が瓦礫を蹴り、千歳に迫る!

他の戦士達の動向も気になるが、寄宿舎待機を命じられている以上、どうしようもない。
そういう意味では、この接触、焦りを散らすのには適しているかもしれない。
斗貴子が見たら、戦いもせずにいい身分だと毒づくだろうが。
テーブルの上に勢いよくどんぶりが置かれた。
「まひろ特製南プラバンス風あんかけ麻婆豆腐!」
うす茶に染まった豆腐がほかほかと湯気を立てている。
こんがり焼けたひき肉そぼろにあんが垂れ、随所のねぎと紅生姜がおいしそうな色彩だ。
「いや、君は一体何を作っているんだ」
寄宿舎の食堂で秋水はこめかみを抑えた。
「お夜食!!」
アースカラーの三角巾をふりほどくと、まひろの豊かな髪がふわりと浮いた。
「そうじゃなくて」
南プラバンスと銘打ってなぜ麻婆豆腐なのか。

217 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:48:07 ID:8IWu3NqE0
それに厨房に生徒が入っていいのか。千歳だって本職は戦士で別に調理師でもなんでもな
いが、いちおう寮母としての立場があるから厨房に入れるのだ。
だいたい、時刻は午後9時を回っている。食事をする時間に不向きだ。
疑問反問はつきないが、投げかけたところで果たして答えてもらえるかどうか。
「なんだかー、秋水先輩忙しくなりそうだし、栄養とってもらいたいなーって」
まひろはイスに座ると、梨の花のように「にぱー」と笑った。『梨』の『花』のように。
「へっへーん! 何を隠そう、私は料理の達人よ!!」
聞けば両親が海外に行ってるコトが多く、たまに自己流で作っているうちに何となく上達した
らしい。
もはや自分の主張モードに移っている。
いい子なのだが、人の意見をもう少し聞くべきじゃないかと秋水は思うが、別段嫌悪感は湧
かない。
それより正直のところ、桜花が怖い。
いちおう「まひろに急に呼ばれたので行く」と伝えたが、いつ何時、
「あらあら。楽しそうねぇ秋水クン。私をほったらかしで」
と腹に一物ありそうな笑顔で登場するか分からない。御前様が影から見ている可能性もある。
秋水らしくはないが、辺りを落ち着きなく見渡してしまう。
桜花にずっとべったりだった頃を思えば、普通の姉弟らしさに近づきつつあるが、秋水自身
はあまりそういう変化に気付かない。
「どうしたの秋水先輩。……ひょっとして麻婆豆腐、ダメだった?」
だとすると悪いコトをした、という表情でまひろは秋水を覗き込む。
大きな瞳は黒曜石よりも漆よりもきらきらと光っている。
「い、いや。支障はない」
あまりに純真な瞳を見ていると、自分の犯した過ちが知られそうで、つい秋水は視線を外して
しまう。
カズキを刺したコト、いずれ謝るべきだと思っているが、まひろの朗らかさを突然の奈落に突
き落とすようなマネはしたくない。涙の時を知っているから、したくない。
とりあえずレンゲを手にして、麻婆豆腐の攻略に移る。
幸いにして、秋水は食事のマズさを知らない。
幼少の頃に極度の飢餓状態におかれてからは、決まった時間に火の通った物を食べられる
だけでも「おいしい」と思える。

218 :永遠の扉:2007/03/25(日) 15:50:22 ID:8IWu3NqE0
だからまひろの作ったやや突飛な料理に対しても、恐れるコトなく箸(レンゲだが)をつけられる。

──あれはアホウドリだ。

蝶野爆爵ことDr.バタフライなどは秋水の食事風景を評してかつてそういったコトがあるが、
なるほど、味覚についてはそうかも知れない。
江戸時代中期、とある舟人たちが無人島に漂着したコトがある。
その際、食料となったのがアホウドリだ。
彼らは好奇の赴くまま人間へ近づき、捉えられ、喰われたという。
なぜならば人間を脅威として認識していなかったためだ。
秋水の味覚も、脅威というものを知らず、知らないがゆえに、「まひろ特製南プラバンス風あ
んかけ麻婆豆腐」なる面妖なメニューを口に運んでいるのだろう。
「……うまい」
「でしょー!」

ちなみにその頃、ヴィクトリアは千里と沙織で神経衰弱をしていた。
(神経衰弱が趣味なんだ……)
やや気恥ずかしげにカミングアウトしてきた千里を、可愛いなとつい思ってしまう。
アレキサンドリアに似ているがやはり子供じみてて、けれどそんな子供じみた千里に母の
面影を見いだしてしまって、ヴィクトリアは面映い。
とりあえず、ちょっとだけ素直な部分を出しながら、友人たちときゃいきゃい遊ぶのも、悪くな
いと思った。そう思えるようになりつつある。
ホムンクルスでありながら、人間社会に対し、そう。

219 :スターダスト(鳥失念。まさに鳥がいない):2007/03/25(日) 15:54:15 ID:8IWu3NqE0
どーも! お久しぶりです。
アク禁はまだまだ、まだまだちっとも解ける気配がありませんので漫画喫茶から
お送りしております。ヒャッホウ! 書ける、書けるぞー!

前スレ>>493さん
ありがとうございます。最初は魅力的に描けるか不安でしたけれど、なんとかキャラ立ちして
きたのかも。描いてると「お、ココでこういうのか」と楽しいですw 反対に千歳は理詰めで
こうあるべきと考えております。されど動く彼女を描写するのはまた違った趣が。

前スレ>>495さん
実は彼を含むネゴロ登場の社員たち、「零」という和風ホラーゲームのキャラからとっており
まして、「久世夜舟」ってキャラを「久世夜襲」にもじって「久世屋秀」にするも本名披露の時間がなく……
あ、主税についてはパワーじゃなくフォースの方です。こっちはカブトの「FULL FORCE」が元なので。

前スレ>>496さん
なんだか剛太と香美も似合いそうとか思いつつありますw けっこう似たもの同士ですし。
でも桜花とのカプも捨てがたく、けれどもアイツは斗貴子さんしか見ず。もどかしい。
小札は初期設定では本当に幼女w でも、幼い外見の小柄な18歳も捨てがたく、今に至ります。

>>ハロイさん
しかも巨乳で世話焼き。でも剛太は感謝一つしないので、だんだん腹立たしくなっておりますw

>ヴィクティム・レッド
レッドがすっかり脇役にw それに引き換え、シルバーとクリフの凄まじいコト!! 
>ARMSをただの殺人兵器だと割り切り、自在に操っている気分になることに〜
むしろこちらの方がエグリゴリらしいw シルバーは特に。で、グリーン兄さまはさわやかで、
レッドの背中をばしばしたたくセピアが可愛らしい。キースシリーズ、本当にお好きなのですね。

220 :スターダスト(鳥失念。まさに鳥がいない):2007/03/25(日) 15:55:06 ID:8IWu3NqE0
ふら〜りさん
耳かきとかもまた。ただ親切なネコを悪くいう剛太は、発明将軍ダウンタウンの堀田堀子さ
んという蝶・高速で耳かきを上下する殺戮兵器でお仕置きして欲しいともw 夜襲は今回あっ
けなくやられちゃいましたが、彼らしい挙動はなるたけ詰め込んで見ました。やっぱ好きです彼も。

>修羅と鬼女の刻
正成は勇に殺されると思っていましたが、まさかまさかの大和との対決!! ああでも、悪に
好き勝手蹂躙されて散るよりは、彼の意思、彼の希求、彼の願いを通した末の最期がいい!
善悪なしの闘争者同士の戦い、お熱うございました。そして血でボディライン浮き彫りの勇が! 勇が!!

さいさん
いやはや、日記で連載(胃カメラの)して、本当、どうするんだとw いや、楽しいんですけどね。
映画を見られるだけあり、場面に躍動感がありますなぁ…… 映像的アプローチが苦手な自
分なので、勉強になります。大塚芳忠さんは嫌な野郎をやらしたらピカいちですよねw

>WHEN THE MAN COMES AROUND
無能な上司というのは本当、いやなタイプの悪役ですよね。真っ向から対立はできず、その癖
生殺与奪は握られているという。坂の上の雲の伊地知みたく。で、New Real IRA。斜陽の組織
であれど、先に託そうとする意志がカッコいい。彼らの最後の戦いにワクテカ!!


銀杏丸さん
アニメでの追加描写でも、戦団上層部はアタマの固い連中ばかりという感じですね。
日露戦争でいうならロシア。なんかもう旧態依然。はやく滅びた方が世の為みんなの為とい
う感じも無きにしも非ず。ちなみにヴィクターシンパについては一構想。ふっふっふ。

>戦闘神話
ハッタリなのですかw 青銅の中で一番弱そうな(市様は最強ですよ。だって勝負は常に顔
で決まるのですから)彼が、どう食らいついてくのか。星矢は原作しか知らないのですが、
別メディアのキャラを銀杏丸さん色に仕立てておられるのを見ると、限りない愛を感じてなん
だかほっとします。よく分からないけどすごい集団がキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!とも。
自分もソウヤとか西山くんとかいつか出してみたいですね。ええ。佐藤浜崎は既に出しましたし!

221 :作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 15:58:36 ID:5ml1gH1a0
もう大丈夫かな?

222 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/25(日) 16:00:11 ID:5ml1gH1a0
「あんたはやめときなさい。もうすぐ警察が来るから、それに任せるのが冴えたやり方ってヤツよ」
 その、どこか突き放したような十和子の言葉に、静の中で『なにか』が切れた。
 きっ、と彼女を睨みつけ、
「泥棒がそういうこと言うの? 自分に都合の悪いときだけ、警察頼りなの?
それが『冴えたやり方』だっていうなら、わたしそんなの知らない!」
 今度こそ突き飛ばすように十和子から離れ、
「わたし、馬鹿でいい!」
 言い捨て、一直線にオーソンの入り口へ走り出す。
 静が戸の前に立つと、動体を感知したセンサがドアを開く。
 自動ドアが開ききるのももどかしく、割り込むように隙間に身を差し入れる。
僅かにたたらを踏んで入り口横のコピー機に手を突いた静は、素早く店内を見回した。
 人は疎らだった。一人ひとりを観察する余裕は無かったが、所々に散らばって二、三人。
 それとは別に、正面のレジカウンター内には怯えて固まっている店員、そして、
 奇妙なものを見るようにこちらへ視線を向けている男が一人。先ほど静が見た男だった。
「──く、来るな!」
 静と目線がかち合うなり、男はそう言って静に向けて包丁を突き出した。
 五メートルはある彼我の距離を、刃渡り十五センチの包丁で埋めることが出来ると本気で思っているのか、
必死に何度も突く動作をする。明らかに精神の平衡を欠いた挙動だった。
 静は心を落ち着けるように一つ深呼吸をし、
「ねえ、それ」
 すう、と指で男の胸の辺りを指差す。
 それと同時に、その場の誰にも理解できないであろう単語を吐いた。
「『Achtung Baby』」
 次の瞬間、静の指す場所を目で追う男の顔が、驚愕に歪む。
 腕に持っていたはずの赤ん坊が──消えていた。
 男がおたおたと周囲に視線を泳がせるその隙を突いて、静は早足で男へ歩み寄っていく。
 ぽかんと口を開けている男は、その静の動きに気が付いていない。気が付くはずもない。
 今や男の目には、腕の中の赤ん坊も、彼に近づく静の姿も、どちらも映っていなかった。

223 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/25(日) 16:01:25 ID:5ml1gH1a0
「な、な……!?」
 はっきりと顕在し始めたその異常に、男の精神は混乱を極める。
 赤ん坊の姿はないくせに、自分の右腕にはしっかりとした重みを感じている。
目の前には誰もいないくせに、こつこつと床を叩く靴音が──。
「なんだああぁッ!?」
 奇妙な状況に耐え切れなくなった男が包丁を滅茶苦茶に振り回す。
 その背後に、静は立っていた。……男から奪った赤ん坊をその腕に抱きながら。
 それすらも、男には見えていない。ひたすらに、なにもない前方の空間に刃を突き立てるだけである。
 『物質を透明化させる』──それが、静の持つ常人には無い特殊能力、『スタンド能力』だった。

 『アクトン・ベイビー』。
 それが静・ジョースターのスタンド能力であり、静の運命を大きく狂わせた力そのものだった。
 十五年前、静は私用で杜王町を訪れていたジョセフ・ジョースターに拾われた。
 その彼の尽力も空しく、彼の滞在中に両親を見つけることができず、結果、彼の養女として引き取られることになる。
 養父ジョセフ・ジョースターからその事実を言葉少なに聞かされたとき、静は直感した。
 ──それらの経緯は、ある一つの無慈悲な現実を意味していると。
 自分は捨てられた子供なのだ、と。
 治安もへったくれもないスラム街や、人口が多すぎてどうにもならない大都市でもなく、
ただの小さな町で赤ん坊が一人消えたというのに、それが事件になることがなかった。
 親が『消えた子供』に騒ぎ立てないとはどういうことか──静には一つの答しか浮かび上がってこない。
 静の両親は、最初から『いなかったこと』にするつもりだったのだ。きっと捜索願すら出されていないのだろう。
 紛れもなく自分は捨てられたのだ。『いなかった子』として、彼らの記憶から消されてしまったのだ。
 捨てられた赤ちゃん。そんな自分の運命を象徴するような、『消える』スタンド『アクトン・ベイビー』。
 そしてある日、静は決意する。

 「両親に会いに行こう。会って、『わたしはここにいる』ということを教えてやりに行こう」、と──。

 それが、彼女にとっての、人生に立ち向かうたった一つの方法だった。

224 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/25(日) 16:02:58 ID:5ml1gH1a0

「う、うう……どこだ……どこに消えやがった……。いるのは分かってるんだ……」

 目を血走らせて、男は苦悶の声を漏らしていた。歯を剥き出しにしてだらだらと涎を垂れ流している。
 普通の人間なら「一瞬の隙を突いてどこかへ隠れた」などそういう解釈をするものだったが、
薬物のオーバードゥズによって思考力と判断力を奪われていた男は、そうした分かりやすい答には飛びつかない。
執拗に静と赤ん坊の姿を求めて空中を睨んでいた。
 それは素人目にも分かるくらいの「危険な状態」で、暴発寸前だった。
静はそんな男を刺激しないように息を殺してゆっくりと後じさる。姿は無く、音も無い。だが、
「ふぇぇぇ……」
 静の腕の中の赤ん坊が、むずがって泣き声を上げた。まずいと思うがすでに遅く、男がこっちを見る。
「そこかああああああぁぁッッ!」
 口角泡を飛ばして男の腕が振り被られる。その先には包丁が光っていた。
「──っ」
 逃げる暇はなく、それでも静は赤ん坊を庇うように男へ背を向け、目を固く閉じた。
「せええぃっ!」
 瞬間、耳を疑った。その叫び声は女の子のもので、しかも十和子の声に似ていて、でも彼女は店の外にいたはずで──。
 がちゃん、と金属が落ちる音がして、静の横に包丁が滑ってくる。
訳が分からないながらも、慌てて『アクトン・ベイビー』の能力を使ってそれを透明化させた。
 その静の背後では、なにかが立て続けにぶつかり、激しい衝突を繰り返し、商品を並べた棚が盛大に倒れているのが聞こえる。
 やっと静かになった頃、恐るおそる後ろを振り向いた静の目に映ったのは、
「ったく……あたし低血圧なんだから、こーゆーハードなのは勘弁して欲しいわ、マジで。……あ痛、子宮吊った」
 レジカウンターに座って足を投げ出している十和子と、その足元に力なく伸びている男の姿だった。
「と、わ……こ……?」
 静はつぶやいた。その声は喉に引っかかったとても小さなもので、距離的にも彼女に聞こえるはずはなかったが、
「飲む? 静」
 カウンターから滑り降りた十和子は、ガラスの戸で遮られた陳列棚から缶コーヒーを取り出し、
それを静に向かって放り投げたのだ──まだ『アクトン・ベイビー』で透明になっているにも係わらず、である。

225 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/25(日) 16:04:09 ID:5ml1gH1a0
>>213>>222-224の順ですね。ホント、申し訳ないです。
なかなか話が上手く転がらないですが、もう少しお付き合いください。
ツバサの面々とブギー勢がまったく書けてないのが目下の悩みです。

これ以上作品盛り込んでたら、早速破綻するところでした。
ハルヒとかしゅごキャラ!とかウテナとか考えてたんですが。
知らねえって? そりゃ失敬。

>ハシ氏
クールな描写がとてもいいと思いました。あやかりたいです。マジで。
ジグバールは知らないですが、リップバーンは大好きです。存在自体がエロいですよね。



226 :作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 19:03:17 ID:RQCFsjZz0
器用な時間にバッティングするなあw

>スターダストさん(いつもよりなんとなくハイテンションですな)
戦闘の中でも、小札と香美の可愛さが目立っているなあ
まっぴーの料理は食べたいような食べたくないような

>ハロイさん
血はつながってないけど、静の中にもジョースター家の
誇り高き血統は生きてますな。能力を考えるのうまいなあ



227 :作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 20:48:31 ID:9DSccf6/0
スターダストさんといいハロイさんといいレベル高いね・・
俺も頑張らなくちゃ・・

>永遠の扉
小札というキャラは使い勝手が良さそうですね。講談師やらせても出来る。
まひろと秋水の近づいて行く様子が微笑ましくていいですね。
どっちも恋愛初心者同士で。両方とも恋愛感情に疎いから不器用な近づき方で。
激しい?戦いの一方でこういうのがあると安らぎます。

>シュガーハート&ヴァニラソウル
静は女性ながら少年漫画のヒーローみたいな感じのキャラですね。
ジョジョっぽさと、他の漫画の要素が上手く溶け込んで読んでいて楽しいです。
ジョジョ以外知らないけどw でも、十和子も普通の女の子では無さげな
只者ではない雰囲気がありますね。

228 :作者の都合により名無しです:2007/03/25(日) 22:07:33 ID:anz9yvv20
スターダストさん、ハロイさんお2人とも乙です!
感想上手くかけないけど、いつも楽しみに読んでますので頑張って下さい!

スターダスト氏、「全員が主役」みたいな活躍ぶりですね、錬金への愛を感じます。
ハロイ氏、ヴィクテムは単体で、こっちはコラボで大変ですね。でも両方面白いw

お2人ともオリキャラが立ってるのは基礎筆力が高いからなんでしょうな…

229 :狂った世界で 序章:2007/03/26(月) 08:49:21 ID:1EjPA9bR0
 音隠れのスパイ――シドウは、接触予定ポイントに到着すると、身を隠すようにして、木に寄り添った。
 まだあたりは薄暗く、吹く風も若干肌寒い。もしかすると、来るのが早過ぎたのかもしれない。
 軽く体を震わせて、ベストのファスナーを閉める。冷え切った指先を擦って、ささやかな温もりに浸る。
 時間まで瞑想でもしようと、目を閉じた。すると、数分もしない内にこちらに接近する複数の気配。
 進行方向と移動速度から推測するに、接触予定である音隠れの忍と見て間違いはないだろう。
 任務から帰還する木の葉の忍だとすれば、こんな妙なルートは滅多に通るまい。
 それに、自身の領地の近くであるならば、移動速度と気配を最小限に抑えているのも解せなかった。
 などと思いを巡らせつつも、万が一の可能性は捨て切れない。
 気配が肉眼で確認できそうな位置まで接近するのを確認して、そっと、木の影から顔を覗かせる。
 前列に三名。そして、そのすぐ背後に三名……計六名。全員、音隠れの額当てを身につけている。ビンゴだ。
 シドウは前列の先頭に立つ忍に、見知った顔を発見した。
 感情を喪失してしまったような無味乾燥な表情には似つかわしくない、強い意志の宿った瞳が正面をじっと見据えている。
「ミサキか」
 一人呟くと、シドウは覗き見るのを止め、彼等の前にその姿を晒した。
 それに気付き、六人は一斉に、シドウの前に降り立つ。
「久々だ、ミサキ」
 シドウが声をかけても、ミサキと呼ばれた女は沈黙したままだった。
 訝しげな視線を送るシドウに、ミサキは淡々と告げる。
「シドウ、確認の言葉を」
「確認の言葉など聞いていないが?」
 シドウにとっては、寝耳に水の話だった。合流時の合言葉の取り決めなど、一切打ち合わせになかったのだから。

230 :狂った世界で 序章:2007/03/26(月) 08:50:19 ID:1EjPA9bR0
 そんなシドウの抗議を無視して、ミサキは言葉を続けた。
「こちらは『森林』」
「何のつもりか知らないが……確認の言葉は聞いていない。試しているのか?」
 そこまで言った所で、シドウはミサキの不審な動きに気が付いた。ミサキは、右手を腹部に添えて、人差し指と中指を立てていたのだ。
 その行動の意味を、シドウは知っていた。周囲に『危険』が迫っている事を示す、彼等の間でのサインである。
 他にも多種多様なサインがあるが、余程特殊なケースでもない限り、大抵は会話で事が足りてしまうので、実際に目にしたのは始めてだった。

 シドウの視線が、ミサキの指先に向く。サインに気付いたのを確認してから、ミサキは話を前に進めた。
 一見不毛な合言葉についての問答は、サインの存在を知らせる時間を稼ぐ為だ。
 すぐ近くで、木の葉の忍が巻物奪取のチャンスを虎視眈々と狙っている。
 無警戒のままに巻物を取り出されてしまっては、敵潜伏の事実を知らないシドウは奇襲に対応できず、巻物を奪われてしまう可能性が高い。
「失礼。察しの通り、乗ってくるかどうか試させてもらいました」
「まったく、疑い深い」
 息を吐き出して、頬を緩めながらもしかし、シドウの目は笑っていなかった。
 上へ、下へ、右へ、左へ……絶え間なく視線を走らせて『危険』の正体を探っている。
 緊張を肌で感じる。サインの伝達に、疑う余地は無い。そう確信して、ミサキは切り出す。
「……それで、巻物は」
「これだ」
 シドウは、懐から巻物を取り出す。ミサキが、手に収められたそれを視認するかしないか、といった瞬間。
 至近距離で、耳を劈く爆音が轟いた。

 チョウジは、シドウと呼ばれた男が巻物を取り出すと同時に、動いた。起爆札を敵とは逆方向に放ってから振り向き、今度は煙玉を敵の方向に投げる。
 起爆札を明後日の方向に投げたのは、あくまで陽動が目的だからだ。
 殺傷能力の高い起爆札を敵陣真っ只中に放り込むと、必要以上に敵を散らしてしまう恐れがある。

231 :狂った世界で 序章:2007/03/26(月) 08:51:18 ID:1EjPA9bR0
 敵の動向は、大体シカマルたちの予想通りだった。突然の爆音に驚いて、七人全員が反射的に起爆札の投げられた方向を向く。
 一瞬の間を置いて、煙玉が作り出した煙幕の中、大声をあげながら突っ込んでくるチョウジに気付く。
 そうなれば、やはり全員が、チョウジが突撃してくるであろう方向に注意を払わざるを得ない。
 起爆札は、あまりにもわかり易い陽動。こちらが本命か……!?
 そして、彼等にそれ以上の考量時間を与えないまま、シカマルといのが背後を突く。
 慎重に、けれども迅速に。全員が射程範囲内に入った事を見極めてから、術を発動する!
「今だ! 影真似の術!」
「心乱心の術!」
 二人の言葉が重なった。絶妙なタイミング。完璧なコンビネーション。
 六人は纏めてシカマルの影真似の術に捕縛され、離れた場所にいる一人は、いのの心乱心で正気を失う……筈だった。
「何……!?」
 計算外の事態に、シカマルが目を見開く。
 影真似が捕縛できたのは、シドウたった一人だけ。いのの心乱心に至っては、完全に回避されてしまった。
「く……! 確実に、五〜六人は巻き込めるタイミングだった……! 気取られてたか……!?」
 シカマルが歯噛みする。その想像通り、三人の変化による潜伏は事前に察知されていた。
 しかも、シドウを除く六名は、目的である巻物を受け取ったら間髪入れず退却、との行動方針を予め決めていた。
 最初から交戦の意志がなかったからこそ、背後からの強襲に影真似と言う、奇襲に奇襲を重ねたような奇手にもかからなかったのだ。
 見れば、シドウの前に立っていた三人の忍は、巻物を片手に逃げ去って行く所だった。

「ようし! 巻物は確保したな!? カイ! ゲン! 二人はすぐ後を追え! 巻物とフォルテツーを守るんだ!」
 トウバが大声で、後ろに控える二人に指示を飛ばす。聞くが早いか、二人は手近な木の枝に飛び乗り、先行した三人の後を追う。

232 :狂った世界で 序章:2007/03/26(月) 08:52:36 ID:1EjPA9bR0
「チョウジ! いの! 巻物を追ってくれ!」
 シカマルも負けじと叫んだ。が、当の二人の反応は鈍い。判断に困ったような表情で、棒立ちになってしまう。
 二人の迷いも最もだった。今ここでいのとチョウジが離れたら、シカマルはシドウ、トウバと二対一で戦う羽目に陥る。
 影真似でシドウの動きは封じられているが、トウバがシカマルに攻撃を加えれば、シカマルは影真似を解く以外ない。
「オレは大丈夫だ! 早く!」
「で、でも……」
 シカマルに急かされたものの、いのは躊躇する。シドウ、トウバとシカマルの実力差は、火を見るより明らかだった。
 一人で残ったとして、敵う相手とは思えない。と、そこで。チョウジは黙って、いのの手を引いた。
「ちょっと、チョウジ!」
 非難の目を向けるいのに、チョウジは毅然とした口調で言い切る。
「シカマルが……『大丈夫』って言った。だったら、シカマルは絶対に大丈夫!」
 その言葉を聞いて、シカマルが少年らしい笑みを浮かべる。チョウジもまた、笑顔で返す。
 意志の疎通は、それだけで済んだ。二人の間柄、それ以上の言葉は無粋なだけだった。
 いのは、そんな二人の遣り取りに釣られたように、微苦笑した。
 男の子同士のこういう関係が、少し、羨ましかったりする。
 女の子同士では、こう上手くは行かないから……と、いのは思う。
 意地っ張りな親友の姿と、それに負けじと意地になってしまう自分の姿が、胸の奥に浮かんで消えた。
「行こう」
 黄昏れていたのは、ほんの数秒にも満たない時間。
 チョウジの力強い声で、いのは現実へと引き戻された。
 もう、迷いはなかった。いのは頷くと、チョウジと一緒に、巻物を持った三人を追跡すべく走り出した。
「あんたも、追え……! こいつは、俺一人で、十分だ……!」
 森の奥へと消えてゆくチョウジといのの背中を横目で見て、シドウがトウバに声をかけた。
「俺としても、正直、カイ、ゲンだけでは心配でね。時間が惜しい。加勢の必要がないと言うならすぐにでも後を追わせて貰うが……いいのか?」
 トウバは念押しするように問いかける。単純にこの戦闘の勝率、効率だけを考えるならば……
 ここはトウバがシドウを拘束する影真似の術を解除した上で、二対一で仕切り直すべき局面だろう。
「構わん……!」
 だが、シドウの自信はどうやら、口だけではないようだった。チャクラを全身に漲らせ、影真似を独力で破らんとしている。
 術者も、シドウの抵抗を抑えながら術を維持するだけで精一杯、といった風だ。確かに、この様子なら任せても大丈夫そうではある。
「オーケイ」
 返事を聞くなり、トウバは跳躍。森が作り出す光と影の迷彩に紛れるようにして、あっと言う間に姿を消した。

233 :proxy ◆PROXYj6mwM :2007/03/26(月) 08:54:17 ID:1EjPA9bR0
前話は>>117-120
まだタイトルから序章が消えません。
と言うかどこで序章を終わらせるか考えてないのが悩みの種であります。
長くなりそうならちょっとばかり休んでお話を考え直すかもしれません。
千里眼はオリジナル能力で劣化写輪眼、白眼、といった位置付けです。
(それらより更に体にかかる負担が激しく、持続時間も極端に短い)
大蛇丸は木の葉時代から人体実験を行っていたようだったので、こういったキャラもいるのではと妄想。
敵チームの六名も全員オリジナルで、名前も付いていますが、一部を除いて扱いは適当になりそうです。

234 :作者の都合により名無しです:2007/03/26(月) 10:18:04 ID:EhYEM8K10
序章だけで長編1本くらいになりそうですな
悩まず、楽しく書いてください

シカマルチームはシカマルの図抜けた頭脳と仲間の
チームワークが魅力ですが、敵もさるものですね

>シカマルが……『大丈夫』って言った
このセリフ、自由人ヒーローを思い出したw
ただの偶然かもしれないけどw



235 :作者の都合により名無しです:2007/03/26(月) 20:52:08 ID:hCPyKZTh0
このSSはシカマル主役なのか
本編と同じように主役は影が薄いな
でも、キャラの魅力がどう見てもナルトより上だからいいか。

236 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 08:50:50 ID:CeEH3M5s0
正直、去年ジャンプ読むの止めたのでナルトは中忍試験の頃から読んでないけど
シカマルは知ってます。頭脳プレー主体のキャラなのでバトルは難しいと思いますが
めんどくさがり屋だけど最高に頼れる奴の活躍を期待してます。

237 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 10:03:05 ID:lVsUrqIn0
俺もSSに参加。短いしアレだけど、よろしく。
【ブルーグラード外伝・氷雨タソのバウケン】
聖戦を幾世代か遡る。白夜に、透き通る肌の純正東洋人を鎧姿の一団が取り囲んでいる。
「先月勃発した南方のおおいくさ(クリミア戦争)は知っているよな。簡潔に言う。くにとりしよう」
氷雨は、呆れた、それと同時に、眼前の吉GUYをやりすごす事にとりかかった。なぜなら・・・・・・
戦場で避けられないものとなる弾幕は、音速を超える速度で飛来する銃弾により構成される。
第一その威力は、聖衣を装備していても、当たり所によっては即氏もありうる。顔面なんか最悪だ。
そして、氷雨は正式にはキグナスのセイントではない。女性だからなれないんじゃなく、実力に難があるのだ。
西アジアは地形も気候も、凍土とは異なるから、どんな不覚をとるかわからない。
何より、サンクチュアリは弱い組織ではない。少なくとも、ブルーグラードが分派した頃の規模ではない。
技だって、進歩していないわけではない。強者が斃れて途絶えた技や心も有るが、それ以上に琢磨されている。
神々との戦いを経ている点が、ブルーグラードと全く違う。
「地上を制覇しよう、ヒサメ。俺らは無敵だ」。氷雨は、イワンが何を根拠にアホなことを言ってるのか探ろうとした。
このフィンラントに来ているからには、火薬の存在ぐらいは知っているだろう。
ヒサメも、チャドル着でインド半島からここまで海路や陸路でやって来た身だから、国際情勢等に明るいわけではない。
でも、イワンの時事知識が標準以下なのはわかる。「戦争知ってる」?

238 :ブルーグラード外伝:2007/03/27(火) 10:06:33 ID:lVsUrqIn0
意外なことだが、イワンは自称音速2の「凍気」を漫然と氷雨に打ち付けた。
胸やお腹を両腕で抱え込んで、顔をゆがめる。
「打って出るしか・・・文明の味を、知ってしまった。俺だけじゃない」。
「ブルーグラードに帰りましょう。ね」。さりげなく、イワンと一緒に暮らすのだと告っている氷雨。
しかしイワンは、伝統技『ブルーインパルス』の一撃のもとに氷雨を熨すと、彼女を自分で肩に抱えて
帰路に就いた。チャドルの破損具合から、氷雨はやはり味方にしておくべきだと、イワンは判断した。
常人なら、凍傷や打撲だけでなく、普通の木綿の服もボロボロになるというダメージを受けて
すっぱだかになるはずだからだ。氷雨の実力は正規のブロンズセイントのそれである。
イワンもまた、人の身で氷らされた水こそが、進化した水だと信じる氷点下領域の徒である。
だからか、氷雨を味方にすることが、サンクチュアリに対抗したり神に近い力を得て地上に覇を唱える
足がかりになると思い違いをしているのだ。現実を知ったら、イワンはブルーグラードにひきこもる。
しかし、そのときは氷雨がえらいめにあうだろう。歩くイワンの肩は氷った湖面のように安定している。
肩だけではない。体の根幹が、安定しているのだ。氷雨にはわかる、一流の戦士の証。

239 :ブルーグラード外伝:2007/03/27(火) 10:08:08 ID:lVsUrqIn0
氷点下というのは、列強の科学が説くほど単純ではない。絶対零度を人為的に造り出せたらそこが氷の極界、という
ものではない。氷雨の師は比喩じゃなしに光速で動くし、絶対零度はそのタイムスパンで無から熾される。
そして、完成した物体は自然界の氷とは異なる。氷雨は勿論イワンもその領域には程遠い。
そこがイワンにはなぜわからないのか・・・。氷雨は、だんだんと逃亡よりイワンの更生が主目的になりつつあった。
南方でゲリラ戦でもやらかす気だろうが、無闇に強さをふりまわすことの危険を知らないのだ。
だから、氷雨は手近な雑兵にたずねる。「ブルーグラードに何か有ったの?」「?」
・・・・・・雑兵に、ロシア語が通じない。ブルーグラードの言葉しか使えないのだ。
あんな、方言か少数部族の言葉かわからんような言語の世界で、こいつらは暮らしているのだ。

240 :ブルーグラード外伝:2007/03/27(火) 10:10:21 ID:lVsUrqIn0
氷雨は、肩をよじっている。長時間の拘束で関節が悲鳴をあげはじめているのだ。
しかも、チャドルも腰布も汚物で汚してしまっている。それが冷えたらきしょくわるいし軽く地獄・・・。
自然、鎖を凍結で脆くして脱しようとする。その気配で、イワンは急遽、氷雨への面会を早めた。
「なにしてるんだお前!」「離れろ!」雑兵を思い遣ってるイワンを意外そうに見直す氷雨。それも束の間・・・
「ひッ」無防備な体をイワンの正面に晒して、びびる氷雨。頑丈そうではないウエストに、バフッと蹴りが入る。
そして氷雨の肩を外すべく冷えた鎖を掴み・・・氷雨の目的を知る。氷雨の乳房は、踏むほど大きな乳房でもない。
イワンは見張りを4名増員し、氷雨との面会を終えた。雑兵が氷雨を「ウンコ女」と呼称するが、言葉には聞こえない。
なんかヤケみたいな気分になって、「表に出ろ」「ねぇ土人ってば」と言ってみる。言葉には聞こえない。

241 :ブルーグラード外伝:2007/03/27(火) 10:12:14 ID:lVsUrqIn0
「ブルーグラードがモスクワの手に堕ちているのに、サンクチュアリが自助せよという。お前も、にげるな」。
氷雨が気温と睡眠時の体温を考えて、どうやって雑兵衆に擦り寄ろうか悩んでいる中、イワンが来た。
今度こそ、氷雨の方が手の届く範囲の現実に追いつき、決意した。「聖地奪還、ん。いつ?」
しかしイワンは、それを始めとする贋情報で氷雨と戯れた。

242 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 13:16:10 ID:GTTlsX8B0

氷雨というのはオリジナルのセイントかな?
星矢とかもそのうち出陣だろうか
短いという事ですが、ご自身が納得するまで書いちゃって下さい
応援してます

243 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 13:26:06 ID:T/Eltkzn0
クリミア戦争は(1853〜56)
老師と教皇以外の原作キャラは生まれてもいないよ

244 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 19:27:32 ID:oWiYT/6b0
星矢って人気有るんだなあ
氷雨は女ですか。
氷河も女っぽかったしなー
瞬ほどではないけど

245 :ヴィクティム・レッド:2007/03/27(火) 21:03:07 ID:8DWAHOal0
 左腕を落とされたことにより、『マッドハッター』の主兵装たる『ブリューナクの槍』は使用不可能となった。
 現在のシルバーでは、十本の爪を合わせるよる精密なコントロール下でなければ直線状に荷電粒子を放つための磁場を形成できない。
 だがそのことで戦局がレッドにとって有利に働くかと言えば、必ずしもそうはならないだろう。
 もとより『ブリューナクの槍』は接近戦に不向きな武装であり、
あくまで殲滅戦や包囲戦など、ある程度以上の距離を保った状況でこそ最大の威力を発揮する。
 敵の攻撃範囲外から圧倒的な出力差で押し切るのが基本戦術のARMSであるからして、
その特性が十分に生かされていない現状では『ブリューナクの槍』が使えなくなったとしてもそれほどの痛手にはならない。
 それを証明するように、キース・シルバーは戦闘スタイルを接近戦に特化したかたちに切り替えてレッドに挑みかかる。
 すなわち、超高熱を収束させた右腕による直接攻撃であった。
 表面温度が一万度にも達しようとしている『マッドハッター』の掌は、溶鉱炉のように赤く発色していた。
 それをもろに食らってしまえば、生身の部分どころかARMSでさえも一瞬で熔けてしまうだろう。
「──だったら、そっちの腕も落としてやるぜ!」
 先ほどよりもさらに強い振動波を込めて、『グリフォン』のブレードが風を斬るようにシルバーへ直進する。
「遅い……!」
 乱暴に振られた『マッドハッター』の腕が、その刃をバターのように断ち切った。
 本体から切り離されて統制を失ったナノマシンが、『マッドハッター』の高熱に感化されて自ら燃え上がり一瞬で焼失する。
「『負けない』……そう言ったな……レッドよ……! だが……貴様では無理だ……!」
 再びシルバーの腕が頭上より振り下ろされる。
「やってみなきゃ分からねえだろうが!」
 それを紙一重で避けたレッドは、リーチの差を逆手に取りシルバーの懐に潜り込んで直に超振動を叩き込む。
「ぐう……!」
 『マッドハッター』の動きが鈍った一瞬を逃さず、髑髏を象る頭部に取り付く。
 今や、ARMSの侵食を示す幾何学紋様はレッドの全身にまで展開されている。
その両腕に留まらず、レッドは身体の全てを震動兵器に変えてシルバーを攻撃していた。
 ガラス細工のように『マッドハッター』の全身に深いクラックが刻まれ、罅割れの隙間からぼろぼろとナノマシンの残骸が零れ落ちる。
『グリフォン』の生む破壊的なバイブレーションが、ARMSの再生能力を凌駕しつつあった。
 単純な破壊能力という一点に於いて、『グリフォン』は『マッドハッター』の領域に肉薄していた。

246 :ヴィクティム・レッド:2007/03/27(火) 21:05:22 ID:8DWAHOal0
「レッド……それが全力か……他愛無い……!」
 『マッドハッター』は己の体表面に微細なレーザーを走らせ、しがみつくレッドを弾き飛ばした。
 セピアが地面にもんどりうったレッドに駆け寄り、庇うようにその身体を掻き抱く。
「誰もオレに触れることは出来ない……オレが触れた者は全て燃え尽きる……。
オレこそが最強の戦闘生命体だ……貴様等のような出来損ないとは訳が違うのだ……!」
 シルバーの声は闘争の歓喜に満ちていた。
 ごおおおおお、と、おそよ人のものとは思えぬ咆哮を張り上げる。
 それは己の絶対的優位を祝福する賛美歌だった。対峙した者に「死」を与える地獄よりの呼び声だった。
 その雄叫びも、レッドの耳には届いていない。
「レッド! 返事して!?」
 レッドの答えはなかった。
 高圧の電撃を浴びた影響だろうか、『グリフォン』が不規則な振動を繰り返していた。
 ARMS共振が非常に弱まっているのがセピアの『モックタートル』に感覚される。
 その中で、両腕だけはさらにでたらめとも思えるビートを刻み、その過剰な振動に『グリフォン』それ自体が崩壊を始める。
「自分のARMSで傷ついている……! ど、どうしてこんなになるまで……?」
 ぱらぱらと剥離していくナノマシンを見て反射的に恐怖を覚えたセピアは、共振現象を応用して『グリフォン』の機能を静止させようとする。
「や……め、ろ」
 意識などとっくに消えていると思っていたレッドが、息も絶え絶えに口を動かした。
 その瞳を見て、セピアは息を呑む。
 レッドは、まだ戦うつもりでいた。その目には、明らかな攻撃意欲があった。
「なんで……? 勝てるわけないじゃない、どうしてそんなムキになってるのよ! クリフを助けるんじゃなかったの!?」
 セピアは泣いていた。鼻水と涙で顔面をぐしゃぐしゃにし、それを拭うこともせずレッドの胸に顔を押し当て、叫び続ける。
「そんなに戦いたいの、そんなに人殺しがしたいの!? 分かんないよ、どうして!?」
 レッドはそれに答える。……答えようとした。
 しかし、はっきりとした声にはならず、ただひゅうひゅうと笛の音のように宙へ消えていってしまった。
 だが──。
 セピアの涙が、ぴたりと止まった。
 呆気に取られたように、自分の膝の上で不気味な蠢動を継続しているレッドを凝視する。
 その二人に覆いかぶさるように、一つの影が伸びる。

247 :ヴィクティム・レッド:2007/03/27(火) 21:07:31 ID:8DWAHOal0
「どけ……セピア……これ以上の邪魔立ては許さん……!」
 キース・シルバーだった。
 歪な形の右腕が、セピアの視界を覆う。肌を焼く灼熱が、その掌から放射されていた。
 だがセピアはほとんど動じることなく、レッドに視線を注ぎ続けている。そして、
「……さっきは、思いっきりわたしを狙っていたじゃないですか」
 顔も上げずに、そう言った。
「ふん……そうすればレッドの方から飛び込んでくると踏んだだけのことだ……」
 まともに考えればかなり酷いことを言っているのだが、セピアはそんなことを気にする様子もなく、言葉を続ける。
「もう止めることはできないんですか。兄弟同士で戦うのはおかしいと思わないんですか」
「ふざけたことを言うな……オレも……レッドも……純粋な戦闘型ARMSを移植された……殺戮機械だ……!
戦うことより他になにが出来る……無意味に死と破壊を撒き散らし……死者の積み重なる丘の上で息絶える……。
それがオレたちに与えられた唯一無二の……運命という名のプログラムなのだ……!」
 そうしている間にも、シルバーの『マッドハッター』は損傷を修復している。
 先ほどレッドが切断したはずの左腕も、八割以上が再生されていた。
「レッドはオレに良く似ている……戦いこそを至上の目的とした傲慢な人間(キース)……死と破壊に取り付かれた怪物だ……!」
 『マッドハッター』の両手が合わされる。完全復活した『ブリューナクの槍』が二人に向けられていた。
 鼻を刺すイオン臭が辺りに立ちこめ、十本の爪の中心に高密度のエネルギーが膨張してゆく。
「この距離では回避は出来まい……ARMSもろとも熔けるがいい……!」
 『マッドハッター』の手が二人を今まさに焼き尽くそうとする刹那、セピアが顔を上げた。
 彼女の瞳は、逃げ場の無い「死」を目前にしても揺るぎなかった。
 その細い身体に似つかわしくない気迫に、思わずシルバーの手が止まった。
「違います」
「なんだと……!?」
「この人はみんなが思っているような傲慢な人でもなければ、 死と破壊に取り付かれたような怪物でもありません。
ただ、ちょっと怒りっぽくて、世界のあり方と自分の違いに苦しんで、でもそれをなんとかしようとしている──」
 セピアはなおもがちがちと震えるレッドの手を取り、胸に抱き締める。
「──そんな、どこにでもいるような男の子です。わたしの、大切なお兄ちゃんです」

248 :ヴィクティム・レッド:2007/03/27(火) 21:09:46 ID:8DWAHOal0
「戯れ言を……!」
「あなたもそうです、シルバーお兄さま。どうして自分が人間じゃないと思うんですか?
わたしは自分を人間だと思っています。どんなに辛いことがあっても、その気持ちは変わりません」
「──黙れ!」
 珍しく不快感を露わにして、シルバーが叫ぶ。それに呼応するように、『ブリューナクの槍』が臨界に近づく。
「口先だけの綺麗ごとでなにが変わる……ただの人間がこの状況を覆せるとでも言うのか……!?
お前たちにクリフ・ギルバートは救えない……それが現実だ……!」
「どんなに絶体絶命の状況でも、必ず光明はあります。──クリフが今、こっちに近づいています」
「なんだと……!?」
 言っていることは理解できたがなにを言いたいのかが理解できない、といった感じで、シルバーが問い返す。
「彼の暴風雨みたいな精神フィールドが、どんどんこっちに近づいているんです」
 言いながら、セピアの全身が僅かに輝いていた。
 情報制御用ARMS『モックタートル』が、その機能を発揮させようとしていた。
「そう、どんなに逃げ道がないように思えても、それこそが『逃げ道』になる状況──今がその時です。
あなたとクリフの戦いが、この建物を滅茶苦茶に壊してしまいました。辛うじて原形を保っていますけど、もう限界なんです。
それに」
 セピアは、胸の中のレッドの腕をいっそう強く抱く。
「気づいていましたか、さっきからレッドの『グリフォン』が──その限界の、さらにぎりぎりのところまで、建物全体に超震動を与え続けていたことを」
 それら言葉の端々を繋ぎ合わせるシルバーの脳裏に、ある一つの光景が結像される。
「まさか……!」
「レッドはあなたに勝てないでしょう……でも、絶対、負けないんです。だって──」
 みしみしと、かなりの広い範囲に渡って床が歪む。それは地の底から突き上げるような、魔王のような圧倒的な力によるものだった。
 最凶のサイコキネシスを操るクリフ・ギルバートが階下から接近していた。
 レッドとシルバーの死闘の果てに、フロアの建築構造物のほとんど全てが崩壊寸前だった。
「勝負はお預けになるんですから」
 そして──。
「レッド……あなたの力を!」
 セピアの祈りと共に『モックタートル』が強大な超震動を発現し、最後のダメ押しを食らった医療セクションの底が抜けた。
 轟音と地響きと、それに続く無重力感がシルバーを襲う。
 それはマザーグースの「ロンドン橋落ちた」を彷彿とさせる、壮大なブレイクダウンだった。

249 :ヴィクティム・レッド:2007/03/27(火) 21:12:13 ID:8DWAHOal0
クリフ編がこんなに長いのは間違いなくシルバーのせい。
なんでこいつこんなにでしゃばってるんでしょうか。
いや、まず間違いなく、俺がシルバー大好きだからなんですけど。

>スターダスト氏
相変わらずノリノリの軽快な文章ですね。それでいて締めるところはキチッと締まってますから流石のお手並みです。
まひろに振り回される秋水が素敵です。謎レシピ「まひろ特製南プラバンス風あんかけ麻婆豆腐!」に笑いました。

>proxy氏
さっそく頭脳戦が展開されていますね。
合言葉とかそういう系の知略戦を一度書いてみたいと思うんですが、俺の場合頭の中身が足りないorz

>ブルーグラード外伝作者氏
単語の選び方とか文のノリに突き抜けた感があります。
話が始まったばかりで展開がよく読めませんが、続きを楽しみにしています。

250 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/27(火) 21:13:35 ID:8DWAHOal0
>>249は本編では無いからして悪しからず

251 :作者の都合により名無しです:2007/03/27(火) 22:47:22 ID:NOEY5vks0
「クリフ編」という事は次編もあるのか
是非次は史上最強のリーマン巌を出してほしいな


レッドは結構善戦してますね
あの最凶アームズのシルバーに肉薄してるとは
あと、セピアがナウシカっぽいw


252 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 00:30:21 ID:I5oyX67R0
そういやセピアって妹でしたね。
キースシリーズだもん。なんとなく恋人っぽい感じもしたからさ。
シルバーは直情径行で俺も好きだったな。

253 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 01:06:11 ID:S3ey2m4g0
何かハロイさんのお陰でキースシリーズが再評価されてる気がするぜ。
俺の中では、バイオレットとブラックとブルー以外は全員噛ませなイメージがあるw

254 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 04:30:52 ID:uDU7THDX0
平穏というのは忘れた頃にやってくる。
一般人と違った生活を・・・。いや、俺は一般人だが・・・。
ともかく様々な事柄に慌しく奔走していた毎日にも、ひと時の別れを遂げる瞬間だってあるということだ。

まあ・・・、

「キョン君〜。お薬持ってきたよ〜。」
「ああ、ありがと。」

風邪を引いたとき限定だが。

「えへへへ、キョン君がこの時間に家に居るのって久しぶりだね。
毎日毎日、部活に入りびたりだから返ってくるのは何時も夜だし。」
兄が風邪を引いたというのに、妙に嬉しそうな顔で話しかけてくる我が妹。
おい、俺が風邪を引いたのがそんなに嬉しいのか?

――――ま、どうでもいいか。

今はこの平穏な瞬間を少しでも長く噛み締めていよう。
どうせ二・三日もしたら学校に行かなくてはならんのだし。

「ねえ!キョン君!聞いてるの?」
「へっ?何が?」
俺が自問自答している間に、妹が一人で会話を進めていたようだ。
ったく・・、人が風邪をひいている時に限って話しかけてくるんだから・・・。
「はあ・・・、聞いてないんだね。」
「だから何の話だよ。」
ともかくコイツがこのまま俺と居たら、きっと風邪をうつしてしまうだろう。
仕方ない・・・。さっさと自分の部屋に追いやりますか。

ああ〜、なんて妹思いの良い兄なんだ。

255 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 04:32:47 ID:uDU7THDX0
「だ・か・ら!部活のハナシ!!」
「部活?違う!アレは同好会未満だ!あんなのが部活に昇格した日には・・・。
ぐっ・・!と、ともかく、さっさと自分の部屋に戻りなさい!!風邪がうつるぞ。」
「なっ・・・、な〜によ!その態度は!!もうキョン君が風邪を引いても看病してあげないんだから!!ベ〜〜だ!」
兄としては理想的な台詞も、どうやら我が妹は御気にめさらない様子だ。
大きく舌を出したまま、俺の部屋から出て行くのはその証明であろう。
いわゆる『兄の心・妹知らず』と言ったところか。
まあ、どちらにしても俺の平穏は暫く続きそうだ。
「やれやれ・・・、ふあああ〜・・・・。」
わざわざ持って来てくれた薬を飲んでから、ひたすら惰眠をむさぼりますか。

次の日・・・・。

妹は俺の心を知らなかったみたいだが、風邪と平穏も俺の心を知らなかったようだ。
なんだ?妹が持ってきた薬はそこらの医者がくれる薬を遥かに凌駕する性能なのか?

それとも俺の体には、すぐさま風邪を治す抗体でも出来ているというのか?
そうか。それならば俺の血でも検査すれば風邪の特効薬が出来るだろう。
そして俺は特効薬を作り出した人の一人として、ノーベル平和賞でも科学賞でも何でも貰って平穏に余生を過ごすんだ!

きっと、この長くメンドクサイ学校への坂道も平穏への第一歩・・・。

「よう!昨日はどうしたんだ?お前のせいで、涼宮の奴が一日中不機嫌だったんだからな!」
そう意気込んだ数瞬後。
どこからともなく平穏への道が大きく崩れ去る音が聞こえる。
どうやら俺の友人である谷口の一言は、その前奏曲だったようだ。

はあ・・・・。やれやれ・・・。

――――――――――涼宮ハルヒの正義――――――――――

256 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:37:15 ID:uDU7THDX0
「いやあ、キョンくんと二人っきりでここに居るなんて、何だか不思議な感覚ですね。」
「おい古泉。その表現を真顔でするのはやめろ。それにお前が言うと、かなりやばい匂いがするぞ。」
放課後。俺は何時も通りSOS団の部室に足を運んでいた。
ちなみにSOS団とは、涼宮ハルヒという少女が作った同好会未満の部活である。
そして、今俺に話しかけてきた人物が古泉一樹。
季節外れの転校生という理由でハルヒに無理矢理入部させられた危篤な人物だ。
後、彼はエスパーらしい。
ん?俺はトチ狂ってなんかいないぞ。本当なんだから仕方が無い。
夢でありたい出来事なんかも、この目と身体で体験してしまったしな。
「ん、どうかしましたか?」
「いや・・・、じゃあ、ハルヒが来ないうちに将棋でもするか。」
俺は呟くようにそう言うと、ポットと横においてある将棋板を取り出すのだった。

―――数分後。

早くも俺が王手を掛けたのと同時に、部室のドアがゆっくりと開く。
そして潤んだ瞳をこちらに覗かせながら、ハルヒとは正反対のか細い声が部室内に響き渡った。
「お、おはようございます。皆さん。」
この聞くだけで心癒されるボイスを放つのは、ロリ+(プラス)巨乳という理由だけでSOS団に入れられた朝比奈さんだ。
一応、SOS団での彼女のポジションはマスコット兼メイドらしい。
「す、すいませ〜ん。ちょっと掃除が長びいて・・・。」
そのため毎日ハルヒから激しいセクハラを受けているのだが・・・・。

まあいい。ちなみに彼女は未来人らしい。
光線銃や空飛ぶ車がある時代から来たかは分からないが。


257 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:40:11 ID:uDU7THDX0
「あれ・・・?涼宮さんはまだいらしていないんですね。それに・・・、長門さんも。」
そう言って朝比奈さんは、俺達うら若き男子がいるというのに制服を脱ぎ始める。
「あっ・・、朝比奈さん?」
「待ってください。メイド服に着替えてからお茶を入れますか・・・ら・・。きゃあああ〜〜〜!!」
さすがの朝比奈さんも気づいたのか、彼女は豊満に実った胸を脱ぎかけの制服で隠しながら真っ赤な顔で悲鳴を上げる。
無論、俺らも真っ赤な顔でこの場から退散だ。
「き、着替え終えたら呼びますから!!」
全く・・、この天然過ぎるところが彼女の長所であり、短所という事か。

それにしても今日は・・・・。

「黒でしたね。個人的には白が似合うと思うのですが・・・。」
「だから真顔で言うなって!」
普段は意見が合う事の無い奴だが、流石にこの瞬間だけは合致したようだ。

確かに、朝比奈さんは白に限る。

258 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:41:29 ID:vBrUfNP10
「はい。今日は玉露が入っている高い葉なんですよ。味わって飲んでくださいね。」
「あっ・・・。どうも、朝比奈さん。」
「スイマセン。頂きます。」
ちょっとした情事から数分後。
俺や古泉。そして朝比奈さんは、いつも通りの部室ライフを送っていた。
ちなみに先程の一局目は、あっさりと俺が勝利した。
いつもながら古泉は勝気があるのかないのか・・・。
「・・・そういえば、今日の涼宮さんは偉く機嫌が良かったとか。昨日はもう大変でしたから、全く良かったですよ。」
早くも二局目を指し始めてから数手後。
何故か歩と桂馬だけを動かす古泉は、何かを思い出しかのような顔をしながら突然声を挙げる。
本当にコイツは勝つ気があるのか?
「さあな・・・。俺も登校時に谷口からアイツの不機嫌さ加減を聞いていたんだが・・・・。確かに拍子抜けだな。」
意味ありげな言った古泉の言葉に対して、俺は気の無い返事で返す。
おそらく古泉は、俺がハルヒに対して何かアプローチを取ったと思っているのだろう。
しかしあいにく俺には皆目検討もつかない。
何しろアイツの機嫌はMMRの予言よりも適当だからな。

大方、傍迷惑なことでも思いついたからだろうが・・・。

「さあ・・・、涼宮の機嫌が良い理由なんて、ここに来れば分かるんじゃないか?
いつも通り唐突にやってきて、いつも通り俺たちを巻き込んで・・・・。」

259 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:42:26 ID:vBrUfNP10

―――唐突でスマンが、世の中には『タイミング』というのがある。

きっと昔の天才達が、あらゆる事象を数式化しようと始めたのは、この『タイミング』というのが、
余りにも一定の条件に当てはまり過ぎていたからであろう。
そう、ニュートンやガリレオあたりが、『算術的視点から事象を定義することを考えちゃいました〜!』
とかやり始めたのもそのせいであろう。
勿論、マーフィー然り、ラプラス然り・・・。

そんな世の中なもんだから、俺が喋り終わるのと同時に部室のドアが物凄い勢いで開かれ・・・。

「みんな!!今日は怪人を倒すわよ!!」

――――こういったことになる。


260 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:44:28 ID:vBrUfNP10
ハルヒが部室に入ってきてから十分後。
俺らは何の説明もなしに体育館に連れて来られていた。
「おい、ハルヒよ。いったい何を思いついたんだ?大体、怪人を倒すって・・・。仮面ライダーか?」
「そうよ!怪人といえばオペラ座と仮面ライダー!この2つ以外に何かあるとでも思ってんの?」
俺の半分冗談気味で言った言葉に、超真面目・・・。
いや、『これは万人の常識だ!』といった表情で答えるハルヒ。
マジだ。・・・にしてもコイツ、今回は一体何をやらかす気なんだ。
「だからキョン!とりあえず、怪人を探してきなさい!多分、そこらにいるはずだから。」
「はっ・・・?」
「『はっ』、じゃないわよキョン!蜘蛛男とかラッコ男とかを連れてくるのよ!」
「いや・・、だから・・・。」
おいおいハルヒよ・・・。いくらなんでも怪人はそこらに居ないだろ。
どれだけショッカーに攫われてんだよ日本人。
いや、それよりも怪人を探しに放課後の学校内をうろつくなんて、まるで友達の居ない少年が、
人生最後の思い出にしたい出来事ベストテンの上位に入るくらい虚しい事だぞ。

それを俺がやるのか?
違うな。やらされるんだ。

だいたい、何でアイツはそんなに自信満々で怪人がそこらに居ると断言しているんだ?
っていうか、それよりもこの世に怪人が居るのか?
もし、一兆歩譲ってこの世に怪人が居たとしても、俺がどうやってここまで怪人を連れてくるんだ?
『どうも、俺と一緒に体育館まで行って、死んで貰えませんかね〜?』とでも言うのか?
いやいや、どう考えてもわざわざ死にに行く怪人なんて存在するがずがない。
それに下手をしたら俺は、『怪人を体育館まで誘導しようとして即死亡。』とかいう間抜けな死に様を、
世間様に晒さなくてはならないのだ!

大体、こういったのはエスパーの古泉にやらせた方が・・・・。

261 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:45:22 ID:vBrUfNP10

・・・・、そうだよ!きっとアイツならば、怪人の一人や二人ぐらい用意できるだろう。
何だか訳の分からない『組織』とやらに属しているらしいし。

よし、『善は急げ』。『急がば特攻』だ。
さっさと古泉に怪人探し役を押し付けなくては。
「お、おいハルヒ。そういうのは俺よりも古泉やらせた方が・・・・・。」
まあ、自分で振っておいてなんだが、この手のタイミングで物事を切り出そうとすると・・・・。

――――やはり言わずもかなだ。

「じゃあ、古泉君は私と一緒にここで特訓だから。
私がライダーで、アナタが私をサポートする親父さん(おやっさん)的存在ね。」
「はい。わかりました。仰せの通りに。」
俺の言葉と願いは、あっさりとハルヒの言葉によって掻き消され断念させられる。
くぅ・・・、こうなったら仕方が無い。
怪人探しは、せめて朝比奈さんと二人っきりで・・・・。
「じゃあ、みくるちゃんは怪人の人質になる存在だから、とりあえずそこら辺で怯えていて!」
「へっ?私、怪人に捕まっちゃうんですか〜〜!」
「そうよ!こうやって、服をズバババ〜ン!!って、脱がされて・・・。」
ハルヒはそう言いながら、朝比奈さんの着ているメイド服の裾から思いっきり掻き揚げる。
それも、あまりにも手馴れすぎている為に掻き揚げる仕草が見えないくらいの速さでだ。
「きゃ、きゃあああ〜〜〜!」
勿論、この行動の先に見『れ』るのは、ちょっとした今日二度目のヘブン。

バスト&ウェスト


262 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:46:31 ID:vBrUfNP10
それは正に、神が与えたそのスタイルは正にビーナスの化身。
世の人々がルネッサンスやら、カトリックやらでシメントリーを否定したのも分からなくはない。
対称でないから美しい。出るところが出て、引っ込んでいるところがそれなりだから最高だ!
そう、俺の眼前には、今まさに至高の肉体が・・・・。
「そうよ、そう!怪人が来た時も、ちゃんと悲鳴と素肌を露らにして場を盛り上げるのよ!!」
おっと、見惚れている場合ではない。
ハルヒを止めなくては。
「おい、ハルヒ!朝比奈さんが嫌がっているじゃないか!
大体、お前は毎日朝比奈さんをそういう目に合わせて・・・。」
それにしても朝比奈さん・・・、ブラも黒か・・・・。
やっぱり朝比奈さんは白に限るな。うん。
「はん!ちゃっかり、みくるちゃんの下着の色を確認しているあんたに言われたくわね!
そんなことより、さっさと怪人を探してきてくれない!見つけてこないと・・・・、死刑なんだからね!!」
くっ・・・、やはりハルヒには見透かされていたか。
すまない朝比奈さん。これも全て思春期が悪いのだ。

―――というわけで、

「怪人か・・・・・。どこにいるんだ?そんなモン。」
所詮、凡人は変人には勝てず。
俺はあっさりとハルヒの勢いに押されて、『当ても無ければ道理も無い』怪人探しをするのだった。

はあ・・・、やれやれ・・・・。


――――――――――涼宮ハルヒの正義・2――――――――――

263 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:48:19 ID:LJPTpFCo0
怪人探しという、今時の幼稚園児でも好んで行わないであろう情事を始めてから数十分後。
当たり前だが怪人なんてものは欠片すら見当たらない。
「ったく、どうすればいいのやら・・・。」
俺は『帰りたい気持ち』を脳内に溜め込みながら、憂鬱な表情で再度学校内を歩き始める。
「流石に・・・、帰るわけにはいかないんだよな・・・。」
まあ、こんな遊戯はさっさと放棄して家路に着くのが正常な判断であるが、SOS団のメンバー・・・。
いや、俺の場合はそうは行かない。

なぜなら、ここで怪人が見つからなかったらハルヒの機嫌が大変な事になるからだ。
これが普通の女の機嫌ならばいくら悪くなっても構いやしないのだが・・・。

何故かこの涼宮ハルヒという人物は、自分自身の思い通りに世界を構築する事が可能らしい。
そのため精神状態が地まで堕ちるものならば、この世が消滅―――何てこともありえるらしいのだ。
ある種ノストラダムス並の与太話である。
当然、俺はこういった与太話は信じないほうの人間だったのだが・・・・。

・・・・実際、色んな目に会ったし。
最近じゃあ、何だか俺の行動がハルヒの機嫌に大きく関わってきているとも言われたし。

逃げるにも逃げられん状況なのだ。
だから俺は仕方なく怪人探しなんかもしてる。

―――居るはず無いのに・・・。

「おっ!少年!何か憂鬱な顔をしているにょろね。」
その声が聞こえたのは、俺が再度美術室を調べようとした瞬間だった。

264 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:50:33 ID:LJPTpFCo0
「あっ、鶴屋さん。どうも。」
俺の目の前に現れたのは、大きく出ている額が可愛らしい鶴屋さん。
彼女は一応SOS団の名誉顧問で、上級生の朝比奈さんと同じクラスの人だ。
しかし、あいかわらず『にょろ』の意味が分からない。
ま、どうでもいいことだが。
「それにしても・・・、めがっさ良い所に現れてくれたね〜。」
そう言って、鶴屋さんは心底嬉しそうな顔で俺の肩を乱暴に叩く。
一体、何の用なのだろうか?
「は、はあ・・・。そうですか。そういえば、鶴屋さんって美術部員でしたっけ?」
「いーや、何でそんなことを聞くん?」
「いえ、放課後に美術室周辺にいるのは普通美術部員ぐらいですし・・・。」
「ははっ!だったら、キョンくんも美術部員だね。」
全くそのとおりである。俺は何を聞いてんだか。
これでは好きな娘と必死に会話を続けようとしているチェリーボーイじゃないか。
いや、別に鶴屋さんが嫌いという訳ではないが・・・。
「っと。そうそう、キョンくん。今暇にょろ〜?
・・・って、聞くまでも無いか。SOS団そっちのけでここに居るんだし。」
「あっ、いや、暇ではないんですよ。えーと、その・・・、実は・・・。」
俺は一瞬、自分の置かれている状況について話そうか躊躇する。
「んっ、何か用でもあるん?」
しかし俺の力では、これ以上事が進む事もないだろう。
それに鶴屋さんにはSOS団のイベントで何回も助力してもらっているし。
そうだな、うん。何か突破口が見つかるかもしれない。
「はい、実は涼宮の暴走で・・・。」
俺は半ば神頼みのような気持ちで、なるべく小声で鶴屋さんに事情を話すことにした。
・・・何だか、少し気持ちが楽になったのは気のせいだろうか?

265 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:51:44 ID:LJPTpFCo0

―――で、その神頼みの結果な訳だが・・・。

「いや〜、めがっさ似合ってる!私の見立てどおりだ!うん!
丁度うちのクラスの演劇部員の子が、次のお芝居にやる怪人役を探していてね〜。
正にグットタイミングって奴さ!この着ぐるみを貸す代わりに、今度のお芝居は出るんだにょろ!」

どうやら神というのは相当俺のことが嫌いらしい。

「さて・・・、君の名前だが・・・。」
「ふぐ!ふぐ!(俺は!俺は!)」

いや、無い物は創ってしまえば良いという考えは否定しないが・・・・。

「怪人キョン吉にょろ!!」
「ふぐふぐ〜〜!!(神なんて信じないぞ〜〜!!)」

はあ・・・、やれやれ・・・。


――――――――――涼宮ハルヒの正義・3――――――――――

266 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/28(水) 04:53:19 ID:LJPTpFCo0
どうも。長いので三回に分けて投稿します。
元ネタは涼宮ハルヒの憂鬱と、まだ出ていませんがハレグウ&特撮モノです。

では失礼・・・。

267 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 08:51:26 ID:KeKVUm8A0
うおーハルヒまで来るとはw
原作のノリそのままに、キャラが楽しく大騒ぎしてて素敵だw
書いてる方、新人さんかな?
しぇきさんっぽくも感じるんだけど

268 :カイジ外伝:2007/03/28(水) 09:05:35 ID:G6b32Pmp0
【変果孫のかたきうち・和尊のバウケン】
色々な鬼畜ゲームをしかける兵藤、彼にも孫が居た。男女で4人も。孫が居た。
いずれもが、1日で変わり果てた姿になった。人誅であることは間違いない。
兵藤の、戦いが始まった。これからは、愉悦のためではない。
攻撃性は、特定の犯人だけではない。弱者全般に向けられた。

【皆さんで、気が向いたときに少しずつ創りましょう。帝愛の純粋な攻撃性が無辜の庶民に向けられます】

帝愛グループの野球チームがする帝愛野球。
どんな野球だろう。
普通の社会人野球でさえ、何らかのデスゲームに聞こえる帝愛ブランド。

269 :やさぐれ獅子番外編:2007/03/28(水) 09:07:37 ID:G6b32Pmp0
林道を歩く井上と武神。無口な井上が、立ち止まる。
横を歩いている武神が立ち止まったので、つい一緒に立ち止まったのだ。
もっとも、立ち止まっていなくても、貴重な事前情報さえ得られなかっただけだろう。
井上は空手家だから、心の準備というものがどれだけ精神由来のアドバンテージに関わるか知っている。
「次は、あんたにとっての試練だ」。拝聴モードに入る井上。それは半泣きで立ち竦む5秒前だった。
「性愛の神にあたりを付けて、嗜虐場にあんたが1ヶ月暮らす『檻』を借りた」。「SM地獄だ」。
井上の視界が暗転したのは空間転移の作用もあるが、彼女自身の絶望によるところが大きかった。


270 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 11:52:01 ID:eImdpxjl0
>涼宮ハルヒの正義作者さま
ハルヒですか。最近有名みたいですけど未読。今度読んで見ます。
でも、急に怪人立ち上がったり、妙な怪人ドタバタしたりと
楽しい雰囲気はうかがえます。本当にこんな感じの漫画なのですか?w
2回目3回目の更新をお待ちしてますよ。

>ID:G6b32Pmp0さん
うーん、お疲れ様といっていいのかw
一発ネタとしては楽しめました。
サナダムシさんとカマイタチさん、帰ってくるといいですね・・


271 :修羅と鬼女の刻:2007/03/28(水) 14:14:41 ID:yNaAMSDs0
>>165
これから大和が使おうとしている最後の切り札、奥義『無空波』は、拳を相手に当てた後、
実際に相手の肉体が打撃を受けるまでに時間のずれがある。それはごく僅かなので
本来なら気にするほどではないのだが、今の勇の拳では……無理だ。無空波が先に
決まったとしても、次の瞬間には大和の頭を勇の拳が砕いているだろう。
が、大和は止まらない。勇を倒すには、もう無空波しかないのだ。ならばやるしかない。
正成や尊氏の思い、大和の怒り、そして何より大和の体を流れる修羅の血が、
大和自身の生存本能をも凌駕し突き動かして、
「くらえっっ!」
腰を落とした大和の拳が、勇の腹部に触れた。瞬間、その拳から力が完全に消失する。
そこへ一気に、超人的に高めた全身の力を叩き込むことで拳を振動させ、
相手の体内に破壊の波を起こす。それが無空波である。
勇の拳が迫る。その風圧が大和の髪を揺らす。一瞬後、大和の頭蓋が粉砕されるかも
しれないがそれには構わず、大和は脱力させた拳に向かって全身の力を集中……
「え!?」
大和は目を見張った。極限まで研ぎ澄まさせれた大和の拳の感覚が、異様なものを
感じ取ったのだ。
同時に勇も、大和の拳の『気』と『力』から無空波の性質を感じ取って……その貌に、
恐怖の色を浮かべた。
「っっ!」
大和も勇も、互いの必殺の拳・最強の技を寸前で止めた。そして弾けたように
後方に跳び、大きく距離をとって離れる。
大和は、勇に触れていた拳をまじまじと見つめて、それからその視線を勇に向けて、
「お、お前……もしかして……」
勇は、大和が拳で触れていた辺り、腹部に手を当てて俯き、怯えたような顔をしている。
「……ぅくっ……無念……こ、このわたしが、このわたしが、『半魔』とまで呼ばれたこの、
勇がっっ! 敵に情けをかけられるなどっっっっ!」
顔を上げた勇。その頬に、確かに涙が流れていた。
大和の拳が感じたもの。それは、勇本人のものとは違う、もう一つの息吹。命の存在。

272 :修羅と鬼女の刻:2007/03/28(水) 14:18:55 ID:yNaAMSDs0
それはすなわち……
「無念、無念、無念、無念! これが……これが女の身の限界……か……っ! 
わたしは絶対に負けない、けど、仮にもしも万が一、負けて死ぬようなことがあっても
そんなのは構わない! 戦いの中で死ぬことなど怖くはない……のに、『これ』が……
『これ』がわたしと共に死ぬことだけは耐えられない……どうして、なぜ、こんな!?」
とめどなく涙を流しながら、勇は自分の腹部を押さえ、そこを忌々しげに睨んでいる。
勇が見抜いた通り、大和はまだ色を知らない。が知ったとしても、こればかりは永遠に
大和には理解できない感情であろう。
そう、理解はできない。それでも知識としては備えている。だから大和は、勇に向かって
動くことも声をかけることもできないでいた。
すると勇が、
「邪アアアアアアアアァァァァッッ!」
突然、振り上げた拳を床に叩きつけた。寺全体が大きく揺れ、既に焼け焦げていた柱や
梁がその振動を受けてあちこちで折れ、次々と落ちてきた。
「な、何を……うわっ!」
頭上に落ちてきた炎の塊、太い梁を大和は身を引いてかわした。続けざまに天井が
崩れ壊れて炎の塊となって落ちてきて、あっという間に目の前に積み重なる。
向こう側にいる勇の姿が、見えなくなった。
「陸奥! 今日は、この場は退きましょう! ですが何十年何百年ののち、わたしは再び
貴方の前に現れます! 次は、このような煩わしさのない体で……のちの世に、
次に生まれてきたわたしは、必ず! 必ずや貴方を、陸奥を…………殺すッッ!」
炎の向こうで叫ぶ勇の声、その気配が、だんだん遠くなっていく。
追いかけたいのだが、炎の森と化した寺の崩壊はどんどん進んでいく。一刻も早く
脱出しないと危険だ。
「次、だって……? そうはいくかっ! お前が次に生まれてきた時、それがどんな野郎
でもぶっ倒してやる! 何十年、何百年のちの世になろうとも、絶対にだっっ!」
炎の向こうへと叫び返した大和の声は、はたして勇に届いたかどうか。
ともあれ、もうこの寺は限界だ。大和は脱出……しようとして、思い出して足を止めた。
最後の最後に、やらねばならぬことがある。大和は腰の後ろに差した刀を抜き、振り上げた。

273 :修羅と鬼女の刻:2007/03/28(水) 14:20:45 ID:yNaAMSDs0
新政府の暦で建武三年。西暦にして一三三六年。
『湊川の合戦』において楠木正成は没した。側近の少年によって届けられた
正成の首を、足利尊氏は丁重に正成の故郷へ送り届けたという。
その少年と、正成の首に尊氏は誓った。戦のない、平和な世を築くことを。
だがその誓いは、易々とは達成できなかった。新政府=後醍醐天皇派の頑強な抵抗により
(尊氏が天皇に遠慮して全力で攻め立てなかったせいもあり)、天皇二人・朝廷二つという
日本国史上空前絶後、前代未聞の異常事態が起こってしまったのである。
後の世に言う『南北朝時代』の始まりだが、そこに師直・直義らとの内紛まで重なって、
初期の足利幕府(室町幕府)はとてもとても天下統一などと言えたものではなかった。また、
そのドロドロの戦乱の裏で、争いの火種を撒き散らす女がいたとかいなかったとか。

結局、平和な時代の到来は尊氏の死後まで待たねばならなかった。が、それがどれほど
平和であったかは……尊氏の孫・室町幕府三代将軍足利義満が、名もなき小坊主に
とんち勝負を挑み、はしを歩かず真ん中を歩かれたりして何度も凹まされた、という
有名な言い伝えからも窺い知れよう。尊氏や正成が命を懸けて求めていた光景が、
そこには確かにあった。

更にそれから、何百年もの刻が流れて。
勇は、己が子孫の血筋を辿って、再びこの世に生まれ出でた。あの頃よりも更に強大な
力と、凶悪な意思を宿して。望み通り、今度は煩わしさのない雄(オス)の肉体をもって。
陸奥一族の末裔が、自らの手で圓明流の歴史を閉じようと動き出した時代に、
まるでそれを逃がすまいとするかのように、『半魔の勇』は現世に再来したのだ。

あの時。勇が陸奥を呪い、大和が打倒を叫んだ、『勇の次の野郎』。その名は…………

274 :修羅と鬼女の刻:2007/03/28(水) 14:21:31 ID:yNaAMSDs0
陸奥大和と半魔の勇、そして太平記の英雄たち・その時代

一三三〇 陸奥大和、赤坂の地にて楠木正成と出会って戦い、興味をもつ。
       半魔の勇、足利庄にて足利尊氏と出会って戦い、目をつける。

一三三一 正成、赤坂城にて挙兵。大和の「沸騰糞尿作戦」で幕府軍大打撃。
       同年、護良親王も挙兵。勇も参戦。大暴れの後、両軍とも姿を消す。
       後醍醐天皇、幕府に囚われて隠岐へ島流しとなる。

一三三二 正成は千早城、親王は吉野にて再び挙兵。日本中が混乱の渦に。

一三三三 尊氏と新田義貞、幕府に反旗を翻す。大和と勇、隠岐にて出会う。
       後醍醐天皇、隠岐脱出。幕府は倒れ、建武の新政による新政府設立。
       尊氏、武士たちの苦情相談所を設置。大和、高師直と共に事務仕事の日々。       

一三三四 親王、勇に尊氏の暗殺を命じる。が未遂に終わり、親王は鎌倉にて幽閉される。
(建武元年)正成、この頃は京都周辺の小規模反乱鎮圧の為に走り回っている。彼が
       京都にずっといれば、事態はかなり変わっていたと思われる。
        
一三三五 鎌倉にて北条氏の反乱起こる。勇、混乱に乗じて親王を抱き殺す。
       尊氏、鎌倉にいる弟の直義を救う為に出兵。反乱鎮圧には成功するも、
       親王殺害の嫌疑をかけられてしまい都に帰れなくなる。    
       義貞、尊氏こそ新政府に対する反逆者と訴えて認められ出兵。だが
       勇の仕業で戦う決意を固めた尊氏にはまるで敵わず、都へ逃げ帰る。

275 :修羅と鬼女の刻:2007/03/28(水) 14:22:16 ID:yNaAMSDs0
一三三六 大和、都に攻め込んできた尊氏と対峙。だが武士たちが尊氏にかける
       必死の思いに押されてしまう。
       勇、足利軍の間者として師直らを平安京の奥深くに招き入れる。が、それが
       罠で新田軍の反撃にて足利軍壊滅。しかし敗走する足利軍に武士たちが
       大勢着いていく。正成、それを見て建武新政府の末路を悟る。
       湊川の合戦起こる。正成、大和と戦い没する。勇、大和と戦い逃亡。
       尊氏、京都を制圧。後醍醐天皇、吉野に逃れてまたしても新政府を宣言。
       これにより尊氏の北朝と後醍醐天皇の南朝が並立、南北朝時代が始まる。

建武政府は南北朝と違って唯一の政権なので、鎌倉幕府や江戸幕府や明治政府などと
立場的には同格のもの。が、その寿命ときたら上記の通り。いかにこの時代が、
日本国史上他に類を見ない、乱世中の乱世であったかが解ろうというものである。
つーか……手ぇ抜いてるみたいな一年刻みの年表ですけど、本当にこのペースで
鎌倉幕府→建武政府→室町幕府(南北朝)、と武力革命による「政権ダッシュ」
してたんです。天皇も朝廷もさんざん走り回って。つくづくスゴい時代。そして、↓

一三九二 足利義満、南朝との和平交渉に成功。室町幕府による天下の統一為る。 

一五七三 織田信長、室町幕府を滅ぼす。その覇道の影にも陸奥の姿あり。


二〇〇七 勇の子孫と大和の子孫、出会いと再戦は今のところ未定…………

276 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/28(水) 14:48:07 ID:yNaAMSDs0
タイムトンネルを抜け、お帰りなさいませ。これにて完結です。では、『刻』恒例のひとこと。
『この物語は、史実である』
なので、九十九の魂の奥底には湊川で戦った大和の想いが残されてますし、刃牙には
……もしかしたら日本一ドえらい血筋が混じってる、かも。その内、刃牙の家に吉野から
お迎えが来たりして。雅な行列で。でもそうなると世界中にバラまかれたタネって……むぅ。
さておき。自己流解釈の太平記をどこかで発表するのは昔からの夢でしたが、それがこんな
舞台で叶い、光栄至極です。またいずれ、妄想満ちし折にはよろしくお願いします。
ともあれ。本年元日より今日まで長々とお付き合い下さり、ありがとうございましたっっ!
間もなく四月、新たな春を迎えられる皆様に、良き歴史が刻まれんことを……

>>ハロイさん(このレベルで二作同時執筆されてたとは……感心感服感動溜息です)
・ヴィクティム〜
単純な戦闘力ではなく能力の相性で、と。大好きですこれ。JOJO四部ラストの、「億泰
に空気弾は通じない」に感動したのを思い出します。サポートヒロインの面目躍如ですな。
・シュガーソウル〜
静も戦いに巻き込まれはじめましたね。朝食の時には随分と普通の女の子らしさをみせて
くれてただけに、楽しみでもあり心配でもあり。十和子は今のところ味方のようですが、さて。

>>ハシさん(お久しぶりですっっ)
シグバールの攻撃力が強いのかもしれませんが、意外と脆いですなリップ。性格も能力も
スゴかったから、肉体の耐久力もさぞ、と思ってたんですが。勝負の趨勢はシグバールに
傾いてきましたが、リップもまだもう一押しぐらいはしそうな気も。人知超越同士戦、読めず。

>>スターダストさん(アク禁は嫌ですよねぇ……私も時々巻き込まれてます)
こんなにも、精神的にも物理的にも白熱した戦いが繰り広げられてるっていうのに、冒頭の
二人が可愛すぎて印象強すぎて。しかし、千歳もまひろも小札も基本的に一対一なのに、
剛太はフラグ次第で香美とも斗貴子ともあり得そうな。何気に一番ギャルゲなのは彼か?


277 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/03/28(水) 14:51:19 ID:yNaAMSDs0
>>proxyさん
敵も味方も百戦錬磨の戦士って雰囲気で罠の仕掛け合いをしてる中で、シカマルたち三人
の子供らしさが目立ってます。それが今後、強さになるか弱さになるか。今回早速、一手上
を行かれてしまいましたからねぇ。まずシドウの意地(?)がただの意地か勝算あってのことか?

>>ブルーグラードさん
むむ。星矢なら大体知ってるはずなんですがわからない。舞台と登場キャラについて解説を
何卒。そういえば聖闘士とて人間、女神や聖域とは関わりの無い外界のことだって、知識が
あればいろいろ考えるはず。銀杏丸さんもその辺描いておられますが、本作ではどのように?

>>ハルヒさん(確かに、しぇきさんに似てる気も。御名前何卒)
ほほう。噂に名高いハルヒ、未読でしたがなかなか面白そう。勝気妹にロリ巨乳メイドに
変な語尾キャラに妙な部活にと、目新しくは無いはずなのに灯台下暗しな感じ。特撮ヲタ
としては後に加わる特撮ネタが楽しみですが、やはりライダー? 戦隊も怪人ですし……

>>268 >>269さん(可能なれば御名前を)
久々に見ました三次創作、かな。個人的には自分でもやってみたい、どなたかの書いた
作品も見てみたい、と思うのですが度が過ぎると新しい人が入りにくくなりそうで。それは
そうと帝愛も武神も、確かにまだまだやり足りなさそうですよね。再会再開が待ち遠しく。


278 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 15:59:38 ID:ueIGO7nT0
帝愛は汲めども尽きぬネタの泉。
武神も然りです。他の神の存在が大きい。人脈ならぬ神脈。
加藤もいずれ、表現運動や演武、格闘プレイなんかに借り出されてもおかしくないぐらい、
神脈はなんでもござれ度を増やしますからね。
帝愛は言わずもがなです。兵藤はいつでも帝愛裏部門を万能残虐ゲーム機に変えます。

ブルーグラードも作者同じです。単行本13巻のオマケの読み切りを思い出し、
先日創作をしました。記憶自体は15年以上前のものなので、覚えてるだけで奇跡に思います。
13巻には、セイントのプロフィールもついてましたし、ドラえもん以外で初めて
買ってもらった漫画本の第一冊だったような気もします。
創作の年代は、氷河らの時代より前で、いわゆる前聖戦から数十年、というのを
イメージしました。しかし、復興中のサンクチュアリより前近代の軍隊の方が
やりがいがあると思いました。セイントVS戦車やサリン、という発想は2chよりずっと昔から
ありますが、セイントGでもそれは完全に消化できてなかったみたいですし。
Gは現代のシャバで戦うセイントや続編への期待どころか、黒歴史扱いされてるから
論外ですかね・・・。

279 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 19:14:26 ID:kNtCxC610
ふらーりさん完結おめ
最も長編の完結作の多い職人さんかな、今は?
正成との繋がりや勇との戦いなど、大和は大活躍でしたな

今までの作品より大変だったとは思いますが、
今までの作品より生き生きと書いてたような気がします
また、連載お願いします

でもやっぱりふらーりさんはハルヒ知らなかったなw

280 :ds:2007/03/28(水) 19:19:05 ID:F+Hf5IbV0
sd

281 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 22:35:55 ID:V7uy1KZ50
>涼宮ハルヒの正義
短編とはいわず、ハルヒ主役で長編書いてほしい気もする
可愛らしいノリが最高w

>修羅と鬼女の刻
難しい素材を乙です。陸奥の名を持つ者が負けなくて良かった。
この「刻」シリーズはまた書いて欲しいなー
ふら〜りさんに限らず誰でも。

282 :ヴィクティム・レッド:2007/03/28(水) 22:47:51 ID:7mFIXS2V0
 現在、カリヨンタワーの下層階で行われている惨劇とは切り離されたような静謐な病室で、ユーゴー・ギルバートは眠りに就いていた。
 だがそれは安らかと言えるようなものとは程遠く、じっとりと脂汗を額に滲ませて時折うなされたように声を上げる。
「にいさん……」
 天使の表情に憂いの色を詰め込ませ、ユーゴーはその悪夢の覚めるときを待っていた。

 それはまるで悪夢だった。
 クリフ・ギルバートの悪意は壊滅的な広がりを見せ、カリヨンタワーの下層部分を蹂躙していた。
 キース・シルバーの『ブリューナクの槍』の刻んだ傷跡は建築構造物の強度を大いに弱め、
キース・レッドとキース・セピアが放った超震動がそこに情け容赦ない揺さぶりを掛けていた。
 これらの状況が示す帰結点は一つ、基礎部分に致命的な損壊を受けたカリヨンタワーの崩壊である。
 徴はすでに顕れていた。
 医療セクションのあったフロアの床が粉微塵になり、ありとあらゆるものが階下へ、そしてさらに階下へ──
全てが奈落に落ちようとしていた。
 それは『マッドハッター』も例外ではなく、むしろその重量と放熱量ゆえに他のなによりも強く、
階層ごとの遮蔽物を突き破って真っ逆さまに消えていってしまった。

「『ロンドン橋落ちた』……?」
 キース・バイオレットが呆然と呟くのへ、キース・グリーンが宙を見つめていた視線を彼女へ移す。
「どうかしたのかい、バイオレット姉さん」
「『アリス』が……歌っている」
 バイオレットは低く細く口ずさむ。
「『ロンドン橋 落ちた 落ちた 落ちた ロンドン橋 落ちた マイ フェア レディ』」
「『マイ フェア レディ』ってのはなんなんだい?」
 その言葉で現実に引き戻されたバイオレットは、む、と眉をひそめた。
「──ロンドン橋には、橋の上に幾つもの商店が並んでいた。ロンドン橋自体が小さな町だったんだ。
そして、建物の重みに耐え切れず、ロンドン橋はしばしば崩落(ブレイクダウン)した。考えてみれば当然の結果でしょうね。
そうした事故を鎮めるために捧げられたのが、乙女(マイ フェア レディ)なのさ。
彼女は人柱なんだ……起こるべくして起こる『世界の終わり』を食い止めるための、
どこまでも不条理で理不尽な『犠牲の仔牛(ヴィクティム)』……」

283 :ヴィクティム・レッド:2007/03/28(水) 22:48:58 ID:7mFIXS2V0

 キース・レッドの眼下には、深淵が広がっていた。
 ぽっかりと口を開ける空洞の中心から、濃密な気流が渦を巻いていた。
 その感覚はすっかり御馴染みになった、クリフ・ギルバートのサイコキネシスだった。
 シルバーはもうこの場にいない。クリフの精神フィールドすら届かぬ地の底から、彼の共振反応がおぼろげに感じられた。
 そして、セピアは──。
「セピア! どこにいる!?」
 セピアの共振は、クリフの獰猛な領域の真っ只中に感じられていた。
 それも非常に弱く、途切れ途切れで、位置までは特定できないでいる。
「セピア!」
 身を動かすと激痛が走る。シルバーとの戦闘で酷使した超震動が、レッド自身にも深刻な悪影響を及ぼしていた。
今すぐにでも身体がばらばらになってしまいそうだった。
 だが、今度こそ躊躇する時間も迷う時間もなかった。
 『モックタートル』の反応はこうしている間にも徐々に弱くなっていき、クリフの際限の無い憎悪に飲み込まれて泡と消えてしまいそうだった。
 レッドはセピアの手の温もりを思い出す。彼女と直に触れ合ったことを。
 彼女がいなくなってしまうことは、なによりも『嫌なこと』のような気がした──。
 キース・レッドの身体が宙に踊る。
 時を経れば経るほど彼のサイコキネシスは強大さを増してゆき、
『グリフォン』の超震動など比べ物にならない破壊力をこの世に顕現させている。
 機能の弱まっていたレッドのARMSは、その身を切り裂く衝撃を防ぎきることが出来ない。
 まず生身の部分から、そしてナノマシンで構成されている両腕が、分子レベルで破壊されていく。
 彼の最後のときは間近にあった。断末魔というものをこの世に叫ぶなら、今がその時だろう。
 そんなことにはお構いなく、構うほどのものではないと言いたげに、レッドはまったく別のことを叫ぶ。
「どこだ……セピア!」
 次の瞬間には、あらゆる異物を排撃するクリフの精神フィールドの中に突入していた。

284 :ヴィクティム・レッド:2007/03/28(水) 22:50:05 ID:7mFIXS2V0
 レッドの耳に、セピアの声がこだまする。
『どうしてそんなムキになってるのよ!』
 そう、レッドはムキになっていた。
『分かんないよ、どうして!?』
 それに答える言葉があるはずだった。
 だがそれは声になる前に消えてしまった。レッドはまだ、セピアの問いに答えていない。
 もしも叶うなら、レッドは彼女に『それ』を伝えたい。言葉にならなかったその心を、確かな言葉に変えて。
 それは言葉にすると、つまりこういうことだった。

 レッドは──クリフ・ギルバートが羨ましかったのだ。
 クリフは今、文字通りの手当たり次第に暴れまわっている。それこそ世界を滅ぼしかねない勢いで。
 その後先の考えなさは、たとえ勘違いであれ、ユーゴーを目の前で失っていることに起因しているようにレッドには感じられた。
 「妹のいない世界には意味が無い」と、そういう絶望に満ちていた。
 だが、あのとき、シルバーの『ブリューナクの槍』がセピアとユーゴーを襲ったとき、レッドはなにも出来なかった。
 二人を、セピアを救うことどころか、世界を滅ぼすことも出来なかったのだ。
 二人を撃ったシルバーよりも、ただ突っ立てるだけの自分が許せなかった。
 シルバーとの対決に拘り、結果的にクリフとの激突を避けたのは、そういうことだったのだ。
 要するに八つ当たりの相手として、良心……というかレッド自身の美意識の呵責なしに
怒りをぶつける相手として、キース・シルバーを選んだのだった。
 シルバーが『自律された暴走』を止め、レッドとの接触を避けるつもりなら、それはそれで構わなかった。
 クリフやユーゴーのことが心に深く突き刺さっていたのもまた事実だったから。
 だが、もしも……シルバーが「任務を阻害する敵」として目の前に現れたらなら、その時は──。

285 :ヴィクティム・レッド:2007/03/28(水) 22:51:26 ID:7mFIXS2V0

 その結果が、これだった。
 どこまで行っても自分は馬鹿なのだ、と思う。
 だがそれでも、いや、だからこそ、今ここでその帳尻を合わせなければならない。
 機械でもなく、獣でもなく、この世に唯一のキース・レッドとして、セピアの手を、今一度──。
「答えろ、セピア! どこにいる!?」
 声を嗄らして叫んでも、それはコンクリートや鉄骨と一緒くたに飲み込まれ、原型も留めないほどに噛み砕かれる。
 その中で、粉々に分解してゆく『グリフォン』が、微かに疼いた。

『ここにいる』

『わたしは ここにいる』

286 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/28(水) 22:52:44 ID:7mFIXS2V0
やっと話の本題に突入できました。もうちょいだから頑張れ俺。

>>251
リーマンは出したいですけど、下手にレッドの敵にしたらレッドもお終いですね。
俺の脳内補正を最大限レッドに加えても、逆立ちしたってリーマンには勝てないと思います。

>>252
兄妹でいちゃいちゃしたっていいと思ってます。
アレックス(シルバー)は本当は優しい子。

>>253
皆川漫画は主人公補正が強力すぎるから……。

>涼宮ハルヒの正義作者氏
かなりの高水準でキョン語りが再現されてると思います。
拙作にハルヒを盛り込もうとしたけどキョン語りが会得できなかったから諦めた俺からすれば、その文才にシット。
ハルヒとグゥ、キョンとハレ。唯我独尊万能無敵と諦観溜息被害窓口のコラボですね。
それにしてもみくるが黒とは……恐ろしい子!

>ふら〜り氏
お疲れ様でした。文字通り衝撃のラストでした。勇の次、鬼の再来がオーガなんですね。
てゆーか完璧に予想GUYです。
決着は遠い未来に持越しですね。年表も凄く勉強になりました。
修羅の門よりやっぱり「刻」が好きな俺としては、大満足の内容でした。
本当にお疲れ様です。

287 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 23:00:35 ID:V7uy1KZ50
ハロイさんお疲れです
なんか今回は大転回の回ですね。
セピア大丈夫かな。
グリフォンは原作で喋らなかったので何を語るか楽しみ!

288 :作者の都合により名無しです:2007/03/28(水) 23:43:15 ID:I5oyX67R0
ハロイさん連日投稿お疲れ様です。
今回はきっと物語全体のターニングポイントですね。
セピア、本当に死んじゃいそうな感じ…

289 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 09:28:58 ID:gmpINIov0
「やったー大成功だ!」2006年、人類はグランドクロスによる滅亡の危機を逃れ、
7年目に突入していた。しかしイジメは現存する、神話の世界も終っていない。
だから、東洋の文明圏の神に仕える者でも、光速には程遠いスピードをしていても、
亜空間創出の能力を有する。神話時代から数えても屈指の才能が有れば、最下級の術師でも
冥界から戦士を召喚できる。いじめられっ子。しかも戒律の厳しさを売りにする禅宗の某寺の仔だ。
こいつは戦士召喚の後、1時間を待たずに殴り頃された。
生前と同じ強さを得ただけの謎のギリシャ人、『地返しの冥兵』元雑兵聖闘士カシオスの冒険が始まった。
それ以降、2007年春までのカシオスの戦績は、以下の通りである。

●前田太尊(体格の優位)○カシオス 1分未満
●幕ノ内一歩(聖闘士モドキのスピードとパワー)○カシオス 1分30秒未満
●蕪木青春(青銅聖衣争奪戦の闘技場仕様のスピード・スタミナで圧倒)○カシオス 4分未満
●(苗字失念)六三四(突きを回避してのカウンター)○カシオス 2分未満
●愚地克己(音速に近いパンチとフットワークの両立)○カシオス 9分未満
●『地返しの冥兵』江戸中期の陸奥円明流宗家(音速に近い素早さが吉と出て辛勝)○カシオス 15分未満

カシオスの進撃は止まらない!

290 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 09:32:09 ID:gmpINIov0
@地返しと禅宗とか、ちぐはぐな引用はスルーどうぞ。どうせ、既存の文化に納まる成り立ちでもないし、
氏人を引っ張り出す時点で文系の考証は余地皆無になってまいますw
理系でさえ代謝どうするのかぐらいしか余地ないのが常だしw
コンセプトは、雑魚VS他作品です。悪名高い、仙水VSサイバイマンのスレとは全く違う味わいを
皆で気が向いたとき・何か思いついたときに出せたら、と思います。
最初は、グラード財団100人の孤児の内の、セイント修行中に氏んだとされている90人のうち、
実は生存していた者、という設定で面白い作品を作ろうかとも思っておりました。
でも聖戦を経ても神クロスに至ったのが5匹居たら、どこ攻撃してもセイントモドキじゃ勝ち目ない罠。
Gのゴールドのなりそこないさえ、凄い力量してたわけですから神クロス連中なんかは・・・・・・。
アニメ展開の方に目を向けても、アフォみたいにインフレした神々とか世界があるから
ヘタに出てきてもどうにも変化しないっぽい。
そこで、クリシュナがインド神話の神だとか言ってたのと、タナトスヒュプノスやシャカの存在から、
他の文明圏というのは有りかな、と思いました。で、陰陽師もどき袴系キャラもどき、そんな感じのを
自作して導入部の完成にこぎつけました。「カシオスの冒険」。

克己「パンクラチオンらしきモノに負けちまった・・・・・・」
烈「話題の筋肉デヴか?そうなんだな?」
門下生「準空気銃が禁止になってなければ・・・若を守れた。」(下士牡がエアソフトガンのBB弾を回避した)
ドップォ「そうじゃねぇ。空手ってのは」(以下省略)

291 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 11:17:55 ID:0/qIrc0J0
>ふら〜りさん
完結お疲れ様でした。この時代は戦国や幕末に比べてマイナーですけど
正成は日本一のもののふと呼ばれた武士の規範。
刻化されてないのがおかしい素材ですよね。最後の年表まで楽しかったです。
また、楽しい連載をしてくれる事をお願いします。

>ハロイさん
原作でも「ロンドン橋落ちた」のシーンは重要な場面ですね。
レッドと、セピアと、クリフたちの運命が橋の崩落ともに変わりそうかも?
セピアの健気さは他のキースシリーズにはない物なので
(バイオレットがそうかな?)不幸な結末には成って欲しくありませんが・・

292 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/03/29(木) 16:50:01 ID:3mL3brZd0
 装填が完了した。リップヴァーンの表情――それは先ほどまでとは違い、
禍々しさが抜けていた。彼女がただの一兵卒だった頃に戻ったようだった。
戦場の恐怖、狂気、それらにただ怯えていた頃の顔だった。じくりと、胸
がうずく。久しく感じていなかった、死への恐怖。遥か昔にしまいこんだはずの
ソレが、血液と共に流れ出てきたように感じた。
 リップヴァーンは、震えを抑えることが出来なかった。彼女は怯えていた。
目の前に迫った死/敵に。
 死――それは彼女が吸血鬼になって、克服したはずの虚無だった。戦場
を駆けてきた彼女は、戦争を楽しんでいたと同時に、死をとても怖れていた。
避けられぬ終焉。それは、いったいどのような姿で、この身に訪れるのだろう。
 
 笑いながら死んだ兵がいた。
 泣きながら死んだ兵がいた。
 呪詛を唱えながら死んだ兵がいた。
 恋人の名前を繰り返しながら死んだ兵がいた。
 何が起きたのかわからずに死んだ兵がいた。
 すべてを受け入れた表情で死んだ兵がいた。
 戦場にはいろいろな死が存在した。

 戦場にうち捨てられていた死体を見るたび、背筋に悪寒が走った。私もい
つかこういう風に、道端の石ころ同然に見られながら、まるで物を扱うよう
に処分されて、いつか、すべての人の記憶から忘れ去られるんだ。夜、死を
思うたびに彼女は泣いた。意識がなくなり、体が朽ち果て、自分のすべてが
無に帰す……それはなんと恐ろしい想像だろう!
 死は人を無価値にする。その人間がどんな人生を送ってこようとも、最終的には
奈落に落とされ、虚無になる。それは絶対にいやだった。藁のように、塵のよう
に、自分が無価値な存在とされるのがいやだった。彼女は死ぬのがいやだった。

293 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/03/29(木) 16:52:49 ID:3mL3brZd0
 そのまま時は流転する。死と隣り合わせに生きてきた彼女は、敵を殺し続けた。
平原で、街道で、雪山で、敵がいるのなら、あらゆる場所にいった。そして死を
生産し続けた。自分が無価値ではないと証明するには、それしかなかった。他人
に死を与えることで、彼女は虚無に抗い続けることが出来た。彼女にとって戦争
とは、愉悦と抵抗だった。絶えず抗い続ける彼女は、前進し続けた。それは血が
沸騰するような苛烈な旅だった。死はさまざまな形になって、彼女に襲い掛かっ
てきた。彼女は全霊を懸け、敵/死と戦い、それに勝利してきた。そしてその虚
無に抗う意思が、彼女に得がたい才能を与えた。
 魔弾という、バケモノじみた業だった。

 ちょうどそのときだった。彼女にワルシャワ行きの指令が下ったのは。蜂起し
たポーランド抵抗軍/目前に迫るソヴィエト軍/攻囲中のドイツ軍。ワルシャワ
は激烈な三つ巴状態にあった。その魔女の釜の底で、彼女は悪魔に出会った。
 悪魔は、彼女が母親から聞いていたような、鋭い爪や、尖った耳、禍々しい翼
を持ってはいなかった。小さく、余分な肉を纏った、ただの人間だった。
 だが、その狂気は本物だった。狂気はその周囲にも伝播していた。ワルシャワ
は、まさしく悪魔の遊技場になっていた。人間を切り裂き、その尊厳を踏みにじ
る行為が、平然と行われていた。
 それは吸血鬼を人工的に精製する過程だった。捕虜は実験のせいで肉腫の塊に
なっていたり、その不死性を確かめるべく吊るされていたりした。
 悪魔は、彼岸の境を取り除こうとしていた。そのために死も生も、すべてが同
価値に扱われ、処理されていた。そこには一部の無駄もなかった。すべては、吸
血鬼を製造する、それだけに集約していた。
 まあ、その実験体は吸血鬼といえるほど全うなシロモノではなく、肉腫の塊の
ような形をした失敗作ばかりであったが。
 その有様はさながら奇形だらけのサーカスだった。
 人間の戯画が闊歩する不思議の国。
 悪魔はその国に君臨する王だった。

294 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/03/29(木) 16:53:53 ID:3mL3brZd0
 悪魔は、まるでいい悪戯を思いついたような笑顔で、彼女に契約を持ちかけ
た。死との決別、その代償は力と身体。まるで夢のような話。だが、悪魔の目
には偽りは見えなかった。
 リップヴァーンは、その契約を結んだ。幾たびも踏み越えてきた戦場、そこ
で死んでいったものは、どれもこれも、哀れに見えた。すべて無価値の烙印を
押された者たちだった。私もいずれ彼の仲間入りを果たすのだろうか。果たす
のだろう。自分が人間である限り、生物である限り、エントロピーの呪縛から
は逃れられない。
 だが。彼女は、それを認めなかった。認めたくなかった。自分が価値がない
と証明されるのが、この上なくいやだった。それを認めては、自分が虚無に
飲まれる。それは絶対的な敗北だった。その敗北を受け入れてしまえば、自分
はただの抜け殻になってしまうだろう。
 だから、彼女は彼女たらしめるものを守るために、人間をやめることを肯定
した。不死を受け入れ、永久にこの世界を彷徨うかりそめの旅人になった。
 彼女の心は一時の平穏を得た。これで死という虚無から逃れられた。もう
無様に震えて泣き叫ぶことはない。虚無に犯されることもない。
 だがそこで、悪魔は呪いを残した。死から乖離された吸血鬼。それでも、
完全ではない。ルールが破れれば、不死の魔法は解けてしまう。その不死を
解呪する魔物に気をつけたまえ、と悪魔はいった。それと出会ってしまえば、
死はまぬがれない。名を魔王(ザミエル)。その言葉は心の深いところで、彼女
を縛り続けている。


295 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/03/29(木) 16:55:02 ID:3mL3brZd0
 ダメージの蓄積が、彼女から余裕を奪っていた。たった今起こった狙撃の損傷。
それは血液の不足を引き起こしていた。それは、人間にはいうにおよばず、吸血
鬼にも多大な枷になる。体が動かなくなるだけではない。避けられぬ吸血衝動が
襲うのだ。吸血鬼は、常にこの衝動に悩まされる。どんなに強靭な意識でも、そ
れを完全に抑えることは難しい。どんなに自分を律しようとも、最後にはその衝
動に身を任せてしまう。それは、彼女が考えることを放棄した、ただの獣に還る
ことを意味する。思考する獣は厄介だが、そうでない獣は狩ることが容易い。
リップヴァーンが吸血衝動に負けることは、この場において、彼女が負けること
につながる。敗北はすなわち死。死は、絶対に避けねばならない。だから、今は
まだ、吸血衝動に屈するわけにはいかない。

 リップヴァーンは意識を外に向け、その範囲を広げた。
 吸血鬼の目は、二つだけではない。形而上学的位置に、もう一つ有する。
 その目を使うことで、吸血鬼は肉にとらわれることはなく、あらゆるものを見渡せた。
 だからこうやって、壁に背を向けたまま、周囲の状況を知ることが出来る。
 そしてリップヴァーンは知った。標的が、こちらに向かって走ってきているのを。

「――どうして、空中を走ることが出来るの?」

 その疑問は、もっともだった。垂直の壁を歩行できる吸血鬼といえども、何もな
い空間を疾走することは無理だった。シグバールはそれを可能にする異能を持っ
ているのだが、リップヴァーンは知らない。リップヴァーンは、少しの間、あっけ
に取られた。だが、彼女とて戦場を踏み越えてきた百戦錬磨の軍人だ。想定外の事
態に、対処せずして、どうやって生き残ることが出来ただろうか。冷徹に、彼女は
断じた。あのスピードでは、ここに着く前に、魔弾で撃墜できる。いつものように
やれば、殺せる。

296 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/03/29(木) 16:55:52 ID:3mL3brZd0
 そのために、彼女は必死に、理性を繋ぎとめていた。
 感覚を極限まで研ぎ澄ませていた。
 イメージを結ぶ。魔弾が、相手を屠る光景を、心の上に投影する。
 そして――――それは、なった。
 天に向かって、マスケット銃をかまえた。
 目を閉じて、ゆっくりと意識を拡張していった。
 周囲の空間が、自分のものになっていくのがわかった。
 この空間は、私の創った檻だ。
 この空間の中では、私は無敵だ。誰も魔弾をかわすことは出来ない。
 誰も逃がさない。
 引き金にかかった指に意識を向ける。
 音。
 魔弾が解き放たれた音。
 これで終わり。
 私はもう一度死に勝つ。
 何度でも勝ち続ける。


297 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 16:58:46 ID:K3Y7tzY90
規制かな?


298 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/03/29(木) 17:20:12 ID:HJalc5gXO
DiSRXだぁぁぁぁぁッ!!!
【テッペイ、もしくはミヒロっぽく】

あいさつがこんなんでごめんなさい。

>>192
自分じゃまったくわかりません、パワーうp
へたになるのは丸分かりなんですけども。
>>193
終盤ですけどもうちょっとだけ続きます。
>>205
頑張ります。
>>ハロイさん
こっちこそあやかりたいぐらいです。外伝の彼女は神。
>>ふら〜りさん
完結おめでとうございます。本当に完結できる人はすごい……。個人的に
>わたしは絶対に負けない、けど、仮にもしも万が一、負けて死ぬようなことがあっても
>そんなのは構わない! 戦いの中で死ぬことなど怖くはない……のに、『これ』が……
>『これ』がわたしと共に死ぬことだけは耐えられない……どうして、なぜ、こんな!?
ここが大好きです。もうなんかぐっときました。


299 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 17:26:31 ID:K3Y7tzY90
お疲れ様です。リアルタイムで呼んでました。
リップヴァーンの苦悶と心の痛みが滲み出てましたね
物語は終盤ということですが、完結まで楽しみにしてますので頑張って下さい


300 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 18:58:55 ID:Iokgk6AM0
第四話<そして、外れていく日常・2>



とある世界────日本、某市の小学校の裏山。
そこは普段ならば、子供たちの遊び場になっていたり、鳥や狸(決して、ドラえもんのことではない)などの住家となっている、のどかな場所だ。耳を澄ませば小鳥や小動物の鳴き声が、さまざまな所から聞こえる。
人間の手による地球環境の破壊が様々なところで騒がれている中、一切人の手がかかっていない珍しいところだ────
それも、普段、の話であるが。
今は、その普段の状態では─────ない。
雑草や小さな花などが生えていた地面の所々は抉られ、中の土を露出させている。太陽の光を少ししか通さないほど生い茂っていたはずの木々が、何十本も根こそぎ倒されている。まさに、目を覆いたくなるような惨状だった。
小鳥や小動物の鳴き声など、聞こえない。
代わりに聞こえるのは────まるで花火の音を近くで聞いたような、凄まじい爆発音である。
そんな爆音、それに伴って発生する爆炎、そして砂煙を被りながら、のび太たち4人+一台が、一人の男と対峙している。
のび太たちは、一人残らず大小問わずとにかく傷を負っているが───男は、傷一つ負っていない。それどころか、その紫色の髪の毛も、身にまとう服に汚れすらついていない。
「いっ……たい─────」
ドラえもん────頭部に、少し傷が見られる────が、途切れ途切れな声で、言う。どうやら、さっきからの戦闘のショックで、言語機能が破損したらしかった。
「お……前は何────がしたい、ん……だ?」
「ん?」
と、男はあくまで軽く────しかし、内面に虚ろな何かを隠して────ドラえもんの問いに答えた。
「まあ、さっきも言ったけど、君の道具を貰う事かな……あと、顔を見られたからには、皆とりあえず殺しとかないといけないし────」
「そ、うい……うことじゃ────な、い」
「ん?」

301 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:00:36 ID:Iokgk6AM0
と、突然の言葉に、首を傾げる男。
それに構わず、ドラえもんは続けた。
「な──ん、でわざ、わ……ざ僕、か…ら道…具を、奪、う……んだ?」
それは、彼だけの疑問ではなかった。
最近起きている、さまざまな時代で暮らす、未来の世界のロボットを襲い、そしてそれらが所有する未来の道具を奪う事件。
そのことを教えてくれたタイムパトロールの隊員も────彼に限らず、ほかの隊員も────、
なぜ犯人が未来デパートから盗むのではなく、わざわざ未来のロボットから、奪うのか────
理由が一切わからなかった。
不可解だった。
ただ単に秘密道具が欲しいのなら、未来デパートから直接盗んだほうが明らかに効率がいい。量にしても質にしても、ロボットから奪うよりも遥かに高いからだ。
その質問に対し、男は軽く答えた。
「まあ、簡単なことさ。未来デパートから盗むと、どうしてもタイムパトロールに見つかる可能性が高いからね。はっきり言ってあんな奴ら、僕らにとってはどうってことはないけれど、まあ……やっかいではあるからね」
「「僕ら」、ね………」
ドラえもんの後ろに隠れながら、右腕に軽い怪我を負った静香が、言った。
「つまり、貴方には仲間がいるってこと?」
「おおっと!」
頭に手を当て、「なんてこった」っていう感じのジェスチャーをする、男。どうやら図星だったらしい。しかし、別に困った感じはなく、ただ軽く、言った。
「中々鋭いね、お嬢さん」
「いや、あんたが口を滑らせたんじゃないか」
と、律儀に突っ込むのは結構深く左足の膝を擦りむいた、スネ夫である。けっこう出血は多いが、その割りにあまり痛くはないようだ。
男は、その突っ込みは無視して、そして言った。
「まあ、別にそんなことはどうでもいいんだ」
そこで、急に、声のトーンを落とした。目つきも、先ほどからの軽い感じからは一転、非常に……まさに、獲物を駆る鷹の目のように、鋭くなった。
その目に睨まれて、ドラえもんたちは、まるで見えない鎖で縛られたように、動けなくなった。
男は、さらに続ける。
「………君たちは、ここで死ぬのだから」
「ふ、ふざけるなよ!」
男の異常な威圧感を振り払い、そう叫んだのは、頭部からかなり出血している、ジャイアンだった。スネ夫のものとは違い、かなりの痛みも伴っているが、それに関わらず、叫ぶ。
「だれがお前なんかに殺されてたまるか!」
「ふぅ、ん?」
「そうだぞ!」
と、ジャイアンに続けていったのは、軽く頬っぺたにかすり傷ができている、のび太だ。

302 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:02:47 ID:Iokgk6AM0
「ぼくたちだって、今まで何回も冒険をして、それを乗り越えてきたんだ!お前なんかに、まだ冒険も始まってないのに、負けたりなんかしない!」
「ふん、冒険、ね……」
男は、先ほどまでの威圧感を放ったままで、言った。
「……残念だけど、君たちはもう冒険に出ることはできない────少なくても、生きている間は、ね」
そう、言っていく間に、男の威圧感は、どんどん強くなっていた。それに圧倒されたのび太たちは、反論したくても、口が開かない────男がしゃべっているうちに逃げようと思っても、体が、動かなかった────
「─────君たちの人生は、ここでゲームオーバーだ」


男は、その右手を、のび太たちに向けた。



時空管理局には、秀一と刹木が乗っているハガネのように、最初から戦闘が目的に造られた船もあれば────ただ単に時空と時空を渡り、魔導師を効率よくさまざまな世界に運ぶために建造され、最小限の武装だけされた巡航艦もある。
時空管理局・巡航L級8番艦────アースラも、その内の一機である。
ただ、この艦には色々とほかの艦と区別されるだけの理由、功績があり────それ故に現在は本来だったら戦闘母艦などで対応すべきであろう事件に、駆り出されているのである。
そして、そのアースラの搭乗員の一人が、言う。場所は、メインブリッジの近くの、廊下であった。
「まったく、なんで私たちまでこんな仕事に出る必要があるんだよ───」
身長はかなり低く、せいぜい130センチくらい。髪の毛は赤。時空管理局武装隊のアンダースーツを着ている、というより着られている感じの────八歳くらいの少女だった。
その明らかに愚痴っぽい口調で言われた言葉に、返すのは、一人の女性である。
「仕方があるまい」
背は女性にしては高め。髪の毛はピンクがかった紫で、ポニーテールにしている。前髪から覗く顔は、凛々しかった。少女と同じく、武装隊のアンダースーツを着た、20歳弱くらいの女性である。
「我々が犯した罪の罰は、管理局に従事すること。管理局の命令には、絶対に従わなければならないからな」
「………まあな」
と、とりあえずそう答えたが、口調はどこまでも不機嫌である。


303 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:04:48 ID:Iokgk6AM0
そんな少女の様子に、女性は「ふっ」と笑った。
「実は主はやてが今居ないから、寂しいのではないか?」
「な!?」
女性の言葉に、少女は顔を真っ赤にしながら過剰反応した。そして、手を振りながらあたふたする。明らかに動揺しているのがよくわかった。
「そ、そんなことな…」
と言い訳をしようとするが、途中でその言葉を止められる。
突然、艦内に木琴を叩いたような音が響いたからである。
「おい……これって」
「ああ、艦内放送の合図であるチャイムだな……」
二人は、なんとなく、近くにあるスピーカーの方を見てみる。意味のない行動に見えるが、意識をスピーカーに集中させるには、いい方法である。
それに続いて、メインブリッジから、聞きなれた声が流れてくる。
「艦内の武装局員の皆さん、メインブリッジに集まってください、繰り返します……」
なんとなくのんきな言葉を何回か繰り返して、そしてもう一度チャイムを鳴らして、それから艦内放送は切れた。
女性は、少女の方を、真剣な面持ちで見た。その瞳に映る少女の顔も、同じく真剣そのものである。
「……どうやら何か起こったようだな」
「……ああ」
と軽いやり取りをして、二人はメインブリッジの方へ歩いていく。
その間、一枚の少し分厚い自動ドアをくぐると、そこはすぐメインブリッジだ。
彼女たちがもといた場所がブリッジに近かったこともあり、まだほかの局員たちは集まっていないようだ。
と、二人が到着したのに気づいた────先ほど艦内放送を流した女性────エイミィ・リミエッタが、回転椅子をその字の如く回転させ、二人のいる方を向いた。なんだか、この状況にそぐわない感じの、明るい顔である。
「お二人さん、早かったね」
「いや、たまたま近くに居たのでな」
「で、一体どんな状況なんなんだよ?」
と、エイミィは少女の言葉に「うん」と頷いた。そして、少女たちに背を向けて、メインブリッジのコンピュータを弄り始める。という間にも、ほかの武装局員たちも全員ここに集まっていた(とは言っても、少女と女性を含め6人しかいないのだが)。
そして、一枚の画像を画面に表示させた。それに書いてある内容は────


304 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:06:53 ID:Iokgk6AM0
「?これは……」
「……管理外世界での、高魔力反応……だと?」
「うん」
管理外世界。
その名の通り、時空管理局が管理をしていない世界のことである。
その理由は単純明快。時空を超えるだけの魔法、あるいは科学技術が発達していないからだ(ちなみに、今表示している世界はこの後凄い勢いで科学技術が発達していき、100年後には時空管理局に管理されることとなる)。
「それでね……」
と、エイミィが言う。
「どうもこの魔力反応……‘例の事件’の犯人たちの魔力の波長によく似てるみたいなんだ」
「なんだと?」
と、女性が怪訝そうな表情を浮かべる。
‘例の事件’の犯人たちの魔力の波長に似ている……ということは……
「おいおい……」
と、少女が言った。
「てことは、まさか‘あいつら’の仲間なのかよ?」
「まあ、そういうことになるだろうね」
少女は眉間にしわをよせる。あの厄介な奴らの仲間なのかよ……
「つまり……」
女性が、真剣そのものな表情で、言う。
「あまり、大人数で臨むのは得策ではないということだな。奴らは、戦闘した相手の能力をある程度コピーできるからな……」
そう。その特殊能力があるからこそ、時空管理局は、物量に任せて解決……といういつもの手段を使うことができない。下手に数で攻めたりすれば、多数の魔導師の能力をコピーされ、文字通り手も足もでなくなる。
つまり、彼らを捕まえる、あるいは倒すには、少数で戦う必要がある。しかし、彼らの一体一体の戦闘能力はかなり高いので、かなりの実力を持った魔導師でないとその実行は難しい。
「そこで……」
と、エイミィがもったいぶった様子で、言う。
「この船、アースラでも指折りの戦闘能力を持つ魔導師である、二人に出撃してもらおうというわけなんだ」
と、少女と女性を指差した。
「そ、そんな!」
と、それを見ていた、今メインブリッジに集まっている武装局員(男)の一人が、叫んだ。

305 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:08:07 ID:Iokgk6AM0
「なんで僕たちには出番がないんですか!」
「だって君たち……今までこの二人に模擬戦で勝ったことってある?」
「な────っ!」
笑顔のエイミィの言葉が、名もなき武装局員たちの心を容赦なく抉る。かわいそうだが、所詮脇役なんてこんな扱いである。
エイミィは、そんな彼らを無視して、二人の方をむく。
「なんだか、ジャミングがかけられているみたいで、魔力反応がしている場所の様子はわからないけど……」
「かまわん。とりあえず一連の事件の犯人がいるならば、見つけ次第捕まえるまでだ」
「ごちゃごちゃ考えてねーで、さっさと……な」
と、少女と女性は、顔を見合わせ、微笑む(というにはちょっと凶暴な笑みだったが)。まるで、互いが互いのことを、どこまでも信頼しているように見えた。
「それじゃ、決定だね?」
「ああ」
「おう!」
エイミィの言葉を口火に、二人は言う。
「ヴォルケンリッター、剣の騎士、シグナム」
と、女性が。
「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータ」
と、少女が。
そして、最後は声を合わせて、


「出るぞ!」




306 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:13:04 ID:Iokgk6AM0
察しのいい読者の方ならばもちろん気づいたであろう。
時空管理局員、シグナムとヴィータが向かった先が、のび太たちと男が戦闘している学校の裏山であると。
しかし、二人は────否、アースラのクルー全員は気づかなかった。彼女らが裏山に向かった時点で、その場での戦闘行為は終了していたのである。
かといって、別にのび太たちが、あのまま男に殺されたわけではない。
─────そこに、第三者の介入があったのである。


その第三者は、まるで最初からそこにいたかのように、もとから物語の登場人物であったかのように、圧倒的な存在感を持って、そこに存在していた。
男が伸ばした右手と、のび太たちの間に。
「────なに?」
男が、怪訝そうな顔を、浮かべる。無理もなかった。その第三者は、突然、さきほどまではいなかったはずなのに、さっきまで物語の登場人物ではなかったのにも関わらず────そこに、出現した。
のび太たちや、男を飲み込むほどの、存在感を持って。
のび太たちは、怪訝そうな、というより驚いたような表情である。
ただ一体、ドラえもんだけが─────安心したような顔で、いた。
その第三者────は、女性だった。
背はすらりと長く、少なくても170センチ以上はあるだろう。おそらくオーダーメイドであろう真っ赤なスーツが、その長身にフィットしている。
顔はとても整っており、美人以外に表現できる言葉はない。ないが────ただ、その目つきだけは最悪だった。
スーツのように真っ赤な髪の毛は肩まで伸ばしていて、そして稲妻形の髪飾りをつけている。
あちこち原色の赤だらけなのと、目つきの悪さを除けば、非の打ちようがない、完全なプロポーションを誇っていた。
「おいおい────」
女性が、男に言う。その顔には場違いなシニカルな笑みが浮かんでいた。
「なぁに弱っちい子供とか虐めてるんだ?そこのお兄ちゃん」
「お前は、一体……」
男は、女性の言葉は取り合わずに、問い返した。
「お前は一体、誰なんだ?」
もうその声には、今までの軽さも、さっきまでの威圧感も、なかった。むしろ────怯えが、含まれていた。
怯えていた。
体が。
本能が。
その女性の、圧倒的な存在感に。


307 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:14:03 ID:Iokgk6AM0
「あー、お兄ちゃん、今、あたしの名前を訊いたのか?」
と、女性はもったいぶって、男の問いに答える。
「名前は哀川潤だ」
「哀川────潤……」
男は、それを何回か繰り返した。そして、それから、言った。その声に、多量の怯えを含ませて。
「お前は、一体何なんだよ、突然現れて────」
「まあ、弱いものを悪人から護る、正義のヒーローってところかな?」
と答える女性の顔には、相変わらずシニカルな笑みが浮かんでいる。
正義のヒーロー。ということは、のび太たちのほうの、味方?
「あ、あの」
「んー?
さっきから台詞がなかったのび太が、口を開いた。相手は無論、正義のヒーローだという、哀川潤に。
「哀川さん」
「潤だ」
いきなり、呼び名を訂正された。
「潤でいい。あたしを苗字で呼ぶのは────敵だけだ」
哀川さん、もとい潤さんにものすごい形相で睨まれて、のび太はその場で動けなくなる。
そんな情けない彼のかわりに、静香が言った。
「潤さん、そのありがとうございま…」
「いいっていいって。お礼は─────あの弱いものいじめの色っぽいお兄ちゃんをぶっ飛ばしてからで───なっ!」
と言うと同時に潤は跳んでいた。
男に向かって、まさに弾丸の如く。
男は、それに反応することができずに、その弾丸のように突っ込んできた潤の体当たりを、まともに喰らった。
「ぐ、おおお!」
ただの体当たり────潤にとっては、ただ跳んで相手にぶつかっただけの体当たりで、男はまるでダンプカーにでも撥ねられたかのように吹っ飛び────後方の木々を薙倒して行った。
そのぶつかった反動で潤も後ろに吹っ飛んだが、すぐに着地して────吹っ飛んでいく男を追いかけるように、地面を足で蹴った。先ほど以上のスピードで。
その圧倒的な戦闘に、のび太たちは黙るしかない。

308 :『絶対、大丈夫』:2007/03/29(木) 19:19:47 ID:Iokgk6AM0
その後、何回か爆発音のようなものがして────そして、すぐに静かになった。
何があったのか、まだなぎ倒れていない木々に阻まれ、見ることはできない──────
「……どう、な…ったん、だ?」
と、ドラえもんが、切れ切れの故障しまくった声で、言う。
『あの彼女』が負けるわけはない……それだけは、確実に言えるのだが。
しかし、誰も、答えられない。
結果が、見えないのだから、当然だった。
だが─────
さっき男が吹っ飛んでいったほうから────真っ赤なスーツを着た女性、哀川潤が、まったくの無傷で、歩いてきた。
さっきまで自分たちが苦戦した相手を、こんな短い間に倒したのか────
と、ドラえもんは彼女が味方でよかったと、本心からそう思う。もし敵にまわしたら、大変なことになっていただろうから。


────《人類最強の請負人》、《赤き征裁(オーバーキルドレッド)》────哀川潤が、味方で。


シグナムとヴィータが到着したのは、戦闘行為が終了して、のび太たちが帰宅してからのことだった。



309 :白書 ◆FUFvFSoDeM :2007/03/29(木) 19:29:04 ID:Iokgk6AM0
どうも。
お久しぶりの方はお久しぶり。はじめましての方は始めまして。
と、なんとなく偉そうな出だしでしたが、本当はまったく偉くない、結構新人の白書です。ご無沙汰しております。

>ふら〜りさん
完結おめでとうございます!
いや、なんというか、自分の作品を最後まで完結できる人には、どうしても尊敬の念を抱いてしまいます。
俺も見習いたいです。


今日はちょっと時間がないっぽいので、これまでで。
皆様にまた合える日を心待ちにしております。

310 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 20:00:41 ID:MFcuHb7s0
白書さんもずいぶん久しぶりだなーw
ハロイさん、ハシさん、白書さんと復活ブームだから、他の方も・・

311 :作者の都合により名無しです:2007/03/29(木) 22:55:49 ID:fAJrZLgI0
>ハシさん
相変わらずかっこいいです。クールで、どこか儚げなリップヴァーン。
強いけど悲しい女って惹かれるなあ。原作未読だから読んでみます。

>白書さん
お帰りなさい!ドラ世界と思えないハードな展開は健在ですね。
ドラから道具を取られ、生死の境を彷徨うピンチの連続。楽しいです!

312 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:00:03 ID:1Un+tuT60
《EPISODE10:Voices calling and voices crying,some are born and some are dying》

――ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビルまであと3分程の車中

「見えてきたな……。アレが目標のビルだ」

ハンドルを握るサムナーが顎で指し示す先には、やや古びた六階建てのビルがそびえていた。
窓からは幾つかの明かりが洩れてはいるものの静寂に包まれており、まるでビル全体が眠っているかのようだ。
だが、それとは対照的に車中の五人には、今回の任務のクライマックスに相応しい緊張が張り詰めていた。
戦闘開始の瞬間が刻一刻と迫っている。
防人と千歳の心臓が早鐘のように打たれる。それは使命感か、高揚感か、恐怖感か。
どちらかというと火渡の方が落ち着いているように見えなくもない。
しかし、それも彼の性格を鑑みれば“噴火前の火山”といったところなのだろうが。
そしてどういう訳か、ジュリアンは休憩中の落ち込みようがどこかに行ってしまったように、
ハツラツとした明るさを取り戻している。
バッキンガム宮殿衛兵の標準装備でもあるL85 IWアサルトライフルを胸に抱え、ここに到着するまでの道々も
あんなに毛嫌いしていたサムナーとにこやかに言葉を交わしていた。
防人は複雑な心境に陥っている。
チームプレイなのだから、理解し合えない者と親交を深められたのは重畳という他無い。
だが自分が知らぬ間に、一体何があったというのか。
気を許す事が出来ないサムナーが相手だけに、前にも増してジュリアンの身が心配だ。

その時、突然カーラジオの電源が入り、スピーカーから不明瞭な音声が小さく流れ出した。
誰もスイッチなど入れていないというのに。
『Chris......vincit......nat......istus......perat......』
耳障りなノイズにまぎれて、何か歌のようなものが聴こえてくる。
「何だ……!? パウエル、お前何かしたか?」
「い、いえ! 触ってもいませんよ!」
やがて時間が経つにつれてノイズが若干薄れ、その音声は次第に意味を持つものとなっていった。
複数の男声による荘厳な合唱。ラテン語で織り成される神への賛美。
これは、“カトリック聖歌”だ。

313 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:02:20 ID:1Un+tuT60

『Christus vincit, Christus regnat, Christus, Christus imperat.
Tempora bona veniant, pax Christi veniat, regnum Christi veniat...』
(キリストは勝ち、キリストは支配し、キリストは、キリストは君臨される。
幸福な時が来るように、キリストの平和が来るように、キリストの御国が来るように……)

本来、神々しく美しいものである筈の聖歌が、そぐわないシチュエーションとノイズのせいか、
何ともおぞましく不気味に聞こえる。
「やだ……。気持ち悪い……」
千歳は思わず背中を丸めて、寒くもないのに我が身を抱えてしまった。
いや、千歳だけではない。
火渡を除いた四人全員が、背筋に走る正体不明の悪寒を禁じえなかった。
「クソ、故障か? もう到着するというのに……!」
サムナーは苛立ちを隠しきれず、カーラジオをバンバンと乱暴に叩く。
他の四人の手前、余裕のある態度を示していたいが、この怪現象がどうしても“ある人物”を連想させてしまうのだ。
そうこうしているうちに音声は徐々に小さくなり、それに代わってノイズが大半を占め、やがてそれすらも消えた。
また、静寂が戻ってきた。
「止まり……ましたね……」
「フン、これだから安物は嫌なんだ」
ホッと安心したように見えなくもないサムナーが彼らしい罵り言葉を吐く頃には、車はビルの敷地内に進入していた。
車が停車し、エンジンが切られる。
「さあ諸君、いよいよだ……。既に銃口が向けられている可能性は充分にある。全員、武装錬金を発動しておけ」
「はい……!」
防人と千歳は息を呑みつつ、応答する。
火渡は相変わらず無言のままだ。
一瞬、火渡を睨みつけたサムナーだったが、すぐに視線をジュリアンに移す。
「パウエル。せいぜい足手まといにならんよう、全力を尽くすんだな……」
「ハイ!」
棘のある言葉にも元気よく答えるジュリアン。
五者五様の思惑、そして闘志は、如何なる戦闘絵巻を展開させるのか。
車のドアが開けられ、五人は戦いの地に降り立った。

314 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:04:56 ID:1Un+tuT60



ビル内五階の廊下ではパトリックの命令を受け取った八人が、各々の部署に着こうと激しく動き回っていた。
しかし、八人の動作はその激しさに似合わず、粛々と理路整然としたものだ。
物音を一切立てず、最低限の明かりの中で滑らかに戦闘準備を整えていく。
ある者はライフルのマガジンをセットする。ある者はグレネードランチャーのストラップを肩に回す。
ある者はワイヤーをベルトに取り付ける。ある者は手榴弾を腰に挿す。

そんな中、パトリックの副官でもあるザックがいち早く装備を整えて、他のメンバーに声を掛けた。
「お前ら! 最も優先するべきは何だ!?」
「「「敵をブチ殺す!!」」」
全員が声を揃えて答える。
「俺達が守るべきものは!?」
「「「アイルランド人の誇りとパトリックの命さ!!」」」
「その為に俺達は!?」
「「「死ぬんだ!!」」」
「ようし、俺達に与えら――」
熱き誓いは、突然響き渡った耳をつんざくような破砕音で遮られた。
それは音に止まらず、ガラスの破片のシャワーが八人全員に降り注ぐ。
廊下に面した窓ガラスという窓ガラスがすべて割れ砕け散ったのだ
「うおおッ!?」
「何だってんだ、畜生!」
「窓が全部割れちまったぞ!」
「クソッ! 奴ら、迫撃砲でも使ってきやがったか!?」
ザックが外を確認しようと窓に駆け寄った瞬間、無数の紙片が窓の外から勢いよく飛び込んできた。
幾百、幾千の紙片が廊下中に舞い踊る。
「おい、何だよコレは!」
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
ザックは皆を落ち着かせようと声を張り上げながら、宙を舞う紙片を掴み取り、書かれている文字に眼を落とした。
「『われ罪なきの血を売りて罪を犯したり――』って……。こ、これは、聖書……?」
紙片の正体は聖書だ。無数の聖書のページが、風も無いこの廊下で我が物顔に吹き荒れているのだ。

315 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:06:30 ID:1Un+tuT60
「がッ……!」
突然、メンバーの一人が奇妙な声を上げて、床に倒れ込んだ。
「ゲム!」
ザックは警戒しつつ、倒れた仲間に近寄った。
「お、おい……」
既に事切れている。
彼のこめかみに突き立った“あるもの”が、その命を持ち去ったのだ。
「こ、これは……バッ、バ、銃剣(バヨネット)!!」

「ぐうッ!」
「おごァ!」
続けて二人のメンバーが断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた。
一人は額に、もう一人は口中に、銃剣が深々と突き刺さっている。
「トニー! アンドリュー! 畜生ッ!!」
残った者達は銃を構え、誰が指示するでもなく自然に円形防御を組んでいた。
荒れ狂う聖書のページに視界を阻まれ、銃剣がどこから飛んでくるかわからない。
それ以前に銃剣の持ち主はどこにいるというのだ。

不規則に乱れ飛ぶ紙片は、やがて意思を持つかのように、ある一定の動きを見せ始めた。
竜巻を思わせる大きな円を描いて飛び始めたのだ。
そして、その円の中央では床から天井に向かって、まるで噴水のように紙片が吹き上げられている。
その中から、紙片の動きに合わせて一塊の“闇”がせり上がって来た。
ズルゥリと粘性の音を立てて、闇は何事かを呟きながら大きさを増していく。
「Death is swallowed up in victory... O death, where is thy victory... O death, where is thy sting...」
闇は徐々に人の形を成し始めた。魁偉な男の輪郭を成し始めた。
それはもう既に闇ではなく、人影だ。
さらに影の中から鈍く放たれる幾つかの光。
光を放っているのは、眼鏡。十字架(クルス)。そして、両の手に握られた、銃剣。

316 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:07:54 ID:1Un+tuT60

「奴は……!」
「遂に来やがったか……」
「ヴァチカン……第13課イスカリオテ……!」
「し、神父……」

「アレクサンド・アンデルセン!!」

闇と影のローブを脱ぎ捨てるが如く、アンデルセンは薄明かりの下、遂にその姿を現した。
「ハアァハハハハハァ……」
アンデルセンの視線は、瞬時にその場にいるテロリスト全員を捉えた。自分が仕留めるべき獲物達全員を。
「う、撃て……!」
常識の範疇を遥かに超えた出現の仕方に、あっけに取られていたザックがやっとの思いで発声した。
他の者も我に帰ると同時に、殺人者である己の性質を取り戻す。
「そ、そうだ、撃て! 撃て撃て撃て撃て撃てェ!! 撃てェエエエエエ!!!!」
「ウオォオオオオオオオオオオ!!」
銃声と雄叫びの中、弾雹弾雨が一斉にアンデルセンに浴びせられる。
頭といわず、胴体といわず、手足といわず。
しかし、幾多の銃創は次の着弾を待たず、瞬時に再生されていく。
アンデルセンは涼しい顔、いや歓喜に満ちた顔で引き金を引き続けるテロリスト達を眺めている。
そのうち、好き勝手に発砲させる事に飽きたのか、アンデルセンは両手に下げた銃剣をゆっくりと構え、
静かに歩みを進め始めた。
罪深き背信者達に向かって。

317 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/03/30(金) 03:09:51 ID:1Un+tuT60

「我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん」
「死ね! 死にやがれクソ神父がァ! この俺がブッ殺してやる!! テメエなんざ――うぐォ!」

「汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと」
「アラン!? 野ァ郎ォオオ! 殺してやる! 殺してやるぞテメエェエエエ!! 殺し――ぐあッ!」

「されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ、教えを受けよ」
「畜生(ファック)! 畜生(ファック)! 何なんだテメエはァ!! 何で死なねえんだ!! クソッタ――あがッ!」

「恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。子に接吻せよ」
「うわあああ!! 来るな! 来るな化物ォ! 来るんじゃねえ!! ああ神様ァ!! 神さ――ぐえェ!」

「恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。その怒りは速やかに燃ゆベければ」
「パトリック! 聴こえてるかパトリック! 逃げろ! コイツは本物の化物だ! 早く逃げ――がはァ!」

廊下は全き血の静寂に包まれていた。
首を落とされた者。顔を二つに打ち割られた者。胸板を貫かれた者。
声を発する者は一人もいない。彼らが発するのは血と臓腑の悪臭だけ。
アンデルセンは満足気に指で眼鏡を押し上げた。
だが、この素晴らしき静寂を打ち破る無粋な者がいた。
副官ザックだった物体が握り締める無線機だ。無線機の向こうにいるパトリックだ。
『おいザック! 何があった!? 答えろ! ポール! ジェイ! 一体どうし――』
アンデルセンは無線機をグシャリと踏み潰し、結びの一節を唱えた。

「全て彼により頼む者は幸いなり……。――AMEN」





[続]

318 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/03/30(金) 03:28:24 ID:1Un+tuT60
>>111さん
お気遣い嬉しく思います。応援して頂けるのは本当に有難いです。こんな自分でもファンでいてくれる方がいらっしゃるのかと思うと、
嬉しくもあり不思議な気分でもあり。そして今回辺りから命の価値の風化にどんどん拍車がかかっております。ちなみにテロリスト達は
神父と同じカトリックなので“背信者”です。

>>112さん
世界観、ちゃんとしてますかねぇ……(汗) あと、キャラ紹介は参考になりましたでしょうか? たぶん、あまりならなかったと思います。
も少し文章を直したり、画像添付したりしようとは思っとりますです、ハイ。

>>113さん
それは一応、自分で考えました。オリキャラには自分の考えたオリジナルのセリフを喋らせたいので。
好きな曲の歌詞や、好きな映画のセリフが元になってる事も間々あります。

ハロイさん
おお、大好きなシルバーが活躍してる! と思いきやセピアはどうなっちゃうのか……。セピアとレッドの関係が好ましいもの
だったんで尚の事心配……。しかし『ヴィクティム・レッド』はレッド以外のキャラも魅力的なんで読んでて飽きませんな。
つか『シュガー〜』もハロイさんだったなんて……。羨ましい、遅筆な自分にとってはハロイさんの筆の速さが羨ましい。
つかハロイさんはアームズだ。人間じゃない。

銀杏さん
なるほど。ではローゼンの方から読んでみる事にしましょう。麻生外務大臣も読んでるらしいですし。
ああ、しかしハガレンも気になる……。だって、おっぱい。そんなにおっぱい。

>>162さん
自分でも意外なキャラの多さに、書いてて疲れましたw
オリキャラはこんな多くする予定ではなかったんですが……。これは次回に繋げる反省点ですね。

>>176さん
ありがとうございます。おふざけの過ぎるキャラ紹介ではありましたが……。
アク禁はホント大嫌いです。一瞬でイラァッって来てブチ切れそうになるくらい大嫌いです。

319 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/03/30(金) 03:29:14 ID:1Un+tuT60
ふら〜りさん
完結おめでとうございます!&お疲れ様でした!
女の身であるが故のこの結末……。決着は来世なのですね。確かに陸奥にも負けて欲しくなかったし、勇次郎の祖先にも
負けて欲しくなかったのでこの終わり方がピッタリかも。ふら〜りさんの次回作、期待して待っておりますよ!

ハシさん
眼鏡っ子リップたんの戦いも佳境ですな。狙撃兵VS狙撃兵の息詰まる銃撃戦が少し『スターリングラード』を思い起こさせました。
でもリップたんはやられる姿が一番魅力的というか……。『HELLSING』五巻の怯えっぷり、へたれっぷり、やられっぷりが
私的に何ともたまりません。ヤン・バレンタインの言葉を借りるならば「最高に勃○モン」ですな。

スターダストさん
唐突かもしれないんですが、良い機会なんで香美への愛を語らせて頂きます。
まず猫なのがいいですよね。猫+女の子=ハァハァ。それに髪型もいい。シャギー入ってる子はツボです。あの独特の喋りも可愛すぎる。
「寝てなきゃ、寝てなきゃ、危ないでしょーがああああ!!!」の叫びは笑いの後に萌えが巻き起こる二段構えの抜刀術ですな。
そして、おっぱい。そして、おっぱい。そして、おっぱい。そし(ry 今後も、少しお馬鹿な香美の活躍を見守らせて頂きやす。
普段はまっぴーまっぴー言ってるので、たまにはこんな感じで。秋水とまっぴーのお夜食シーンには軽く感動。

『涼宮ハルヒの正義』作者さん
ハルヒは小説もアニメもまだなんですが気になってました。ちゅる……じゃなかった、鶴屋さんが結構お気に入りなので
早くも登場で嬉しいです。一番のお気に入りは長門ですが。今後の展開に期待してます。

320 :作者の都合により名無しです:2007/03/30(金) 09:00:09 ID:dAZosq3z0
真夜中にお疲れ様でしたさいさん。
ついに真の主役の神父が降臨しましたね。
ここまでひたすらな殉教者なのに、
魔人か破壊神としか思えない・・w

聖書の引用とかかっこいいなあ。

321 :作者の都合により名無しです:2007/03/30(金) 11:30:57 ID:uC16/TTp0
さいさん乙です。
ある意味予定調和的ですが、神父の登場がおぞましくてかっこよかったです
キリスト教はよく知りませんが、カトリック聖歌の部分日本語訳されると
結構怖いもんがありますな

322 :ふら〜り:2007/03/30(金) 22:33:15 ID:CAizuDLA0
>>ハロイさん
レッド、今回一気に悟りましたねぇ。ここでシルバーを倒すなりユーゴーを救うなりセピアを
抱き支えるなりできてりゃ見事の一言なのですがこの状況では……でも見ようによっては
レッド、最初からシルバーのことを恐れてないというかある意味眼中外。案外大物なのかも。

>>ハシさん
前回の感想で「リップ意外と弱そう」みたいなこと言ったら、今回一気に坂道を転げ落ちて
いくかのような彼女。死が怖いから死から必死に逃げて逃げて、その果ての今。死からは
遠ざかり力も手にしたけど、決して強くはなっていないと。もうすぐ成仏させられるのか……

>>白書さん(良い時にご帰還下さいました。またこれで弾みがついて、どなたかを招くやも)
話の都合上、誰もが言いにくい事実。ドラ及びドラの道具、未来に行ったらただの家電製品。
が、その設定を物語の中で活かすとはお見事。あと、正義の公立組織が物量作戦できない
理由ってのも感心しました。こういう風に、お約束を丁寧に自然に覆す姿勢は好きですよー。

>>さいさん
本来、人間相手なら充分強いはずのチームによる一斉射撃を、ものともせずに迫ってくる。
今回はプレデターかエイリアンか、でしたね神父。ただ相手を惨殺するだけでなく、わざわざ
手間隙かけて恐怖演出するのは、趣味なのか信念なのか洒落なのか美学なのか、信仰か。

323 :作者の都合により名無しです:2007/03/30(金) 23:30:25 ID:E6Isdm+I0
SSも楽しいが、(アンデルセンのSS描写なら日本一かもね)
さいさんのSSに対する姿勢にはサイトの日記見てていつも感心する。

スターダストさんやハロイさんにも同じものを感じるし。
お三方だけじゃないけど。
この方々のようないい意味でのSS馬鹿たちがいるから
バキスレは廃れないんだろうね。

職人の方々、いつも楽しませて頂きありがとうございます。

324 :ヴィクティム・レッド:2007/03/31(土) 02:15:26 ID:N4O/SBTO0
「──『意味論的接触(セマンティック・コンタクト)』?」
「さよう、それがセピアのARMS『モックタートル』の特性の一つじゃ」
「それが彼女の真の能力なのですか? ドクター・ティリングハースト」
「くく……ブラックよ、お前もレッドと同じようなことを言うのかね?
お前たちは一つ大きな勘違いをしておる。『それ』は、お前たちが思っているようなものではない」
「……と、言いますと?」
「意味論的接触とは、全てのARMSに共通して見られる『ある現象』を拡張した機能に過ぎない──『共振現象』じゃよ。
それは本来、ARMSを構成するナノマシン間にプログラムを走らせるためだけの、ヒトにとってはまるで無意味なノイズじゃ。
だがARMS適応者は、共振の強弱で相手の状態を把握したり、表層的な感情を読み取ったりもする。
お前たちは、単なる電磁波の波形パターンに意味を見出そうとしているのじゃよ。ここまでは分かるかね?」
「ええ、まだ分かります。どうぞ」
「情報制御用ARMS『モックタートル』は、それをさらに高度な次元で行えるのだ。
様々な共振パターンを採取し分析し解釈を与えることで、ARMSの共振波に込められた意味を内部で再構築する。
意味論的にARMSの統制情報と接触し、そこに見出された法則性に『言葉』としての価値を認めることで、の。
我々ヒトがただの空気の振動を『言葉』として理解するプロセスと、原理的には同じことが行われているのじゃよ」
「つまり……セピアは共振波を通じて、他のARMS適応者と直接的な交信が可能だということですか?」
「理論上はな。だが現実にはそう簡単なことではない。なにより両者間に積極的な交感意識がなければ成立しない。
極端な話をすると、お前たちはマザーARMS『アリス』の声を聞くことが出来る。それがなにを意味しているか分かるかね?」
「我々もARMSの発展次第では彼女と同じことが出来る、と?」
「そう、これはなにもセピアに限った能力ではないのだ。
にも関わらず、お前たちは『アリス』の声しか聞くことが出来ない。ブラックよ、いったい何故だろうな?
この機能は、ARMSに秘められた進化の可能性の一つとして捉えれば非常に興味深いものではある。
金属生命『アザゼル』の根源に迫る、極めて重大なテーマへのアプローチの手段ともなるじゃろう。
じゃがそれも、キースシリーズがARMSを便利な兵器としてしか扱えないのなら、全くの役立たずな能力じゃ。
人間同士で心を通わせる意思があるのなら、そんな手間を掛けなくとも人間には人間の言葉がある。
……そうだな、この機能が対人的な有用性を発揮できる状況があるとしたら、
それは言葉の決して届かない、そんな絶対の真空か、そうでなければ海流の渦巻く地の底か──」

325 :ヴィクティム・レッド:2007/03/31(土) 02:17:36 ID:N4O/SBTO0
 レッドは自分がばらばらに分解されてしまったと思う。
 身体で動く箇所はなにもなかった。目の前は真っ暗だった。無音の世界だった。
 本当に自分が『ここ』にいるのか、本当に生きているのか、それすらも定かでなかった。
 無明と空虚の支配する世界の中で、確かだと信じられるものはなに一つなかった。
 恐怖は感じなかった。
 ただ、微かな寂しさがあった。
 なにか、誰かに伝えなくてはならないことがあったような気がした。
 だがそれも、遠い世界の出来事のような気がして──。
『わたしは、ここにいるよ』
 虚無に溶ける寸前だったレッドの意識が覚醒する。
 暗黒の世界が反転し、そこは眩いばかりの光に包まれる。
 熱のない柔らかな光がレッドの感覚を満たす。
『レッド』
 その声に重なって、白銀の視界にノイズが一筋だけ走った。
 まるで、セピアの声が目に見えるかたちで知覚されているかのように。
 波打つ線が消えるより先に、新たなノイズが隆起する。
 それは間違いなくキース・セピアの言葉そのものだった。
『わたし、あなたが嫌いだった』
 声が輻輳する。
『いばりんぼ』
『怒りっぽい人』
『怖い顔ばかりしてる』
 ノイズは自在に動き、連絡し、やがて複雑な模様を描き出す。
『コンビを組むなんて嫌だった』
『命令じゃなければ』
『好きになれそうになかった』
『あなたのことが分からなかった』
 言葉が、積み上げられていく。
 崩されたバベルの塔を贖うように、乱れた言葉が一つ一つかたちを伴って組み上げられていた。
『──でもね』

326 :ヴィクティム・レッド:2007/03/31(土) 02:18:59 ID:N4O/SBTO0
 そしてそれは、ひとつの明確な姿となってレッドの意識野に投影される。
『やっと、あなたのこと分かった』
 おぼろげな輪郭を保ち、浮遊するセピアだった。
 ふと気づく。とっくにばらばらになったと思っていた自分の身体が、ここにあることを。
 ドクター・ティリングハーストの言葉を思い出す。
 今にして思えば、答は明白だった。
 言葉の本質は確率論と統計論だと、どこかで聞いた。
 『どうしてる?』と聞けば『上々よ』と返ってくる確率が最も高い。
 だがそれは、人間の言葉が無味乾燥なパターン信号の組み合わせだということでは、決して無い。
 例え一つひとつの受け答えがパターン的であったとしても、より多くの言葉を重ねることで、
統計量を増やすことで、そこには「揺らぎ」が生まれる。
 宝籤で、過去の当選番号履歴を参照した「最も当選確率の高い抽選番号」がまるで無意味なように、
複雑に織り合わされた言葉の前では単純な数学のマジックは霧散する。
 後に残るのは、この世にたった一つの、あらゆる確率も統計も及ばない、過去現在未来に渡って反復不可能な──。
『やっと、あなたの心に触れることができた』
 或いは、人はそれを「心」と呼ぶのだろう。
 そう、ドクターのヒントはどこまでも単純明快だった。
 セピアを理解したければ、その心を知りたければ、触れて、言葉を交わせということだったのだろう。
『レッド……力が欲しい?』
 初めて会ったとき、いや、会うその前にも、壁を隔てた向こうから同じようなことを聞かれた。
 そのときからセピアは『それ』を発現させていたのだ。
 ただ、馬鹿な自分が見逃していただけで。
 まだ見ぬ相手に問い掛けるように、声の届かぬ相手に触れるように、眠れる可能性を呼び覚ます。
 キース・セピアにはそれができるのだ。
「力を……オレに力を!」
 以心伝心(セマンティック)に触れ合うことで。

327 :ヴィクティム・レッド:2007/03/31(土) 02:20:06 ID:N4O/SBTO0

「ぐっ……!」
 今まで感じたことの無いような激痛に襲われ、キース・グリーンは身を強張らせた。
「これは……共振……!? だけど……!」
 ひたすらに鮮烈な感覚に、グリーンは助けを求めるように隣の姉のほうへと首を巡らせる。
 だがバイオレットもまた、整った顔立ちを苦痛に歪めていた。
 その両目からは透き通った涙がとめどなく溢れていた。
「レッド……セピア……あなたたち、ついに……」
 見る人が見れば、それは悲しみの涙に見えたのかもしれなかった。

 その共振波を、キース・シルバーも感知していた。
 オーバーロードのため疲弊状態にあった彼の左腕はただ軽い痺れを訴えるだけであったが、
背後にそびえる巨大なARMSがただならぬ事態の訪れを如実に物語っている。
 耳の割れるような高周波を奏でる、繭のような巨石を見上げ、シルバーは眉をひそめる。
「我が母『アリス』よ……その歌は誰が為のものだ……?」
 瓦礫の上で立ち尽くすシルバーは、ややあってからぼそりと漏らす。
「『ヴィクティム』、か──」

 そしてまた、もう一人。
「…………!」
 ばさっ、と書類が崩れ、紙片の束がテーブルの上に散乱する。
「どうしたね、ブラック」
「いえ……なんでもありませんよ、ドクター」
 今なお震える己の腕と散った紙を交互に見つめ、キース・ブラックは暗鬱な微笑を浮かべた。
 薄暗い部屋の中では、その表情の変化にサミュエル・ティリングハーストが気がつくことは無かった。
「この世にまた一匹、『怪物』が誕生した……ただそれだけのことです」

328 :ヴィクティム・レッド:2007/03/31(土) 02:21:56 ID:N4O/SBTO0

 ──クリフ・ギルバートは浅い夢を見ていた。
 それは熱に浮かされたときによく見る悪夢に似ていて、粘性を持った空気が自分を中心に渦を巻いている、胸のむかつく夢だった。
 その空気が、ある一瞬を境に逆回転を始める。
 頭に掛かっていた靄が晴れていくように、すうっと気分が楽になってくる。
 クリフを神経にまとわりつく嫌な感じが、ミキサーにかけられたジュースのようにするすると細かくなっていき、地に流れていく。
(ああ……そうだ……ユーゴーに会いにいかなきゃ……)
 おぼろげに考える。
(僕が凄い力を手に入れたこと、教えてやらなきゃ……こんな檻の中から飛び出して、二人で生きていくんだ……)
「出来るわけねーだろ、馬鹿。エグリゴリ育ちのガキがどうやって外の世界で生きていくって?」
 嫌なことを言うやつだな、と反感を覚えたが、声の主がどこにいるかは分からなかった。
 きっとこれも夢なのだろうと半ば思いながら、それでも言い返す。
(出来るさ……今は無理でも、いつか……)
「ちっ……こんな大惨事起こしといてそれかよ。嫌になるよな、まったく」
(…………?)
「あー、まー、いいや。とにかく、てめえのサイコキネシスはオレが攪拌して完璧に分解してやったから、よ──」
 そいつがなにを言っているかはさっぱり分からなかったが、
「とっとと寝ろ。そしたら妹のところに連れて行ってやる」
 そう言えばそんな約束をしたような気がする。
(ああ、悪いねレッド……やっぱり殺すのはやめておくよ)
「……やかましい。そのうち殺すぞ、クソガキ」
 そして、クリフは深い眠りに落ちていった。

329 :ヴィクテム・レッド:2007/03/31(土) 02:41:27 ID:N4O/SBTO0
「──着替え、終わった?」
 セピアの声に、レッドは振り返る。その顔は不満たらたらだった。
「着替えっつってもそこら辺の白衣だぜ。……ああクソ、最終形態になったのはいいが、全裸になるとは聞いてねーぞ」
「なに、わたしに見られたのがそんなにショックだった? 意外と繊細なんだ?」
「うるせえ馬鹿! だいたいなんでお前は脱いでないんだ!? お前だって最終形態になったのにおかしいだろ!」
 背丈の合わない白衣を羽織っているだけ、というなんともみっともない姿のレッドに対し、
いつもどおりのワンピース姿のセピアは頬を真っ赤に染め、肩を抱くように腕を交差させた。
「ちょ、ちょっとちょっと、今の問題発言だよっ! 妹に『脱げ』ってなによ! 変態!」
「そういうこと言ってんじゃねーよ! なんでオレの服だけが破れるんだって言ってんだよ!」
「ふーんだ。わたしのナナノノちゃんはレッドのと違って慎み深いんですぅ! 乙女の柔肌をそうそう人目に晒してたまるもんですか!」
「答になってねーよ!」
 二人の言い争いが耳に届いたのか、セピアの膝枕で眠っていたクリフが「うん……」と身じろぎする。
 はっと息を呑んで見守るセピアだったが、またすやすやと寝息を立て始めたので安堵の息を漏らした。
「可愛い寝顔……憑き物が落ちたみたい」
 愛しげにクリフの頭を撫でるセピアの横顔を眺めながら、レッドはつぶやく。
「結局、なにも解決してないけどな。クリフとユーゴーはこれからも都合のいいモルモットとして使い倒されるんだろ」
 意外にも、セピアはそれをあっさりと認めた。
「そうかもね。でも、それでも、一人ぼっちで生きていくよりは幾らかマシだと思うわ。……一人ぼっちは、嫌だから」
 と、どこか切実な面持ちで、自分に言い聞かせるような口調でクリフの髪を梳いていた。
 そして、やおら顔を上げ、
「──あ」
「どうした」
「来た、お肌にビビっと来たわ。グリーン兄さまがこっちに向かってる」
 視線をレッドに転じたセピアは手を差し伸べる。
 レッドはそれを握り返そうとし、
「さあ、お手をどうぞ、レッド兄さま」
 やっぱりやめた。すかっとセピアの手が空振りする。
「……セピア」
「はい?」
「その気持ち悪い呼び方はやめろ」

330 :ヴィクテム・レッド:2007/03/31(土) 02:47:35 ID:N4O/SBTO0

「──色々とご教示ありがとうございました、ドクター。大変参考になりましたよ」
 態度だけは慇懃に、席を立ってドクターに退室を促すキース・ブラックを、サミュエル・ティリングハーストが制する。
「待て、ブラック。次はワシから聞きたいことがある」
「さて、なんでしょうか?」
 馬鹿にしたような仕草で肩をすくめてみせるブラックの前に放り投げられたのは、ある簡素な書類だった。
 それに目を留め、ブラックは感心したように息をつく。
「ほう……これをどこで手に入れたのですか?」
「そんなことはどうでもいい。ワシが聞きたいのは、この実験計画の内容じゃ。……いや、これは本当に『実験』なのか?」
「そうか、バイオレットですね? まったく……あいつの口の軽さにも困ったものです」
「余計な口は利かないでワシの質問に答えるがいい」
 ブラックはまるで相手にしていなかったが、彼を良く知る者がそれを見たら驚くだろう──日頃の気難しさでもなく偏屈でもなく、
明らかにドクターは怒っていた。メガネの奥の瞳が、憤り一色で染められていた。
「『エクスペリメンテーション・グリフォン』……ブラック、今度はいったいなにをするつもりだ?」
「機密事項です」
「最高顧問のワシにも言えぬことか?」
「申し上げられません」
 取り付く島もない返答に、ドクターは握った杖を振り上げる。だが打ち下ろされるまでもなく、糸の切れたように床に落ちた。
「ブラック……いや、セロ。これはお前の意思なのか? 『アリス』はお前たちになにをさせようとしているのだ?」
「全ては『プログラム・ジャバウォック』のためです」
 ブラックはそれだけを言い残し、部屋を出て行った。
 たった一人きりになった暗室のような部屋で、ドクターは膝を落とし、全身から搾り出すようにうめく。
「教えておくれ、アリスよ……お前はなにを望んでいるのだ?」
 テーブルの上に投げ出された簡素な書類、そのめくれて顕わとなっているページには、たった二行の文だけが記されていた。

『MEDIAM:SEPIA』

『VICTIM:RED』


第十話 『人』 了

331 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/31(土) 02:51:52 ID:N4O/SBTO0
長い上になに書いてんだか自分でもちょっとアレな回でした。
とりあえず色々な伏線回収というか、広げた風呂敷畳むので精一杯でした。
意味不明な箇所、整合性に欠ける箇所があった場合、それは全て俺の足りないオツムのせいです。
一応、両名とも最終形態に到達しましたよ、という話なんですが、その実際の描写はここでは敢えて伏せました。
原作より先にクリフがグリフォンを見るのはまずかろう、というこれまた訳の分からん理由です。


332 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:38:49 ID:aQrwJLpK0
俺は怪人である。

名前は・・・、無い方がいいかもしれない。

生まれた場所、というか衣装を着た場所は演劇部の部室だ。むしろ見当がつかない方が怪人らしいが。
まあ、唯一記憶しておきたい物事としては、鶴屋さんが俺の体を見て悲鳴を挙げた事ぐらいだ。
全く人間って奴は獰悪な種族だ。
自分でここで着替えろと言った癖に、その通り実行すれば非難銃弾雨あられなのだから。

だから俺は怪人の姿は少し気に入り始めている。
あくまでも着ぐるみを着るだけという前提があるが。

しかしこの怪人姿にも一つ問題がある。
それはこの姿が、俺に『蜘蛛男の着ぐるみ』を付け加えただけにしか見えない点だ。

それでも心優しい朝比奈さんや、話を合わせるのが上手い古泉はこちらの芝居に乗ってくれるだろう。
問題は怪人を欲した張本人。涼宮ハルヒだ。
どう考えても彼女にはユーモアが無い。

いや、言うこと・成す事・考える事にはユーモアがある。
だが他人に対するユーモアがかけている。
それも決定的にだ。

だからハルヒと対面した時の策を考えねばならない。
例えばこんなのはどうだろう。
俺が体育館と入ると同時に・・・、

333 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:40:48 ID:aQrwJLpK0

「さあっ!いよいよにょろね!!」
「朝比奈さんへ脇目も振らずに襲い掛かり・・・・。」
「じゃあ、さっきの手はずどおりだからにょろね!よしっ!!GO!!」
「うむ、本番スタートか・・・、って鶴屋さん!?」
俺が鶴屋さんの言葉に気付いたときには既に遅し。
何故か俺が物思いに耽っている間に事は進んでいたようだ。

おいおい・・・、一体どうするんだよ・・・・。

「きゃあ〜〜!!怪人がやってきたわ〜〜!!」
そんな俺の心は露知らず、鶴屋さんの合図と同時に演劇部員の一人が体育館へ猛然と駆け込む。
あくまで素人的観点だが、この人は相当な大根のようだ。
(これじゃあ、流石のハルヒでも一発で分かるだろ・・・。)
しかしすでに賽は投げられ、カエサルもルビゴン川を渡る準備をしている。
だから今更どうこう言うつもりもない。暇も無い。

―――そう・・・、

(どうせこの世に怪人は居ないのだから、俺が怪人になってやる!)
俺は半ば以上にやけくそな思いを胸に秘め、先に入った演劇部員の子を追う様に体育館の中へ突入した!!
自分の中で背一杯の怪人を演じながら!!

「うおおおおおおーー!!怪人だぞ〜〜!!」

334 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:42:00 ID:aQrwJLpK0

さあ、どうだ!俺が怖いか恐ろしいか!
これが俺の所有する怪人の知識をフル活用して出来た威嚇の言葉だ!
後でいくら俺を咎めても意味は無いぞ!
なぜなら俺は自分のした行動に一片の悔いも無いからだ!

さあ!さあ!さあ!

HURRY!!HURRY!!HURRY!!

俺のこの怪人デビューについて、何らかのリアクションを頂戴〜!!

「くっ・・・!また怪人が増えたの!?」

うむ。体育館に入って来た怪人姿の俺を見て、ハルヒこと仮面ライダーハルヒが最初に言った言葉がこれである。
とどのつまり・・・。
ハルヒはすでに怪人――――カメレオン姿の怪人と闘っていたのだ。
「やだっ!そんなところを舐めないで!!掴まないで!!きゃああああーーー!!」
そして当然というべきか、怪人らしきモノの片腕に朝比奈さんが捕らわれているのが見える。
その捕らわれっぷりときたら、ある種の血統を受け継いでいるとしか思えないほどだ。
「ふふふ・・・、援軍が来たか!これまでだな。仮面ライダーハルヒよ!!」
しかし・・・、どうする?
この状況は。
とりあえず怪人の存在の有無に関して今は問わないとしても、朝比奈さんが捕らわれているのは事実。
如何にハルヒといえど、目の前にいる怪人っぽい奴に勝てるとは思わない。
しかもあの怪人っぽい奴は、ハルヒのことを仮面ライダーと認めている。
きっと手加減はしないだろう。しかも援軍が来たらしい。
これは由々しき事態だ。

ん・・、援軍・・・・?

335 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:43:57 ID:aQrwJLpK0

「さあっ!!俺と一緒に、仮面ライダーの奴に悪の制裁を加えてみようぞ!!怪人キョン吉よ!!」
そう言ってカメレオンの姿をした怪人は、俺の方を見てニヤリと笑う。
俺も・・・、怪人の仲間入りですか?
「ったく!みくるちゃんも人質に取られてるのに、また怪人が増えるなんて・・・。
一体どうしたら・・・?」
いや、ハルヒも目の前のそれは仕方ないとして、俺の方は気づけよ。
どこをどう見たって怪人という名の俺feat.着ぐるみだろ。
「しょうがない!こいず・・・、じゃなくて親父さん(おやっさん)!!新手の方は頼むわよ!」
「分かりました!すずみ・・・、じゃなくてライダー!
さあ、怪人キョン吉!ここは通さないぞ!!」
いや、勝手に話を進めるなって・・・、古泉。大体お前はキャラが違うだろ。
いつの間に熱血キャラに転進した?
っていうか、お前は俺に絶対気付いているだろ?

絶対絶対ワザとだろ?ぜ〜ったいぜったい!!

「古泉!!本当にワザと・・・、あっ・・・。」
100%こちらを馬鹿にしているかのような顔で近づいてくる古泉を見て、俺はあることに気付く。


336 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:45:39 ID:jrZ1ojU60
(そうだ、あそこにいる怪人が本物ならば、いくらフロイトを馬鹿にしたようなニヤケ顔をしている古泉でも、
なんらかの対処を取るだろう。
というか、そもそもアレが怪人な筈がない。
大体、怪人なんてものは醜い姿と純粋すぎる心の為に、常軌を逸した行動で一冊本が作れるくらいの人物を言うんだ。
別に蜘蛛の姿をした人間やラッコの姿をした芸人が居たとしても、それは決して怪人とは言わない。
それにそれらの大半は全て想像上・著名な作家による創作物であり、それが排出する背景としても、
高度な経済成長期・バブル等の貧富の格差や、立場による自己の評価の限度が怪人を欲するものなのだ。
ある種自分よりもしたの存在。または平行線に並ぶ存在として。
つまり怪人とは道端に転がっているようなものでなく、
『怪人という人間ではない人間』が一般大衆の心に必要となった時、初めてその姿を現してよいもので・・・。
だから、今俺の目の前に居るカメレオンの姿をした物体は決して怪人ではない。
つまりあれは・・・・。 )

「そうです。ご明察の通り、アレは長門さんが涼宮さんを満足させるために創り出した、怪人を模した『モノ』です。
ちなみに、アレは涼宮さんのキック一発で倒される次第となっています。
当然キョンくんを仲間だといったのも長門さんのプログラムどおりです。」
俺が現状理解を終えようとしたその刹那、古泉がいつもの笑顔と『解答』で俺の思考を遮った。
やはり俺はコイツのことが100%信用が出来ない。
始めから全てを理解していたかのような言動をとるところなんて特にだ。
「いや、私も最初は気付かなかったんですよ。でも、キョンくんを仲間と言った瞬間にピンと来ましてね。」

そんな古泉の体裁が今まさに体現されている。
はいはい。どうせ俺が一人であたふたしているだけですよ。

337 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:47:54 ID:jrZ1ojU60

「まあ、そういうことなんで今しばらくお付き合いください。」
「だから顔を近づけて話すなって!!」
「しょうがないじゃないですか。距離を離して喋り続けていたら、まるで怪人と仲良しさんに見えてしまいますからね。
一応、僕とあなたは敵同士・・・。という設定で、この場に居合わせているんですから。・・・えいっ!!」
古泉はいつもの調子でそう言うと、いきなり俺の軸足を大外から払ってくる。
もちろん格闘の経験なんて無い俺は、そのまま床に向かって横転した。
「うおっ!古泉!何しやがる!!」
「しょうがないですよ。闘うといった手前、それらしくしないと・・・。ねっ?」
「『ねっ?』じゃねえ!!」
予想外である古泉の攻撃に俺は思わず我を失ってしまう。
そして激高した感情のままに古泉の脚を蟹バサミでひっくり返した!
「あたっ!ったく、キョンくんは・・・。」
「お前が悪いんだろうが!大体、俺の後ろには鶴屋さんもいるんだ!もし彼女まで巻き込んだらどうす・・・。」
俺と古泉はそこまで言ってあることに気付く。
(しまった!今までの話を鶴屋さんに!!)
そう。鶴屋さんのような普通の人に『怪人を造った』や長門の能力の話はご法度である。

もし、もしもだ。
この話が鶴屋さんに聞こえてきて、彼女が疑問に思ったならば面倒な事に・・・。


338 :涼宮ハルヒの正義:2007/03/31(土) 05:49:16 ID:jrZ1ojU60
(どうする・・・、聞こえていない・・・か?)
俺がそう考えると同時に古泉と視線が合う。
きっとコイツも同じ事を考えていたのだろう。

そして、俺と古泉が揃って鶴屋さんがいるはずの体育館入り口を見ると・・・・、

「いや、グウはなにも聞いてないですよ。にょろ。」
「聞いてない。良かった〜って、顔が違〜う!!」
文字通り『めがっさ可愛い』はずの鶴屋さんが、 能面顔の得体の知れない人物になっていたのだった。


――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン――――――――――

339 :涼宮ハルヒの正義、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 05:50:25 ID:jrZ1ojU60
次から次へと襲い掛かる大ピンチ!
果たして俺は、無事にハルヒを満足させる事が出来るのか?

次回、ハルヒ満足せず!
お楽しみ!

じゃねえ!!

はあ・・・、はあ・・・。何を不吉な事を考えているんだ俺は。
目の前の状況に頭が混乱しているのか?
いや違う。俺のシナプスはこの程度の伝達速度で参ったりはしない。
例え!例えだ。俺の末端神経がハルヒのせいで物言わぬ屍のようになったとしても、
最後まで抵抗―――もとい希望は捨てない!

そうだ!!とりあえず俺にはすることがある!
鶴屋さんが全く知らない人物になっていたとしても、今日のハルヒを満足させなければ地球が危ない。
動揺をしてはいけない。
『動揺はどうよ!』なんて一人ボケをしている暇も無い!

よっし!とりあえずハルヒに報告だ!

「ふう・・・、こっちは片付いたわ。後はあの蜘蛛男を倒せば・・・。って、アレは!!」
「は、ハルヒ!!鶴屋さんが!!鶴屋さんが能面顔に!!」
「はん!何よ!蜘蛛男如きが、私に馴れ慣れしく話しかけるんじゃないわよ!!」
おい、何を言ってんだハルヒ。
俺のどこをどう見たら怪人になるんだ。
というか、鶴屋さんの変態に関してはなんとも思わないのか!!
「あれ〜、グウちゃんじゃないの?どうしたの、こんな都会の学校まで。」
「うむ。長ットチが急いで学校に来てくれというのでな。わざわざ遠路はるばるジャングルから来たのだよ。」
「へー。そうなんだ〜。」

って、知り合いか〜〜!!!

340 :涼宮ハルヒの正義、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 05:53:45 ID:jrZ1ojU60

もう何がナンダかわからないぞーーー!!
誰か〜!!誰かこの状況を説明してくれ〜!!
この状況を俺に理解させてくれたら、君をSOS団名誉団員に・・・。

―――そうだ!長門!!何処かにいるんだろ!!出てこーーい!!

説明だ!!まずは閉鎖空間に撤退して、状況確認じゃあ〜〜!!

「そうなんだ!でも、ちょっとまってて。今そこの『蜘蛛男』を始末しちゃうから♪」
「ん・・・、『蜘蛛男』・・・?」
俺が一人でパニックになっているのを余所に、ハルヒとグウという奴はどんどん話を進める。
それに・・・、この状況はヤバイんじゃないか?
今グウという奴は、ハルヒの『蜘蛛男』という単語に過度な反応を示したぞ。
つまり統計的に考えれば、次にグウという奴が発する言葉は・・・・。
「何を言っている。こいつ蜘蛛男でな・・・、ぐぬぬぬ。」
「が〜はっはっは!!仮面ライダーハルヒよ!そこのカメレオンを倒したところで、この私は倒せまい!!
何故ならこっちは人質を取ったからな〜〜!!」

―――予想通り!!

だが、自分の演技力は予想をはるかに下回っているのは悲しい事だ。
ともかく!この場はハルヒが俺を怪人と思っている以上、正体をばらされる訳にはいかない!
すまないが見知らぬお前には人質になってもらうぞ!!
「な、なんて卑怯な奴なの!」
「いや〜ん!助けて〜!!変なところ触らないでー。」
「ぐっはっは・・・、って俺はどこも触ってないぞ!!」
そうだ!間違っても俺は自分より年下の・・・男?

いや、女?
ともかくそんな趣味は無い!

341 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 05:56:56 ID:64iHCoko0
全く・・、俺の正体をバラさずに乗ってくれたのは感謝するが・・・。
「ちょっと!グウちゃんの胸を念入りに触るなんて・・・。
大体、その胸の触り方がなってないわ!!
そうね・・・、みくるちゃん!!こっちにきなさい。」
「ふえ・・・、あのう涼宮さん?
あれは蜘蛛男じゃなくて、キョン・・・・。きゃあああ〜〜!!!!」
ハルヒは俺がこの状況をやきもきしているのを知らずに、何故か胸の触り方を教授し始める。
だいたい俺はこの子供の胸なんて・・・、ああ〜。

あれま〜、ああいう風に乳首を掌で転がしながら揉みしだく・・・っておい!!

「やめんか〜〜!!!子供が見ているんだぞ!!」
「やあん〜♪グウの胸を触りまくっている奴が何を言ってんですか。あっ・・・、できちゃう。」
「気色悪いこと言うな!!大体俺はお前の胸なんて触ってな・・・。」
あ・・れ・・・?俺の目の前に知らない手が何本も・・・。
「や〜ん。今度は5本の腕で触ってきたわ〜ん。」
しかもそれは雄雄しく黄色と黒の縞模様で構成されていて、漫画でよく見る蜘蛛男そっくりの・・・。
「俺の着ぐるみが生きてる!?」
「さすが怪人。凄いですな〜。
しかも脳と直結してないせいでグウの胸を触った事は決して認めようとしない。
全く怖い怖い。」
グウという奴の言葉を聞いた途端、俺は全身の力が抜ける。
もはや目の前で行われている『第一回・涼宮ハルヒの正しい胸の揉み方教室』なんてどうでもいい。
感じる・・。感じるからだ。
俺の体・・・、いや正確には脇と肩から、異物が生えている事に。

342 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 05:58:16 ID:64iHCoko0

いや、それだけではない。

先程までは蜘蛛男の着ぐるみを着ているという感覚。
体育館の入り口から入ってくる風が着ぐるみ内を通り過ぎていく感覚があったのに!
今は・・、今はグウという奴の服の感触が俺の体が感じる感覚になっている。

これじゃあ・・・、これじゃあまるで・・・。

「ということで巨乳のみくるちゃんの場合、どちらかというとカレーを作るときのように
お玉で鍋をかきまわすような感覚が一番良いかもね!分かった?古泉君。」
「はい、是非参考にさせていただきます。」
「人が絶望感に浸っているというのに、何かムラムラする会話をするなーー!!」
最早胸の揉み方なんてどうでもいい。

何で俺は本物の怪人になっているんだ?

いや、それよりも俺はどうする?

どうすればいい?

俺はどうすれば元に戻れるんだ?

343 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 05:59:05 ID:64iHCoko0
「ふん!だから蜘蛛男は第一話で倒されるのよ。こんな男のロマンが分からないなんて。」
いやいやお前は女だろ!!
・・・・そんなことを言っている場合じゃ。
「まあいいわ!!ともかくその子を放して、私と勝負しなさい!蜘蛛男!」
「しょ、勝負って・・・。くっ・・、くそっ!!どうする・・・。
俺はハルヒと闘わなければならないのか?」
まさか俺がハルヒと格闘しなければならないなんて・・・。
しかし・・・、どうする?
闘ってどうなるんだ?勝って元に戻れるのはRPGのイベントだけだぞ。
「さあ!どうしたの!!早くグウちゃんを放して勝負しなさい!!」
まさに絶体絶命、窮鼠も猫を噛めないって言ったところか・・・。この状況は。
「まあ、ハルハルの思いが具現化したせいでお前が怪人化したのならば、ここで勝負して負けばいいんじゃないのか?」

ん・・・?このグウとかいう奴、いったい何を・・・・。

そうか!!確かに現実的に考えて、こんな事が起こる事など万に一つも無い。
きっと俺の体に起こった変化もハルヒの望んだものが具現化――改変するというトンでも能力のせいに違いない。

それ以外考えられない。

ならば俺の役目が終われば元に戻る可能性がある。
よっし!早くも希望が見えてきたぞ!!

しかし・・・、何でコイツがこんな事を・・・。

344 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:01:00 ID:64iHCoko0

「まあ、怪人としての役目が終わったらその場で消滅する可能性もあるがな。」
「なっ・・・!」
「ちょっと!!私の話を聞いてんの!!!もういいわ。」
グウとかいう奴め・・・。
・・・・しかし、確かにコイツのいうことは正しいかもしれない。
俺が怪人として用済みなったら居る意味が無いんだしな。
ハルヒの奴は俺のことを怪人と思い込んでいるみたいだし・・・、って!
「ハルヒ!?何時の間に目の前に・・・!!」
「だから私の名前を気安く呼ぶなっていってるでしょうが!!」
ハルヒは鬼の形相でそういうと、グウとかいう奴を捕まえている腕の一本に向かって飛び蹴りを加えてきた!
「ぐあっ!!」
「グウちゃん今よ!!逃げなさい!!」
「あ〜い。」
くう〜、ハルヒの奴・・・。本当に手加減がないんだから・・・。
・・・・ん?

――――痛み?

確かこの腕は感覚が無かったはず。
まさか俺は完全に蜘蛛男に・・・!!

345 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:03:43 ID:64iHCoko0
「よう〜し!!はっ!!これでも喰らいなさい!!」
そしてハルヒは俺が自分の状態に絶望しているのを余所に、飛び蹴りのモーションから体を上手く右に捻ると、
そこからソバットを繰り出した。
「うっ・・・。」
その蹴りの重さと今まで体験した事のない痛みに、俺は嗚咽を零しながら地に伏す。
何だ?確かにハルヒは運動神経がいいが、こんなまるで本物のライダーのような身のこなしを・・・。
「やれ〜!やれ〜!仮面ライダーハルヒ〜!」

そうか・・・、こいつの願った世界は・・・。

「へへ、応援ありがとグウちゃん。じゃあ、今度はこの技で!!」
「ぐふっ!!」

怪人が実在する世界じゃなくて・・・・。

「ひ〜っさつ!!ライダー稲妻・・・・。」
「なっ、あいつ・・・、人間か?」

自分が正義の味方になる世界か!!

「違うわ!私は正義の味方・・・よ!!」
ハルヒはそう言って天高く飛ぶと、自身の足にの雷の化身を宿し始める。
そして・・・、その光景は俺の第六感を刺激し、絶対的な死と恐怖を予想させた。

346 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:06:42 ID:z1A+Yqg30
(これは・・・、死ぬ!!絶対死ぬ!!)
最早、元に戻るとか言っている場合ではない。
あのグウとかいう奴のいう事が本当だろうと嘘だろうと、とりあえずこの蹴りだけは喰らってはいけない。

じゃあ、どうする?

「ちょっとあっけないけど・・、キョンもいないし・・・。まあいいわ!!
じゃあね!キ〜ック!!」

今の俺何が出来る?

俺は唯の一般人だぞ!

長門のように空間をいじる事も出来ない。
朝比奈さんのようにいじられキャラでもない。
かといって、古泉のように従順が自身の安全を確保する事も出来ない。

「きゃあぁーー!キョンくん〜〜!!!」

どうする?どうする?

(何言ってんだ。お前は今、怪人だろ?)
ハルヒの足が眼前に迫ったその刹那。先程のグウとかいう奴の声が聞こえる。
そうか!!俺は今、人間ではないんだ。

俺は・・・。

俺は・・・。

「怪人だぁぁーー!!」
「な、なんですって!?」

347 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:08:07 ID:z1A+Yqg30
俺がそう叫ぶと同時に、目にも止まらぬ速さで俺の体に生えている全ての腕がハルヒの足を掴む。
そして、まるで闘いなれた怪人のように俺の体は自然と次の行動を取っていた。
「うをりゃああ〜〜〜〜!!!!!!」
そう、ハルヒを体育館の端まで投げ飛ばしたのだ。
「私・・・・、飛んで・・・。」

――――次の瞬間。

けたたましい音と共に体育館端の壁は崩れ、丁度ハルヒの背中のサイズと同等の穴が姿を現す。
「はあ・・・、はあ・・・・。」
「・・・・・。」
どうやらすぐ立ち上がらないところを見ると、ハルヒは今の一撃で気絶したらしい。
女の子に暴力を振るうなんて男として最低だが、今の状態では四の五の言ってられない。

仕方ない。

俺は死にたくない。

人間に戻りたい。

そのために今は・・・、

「よしっ!!」

俺は闘う!

この体と、『目の前にいる仮面ライダーモドキ』とだ!!
闘って闘って!!俺は元の姿に戻るんだ!!


348 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:11:21 ID:z1A+Yqg30

「くらえ!ライダー!!うおおおおおーーー!!」
「は〜い、ここらでスト〜ップ。」
目の前のライダーモドキを倒すために決死の覚悟で駆け出した俺の後ろから、
相当な温度差を持った声が体育館に響き渡る。
するとその声が俺の鼓膜に響くのと同時に、俺の視界は突然180度上下反転した。
(くっ・・・う・・・。何が起こったんだ?)
俺は突然の出来事に少しパニックになりながら辺りを見回す。

神妙な顔つきで俺を見る古泉。
吹き飛ばされたハルヒと俺の顔を交互に見ながら泣きじゃくる朝比奈さん。
最早パニック状態の演劇部員の子。
そして何故か俺と数メートルは離れているのに、俺の足を掴んでいるグウとかいう奴。

ん?俺の・・・足?
コイツの手・・・、伸びてます?
いやいや、そんなことを気にしている場合ではない。
俺はさっさと『仮面ライダーモドキ』に攻撃を加えなければ。
「おっし!もう一丁!!」
グウとかいう奴の手を足から離すと、俺は再度今だ気絶しているままの『仮面ライダーモドキ』に向かって突進する。

―――が!!

「て・・、てめえ!!何しやがる!」
もう一度、俺はその場で盛大にすっころんだ。
もちろん犯人はグウとかいう奴のしわさである。
しかし、奴は俺を二度も転ばした罪を全く感じた素振りは見せず、続けて以下の詭弁を喋り始めた。

349 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:13:18 ID:z1A+Yqg30
「何しやがるではない。このまま闘ってしまってどうする?
どうにもならないだろう。それに大体、お前は元の姿に戻りたいのだろう?
それではそんなことをしても意味はあるまい。」
本当に詭弁だ。
これでは俺の心に決して響かない。
何故なら俺の状態は、最早笑って過ごせるモノではないからだ。

そう、何かを賭けなくては、何かを失わなければ、自分が取り戻したいモノを得られない状況なのだ。

確かに何をどうしたら良いかは分からないが・・・・。

「そうですよキョンくん。
ここまで涼宮さんの力が具現化してしまったことは想定外ですが、
これ以上、彼女を傷つけたりしてはダメです。」
そしてグウとかいう奴の言葉に話すタイミングを得たのか、先程まで状況を静観していた古泉も俺に言葉をかける。
勿論、その内容も詭弁だ・・・。


――――だが・・、確かにコイツ等の言うことは分かる。

それが正しい事も・・・分かる。

しかし!!それで俺はどうしろというんだ。

350 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:14:26 ID:z1A+Yqg30

こんな姿になって!!
人間を辞めさせられて!!

しかもそれが、ハルヒの気まぐれから起こった現象だと!?

冗談じゃない!

いくらハルヒが神のような力を持っているからって、やっていいことと悪い事の限度がある。
俺はそれを見過ごせるほど、大人では・・・・。

「ちぇい!」
「ぐほっ!」
再度自分の心が自分で制御できなくなった途端、グウとかいう奴――グウが俺の頭に水平チョップを食らわす。
「くそっ!!さっきからお前は何様の・・・。」
「だまれ。確かにお前の今の境遇には同情するが、それでハルハルを攻撃したらお前は心まで人間ではなくなる。」
「グウ・・・。」

351 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:16:05 ID:dgXzC2YL0
「それにお前をこの姿にしたのは、ハルハルの力ではなくこのグウ様の力だ。」
「へっ・・・?」
「あっ・・、そうなんですか?いや〜、変だとは思ったんです。
閉鎖空間が発生したのを全く感じませんでしたから。」

はい・・?
今何といいました?

「何だ?聞いていなかったのか。やれやれ仕方ない。もう一度いってやろう。
お前をこの姿にしたのは、ハルハルの力ではなくこのグウ様の力だ。
ほれ!この魔法のステッキでちょちょいのちょいと!」
「さっきはそんなモノ持ってなかっただろうが!!
・・・って、古泉!長門!!何でお前等も一緒に魔法のステッキを持ってるんだ!踊ってんだ!!
ん・・・?」
「ピュルリクピュルリク・・・。」
「なが・・と?」
俺の言葉を受けて、長門はいつもながら無表情で首を縦に振る。
そういえば・・・今日は最初っからいなかったよな・・・。長門・・・。

ああ、ちなみに長門を一言で言えば、ショートカットの美少女で俺らSOS団の何でも屋&宇宙人だ。
何でも情報統合思念体に『造られた』らしく、『世界を思い通りに改変し、望んだとおりの出来事を発生させる能力』
の観察、監視が目的・・・じゃねえーー!!!

「ちょっと長門!!今までどこに言ってたんだ!!俺はお前がよこしたグウとかいう奴のせいで散々な目に!」
「仕方ない。私は『涼宮ハルヒの前では能力を使う権限が与えられていない』。
だから彼女呼び寄せ、いざという時の為に状況を監視していた。」
「た、確かにそうだったが・・・、ん?じゃあ、こいつもお前と同じ・・・。」
そうだったのか・・・、どうりでこのグウは色々と詳しいはずだ。
長門と同じ宇宙人なんだからな。

352 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:17:13 ID:dgXzC2YL0
「違う。私も正確なことは知らない。」
「えっ・・・?ちが・・・う・・の?」
「何をいってんだキョン吉よ!グウのどこが宇宙人だって?おい!」
「じゃあ、そのところてんのように無駄に伸びている腕は何だ。
それと俺はキョン吉って名前じゃない。俺の名前は・・・・、」
「おっと、失敬。これはヨガですよ。ほっほっほっほ。」
「最後まで人のハナシを聞け!!大体ヨガで人を怪人に変えられるか!!」
グウは俺を心底からかう様な口調で伸びた腕を体の中?にしまいこむ。
もう・・・、最早何を見ても驚かんぞ・・・。
「まあそんなことは良いではないか。とりあえず、お前が怪人になった理由が分かったんだし。にょろ〜。」
「お前が理由だ!!1+1が2になる位お前が元凶だ!!」
「いっや〜ん。怪人が私をいじめるわ〜ん。」
くそっ、なんだかコイツと会話を成立させる事は一生無理な気がする。
それにしても・・・、コイツと知り合いの奴は可哀想だな・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「くっしょ!!ふう〜、そういえばグウはどこだ・・・?」
「ハ〜レ!!遊ぼう!!」
「あっ、マリー!今行くよ!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「・・・・。何だったんだ?今の?」

353 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:18:46 ID:dgXzC2YL0
「さあ?分からない事を無理矢理紐解くことは、パンドラ箱のようにろくな事がありませんから。
気にしないでおきましょう。」
「古泉・・・。そうだな。って、ちょっと待て!!変な回想を入れて上手く会話をはぐらかすな!
ともかくグウとやら。何故俺を怪人にしたのかも問わないし興味もない。
だから俺を元の姿に戻してくれ!早く!」
俺はグウに向かって心からの思いを叫ぶ。
「人間に・・・、人間に戻りたいんだ!!」
そして・・・、この言葉が目の前の変人に通じたのか、グウは渋々といった表情でこう言った。
「え〜っ!面白いのに・・・。」
「面白くもヘチマも無い!!
さっさと俺を一般ピープルに戻してくれ!その魔法のステッキとやらで!」
「ふむ・・・。仕方ないのう〜。」
よかった・・・。やっと元の姿に戻れる。

354 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:20:17 ID:dgXzC2YL0

思えば・・・、最初はどうしようもないと思った。
ハルヒが怪人を探せといった時なんて特にだ。

しかし世の中は広い。
例えこの世に存在しないものでも、似た物を創る事が出来ればどうにかなる事を知った。

そして世の中には話の通じない奴や、一般常識はごくごく小さい範囲での事柄しか通用しないことを知った。

「さあ、元に戻してしんぜよう〜。テクマクマヤコンテクマクマヤコン・・。」
「ふう・・・。色々合ったが今日も今日とで少しは楽しかった・・・って、その呪文はアッコちゃん!!」
「いや、さっきと同じ。ほらこの魔法のステッキも。」
「違う!そのステッキ候補は明らかにゴボウ!!」

はあ・・・、はあ・・・・。
何だコイツは。俺を元に戻す気が・・・、

「仕方が無いのう。では真面目に・・・・、マハリークマハーリタ・・・。」
「サリーちゃ〜ん!!」

――――無いのだろうな。

・・・・仕方ない。長門に戻してもらうか。
今ならハルヒも気絶しているから、長門の能力である空間の再構成で元に戻れるはずだ。

355 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:21:20 ID:dgXzC2YL0
「なあ、長門。あのグウは治す気が無いみたいだから俺のこの姿を・・・・。
・・・・どうした長門?」
「閉鎖空間拡大中・・・・。現在地を楕円で描くように拡大。」
「なっ・・・!!」
お、おい!何だ?何言ってんだ?
確か・・・、さっきまでは閉鎖空間なんてものは無かったって・・・。
ちなみに閉鎖空間とは、ハルヒが無意識的に創り出した世界の一ページのようなものだ。
ようはアニメのセル画のような静止画のみの世界。

―――更に言えば、俺らが生きていくには不向きな空間・・・。場所とでも言っておこう。

「現在尚も拡大中。転換行列にエラーが発生。現在の算術的空間の拡大の予測には矛盾が・・・。」
しかし何故だ?さっき古泉が今の状況に閉鎖空間は発生した様子は無いと言っていたのに・・・。
「空間は現在半径15mに拡大。発祥元は・・・・。」
「何だ?発祥元がどうした?早く言えよ!!」
最後の最後で言葉を途切る長門に向かって、俺は多少乱暴な言い方で言う。
少し・・・、言い過ぎたかな。
「す、スマン長門!俺の言い方が悪かった!こんな状況の変化の連続に、俺・・・、少し気が立ってて。」
「アナタ・・・。」
「へっ・・・?」
俺の謝罪の台詞にも一切関知せず、長門は俺を指差したまま『無表情な目』で俺を見つめる。
「俺?俺がどうか・・・?」
「アナタの中心として閉鎖空間が拡大中。もう、逃げられない。」
「嘘・・・だ・・・。」
こうして俺が最後まで言葉を紡ぎ終える前に、閉鎖空間は体育館ごと俺達を飲み込んだのだった。


――――――――――涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン・2――――――――――

356 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン:2007/03/31(土) 06:28:13 ID:e4CaIPAf0
どうも。次で最後です。長くてスイマセン。
次から特撮系が入ってきます。

>267さん
あるがとうございます。これからどんどん五月蝿くなります。

>270さん
原作はもっと文学テイストが入っているとは思います。
少なくともこの作品なんかよりはよっぽどw

>ふら〜りさん
完結お疲れ様です。範馬一族にも女はアリですね。
密接した歴史とのコラボレーションが素敵でした。
特撮ネタは次からです。

>さいさん
わざわざ感想をありがとうございます。
お気に入りの鶴屋さんをグウの前身にしてしまってスイマセン。
でも長門は活躍します。

では失礼・・・。

357 :涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン :2007/03/31(土) 07:54:00 ID:5s8mqQoe0
>ハロイさん
連日お疲れ様です。
ハレはあんまり出てきませんが、その分キョンに突っ込ませるつもりです。

358 :作者の都合により名無しです:2007/03/31(土) 09:04:47 ID:+tvmf0560
>ハロイさん
なんとなく最終回っぽい感じの回でしたが、セピアがいじらしいなあ。
レッドとの触れ合いは微笑ましい。でもハッピーエンドは物語的に難しいんだろうな・・

>ハルヒのちキョン作者さん
途中でタイトルが変わるのもネタのうちですかwこの作品のノリらしいw
でも最後なんとなくシリアスっぽくなりましたね。どんなラストになるんだろ?

359 :作者の都合により名無しです:2007/03/31(土) 09:20:50 ID:eHkMDL9x0
まとめサイトで見たんだけど、千堂武士VSドイルのあれ、続きはどうしたの?

360 :作者の都合により名無しです:2007/03/31(土) 11:14:19 ID:n9rn4H630
>ヴィクテムレッド
セピアとレッドは恋人同士みたいな兄妹みたいな感じで微笑ましいですな
ビジュアル的にはアリスみたいなのを想像しておりますが。
オリキャラの宿命上、多分舞台から去る時が来るんでしょうけど
レッドの性格がまた捻くれないよう祈っております。


>涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン (長いw)
うーむシュールな作品だ。原作は未読ですけど、キャラ小説みたいな感じで
雰囲気とノリが楽しいですな。でも最後の閉鎖空間の中で、
結構バトルとか展開されるのでしょうか?台詞回しとか好きな感じなので
次回で最終回は惜しいなあ。

あと一言。お帰りなさいしぇきさん。
最後の、「では、失礼・・・」で確信いたしました。
間違ってたらすみませんw

361 :作者の都合により名無しです:2007/03/31(土) 18:37:57 ID:fshuGiqs0
>>359
何それ?

>ハロイさん
相変わらずクオリティ高いっすね
話は終盤戦だと思いますがシュガーソウルともども期待してます

>名無しさん(しぇきさん?)
ハルヒとハレグゥですか
次は特撮物も入って最終回ですか。楽しいけど収拾つくのかなw

362 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 22:57:35 ID:pLDfkaEx0
『初めての友達、そして転校生 B』

 遠野十和子の放った缶コーヒーが宙を舞っていた。
(見えている……? 『透明になったわたし』が……?)
 そのことに驚いていた静は空中で放物線を描くアルミ缶を受け取り損ねる。こつん、と頭に落ちた。
「ふぎゃ」
「なにやってんのよ、ドンくさいわね……」
 十和子は重そうに転がる缶を拾い、タブを開ける。お金は払っていないはずだった。
 彼女もその事実に気が付いたのか、首をすくめて言い訳した。
「慈善事業したんだから、こんくらいの報酬があってもいいでしょ」
 「ねえ?」とレジカウンターの向こうで縮こまっている店員に声を掛けると、「は、はいい!」を上擦った返事が戻ってくる。
 その答に満足したのか、十和子はにんまり笑うと缶に口を付け、一気に飲み干した。
 それは見ていて惚れ惚れするくらいの飲みっぷりで、こくこくこく、と白い喉が忙しげに上下する。
 ほんの五秒足らずで空き缶を一つ作り上げた十和子は、
「っはー。尊い労働の後の一杯は気持ちいいわー」
 と、やけにおっさん臭い感想を述べた。
 そして僅かに中身の残っている缶をちゃぷちゃぷ振り、舌を突き出して最後の一滴まで喉に流す。
「──で、あんたはいつまで隠れてるつもり?」
 再び投げられた缶は、今度は寸分違わず静の胸元にすとんと落ちていった。
 抱えていた赤ん坊から片手を離してそれを受け止めた静は、しぶしぶ『アクトン・ベイビー』の透明化を解く。
 その表情は少しだけ歪んでいた、と思う。
 正直、どんな顔をすればいいのか分からなかった。
 子供の頃のささやかないたずらが発覚したときの気分に似て、笑えばいいのか恥じればいいのか、
それとも申し訳なく思えばいいのか。そうしたない交ぜの感情が、静の表情筋を混乱の渦に陥れていたのだった。
 だが、静の胸にもっとも強く去来した感情は──
(なんでわたしが見えてるのよ……おかしいよ……)
 悔しさ、だった。

363 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:00:20 ID:pLDfkaEx0
 そう、静・ジョースターは、はっきりと悔しかった。
 大富豪の娘として、それこそ「銀の匙をくわえて生まれてきた」ような扱いを受けてきた自分だったが、
(当たり前の話ではあるが)人生に於いて彼女の思い通りにならないことは山のようにあった。
 そのなかで、静のスタンド能力『アクトン・ベイビー』だけは──静自身、静が触れたもの、静の視界にあるもの、
それら全てを自在に透明化する能力──だけは、誰にも覆すことのできない絶対的な権力だった。
 別に大層な特権意識を抱いているわけではないが、それでも静にとっては自我を成す要素の一つだった。
 この能力を血肉として、今までやってきたのだから。
 それをいとも簡単に見破られたのだ。
 しかも、訳の分からないうちに、である。
 さっきの暴漢と違って、赤ん坊の声が十和子に位置を教えたわけではない。
 でも、じゃあ、なぜ……?
「『なんでわたしの姿が見えてるのよう』ってツラしてるわね」
 おどけた感じで十和子が言う。なんでもお見通しだ、とでも言いたげにウィンクまでしてみせた。
 ……なんか、腹が立った。
 腹いせに、えいっとばかりに空き缶を十和子目掛けて軽く投げた。
 それはほんの軽くだったし、軌道も受け取りやすい半円を描いていた。だが、
「あ、ねえねえ、ついでにアイスかなんかもらったらダメ?」
 十和子は余所見をしていた。缶コーヒーに味を占めた彼女は、レジカウンターの方に思い切り振り返って、
さらなる報酬を得ようと店員に強請りを掛けていたのだ。
「あ──」
 危ない、と静が言うより早く、十和子はそちらも見ずに顔面直撃コースの缶をしっかりキャッチした。
「ど、どうして……?」
 今度ははっきりと口に出していた。
 こんな奇妙な少女に出会ったのは生まれて初めてだった。
 見えぬはずのものを見、取れるはずのないものを取る、それはまるで、

364 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:02:39 ID:pLDfkaEx0
「十和子。もしかして、あなたも──」
 その静の言葉は中断された。パトカーのサイレン音が聞こえたからだ。
 それはどんどん近づいてきている。コンビニの店内にまで届くということは、かなり近くまで来ているのだろう。
「やべ」
 いきなり、十和子がバネ仕掛けのようにぴんと背筋を伸ばした。
「逃げるわよ、静」
「え? な、なんで?」
 自分が篭城犯だというならまだしも、それを倒した側が泡を食ったように逃げ出すというのは理解に苦しむ。
「いいから!」
「あ、でも赤ちゃんが」
 いきなりの急展開に度を失っておろおろする静から赤ん坊を奪い取った十和子は、やはり急展開についていけず
店の片隅で目を瞬かせている二十台半ばの女性(おそらく出勤途中で事件に巻き込まれたのだろう)に赤ん坊を押し付けた。
「お姉さん、この子の面倒、よろしく。お巡りさんに引き渡してあげて」
 その有無を言わせぬ口調に、お姉さんは戸惑いながらも「え、ええ」と快諾した。
 それを見届けた十和子は店の裏口へ駆け出し、慌てて戻ってきて、
「早く来るのよ!」
 ぼさっと突っ立ってた静の手を引いて脱兎のごとく駆け出した。
「な、なななんで?」
「あたしは警察が嫌いなの!」

 コンビニエンスストア『オーソン』から猛ダッシュで脱出した二人は、とりあえず近くの緑地公園に辿り着いた。
 水飲み場で喉を潤す十和子の背後から、静は一つの疑問を口にする。
 それは、十和子に手を引かれて走らされている間中、考えていたことだった。
「ねえ、十和子」
「なに?」
「あなた……『スタンド使い』なの?」

365 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:06:42 ID:pLDfkaEx0
「スタンド……使い……?」
 十和子は訝しげに唇を突き出し、やがて「ああ」と漏らす。
「いや、多分そんなんじゃないと思うわ、『これ』」
 『これ』、そう言った。
 それはつまり、静の『アクトン・ベイビー』に比類する『なにか』を持っていることを暗に認めているわけである。
 朝からなにか只者ではない言動に満ちていた十和子だったが、今こそ窺う余地は無かった。
それこそ、父の言葉を借りれば「コーラを飲んだ後にゲップが出るくらいに確実」なことである。
「でも、なにか──」
「でも、なにか……あるんでしょう? 他の人に無い才能、みたいなもの」
「かもね」
「この男の人を倒したのもそうなの?」
「あれはただの空手だよ。あたし、空手十三階段なの。嘘だけど」
 本当でなくて良かったと思う。リアクションに困るところだった。
「空き缶を見ないで取ったのは?」
「ありゃ、女のカンよ。あたしくらいいい女になると、そんくらいのカンが働かないと生きていけないのさ。これホント」
「『透明だったわたし』が見えたでしょう?」
「静ちゃんのいい匂いがしたんだよ。向日葵の匂いだったぜ」
「ま、真面目に答えてよ。人を食ったようなことばっかり言って」
 馬鹿にされているような気分がして、ちょっとムキになっていた静が身を乗り出したその眼前に、十和子が人差し指をびしっと突きつけた。
「そうそれ」
「……え?」
 意味を受け止め損ね、静はぽかんと口を開ける。
「だーかーらー、それよそれ。あたしは『人喰い』なの」
 と、彼女は人より伸びた犬歯が剥き出しになるまで口の端を広げ、笑った。
「意味が……良く、分からないんだけど」
 言いながら、静は思い出す。
 父が寝物語に語ってくれた、若き日の冒険のくさぐさを。
 人を喰う化物と死闘を演じ、ヨーロッパ中を駆け巡ったこと。
 祖父の代からの因縁に決着をつけるため、吸血鬼を倒しに世界中を旅したこと。

366 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:09:53 ID:pLDfkaEx0
「分かんないかな? はっきり『がおー、食べちゃうぞー』って言われなきゃ分からない?
あたしは人間を専門に捕食する怪物なの。だから、色んな能力を持ってるわ。
『美味い人間と不味い人間を嗅ぎ分ける能力』、『人間の死角に滑り込む能力』、『人間を切り刻む能力』」
 父の話は半分以上が法螺話だと思っていた。
 だが、父はジョークは大好きだが法螺を吹くような人間ではなかった。
 ──きっと、あれは本当の話だったのだ。
「あたしが好きなのはね……柔らかそうで、でも身が締まっていて、処女丸出しの女の子なのよ」
 今や、十和子は笑っていなかった。
 切れ長の目をいっそう細め、値踏みするように静の身体を眺め回していた。
 嘘だ、と笑い飛ばしたかった。
 だが、彼女の全身から発散される凄惨な空気が、それを許さなかった。
 十和子の言っていることはまるで荒唐無稽だったが、疑いを挟むことを許さない響きがあった。
 まるで、嘘偽りない真実を語っているかのように。
「目を逸らすな。こっちを見なさい」
 いきなり命令され、静は怯える。背けていた顔が、自分の意志に反して十和子へと動いていた。
 だめだ、見たらだめだ。
 頭の中ではそんな声が最大ボリュームで鳴り響いているのに、身体はそれに逆らっていた。
「う、うう……」
 そして、ついに静は十和子の瞳を見る──。
「冗談よ」
 その瞳は、いたずらっぽく輝いていた。
「ふ、ふえ?」
「冗談だって。イッツアジョーク。あたしが人間なんてゲテモノ、食うわけないじゃーん。しっかし、あんたって本当にアレな子ね。
真に受けるかよフツー。百物語で泣き喚くタイプでしょ。クラスに一人はいるよね、場の空気読みすぎるやつ。
……ま、あんたも昨日、このあたしをペテンに掛けたんだからこれでおあいこってコトで」 
「え? じゃあ今の、全部嘘なの?」

367 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:13:35 ID:pLDfkaEx0
 なにを当たり前のことを、と言ってから後悔した。十和子のペースに巻き込まれ、冷静な判断力すら麻痺していたらしい。
 そういう意味では、確かに、彼女には『人を喰う』才能があった。
 さっきまでの腹立ちは綺麗に消えていた。
 恐怖から安堵への感情の切り替えで、その過負荷に精神が耐えられず反射的な防衛反応が起こったのか、
無性におかしくなった静は思わず吹き出してしまった。抑えこもうとしても腹の底から笑いがこみ上げてきていた。
「──やっと笑った」
 静が「?」と疑問符を頭に浮かべるのへ、
「さっき、あたし無神経な質問しちゃったからさ、ずっと気になってたんだよ。
ほら──『なにをしにこの街に来たのか』って。もしかしたら言いたくないことだったかのも知れないのにね」
「あ、ううん、わたしこそ。留学だっていうのは嘘だったの。……ごめんね」
 そこで静は思い出す。
「あれ? っていうことは、最初からわたしの嘘を見抜いていたってこと? じゃあやっぱり『スタンド使い』?」
 十和子は鼻から息を漏らし、手馴れた仕草で肩をすくめた。どうやらこれが彼女の癖らしい。
「違うって。『スタンド使い』とやらじゃないってば。……でも、あながち全部嘘ってわけじゃあないのよ。
あたしね、人の心が読めるの。心を読む、ってのは正確じゃないな。その人の魂……というか本質を、匂いとして把握できる。
体臭とか現実の匂いの話じゃねーわよ、言っておくけど。例えば……そうね、さっき薬中」
 と、十和子は未だ気絶中の暴漢を爪先で軽く蹴った。
「こいつは鉄錆と枯葉の匂い、それからレモングラスの匂い。
どうしようもねーくらいに疲れきった匂いだけど、心の奥底ではまだ瑞々しい青春の残り香を大事に抱えている。
そんな匂いだったわ」
 なんか思いっきり適当なことを言ってるだけのような気もするが、言われてみればそんな感じがする風体ではあった。
「……それが、あなたの『能力』?」
「そゆこと。それを応用して、相手の匂いの鈍感な部分を突いたり、そいつが嫌いそうな匂いを演出して追い込んだり、とかが得意技。
お菓子作りみたいなモンよ。目分量ざっくりで相手をこね回して、『上手くできたかな?』って匂いで確かめながら修正を加えて。
それがあたしの『人を喰う能力』ってワケさ」
 分かるようで、よく分からなかった。
 そもそも彼女はスタンド使いではないのだろうか?
 静自身が出会ったスタンド使いなど片手で数えられるくらいで、スタンドのことについてさほどの理解は無いが、
そういう能力を持ったスタンドがいてもいいような気がする。

368 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/03/31(土) 23:16:55 ID:pLDfkaEx0
 自分のスタンドがヴィジョンを持ったスタンドだったら、それが見えるか見えないかで簡単に判別できるのだが、
あいにく『アクトン・ベイビー』はヴィジョンの無いスタンドだった。
 『消える』スタンドなのだから、それも当然かも知れないが。
 そんな着地点の見えない思考の果てに、静の脳裏にある一つの事柄が唐突に浮かび上がった。
 『それ』を今まで失念していたなんて、どうかしているとしか思えなかった。
「あ、あの!」
 いきなり大声を上げた静に、十和子が驚いて振り返る。
「な、なによ」
「あり、ありありありがとう」
「……なにが」
 本気で分かっていないようだった。
「いやだから、その、助けに来てくれて。『泥棒』とかとても酷いこと言ったのに」
「まあ事実泥棒だしね。……なに、それだけ? だったら、わざわざ礼を言うこっちゃねーわよ。好きでやったんだから。
あたし、馬鹿なのよ。あんたと同じで、ね」
 そう言う十和子は、それでも少し面映そうにしていた。
 初夏の朝の日差しは二人の頭上に降り注いでいた。
 静と十和子が現在時刻を思い出し、『遅刻』という揺るぎない現実を認識するのは、もう少し先のことだった。

 ──それはそれとして、静は思う。
 遠野十和子という奇妙な少女と、友達になりたいと。
 彼女に自分のことを知って欲しかった。『アクトン・ベイビー』のこと、本当の両親を探しにきたこと。
 そして、彼女の色々なことを、『魂の匂いを嗅ぐ』その奇妙な能力についても、深く知りたいと思った。

「ねえ十和子」
「なーに、静」
「あなたのその『能力』……名前はあるの?」
 ちょっとだけ間を置き、十和子は答える。

「──『カスタード・パイ』」

369 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/31(土) 23:29:12 ID:pLDfkaEx0
久々にこっち書いたらなんか新鮮でした。
今後登場人物が増えたら、簡単にキャラ紹介でもしようと思います(知名度に差がある作品を同居させてるので)。
オリキャラの紹介はいらねえかな?
とりあえず、遠野十和子はスタンド使いではなく、
まあMPLS(ブギーポップ世界での超能力者、進化しすぎた人間を指す用語)に当たるのでしょうか。
『カスタード・パイ』はレッド・ツェッペリンの曲名から取ってます。
意味するところは明白すぎてむしろ露骨ですが、ジョセフに対するシーザー、ジョニィに対するジャイロにあやかり、
静の相棒として十和子を位置づけていますよ、ということです。

今から感想書きます。

370 :作者の都合により名無しです:2007/03/31(土) 23:39:02 ID:qNgyt/Pq0
ハロイさん凄いわ。
よくこのペースでこのクオリティ保てるもんだ。
しかも違うタイプの作品なのに両方面白い。

371 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/03/31(土) 23:55:47 ID:pLDfkaEx0
>ハシ氏
とりあえず日頃からどんな栄養を取ってるか教えなさい。なに食ったらそんなかっこいい文が書けますか?
おどろおどろしい工程の果てに僕らの(つーか俺の)リップバーンが生まれたんですね。
吸血衝動を押さえ込む吸血鬼、というシチュは大好きです。ビリー龍とか。

>白書氏
読んだことないけど、すぐに分かる西尾キャラ哀川潤。
ドラキャラもつられてハードになってますね。
シグナムとヴィータが分からないのが残念です。

>さい氏
アンデルセンが神掛かりすぎだろ…常識的に考えて…
ただのバイヨネットで武装錬金とタメを張る戦闘力とか、凄すぎです。
さらに怒涛の展開の期待でワクテカしてますw

>涼宮ハルヒの正義改め、SOS団はいつもハルヒのちキョン作者氏(長ぇよww)
あー、やっぱりグゥに振り回されるのか、キョンよ……。
キョン語りをSSに合わせてコンパクトに収める手腕は、原作に引けを取らないと思います。
特撮は宇宙刑事系ですかね?



えーと、↑の「シュガー&〜」ですが、校正不全で見苦しい箇所が散見されることをお詫びしておきます。

372 :作者の都合により名無しです:2007/04/01(日) 00:20:00 ID:AY1pvi+G0
ハロイさんおつかれさまです。
万引きの時は静の方が凄そうに感じましたが
今回は十和子の方がずっと格上に感じましたね。

優等生な感じの静と、とらえどころのない十和子。
魅力的なコンビですね。
これからきっと色んな事件に巻き込まれるんでしょうが
凄く楽しみです。

373 :作者の都合により名無しです:2007/04/01(日) 11:29:32 ID:F6sG3Fdc0
ハロイ氏乙!
ジョジョは好きなんで静のスタンドは想像がつくけど
十和子は能力といい性格といい頭脳といい規格外ですな。
どんな展開になるか想像がつかん。


374 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:43:27 ID:rXrWyfWB0
第014話 「バトンタッチ」

晦冥の廊下を銀影が詰めたとみるや、千歳は咄嗟に身を捻った。
千歳の真横を拳が通りすぎ、嵐のような風切り音が耳をたたく。
正中線はからくも外せた。あくまで、からくも。
冷汗に全身ぐっしょりと濡れそぼる千歳のすぐ横には防人──ただし何らかの効能により
ヘルメスドライブより出でた偽者──が依然として佇んでおり。
覆面の中で鋭く息を吐くと、回し蹴りを繰り出した。
ここは廊下。いささか狭い。だが千歳は背中を壁に叩きつけんばかりの勢いで飛びのいた。
転瞬。重機のような衝撃が千歳のいた空間をなぎ払い、廊下の壁を抉り取っていた。
例えば巨大な彫刻刀で石膏を削らばこうなるか。
コンクリート製の壁に刻まれた蹴りの軌跡に、千歳は戦慄する思いだ。
固い壁に背中を激突させたせいで軽い呼吸困難をきたしているが、直撃に比べればまだま
だ微細。
しかも今の攻撃は、防人にとってはただの通常攻撃なのである。
彼のまとう防護服・シルバースキンは防御一辺倒の武装錬金。
攻撃に対し瞬時に硬質化。仮に破損してもたちどころに修復する。
ミサイルの直撃ですら爆ぜず、ABC兵器(核、生物、科学物質の応用)もシャットアウト。
反面、直接的な攻撃力は皆無。防人はそれを鍛えぬいた超人的な身体能力で補っており。
結果、戦闘力については今の攻防の通り。
(寸分違わない)
壁と、その下で無残に破壊された手すりを見る千歳は、かすかな希望を砕かれる思いだ。
攻撃の正体は分からない。だが仮説はあった。
千歳が知悉した人間をヘルメスドライブ経由で再生、かつ攻撃させる特性。
(原因は恐らく──…)
鳩尾無銘と名乗る巨躯の黒装束の男の奇襲を受けた時。

──「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が弐。鉤縄」
──ヘルメスドライブの裏側で甲高い金属音が響くと、鉤縄が空に向かって大きく跳ね上がった。

受けた傷は筺体にまだかすかに残っている。砂嵐の画面の横で生生しく。
(この傷。あの時の武装錬金。ヘルメスドライブを狂わせる『何か』を仕組んだ筈)

375 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:44:44 ID:rXrWyfWB0
だとすれば、である。
武装錬金の特性である以上、必ずどこかに穴がある。
防人のシルバースキンが絶大な防御力と引き換えに、直接的な攻撃力を一切持たぬように。
そこで千歳が想起したのが、ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ。
総角主税操る認識票の武装錬金だ。
他者の武装錬金を扱えるが、創造者のDNAがなければ最高で80%ほどしか性能を引き出
せない。
(なら、同種同質のヘルメスドライブから現われる存在が、弱体化している事は……)
蹴りが振り切られた。
当りはしなかったが風圧で前髪が何本か切り取られた。額もうっすら斬られたようだ。
千歳は内心でかぶりを振る。推測はどうやら外れているらしい。
勝手な希望的観測がやはり違っていたともいえるが、そうならざるを得ないほど千歳は逼迫
しているのである。
目の前の破壊痕はひたすらに恐ろしい。
壁が抉られ、金属製の手すりすらバターか何かのようにすっぱり斬られている。
(……手すり? 壁に、一体どうして? いえ、でも確か──)
先ほどから覚えているこの場所への既視感が一段と明瞭になる。
果たしてここはどこなのか。
考える余裕などない。立ち止まる暇もない。
「ブラボー技(アーツ)13のうちの一つ!!」
すさまじい気迫が防人の肉体に充溢した。
今度は千歳の背後に壁はない。飛びのくのに支障はないが──
彼女は低く呻くとかがみこんだ。先ほど壁に打ちつけた背中が痛むのか。
だがそんな彼女に容赦なく、痛烈な攻撃が浴びせかけられる!!
「粉砕!! ブラボラッシュ!!」
防人はその拳に高速と重量を乗せ、絶え間なく撃ち貫く。
その速さはやがて残影を呼び残像を巻き起こし、百とも千とも取れる無数の拳と化した。
華奢な千歳がそれを受けてはひとたまりもない。もはやガトリングガンの前の野うさぎである。
にも関わらず彼女は涼しい顔を上げた。
「やると思ったわ」
床から何かを拾い上げると、防人の顔面めがけて放り投げた。
それは、真赤な筒。

376 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:45:39 ID:rXrWyfWB0
「このシルバースキンの防御力は無敵!! 何を仕掛けようと無駄! 無駄無駄無駄無駄」
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……
無駄ァッ!!」
修羅のごとく咆哮しつつ拳を間断なく繰り出す防人は、投げられた物をいとも簡単に打ち砕き。
爆発の閃光に目を灼かれた。
防人登場の際に破壊された壁をくぐり抜け、千歳は一息ついた。
(さっき、久世屋……いえ、久世夜襲を倒すときに入れ替えたトイズフェスティバル。たまたま
近くに落ちていたから)
「ブラボー。俺の目を潰して逃げる時間を稼いだというワケか戦士・千歳。確かに、シルバー
スキンは閃光までは防げない。いささか油断していたようだ」
1人残された防人は銀の帽子を心持ち目深に被り直した。
まだら。ノイズ。暗雲。
まとう純銀のコートには黒曜の光が入り混じり、いかにも偽者臭い雰囲気を醸し出している。
やれやれと息を吐き、肩の1つでもすくめたい気分だ。
偽者とはいえ精神は防人衛と代わらない。
先ほど壊した壁も実をいうと直したい。日曜大工が趣味なのだ彼は。
左官よろしくコンクリートを塗りこめるコトに、前向きな意欲がいろいろと沸く。
「もっとも。現われた以上、俺はお前を倒すしかない。どれ。逃げた方向は」
肉体はおろか聴覚視覚も鍛えぬている防人である。
瞑目し、千歳の足音を捕捉するにはさほどの時間も要さない。
防人は駆けた。腰まで垂れた三角形の襟をはためかせ……

もとより超人的な身体能力を有する防人である。
千歳に追いつくコトは造作もない。

(この状況を切り抜ける方法は1つだけある)
背後でドアが吹き飛び、きりもみながら壁に激突した。
(彼の力を借りれば、恐らく)
黒いブーツがひしゃげたドアを踏む。
(ただ、合流できるかどうか……)

377 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:47:12 ID:rXrWyfWB0
「見つけたぞ!! 戦士・千歳!!」
防人が拳を下方に向かって爆発的に叩きつけると、床がドアごと割れた。
恐るべきコトにその衝撃は前方へと伝播した。
床を瓦礫と化しつつ千歳へ迫る衝撃波。
逃げざるを得ない。だが、疲労はいよいよ頂点に達しつつある。
夜襲から逃げ防人から逃げ、体力はほぼ空に近い。
息が乱れぬよう乱れぬよう腹部に空気をかきこむが、回復には時間がかかる。
ダメージも浅くない。ヘビの特攻を受け、背中を壁に叩きつけており。
今度は背後から肉迫した防人に膝裏を蹴られ、前のめりに転倒した。
「くっ」
短い苦鳴を上げつつ、どうにか床に顔面を叩きつけないよう努力したが無駄だった。
鼻にすさまじい衝撃が走る。鉄の匂いが鼻孔を満たす。
歯を折らなかったのが不幸中の幸いとはいえ、唇も無事ではない。
鋭い痛みが鼻の鈍痛と交じり合い、千歳の息は一時的に絶え絶えとなった。
そんな彼女を見下ろしながら、銀のコートはゆっくりと前に回りこみ、しゃがんだ。
「……うーむ。どうも性分には合わんが…………悪く思うな戦士・千歳」
艶やかなショートヘアーをむんずと掴んで引きずり起こすと、今度は顔面に掌打を叩き込む。
衝撃がブラウンの手袋から美しい顔を突き抜ける。
同時に千歳は白い顎を天に仰け反らせながら声もなく後ろに倒れた。
よく手入れされた髪はくしゃくしゃとなり、千歳は息をするのが精一杯。
激しい息に豊かな胸が波打つ。
無残にも鼻から血がとめどなく流れ、口からは血に塗れた歯が覗く。
息を口でしているせいだが、その口が。
声にならない叫びと共に大きく開き、滑らかな舌肉や磨きこまれた白蝶貝のような奥歯を
あらわにした。
何故そうなったかというと、みぞおちに正拳を叩き込まれていたからである。
更に拳をねじ込まれると、気道から名状しがたい呼吸音をほとばしらせ、千歳の長身が足
ごと丸まろうとした。
それを防人は髪を掴むコトで阻止し、無理に引き上げると頬に裏拳を叩きこんだ。
力なく横に倒れる千歳。
髪は乱れ、顔は床につっぷし、タイトなスカートから覗く白い足を力ない「くの字」に折り曲げ
腹部に至るまでのラインは、妙齢の女性らしく脂が乗りつつも、細く締まっている。

378 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:48:51 ID:fhl9EgzA0
艶かしいといえば艶かしいが。
「さて。そろそろ終わりにするか。すまないな戦士・千歳。俺自身の意志としてはしたくない
コトだが、逆らえないように出来ている。だからこれで終わりだ」
防人は手刀を頭の上に高々と掲げた。
繰り出されるのは両断・ブラボチョップ。
ホムンクルスですらその名の通り真っ二つにする魔技である。
「…………ところであなた」
顔を伏したままの千歳は、呻くように呟いた。
防人は一瞬動きを止めたが、すぐに振り下ろす体勢に入った。
「ここがどこか知っている?」
謎めいた、それでいて全く意味のない質問である。
仮にここがどこか分かろうとも、いま正に千歳へ迫る手刀を止める手段にはなりえない。
詭弁ともいえる質問なのである。
「私は知っている。いえ、ようやく気付いた。手すりを見て、ようやく……」
防人と千歳の中間点。
そこに1条の稲光が煌いた。
稲光はすぐさま数条数十条の稲妻と貸し、大きな影を排出した。
「な、何!?」
防人は愕然と中空を見やる。
そこにあったのは。
防人自身の右腕! いま、正に手刀を当てんとしていた右腕!!
「相変わらず貴殿は判じ難い」
薄暗い廊下に、白い布がたなびいた。
布? いや、マフラーである。
それは小柄な男性の首に巻きつき、再殺部隊の制服に彼らしいアクセントを与えている。
「頭が回るかと思えば、かような窮地に再び立たされている」
前髪で覆っていない方の目を無愛想に細めながら、彼は千歳の肩から手を離した。
「ごめんなさいね。でも私も組織と同じように、えてしてそういう物なの。違う?」
傷だらけの顔で、千歳は気取った笑いを浮かべて見せた。
例えば猛禽類が獲物を見つけたような、歓喜を含んだ一瞬の引きつりのような笑顔だ。
ひょっとしたら移ったのかも知れないと千歳は思う。
「ところでさっきの質問の答えだけど

379 :永遠の扉:2007/04/01(日) 23:50:03 ID:fhl9EgzA0
防人の腕が床に落ち、数度バウンドした。
「ここは聖サンジェルマン病院の地下。だから彼がいるの」
彼──根来忍は相変わらずムスっとした表情である。
一度入院を決意した以上、それは彼にとって達成すべき『任務』であるから、横槍を入れら
れるのはあまり面白くないのだろう。
「手すりがあったからピンと来たわ。アレは患者さんがリハビリの時に使うものなの。例えば
防人君だってこの前使っていたわ」
「そして先ほど病院の人間から私に依頼が来た。『地下で爆発音がし、監視カメラを確認し
たら防人戦士長と戦士・千歳が争っている。事情は分からないが止めに行け』と」
「なるほどな。ココが聖サンジェルマン病院であればそうなるだろう。お前が居て、怪我もそこ
そこ治りつつあれば…… まぁいい。御託は抜きだ。まずはお前から──」
「私から?」
根来の頬が影のように揺らめき、やがてひどく冷徹な笑みへと変貌した。
「違うな。既に終わっている。よって貴殿が私を相手取るコトなど到底不可」
どうっ! という鈍い音と共に、防人の顎から金色の刃が生えた。
背中から顎が刺し貫かれている。
防人は仰け反りながら、気付いた。
背中から顎へ向かって、忍者刀が刺し貫かれていると。
(さっきの腕の切断もそうだけど、シルバースキンの絶対防御が発動しない。というコトは……!)
「真・鶉……隠れ。確かにお前の性格ならそう……するだろうな。不意打ちとはいえブラボーだ。
ところで戦士・千歳」
細かい銀の粒子として拡散しながら、防人は襟をはだき、寂しそうに笑って見せた。
「すまなかったなぁ。だが……俺……は偽者。本物を責めないでやってくれ……」
「ええ。分かってるわ」
「ブラボー……だ」
防人は消えた。残ったのは銀の粒子のみ。
それがハエの群れのようにかまびすしくヘルメスドライブへ吸い込まれた。
「ひとまず終わりか」
「いえ、まだ。恐らく元を断たない限り」
ヘルメスドライブの画面が、三度怪しく明滅を始めた。

380 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/01(日) 23:52:16 ID:fhl9EgzA0
どうも。今回はちょっと忙しいので感想は後日。すみません。
情けなくも時間配分を誤ったのです。

ただしコレだけは。
アニメ武装錬金は蝶・サイコーな出来栄えだったと!!

381 :作者の都合により名無しです:2007/04/02(月) 00:22:31 ID:p6enHSJQ0
前作のヒロイン千歳が今回は魅せましたね
いたぶられる千歳は色っぽいなあw

>アニメ武装錬金は蝶・サイコーな出来栄えだったと
超同意。
でももう1クール欲しかったかな?
でも、あの詰め込みすぎ一歩手前の濃さだから
あのクオリティだったともいえるな・・

382 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 06:35:03 ID:T8xxwTns0
『初めての友達、そして転校生 C』

 五十嵐初佳は養護教諭である。……ただし「不良」という冠詞がつく。
 「心の悩み」と称して主に下半身の悩みを打ち明けに来る男子学生どもを容赦なく蹴り飛ばすなどはほんの朝飯前で、
「今日は重い日だから気が乗らない」というカメハメハ大王みたいな理由で保健室に「本日休業」の札を掛けてみせたり、
純情な女子学生に過剰な性知識を吹き込んで面白がったり、他にもまあ色々。
 挙句の果てには一人の男子生徒に手を付けたともっぱらの評判で、要するに大人になりきれていない女だった。
 だが、そうした「学生気分の抜けなさ」が当の学生たちの間では大いにウケているようで、
妊娠とか家庭内虐待とかイジメとか、そこらの大人には言えないような悩みを初佳に持ち込んでくる生徒も決して少なくない。
 そんな変なかたちで生徒たちの信頼を得ているために教師連中も表立って彼女を攻撃できない。
 むしろ一部の教師などは、業務終了後に保健室を訪れて彼女の秘蔵の酒を頂戴することをささやかな楽しみとしている者さえいた。
 そんなわけで、不良養護教諭五十嵐初佳は、堂々と酒臭い息を吐きながら白衣を翻して校舎の廊下を闊歩している。
 その日も、三時限目の終了を告げるチャイムが鳴るころになってやっと出勤した初佳は、
自分の根城である保健室のパイプ椅子に腰掛けると早速、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「五十嵐先生、重役出勤ですか?」
「……あれ、川尻先生。いらしたんですか」
「残念ながらいらしたんですよ。あなたがいない間、僕が代わりに二人の生徒の怪我の応急手当をして、
発熱を訴えにきた生徒を早退させ、ついでに不得手な恋の相談も、話だけは聞いておきました」
「ああ……それはご苦労様です」

383 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 06:38:26 ID:T8xxwTns0
 話を聞くに、今日はどうやら朝から大繁盛の日だったようだ。
 自分に代わって労苦を背負ってくれた恩人の前でビールを飲むのはさすがに気が引けたが、
もったいないことにプルタブを開けてしまっている。
「川尻先生、飲みますか?」
「結構です。それより、遅刻の理由を聞かせてくれませんか」
「はあ、でも言っても信じないと思いますよ」
「それを判断するのは僕です。いいから仰ってください」
 そこまで言われたのなら仕方がない。せいぜい聞いて楽しむがいい、と初佳は悪魔的な微笑を浮かべ、一息に述べる。
「出勤途中にコンビニ強盗に遭遇してその現場で何故か赤ん坊の保護を押し付けられて、
警察の事情聴取と赤ん坊の引渡しに時間を取られたのが遅刻の理由です。
遅刻の連絡を入れるのは気が動転して忘れてました」
 さて、どう返す? と初佳は無責任な興味でもって川尻教師の反応を窺った。
 その反応次第では激しい叱責が彼女を待ちうけていることも十分に予想されていたが、それはそのときに考えればいいことである。
 少なくとも、初佳はそのように判断してわざと真実味に乏しい言い方を選んだ。
「遅刻の言い訳にする嘘としては最低ですね」
 それはこれ以上ないくらいにぴしゃりとした口調だった。
 その「言い訳」に腹を立てているようではないのだろう。かと言ってある種のユーモアとして解釈しているふうにも感じられない。
 ただ、初佳の言葉を真正面から受け止め率直な感想を述べた、そんな言い方だった。
 彼の生真面目さ、悪く言えば根の暗さが滲み出ている一言である。
 校内で人気者の初佳と違って、この川尻早人は堅物として大抵の学生からは恐怖と嫌悪の的として見られている。
 だが初佳は彼のことがそんなに嫌いではない。
 歳が近い親近感もあるが、その根暗さからは「確固たる意思」が見え隠れするし、それに、

384 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 06:41:25 ID:T8xxwTns0
「ですが、お話は分かりました。次からはちゃんと連絡を入れてください。そうすればわざわざ問いただす手間が省けます」
「……自分で言うのも変ですけど、信じちゃったんですか、今の」
「遅刻の言い訳に、誰もそんな突飛な嘘をついたりはしないでしょう」
 それに──意外と融通の利くところのある青年だからだ。
 真面目でしかも柔軟というパーソナリティの持ち主には、普通に生きていてなかなか出会えるものではない。
 ほとんどの人間はどっちかに偏るものであり、その「どっちつかず」な感じもどこか親しみを覚える。
「じゃあ、僕はこれで。後はよろしくお願いしますよ」
 引き戸に手を掛けた川尻教師だったが、その動きが止まる。思い出したように振り返った。
「──そうそう、忘れるところでした。今朝の職員会議での連絡事項が一つあります。
身内の不幸で故国に帰られたカトゥー先生と、出産休暇を取られた山形先生の代任の先生方が、本日着任されました」
 初佳は口を付けかけていたビールを慌ててテーブルに置き、復唱した。
「あ、はいはい。カトゥー先生と山形先生の代任ですね。……って、え? 二人とも、今日ですか?」
「なかなか条件にあった方がいなかったので延ばしのばしになってたんですが、昨日、急に見つかったそうです」
 その時、からからと音を立ててて保健室のドアが開かれた。
 川尻教師は振り返り、初佳もその肩越しに入り口に立つ者を見ようとするが、彼の身体が邪魔で良く見えなかった。
「川尻せんせー、ちょっといいですかー?」
 それは朗らか、というかむしろ間の抜けたような声だった。
 そこにいるのはその一人だけではないらしく、別の声がする。そっちは非常にドスの効いた声だった。
「ったく、なんでオレまで……話を聞くくらいテメェ一人で出来るだろーが」
「ああ、二人ともちょうどいいところに。五十嵐先生、紹介します。彼らが新任の──」

385 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 06:45:12 ID:T8xxwTns0

「ったくよー、数学が将来なんの役に立つんだっつーの」
 三時限目の英語の授業が終わり、次の授業の準備をしながら相馬航は苛立たしく息を吐いた。
 吐いた息は行き場を彷徨うようにただよい、そして消える。
 『今日の小テストのヤマってどこらへん?』『マジやっべーよ、ノート家に忘れた!』『腹減った……昼休みまだかなあ』
 周囲のざわめきを聞くともなく聞き流し、航はもう一度息を吐く。
「うっせえな、どいつもこいつも……」
 その声が誰かに届くことはない。
 航の机から二列向こうの席では女子が噂話に興じており、教壇近くに群がるグループは今さら宿題を片付けようと躍起になっており、
教室の中央辺りでは数人の男子が各々の斬魄刀(別名・箒)を振り回して限界ぎりぎりの真剣勝負を敢行していた。
 それらに含まれないクラスメイトたちも、それぞれがニ、三人で固まって思いおもいの休み時間を過ごしている。
 その混沌と雑多な声の響き渡る教室のなかで、航の席だけが、ぽっかりと空白地帯を形成していた。
 『男子うるさーい! 中学生にもなってチャンバラって馬鹿じゃないの!?』
 『黙れブス! 卍解するぞコラ!』『やってみなさいよ!』『な、なんだとう!』
 『どーしたのよほらほらほらぁ! 見ててあげるからバンカイしなさいよ! 漫画と現実の区別もつかないなんて、ほんっとガキ!』
 教室の片隅で男子と女子が口論を始めた。
 それを冷やかすもの、先生にチクリにいこうか迷っているもの、無関心におしゃべりを続けるもの、
一つの出来事で波紋のように乱れる人の輪に、航が加わることはなかった。
 この小さな世界から切り離されて、彼は一人ぼっちだった。
 思うに、席の配置が悪いのだ。
 航の教室には六列×七段の等間隔で机が並んでおり、窓際の列の最後尾が彼の席である。
 隣の席は無人だった。その席の主は一月も前に転校してしまったからだ。
 つまり航は物理的に教室全体から隔絶された環境にあり、理科の授業などで「隣の人と組んでなになにをしなさい」
という命令が教師から下されたときは必ず取り残される、そういう位置関係なのである。
 授業中は常にクラス全員から背を向けられており、手の届くところには誰もいない。
 そんな状況では、自分がクラスから孤立するのは当然のように思われた。
(ま、別に友達なんかいらねーけどさ……)

386 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 06:48:57 ID:T8xxwTns0
 ──もちろん、それは欺瞞だった。
 背を向けられてるなら振り返らせればいいだけの話であり、手が届かないなら届くところまで歩いていけばいい。
 友達は欲しかった。毎日一人で体育館裏で弁当を食べるのには飽きあきしていた。
 だが、航にはそれが出来なかった。
 自分から「友達になってください」と言い出すのは、或いはそう受け取られる言動を取るのは物凄くカッコ悪いことだと思っていた。
 航はいつも自分に言い聞かせている。
 自分は孤高の人間で、クラスの馬鹿丸出しの男子やぎゃーぎゃーうるさい女子と馴れ合うのは性に合わないのだ、と。
 だから友達を作る努力をしなくてもいいのだと。
 心の底ではそうした正当化がそのまんま「酸っぱい葡萄」だということには気づいていたが、
彼のプライドと思春期特有の自意識過剰と視野狭窄がそれを断固として認めなかった。
 その異なる意識のせめぎ合いが余計に航を苛立たせ、いつしか彼の精神は変な方向に凝り固まっていた。
 『今度の日曜、映画見に行こうよ』『こないだ海岸でエロ本拾ったんだぜ!』『かーちゃんが勉強しろってうるさくてさー』
 『麻美、大学生の彼氏が出来たんだって』『いつまでも邦楽なんか聴いてるやつは小学生だろ』『川尻マジ殺してー』
(うるさいうるさいうるさい!)
 胸中で絶叫する航のことなど知らぬげに、クラスメイトはいつもの日常を繰り返す。
『ねえねえねえ、聞いた聞いた? 昨日、また出たんだって!』『出たって……なにが?』『だからぁ……“ブギーポップ”だよ!』
 相馬航の存在をよそに、今日も世界は平穏そうに回っている。
「あーあ、さっさと世界が終わらねぇかな……」
 それが、最近の航の口癖になっていた。
 ──四時限目の開始を告げるチャイムが鳴り、教室は徐々に沈黙へ向けて収束していった。
 脳を掻き毟るノイズの大幅減に気を良くした航は、その気楽さに任せてぼうっと窓の外を眺める。
 初老の教師の声が、膜の掛かったような曖昧さで彼の意識を通り過ぎていく。
「あー、授業の前に、突然だが転校生を紹介する。
本当は朝のホームルームにやるはずだったんだが、家の用事で学校に来るのが遅れてしまったそうだ。
──さ、二人とも入んなさい」
 空の彼方には、むくむく昇る厚い雲が層を成していた。今年始めて見る入道雲だった。
  ……『二人』?

387 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 07:32:49 ID:AcVDpOP+0

「五十嵐先生、こちらが体育担当の──」
「黒鋼だ」
 そう言ったのは、眼光鋭い、ヤクザみたいな険の強い風体の大男だった。
 その横に、ひょろっとした雰囲気の、へらへらした笑いを顔に貼り付けた優男が進み出る。
「オレが英語担当のファイ・D・フローライトです──いやいや、こんな美人さんと知り合いになれて光栄ですー。ね、黒さま」
「誰が『黒さま』だっ!」
「いやーん、黒りんこわーい」
「テメェ! ブッ殺す!」
 ……なんかもうどうでもいい気分になって、初佳は気の抜けたビールを思い切り呷った。
 げふ、と適齢期の女性にしては恥じらいに欠けるおくびを漏らす。
「川尻先生? こいつら、大丈夫なの?」
 川尻教師は答えない。
 それは少年と少女だった。
 ぱりぱりの卸したてだと見て分かる、ぶどうヶ丘中等部の学ランとセーラー服をそれぞれ着ている。
 教師の声に促されて教壇に立った二人を見て、教室のほとんど全員が色めき立った。
 女子は、凛々しい顔立ちの少年のすっきりした立ち振る舞いや、そのきびきびした言葉遣いに。
「李小狼です。外国から来たのでこの国のことは不慣れですが、どうかよろしくお願いします」
 そして男子は、可憐な愛らしさを備えた少女の、つっかえながらも一生懸命自己紹介をする健気な姿に。
「あ、あの、木之本、桜といい、ます。出来る、だけ早く皆さんと仲良くなり、なりたいので、えと、色々教えてくだひゃい。……ください」
 相馬航は、その転校生二人を食い入るように見つめていた。
 それは他のやつらと同じレベルのガキっぽい行為であり、もっと淡白な態度で時期外れの闖入者を迎えるべきだと
彼の理性が告げていたが、どうしても視線を外すことが出来なかった。
「ええと……相馬の隣が空いているな。木之本さんはそこに座りなさい。李くんは……まあ、とりあえず窓際の最後尾でいいかな?
相馬。わたしは今から彼の分の机と椅子を取ってくるから、君は自分の席をもう少し前に詰めなさい。いいね?」
 クラス中の敵意と羨望の十字砲火が航を直撃した。それは彼が生まれて初めて衆目の関心を一身に浴びた瞬間だった。
 ──だが今や、そんなことはこれっぽちも問題ではなかった。

388 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 07:33:49 ID:AcVDpOP+0
「五十嵐先生、こちらが体育担当の──」
「黒鋼だ」
 そう言ったのは、眼光鋭い、ヤクザみたいな険の強い風体の大男だった。
 その横に、ひょろっとした雰囲気の、へらへらした笑いを顔に貼り付けた優男が進み出る。
「オレが英語担当のファイ・D・フローライトです──いやいや、こんな美人さんと知り合いになれて光栄ですー。ね、黒さま」
「誰が『黒さま』だっ!」
「いやーん、黒りんこわーい」
「テメェ! ブッ殺す!」
 ……なんかもうどうでもいい気分になって、初佳は気の抜けたビールを思い切り呷った。
 げふ、と適齢期の女性にしては恥じらいに欠けるおくびを漏らす。
「川尻先生? こいつら、大丈夫なの?」
 川尻教師は答えない。

 ──それは少年と少女だった。
 ぱりぱりの卸したてだと見て分かる、ぶどうヶ丘中等部の学ランとセーラー服をそれぞれ着ている。
 教師の声に促されて教壇に立った二人を見て、教室のほとんど全員が色めき立った。
 女子は、凛々しい顔立ちの少年のすっきりした立ち振る舞いや、そのきびきびした言葉遣いに。
「李小狼です。外国から来たのでこの国のことは不慣れですが、どうかよろしくお願いします」
 そして男子は、可憐な愛らしさを備えた少女の、つっかえながらも一生懸命自己紹介をする健気な姿に。
「あ、あの、木之本、桜といい、ます。出来る、だけ早く皆さんと仲良くなり、なりたいので、えと、色々教えてくだひゃい。……ください」
 相馬航は、その転校生二人を食い入るように見つめていた。
 それは他のやつらと同じレベルのガキっぽい行為であり、もっと淡白な態度で時期外れの闖入者を迎えるべきだと
彼の理性が告げていたが、どうしても視線を外すことが出来なかった。
「ええと……相馬の隣が空いているな。木之本さんはそこに座りなさい。李くんは……まあ、とりあえず窓際の最後尾でいいかな?
相馬。わたしは今から彼の分の机と椅子を取ってくるから、君は自分の席をもう少し前に詰めなさい。いいね?」
 クラス中の敵意と羨望の十字砲火が航を直撃した。それは彼が生まれて初めて衆目の関心を一身に浴びた瞬間だった。
 ──だが今や、そんなことはこれっぽちも問題ではなかった。

389 :シュガーハート&ヴァニラソウル:2007/04/02(月) 07:35:26 ID:AcVDpOP+0
 教壇から教室の片隅まで、その絶望的な距離を飛び越えて、二人の視線が航を捉えた。
 李小狼が軽く会釈をし、木之本桜が少しだけ首を傾けて微笑んだ。
 今、自分はどんな顔をしているのだろうか。

 ──このしばらく後、相馬航は『メタル・グゥルー』という名前のスタンド能力に目覚める。
 その能力で杜王町を、ひいてはこの世界を致命的な危機に陥れるのだが──。

「この席、でいいんですよね」
「あ、ああ。多分そう。あ、いや、間違いなくその席……だと思う」
「相馬さん、ですよね? わたし、サクラです。仲良くしてくださいね」
「よろしく、航くん」
「……こちらこそ、よ、よろしく」

 これは、そうした意味で致命的な、「必然」という無機質な機構が自動的な運動を開始する、その最初のトリガーとなる──、
 それはそういう出会いだった。


390 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/02(月) 07:37:18 ID:AcVDpOP+0
>>387は間違いです。なんか混ざってました。飛ばして読んでください。

391 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/04/02(月) 09:16:45 ID:AcVDpOP+0
あ、思い出した。
誤解や混乱を招かないように今のうちに書いておきますが、
このSS内での『李小狼』や『木之本桜』というのは、あくまで「ツバサ」の小狼やサクラが便宜的に用いている名前であり、
「カードキャプターさくら」の小狼やさくらがこのSSに登場している訳ではありません。

>スターダスト氏
臨場感たっぷりのバトル描写が相変わらず凄いです。
女性が痛めつけられるシチュとか大好きです。
偽者とは言え、よくもまあブラボー倒せたなあ、と千歳と根来に感心しきりでした。
武装錬金のアニメはヴィクターが出た辺りから観てないです。
なんとか時間を捻出して最後まで観たいものです。

392 :作者の都合により名無しです:2007/04/02(月) 10:07:46 ID:D+3hIBby0
>スターダストさん
偽ブラボーってほぼオリジナルのコピーなのによく千歳が倒せましたね
まあ、どんな作品でも偽者はあっけなく砕け散るものですが。
さすが前作で主役の一角を張っただけの事はある。でも千歳妙齢か・・

>ハロイさん
初佳ってあのねーさんだったのかwちゃんと全て考えているんですねえ。
コンビニではただの通行人と思ってた初佳も、こんなに魅力的なキャラとは。
新キャラも立ってて面白いな。


393 :作者の都合により名無しです:2007/04/02(月) 15:40:25 ID:hbdstK6W0
錬金アニメ、面白かったけど終わってしまって
寂しかったという気持ちの方が強いな。
スターダストさんにはアニメの分も頑張って欲しいな

ハロイさんは相変わらず絶好調ですな
魅力的なキャラも増えて、このメンツに静と十和子が加わると
どんな物語になるのか。スタンド使いも増えそうだし


394 :ふら〜り:2007/04/02(月) 21:43:52 ID:QVTkOtAb0
>>ハロイさん
>ヴィクティム〜
元気な妹から健気なサポート役を経て、荘厳な女神様に達しましたお姫様。けれど戦いが
終わってみれば何事も無かったように振り出しに戻ってる。いつもの二人が微笑ましい。
>シュガー〜
まあそもそも「現れ立つ」からスタンドなのであって、それ(映像)がないならスタンド能力者
というより素直に超能力者。にしてもサクラたちも含め、あまり強そうでない面々。どう戦う?

>>ハルヒさん(現役連載時、DIOの「世界」ってこういう能力では? と予想してました私)
突っ込んでるようで誰も突っ込んでおらず、むしろみんな積極的にノッてしまって、常識人
皆無のまま状況が変化(進展とは言い難い)していく……こういう書き方もあるのかと唸り
ました。書きようによっては充分ホラーにもなる事件なのにこの雰囲気、次はどう動くやら。

>>スターダストさん
待っっってましたぁぁ! この、事務的お姫様の危機に颯爽と駆けつける無愛想ナイトっ!
その「危機」が色気を通り越して少々エグかったのも、こうなってみればカタルシスの材料。
彼女は相変わらず、歓声も上げず気取った笑顔。でもその笑顔、向けるのはきっと彼だけ。

395 :テンプレ1:2007/04/02(月) 23:54:56 ID:MHlJpUku0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart48【創作】

元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss

【作品を読んでいる皆様へ】

去年までの作品の保管はバレ氏のまとめサイトに(一部、今年1月6日まで) 
今年からの作品の保管はゴート氏のまとめサイトに保管されております。


396 :テンプレ2:2007/04/02(月) 23:55:46 ID:MHlJpUku0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
鬼と人とのワルツ (鬼平氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/105.html
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/85.html

397 :テンプレ3:2007/04/02(月) 23:57:18 ID:MHlJpUku0
上・ヴィクテム・レッド 下・シュガーハート&ヴァニラソウル  (ハロイ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝(サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
狂った世界で (proxy氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/181.html  
タイトル未定 (名無しさん)  ※空条 承太郎のペルソナ世界の物語
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html
ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア (店長氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/78.html
ブルーグラード外伝 (名無しさん)
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/237-241
涼宮ハルヒの正義 (名無しさん)
 http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1173688295/254-265


398 :テンプレ屋ハイデッカ:2007/04/02(月) 23:59:44 ID:MHlJpUku0
ついにバレさんがテンプレから外れる時が着たか・・
ほぼあってると思うが、間違ってたらよろしく。
あと、ゴートさんが更新されたら新アドにしてほしいな、スレ立てる人。
あと、聖少女に関しては3ヶ月とっくに過ぎてるけど、ちゃんと終わらすから。
仕事忙しくてさ…

ま、テンプレ屋が俺だというのは秘すつもりだったが
テンプレから外れるのも嫌なんで。



399 :項羽と劉邦:2007/04/03(火) 00:14:57 ID:Rz2CpUCs0
「のう、何かいい知恵はないものかのう」
漢軍のそうそうたる面子を前に劉邦が聞く。議題は「呂后との同衾をいかにして避けるか」である。
ああちなみに、呂后は史記の方の呂后ね。あの腐ったジャガイモみたいな顔の。
「一つよい術がございます」
韓信が一歩進み出て、拱手の礼をしながらこう説いた。
「漢王さまの××に毒を塗って出し入れするのです。さすればあの不細工は死にまする」
「おおそれは名案…待て、それではわしの××はどうなる」
「腐ってしまいやがて落ちますな」
劉邦の周りに例の集中線が走った。
「落ちますな、ではない! わしは戚(すごい美人)とだけ同衾したいのじゃ!
なのになぜ宦官になる危険を、あんな豚人間リョゴーごときのために冒さねばならぬのだ!」
「…呂后さまを殺す事に依存はございませんのか?」
蕭何が尋ねる。まぁ別にいいけどと思いながら。
「当たり前じゃ! ヤツが人質になった時、わしは項羽へ毎日毎日
『呂后さっさと殺せやこの冠かぶった猿め! 殺したらカイ通のハムやるぞ』と手紙を送って挑発していたのじゃぞ!
なのにあの范増めが『これは罠ですぞフガフガ』とか申して止めおった! そして返しおった!
項羽にわしの苦労が分かるか!? きゃつは花にまでなぞらえられる虞姫が正妻なのだぞ!
わしの正妻はなんじゃ? これじゃ!」

 ェ  ェ
   」
  )ヮ(

ぶくぶくに太った中年女の似顔絵を苛立たしげにパンパン叩きつつ、皆に見せた。
その醜さにまず張良がくすっと笑った。レキ食其は吐いた。
陳平と王陵は怒りをこらえ、周勃や夏候嬰が「おいたわしや」と涙を流し、呂后の妹を后に持つ樊噌は声を上げて泣いた。
劉邦はそれらの反応を満足げに確かめると、似顔絵をじっと見つめた。徐々に手が震え始め、やがて何かが弾けた。
「天はこの劉邦を地上に生まれさせておいて、なぜ呂后まで生まれさせたのだァ〜〜〜!!!!」
「漢王、それは周瑜のセリフです。うん? 周瑜と竜鳳という副題がありますが、それに掛けているのですか?」
「掛けるかアホ! つかそちの先ほどのセリフもホウ統ではないか!」
冷静な韓信の突っ込みを怒り任せに切り返すと、劉邦は似顔絵をびりびりに破り捨て泣き伏した。

400 :項羽と劉邦:2007/04/03(火) 00:16:28 ID:Rz2CpUCs0
韓信(かんしん)はその肩を優しく撫でながら諭す。
「漢王、そう気を落とさずに。勝敗は兵家の常と申します。
おおそう(王双)だ、泣くほどに嫌なれば同衾の際に絞め殺してみてはいかがでしょうか?」
「それはもうやった!! じゃが奴めは、トカゲの尻尾が再生するごとく生き返るのだ! 聞けば200年位生きてるらしい!」
「では戦国時代の頃から生きてるわけですな。正に妖怪」
灌嬰が言うと、劉邦はうむ、と頷き
「その妖怪を、あの腕力と美人妻だけが取り得の項羽なれば、牛裂きや油とかで殺してくれると信じていた! 
だが呂后(りょこう)は無事に返され、あまつさえ『やっぱりうちが一番ねブー』とか言いおった。オマエは旅行先から帰ってきた母さんか!!」
「呂后だけに旅行ですね?」
「黙れ韓信! とにかく呂后を殺した者には千金の褒美を遣わすぞ!」
「漢王、それよりまず七十余傷を負った曹参の治療費をぐわわ!」
蕭何(しょうか)が突っ込みかけたが、張良(ちょうりょう)に殴られ静かになった。
「やはり呂后は除くべきですな」
「それも今の内に。さもなくば私がハムになりまする」
英布と彭越(ほうえつ)が言った。
他の面子も続けて賛同した。
張良は蕭何にボディーブローを叩き込んだ。
「ふむう。皆の意見はまとまったものの、呂后を殺す手段は出ないのう」
悩む劉邦の前で、張良が蕭何を七節棍で打ち据え始めた。
「何かこう、爆発的な破壊力のある策はないものかのう張…げえっ! 何しとるんだ張良!!」
「つまらない横槍に怒り、暴れているのでしょうな。よし、アゴにいいのが入った」
「いや説客の張良がアゴにいいのを入れてどうする! つか韓信、そちは何ゆえ冷静なのじゃ!」
「大元帥ゆえに。ともかく張良どの、それ以上すると丞相が死んでしまいますぞ」
注意されると孔明顔は大人しくなった。
「時に張良、お主はどうして喋らんのじゃ? というか蕭何がピクリともせんが大丈夫なのか?」
張良はその問いかけのどちらにも驚いた顔をして、袂で目頭を抑えた。
「漢王、聞いていい事と悪い事があります。そして丞相は皆の心の中に生き続けておりまする」
韓信は拱手をしながら、ありし日の蕭何に思いを馳せ、泣いた。

「丞相…オオオ、オオー さて、呂后ですが閨で張良どのに惨殺していただきましょう。腹上
死で始末するのです。さすれば漢にはびこる呂氏一族はたちどころに滅ぶでしょう」
韓信はちょっと泣いてすぐ気持ちを切り替えた。

401 :項羽と劉邦:2007/04/03(火) 00:19:00 ID:Rz2CpUCs0
傍らの張良は半笑い。
斧、鉞、七節棍、輪、光線銃、毒虫の小瓶、呂后の似顔絵と言った諸々の凶器を並べるのに忙しい。
「使うのか。しかしのう……時代背景を色々無視していないか…?」
劉邦はほとほと困り果てた顔で問い掛けると、韓信は手を前を突き出し笑った。
有名な例のポーズである。が、目は笑ってない。
「はっはっはっは。時代背景とか描くのは私には無理ですよ。 張良どのの冠の名前すら知ら
ないし。 資料があればもっと本格的なSSにできますが、永遠の扉の方の資料集めが大変
なのでできませぬ」
まったく、精神と魂の違いとか装甲列車の詳細とかどこで分かるんだ。
ともかく、である。
妙に自信をはらみ韓信は答える。
一方の張良は蕭何の周りに燭台を立て、何やら祈り始めた。
「ま、待て、腹上死というコトは、わしはきゃつの下にいなければならないな?」
「もちろん」
「ならわしは下で血とか呂后汁とか呂后ビールスとか浴びる羽目に… 」
「なりますが我慢して下さい。閨で死にさえすれば腹上死で片付きますから。首を刎ねて四肢
を断ち、燃やして殴ってウラヌスの光子弾で消し炭にしても、腹上死ですから。 あと、呂后ビ
ールスに感染しても、ニンニクのエキスを打てば助かりますよ」
「ニンニクはともかく、わしが巻き添え食らいそうな殺し方ばかり選ぶな!
ああもうなんか敵に大事なリモコンを渡した気分じゃ…」
「不安なれば呂氏一族も後で腹上死させましょう。平和の為に呂産も呂禄も呂シュも呂馬通
もみんなみんな腹上死させましょう」
「たわけ! 呂馬通は楚にいたから呂后とは関係ないわ!」
「え、そうなんですか?」
韓信がきょとんとした時、張良の祈りが通じたのか蕭何は復活した。
「キャッホー! なんとか生き返ったわよあたしー! 生け花とバレエとケンカが大好きよー!」
「おお、蕭何が生き返っ…げぇ! 宦官より悪ぅなっとるー!!」
張良もげんなりした。予定では素晴らしき人にするつもりだったのだ。
「バンザイバンザーイ。さて話の…」
「もうええわ! 大体、説客の張良が暗殺などしてどうする!」
劉邦の怒声があたりに響き渡った。

402 :項羽と劉邦:2007/04/03(火) 00:20:11 ID:Rz2CpUCs0
この時の怒りが後に、韓信を殺す動機になったりならなかったりした。
韓信はいかにも心外といった顔をした。
「ふむう… 漢王は張良どのの腕前をご存知ないようで。
ならば少し見ていただきましょう。張良どの、アレを」
それだけで通じたようで、張良は木刀を手にすると 切っ先をすぅっと右斜めに下ろした。
「おお出たっ! 張良どのの霞切り!」
「霞切り?」
はつらつと叫ぶ蕭何に劉邦は眉を潜めた。オマエはそんなキャラだったか?
「そうよあれが張良どのの一番得意業の霞切りよ!」
答えになってない蕭何の叫び声が終わるやいなや、韓信が張良に突っ込んだ!
「デエエエエ」
刹那! 張良は猛然と走り、全体重と加速を込めた切っ先で韓信のノド笛を突き破った!
哀れ韓信は血を撒き散らしながら地に転がり、二、三回大きく痙攣すると、動かなくなった。
劉邦は唖然とした。身を張る意味が分からない。
「へへへ。決まったろう。な、な小手が見事に決まったろう?」
得意げな蕭何に「小手?」とか聞きたくもあったが、なんだか考えるのが面倒くさい。
「まず小手をとられ、瞬間的に面に入っているんです」
「わ!」
不意に耳元で囁かれ、劉邦はびっくりした。振り向けば、先ほど動かなくなった韓信がいた。
無事ではないらしい。鼻血がだらだらでているし、呼吸音もヒューヒューと不規則だ。
しかし意識はいやに明瞭らしく、「まぁ見てください」とばかりに、スっと右腕を差し出した。
「あざになっとるではないか。いや、それ以前に鼻血を拭け! 怖いぞ!」
「面に入るまえに打たれたところゲホっゲホっです。すごい男ですぞ張良どのはぶはぁ」
洪水のごとくドバドバ大量に吐血し始めた韓信に、張良はおろおろした。
「真剣ならばリンゴを四つに切れまする。ああもう限界のようです。あの蒼空極みはいずこで
あろうのう」
「わ、わかったから、張良に呂后を惨殺させる方向性でいくから、孔明のセリフをパクるなぁ!」
だが既に韓信は答えなかった。
人々は韓信の偉大な足跡を思い浮かべその死を惜しんで号泣した。

403 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/03(火) 00:21:14 ID:Rz2CpUCs0
「などとナレーションを入れてみたいのですがいかがでしょうか?」
血の海の中で韓信が聞いたが、しかし劉邦は無視した。そして決意した
「とりあえず呂后を殺す! このワケの分からない三つのしもべと協力して!」

あとがき。
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10674

こういうのを作るほど横山作品が大好きな自分。
今回は項羽と劉邦をベースにしております。
といっても実はコレ新作ではなく、過去に投下したはいいけどスレが落ちて未完のままだった
作品。とりあえず、ちょくちょくアレンジしつつ投下できたらいいなぁと。
横山作品ではあばれ天童、バビル2世、あばれ天童、史記、項羽と劉邦がベスト5!

>>226さん
はっはっは。久々にバキスレ来れたので嬉しかったのですよ!
まひろの料理は、DVD特典とドラマCDで正反対です。後者は斗貴子すらビビる料理。食べてみたいかも。

>>227さん(ファイト!)
小札、香美vs剛太の行司とかやらしてパーっと実況炸裂させたかった……
手探り状態で親密になっていく「うぶ」な関係は想像するだに萌えます。ああ、春めいた感情っていい。

>>228さん
正にその状態。坂の上の雲やら幕末小説が好きなので、その場その場での主要人物を主役にするという。
オリキャラについては極力自分の恣意を抜き、好き勝手にやらしております。こうするといいセリフを喋ってくれるのでありがたい。

404 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/03(火) 00:22:30 ID:Rz2CpUCs0
ふら〜りさん(完結、おめでとうございますッッッ!!)
範馬を負かすワケにもいかず陸奥の不敗神話も崩すワケにもいかず。
考えれば両者の対決は故事成語の「矛盾」よろしくパラドックスを含んだものでありまして
ここを奇麗に整頓するコトはすなわち歴史との整合を取るのと同じくらい重要なワケで。
勇が女という設定は最後の最後で大儀を果たしましたなぁ。お見事。
鬼女だけに、鬼子母神の話とも掛かって(?)ますし。
本作をきっかけに修羅の刻を少し拝読。(武蔵、幕末、義経、西部を)
面白かったですw で、最後の年表にニマリと。この織り込み方こそ「修羅の刻」!
なお、義経たちの着ている鎧が「大鎧」でして、総角やら小札やら栴檀やら鳩尾やらがついております。

香美と剛太はどうも痴話喧嘩してますなw 性根はちょっと似たもの同士で同レベルなのかも。
そしてお待たせしました根来救援! プロットとにらめっこして、何とか退院前に登場させれました!

ハロイさん
>ヴィクティム・レッド
流されっぱなしだったレッドが面目躍如! でも妹に『脱げ』はマズイ。やっぱ朴念仁だ。
こう、原作にあるサイバーな雰囲気がいたるところに迸っておりますな。かなり羨ましい!
>シュガーハート&ヴァニラソウル
十和子はジョジョしてますね。捉えどころがないけど芯がある。荒木絵で脳内再生されま
した。そして静がいる以上、やっぱ外せませんよね早人。出てきただけでも嬉しいですw

>臨場感たっぷりのバトル描写が相変わらず凄いです。
ありがとうございます。あとはココに周囲の光景を織り交ぜつつ「ここでコレか!」というのを
追求していきたく。方法はきっとある筈なのです。
さいさん
>WHEN THE MAN COMES AROUND
うわああああああ! 神父だ! 神父が来たあああ!!
てっきり防人たちがIRAを倒してから順番にと思ってたのにまさかココで!
こりゃあ今後はジェットコースター的大変転の連続! ジュリアンも人間やめるかも!

405 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/04/03(火) 00:24:54 ID:Rz2CpUCs0
香美の「寝てなきゃ〜」は勢い任せに描いたら自分でもかなり萌える出来栄えに。うーん、可愛い。
馬鹿っぽいけど割りと素直に心配してるのが良い。って、自分で萌えちゃ手前味噌ですが。
でも猫はいいのです。ネコミミも。二次元めいた要素をババーっと入れたいところ!!

>>323さん
恐縮です。なるべく質のいい作品を短期間で提供したく……でもそれが難しいw

>>381さん
あの場面、いいのだろうかと思いつつ、筆は軽快に進んでおりました。ははは。
錬金アニメは3クールだったら原作完全再現+ムーンらの反乱劇も見れたわけで、そこが惜しい。

>>392さん
偽ブラボー、あっけなく退場させてしまったかも。でも根来なら割と不意打ちでやってしまう
ワケで……あぁでも、シークレットレイルの特性で絶対防御破った方が良かったのかも。

>>393さん
あのクオリティに及べるかどうかは分かりませんが、力は尽くします!
もうちょっと描き続けたら何かがつかめそうな気がするのです。劇的な輝かしい物が。

くは。感想長い! この土壇場で……!
しかしハイデッカさんがテンプレ屋さんだったとは。驚き。

406 :作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 00:57:29 ID:fnxRmlU50
お疲れ様ですスターダスト氏。
横山さんは名前しか知りませんが、偉大な漫画家と聞いております
項羽と劉邦って、三国志より前の時代でしたっけ?
歴史不慣れなもので・・
でも、なんとなく横山さんに興味が出てきました。

あとハイデッカ氏がテンプレ屋さんだったとは。
テンプレもいいですが、作品で復帰もお待ちしてます。



407 :作者の都合により名無しです:2007/04/03(火) 10:41:06 ID:dup42V7x0
新スレたてておきました。
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1175563943/l50

408 :作者の都合により名無しです:2007/04/05(木) 20:51:36 ID:OV4Z1XtB0
なんとなく保守

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